「う〜ん、どうしようか――」
 放課後間近の時間。一夏は悩んでいた。
実は来週にタッグ形式のトーナメント戦が控えており、そのことで悩んでいたのである。
IS学園では個々のIS技術向上の為に定期的になんらかの形で試合が行われる。
前回のクラス対抗戦がそれにあたるのだが、今回は全学生参加の物であった。
更に言うと今回は誰かと組み、その者と共に戦っていくトーナメント方式の物である。
で、一夏はそのトーナメントで誰と組むかで悩んでいたのだ。
一夏としては自分は近接しか出来ないので、射撃戦が出来る人と組みたいと考えている。
幸いと言っていいのか、その人物には目星は付いていた。ただし、その目星は複数ではあったが。
というの射撃戦が出来るのは、鈴にセシリア、シャルロットにラウラだったからである。ちなみに簪の専用機も完成間近だった。
ただし、射撃武装は付いていると聞いているが、どのような武装かは知らないので後で聞いておこうと思っていたりするが。
ともかく、一夏は誰と組めばベストなのかを真剣に考えていたのだ。
そんな彼を箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、本音、簪――というか、クラスメート達全員が注目してたりする。
一夏とトーナメントでタッグを組む為に。


「ごめんね。今、入部は受け付けてないの」
「そんな〜」「残念……」
 さて、その頃。仮面ライダー部の前で衛理華の返事にがっかりする女生徒達。
女生徒達は何をしに来たかといえば入部希望者である。仮面ライダー部に――
なんでこんな部に入部希望してきたのか? それは前回のユニコーンのゾディアーツとの戦闘が切っ掛けであった。
あの戦闘を見ていたのは何もシャルロットと真耶だけではない。
少ないながらも一部の女生徒も見ており、中には映像として記録していた者もいたのだ。
そして、最初にIS学園に現れたゾディアーツの騒ぎや前回でのフォーゼの活躍に憧れを抱く女生徒が現れ始め――
そのフォーゼが一夏だと知られてる為に、お近付きになろうと彼がいる仮面ライダー部に入部しようとしたのである。
 では、なんで入部を断っているのか? 理由は単純で危険な目にあわせない為だった。
なにしろ、ゾディアーツとの戦いは少なからず危険が伴う。そんなのにお遊び感覚で入部しようとしている者を関わらせるわけにはいかない。
何かあったら遅いので当然なのだが……なお、箒達はその辺りを考えた上でいる。それ以外にも理由はあるが――
まぁ、仮面ライダー部には機密的な物もあるので、なおさら簡単に入部させられないのだ。
 余談となるが、衛理華としては最近気苦労が増えたりする。
コズミックエナジーが相変わらずに解明出来てなかったりとか、フォーゼのことで国際IS委員会とかからデータ提供を頼まれたりとか――
また、元いた大学でこのことを知ったらしく、カムバックコールもしてたりする。
どうやら、自分達の手柄にして大学の名を上げようとしてるようだが。
もっとも、衛理華としては今回の騒ぎで大学に戻っても意味無いかもと考え、今のところ戻る気は無かった。
「はぁ……まったく……知らないからって、気楽に入部しようとしないで欲しいわね」
「すみません。仮面ライダー部はこちらでよろしいのですか?」
「はいはい、入部は……って、あら?」
 ため息を吐く衛理華であったが、聞こえてきた声にそのことを告げようとして気付く。その声が明らかに男性の声であったことに。
それで振り向いてみると、そこには白衣を着た男性がメガネを掛けた男性日本人と欧米風の女性と共に立っていた。
なお、男性と女性も白衣を着ている。
「星野 衛理華さんですね? 初めまして、NPO法人『国際救援機構』から来ました結城 丈二です。
後ろの2人は同法人所属の関根 良彦(せきね よしひこ)君とオーリス・フィネリア君です。今日からよろしくお願いいたします」
「「よろしく」」
「あ〜、あなた方が楯無さんが言っていた。どうも、星野 衛理華です。ここではなんですし、中へどうぞ」
 自己紹介をする結城と関根、オーリスが頭を下げると、衛理華も自己紹介をしながら頭を下げる。
その後、3人を中へと案内する衛理華であったが――
「ちらかってますから、足下には気を付けて――」
「ふ〜ん、これが箒ちゃんが乗ってるパワーダイザーかぁ〜。なんか、偉くちゃっちい造りのメカだねぇ〜」
 中に入ってみるとパワーダイザーにぺたぺたと触る女性の姿があった。
その女性の姿に思わず固まってしまう衛理華と結城達。というのも、女性の姿は明らかに少女チックな物だった。
更には頭にウサミミらしき物まで付いていたのでなおさらに理解出来ずに固まってしまったのである。
「あの……どちら様?」
「ん? 私? 私は天才の篠ノ之 束さんだよ」
「篠ノ之 束!? あのIS開発者の!?」
 呆然とする衛理華にめんどくさそうにしながらも自己紹介する女性こと束。
その名を聞いて、結城は驚くのだった。なにしろ、目の前にいるのはISを開発した女性なのだから――


 で、しばらくしてアリーナ内――
「そんなわけで彼らが来てくださったんだけど――」
「久しぶりだねぇ〜いっくん」
「は、はぁ……」
 ため息混じりに結城達を紹介する衛理華。その横では束が無視するように一夏と話していた。
ちなみに箒を除く仮面ライダー部員――新たにシャルロットとラウラが加わった――は戸惑ったり呆然としてたりと様々な反応を見せている。
話し合っている一夏も苦笑した様子で話していたのだし。
「まったく、なんでいるんだ、束?」
「うんうん、ちーちゃんもお久しぶりだねぇ〜。ハグハグしよう!」
「ふん!」
 で、束は周りを無視するかのように千冬の問い掛けを無視して抱きつこうとしてたりする。
千冬にアイアンクローを顔面に喰らって防がれていたりするが――
「相変わらず容赦の無いアイアンクローだねぇ〜」
「すみません。私が頼んだんです……なんとか、協力してもらえないかと思って――」
「箒ちゃんもこうして会うのは久しぶりだねぇ〜。ホント、大きくなったよねぇ〜。特におっぱいが!」
 アイアンクローを喰らいながらも喜ぶ束。その姿にすまなそうに話す箒であったが、アイアンクローからあっさり逃れた束が近付いてくる。
両手を明らかに卑猥な動きをさせながら――
「ふん!」「あぐぅ!?」
「殴りますよ」「殴ってから言ったぁ〜! 箒ちゃんひどい〜!」
 が、いつの間に持っていたのか、箒の木刀の突きで迎撃される。
もっとも、その突きはかなりの威力だったはずだが、突かれた所をさするだけで束にはあまり効いてないように見える。
「あ、あの人が……IS開発者で天才科学者の――」
「ああ……箒のお姉さん……」
 で、その光景に戸惑いながらも驚いてるシャルロットの言葉に一夏は呆れながらもうなずく。
もっとも、ほとんどの者が束の奇行にただ見ているしか出来なかった。
ただ1人、結城だけはあることに気付いてるだけで――
「まぁ、束さんが来たのは後で詳しく聞くとして……今日は調整を終えた2つのスイッチのテストをするから、フォーゼに変身して」
「はい」
 束の行動に呆れながらも指示する衛理華の言葉に、一夏はうなずくとフォーゼドライバーを装着し――
『スリー――ツー――ワン――』
「変身!」
 変身ポーズを付けながら、フォーゼへと変身した。
「うわ、すっご〜い!」
「まったく……人前でやらなくたっていいのに……」
「はは、私は嫌いでは無いですけどね」
 その変身に瞳を輝かせる束。一方で衛理華は呆れているが、結城は気にした様子を見せなかった。
まぁ、結城としてみれば、見慣れた光景でもあったのだし。
「じゃ、まずはこれ。スパイクスイッチね」
「はい」
『スパイク』
 で、衛理華から投げ渡されたスイッチをドリルスイッチと交換する一夏。
『スパイク・オン』
「へ?」
「へぇ〜、こうなるんだ」
 で、早速スイッチを入れると、左足にいくつものトゲが突いた緑色のアーマーが装着される。
その光景に束は目を丸くした。一見するとISと同じように見える。しかし、IS開発者である束にはわかるのだ。
今のはISとは違う行程で装着されたのだと。
一方、一夏はそのことに気付かずに左足を上げながら装着されたアーマーを見て、その後に左足を下ろし――
『きゃあぁぁぁぁ〜!!?』
 左足が地面に付いた瞬間にアーマーの全てのトゲが伸びて、箒達を驚かせるはめとなった。
なお、トゲはすぐに元の大きさに戻ったものの、もう少し伸びていたら誰かに刺さっていたかもしれない。
それ程までに長く伸びたのである。
「ちょっと一夏!? あんた私達を殺す気!?」
「わ、わりぃ! まさか、こうなるとは思ってなかったから」
 怒鳴る鈴に一夏は素直に謝る。一夏もまさかトゲが伸びるとは思っていなかったとはいえ、迂闊だと思ってのことだったが。
その一方で束の表情が睨むような物に変わっていた。というのも、今のは普通に考えてもありえないからだ。
確かめないと確かとは言えないが、あのアーマーは金属製だろう。で、金属は常温で伸縮するような性質は普通では持たない。
それなのにあのアーマーのトゲは伸縮した。そのことに束の中で疑問が大きくなっていく。
「と、とりあえずそれは解除しておいてね。じゃあ、次はスモークスイッチね」
「は、はい」
『スモーク――スモーク・オン』
 驚きから立ち直った衛理華の指示通りに一夏がスパイクスイッチを切ると、今度は別のスイッチが渡された。
そのスイッチをランチャースイッチと交換し、スイッチを入れると明るい紫色をした4つの円筒形のパーツが右足を挟む形で装着される。
どんなスイッチかと思い、今度は慎重に確認する一夏であったが――
「うわ!? なんだこれ!?」
「ごほっ……けむいよぉ〜」
 その円筒形のパーツから煙が吹き出し、辺りに立ちこめてしまう。
そのことに本音だけでなく、ほとんどの者がむせていたりするが……そんな中、束は怖い表情でフォーゼを見ていた。
それ故に気付かなかったのである。この後、自分がしようとしていたことに――


「やれやれ、今回のスイッチは扱いが難しいかな?」
 一通りのテストと訓練を終えた一夏は箒達と共に仮面ライダー部に戻り、思わずそんなことを漏らしてしまう。
今回の2つのスイッチは使いようによっては戦闘に役立つ。
その一方でやりようによっては周りを巻き込むこともありえるので扱いが難しいと考えたのだ。
で、結城達は今回のテストで集まったデータを見てあれこれ話しているのだが、束はというとなぜかジト目で衛理華や一夏を見ている。
「ねぇ……コズミックエナジーって、結局はなんなの?」
 しかし、何かに耐えかねたように問い掛けてくるのだが――
そんな束の様子に一夏達は首を傾げる一方、衛理華は困ったような顔をしている。
「その質問は……難しいわね……実を言うと……私もこれといってわかってないのよ」
「え? データは集まってるんじゃないんですの?」
 困った顔をしたまま答える衛理華だが、それに対してセシリアが意外そうな顔で問い掛けてくる。
もっとも、それは衛理華以外の全員が同じ思いだった。
なにしろ、衛理華がコズミックエナジーの色々なデータを集めているのは仮面ライダー部にいる者なら誰でも知っていることだ。
だから、ある程度はわかっていると誰もが思っていたのである。
「確かにデータは集まってるわ。でもね、なんというか……
こっちのデータを見るとあっちのデータがおかしくなったりとか……その逆があったりとか――」
「整合性が無い? ということですか?」
「まぁ、そうとしか言えないわね。別の言い方をすれば、その時の都合で変化してるとも言えるけど……」
「そんな……そんなエネルギーはありえません!?」
 困った顔の衛理華の返事に結城はそう判断するが、次に出てきた言葉にオーリスが驚愕してしまう。
どんな物でも、その時の状況で最適な形になるというのは基本的にありえない。
極端な話になるが、ただの水を食料が欲しいからと食べ物にしようとするくらいにありえないのである。
だが、コズミックエナジーは限定的ではあるが、それを可能としている。だからこそ、オーリスは驚いたのだが。
「確かにね……でも、そうとしか言えないのよ。だけど、どうしてそうなるかがまったくわからなくて……」
「良く、そんなのを使おうと思ったわね」
「聞いていない人もいるから、改めて言うけど……織斑君に出会うまでは全くと言っていいほどわかっていなかったのよ。
というか、使うことすらも出来なかったんだけどね。だから、データが集まるまではそんな物だってのはわからなかったから……
でもまぁ、フォーゼは今のところ危険性は無いし……諸々の事情でフォーゼを使うしかないんだけど」
 目を丸くする鈴の問い掛けに、話していた衛理華はため息混じりに答えていた。
実際の所、このことを衛理華が知ったのはつい最近のことだ。そして、このことを告げるかを悩んでいた。
そうすることで不安がらせることを防ぎたかった為だ。
衛理華とて、今回の事態を一夏に頼るようなことをしたくは無い。しかし、現状ではフォーゼを使うしかなかった。
ISは国際規約などのしがらみや武装使用による被害など。そういった問題があって中々使うことが出来ない。
前回の戦闘で楯無のISが使えたのも、ゾディアーツとの戦闘データ提出という条件付きだったのだし。
だから、多少の不安があろうともフォーゼを使うしかなかったのである。
「確かに他の所を頼るの難しいですしね」
 そんな衛理華に結城は理解の色を示す。
一夏達が他の組織に頼れない理由としてはコズミックエナジーの存在が大きい。
なにしろ、コズミックエナジーはISと同等、もしくはそれ以上の可能性を秘めている。
そんな物をどこかの組織に関わらせようとしたら、独占などの問題を起こすかもしれない。
そうなれば、我もと他の組織も出張ってきて――最終的にはISと同じようなことも起こるかもしれなかった。
そういったことを避ける為にも、今はどこかの組織に頼ることも出来なかったのである。
なお、前にも話したが結城達が来たのは衛理華と一夏の身を守る為だ。もっとも、そのことを一夏と衛理華はほとんど知らないのだが。
「なんというか……自分が情けないわ……」
 思わずため息を漏らす衛理華。見通しが甘かったのは否定出来ない。
コズミックエナジーの能力はわかっていたからこそ、衛理華もどうにかしなければとは思っていた。
なのに、気付けば話がドンドン進んでしまい、すでに自分の手に負えない状況になってしまっている。
このことに自分は何をしてるんだろうかと、衛理華は思ってしまうのだ。
ただ、これは衛理華だけに責任があるとは言えない。前回、ラウラが起こしてしまった騒動。
あれが切っ掛けで急激に話が進んでしまい、楯無が計画していた対策がほとんど出来なくなってしまったのだから。
それに一介の大学職員にすぎない衛理華では、取れる対策が限られているというのもある。
「それで、これからどうするんですか?」
「今は慎重にやってくしかないわね。まったく、研究だってあるのに……」
 箒の問い掛けに衛理華はうなだれながらため息混じりに答えるしかなかった。
何しろ、色んな事に気を回さねばならなくなったのだ。一介の研究者でしかない衛理華にとっては重荷にしかならない。
その上、コズミックエナジーの研究もせねばならないので、負担が大きくなる。
本当にどうしようか……衛理華がそんなことで悩んでいる時、睨むように見ていた者がいる。それは束なのだが、彼女としては面白くない。
なにしろ、ここでの話題はフォーゼやコズミックエナジーばかりで、ISのことはほとんど出てこない。
ISを造った身としてはISが無視されているような気がしてならなかったのだ。
(そうだ。これならみんなもISの方がいいって思うかも)
 と、束はあることを思いついて、ある場所へと向かう。それが後に問題を起こすことになるとは気付かずに――
そんな彼女を結城は静かに見守っていたのだった。


 次の日の放課後。楯無は1人IS学園内を歩いていた。
今日は生徒会の仕事も早々に終わり、仮面ライダー部に顔を出そうと向かっている最中である。
その間に昨日の事も含めて様々なことを考えていた。まず、束の協力が得られたこと。
彼女がいたことは楯無自身も驚いたが、同時に心強くも思えた。なにしろ、ISの開発者なのだ。
その束は現在、パワーダイザーの改修の為に機体の状態を見ている最中であった。
束なら、パワーダイザーの欠点を改修してくれる。楯無はそう思っている。だから、気付かなかったのかもしれない。
その束の表情がどこか悔しんでいるようなものだったことに。もっとも、それはいつもの束と比べればわずかな差。
箒でも気付かない物だった。もっとも、箒は束としばらくの間、会っていなかったのもあるのだが。
それを考えても楯無が束の変化に気付かなかったのは、ある意味仕方無かったかもしれない。
 その一方で懸念なのはゾディアーツの目的だ。
前回の戦闘でサソリのゾディアーツは楯無達は自分達のことを勘違いしているようなことを話していた。
その勘違いがなんなのかは見当が付かないが、かといって見逃していいわけではない。
なにしろ、被害が実際に出ている。ある意味、人的な被害も出ているだけに、なおさら見逃すわけにはいかない。
なので、急いでゾディアーツの目的を調べなければと考えていた所で――
「あら、お久しぶりね」
「え? クララ?」
 背が高く、背中まで伸びるブロンドの髪に知的に整った顔立ちでスーツを着た女性に声を掛けられたことに楯無は目を見開いた。
彼女の名はクラーラ・ブルシェンコ。かつて、楯無とロシア代表を競い合った仲だった。
ちなみに楯無はロシアの代表だったりする。学生でありながら代表であるのは彼女くらいだが。
それはともかく、そのクラーラは現在は楯無に何かあった場合に備えての予備員としてロシアにいるはずなのだが――
「どうして……ここに?」
「本国の命令で、コズミックエナジーのことを調べに来たのよ」
「……そう」
 クラーラ――普段はクララと呼ばれている彼女の返事に、問い掛けた楯無はどこか辛そうな表情を浮かべてしまう。
ロシアもコズミックエナジーのことで動き出すのはわかっていたことだった。
楯無が渡したデータでロシアが満足しないのは目に見えていたのだし。
ただ、それでクララが来たのは誤算であったが……というのも、楯無とクララとは浅からぬ因縁がある。
仲が悪いというわけではない。どちらかと言えば、良きライバルといった仲であった。
ただ、日本人がロシアの代表になったことで騒がしくなり、それによってクララが色々と言われてしまったのは事実なのだが。
「それでIS学園に?」
「ええ……手っ取り早く調べるには、あなたに会いに行くのが良かったもの」
「え?」
 楯無の問い掛けにクララは笑みを浮かべながら答える。だが、その返事に楯無は訝しげな顔になっていた。
言っていること自体はおかしなことではない。確かに楯無はフォーゼに関わっているのだから、楯無を訪ねるのは当然だろう。
では、何があったかと言えば、クララの口調がどこかおかしかったからだ。どこか、嘲笑してるような感じで――
「な!?」
 それを見た楯無は驚きを隠せなかった。
というのも、クララの右手にはゾディアーツのスイッチがあったのだから。
「なぜそれを……それよりも、それがなんなのか知っているの!?」
「ええ……だから手っ取り早いのよ……コズミックエナジーを調べるのと……決着を付けるのはね」
「け、っちゃく?」
 嘲笑を浮かべるクララの返事に、問い掛けた楯無は戸惑いの色を浮かべた。
言葉の意味がわからない。なぜなら、クララとの決着は付いたはずだった。ただ、それは代表を勝ち取ったという意味では無い。
それはクララとの友情に関わる物であり――
「ええ……私自身の――」
 その疑問に対し、クララは嘲笑と共に持っていたスイッチを押した。
それにより、彼女の体は黒い何かに包まれ、次の瞬間にはその姿を一変させる。
黒い体に鎖を巻く、狼のような顔を持つ姿に。しかも、両手足には刃が生えるように存在していた。
「クララ……あなた……」
「勝負よ、楯無!」
「くっ!」
 突進するクララ――狼のゾディアーツ。
それに対し、呆然としていた楯無は顔をしかめながらも一瞬でISを展開し、ゾディアーツの突進を受け止めていた。
「く、うぅ……そ、そんな……」
 が、それが楯無を一気に窮地へと追い込んだ。今のゾディアーツの突進がバリアを突き破ったのだ。
破られたとはいえバリアのおかげで攻撃を受け止められ、それによって絶対防御こそ働かなかったが――
それでもバリアエネルギーを大きく減らしてしまったのは事実であった。
その事実を顔前に表示されたモニターで知った楯無は更に顔をしかめながらもどうするべきかを考える。
このまま、まともにやり合うのは自分には不利にしかならない。ならば、離れて――
「確か、限定的な空間ではISはその機動性を発揮出来ない……だったわよね?」
「くっ」
 クララの嘲笑混じりの言葉に楯無は顔を歪めた。そう、ここはIS学園の廊下。
普通の学校よりも広く造られている為、ISを装着したまま余裕で立つことは出来る。
しかし、自由に動き回れるような広さは無いので、指摘通りであったのだ。
 このことは前回の戦いでロシアに報告してはいたが、その報告がこんな形で自分を追い詰めることになるとは思わなかった。
だが、たった2度だけとはいえ、楯無もゾディアーツと戦った経験がある。早々簡単に負けるつもりは無い。
「はぁ!」
「な!?」
 瞬時にその答えを出した楯無はスラスターを全開にしてゾディアーツを押し、そのまま建物の壁を破壊して外へと押し出した。
「く……まさか、学校を破壊するなんて……」
「このままやり合うよりはマシよ!」
 立ち上がるゾディアーツの言葉に楯無はランスを構えながら言い返す。
実際の所、あのまま学校内で戦うのは楯無の不利にしかならない。なぜなら、ISでは回避行動がほぼ出来ないからだ。
それに戦う事で学校内の被害を広げてしまう。ならばと楯無は外で戦う事にしたのだ。
そうすればISの機動戦を行うことが出来るし、学校への被害も抑えられる。そう判断したからの行動だった。
「なるほど……流石は楯無ね……」
「なぜ? なぜ、あなたがゾディアーツに手を貸したりなんかしたの?」
 嘲笑とは違う種類の笑みを感じさせながら、ゾディアーツは賞賛する。が、楯無はそれを無視して、ランスを構えたまま問い掛けた。
楯無が知るゾディアーツ――クララはこんなことに手を貸すような者では無かった。むしろ、嫌悪する側だったはず。
なのに、その彼女がなぜ……気になるのが決着を付けるというこうとだが、楯無にはその見当が付かない。
「そうね……個人的な物よ……少なくとも私にとっては……」
「クララ……くっ!?」
 それに対し、ゾディアーツは自嘲気味な笑みを感じさせながら答える。
そのことに訝しげになる楯無であったが、再び襲い掛かられたことで慌てて回避するはめとなった。
そして、それが口火となって楯無とゾディアーツとの戦いが始まる。
めまぐるしく動き回る楯無とゾディアーツ。その動きは常人では捉えるのも困難なほど。
わかりやすく言えば、映像の早送りか……常人にはそう見える戦いが繰り広げられているのである。
だが、それも長くは続かなかった。
「く!? これじゃあ――」
 動きを止める楯無。その表情は焦燥に駆られていた。
というのも、ここに来てISの――とりわけ第3世代に良く見られる欠点が出たからだ。
そう、エネルギー切れ。特に第3世代は燃費の悪さがIS開発者の頭を悩ませている。
楯無もそのことはわかっていたので、それを踏まえて戦ってはいたが……例え、攻撃を受けなくとも動くだけでエネルギーが減るのがISだ。
いかに楯無が優れていようとも、こればかりはどうしようもなかった。
「そろそろ、限界かしら?」
 ゾディアーツの言葉に楯無は言い返せない。その様子にクララもそのつもりで戦っていたことが伺える。
ISのエネルギー切れはわかってはいたので、そうならない為に楯無は相手を倒すつもりで戦ってきた。
それが出来なかったのは楯無が手加減したからではなく、相手がそれをさせてくれない程に手練れだったことが大きい。
確かにクララは楯無に引けを取らない――いや、ほぼ互角と言っていい実力を持っている。
その実力が空を飛べないゾディアーツでも、ISと互角以上の戦いを可能にしていた。
 窮地に立たされた楯無はどうするかで悩む。このまま戦っても保って十数分。
それまでに倒せれば良いだろうが、今のゾディアーツの実力を考えるとそれも難しい。
といっても、流石にこれだけ派手に戦えば一夏達が気付くはず。もしかしたら、すでに向かっているかもしれない。
ならば、それまで保たせられればと考えを纏め――
「あぐぅ!?」
 不意に激しい衝撃が体に襲い掛かる。
何事と目を向ければ、そこにはマントを脱ぎ払ったサソリのゾディアーツが着地しようとしていた所だった。
「以前の借り、返させてもらったぞ」
「しま――」
 サソリのゾディアーツの言葉に攻撃を受けたと気付いた時には遅かった。
今の攻撃で絶対防御が発動し、バリアエネルギーを使い果たした。それによってISが解除されてしまう。
更に最悪なのが上空で解除されてしまったことだ。ISにはそのような場合になってもいいように安全装置のような物はある。
だが、楯無の場合はサソリのゾディアーツに受けたダメージが大きすぎて、それが働かなくなってしまったのだ。
結果、楯無はそのまま落下する。高さ的には命が脅かされるほど。それでも楯無は受け身だけでもとろうと構え――
「おおりゃあぁぁぁぁ!?」
「え?」
 そこで誰かに抱きかかえられた。そのことに楯無が目を丸くする中、抱きかかえた人物は地面へと降り立つ。
「ようやく現れたわね。織斑 一夏……仮面ライダーフォーゼ!」
「一夏……君?」
 狼のゾディアーツがそう言い放ったことで、楯無も自分を抱きかかえているのがフォーゼに変身した一夏であることに気付いた。
「あっぶなぁ……大丈夫でした? 楯無先輩?」
「え、ええ……」
 顔を向けながら声を掛ける一夏に、楯無は顔を赤らめながらもうなずく。
なぜだろう? 恥ずかしさもあるのだが、凄く嬉しくも感じてしまう。
と、いつの間にやら下ろされていた楯無だが、その表情はどこか名残惜しそうに見えた。
その間にパワーダイザーに乗った箒に仮面ライダー部の面々。それに束と結城も来ていた。
「あれがゾディアーツ――」
 そして、初めて直接見た結城は、ゾディアーツ達から感じる気配に顔をしかめる。
今まで見てきた者達とは明らかに違う気配。その気配に疑問を感じたのだ。ただ、その疑問がなんなのかは今はわからなかったが。
一方で束は親の仇かのようにゾディアーツを睨む。ただ、その時は誰も束の様子に気付いていなかったが。
「試させてもらうわよ、あなたの力を!」
「来た! 箒! もう1人の方を頼む!」
「わかった!」
 狼のゾディアーツが向かってくるのを見て、一夏も構えながら駆け出す。
声を掛けられた箒も駆け出すが、こちらは牽制する為にサソリのゾディアーツの前で止まる。
「は! てりゃあ!」
「ふん、なるほど、良く動く。でも、それじゃあ!」
「おわ!?」
 殴り、蹴る一夏だが、狼のゾディアーツはそれを両手で捌き、逆に突きを喰らわせる。
受けた一夏はよろめくものの、すぐに立ち直していたが――
「だぁ!?」
「一夏!?」「一夏様!?」
 狼のゾディアーツの右腕の刃に斬られ、火花を散らしながら倒れてしまう。
その光景に鈴やセシリアが思わず叫んでしまう。もっとも、一夏もすぐに立ち上がっていたが。
「強い! なら、こいつで!」
『スモーク――スパイク――』
 狼のゾディアーツが自分よりも強いことに気付いた一夏は、急いでドリルとランチャーのスイッチをスモークとスパイクに変えた。
その判断は間違っていない。狼のゾディアーツ――クララは予備員とはいえIS代表であり、その者がゾディアーツ化してるのだ。
いくら一夏が鍛えられているといっても、その実力が上なのは否めない。
それ故に一夏は対抗しようとスイッチを装着し――
『スモーク・スパイク・オン』
 2つのスイッチを入れて、右足にスモーク。左足にスパイクのパーツを装着する。
「そんなので、どうしようというの!」
「おりゃ!」
「くぅ!?」
 それにも怯まずに襲い掛かろうとする狼のゾディアーツだったが、一夏が気合いと共に放ったスモークをまともに受けて動きを止めてしまう。
「おおりゃ!」
「がぁ!?」
 そのスモークにまかれて動きを止めた所で、スパイクを付けた足で蹴り飛ばす一夏。
それと共にスパイクのトゲが伸び、狼のゾディアーツはそれによって弾き飛ばされるかのように倒れていく。
「まだまだぁ!」
 そのまま追撃していく一夏だが、一方で箒はというと――
「あ! くぅ!?」
 サソリのゾディアーツに一方的に攻め込まれていた。
前回と違い楯無がいないので援護を受けられないということが不利に繋がっている。
だが、それ以上に――
「く! パワーダイザーの動きが――」
 今日のパワーダイザーの動きがいつもより鈍く感じられるのだ。
いや、実際パワーダイザーの動きは鈍かった。箒がしたい動きがワンテンポ遅れる感じで実行されているのである。
だが、サソリのゾディアーツの猛攻に箒はそのことに気付かずにいた。
「どうした、その程度か?」
「く、黙れ!」
「箒ちゃ〜ん! ISに乗り換えた方がいいよぉ〜」
 サソリのゾディアーツの挑発に箒が叫び返す中、束はにやけた顔でそんなことを言ってくる。
束は確信してるのだ。”今”のパワーダイザーではサソリのゾディアーツに勝てないことに。
箒もそれをわかってるだろうから、さっさとパワーダイザーを降りてISを――
「そんなこと出来るわけがないだろうが!」
「え?」
 が、叫びと共に千冬に否定されたことに束は呆けてしまう。
なぜなら、千冬の言っている意味がわからない。ただ、ISに乗り換えるだけなのに――
「今、動かせるISはありません!」
「それ以前にあの状況で乗り換えが出来るわけがなかろうが!!」
 真耶の叫びに千冬も思わず怒気を高めて叫んでしまう。IS学園に限らず、ISの管理は厳重にされている。
理由としてはISは限られた数しかないということと、ISが兵器であるということだ。
当然、盗まれたりしたらただの問題では済まされない。故に管理が厳重になるのも当然と言える。
現にIS学園でも授業以外でIS学園が所有するISを動かす為には、手間が掛かる申請をしなければならない。
それに例え緊急事態ということでISが使えたとしても、今の状況で箒がISを装着するのは無理だ。
戦っている最中にパワーダイザーから抜け出し、IS保管場所に向かうのはあまりにも難しすぎる。
例え、この場にISを持ってこれたとしても同じだ。どちらにしても、サソリのゾディアーツがそれを見逃すとは思えない。
「で、でも、箒ちゃんにはISが――」
「え? 箒って、自分ISなんて持ってたかな?」
「え? ああぁ!?」
 それでも反論しようとする束であったが、それを聞いて首を傾げるシャルロットの言葉にそのことを思い出した。
そう、束が一夏達の元を訪れた際、束は箒にISをプレゼントするつもりであった。
しかし、コズミックエナジーのことで怒りを感じたことでそのことを忘れてしまったのである。
「ほ、箒ちゃん! 逃げてぇ!?」
「あ、くぅ……」
 その気付いて悲鳴のように叫ぶ束であったが、箒はというとパワーダイザーの片膝を地面に付かせている。
すでにパワーダイザーのダメージは深刻な物となっていた。ボディのあちこちがひび割れたり砕けたり――
内部にまでダメージが行ってしまっているらしく、所々で火花を上げたりオイルが漏れていたりしていた。
箒自身もダメージを受けた衝撃でぶつけたか切ってしまったかして、額と口から血を流している。
「箒!」
「一夏!」
「助けに行きたいけど、くそぉ!」
 ラウラが叫ぶ中、千冬が助けを求めようと叫ぶが、一夏は狼のゾディアーツで手一杯の状態になっていた。
楯無との戦いと一夏に受けた最初のダメージもあって、狼のゾディアーツの動きは鈍っている。
それでも一夏と互角以上の戦いが出来るのは、ゾディアーツとなったクララの実力が高いからであったが――
「く、全員ISを展開して箒を守れ!」
「え? で、ですが――」
「議論してる暇は無い! 責任は私が取る! 急げ!」
 いきなりの指示に簪を始め、誰もが戸惑いを見せてしまう。しかし、それも構わずに千冬は矢次指示を出していた。
現にサソリのゾディアーツはとどめを刺そうと、身をかがめて構えている。
これ以上のダメージはパワーダイザーどころか箒自身も危険になりかねない。
そう判断したからこその指示であった。
「く、しょうがないか!」
「そうですわね!」
 千冬に言われてそのことに気付いた鈴を筆頭にセシリア、シャルロット、ラウラ、簪が自分達のISを纏ってサソリのゾディアーツへと向かう。
「む」
 そのことに気付いたサソリのゾディアーツ構えを解いて立ち直し、その間に鈴達はパワーダイザーの周りに立ち、それぞれに武器を構えた。
このまま睨み合いになるか……と、思われたが――
「まぁ、いい……この場は下がるぞ」
「ええ」
「あ、ちょっと待て!」
 サソリのゾディアーツの指示に狼のゾディアーツがうなずくと、2人は一夏の制止も聞かずにどこかへと去っていく。
サソリのゾディアーツとしては、例え5対1でも負けるつもりはない。
だが、流石に骨が折れるのは否めず、自分の目的もほぼ達したので撤退することにしたのだ。
その去っていこうとするゾディアーツ達を一夏としては追いかけたかったが、パワーダイザーに乗る箒が気になってそれが出来ない。
「楯無……これでISは……終わりよ」
「え?」
 だが、その間際に狼のゾディアーツが漏らした言葉に楯無は訝しげな顔をする。
ISが終わる? なぜ、そんなことをこんな時に言うのかわからない。それ以前に言葉の真意自体もわからなかったが。
「箒ちゃん! 大丈夫!? 箒ちゃん!?」
「ねえ……さ、ん……ん……」
 ゾディアーツ達が去っていったことで束は泣きそうになりながらパワーダイザーに慌てて駆け寄る。
その姿を見た箒はどこか嬉しさを感じ、笑みを浮かべながら気を失ってしまう。
「クララ……あなたはいったい……何をしようとしているの?」
 そんな箒に一夏達も慌てる中、楯無は親友とも言える者の行動に疑問を感じずにはいられなかった。
そんな彼らを結城はただ静かに見守る。この後のことを考えながら――




 あとがき
そんなわけで今回から新規投稿分となった今回の話はいかがだったでしょうか?
いきなりの束の登場にゾディアーツとなった楯無のライバル。果たして、今回の話はどうなってしまうのか?
それは次回と言うことで……ああ、ちなみに楯無を除く一夏達は結城がライダーマンであることは知りません。
まだ、それを話す段階で無いというのもありますけどね。

それと拍手ありがとうございます。色々と励みになりますよ。
今回レスがないのは……まぁ、色々とあるとだけ話しておきます。
うん、鋭い人もいたもんだね(え?)

さて、次回は束が起こした問題。そして、ライバルの行動に悩む楯無。
それらはどのようになっていくかのお話です。
というわけで、次回またお会いしましょ〜



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