未来を知っているから無理はしたくない

でも救える可能性があれば助けたいと思う

傲慢な考えかもしれないけど

そんな生き方を選んだ人と一緒に生きて行きたいと願う

家族と共に



僕たちの独立戦争  第十八話
著 EFF


「よぉ、アクアちゃんどうしたんだ?」

格納庫に来たアクアにウリバタケが尋ねる。

「すいませんがエステを空戦フレーム変更して欲しいんです。

 多分、艦長達が戻る前に海底に存在するチューリップが起動すると思うので」

アクアがウリバタケに事情を伝えるとウリバタケは整備班に告げる。

「よーしフレーム変更するぞ!」

「「「「「おおっす」」」」」

「すいません、軍がこんな場所で交渉するなんて言わなければ良かったんですが」

「アクアちゃんのせいじゃねえんだ。気にするなよ。

 それよりエステなんだが火星の機動兵器と比べてどうなんだ?」

技術屋としての血が騒ぐのか、ウリバタケはアクアに聞いてきた。

「悪くはないですが、火星の機体のブレードと比べる事自体が間違いですね」

「そうなのか?」

「ええ、IFSがあれば初心者でも動かせる機体がエステバリスですが、

 ブレードストライカーは訓練した者しか操縦できない完全な軍用機ですよ」

「ほう、一度分解してみてえな。どんな機体なんだ」

「高機動形態と陸戦型の二つに形体に変形する火星宇宙軍の最初の機体ですね。

 火星は人手が少ないので陸軍とかに分別したりは出来ないので」

宇宙軍だけで全てを賄う必要があるとアクアが告げている。

変形機構はその為にあるんだなとウリバタケは推察している。

一機で空戦と陸戦が出来る機体なら無理も出来るのだろう。

(その分、整備が大変そうだがな)

「変形か……まさに男のロマンがあるな。そうは思わないか?博士」

二人の会話にダイゴウジがいきなり割り込んできた。

「なあヤマダよ、その博士はなんだ?」

「ダイゴウジ・ガイと呼んでくれ、博士。

 ヤマダ・ジロウとは仮の名だ。

 魂の名のダイゴウジ・ガイと呼んでくれ」

「……ウリバタケさん、ニックネームだと思っていて下さい。

 ところでダイゴウジさんはどうして格納庫に来たんですか?」

訳がわからんという顔のウリバタケにアクアがフォローを入れている。

「チューリップがあると聞いて戦闘になると思ってきたんですよ。

 遂に俺の出番が来ると思ってきたら二人が火星の機動兵器の話をしてたんで」

「オメエの出番はねえよ。その足で何する気だ」

ギブスの足を見ながらウリバタケは手を振って帰れと告げている。

「うっ、だがナデシコにはパイロットは俺しかいないぞ!」

焦って話すダイゴウジにウリバタケは、

「馬鹿言ってんじゃねえよ、ここにいるだろうが美人のエースが」

アクアのほうに鼻を伸ばして見ていた。

整備班のメンバーもその言葉に何度も頷いていた。

「し、しかし!」

「しかしもかかしもねえんだよ!

 足を直してからきな。自殺志願者はいらんぞ。

 俺は棺桶にする為に整備をしてる訳じゃねえからな」

その言葉にダイゴウジも一瞬反論できなかった。

「まあダイゴウジさんの出番はこれからですよ。

 切り札は最後に出すものですよ」

「それもそうだな……いいでしょう、今回は譲りましょう」

「ではブリッジで待機して下さいね。

 ダイゴウジさんの出番はいずれ来ますからその時はエースの実力を見せてもらいますね」

「おう、その時は存分に見て下さい」

ダイゴウジはそう言うとブリッジに戻っていった。

「……ヤマダの扱い方を分かっているみたいだな」

「そうですね。ああいうタイプはこちらの意見など聞きませんから向こうの土俵で動かさないと」

「なるほどな。じゃあダイゴウジと言っているのもその為か?」

「ええ、いちいち名前を呼ぶ度に叫ばれるのは嫌ですから」

「そうか、そう考えると問題はないか。

 よーし整備班もこれからはそう呼ぶ事にするぞ!」

こうしてヤマダはダイゴウジと呼ばれる事で整備班との関係は良好なものになった。

「そんじゃチェックしてくれ」

「ええ」

空戦フレームに乗せ変えたエステにアクアは乗り込んでチェックを始めた時にムネタケより連絡が入った。

『悪いけど出撃してちょうだい。

 予想通り動き出したわ、艦長が戻るまで囮をしてくれないかしら』

「分かりました、連合軍の方はどうなりました」

『連絡して後退するように指示を出したわ』

「ではマニュアルで発進しますね」

『ええ、こっちも緊急起動させるからそれまで任せるわ』

「おーしマニュアルで出すぞ!」

ウリバタケの指示でアクアの空戦フレームはマニュアル発進で出撃した。


アクアが発進してチューリップに攻撃をしながら連合軍の戦艦から引き離し始めると、

ムネタケはジュンに向かって指示を出した。

「副長!あんたの出番よ。この艦の指示を出してみなさい」

「は、はいっ!全艦緊急起動を行います。

 起動後、射線に連合軍の艦艇が入らない位置まで移動して、

 ミサイルで敵フィールドを減衰してから主砲で攻撃して撃破します。

 ホシノさんは位置を割り出してミナトさんにポイントを指示して下さい」

「わかりました、ミナトさんこれを」

ルリはすぐにポイントを算出するとミナトに送った。

「オッケーまかしてね」

ミナトはナデシコをそのポイントに移動させると、

ジュンの指示でミサイルをを発射してフィールドを減衰させてからグラビティーブラストで撃沈した。

ユリカ達は攻撃が始まると同時に艦載機でナデシコに戻ってきた。
 
こうしてナデシコはマスターキーを再び差しこんで再起動すると連合軍を振り払って移動を開始した。

……前史では沈んだクロッカスとパンジーを助けて。


「どうしてマスターキー無しで動けたんですか?」

ユリカが不思議そうに話すとプロスが説明をした。

「アクアさんが先の戦闘での問題を解決する為に非常用の機動システムを用意していたんですよ」

「そうなんですか〜、ご苦労さまでした」

脳天気なユリカの声にムネタケは辛辣な意見を述べる。

「何考えてるのよ!あんたがした事の意味を理解してるの。

 事前にアクアちゃんが海底にチューリップがある事を説明したでしょう。

 それなのにマスターキーを抜くなんて何考えているのよ!

 クルーの命を預かる艦長失格よ、反省しなさいよね!

 プロスももう少しマシな人間を艦長にしなさいよ。このままじゃ火星に着くのも難しいわよ」

「まあ、結果的には問題がなかったのでこれ以上は……」

「そういう問題じゃないのよ。上手く行かなかったらどうする気なの。

 結果も重要だけど、その過程のほうも同じように重要なのよ」

フォローしようとするプロスの意見を一蹴して、ムネタケはユリカを叱る。

「うう、反省しますからそんなに怒らないで下さいよ〜」

ユリカが泣きそうな声で話すとムネタケは仕方なさそうにして訊ねた。

「……それで交渉は上手く行ったの、艦長」

「えっと上手く行きましたよね、プロスさん」

「ええ、問題なくいきましたよ」

プロスの声にクルーが安心したがムネタケはユリカに聞いた。

「あんたも同席してたんでしょう。どうしてプロスに聞くのよ」

「えっと私はお父様と一緒にいたんで……」

尻すぼみに説明するユリカにムネタケは呆れかえっていた。

これにはクルーもさすがにフォローのしようがなかった。

《ルリちゃんはあんな大人にならないように気をつけてね》

《私はあそこまでいい加減な人間じゃありませんよ》

《そうだよ〜ルリはオモイカネの大事な友達ですから大丈夫ですよ》

《そうですね。時間があればルリちゃんには色々教えてあげるわね。

 まずはいい加減な大人を見ましたから一つ賢くなりましたね》

《……はい》

《大事な事は自分がどんな大人になるのかを考える事ですよ》

《どんな大人ですか?》

《そう、これからルリちゃんは社会に出るのよ。

 そこには大勢の大人がいるの、その人達と付き合いながら自分の未来を作り上げるの。

 本当はもっと自由に生きてから社会に出て欲しかったわ》

オモイカネを通じて話すアクアはルリに色々な事を教えようとしていた。

ルリもまたムネタケの言った事を考えてアクアから様々な事を教わろうと考えていた。

《自分の未来のビジョンを持たないと無責任な人間になる事が多いのよ。

 人はね、目標が大きければ大きいほどいい大人になれるわ》

《ビジョンですか?》

《ルリちゃんはあの馬鹿研究者に一般常識とか教えてもらったの》

《いえ、来る日も来る日も実験で外には殆ど出ていません》

《はあ、教える事が山ほどあるわね》

アクアが溜め息を吐いて話すと、

《一般常識でしたら資料を調べれば問題はありませんが》

《ダメよ、実際に見て知る事に意味があるのよ。

 例えば食事とかどうしているの?》

《ハンバーガーとかファーストフードと言われる物ですが栄養はサプリメントできちんと補給していますが》

《………………》

《おかしいですか?、栄養はきちんと摂取していますが》

《一つ聞くわね?》

《はい》

《ミナトさんとメグミさんならどっちの姿の大人になりたい?》

アクアの質問にルリは二人を見て少し考えてから答える。

《とりあえず中間くらいではダメですか?》

《……そう、ならきちんと食事はしないとダメよ》

《していますが》

《してないわよ。自分の体の事を考えているの?》

《どういう意味ですか?》

《体内にあるナノマシンの量は普通のIFSとは違うのよ。通常の人と同じ様に食べても足りないの》

《そうなんですか?、初めて聞きましたが》

《そのままだと胸はペッタンコよ。それでもいいの?》

《それは……》

《それに食事の意味も理解してないわね。

 人間はね、美味しい食事をする事で心が豊かになるのよ。

 こんな事は誰も教えてないでしょう》

《……初めて聞きました》

《だから問題なのよ。家族がいないから仲良く一緒に食べたりした事ないから世界が狭くなっていくの》

《世界が狭くなるですか?》

《人の世界はね。人が触れ合う事で世界が大きくなっていくの。

 人は一人では生きていけない動物なのよ。その為に社会があるの。

 出会いと別れを繰り返して人は成長していくのよ。つまり世界が大きい人ほど沢山の友人がいるの。

 今のルリちゃんは友人はオモイカネと私くらいでしょう。

 火星にいるラピスやセレス達は沢山とまではいかないけど友人がいるの》

《だからあんなふうに笑えるのですか?》

《ムネタケさんから写真でも見せてもらったの?》

《……はい》

《そう、羨ましいかな?》

《わかりませんが、何故か気にかかります》

《それは多分、嫉妬かもね。ルリちゃんはあの馬鹿達と一緒なのにラピス達は違うから嫌だったのかも》

《………………》

《でもね、さっき話したけどルリちゃんは命の危険性はなかったけど、

 あの子達はもう少しで殺されていたのよ。

 モルモット扱いで殺された子は他にも大勢いたのよ》

《……酷い話ですね》

《本当はルリちゃんも助けたかったのよ。

 でもルリちゃんは公式の存在で迂闊に手が出せなくてね》

自分とラピス達の境遇を聞かされてルリはそれ以上は言えなかった。

「プロスさん、いいですか?」

ムネタケに説教を受けているユリカを見ていたプロスはアクアの声に振り向いた。

「なんでしょうか?」

「火星に着くまでの期間ですが、ルリちゃんが良ければ一緒に住んでもいいですか?」

プロスはアクアの意見にどう答えようか迷っていた。

ルリの情操教育を考えると同じ境遇に近いアクアは適任だが、

アクアの立場からルリにネルガルの暗黒面を聞かされると不味いと思っていたのだ。

「私はいいですよ。アクアさんには教えて欲しい事が沢山ありますから」

ルリが告げるとプロスは反対するのは不味いと判断して話した。

「……ではその様に手配しますのでよろしいですか?」

「「はい」」

こうしてルリとアクアは一緒に生活を始める事になった。

この事がルリの未来にどんな影響を与えるかは誰も知らない。


「しかし軍も何を考えていたんでしょうね、テンカワさん」

緊急時の機動で厨房の火を落としていたのを点け直していたアキトにテラサキ・サユリが聞いてきた。

「俺にも判らないけど、この艦は大丈夫なのか?」

「確かにそうですね。なんでマスターキーを外したのか、理解できませんよ」

「ホウメイさんはどう思います。艦長の行動は?」

「さあ、とりあえずは軍に逆らわない様にしたんじゃないかな。

 なんせまだ試運転の最中だからね」

肩を竦めて答えるホウメイにアキトとサユリは納得していた。

「確かに変な形の船っすから」

「なんか大丈夫なのか、不安ですね」

「でも火星に行けるんなら文句は言えないか」

「テンカワさんは火星に行く事に賛成なんですか?」

「アキトでいいよ、サユリちゃん。

 俺は火星の住民でね、プロスさんがこの艦が火星に行くと教えてくれたから乗ったんだよ」

「そうなんですか。でも火星は独立するって宣言して地球とは喧嘩していますよ」

「でも火星の状況を考えると地球のした事は酷いと思うんだよ。

 火星の住民を見捨てたからね」

「え、それって初めて聞いたんですけど」

アキトがサユリに話した事は他の四人の少女も知らない事だったので聞いてきた。

「うん、アクアさんがね。教えてくれたんだよ」

「アクアさんって誰ですか?」

サユリがアキトに尋ねるとミズハラ・ジュンコが話し出した。

「それってブリッジのサブオペレーターの人ですね。

 ナデシコが発進する時に……エステバリスだったかな、それで囮をしてくれた人でしょう。

 この艦の機動兵器って凄く綺麗に動くんですね〜」

「ホントだよね〜。あんなに綺麗に動くなんて知らなかったよ。

 モニターで見ていたけど踊っているみたいだったね」

サトウ・ミカコがうっとりとした表情で話すと、

「ミカコのいう通りよね。

 じゃあアキトさんもIFSがあるからあんなふうに動かせるんですね」

タナカ・ハルミが楽しそうに話すとアキトは慌てて首を振って話した。

「無理、絶対無理だよ。

 この艦に乗った時にもう一人のパイロットの操縦を見たけど全然違ったよ。

 あれはアクアさんだから出来るんだよ。

 俺には出来ないよ」

「おや、そうなのかい。

 じゃあアクアって子は軍人なのかい」

「なんでも操縦訓練を受けたパイロットみたいです」

「そうなのかい、じゃあ火星の軍に所属しているのかな」

「あ、そ、そうっすね。じゃあ火星の事も知っているんだ」

「それはどうかな。今ここに居る以上火星の状況は分からないだろう。

 まあ、それよりおしゃべりはここまでだよ。

 クルーのみんなの食事の準備をしないとね」

ホウメイが告げると全員が食堂の仕事を再開した。

(でもアクアさんって何者なんだろうな?

 パイロットも出来るし、オペレーターも出来たからな〜)

アキトはホウメイの仕事のサポートをしながらアクアの事を考えていた。

サユリはそんなアキトを視界に入れながら仕事をしていると四人の少女は話し合っていた。

「もしかしてサユリってテンカワさんの事を……」

ウエムラ・エリが楽しそうに話すと、

「エリもそう思う」

「ジュンコもそう思うんだ。私も怪しいと感じているのよ」

ハルミがアキトの方を見て話すとミカコが話す。

「でもテンカワさんは全然気付いてないと思うの」

「そこが心配よね。鈍感なのかしら」

「エリもそう感じたの。私もね、サユリが苦労しそうな気がしているのよ」

ジュンコがエリに話すと全員の意見が一致した。

「まさかとは思うけど天然なのかな」

「だとすると大変だよね〜サユリも」

ジュンコとエリが話していると、

「そこ、手を動かすんだよ!」

とホウメイに声をかけられて慌てて動く四人を見ながらホウメイは苦笑していた。

アキトはナデシコ食堂に馴染んでいた。


―――連合軍 司令官執務室―――


「おのれムネタケめ、私に逆らう心算か?」

ナデシコの拿捕に失敗した司令官はムネタケの行動に怒っていた。

「そうでもないですよ。この報告書を読めば、ムネタケの行動は悪くはないですね。

 この艦を一隻奪っても意味がないですな」

手元にあった報告書を見ながら参謀は告げていた。

「だがな参謀」

「お怒りは分かりますが一隻では勝てないのも事実です。

 この際、度量の大きさを見せてネルガルに貸しを作って……」

参謀が言わんとする事を理解して司令官も笑みを浮かべていた。

「そうだな、ネルガルに貸しを作って……。

 後は思うがままに……」

「これだから戦争はやめられませんな」

参謀が話すと二人は笑っていた。

「では連合政府との交渉の場に行こうか?」

「ええ、ネルガルに貸しを作っておきましょうか?」

二人は都合のいい事を話しながら席を立って移動した。

連合政府とナデシコの会見を行う為に。


―――ナデシコ ブリッジ―――


「で、どうするの艦長?」

「何がですか、副提督?」

ユリカはムネタケの質問の意味が分からずに訊ねた。

「連合政府とどう交渉するのかを聞いておられるんですよ、副提督は」

仕方なくアクアが助け舟を出すとユリカは、

「そうですね、ではちょっと失礼しますね。

 準備をしてきますので」

そう話すとユリカはブリッジから出て行った。

「プロス……アンタは何を基準に考えて艦長を選んだの?

 本気で火星に行くつもりなの?」

呆れた様子でプロスに訊ねるムネタケにプロスも返答に困っていた。

「一応優秀な方を選考したんですが……」

「あれでもユリカは士官学校主席で卒業したんですよ、副提督」

「そうなの、まさかと思うけどミスマル提督の娘だから教官も手抜きしたんじゃないでしょうね」

「そ、そんな事はありませんよ」

ジュンが慌てて答えるとムネタケは訊ねた。

「じゃあ艦長はこの後の航海をどう考えているのか分かる?

 アタシには何も考えていないと思うけど」

「そ、そんな事はないですよ。

 ユリカもきちんと考えていますよ」

「アクアちゃんはこの後、貴方が艦長だったらどう行動するのか教えてちょうだい」

ムネタケの質問にアクアは少し考えてから答えた。

「とりあえず連合政府と交渉してビッグバリアを通過しますよ。

 その後、宇宙空間で相転移エンジンの全力運転のテストを行って問題があれば、

 サツキミドリで問題点を改善してから火星に向かいますよ。

 多分、サツキミドリに到着するまでに戦闘が一度か二度あると思っています。

 火星に行くまでは散発的な戦闘があって、火星に到着する直前で本格的な戦闘があると予測しています」

淀みなく答えるアクアにムネタケは頷くと副長に尋ねた。

「せめてこのくらいの事は考えているでしょうね。

 まあ、アクアちゃんは火星宇宙軍の軍人だからこのくらいは当然かもしれないけど、

 士官学校主席の艦長もこのくらいは考えているんでしょうね」

「どうして副提督はそんな事を知っているんですか?」

「聞いたに決まってんでしょうが。

 アンタも副長なら艦の乗員名簿を見たんでしょう。

 彼女ともう一人は追加人員なのよ、確認するのは当然じゃないの。

 こんな事は艦長と副長の仕事なのよ」

「す、すいません」

呆れるように話すムネタケにジュンは謝っていた。

「ではアクアさんは拘束するべきですか?」

プロスがムネタケに聞くとゴートが動き出そうとしていた。

「やめときなさいよ。火星に着いた時に彼女が火星の政府との繋ぎをしてくれるのよ。

 問答無用で攻撃されたいの」

「ですが火星にそれ程の力がありますか?」

「あるわよ……アクアちゃん。

 アタシが火星を脱出する時に助けくれた機動兵器は火星の物よね。

 たった一機で戦艦を次々と沈めていたけど、あれって……クロノなんでしょう、操縦してたの」

プロスはムネタケの言葉に驚いて声が出なかったが、

「やっぱり分かりましたか?」

「そりゃあ分かるわよ。アタシを馬鹿呼ばわりするのはアイツだけじゃないの」

楽しそうに話すアクアにムネタケは苦笑していた。

「では火星にはナデシコを沈める事も可能だと言うんですか?」

「さあ、どうでしょうか?」

楽しそうに話すアクアにゴートがアクアを捕らえようと動くとアクアの姿が消えた。

「むっ」

「ダメですよ、ゴートさん。女性に襲い掛かるのは」

一瞬でゴートの背後に廻って首筋にナイフを添えて注意するアクアにプロスは戦慄を感じていた。

「クロノほどではありませんが、これでも戦闘用に改造されているんですよ……ネルガルに。

 あの頃は痛くて苦して何度も死にかけましたが、今は感謝していますよ。

 こうして復讐の刃を突きつける事も出来ますから」

静かに語るアクアにブリッジのメンバーは恐怖を感じていた。

「まあ、冗談はここまでにしましょうか。

 見ての通り反乱する気なら、あんな面倒な事はしませんよ。

 不安かもしれませんが信じて下さいね」

ニッコリと微笑むアクアにプロスは不安を押し殺して話した。

「そうですな、火星との窓口は必要ですので拘束はしません」

「ですが艦長の言動には気をつけて下さい。

 ただでさえネルガルは火星から恨まれているので脳天気な言動をされるとフォローできませんので」

「気をつけておきます」

その時、ドアが開いてユリカが入ってきた。

「お待たせしました〜。あれ〜どうかしたんですか?」

緊張感が漂うブリッジの様子に気付かずに暢気に話しかけるユリカにブリッジのクルーは疲れていた。

「その格好はなんなのかしらね、艦長」

苛立ちを抑えながらムネタケは振袖姿のユリカに訊ねるとユリカは笑って答えた。

「視覚効果を考えてみたんですが、ダメですか?」

「そう、艦長はこの後、ナデシコをどうする気なの。

 教えて欲しいんだけど」

呆れた様子で聞くムネタケに、

「えっ、火星に行くんですよ」

「だから火星に行くまでの敵の行動の予測とナデシコの対応を聞きたいのよ」

「そんなの決まっているじゃないですか〜。

 ナデシコは最強の艦なんですから大丈夫ですよ。

 ユリカにお任せ下さい、副提督」

ムネタケが怒り出そうとした時にアクアがムネタケにスタンガンを渡していた。

(万が一の時はコレを使えって事ね。

 はあ〜仕方ないわね)

プロスを見るとプロスも頷いていた。

ムネタケの苦労を知るクルーも同情の視線を向けていた。


《アクアさん、さっきのは本当の事ですか?》

《実験の事?》

《はい》

《私はそれ程ひどくはなかったけど、クロノは酷かったわ》

《そうですか》

《一時期は五感がダメになってね、私とリンクする事で無事だったの》

《リンクとは何ですか?》

《詳しくは言わないけど、感覚を共有するの》

《それって》

《そうよ、ルリちゃんの想像通りよ。相手の心すら分かる事になるわね》

《そんな危険な事をしたんですか?》

《ええ、生きて欲しかったから》

《……でも》

《一人で生きていくのは辛いから》

《……………》

この言葉だけは嘘ではないと言えるとアクアは思っていた。

クロノが私を救ってくれた事は事実だ、そしてクロノがいるから頑張れると思う。

地位も権力も必要ないとアクアは思っている。

クロノと家族と一緒に生きていく事が大事なんだと思っていた。

《いつかね、ルリちゃんにも分かる日が来るわ》

《……そうでしょうか?》

《ええ、ルリちゃんにも家族はいるもの》

《私には……いませんよ》

《私じゃ……ダメかしら?》

《それは……》

《私も一人だったわ、でもクロノがいてラピスにセレス、クオーツが増えたわ。

 血は繋がっていないけど、私達は家族よ。

 これだけは他の誰にも否定などさせないわ》

《でも……》

《今すぐに答える事はしなくていいの。

 火星に着くまで一緒に暮らして感じて欲しいの……家族の温もりを》

《……温もりですか?》

《ええ……これは自分を時に強くして時には弱くするものかも知れないけど大事なものよ。

 これはね、一人では感じる事が出来ないの。

 喜びも悲しみも分け合う事で知る事が出来るのよ。

 こんな事は誰も教えていないでしょう。

 だから知って欲しいの、ルリちゃんが人形ではなく人として生きて欲しいから》

《私にはよく分かりません》

《そうよ、ルリちゃんはこれから知っていくからね。

 ルリちゃんが不要だと思えば捨ててもいいわ。

 だけど捨てたくないと思えば、人として生きていけるわ》

《それも私が決める事なのですか?》

《そうね、人の生き方を指図する事は誰にも出来ないわ》

《では、これからも教えて下さいね……アクアさん》

《ええ、ルリちゃんの知りたい事で私が知っている事は全部教えてあげるわね》

《はい》

二人が会話を終える頃にユリカがメグミに指示を出した。

「では連合政府に通信をお願いね、メグミちゃん」

「いいんですか?」

メグミはユリカではなくムネタケを見ると複雑な表情で頷いていた。

その顔にはこれから起きる事に全責任を背負った苦悩が表れていた。

「では通信を繋げますね」

スクリーンに映る映像には連合議会の様子が見えていた。

「あけまして、おめでとうございまーす。

 私がナデシコ艦長のミスマル・ユリカです」

議会の面々はユリカの服装に呆然としていたが、一人が訊ねてきた。

『どういう心算かな、その格好は?

 我々を馬鹿にしているのかね』

「いえ、お正月ですので皆さんに視覚効果を兼ねてお見せしているのですが、お気に召しませんか?」

平然と微笑んで答えるユリカにクルーも議会の連中も呆れていた。

『ふざけるなよ!

 自分が何を言っているのか、理解しているのかね』

「当然じゃないですか、実は<バチッ、バチン>ん、うう〜ん」

「ユ、ユリカッ!」

ユリカが話そうとした時、ムネタケがスタンガンでユリカを黙らせて議会のメンバーに話し出した。

「申し訳ありません。

 私は連合宇宙軍中佐、ムネタケ・サダアキと申します。

 この艦のオブザーバーとして乗艦している者です。

 艦長の無礼な行動にお詫びを申し上げます」

背後でジュンがユリカを介抱しながらブリッジを出て行く様子を見て、激怒しかけた議員も落ち着き始めた。

「無礼を承知でナデシコの行動の説明をしてもよろしいですか?」

真剣な様子のムネタケを見て、議員も落ち着いて対応をしてきた。

『話したまえ、ムネタケ中佐』

「はっ、ではご説明させていただきます。

 まずナデシコは試験艦として作られた面があります。

 このまま使うのでなく機動データーを採取する事でより強力な戦艦を作る事が出来ます。

 それに合わせて火星にはネルガルの施設があり、そこより資料を回収する事で更なる改良も考えています。

 また連合宇宙軍としては火星までの航路の調査も行う事が目的です。

 そして木星と火星の戦力を知る為の威力偵察とお考え下さい」

ムネタケの理路整然とした意見に議会も納得していた。

『よろしい特例としてナデシコの火星行きを許可しよう』

「はっ、皆様のご厚意に感謝します」

『うむ、気をつけて行きたまえ』

そう言って通信は切れた。

「ご苦労さまでした、副提督」

アクアの労う声にムネタケは、

「コレ役に立ったわね。助かったわ、アクアちゃん」

「備えあれば憂いなしですね」

「ホント、何考えているのよ。

 まさかと思うけどナデシコ一隻で連合軍とドンパチする気なんじゃないわよね」

「いやいや、まさかそこまでする事はないでしょう」

「なっても大丈夫ですよ、プロスさん」

「どうしてですか?」

「連合軍が動き出せば、木星の無人兵器が反応して行動を開始しますよ。

 そうなったらナデシコに構っている暇などありませんよ。

 あとは第二次と第三次防衛ラインしか止める事が出来ませんよ。

 まあその時はナデシコが沈む事になりますね」

アクアの説明に不穏な言葉があったのでミナトが聞いてきた。

「どうして沈むの、アクアちゃん」

「デルフィニウムとミサイル攻撃にはナデシコがもちません。

 このディストーションフィールドも無敵ではありません、ミナトさん。

 防衛用の機動兵器がないので勝てませんね」

「えっとアクアさんがエステで出撃すれば大丈夫なんじゃないですか?」

「つまりデルフィニウムの一個小隊を一人で迎撃しろとメグミさんは言うんですね」

アクアのいう意味に気付いたメグミは慌てて謝った。

「す、すいません。アクアさんの言う通りですね。

 ちょっと考えが足りなかったです」

「いえ、気にしなくてもいいですよ。

 だから艦長の行動が理解できないのです。

 まさか私に難しい作戦を押し付けようとしたのかと思ったんですよ。

 ナデシコを危機的な状況にして私をパイロットにしようとしたのかな」

「あ〜多分違うわね。

 本気で視覚効果を考えていたんじゃないかな」

ミナトが話すとクルーもそれが真実だと思っていた。

こうしてナデシコは無事?にビッグバリアを通過してサツキミドリへと向かう事になった。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ムネタケが頑張っていますね〜。
よくよく考えると無理に戦う必要は無いんですよね。
という訳でこんなふうにしてしまいました。

では次回でお会いしましょう



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