「さ、入って」
「あ、お邪魔、します」
 あの後、落ち着いてから変身を解いた一夏は衛理華に説明するから付いてきてと言われ、ある大学の一室に通されていた。
そこで衛理華に案内されながら恐縮しつつ入る一夏。
その中はバラバラの状態のバイクや何かの機械などが乱雑に置かれており、とても片付いてるとは言えないものであったが。
なお、お互いの自己紹介はここに来るまでにすでに済ませている。
「ごめんね、散らかってて。さてと、まずは何から話した方がいいかしら?」
「さっき織斑君の姿、フォーゼだったか? あれはいったいなんなんだい?」
 イスを渡して座らせる衛理華の話に一緒に来ていた川岸が問い掛ける。
それに対し衛理華はなぜか難しい顔をし、それを見た一夏と川岸は疑問を感じて訝しげな顔をしてしまう。
「4年前、私とおじいさま……星野 泰蔵(ほしの たいぞう)教授はあるエネルギーを発見したの。
宇宙から無尽蔵に降り注ぐエネルギーを。私達はそれをコズミックエナジーと呼んでるけどね」
 少しして、意を決した衛理華は話し始める。
しかし、一夏と川岸には首を傾げる話ではあったが――
「私達はコズミックエナジーを調べた結果、あらゆる機械のエネルギー源になるだけでなく機械の性能を上げたり、物質化したりすることが出来ることがわかったの」
「馬鹿な!? そんなエネルギーが存在するはずがない!?」
 真剣な眼差しで話す衛理華だが、そのことに川岸が反論する形で声を荒げた。
確かに夢のようなエネルギーだが、実際は様々な法則を無視しているとも言える。
衛理華と同じ大学の教員であり物理などを専攻している川岸にしてみれば、そんなエネルギーがあるはずが無いというのが当然だったのだ。
「確かに川岸君の言う通りよ。普通なら、そんなエネルギーはありえないわ。
でも、実在した。それで私とおじいさまは実用化に向けて研究を始めたけど……それは困難を極めたわ」
「どうしてですか?」
「コズミックエナジーを使うには特殊な装置が必要なのもあるけど、採取出来る量が微量でしかないの。
そうね……今手元にある装置だと、乾電池1本分貯めるのに1年以上掛かるわ」
「そんなに掛かるんですか!?」
 衛理華の話に問い掛けた一夏は思わず驚いてしまう。
いくらこの手の話に疎いといっても、聞く限りで大変だというのはわかったからだ。
「それにコズミックエナジー自体の力は小さな物でしかないから――
だから、私とおじいさまは実用レベルで使えるように研究を続けたわ。
でもある日……おじいさまは大きな災いが起きると言い出したの」
「大きな災い……ですか?」
「ええ、それはなんなのかはおじいさまも良くわかっていなかったみたいなの。
でも、コズミックエナジーを調べることで何かに気付いて、そんなことを言い出したみたいだけど――
今なら、それがなんなのかはなんとなくわかる気がするわ」
「う……」
 話を聞いていた一夏の問い掛けに話していた衛理華は答えながら顔を向ける。
顔を向けられた川岸は思わず顔をしかめていたが。
確かに話に乗せられて使ってしまったとはいえ、今思うと怪しいと一言では片付けられないような物だった。
なにしろ、スイッチを押しただけで自分を怪人へと変えてしまったのだから――
「それで私とおじいさまは実用化も併せて、その災いに対する術を作ったの。それがフォーゼドライバーとアストロスイッチよ」
「これ……ですか?」
 衛理華の話を聞いた一夏は開かれたアタッシュケースの中にある装置、フォーゼドライバーを見た。
ベルトになって自分を変身させる。あの時は思わず喜んでしまったが、今思うと凄い装置だと思った。
「しかし、今までの話を聞いてると使えるように思えないのだが?」
「ええ……実際、織斑君に触れられるまでは起動すらしなかったわ。
一応、今までの研究で何らかの方法でコズミックエナジーを活性化出来ることはわかっていたの。
それでもフォーゼドライバーやアストロスイッチを起動出来までに活性化出来なくて――
けど、おじいさまは決して諦めずに必死でその方法を見つけようと研究を続けたわ。でも、去年過労で……」
 川岸の問い掛けに衛理華は沈んだ顔で答え、そのことに川岸はしまったとばかりにうつむいてしまう。
一夏も悲しそうな顔をしていた。話を聞いて、泰蔵教授はどこにいるのかと思っていた。
でも、実際は……その事実に心を痛めたのだ。
「まぁ、過ぎちゃったことだけどね。
それで私はおじいさまの研究を受け継いで続けていて、今日のことが起きたってわけ」
「そうか……でも、良かったじゃないか。研究が実を結んで」
「そうでもないわね」
「え、なんでですか?」
 話を聞いて喜ぶ川岸であったが、話していた衛理華は難しそうな顔をしていた。
そのことに一夏は首を傾げる。研究が完成したのではと思ったからなのだが――
「たぶん、織斑君に何らかの要素があって、それによってコズミックエナジーが活性化したんだと思うんだけど――
さっきも言ったようにまだ研究中だから、その要素がなんなのかわからないのよ」
 腕を組みつつ、難しい顔で衛理華は話す。
なにしろ、コズミックエナジーにはまだ不明な点が多いのだ。
ただ、それを話すと話がこじれてしまうので、衛理華は話さない方がいいと思い話さなかったが。
「おいおい、大丈夫なのか、それは?」
「人体に害が無いのは確認してるから、その点に感しては大丈夫よ。
ただ、単独でフォーゼドライバーやアストロスイッチの性能を十分に使えるほどの活性化は私としては予想外だったけどね」
 疑問に思った川岸の問い掛けに衛理華は苦笑混じりに答える。
実際、フォーゼドライバーとアストロスイッチは補助となる物を用いて運用することを前提にしていたのだ。
しかし、一夏はその補助無しに使うことが出来た。
これは衛理華にとっては予想外であり、だからこそ調べる必要があったのだが。
「そういうわけで織斑君には手伝って欲しいのよ。あ、変な実験はするつもりは無いからね」
「え? ああ、それくらいでしたらいいですけど――」
 両手を合わせつつお願いする衛理華に一夏は後頭部を掻きつつ答えた。
色々と疑問には思うが自分の夢を叶えてくれた人でもあるので、それくらいなら手伝ってもいいかと思ったのだ。
「ありがとうね。で、早速で悪いんだけど、これらに触れてみてくれないかしら」
 返事を聞いて笑顔になる衛理華がある物へと左手を向ける。
一夏がそれへと顔を向けると、そこには先程見たバラバラになったバイクと車輪が付いた何らかの機械があった。
「なんですか、これ?」
「ORB-40F、はバイクのことね。それとパワーダイザー。これらはフォーゼのアシストマシンとして製作してたのよ。
この2台を連結した状態で搭乗することでコズミックエナジーを活性化させることが可能になり、それによって変身することを前提にしてたの。
といっても、さっき言ってた問題のせいでこの2台とも起動すら出来なかったんだけどね」
「そうなんですか」
 人差し指を差しながら問い掛ける一夏に衛理華は肩をすくめながら答える。
その話返事を漏らしながらバイクと装置に触れる一夏。するとバイクと装置から唸り音が響き始める。
「おわ!?」
「起動した……本当に織斑君に何かあるのかしら?」
 そのことに驚き離れてしまう一夏だが、衛理華はあごに手をやりながら考えていた。
コズミックエナジーの活性化に一夏が関わっているのは間違い無い。だからといって決めつける訳にもいかないが。
というのも確かに切っ掛けにはなってるだろうが、一夏自身に原因があると判明したわけでもない。
これからはその理由を確かめる必要があると衛理華は考えていたのだ。
「んっと、これで良し。フォーゼドライバーとマシンを同期させたわ。
織斑君がフォーゼドライバーを持ってる限り、この状態は維持される。これでやっと研究が進むわね」
 そんなことを考えつつもパソコンを操作していた衛理華は安堵のため息を漏らした。
理由はともかく、コズミックエナジーが活性化されたことで今まで出来なかった研究も出来るようになる。
今まではコズミックエナジーの活性化すら出来なかったので、これは大きな前進とも言えた。
むろん、活性化した理由も調べなければならないが、この状態なら調べやすくなる。
そのことに衛理華は嬉しくなり、思わず笑みがこぼれそうになっていた。
「そういうわけだから、フォーゼドライバーとアストロスイッチは織斑君が持っていてね」
「え? いいんですか?」
「どのみち織斑君が持ってないと意味が無いし、私にとってもその方が都合が良いもの。
ここでもフォーゼドライバーのことはある程度モニター出来るしね。
けど、このことは他の人に言っちゃダメよ。絶対に欲しがる人もいるだろうしね」
「確かにな」
 言われたことに軽く驚く一夏に話していた衛理華が答え、川岸も同意するようにうなずいていた。
一夏は良くわかっていないが、コズミックエナジーは使いようによってはISを超える物にもなりかねない。
もし、それが知られれば激しい争奪戦が起きる可能性がある。
いや、それで済めば軽い方かもしれないが――
「他のアストロスイッチも渡すから、それらの説明書を今作っておくわね」
「え? アストロスイッチって、他にもあるんですか?」
「そうよ。ただ、どんなのが戦闘に役立つかわからなかったから、手当たり次第に40個も作っちゃったけど」
「よ、40個!?」
「ええ、けど今使える状態にあるのはフォーゼドライバーにセットしてるのを含めて8個だけだけどね」
 説明を聞いて問い掛けた一夏は驚き、説明していた衛理華は思わず苦笑する。
元々研究者故に戦闘のことなど全くと言っていい程わからなかった。
その為、思いつく限りの物を作った結果、それだけの数になってしまったのだ。
ただし、スイッチ自体は作られたものの、作った泰蔵教授が亡くなったことで大半が未調整状態のままであった。
その為、使えるのが衛理華が話していた8個しかないのである。
「そうなんですか……ところでこのバイクって、すぐに乗れるんですか?」
「まぁ、パーツごとに完成はしてるから、後は組立と調整をするだけだけど――乗ってみたいの?」
「はい! だって、仮面ライダーにはバイクは必須じゃないですか!」
「だから、仮面ライダーじゃないんだけどなぁ……それに君、まだ免許取れないでしょ?」
 目を輝かせて問われたことに答える一夏。
一也の時もだが、都市伝説では仮面ライダーはバイクに乗っている話が出てくる。
故に一夏としては仮面ライダーとしてバイクが欲しいと思っていたのだ。
ただ、それは問い掛けた衛理華の冷や汗混じりに漏らした問題もあったが。
ちなみにフォーゼのデザインに衛理華は関わってはいない。その前に泰蔵教授がシステムを完成させていたからだ。
なので、本音を言うとフォーゼのデザインに不満があったりする。一夏はその辺りを気にしてはいないようではあるが。
「と、忘れる所だった。川岸君はなんであんな姿に? スイッチがどうとか言ってたけど」
「ん? ああ……真っ黒なマントとフードみたいな物で全身を覆ってたから、どんな奴かはわからない。
ただ、なんか鎧のような物を付けた腕をしてたけど……」
「なんでそんな怪しい奴から受け取ったのよ」
「あ、いや、俺も最初はそう思ってたんだ。
でも、あいつの話を聞いてる内にその気になって――気が付いたら、スイッチを持っていて……」
 返事を聞いて呆れた様子で更に問い掛ける衛理華に、答えた川岸は困った顔をしながら更に答える。
川岸も話した通り、最初はそんな奴からスイッチを受け取るつもりはなかった。
しかし、その者の話を聞いている内にその気にさせられてしまい――後は衛理華や一夏にしたようなことをしてしまったのだ。
「なんなのかしら、そいつ? それにスイッチか……あの時に破壊されたのかしら?
もしかして、そいつがおじいさまが言っていた――」
「よし! こいつの名前はマッシグラーだ!」
「はい?」
 その話を聞いて思考に没頭しようとした衛理華だったが、一夏がいきなり叫んだ事に思わず顔を向けてしまう。
一夏はというと、バラバラのバイクを満足そうな顔で見ていたが。
「えっと、織斑君? マッシグラーって?」
「このバイクの名前ですよ! さっきのってなんか呼びづらかったから、いい名前を付けようと思って」
「思ったんだけど、織斑君のセンスって……」
 笑顔で答える一夏の話に問い掛けた衛理華は顔を引きつらせていた。
ちなみに一夏は本来一般人と変わらないセンスを持っているのだが……
こと仮面ライダーが関わると興奮してなぜかこのようなセンスに走ってしまう。
そのことに衛理華は一抹の不安を感じてしまうのだった。


 次の日、衛理華は研究室でコーヒーを飲みながらモニターを眺めていた。
そのモニターにはフォーゼドライバーから送られるデータが下から上へ流れるように映し出されている。
一夜明けただけなのに、目を見張るようなデータが集まっているのだ。
今までは何をやっても大して成果が出なかっただけに、このことは衛理華としては小躍りしそうなくらいに嬉しかった。
「ホント、織斑君には感謝しないとね。でも――」
 そのことで一夏に感謝しつつ、衛理華はふと考えてしまう。
昨日、川岸が変身した怪人。あれはいったいなんだったのかと。
話によれば、何かしらのスイッチを渡されたらしいのだが――
「まさか、フォーゼドライバーやアストロスイッチ? そんなわけ、無いわよね……」
 ふと、そんな不安がよぎる。
フォーゼのスーツや武装はフォーゼドライバーやアストロスイッチを介してコズミックエナジーを物質化することで施される。
それと同じことで川岸を怪人にしたのではと思ったのだ。
「まさか、ね……」
 苦笑しながら、衛理華はその考えを否定しようとする。
しかし、不安は消えない。なにしろ、コズミックエナジーは極論的にはどこにでもあるエネルギーだ。
だから、自分以外に誰かが存在に気付いていたとしてもおかしくは無い。
もし、自分以外に気付いた者がいて、コズミックエナジーを良からぬことに使おうとしてるのでは――
『次のニュースです。今日未明、ISを起動させた男性が見つかりました』
「あら、やっとなの?」
 と、テレビから流れるニュースに衛理華はそんな感想を漏らす。
世間一般ではISは女性しか動かせないことになってるが、衛理華としてはなんでそんなことになっているかがわからない。
なにしろ、ISがなぜ女性にしか起動出来ないのかもわかっていないのだ。
なので、男性がISを動かせる可能性があると衛理華は考えていたのである。
『起動させたのは、IS学園の受験会場に来ていた織斑 一夏さんで――』
「ぶうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅ!!?」
 そんなことを考えていたら、ニュースから思いがけない一言を聞いて飲んでいたコーヒーを吹き出してしまう。
しかし、衛理華はそんなことに構わずテレビにしがみついていた。
そして、テレビを覗き込むと、そこには一夏の顔写真が映されていたのである。
「なにやってるのよ、織斑くうぅぅぅぅぅぅんっ!!?」
 その事実に衛理華は絶叫せずにはいられなかった。
確かに今日は高校受験とは聞いてはいる。しかし、受験先は藍越学園のはずだ。
それがなぜIS学園の受験会場にいるのか理解出来ない。
「まさか、これがコズミックエナジーを活性化出来た理由じゃないわよね?」
 色々と疑問に思うがニュースになっている以上、一夏が男性でありながらISを起動させたのは間違い無いだろう。
それがコズミックエナジーの活性化の理由に繋がるのでは? と、衛理華は思わず考えてしまうのだった。


 今日この時をもって一夏は運命のスイッチを押した。
その運命の先にあるのはいったい――



 あとがき
というわけで、なぜかISを動かせてしまった一夏君。
どんな経緯があったかは次回――いや、まぁアニメ版とあまり変わらないんですがね。
それと本作品ではコズミックエナジーにちょっとした謎要素を入れてみました。
コズミックエナジーとはなんなのか? それは本作品の要素となります。

さて、次回はすったもんだの騒ぎがあってIS学園に入学することとなった一夏。
そこで姉に会ったり幼馴染みと再会したり、お嬢様に因縁を付けたりとテンプレ通りの展開に――
と思いきや、怪人がIS学園に乱入? 一夏は変身して戦いますが――といった内容です。
次回、またお会いしましょう。



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