どうやら歴史というものは変える事で問題ばかり増えるな

前史では助かる事のない者が今回は助かったようだ

家族が増える事は嬉しい事だが周囲に負担をかけるのは心苦しい

皆に迷惑をかける以上もっと頑張らないとな




僕たちの独立戦争  第三十二話
著 EFF


炎上する実験施設を背景にクロノとアクアは両手に子供達を抱えていた。

「資料はダッシュが保管していたな」

「ええ、それが何か?」

「もし子供達の遺伝子提供者が分かるなら、教えるべきかと思うんだよ」

『残念ですがその部分は消されています。

 おそらく研究者だけが知っていたはずです』

ダッシュの報告に二人は話し合う。

「失敗したかな」

「分かりませんね、こればかりは」

「そうだな」

子供達は不安そうに二人を見つめていたので、安心させるようにアクアは微笑んだ。

「大丈夫ですよ。これからは私達が家族として守りますから」

「そうだぞ。もう痛い思いなんてさせないからな」

その言葉に子供達は安心したのか、二人にしがみついて泣き出していた。

側で控えていたグエン達は安堵すると同時に、倫理観のない科学者達に怒りを感じていた。

(やりきれんな。いつの時代も泣くのは力のない子供達か)

「アクア様、後始末は我々に任せて下さい。

 今は子供達を火星に避難させる事を優先して下さい」

グエンの意見にアクアは話す。

「では監視を続けて下さい。

 万が一生き残った科学者がいるのなら任せます」

「了解しました。ネルガルのSSが到着次第撤退します」

「決して無理はしないで下さい。

 外道な科学者の為に皆さんの命を無駄にする事は許しませんよ」

「その点はご安心下さい。

 アクア様のお子様のお世話をするまでは死ぬ気はありませんので」

その言葉にアクアは顔を真っ赤にすると言う。

「グエンまでからかうのですか」

「いえ、そう先の話ではないと思ったので」

楽しそうに話すグエンに周囲の者も笑っていた。

「と、とにかく無理はいけませんよ」

「あんまりアクアをからかうな。

 もうしばらくは無理だぞ。する事が多くて大変なんだよ。

 なんせ独立したばかりで国家としての基盤作りに大忙しなんだ。

 花嫁の父親の立場になるのはまだ先の話だ」

フォローしたつもりなのか、それとも火に油を注いだのか分からんクロノの言葉だった。

「行きますよ、クロノ!」

アクアはそう話すとクロノの側に近づいていき、二人はジャンプした。

「確かにこれはいいものだな」

「隊長、あんまりアクア様をからかうのはいけませんよ」

「表情が豊かになられたから……ついな」

苦笑する部下にグエンは話すと部下達も笑っていた。

年相応に表情が変わるアクアを見るのが嬉しかったのだ。

「昔に戻られて良かったな」

部下の一人が呟くとグエンも良かったと思いながら指示を出していく。

部下達も慣れた様子で作業していく。

ネルガルのSSが到着した時には既に彼らの姿はなく、廃墟と化した研究所だけが残されていた。


―――ネルガル会長室―――


「失礼します、会長。

 やはりマシンチャイルドの実験施設だったみたいです」

会長室に入ったエリナはアカツキに報告した。

「誰の仕業か、分かるかい」

「難しいと言われました。

 痕跡が殆どないそうです」

「……彼らかな」

「その可能性が高いと思われます」

エリナの顔は悔しそうになっていたが、アカツキは落ち着いて話す。

「報復だろうね。彼らも本気でネルガルを攻撃する気なのかも知れない。

 エリナ君も遺書の準備だけはしておくように」

本気なのか、冗談なのかわからないアカツキの意見にエリナはどう答えるべきか迷っていた。

「まあ、いいさ。どうせ僕の指示に従わない連中の事なんてどうでもいいよ」

「ですがその場合は大変な事になります。

 彼らはどうやって火星から地球に来たのでしょうか?」

エリナは顔を顰めてアカツキに状況をそれとなく伝える。

「そうだね。……ちょっと問題だね」

その意味を知ったアカツキも渋い顔をしていく。

「……はい」

「とりあえず実験施設の封鎖と隠蔽の手配を。

 それから実験を黙認していた重役は処理して欲しい。

 これ以上彼らを刺激する気はない。

 また重役達にはきちんと説明しておいて欲しいな。

 彼らは本気で君達を殺すつもりかもしれないと」

「わかりました。そのように手配します」

不安な様子でアカツキの指示を聞いたエリナは退室していった。

彼女としてもこんな事態になる事を望んでいない。

彼らによって破壊された実験施設の報告を読んで状況を理解していた。

「生存者はゼロ。研究者は全員死亡……か」

暗闇から見えない刃がエリナの心臓に突き刺さるイメージだけが鮮明に浮かんでいた。

今更ながら自分がしている事に危険を感じるエリナであった。


―――エドワード邸―――


「で、この子達をどうするつもりなの」

ベッドで眠る子供達を見ながらシャロンは二人に聞く。

「とりあえず火星で戸籍を与えて俺達が育てる事にするが」

「そうですよ。問題でもありますか?」

「その事はいいけど、学校とかはどうするのよ。

 色々問題はあるけど友達は必要でしょう。

 家に閉じ込める気はないんでしょう。

 ガードの手配をしないと学校にも行けないわよ。

 クオーツ達も学校に行きたそうだし、一般常識を覚えさせるには外に出させて友人でも作らないと不味いわよ」

シャロンの問題提起に二人は考え込み始めた。

『火星でなら私が監視できますよ。

 人員の手配さえできれば、いつでも学校への編入は可能です。

 問題は私との通信教育で中学生以上の学力を既に持っている事になります。

 勉強する為に学校に行く筈が無意味なものと思われる可能性があります。

 授業など退屈なものになりますね』

ダッシュの報告に三人は頭を抱えていた。

「……なまじ優秀ってのも問題があるな」

「そうですね」

「困ったものね」

「ルリちゃんの問題もあるから大変ね」

「アクア、あの子に問題でもあるの?」

シャロンはアクアの呟きを聞いて訊ねた。

「確かに問題があるな。両親の事をどうするかな」

「両親って、提供者の事かしら?」

「提供じゃないんだよ。どさくさ紛れで受精卵をネルガルは手に入れたのさ。

 だから両親が追跡調査しているんだよ」

「その両親が問題なのね」

「ああ、ネルガルもクリムゾンも知れば、必ず警戒する筈だ」

「またややこしい事になったものね。

 で、誰なの?」

シャロンの問いにクロノは一瞬迷うが、仕方なさそうに答える。

「ピースランド国王夫妻の娘だよ。

 認知されれば……王位継承権第一位が与えられる可能性もある」

その一言にシャロンは凍りついた。

「まあ……当然の反応だな」

「大抵はこうなりますよ。

 大企業の中枢ほど、こんな反応になりますね」

シャロンの反応に二人はしょうがないなと思っていた。

「ど、どうする気なのよ」

再起動したが混乱しているのかシャロンはその一言を言うのが精一杯だった。

「今の状態で会わすのは……不味いと思うんです」

「情操教育が出来ていない状態で会わすのは意味が無いんだよ」

二人が気まずそうに話すとシャロンも理解した。

「確かに意味が無いわね」

「家族の意味を知らない状態ではいけないと思うのです。

 それではルリちゃんもご両親も不幸になってしまうと考えます」

「当面は……現状維持だな」

クロノの意見に二人は賛成した。

どうすれば良いのか、その答えはまだ……出なかった。


―――木連作戦会議室―――


「現状では市民船を諦める覚悟が必要かもしれません」

非情とも言える秋山の発言に士官達は口々に文句を言うが、

「お前達に文句を言う資格など無いぞ。

 秋山はお前達の作戦の失敗で苦労しているんだ。

 騒ぐなよ、この馬鹿どもが!」

この海藤の一喝で会議室は静寂を取り戻した。

「だいたい正義が勝つなどと言うが、お前達は勝てなかったという事は悪なんだよ。

 いい加減にしておけよ。アニメの正義にかぶれて戦争なんかするな。

 閣下もこうなると予測していたのに士官達を甘やかすのはどうかと思います。

 わざと負けるようにして士官達の浮かれた気持ちを引き締めるつもりだったと考えますがやりすぎです」

海藤の言い方に士官達は反論しようとするが、海藤の一睨みで沈黙した。

「……すまんな。

 勝ち過ぎて調子に乗っていたので引き締めようと考えたが裏目に出てしまったようだ」

草壁は海藤の言質を取るようにして事態を収拾しようとした。

「とりあえず交渉で少しでも時間を稼ぐしかないと判断しますが」

現状ではこれが最善ではと問いかける海藤の視線に草壁も頷く。

「そうだな……それしかないか」

「火星も強気で押してくると思いますが、遺跡への進入が出来るまでは何とかしないと」

「地球の部隊の一割でも帰還させますか?

 それなら最悪の事態が起きても対応できるかも」

「そうだな。秋山君の意見を採用しよう。

 今は時間が欲しいな」

状況を正確に把握している草壁は秋山の進言に文句を言う気はなかった。

「火星も先の戦いで戦力を消耗している筈です。

 おそらく一月以内に手を打つ必要があると考えます」

草壁は秋山の分析に腕を組んで考え込んだ。

(現状では仕方がないか。

 北辰達を火星に送り込みたいが、今の状況では無理だな。

 ここは時間を稼ぐ事が勝つ為の条件か)

「よろしい。秋山君は海藤君と協力して防衛準備を始めてくれ。

 我々は交渉する事で時間を稼ぐ事にする」

「では、南雲、新城の両名を補佐にして準備を進めます」

「そうだな。二人は再建計画に携わっていたから君達には必要だな。

 ではその二人も合わせて四名で作業してくれ」

「「はっ」」

二人は敬礼すると退室していった。

「全員も十分注意せよ。

 ここで火星の攻撃を受けると我々の正義が無意味なものにされてしまう。

 勝って浮かれる事の無いように」

草壁の宣言に士官達は反省して気を引き締めようとしていた。

その様子に草壁はまだ戦争を継続できると安堵していた。


四人は防衛指揮所で話し合っていた。

「あまり状況は良くないな」

「そうです。あと二ヶ月は時間が必要です。

 港湾施設は一部が使用可能になりましたが、整備をするのがやっとです」

「放射能で汚染された無人機を前面に出して防壁にするか」

「この際、使える物は何でも活用しましょう。

 どのみち廃棄処分になりますので問題は無いでしょう」

「では秋山さん、海藤さんの指示通り遺跡入り口の防壁にしますよ」

「ああ、それでいいさ。南雲は予定通り市民船の防衛を優先するんだ。

 秋山と俺は港湾施設の防衛に専念するぞ。

 新城は遺跡内部の調査を進めながら修理に専念しろ。

 火星がどう動くか分からんからな、すぐに対応できる状態にするしかないぞ」

「「「はいっ」」」

海藤は三人の様子に事態は深刻だがこいつらなら大丈夫だと思っていた。

南雲も新城も木連の価値観や一元的な感覚から解放され始めていると考えていた。

(俺の役目はこいつらを生き残らせる事だな。

 次代を担う奴らを守らんとな)

目の前の問題から逃げ出さずに立ち向かおうとする三人に海藤は期待していた。


―――アクエリアコロニー造船施設―――


「本当に馬鹿な事をしたもんだな。

 火星の戦艦はナデシコとは比べ物にならんぞ」

ナデシコのブリッジから外装の修理状況を見ていたウリバタケはプロスに言う。

その隣には開発中の新型艦の姿が見られた。

ここ何日か作業を見ているウリバタケはナデシコとの比較をしているのであった。

「やっぱり差は大きいですか?」

「ナデシコはアクアちゃんの言う通り試験艦の側面があるからな。

 火星のは文字通り軍艦だぞ。

 宇宙空間で一対一で戦っても勝ち目は薄いと思うがな。

 なんせ相転移エンジンの出力、数が違うからな、正面から戦うのは危険だ。

 それにエクスストライカーだったか……あの機体には相転移エンジンが組み込まれている可能性があるぞ。

 もしそうなら火星の技術力はネルガルより上って事になるな」

「それってどういう意味なんですか?」

「メグミちゃんは専門家じゃねえから理解できんかもしれんが、

 この相転移エンジンってやつは未知の技術の塊なんだよ。

 ネルガルはこのサイズにするのがやっとだけどな、火星は更に小型にする事が出来るんだ。

 そうするには相転移エンジンを理解できないとダメなんだぜ。

 理解してそれを構成する材質やシステムの研究もしなくちゃいけねえんだ。

 コンパクトでハイパワーのエンジンを作るのは非常に難しいんだぞ。

 それは歴史が証明しているからな。

 いくらアキトが未来から技術を持ち込んだとしても、応用できるようにするにはかなりの時間が必要なんだ」

分かりやすく説明するウリバタケにブリッジにいたクルーは火星の技術力に感心していた。

「現状では火星が最も技術を有しているんですか?」

「そうなるわな。おそらく五年以上の差が出ているな。

 木連だったか、向こうは相転移エンジンを複製しているだけだが、火星は生産して改良しているからな。

 この差は大きいぞ。

 この先、火星は技術力だけでも十分地球に対抗できるな。

 なんせ五年くらいのアドバンテージがあるんだ。簡単には追いつけないぜ。

 それによ、ボソンジャンプだったか……あれの研究では火星が独占状態だろ。

 正直なところ、原理も理解できない技術なんだよ。

 聞けば普通の人間だとジャンプできないような言い方だぞ。

 そんな技術を独占しようとしたネルガルは何を考えていたのか理解できんぞ」

ウリバタケの説明にクルーは寒気を感じていた。

実際にアクア達がジャンプで現れた瞬間を思い出しても理解できなかった。

「アレはやばい、やばすぎるぞ。

 核以上の危険性を感じるぞ」

「そうですね。『希望の無いパンドラの箱』と火星では言われていますよ」

「しかも開いてしまったからな。災厄しか残ってはいないぞ。

 シミュレートしたが、未来で人類が滅亡する確率は60%は軽くあるみたいだな」

ブリッジの扉が開いてアクアとクロノが話した。

「やっぱりそうなのか?」

「移動技術としては優秀すぎるし、絶対的な軍事力を有する事になるからな。

 しかも過去に戻って未来を歪める事もできるぞ。

 ある意味、独裁者を生み出すシステムにさえなりそうだ」

クロノの言葉にブリッジのクルーは沈黙していた。

「まあ、火星が押さえる事で問題は無くなりましたけど」

「そうだな。いい加減な地球と木連に渡す気は無いから丁度良かった。

 アレは火星に在ったものだ。

 火事場泥棒のネルガルには渡せんな」

「いや〜〜それを言われると」

焦るプロスにクロノは話す。

「どうです、プロスさんはこっちに来ませんか?

 火星は人材が不足している。あなたは本来こちら側の人間ですよ」

「申し訳ありませんが、今の会長を見捨てるのは」

「そうですか」

こうなると思っていたのか、クロノはそれ以上は何も言わなかった。

そのかわりという訳ではなかったが、ミナトがアクアに聞く。

「ねえ、アクアちゃん。

 ルリルリはこの後は火星で暮らすの?」

「一応、火星で生活する事になりますね。

 地球ではあの子は都合のいい戦争の道具にされる可能性が高いですから」

「いやな話ね。ルリルリのせいじゃないのに」

暗い顔で話すミナトにアクアも悲しそうにしていた。

都合のいいように人間を道具扱いする者に憤りはあるが、それ以上にルリの人生を歪められる事が悲しかった。

「結局、人間のする事なんてこんなものですよ。

 それも大事ですが、皆さんもよく考えて下さいね。

 今は無人機ですが、いずれ有人機が地球に来ますから。

 その時に戦争が始まるのではありません。

 既に始まっているんです……戦争が。

 このまま行けばどちらかが滅びるまで戦争は終わる事はないでしょう。

 何故なら地球は木連の存在を隠しています。

 その事実を知った時、地球は大混乱になりますよ」

「そうね。混乱は必ず起きるわね。

 連合政府も連合軍も非難されるでしょうよ。

 だとするとナデシコのクルーもやばいかもね。

 真実を葬る為に口封じされるかも」

ムネタケの言葉にクルーは焦るが、

「その点は問題ないぞ。

 ナデシコを地球に送り返す時に全部公表するからな。

 この戦争で甘い夢を見ようとした馬鹿どもに現実の怖さを見せてやる。

 火星は地球に対して独立をもう一度宣言する。

 地球が独立を承認しない時は火星も敵になるだろう。

 その時は地球に大規模な攻撃を行うさ」

このクロノの言葉を聞いて地球は決断を迫られる事になるとクルーは考える。

「勝算はあるの?」

「制宙圏が無い地球に火星の攻撃が防げると思うか?」

「……まず無理ね」

肩を竦めるムネタケにクロノも安心していた。

「どうやら理解しているみたいだな」

「そこまで馬鹿じゃないわよ。

 この分じゃビッグバリアなんて役に立ちそうに無いわね」

「逃げるんならオセアニアに行けよ。

 あそこは攻撃目標には出来んからな。

 クリムゾンは第一次火星会戦から火星に援助してくれた。

 火星は嘘で固めて、恩を仇で返すような卑劣な行為はしないぞ」

「残念だけど逃げる気はないのよ。

 アタシは馬鹿に戻ったから、この戦争を終わらせる為に動くわ。

 一人じゃ無理だから仲間を集める所から始めるけど」

「わしも手伝うさ。馬鹿どもの目を覚まさせる必要があるのでな」

ムネタケとフクベの言葉にクルーも真面目に考える必要があると思っていた。

そんなクルーにクロノは告げる。

「どういう形になるか、分からんが皆も戦争に係わっていく事になるな。

 確かに100年前の事が最初の原因だが、地球は自分達の罪を認めず謝罪もしなかった事は事実だ。

 木連も自分達の存在を懸けて戦う事を選択したんだ。

 今の状態だと地球と木連は共倒れになるな。

 まあ、火星としてはどうでもいい事だが、君達の家族の命が危ないから早く決断する事だ。

 戦争を継続するか、終戦へと行動するかな」

冷たい言い方だがクロノの言う事は間違ってはいなかった。

「今の状態じゃ終戦は無理だがな。

 なんせ木星蜥蜴と蔑んでいる地球に正義はないぞ。

 戦争は国と国が終わらせる事で木連は国としても認めてはいないからな。

 終わらせようが無いのさ」

プロスやゴートなど裏に係わる者はクロノの説明に事態は深刻なものだと想像していた。

(確かに戦争を終わらせる事など不可能ですな。

 火星が公表しても満足に責任が取れる人材のいない地球に戦争の終結は……)

地球の政治家達を知っているプロスは一枚岩でない連合政府の対応を想像すると眩暈がした。

「そうね。連合軍も分裂するわ。

 政府も混乱するから地球は大変な事になるわね」

「極東軍だけでもまとめておけよ。

 お前には悪いが親父さんにも協力してもらってくれ。

 この先、何が起きるか俺達にも分からんからな」

「大丈夫よ。アタシもその辺は理解してるわよ。

 いつまでもパパの影を気にしていられないわよ」

苦笑するムネタケにクロノも笑っていた。

事情を知らないクルーは不思議そうに見ていた。

ナデシコの修理が終わるまでクルーはそれぞれがこの戦争にどういう形で参加するべきか悩む時間が与えられた。


―――クリムゾン会長室―――


「なんだとっ!」

冷静に行動するロバートが慌てる様子に報告したSSメンバーも驚いていた。

「それは本当なのか!?」

「はっはい。間違いありません」

慌てて答えるSSにロバートは苦々しい顔で見ていた。

「会長、お怒りは分かりますが今は対策を」

落ち着かせるように話す秘書のミハイル・イルグナーの声にロバートも落ち着きを取り戻してきた。

「何名が無事ですか?」

「二名を保護しました。

 他は……助かりませんでした」

「そうですか。研究員はどうしましたか?」

ロバートに変わって状況を尋ねるミハイルにSSは報告する。

「全員処理しました。

 こちらの指示には従わず社長の指示にしか従わないと宣言しましたので」

「あの馬鹿者が!」

ロバートが怒りを見せながら息子であるリチャードの暴走に頭を痛めていた。

「追跡調査をしますか?」

「させてくれ。リチャードの指示など聞かんでいい。

 発見次第施設を閉鎖させろ。

 クリムゾンの恥を晒すだけではないぞ。企業としての存続に係わるから研究者達も処理しても構わん。

 マシンチャイルドの保護を最優先しろ」

ロバートがはっきりと告げるとSSもその指示に従って行動する事にした。

SSが報告を終えて部屋を出ると、

「何を考えているのだ。

 ネルガルに対抗する為に作ろうなどとは」

「この分では他にも後暗い事がありそうですな」

「しかも自分の遺伝子を使うとは何を考えているのだ」

頭を抱えるロバートにミハイルも報告書を読み返していた。

「遊び半分で行ったのでしょうか?」

「もしそうなら……切り捨てるぞ」

ロバートはクリムゾン会長として今回の事は見過ごす事は出来ないと判断した。

「一応、お孫さんになりますがどうしますか?」

「今の状況で地球においておく事はできない。

 アクアに預ける事にするしかないな。

 その際にグエン達を火星に行ってもらう事になる。

 安全だと思うがこれ以上大人の都合で苦しめたくはないな」

「分かりました。

 テニシアン島へは私が連絡しておきます」

アクアに負担をかける事を苦しく思うが、今の状態で地球で育てるのは危険だと判断したロバートにミハイルも賛成する。

報告書を読んで気分が悪くなる二人であった。

(生存者がいるだけでも良かったと思うべきか)

二人の生き残った子供の事を考えるとロバートはやりきれない思いで一杯だった。

ミハイルはそんなロバートを見ながら話題を変える事でロバートの苦悩を少しでも減らそうと思い仕事の話を出す。

「月の事なのですが」

「いよいよ月攻略戦が始まるのか?」

ミハイルの声にロバートは軽く頭を振って意識を切り替えようとする。

いつまでも悩んでいても仕方がないと言い聞かせるようにして、クリムゾン会長としての仕事をしようと考える。

(社員達が頑張っているのだ。

 いつまでも身内の事で迷惑を掛けるわけにはいかん)

「進行状況はどうなっておる」

「ネルガルが戦艦を無償で改修していますよ」

ミハイルが苦笑して資料をロバートに見せる。

受け取ったロバートは資料を読むとミハイルと同様に苦笑する。

「さすがに焦ったのかな。

 クリムゾンの大盤振舞いに」

「でしょうね。

 アフリカ戦線を救う為に戦艦二隻を無償で供与するのです。

 これ以上クリムゾンと軍との関係が親密になられると困ったんじゃないですか」

「ウチは損はしてないと気付いていないだろうな」

愉快、愉快とロバートは笑っている。

「火星からのプレゼントですからね。

 機動試験を兼ねた試験艦とはネルガルも気付いていないようです」

強かなものですよとミハイルは告げているが、その顔はやはり笑っている。

そう火星から無償で送られた艦の外装を変える事でクリムゾンは新型艦と偽って提供したのだけなのだ。

赤字ではないと知れば、羨ましがるだろう。

「だが性能は今一つだな」

「はい、地上では満足に活用できません。

 宇宙戦用といったところですか」

資料を読んだ技術者達がそう話していた事をミハイルはロバートに告げる。

「だが、これなら月を奪回できそうだな。

 ネルガルの機動兵器が中心になるのは悔しいが」

月奪回部隊の構成を見てロバートは顔を顰めている。

ミハイルもまた少し悔しそうに頷いている。

「0Gでの戦闘データーがなかった事がネックになりました。

 ブレードはまだ宇宙での戦闘はありませんでしたから」

「そうだな、クリムゾンはコロニー開発を控えていたからな。

 無重力下での実戦データーが少ないのが問題か」

ミハイルの報告を聞いてロバートは地球上での営業を中心にしていた事が響いていると判断する。

「火星に進出する以上は宇宙での活動も考えないと不味いな」

「そうですね。そろそろコロニー開発も本格的に参入するべきでしょう。

 いよいよ商売も惑星間競争に入りそうですから」

火星が独立し、木星も国家として活動するとなると地球上だけでは儲けにならないとミハイルは考える。

「ボソンジャンプが有効に活用され始めると惑星間の距離も縮まります。

 火星が話していた大航海時代が始まるのかもしれません」

ミハイルの考えにロバートも賛成していた。

「そうだな、乗り遅れんように注意せねばな。

 忙しくなりそうだな」

「はい」

二人は問題は多く出そうだが、新しい時代が訪れる事を嬉しく感じている。

(仕事は増えそうですけどね)

その分、仕事が増える事を考えるとミハイルは喜んでいいのか分からずに苦笑していた。


―――木連 草壁の執務室―――


草壁は今回の作戦について考え込んでいた。

(私の取った手段は間違っていたのか?)

初めての敗北に草壁も動揺していたのか、その思考は強気な作戦を考えるものではなかった。

木連を守る為にしてきた事が裏目に出ている。

その事が草壁の思考を鈍らせていた。

その為に扉を叩く音に反応が遅れたみたいだった。

「失礼します、閣下」

「う、うむ。すまん、少し考え事をしていたのでな」

「いえ、お気になさらないで下さい。

 こちらが防衛計画書です」

部屋に入ってきた秋山に一言詫びると、計画書を読み始めた。

静かな部屋に書類のめくれる音だけが響いていた。

「問題はないな。このまま準備をしても構わない」

「はっ」

敬礼をして部屋を出ようとした秋山に草壁は聞く。

「秋山君はこの戦争についてどう思うかな。

 私の取った手段は間違いだったのだろうか?」

(罠か?、俺を疑っているのか?)

秋山は少し焦ったが、この際に意見を述べるべきかと思い言う。

「一概に間違いとは言えないと思います。

 地球に対して攻撃する事は必要だったと自分は思います」

「そうだな、地球には必要だったな」

「ですが火星に対しては……疑問に思っています」

秋山の言葉に草壁は訊く。

「何故かね」

「地球と火星は違うと考えるべきだったと判断します。

 それに火星との交渉で知りましたが、地球の市民は我々の事を知りません。

 この件は非常に問題だと思うのです」

秋山の意見に頷くと言う。

「確かにそうだ。この戦争の終わらせる方法がないからな」

「はい。地球も馬鹿な事をしてくれました。

 このまま行けば泥沼の消耗戦になる可能性があります」

「そうなれば木連が勝てる事はないか」

腕を組んで目を瞑って状況を考え込んでいた。

「人的資源では木連も火星もそう変わらんからな」

「それに閣下にも問題があります」

秋山の一言に草壁は目を開いて秋山のほうへ顔を向けた。

「閣下には敵と味方しかないのです。

 木連の教育方針のせいかも知れませんが、一国の指導者としては問題があると思います。

 和平を行うには間に入る者が必要です。

 そういう中立の存在を閣下は良く思っていないと感じています」

自分の欠点を言われて草壁は黙り込んでいた。

(確かにそうかも知れんな。

 軍人としてはそれで良いのかもしれないが、政治に携わるものとしては不味いかな)

そんな草壁に秋山は言い過ぎたと思って謝る。

「申し訳ありません。

 出過ぎた事を言ったみたいです」

慌てて謝る秋山に草壁は苦笑していた。

「いや、構わんよ。

 確かに秋山君の言う通りだ。

 一国の宰相ともいうべき立場の私がそれでは不味いな」

「も、申し訳ありません」

「気にするな。君の言う事は間違ってはおらんよ。

 火星との関係は少し変えるべきかもしれん」

草壁は秋山に下がるように話すと再び考え始めた。

(木連を残す事は今も変わらんが、状況が変化している事も事実だ。

 私も軍人ではなく、政治家として意識を切り替える必要があるのかもしれんな。

 秋山の言う通り中立の立場を火星がとるなら対応も変化させないと)

自分が戦うだけの立場にいない事を思い出した草壁は思考を変化させていく。

この事がどういう変化を及ぼすか……まだ誰も知らない。









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EFFです。

内容の変更に伴いインターミッションが続いています。
此処にきて歴史の変化を大きくしようかと思って様々な問題をこれから出そうかと企んでいます。
バタフライ効果というものを正直考えていませんでした(爆)


では次回でまたお会いしましょう。

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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