少しずつ歴史を変えていく

本来の流れを変えないように

それが正しいのかは分からない

だがこれしかないと自分に言い聞かせて歩き出す

一人でも多くの人を救う為に



僕たちの独立戦争  第八話
著 EFF


―――アクエリアコロニー実験施設―――


―――ストライカーシリーズ―――

ダッシュが設計した機動兵器で空中戦時の高機動形態と陸戦時の機動形態の二つの姿を持つ機体。

後に火星で活躍するエクスストライカーの基に成る機体である。

今はその時を待ち続ける………ただ静かに。

 
プシュ―――――――

6台のシミュレーターが開き訓練中のパイロットが降りたつと。

そこから一人の女性の呟きが静かな部屋に響いた。

「………悔しいな。

 試作とはいえエクスストライカー六台で一機のブレードストライカーに三分もたないなんて」

「……そうですね、隊長。

 何か別次元の腕前です、クロノさん」

隣にいるパイロットが重い口を開いた時 一つのシミュレーターが開いた。

「経験の差だよ、エリス。」

現れたパイロット――クロノ・ユーリ――はそう告げた。

「絶対違うと思います、クロノさん。

 クロノさんと私達には経験以上に……そう覚悟と言えばいいような絶対的な差があると思います」

辺りにいるパイロット達はエリス・タキザワの言葉に頷いていた。

「実際、接近戦では勝てないし、射撃も正確でこちらの動きは全部読まれるし、

 長距離の狙撃はフィールドで跳弾させて味方にあたるから迂闊に撃てないし手が出ませんよ」

「……そうだな。そうしなければ生き残れない状況ばかりだったからな」

苛酷な環境を思い出すクロノを見てエリスは謝った。

「……すいません。余計な事を聞きました」

「気にしなくてもいいよ、エリス。

 そのおかげで君達を鍛える事が出来るんだ。

 気にするなら強くなれ。

 そうしてくれるなら俺は嬉しいよ……ん、誰か来たようだな」

開かれた扉から一人の少年がクロノに飛び込んできた。

「お父さん!!とっても強いんだね♪

 ぼくもお父さんみたいになれるかな」

「そうだな。

 守りたいものが出来たら、クオーツだって強くなれるよ」

「守りたいものって何、お父さん教えてよ」

「守りたいものはね、クオーツ。

 人それぞれ違うんだよ、だからクオーツも見つけないとな」

「じゃあ、お父さんの守りたいものは何か教えて」

「お父さんの守りたいものは、家族と仲間たちさ」

「家族と仲間」

「ああ、アクアとラピスにセレスにクオーツに島のみんなと、

 エドおじさんとその家族とここにいるみんなだよ」

「ぼくもみんな大好きだから強くなれるかな」

「ああ、強くなれるさクオーツ。

 だけど強くなっても人をいじめる事はしちゃダメだぞ」

「……あの研究所の人みたいなこと」

「そうだ……あんな大人にはならないでくれよ約束だ、クオーツ」

「うん!! お父さん。

 ぼくあんな大人にはならない、お父さんみたいな人になる」

優しく頭を撫でるクロノにクオーツには目を細めて微笑んでいた。

その微笑ましい光景にエリス達パイロットはクロノの強さの一端を感じていた。

守るものがあれば人は強くなれるのだと。

「よし、今日はここまで解散。

 各自練習をするのはいいが無理をしないように。

 ただし使用するのはブレードストライカーだぞ。

 エクスは最終的には複座がメインになるからな」

クロノの声にエリスは疑問の声をかけた。

「何故ですか、クロノさん。

 エクスは十分戦えるし複座にする意味がないですよ」

エリスの疑問に他のパイロットも頷いていた。

「エクスには単座と複座の2タイプがある。

 そのため訓練は複座で行う必要があるんだよ。

 実戦配備には後8ヶ月ほどかかる為にシュミレーターはブレード用の単座には使えないんだが、

 今回はお前たちに次の火星軍主力機の使い心地を聞く為に単座用にした。

 後で報告書を出してくれ」

「……クロノさん、複座にするのは何故ですか?

 新兵器があるのですか?」

エリスは自分の考えを述べるとパイロット達もクロノを見ていた。

「そうだ、その為に複座にする必要があった。

 言っとくがこの装備は半端じゃないからな。

 おそらく一つは火星軍独自の装備でもう一つはやがて標準の装備になるだろうな。

 ただし地球では後2、3年はかかるだろう」

「……クロノさん、それだけの兵器が火星に必要なんですか?」

エリスの問いはここにいる全ての者に共通の物だった。

「……そうだろうな、昔の俺もそう思っていたよ。

 あんな事が起きなければ此処にはいなかったし、アクアに会うこともなかっただろうな」

クロノの重い独白に誰も声を出す事が出来なかった。

実際この人物が現れてから、アクエリアコロニー守備隊は大きく変化した。

コロニーの治安維持ではなく、完全な軍隊への変化が始まっていた。

一部の者は疑問を持っていたが、作戦内容が救出作戦などの人命救助が中心の為に強く反発できずにいたが、

市長のエドワード・ヒューズの指示により仕方なく動いている者も大勢だった。

―――――その言葉の意味が理解出来る日は近づいていた、運命の日まで後わずか


―――ノクターンコロニー実験施設―――


「アクア様、現在の状況ですと第一次火星会戦までには間に合いそうもないですね。

 申し訳ありません。

 我々の力が足りないばかりに」

技術者達がアクアに告げるとアクアは落ち着いて話す。

「いえ、貴方達は良くやってくれています。

 時間が足りない事は分かっていました。

 専門家がいないのに無理をさせましたね、ですが分析だけでもして下さい。

 会戦後には専門家も来ますのでその時には力を貸してもらいますよ。

 今は生き残るために足掻きましょう」

「は、はい!

 相転移エンジンの量産の目処は立ちませんでしたが機動兵器の量産は出来ますので安心して下さい」

「そうですか。

 いずれ地球から来ているスタッフは地球に戻ってもらいます。

 向こうでも機動兵器が量産できるようにしないと大変な事になりますからね。

 火星で育った方も避難したい方は仰ってください。

 逃げる事は恥ではありませんから、向こうで勝てる手段を見つければ大丈夫ですよ。

 恥なのは諦めて中途半端にする事ですから」

「中途半端ですか?」

「ええ地球は自分達の罪から逃げ続けました。

 それが今こうして戦争になってしまいました。

 きちんと罪と向き合えばこんな戦争は起きませんでした。

 違いませんか?」

アクアが告げた事は技術者達にも理解できた。

政治家達の隠蔽工作でしなくてもいい戦争が始まるのだ。

しかも犠牲になるのは何も知らない市民であり、彼らではないのだ。

憤りだけが彼らの胸に残っていた。

「さあ報告は終わったんだ。

 俺達も生き残るために頑張ろうぜ」

技術者の一人が声を出すと全員がそれぞれの部署に戻り、分析を始めていた。

「ママ、元気出してね」

心配そうにアクアを見つめるセレスにアクアは微笑んで話した。

「大丈夫よ、セレス。

 それよりラピスは何処かしら」

「マリーと一緒にお茶の準備をしてるよ。

 私はママを呼びに来たんだよ」

「そう、ダッシュと練習は終わったの」

「うん♪

 今日は私が一番なんだよ」

「今日はクロノも帰ってくるからたくさんお話しないとね」

セレスの手を取って歩き出したアクアにセレスは楽しそうに話していく。

技術者達はその光景を見ながらアクアの負担を減らしたいと思っている。

彼女は良くやってくれているというのが技術者達の意見だった。

最初に来た時は火星の危機を伝えても誰も信じなかったが彼女が粘り強く話す内容に全員が引き込まれていった。

そして彼女が見せるテクノロジーに技術者達は真実だと理解すると全面的に協力した。

現在は彼女の指揮の下で来るべき第一次火星会戦の準備を進めていた。

生き残るために……。


「よう、嬢ちゃん。元気だったか?」

部屋に入るとそこにはクロノとレオンが来ていた。

「ええ、元気ですよ。レオンさんのほうは順調に進んでますか?」

陽気に話してくるレオンにアクアは笑顔で答えていた。

「おう、こっちは予定通り進んでいるぜ。

 今日もこいつに負けたんだけどな」

クロノを見ながら楽しそうに話すレオンにラピスが話すと。

「当然だよ〜。

 パパはとっても強くて優しいんだよ。

 レオンのおじちゃんじゃあ勝てないよ〜」

「そうだよ〜。

 パパは火星最強なんだよ」

セレスが続いて話すとレオンはガックリしていた。

「おじちゃんはやめてくれよ。

 コレでもまだ二十代なんだぜ、ラピス」

「クロノ、クオーツは何処にいますか?」

部屋にいないクオーツを心配するようにアクアが訊ねる。

「クー坊ならトレーニングルームにいるぜ。

 日課の練習をしていたぞ。

 素材が良いからな立派なジゴロになるな、将来が楽しみだぜ」

レオンが陽気に笑っているとアクアが怒り出した。

「ダメですよ。

 クオーツはジゴロになんかさせませんよ。

 クロノ!ちゃんと見ていますか?」

「お、俺はちゃんと見ているぞ。

 だいたいクオーツはそんなものにはならんさ。

 レオンもいい加減な事は言わんでくれよ」

その言葉にレオンが肩を竦めるとアクアに話した。

「苦労するな、嬢ちゃんも。

 こいつら本当に血は繋がってないのか?

 自覚のないところなんざ、瓜二つだぞ。

 クオーツはちゃんと育てんとコイツみたいに黙っていても女が寄ってくる体質になるぞ」

「冗談はよせよ、レオン。

 そんな体質なんてある訳ないだろう」

呆れるように話すクロノにレオンとアクアはため息を吐いていた。

「まあ気が付く限りクオーツの性格は矯正してやるから安心しな。

 素材が良いからな、パイロットの適正はまだ分からんが優秀な人材になるからな。

 スケコマシにはさせないぜ」

「期待してもいいですか?

 私のほうでも気をつけますがお願いしますね」

アクアがクオーツの前途を思い、頭を抱えていた。

「だからどうしてクオーツがスケコマシになるんだ。

 俺には理解できないんだが」

未だに自覚のないクロノを無視して二人の会話は続いた。

「パイロットの養成は順調に進んでいるぞ。

 この調子なら開戦と同時にノクターンの防衛と開発中のコロニーや研究施設などの救援も出来そうだな」

「アクエリアのほうも何とかなりそうだよ。

 木連の目的は北極冠遺跡だからな、侵攻ルートは多分こうなるだろう」

クロノがスクリーンに状況を見せるとレオンが訊ねた。

「軍のほうはどう動くと思う。

 負けるのは確定しているが変に粘られると困るな」

「その点は大丈夫だと思いますよ。

 撤退命令が出れば状況だけに一目散に逃げ帰ると思います」

「ならその後が本番だな。

 準備だけは万全にしておかないとな。

 戦艦の方は間に合いそうか?」

レオンがアクアに訊くとアクアは首を振って話した。

「やはり無理みたいです。

 新しい技術なのですぐには量産できないみたいです」

「ダッシュ、土星での生産はどうなんだ?

 開戦までに何隻できそうだ」

『現在、二隻が艤装を終えて稼動中です。

 アクア様のおかげで生産ラインが変更できましたので開戦までに当初の予定の三隻ではなく五隻まで完成します。

 これにより空母キャンサーを含む八隻が戦闘できますが人員の育成が必要になりました。

 エドワードさんに連絡をして回して頂きますが間に合うかは不明です。

 いざとなれば私が制御しますが他の作業もこなすのでどうなるか……』

「すまんが俺のほうからは無理だな。

 俺達もオペレーターはギリギリだからなぁ。

 エドワードに任せるしか手は無いか」

レオンが悔しそうに話すとアクアが告げた。

「大丈夫ですよ、私と子供達でなんとかしますよ。

 ダッシュ、それなら問題は無いでしょう」

『そうですね。

 それなら問題はありませんがよろしいのですか』

「俺は反対だぞ。

 この子達を戦場には出したくないな」

「俺もクロノに賛成だな。

 戦争に子供を巻き込むのは最低の行為だからな」

クロノとレオンは反対するが他に手段が無い事も理解しているのでその顔は苦渋に満ちていた。

「大丈夫ですよ。

 ユーチャリスUならば危険はないですよ。

 そうですね、ダッシュ」

『その点は安心して下さい。

 現状でユーチャリスUのフィールドを破るのは無理です。

 この陣形で戦いますので安心を』

スクリーンに映された陣形にクロノは安心するが話した。

「条件付だけど良いか、アクア」

「分かっていますよ。

 人材が間に合わなかった時でいいですね」

アクアがすぐに答えるとレオンが二人を見てにやけていた。

「旦那の性格を理解している女房だな。

 クロノは尻に敷かれるみてえだな」

それを聞いたアクアは真っ赤になるがクロノは、

「何を言うかと思えば、アクアはいい女だぞ」

アクアは恥ずかしそうにするがレオンはクロノを見て呆れていた。

「自覚が無いのも困ったもんだな。

 嬢ちゃんも苦労してんだな」

アクアの肩を叩いてレオンが話すと。

「分かりますか?、私の苦労が」

アクアが諦めたように話していたがクロノには理解できずにいた。

お茶の準備をしていたマリーは思う。

(困ったものですね、クロノさんの朴念仁さには。

 まあアクア様には良いかもしれませんが側にいる私達はやっていられませんね。

 お子様達の情操教育に問題が出ないといいんですが)

アクアのイタズラが減るのは良いが別の問題に頭を痛めるマリーであった。

色々問題は起きてはいるが火星は戦争への準備を進めていた。


―――地球 連合政府の一室―――


「これで火星の問題が解決しますな」

「ああ、独立を叫ぶ者もいなくなり地球は安泰だな」

「全くだ。自分達の立場を理解しない愚か者どもがいなくなるのはいい事だよ」

この部屋の盗聴をしていたクリムゾンSSのメンバーは憤りを感じていた。

事前にロバートから聞かされていたとはいえ、ここまで腐敗していたとは思わなかったからだ。

ロバートの直接指令を受けて現在の状況を聞かされた時も動揺したが正直な所心配はしていなかった。

しかし今は違う、このまま戦争が始まれば被害は深刻なものになると予測していた。

ビッグバリアがあると安心しているが防衛出来ても攻撃が出来なければ勝てない事を知らないのかと言いたかった。

軍も自分達の権力闘争に火星を使おうとしている事も我慢できなかった。

火星で生活する3000万人が死ぬ事を彼らは理解できないのだろうか?

多分、理解できないのだろう。

こんな杜撰な計画をしている時点でもう終わっているのだろう。

自分達の命運が尽きている事に気付かない愚かな者達を見ながらクリムゾンの活動に期待しようと考えていた。


「そうか、ご苦労だった」

報告を聞いたロバートは政治家達の腐敗ぶりを聞いて呆れていた。

「どうしますか?

 彼らに火星が生き残る事を教えてやりますか?」

秘書が選択肢の一つを提示するとロバートは話した。

「いや、その必要は無い。

 教えても無意味だよ、それにネメシスの一件もあるから火星がアレを排除するまでは黙っていよう。

 それに地球の大掃除を考える時が来たのかもしれんな」

「確かに必要かもしれません。

 このような状態で戦争が続くと民間の人材が失われるのは間違いありません。

 最悪は泥沼の状態で地球も木星も共倒れになります」

「火星の一人勝ちになるかもな。

 火星のテクノロジーは地球、木星の両方より上だからな。

 現在は人材が足りずに生き残る事を考えるのが精一杯だが時間を作る事が出来れば100%勝てるだろうな。

 アクアが現在、火星にクリムゾンの生きる為の布石を作っているがこちらも援助を考えるべきかな」

「資料を見ましたが火星が開発中の機動兵器は現在の地球の機動兵器を遥かに上回ります。

 開発中の戦艦も地球とは一線を画した武装が積まれています。

 正直アクア様の分析されたレポートを見た時は声が出ませんでした」

秘書の声にロバートは嬉しそうにしていた。

(孫馬鹿ですか?、困ったものですね)

声には出さなかったが秘書はロバートの様子を見てそう感じていた。

「技術者達の選抜は出来たか?」

秘書はその声に気付いて慌てずに答えた。

「完了しました。

 一応アクア様の言う通りにした為か、技術者達にも不満は無いみたいです。

 経費は掛かりますが後の事を考えると無駄のない効果的なやり方です」

「クリムゾンが木星との窓口になると思うので通信記録から木星の指導者達の性格分析を出来るようにしておくぞ。

 どうも殲滅戦を行うような者達だからな、思想に問題があるのなら気をつけないと」

ロバートの指示に秘書は背筋に冷たい汗が流れる事に気付いた。

この事が事実ならこの戦争での被害は深刻なものになると予測できる。

だがクリムゾンが地球側のキャスティングボードを握れば被害を最小にする事も可能かもしれない。

「スタッフを集めて分析を開始しますが会長はこの戦争を長引かせるお積もりですか?

 それとも……」

秘書の問いかけにロバートは考えてから答えた。

「状況次第だな、火星の独立を優先して火星との関係を有利に進めながら、

 連合政府の改革をしなければならないと考えているが、

 木星の行動次第では長期化の計画も立てないと危険だな。

 まだ戦争は始まってはいないが木星との交渉は決裂の方向で進んでいるみたいだな」

「はい、ネルガルが暗躍しているみたいです。

 木星の分析も出来ていないのに何を考えているのか分かりません。

 会社の意思統一が出来ずに分裂し、行動目的も錯綜しているみたいです」

SSからの報告を伝えるとロバートは訊ねた。

「現在は会長は息子が継いでいたな。

 どうやら部下に舐められているみたいだな」

「そのようです。

 また父親の残した負の遺産の後始末に躍起になっています。

 表にこそ出てはいませんが相当深刻な様子です」

「わしも気をつけんとな。

 次の代に面倒事を遺さんようにしないと」

クリムゾンの未来を考えるロバートに秘書も問題点をリストアップしていった。

表面化こそしてはいないが次期後継者の問題を含めて急いで解決しなければならない問題が山積みだった。

「優先順位を決めて一つずつ解決して行きましょうか?

 幸いネルガルみたいな状況にはなっていないので混乱する事も多くはないでしょう」

「そうだな、三年から五年を目処に修正していくか?」

秘書の意見を聞いてロバートは仕事を再開した。

一歩ずつ進む為に……。


―――木連作戦会議室―――


「そうか、ご苦労だった」

報告を聞いた男は残念そうに話していたが内心では喜んでいた。

(これで大義名分は出来たな。

 私の計画を進める事も出来そうだ)

湧き上がる喜びを見せずに男は全員に宣言した。

「諸君!我々の願いは叶わなかった!

 地球は我々の存在を否定するだけではなく、遺跡を渡すように脅してきた!」

男は一息を入れると続けた。

「もはや我々は地球とは完全に袂を分かち、独自の行動を取ろうじゃないか!

 我々は生き残る為に戦うのだ!

 正義は我々の下にある!

 次の交渉で地球がふざけた提案を出すのなら実力を見せようじゃないか!」

男の宣言を聞いた者達は次々と立ち上がり、正義を口にして叫んでいた。

「閣下!いよいよ開戦ですね!」

「俺達の正義を地球に見せてやりましょう!」

部下達の声を聞いた男は諌めるように話した。

「まだ戦争をするとは言ってないぞ!

 次の交渉が決裂すれば始めるが、首尾よくいけば開戦はしないぞ!」

「しかし、あのような要求は飲めません。

 我々に死ねと言っているようなものです」

部下の叫びが部屋に響くと次々と開戦やむなしと叫んでいく。

男は部下達を諌めながら自分の計画が進んでいく事を喜んでいた。

木連は遂に戦争へと足を踏み出した。

それが何を意味するのかも理解せずに……。


―――ネルガル会長室―――


「……エリナ君、本当なんだね。その件は」

アカツキは普段と違う真剣な表情でエリナに聞くとエリナも真面目に伝えた。

「……ええ、冗談ではなく事実です会長」

「そうか、戦争が始まるんだね。100年前の亡霊によって」

「ええ、ネルガルが片棒を担いだ事になるからその高官と重役は処理したわ」

エリナの報告をを聞いたアカツキは苦笑していた。

「……やられたな、クリムゾン襲撃はこれを隠す為か。

 悪あがきにも程があるな。

 この事はプロスくんは知ってるのかい」

「いえ、ネルガルの癒着が表に出そうだから処理するように言っといたわ」

プロスが反対する事を知っていたエリナは気付かれないように手を打っていた。

「そう、それでいいよエリナ君。

 プロス君は怒るだろうが……これはチャンスだからね」

「そうね、ボソンジャンプと相転移エンジンを含む技術の独占が可能だわ」

「ならしょうがないな。

 火星には悪いけど僕達にもどうしようもないしね」

「フレサンジュ博士を失うのは痛いけど今からじゃ間に合わないし無理ね」

「とりあえず僕達の船が完成するまで生き残ってくれるといいんだが」

「ええ、この船ができれば軍のシェアも独占できるし元は十分とれるわよ」

「次の交渉で失敗すれば戦争が始まるのかぁ。

 これが上手くいけばクリムゾンも手が出せないだろうな」

楽しそうに話すアカツキにエリナも笑って話していた。

「これでネルガルはトップに躍り出るわ。

 地球もこの件に関しては知られたくないし、交渉は最初から潰れるように仕組んでいたみたいね」

「では準備を始めようか。

 ネルガルがトップに君臨する為に」

彼等は自分達のした事を理解していなかった。

どれだけの血が流れるのかを知らなかった。

命の重さを完全に理解していなかった。

やがて彼等は理解する。

どれだけの負債を払うのか。

だがその時には遅いと言う事を……。


―――火星 地球軍施設―――


「アンタも暇なのね。

 こんなとこに遊びに来るようじゃおしまいよ」

「じゃあお前も終わっているんだな」

士官の皮肉に青年は皮肉で応酬すると二人は笑っていた。

側にいた子供はオロオロとしていたが男が頭を撫でると目を細めて安心していた。

「アンタの言う通りきな臭くなってきたわ。

 出来るなら火星から離れなさいよ……アクアちゃんを守るのはアンタしかいないんだからね」

「随分変わったもんだな、初めて会った時は最低な人間だったんだが」

「あの子のせいで馬鹿に戻ったのよ。

 火星はいいわね、ここなら自由に生きていけそうよ」

穏やかに火星の光景を見ていた男に子供は尋ねる。

「ムネタケのおじさんはどうするの。

 火星は危ないんでしょう」

「クオーツには少し難しいけどアタシは軍人だから逃げるのは最後になるわね。

 セレスちゃんとラピスちゃんを地球に行かせてアクアちゃんと一緒に守ってやんなさいよ、クロノ」

「俺達は火星でしか生きられんよ。

 地球に戻れば実験体にされるからな。

 一生逃げ続けるのは無理なんだよ、だからもし死ぬなら逃げずに火星で死ぬ事にするよ」

クロノはムネタケに自分達の状況を話すとそれ以上はこの事には触れなかった。

「酷いものね」

一言ムネタケは呟くとそれ以上は話さず風景を見ていた。

しばらくしてクロノがムネタケに警告した。

「気をつけろよ。

 お前を含む士官全員が罠に嵌められたような気がするぞ。

 何かとんでもない事が火星で起きるかもしれん」

「もう遅いわ。

 上が権力闘争しているみたいよ。

 まともな軍人は中枢には少なくなったわ。

 残っているのは権力を持って甘い汁を吸おうとしている馬鹿達だけよ」

「アクアが言ってたな。

 諦めたら終わりだと、お前は諦めるのか?」

「その心算だったんだけど、馬鹿の一人に戻ったからね。

 最後まで足掻いてやるわよ」

自嘲めいた顔で前を見ていたムネタケはクロノに話す。

「あの子を守ってやんなさいよ。

 アタシと違って覚悟を決めているけど死ぬには惜しいわね」

「大丈夫だ、命に代えても家族は守ってみせるさ」

「そうね、アンタは強いから大丈夫ね」

部下の声を聞いて戻ろうとするムネタケはクロノに話す。

「いい、最後まで守るのよ。

 家族を守るのがアンタの役目なんだからね」

そう言い残してムネタケは施設へと入っていった。

「お父さん、僕もみんなを守るから」

クオーツがクロノに話すとクロノは抱き上げて、

「まだ早いな、お前はまだこれから様々な事を知って、身体を鍛える事から始めないとな。

 誰かを守るには自分と守る人の命を背負う事なんだよ。

 今のお前に出来る事は生き残る事を考える事だな」

優しく諭すように話していく。

クオーツはクロノの話す意味を考えていた。

そこへレオンが車で来ると二人は車に乗り込んだ。

「どうやら一部の連中は気付いているみたいだな。

 だが何が起こるかまでは分からんみたいだ」

「そうか、レオンは俺のしている事は無駄だと思うか?」

「分からんが無駄ではないと思うぞ。

 地球の軍の改革する事は火星にとっては悪い事じゃないからな」

レオンが自分の考えを話すとクロノも納得する事にした。

「逆行なんてするとな。

 自分の無力さを知らされる事ばかりだよ。

 どんなに手を伸ばしても届かない事ばかりで苦しいだけだな」

クロノは疲れたようにレオンに話していた。

膝の上のクオーツは疲れたのか眠っていた。

「それでも俺は感謝するぜ。

 このまま座して死ぬだけの未来を変える事が出来るんだ。

 クー坊だってお前がいたから救えたんだ。

 後の事は歴史研究家にでも評価してもらいな。

 今を全力で駆け抜ける事が俺達の仕事なのさ」

レオンがクロノに告げると、

「そうだな、今を生き残ってからだな。

 文句はそれから聞く事にするしかないか」

「そういうこった。

 だいたいテメエは美人の奥さんがいて可愛い子供達がいるんだ。

 文句を言ってんじゃねえよ」

呆れるようにレオンがクロノに告げた。

車は走り続けていく。

見えない未来を切り開くように進んで行く。

第一次火星会戦まで残り31日。

生き残るための準備は進行していく……。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

更生版ムネタケが出ましたね。
キャラ増やしても大丈夫なのかと不安になってきました。

では次回でお会いしましょう。





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