さあ未来を変えよう

真実を告げる時はきた

嘘で塗り固めた歴史を修正しよう

人類が始めて体験する惑星間戦争をする時がきた

これで戦争を終わらせる為の準備は整った



僕たちの独立戦争  第三十三話
著 EFF


「なんですって!

 何考えているのよ、あの馬鹿親父は」

アクアから事情を聞いたシャロンは頭を抱えていた。

勤務中に聞かされたシャロンは周囲のスタッフに注目されながらアクアと話していた。

「弟がいきなり三人も増える事になります。

 後継問題も更に複雑なものになりそうですよ、姉さん」

アクアも今回の父親の行動には呆れていた。

「……勘弁してよ。

 この年で三人も弟が出来るなんて困るのよ」

「私も家計が逼迫するのは困るんです。

 家は全員が燃費が悪いですから家計を預かる者としては大変なんですよ。

 一気に八人ですよ。引越しを考える必要があるかも」

『それは問題ですね。

 警備上非常に困ります、アクア様』

「一応グエン達が来てくれるそうですが」

『それは助かりますがテニシアン島はどうしますか?』

「無人機と少数の人員で管理する方向になるわね。

 折角要塞化したのに残念ね、ダッシュ」

アクアの言葉に側にいたスタッフは吃驚していた。

自宅を要塞化するアクアにシャロンも呆れた様子だった。

「あんたね〜自宅を要塞化するなんて何を考えているのよ」

「でも地球で生活する以上、子供達の安全を確保するには必要な事なんです」

「あ〜そうだったわね。

 以前もこうだったの、ダッシュ」

『いえ、生存していた子供はもっと少なかったです。

 おそらくマスターの帰還が原因で生存者が増える事になったと判断します』

「お爺様は何て言ってるの?」

「地球で育てるのは危険だから火星で育てて欲しい……と。

 私は最初からそのつもりなので問題はないですが」

「成人した時が大変な事になるわね」

アクアの声に重ねるようにシャロンが話すと、

「それは問題ないと思います。

 だって姉さんが跡を継ぐんですから」

万事問題なしとアクアがはっきりと告げる。

「ちょ、ちょっと―――!

 どうしてそうなるのよ?

 私じゃなくてアクアが継ぐんじゃないの?」

「私は子育てがありますから」

焦るシャロンに任せますとアクアの目が告げていた。

「……クロノくれるんなら継いでも良いわよ」

ポツリと呟いた言葉にアクアは反応した。

「絶対ダメです。

 ダメったらダメなんです!」

「そこをなんとか」

「いやです!」

「いいじゃない。

 仕事はできるし、料理もできるから執事にして側に置いても」

自分がからかわれているとシャロンの表情から判ったアクアは拗ねていた。

「実際……後継問題は真面目に考えないとね」

「そうですね」

自分達の立場を考えると逃げる事はできないと二人は思っていた。

「いっそクロノに継がせる?

 補佐に男ばかり集めたら苦労しないでしょう」

「……魅力的な話ですね」

「クオーツの事も何とかしないと」

「少しは改善できると良いんですが」

「今度来る幼い二人も気を付けないと」

「クロノの教えは危険ですから」

「真面目に聞いてると頭が痛くなる事が多いわ。

 あれって女性限定の人間磁石を作るようなものよ」

「子供達が真似しないと良いのですが」

「気をつけるしかないか」

ため息を吐く二人の女性に周囲のスタッフは何も言わずにいた。

(このままでいて下さいね。

 私達の仕事を増やさないで下さい)

オペレーターIFSを付けたシャロンは効率良く仕事を進めるが、その分スタッフの負担は日増しに増えていった。

勿論シャロンも仕事は増えていくが、書類整理に慣れているので全く問題がなかった。

その為に行政府は仕事に就きたくない場所として火星でトップを争う場所になりつつあった。

以前のトップは開発局で次点で軍参謀本部だった。

行政府は今日もスタッフの悲鳴が響いている。

シャロンも立派に火星に順応しているようだった。


―――エドワード邸―――


「ルリお姉ちゃん、どうかしたの?」

食事を終えて部屋で子供達に絵本を読んでいたルリにセレスが聞く。

「いえ、急に家族が増えたので」

「あと三人来ますよ、ルリ様」

子供達にお茶を渡していたマリーが話した。

それを聞いた子供達はどんな子なのか想像していた。

「そうですか」

それを聞いたルリは少し考え込むようにしていた。

「何か問題でもありましたか?」

「食費を入れようかと考えただけですよ、マリーさん。

 ナデシコに乗艦した時の給料が手付かずで残っていますから、少しは役に立つかと」

お昼寝している四人の小さな子供達を見ながらルリは言う。

(優しい方ですね。こうして一緒に住む事になった子供達を大事にしておられる。

 ですがもう少し子供らしく甘えて欲しいものです)

「大丈夫ですよ。

 折角のお給料なのですから、ご自身でお使い下さい。

 例えばお洋服でも買ってみるとか」

「服ですか?」

「そうだよ。ルリお姉ちゃんはもっとおしゃれに気を遣いなよ」

「そうそう、ルリ姉ちゃんは服にこだわりがないの?」

セレスとラピスが聞いてくるとルリは困った顔をしていた。

「私には似合わないと思いますから」

(う〜ん、困りましたね。

 ドレスとかを着る機会がこの先にありますので、出来る限り慣れてもらわないと)

アクアからルリの出生の秘密を聞いていたマリーは将来起きる筈の舞踏会などの行事に対応できるように育てたかった。

ルリは嫌がると思うが、立場上着る事に不快感があるのはいけないと判断していた。

人と接する機会が増えたせいで情操面の成長は進んでいるが、マナーやエチケットの問題は不安が残っていた。

(少しずつでも良いから他の子供達に教えるところを見せて知ってもらうようにしていきましょう。

 ダンスに関してはアクア様とクロノさんが練習するところを子供達に見せながら練習するように誘導しましょう)

こうして日常での生活からマリーは少しずつルリにお姫様教育を施す事にしていく。

この事が他の子供達にも影響を及ぼして、女の子は礼儀正しい猫被りの仕方を覚える事になる。

見た目はお嬢様で、中身はやんちゃなイタズラ好きの子供になるとはマリーも予測は出来なかった。

もっともマリーのお仕置きを知る為にアクア以上の事だけはしなかった。

男の子はクロノに似たのか、弄り甲斐のある子供になっていた。

どうも女の子には弱いところはそっくりなようでしたと後にマリーは悔しそうに話していた。


―――クリムゾン会長室―――


「すまないがクロノ君、この子達を君に預ける事になりそうだ」

「それは構いませんが」

バイザーを外して子供達を安心させるように微笑むクロノにロバートは安堵していた。

「ナデシコの準備は終わりそうですか?」

「ええ、予定通りになります」

ミハイルの質問に簡潔に答えると二人の少年の頭を撫でていた。

子供達は不思議そうに顔を上げてクロノを見つめていた。

(嫌なものだな。感情が欠けた状態なんて)

ロバートもミハイルも二人の子供を見て、苦い思いでいた。

「実は相談したい事があるんだ。

 タキザワ君には既に話しているが、この作戦の後で地球に住んでいる火星の住民の帰郷を考えているんだ。

 彼らも地球には良い感情を持たなくなるだろう。

 クリムゾンが窓口になって帰郷できるように取り計ろうと計画したんだが、問題があってな」

「問題ですか?」

「はい、軍に入隊した者の離脱をどうするかで対応に苦しんでいるのです」

「殆どがIFSのせいで前線にいるパイロットばかりでな。

 迂闊に引き抜くのは戦線の維持が出来なくなるのだ。

 軍と衝突するのはクリムゾンとしては困ってな。

 だがこの作戦で火星の住民は地球の軍を嫌うだろう。

 軍も不穏分子を抱え込んでの行動は避けるから、最悪は最前線送りにされて謀殺される可能性もある。

 それならばいっそ逆手にとって火星の住民の部隊を作り、最前線で戦う事を条件に移住を認めさせようと思うのだ」

ロバートの説明には納得できるものがあり、クロノが火星の部隊の運用を考える。

「火星の最精鋭を中核に独自の部隊で生き残るようにするんですか?」

「この方法なら地球との関係も悪化させる事がないと考えます」

「一応、兵を引き抜いても戦場で戦う事には変わりないですから軍も安心しますか」

皮肉気に口元を歪めるクロノにロバートも悔しそうに話す。

「残念だが火星との関係を拗れさせる事態はできる限り回避したい。

 この先、地球が独立を認めない時に宇宙で戦闘になるだろう。

 最悪は火星の住民で構成された部隊と戦う事はあってはならないと考えるのだ。

 君が指揮官となって各地の部隊から引き抜いて生き残る為の技術を教えてやってはくれんか。

 無論、引き上げる時は全員が帰還できるように軍に誓約させよう」

「また一般人の帰郷も認めさせます」

二人の意見を聞いてクロノも不本意だが納得する事にした。

この事が後に大きな布石になる事とは彼らも知らなかった。


―――アクエリアコロニー独立政府会議室―――


「遺憾だがクリムゾンからの提案を受けるしかないだろう」

クロノとタキザワの報告を聞いた議員の一人が不満だが仕方ないと答えると全員が苦々しく思っていた。

「だが地球と争うのはできる限り回避するべきだろう」

「しかし奴らのした行為を考えると我慢できんぞ」

別の議員が地球の横暴を訴えると追従する議員達が出てくる。

それぞれに意見を出し尽くすとエドワードが全員に告げる。

「私は地球との開戦は望みませんが、彼らは火星にむけて侵攻すると考えます。

 ただその状況が問題だと思うのです。

 軍の暴走か、政府の指示で行動するか、その際は市民が賛成しているか、秘密から目を逸らさせる為か。

 その時に火星の住民同士で戦う事になるのは回避するべきだと述べさせて頂きます」

「ではこちらが和平を望んでも地球は望まないと」

「上にいる者達は傲慢な人間ばかりですから」

エドワードの意見に全員が納得していた。

「では今回の件は了承すると」

「はい、軍の練度を引き上げる事も計画の内です。

 どのみち地球からの支援は当てにしませんから、新兵器の運用などの実験も始めようと思います。

 今の火星は平穏ですが、次の備えも考える必要があります」

議員の質問にエドワードが先を見越しての意見を述べると全員が苦々しい思いで賛成した。

「気をつけんとな、我々も傲慢な人間にならんとは限らんからな」

コウセイが呟くと議員達もそんな人間にはなりたくないと思っていた。

議会もクリムゾンの提案を受け入れて、軍に作戦の準備をするように指示を出した。

これが後に地球から恐れられる火星精鋭部隊《マーズ・ファング》の誕生だとは誰も知らなかった。


―――アクエリアコロニー作戦指令所―――


「で、クロノは地球で新婚旅行か?」

レオンが嫌味のように話す。

最前線で戦うクロノが羨ましいのだ。

「仕方あるまい、お前が行けば軍と衝突する事は確実だからな」

グレッグが問題を起こしそうなレオンに注意する。

「クロノでも衝突するだろう」

「言っておくが、事務仕事は更に増えるが良いか?」

「ぜってぇ嫌だ」

手元にある書類を見ながらうんざりする。

「しかも馬鹿な連合軍人どもの嫌味つきだが」

「……ごめんなさい。もう言いません」

「更に説明好きなお姉さんと理論武装した厳しいお姉さんに、お茶目なお嬢様が付いてくる」

グレッグが話すクロノの苦労を知り、レオンが意気消沈して言う。

「逃げていいですか?」

「開発局と作戦参謀本部は大喜びだぞ」

「行政府はどうしたんだ?」

「あそこはもう一人いるんだよ」

「いつの間に増えていたんだ」

驚愕の表情で話すレオンにグレッグは行政府を憐れんでいた。

仕事で行った時に彼らの叫びを聞いたのが、今でも耳に残っていたからだ。

「救いなのが、飯が美味い事だな」

「それでも割が合わんと思うが」

「気にするな」

「まあ、部下は運がいいと思うがクロノは最悪だな」

「どうして最悪なのかしら?」

「そりゃあ……何時からいましたか?」

振り返ったレオンは二人の姿を見てグレッグに視線で助けを求めていたが、グレッグは気付かない振りをしていた。

(裏切ったな、俺を裏切ったんだな)

(許せ、私には家族がいるのだ)

一瞬のアイコンタクトで互いの事情を述べると、レオンはレイに右肩を、イネスに左肩を掴まれていた。

「さあ、書類整理がありますよ」

「エクスに搭載する新兵器の説明があるわよ」

イネスの声にレオンはこれから地獄のような時間が来る事を想像していた。

スタッフは何も変わらずに自分達の仕事に専念していた。

(いや、被害は最少にしたいですから)

彼らにできる事はレオンの冥福を祈る事だけだった。


―――クリムゾン ボソン通信施設―――


「一応、連絡は入れておいたが回答は既に出ていると話していたよ」

『何とか交渉の席に座らせる事はできませんか?』

ロバートは草壁の発言に驚いていた。

(何か裏でもあるのか?)

「こちらとしても火星に強制させる事は無理です。

 次の交渉は火星の報復が終わった時だと私は思いますが」

簡単に状況を説明して草壁の思惑を読もうとしたが、

『やはり無理ですか?

 では仕方ありませんな』

残念そうに話して草壁は通信を終えた。

「どういう事だ?、何かあったか」

「いつもと様子が変です。

 軍人ではなく、政治家みたいな気がしましたが」

担当者が意見を述べるとロバートもその意見に賛成した。

「どういう訳かは知らんが、搦め手でもする気なのか?」

「彼の意図が読めません。

 此処は現状維持でいくべきかと」

「一応、火星に草壁との会話の記録を渡してくれ。

 状況が大きく変化してきた可能性が出てきた。

 草壁が政治家として活動するのなら対応も変えねばならん」

ロバートの指示で担当者は会話の記録を複製して火星へと送る事にした。

歴史は大きく変化する兆しを見せ始めていた。


「何故です、閣下!

 火星に頭を下げるなど許される事ではありませんぞ」

「では聞こうか。

 現状で勝てると言えるだけの分析が出来ているのかね、高木少将」

「当然です!

 正義は我々にあるのです。

 火星如きには負ける事など断じてありません」

精神論で答える高木に草壁は木連の教育体制が如何に危険なものであるか認識した。

(これでは勝てんな。

 今は力押しで勝てそうだが、やがて技術が追いつかれたら……最期かな)

「精神論ではなく、きちんと分析したまえ。

 こちらの戦力と火星の戦力差を比較してから答えるように」

呆れるように話す草壁に高木は怒りで顔を赤く染めていた。

そんな高木を無視するように草壁は秋山に告げる。

「残念だが火星の攻撃は回避できないようだ。

 優先するのは備蓄している食糧の確保、市民船の安全、港湾施設の再建が直に出来るようにして欲しい。

 最悪は建造中の移民船を遺跡に繋げて港湾施設の代替にして時間を短縮する。

 港湾施設の維持が無理なら放棄せよ。

 但し遺跡への放射能汚染だけは何としても防ぐのだ、いいな」

「了解しました!」

敬礼して部屋を出て行く秋山に草壁は考える。

(目的と手段を間違えないようにしないとな。

 まず時間を稼いで軍内部の人事を変えていく事からだな。

 それと次世代の育成に気を付けないと、このままの状態で地球や火星と和平をしても火種が燻った状態になる。

 そんな状態で戦争が起きれば木連は完全に消滅するからな。

 そういう事態だけは回避できる準備を進めておこうか)

殲滅戦を行った以上自分は勝っても責任を取らないといけないだろうと草壁は考える。

その時に木連の舵取りする人材を残しておく必要あると認識していた。

(私と高木を含む上級将校までで抑えなければ、海藤達が苦労するからな。

 問題は老人達か……過去に縋りつく亡霊を何とかしないと)

権力を世襲している老人達を思い出して、どう対応するか迷っていた。

敗北する事で冷静に状況を見極め始めた草壁は木連を完全に残す事は難しいと判断していた。

(ならば木連の根幹をきちんと遺して行くしかないな)

感情で動いていた自分を思い出して、これからは理性で行動しようと草壁は考える。

木連も変化しようとしていた。


―――連合軍 司令官執務室―――


「ナデシコが沈んだみたいだな」

「定時連絡がなくなりましたので、まず間違いないかと」

「ネルガルはなんと言っている」

「一応、実験艦としての役割は終えたので特に問題はないと話していました。

 得られた情報から二番艦の改修を始めるそうです」

「ふん、結構な事だな。

 ムネタケの息子も死んだ事だし、極東軍の切り崩しも出来そうだな」

「頭の硬い連中ばかりですからな。

 これ以上は口出しなどさせる気はありませんよ」

「クリムゾンの戦艦はどうなっている?」

「順調に建造していますが、オセアニアへの供給が先だそうです。

 自社の造船施設の安全を確保できんと生産が更に遅れますと申しています」

参謀の説明に司令官は舌打ちしていた。

「ちっ、いい気なものだな。

 オセアニアを優先して、こっちは後回しとは」

「いいではありませんか。

 クリムゾンはネルガルのように我々には逆らう事はないでしょう。

 戦後、閣下が勝利された時に……違いませんか」

言葉を濁しているが賄賂の要求だと知って司令官は笑っていた。

「そうだな。全部好きに出来そうだよ」

「その時は私も……」

二人は自分達の未来が薔薇色に思っているようだが、別室で盗聴している者達は笑いを抑えるのに苦労していた。


「こいつら、本当に馬鹿なんだな。

 これからどうなるか知ったら……ダメだ、笑いを抑えきれなくなりそうだよ」

これから起きる事を知っていたクリムゾンSSは二人の会話を聞いていて可笑しくなってきた。

「全くだな、自分達の首に縄が締まってきているなんて思ってないみたいだ」

「会長もやってくれるよ。

 まさかここまでするとは思わなかった」

「俺もだ。だが悪くはないぞ。

 この際だ、地球は混沌と化してもらった方が良いかもしれん。

 この戦争をきちんとした形で終わらせるにはこの方法は間違ってはいないだろう」

「今の地球には他の手段は出来そうにないからな。

 火星には感謝しないと」

「これから地球の真価が問われるぞ。

 乗り切れないようでは次の百年は火星が中心になりそうだぞ」

「それも良いんじゃないか。

 未だ惑星国家として纏まらない地球より火星のほうが安心できるぞ」

「いよいよ惑星ごとに独立した関係に変わっていくんだろうな。

 大航海時代の始まりかもしれん」

「まずは火星の独立か、そして木星の国家承認、次は月の独立、更には金星へのテラフォーミングも始まるかな。

 なんか一気に時代が動き出したな」

「会長もそうなると思い、企業としてのクリムゾンも移転する可能性を視野に入れる考えだぞ。

 最有力地は火星みたいだな。

 その為にシャロン様とアクア様を派遣したようだ」

「まあ順調に進むと良いんだがな」

「その為に俺達も裏でこんな事をしてるんじゃないか。

 失敗は許されんぞ。

 それに人類の未来が懸かっているからな、今までの汚れ仕事よりは遣り甲斐が出てくるよ」

「そういう考えは悪くないな。

 今回の仕事を始めて判ったんだが、俺達は歴史の動く場面を見ているんだ。

 結構楽しいものだ」

二人は苦笑しながら歴史が動く瞬間を見続けたいものだと思っていた。

そしてその瞬間が訪れる日が近づいていた。


―――地球にて―――


その日は同時期に入隊したルナ・メイヤーとジュール・ホルストの三人で食事をしていた時にその事件は起こった。

――後の火星独立宣言と呼ばれる歴史の瞬間の幕開けだった。

「もうすぐオセアニアにいる木星蜥蜴を殲滅できそうだな」

「そうね、ブレードの性能が良いから助かるわね」

「だがな、シン。まだ全体の一割くらいだ。

 先は長いから大変だぞ」

地球の現状を考えるジュールの言葉にルナは言う。

「でもさ、火星の事を考えると地球は運が良いと思うよ。

 ……ビッグバリアが在るんだもん」

「そうだな、アレがないから火星は……」

「地球は恵まれすぎてるな。

 誰もが火星の事など後回しにしている。

 俺達の故郷など地球の人間にとってはどうでもいい事のように」

ジュールの意見に俺達は頷いていた。

「みんな、無事だといいけど」

ルナの心配する声に俺は失った家族の事を思い出していた。

(父さん、母さん、ミア……俺だけが生き残っても意味が無いんだよ。

 だけど必ず仇はとるよ)

「……シン、これは戦争なんだ。

 お前一人では出来る事などたかが知れている。

 俺達も協力できる事はしてやるから……先走るなよ」

「……ごめん」

俺を心配するジュールに素直に謝る事にした。

コイツには世話になりっぱなしだと思うと苦笑するしかなかった。

常にバイザーを着ける事で視覚の補助をさせているらしいが、腕は俺より上の奴だった。

(同い年なのになんでコイツは冷静に行動出来るんだろうな?)

すぐに熱くなる俺とは対照的にジュールはどんな時でも落ち着いて行動するから良い相棒だと基地のみんなは話す。

(負けらんねえな、コイツだけには)

そんな思いが俺にはあるがコイツは全然気にしていない。

どうでもいいような感じでいるから俺は困るんだが、ルナに言わせるとジュールは誰に対してもそうだと。

コイツは何故か感情が無いと思う時があるからどう接するべきか時々困ってしまう。

(悟りを開いた坊主か、それとも何も無い虚無なのかと整備班の親父さんは悲しそうに話していたっけ。

 俺より苦労しているから、こんなふうになっちまったのか?)

いつかコイツの力になりたいと俺もルナも思っていた。

「シンはお子ちゃまだから私が必要なのよ」

「ルナ! そりゃどういう意味だ!」

「そうやって、すぐ熱くなるからお子ちゃまなのよ」

「くっ」

からかうように話すルナに俺は反論したかったが、無駄だと思って我慢した。

(いつか、ギャフンと言わせてやるぞ)

勝ち誇るルナの顔を見ながら俺が悔しそうに話していると、食堂のモニターの映像が突然切り替わり全員が見つめた。

……この日が俺の戦争の始まりになり、ジュールにとって家族が出来た大事な始まりの日だった。

「……何かしら?」

「判らんが、地球全域に強制的に放送しているかもしれないな。

 一応、軍の通信施設に割り込んだんだ。

 かなりのハッキングをしていると見た」

「ハッキングって……軍にか?」

「ああ」

俺達は他のスタッフと一緒にその放送を見る事にした。

「あれって火星の大統領じゃないか?」

「確かエドワード・ヒューズさんだったかな」

「そうだ、彼が無事だという事は火星は今だ健在だといえる」

ジュールの考えにその場にいた者は火星の事を思い出して安心していたが、俺達には嫌味にしか聞こえなかった。

「所詮彼らには他人事だ。シン、こんな事でキレるなよ」

ジュールが俺の肩を押さえて落ち着かせると、ルナも悔しそうにしていた。

「始まるぞ」

スタッフの誰かの呟きに全員がモニターを見つめていた。

『初めまして地球の皆さん、私は惑星国家、火星の初代大統領のエドワード・ヒューズです。

 現在、強制的に通信システムに割り込んで連合市民の皆さんにこの戦争について問いかけたいと思います。

 ネルガル所有の戦艦ナデシコがこちらの指示を無視して、火星に強制降下をした為に、

 火星は現在、木星と第二次火星会戦へと突入して再び戦争が始まりました』

この言葉に俺達はネルガルの行為に怒りを感じていたが、更に話は続いていく。

『ネルガルにはいずれ火星に対して謝罪と賠償を行ってもらいますが、

 今日は木星蜥蜴と呼ばれる者達の正体について地球の皆さんに教える事にしましょう』

「木星蜥蜴の正体って……何よ、それ」

ルナの呟きに全員が動揺していた。

『木星蜥蜴について皆さんは不思議に思いませんでしたか?

 無人兵器で戦っているのに、それを操作する存在に関して何故連合軍は調べようとしないのか考えましたか?』

「確かに俺もおかしいと思っていたよ」

ジュールがその質問に賛成していた。

『彼らの正体を連合政府が知っているとは気付いていないでしょう。

 連合政府と連合軍は情報操作する事で正体を隠蔽して連合市民を騙していたのです』

「……嘘だ」

誰かの呟きが遠くから聞こえるように思えた。

『彼らの正体は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体と言います。

 そう……相手は我々と同じ人類です』

自分の立っている場所が崩れていく感覚に俺は叫んだ。

「う、嘘だぁ―――!!」

「シ、シン、落ち着け!」

ジュールが慌てて俺を押さえると叫ぶ。

「まだ説明は続いている。最後まで聞くんだ!」

この声に動揺していたみんなも落ち着いていく。

「ルナ、大丈夫か?」

ジュールの気遣う声に俺もルナを見ると真っ青な顔でモニターを見つめていた。

『まず彼らの背景を皆さんに告げましょうか。

 彼らは百年前に月の独立を叫んだ者達の生き残りです。

 当時、連合政府は月の独立に干渉して強硬派と穏健派に分裂させました。

 そして強硬派は火星へと落ち延びましたが、連合政府は火星に対して核攻撃を行いました』

それは俺達も知らない連合政府の罪だった。

『彼らは火星から何とか脱出して木星へと逃げて、ある物を発見しました。

 それは遺跡と呼ばれる古代の、そして現在も稼動している人類以外の生命体の遺物でした。

 彼らは遺跡を使い独自の文明を築きましたが、人口の増加に伴い火星への移住を考え連合政府と交渉しました。

 しかし連合政府は彼らの存在そのものを否定して、謝罪はおろか移住すら認めませんでした』

俺達は少しずつこの戦争の背景を知っていく。

『彼らは自分達の主張すら認めない地球に対して戦う事を選択せざるを得なかった』

それが連合政府の地球の間違った選択だと気付いていく。

『それに軍が同調して火星から新鋭艦を避難させて老朽艦で戦うようにして火星を見殺しにしようとした。

 フクベ提督は軍の権力争いの道具にされて、火星もまた独立を恐れた地球に切り捨てられようとしていた』

俺の家族は何故死んだんだ。

『地球は更にネメシス――衛星軌道上に隠した地上核ミサイル攻撃システムステーションを作っていた。

 まるで我々火星の住民の命を弄ぶように』

俺は何を信じればいいんだ。

『我々はこの戦争で地球を連合政府を信じる事が危険だと判断した。

 よって我々は火星人として地球から完全に独立する。

 我々を騙してきた地球人に宣言しよう。

 火星人は君達、地球人の道具ではない……生きているのだ。

 地球が我々の独立を認めなくても構わない。

 その時は我々は自分達の未来を戦って勝ち取ろう。

 半年の猶予を与えよう。

 君達が理性ある対応をする事を期待する。

 もう一度告げよう、火星は今日より地球連合政府から独立を宣言する』

……俺はこの日、信じていたものに裏切られた事を知った。











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EFFです。

完全にナデシコではなくなってきました。
まあ、気にしない事にしましょう(爆)
なんかストーリーを大きくしすぎている気もしますが、敢えて挑戦しようとします。
新キャラの名前についてツッコミは無しですよ(汗)
もう少し第二次火星会戦の事後処理が続きますが、地球編へと変えようかな〜と思います。
大きく逸脱する歴史に三惑星の未来はどうなるのか?

では次回でお会いしましょう。
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