偽りの世界にイライラする

無敵といわれた部隊に損害と屈辱を与えてやろう

貴様らが俺を愉しませてくれ

血と狂乱の祭りの始まりだ




僕たちの独立戦争  第四十六話
著 EFF


薄暗い部屋で男は状況を整理していた。

「ちっ、想像以上にクリムゾンの奴らが出張ってきているな」

男は苛立ちを抑えずに呟く。

「まあいいさ。囮がいくら減っても俺には関係ないからな。

 もう遅いんだよ」

クリムゾンの動きを嘲笑うように男は言い放った。

「さて始めようか。

 退屈な時間を終わらせて……命を賭けた遊戯をな」

振り向いた先には物言わぬ人形のように立ち尽くす存在が佇んでいた。

目には意思の力は無く、人でありながら人形という矛盾した存在とでもいえるような者達が男の指示を待っていた。

「さあ始めるぞ」

その声に従い動き出す。

与えられた命令を実行して、男を愉しませる為に。


―――トライデント ブリッジ―――


「ど、どうしたのダッシュ!?」

アクアが慌てるように話すとクルーが注目する。

『クラッキングです!

 大量のウィルスと共に私とオモイカネに侵入してきました。

 此処に進入するには内部パスが必要ですから、おそらくリチャード・クリムゾンの配下だと思われます』

クリムゾンとの連絡に用いていた回線から侵入してきたとダッシュは報告する。

『艦内の制御が一部奪われました!

 現在は! 侵入してきます!』

突如切り替わった映像にクルーは侵入者の存在を確認した。

『マ、マズイです、アクア様!

 こいつらエンジンプログラムに侵入しようとしているよ』

その報告にアクアは急いで侵入者を迎撃して、艦内の制御を取り戻そうと行動する。

「アクア! ジュールとルリちゃんをブリッジに来させて協力させます。

 いいですね」

レイの意見にアクアは頷く。

万が一相転移エンジンを暴走させられると危険な事になると判断したからだ。


『ジュールはルリちゃんを護衛してブリッジに!

 クルーは侵入者の迎撃を!

 但しサイボーグか、強化措置を受けた人間です。

 遠距離からの銃撃で決して接近戦はせずに距離を取って戦う事。

 またそう簡単に動きを止めたりしません。

 動かなくなっても迂闊に近づかない事。

 近づくのは頭を破壊したものだけにしておく事』

残酷とも言える指示だが、全員がクリムゾンの報告を聞いていたので納得している。

俺はルリちゃんを抱き上げるとブリッジに走り出す。

「ちょ、ちょっとジュールさん」

「舌を噛むからしゃべるな。

 姉さんの手伝いを急いでしないと」

恥ずかしそうにするルリちゃんを気にせずに俺は急ぐ。

大事な仲間を守る為に。


「ヘリオとオニキスはみんなを連れてダッシュの元に」

僕とモルガは話していた通りに動いていく。

「僕も行くよ!」

ヘリオが言うが僕とモルガは首を横に振る。

「ダメだよ、オニキス一人じゃ無理だよ」

「そうだよ。クーと俺が囮でヘリオとオニキスで守るんだろ」

「で、でも」

「大丈夫だってグエンのおじちゃんがいるから心配ないよ」

「そうそう安心しろって」

モルガが話すとヘリオは仕方なさそうにしながらメンテナンスハッチを開いて泣き出す妹達を連れて進んでいく。

「クオーツ、ドジなんてしないでよ」

「サラに面倒みるように頼まれているから怪我しないでよ」

セレスとラピスに注意された僕は、

「大丈夫だってパパがいるんだよ」

と二人を安心させるように笑っていた。

(怖いけど、逃げちゃダメなんだよ)

僕とモルガは二人が入るとハッチを閉じていく。

「みんなは無事か!?」

グエンおじちゃんとマリーおばあちゃんが部屋に入ってくる。

「他の子供達は何処ですか?」

「メンテナンスハッチを使って裏からダッシュの所に行かせたよ」

僕が二人に話すと、

「確かにあそこは最も安全な場所だな」

「どうして二人は残ったんですか?」

「囮だよ。

 みんながいないとなると困るでしょ」

「そういう事」

僕とモルガが話すとマリーおばあちゃんが僕達を抱きしめて話す。

「しょうがないですね。

 絶対に私とグエンから離れてはいけませんよ」

「「うん」」

僕達は二人を信じている。

恐れる事は何もないと信じて。


「グスッ、ママァ……」

泣き出していたカーネリアンの手を引いて私は暗い通路を歩いて行く。

「大丈夫よ、カーネ。

 パパとママがすぐにやっつけて迎えに来てくれるわ」

「セレスお姉ちゃん……ホント?」

「当然だよ。だってパパとママが負けたりしないよ」

ラピスが笑って話すとカーネリアンも落ち着いてきたのかな。

「そういう事よ」

私は不安を吹き飛ばすように笑って言う。

本当は泣きたいくらい怖かった。

またあの場所に戻るかと思うと怖くて泣きたかった。

毎日が怖かったんだと思う。

あいつらは私に痛がる事ばかりしていた……笑いながら。

パパとママを初めて会った時は家族という意味が分からなかった。

(お姉さんだから泣いちゃダメよ、セレス。

 私が泣いたらみんなが泣き出すから)

家族の意味を知った私は大事な妹達と一緒にいたいと願う。

「早く行って待とうね、パパとママを」

泣いているカーネリアンの手をしっかりと握って歩く。

もう片方の手でラピスの手を握る。

私が震えているようにラピスもまた震えていた。

(大丈夫、大丈夫だから)

目を合わせて気持ちを伝えるとラピスも頷いて、私から手を離してガーネットとサファイアの手を握って先に進む。

「私達のパパとママは強いから大丈夫だよ」

「そうだよ、安心して待っていような」

ヘリオもオニキスの手を取って歩いて行く。

(クオーツ、モルガも無事でいてよね。

 みんなで火星に帰るんだから)


「そこまでにしてもらおうか」

格納庫に侵入した男達にクロノさんは告げる。

その雰囲気はいつもの穏やかさはなく、張り詰めた緊張感がそこに存在していた。

「シンとルナはここで待機して整備班と協力して爆発物がないか調べろ」

付き添って来た俺達に目を向けずにクロノさんは指示を出す。

「は、はいっ」

「でも一人じゃ危険です」

「本気で戦うさ。

 俺の家族に汚い手を触れさせはしない」

平然と告げるクロノさんにルナは絶句する。

クロノさんはそれ以上は何も言わずに凍りつくような冷たい殺気を侵入者に向ける。

俺はその殺気に硬直したルナの手を取って整備班の元に急ぐ。

「信じてますよ! クロノさん」

「ああ」


整備班班長のカタヤマ・タダシは全員を集めて格納庫内のサブコントロールルームに避難していた。

「ちっくしょう、やってくれたな馬鹿野郎どもが!

 監視カメラは無事か?

 爆発物でも仕掛けるようなら急いで取り外すぞ」

「大丈夫ですってクロノさんもいますし、そう簡単には」

「馬鹿野郎! クロノだけに頼るな。

 確かにあいつは強いが、この艦にはあいつの子供達がいるんだぞ。

 あいつがあの子達を守ってやらないとマズイだろ」

カタヤマの一喝にスタッフも思い出していた。

「す、すんません」

「この艦は俺達の艦だ!

 誰かに頼るんじゃなく俺達の手で守るんだぞ」

「は、はい」

自分達のしなければならない事を思い出してスタッフも行動する。

「サブコントロールルームから艦内の状況を調べるぞ。

 先手を取られたがこっから反撃するぞ。

 まず機関室と弾薬庫を手動で閉鎖する。

 メンテナンスハッチでシンゴとリックが行ってくれ。

 裏道を使うのは整備班のやり方だからな」

悪戯好きの悪ガキのような笑顔で話すカタヤマに二人も笑う。

「「うっす」」

そんな時にシンとルナが入ってきた。

「班長、手伝うぜ。

 何でも言ってくれよ!」

「おう、丁度いいとこに来たな。

 シンゴとリックの護衛を頼むわ。

 裏道使って弾薬庫と機関室を手動で閉鎖するから手伝え」

「裏って何?」

ルナが聞くとカタヤマさんはメンテナンスハッチを開く。

「整備班御用達の裏道さ。

 コイツを使って移動する。

 おっとルナが最後に入れよ。

 狭いからシン以外の奴にスカートの中を覗かれたいか?」

どうすると笑顔で話すカタヤマさんにルナはとても綺麗な笑顔で告げる。

「カタヤマさん……捻じ切るわよ」

「……冗談だ、さっさと行け(こ、怖いぞ……シンの奴も苦労するな)」

震えあがる整備班の面々を睨みつけるルナだった。


―――基地内―――


「ちっ、外が動き出したのか?」

モニターに映るテロリスト達に私は怒りを感じていた。

「少佐! トライデントに侵入されました」

「な、なんだと!」

部下の報告に私は驚いていた。

モニターに映る映像には木連の攻撃には傷ついた事もないトライデントから黒煙が上がった事に悔しさを感じていた。

「よ、よりにもよって地球の攻撃で傷ついたのか」

私はキートン中将に急いで連絡を入れる。

『キートンだ……状況を報告せよ』

私の顔を見て中将はすぐに気付いた。

「地球の攻撃が最初の被弾になりました」

その一言で中将は全てを理解して幕僚に指示を告げる。

『分かった……ホーウッド行け』

冷徹な声で控えていたホーウッド准将に告げる中将に全員が震えあがっていた。

本気で怒っていると全員が感じていた。

『はっ!』

『ロックウェルはカスパーを取り押さえ、基地内をホーウッドと共に掌握して事態を収拾せよ』

「はっ!」

その一言で私は部下達を連れて行動する。

悔しさを武器に恥知らずの馬鹿に報いを与える為に。


ロックウェルの報告を聞いた私は行動を開始する。

「欧州の再編を行うぞ。

 我々は本来の姿に戻り、市民を守る為の軍隊に生まれ変わるのだ」

この身に宿る思いは恥知らず達に対する怒りだけだった。

「クリムゾンの協力のおかげで証拠は手に入っている。

 本来は我々の手でしなければならない事だが、彼らの力を借りてでも早急に成し遂げる」

「では行動を開始します」

「うむ」

私が頷くと部下達は欧州全軍に指示を出していく。

「不甲斐ないものだな。

 市民を助けられず、手を差し伸べてくれる隣人には裏切りで傷つけていく」

私の呟きに部下達も悔しい思いでいるのだろう。

「戦争が……長引くかもしれませんね」

参謀として長年に亘って私を補佐してくれるヘンリー・キスリング少将が話す。

「さすがに火星も今回の一件は問題視するでしょう。

 非公式とはいえ火星の部隊に連合軍士官がテロを支援して攻撃させるなど……彼らは許すでしょうか」

彼の考えに士官達も最悪の事態になってしまったと感じていた。

「非公式だから抗議はないが、今後は火星の支援を求めるのは難しいだろう。

 木連が先の第一次火星会戦の謝罪を火星にすれば、火星は木連との休戦に動く可能性もあるな」

私の考えに士官達が木連の戦力の全てが地球に向かう事に気付く。

ヘンリーが頷き、状況を分析していく。

「はい、そこに連合政府が独立を承認しなければ完全に手を退いていく事になるでしょう。

 火星の行動方針が専守防衛で自ら手は出さないとはいえ、連合が戦闘を選択すれば」

「間違いなく……戦いを選択するかな」

「オセアニアはクリムゾンの本拠地です。

 おそらく彼らは連合には従わないでしょう。

 当然ですがオセアニアは大丈夫でも、他のブロックはクリムゾンからの戦力の供給は激減するでしょう。

 オセアニアの部隊も連合の意思に逆らう事も考えられます。

 そうなると内乱に発展していくという事態もありそうです」

「先の読めない政治家もいるしな」

「はい、現状を認識できない者が殆どです」

ヘンリーの意見に部下達も事態の深刻さを理解する。

「極東はネルガルとアスカがありますから現状維持が出来ますが、

 それも何処まで通用するか」

「木連には対抗できても火星には無理だろう。

 エクスストライカーは我々の想像を上回る機動兵器だった」

「信じられない性能でした。

 しかもまだ戦闘力を隠しているとの報告です」

ヘンリーの言葉に士官達も驚いている。

ブレードストライカーを上回る機体である事は知っていたが、まだ全てを見せていないなどとは思わなかったのだ。

「どうもブレードストライカーは第一次火星会戦に間に合わせる為に急遽製作した機体のようです。

 量産性と操縦性を簡素化したエクスストライカーの粗悪な模造品みたいなものです」

実際には違うがヘンリーの意見は的を得ていた。

ブレードストライカーはダッシュが2196年の技術で量産できるように考えてパワーダウンして製作された機体で、

エクスストライカーは未来技術を理解して発展させた機体なのだ。

当然そこに至るまでの時間は掛かるが、自分達の命が掛かった状況では誰もが全力で分析して理解もするだろう。

予想を上回るスピードでエクスストライカーが出来上がった事にダッシュ自身も計算外の事に驚いていた。

人間の持つ底力をダッシュはまだ完全に理解していなかったのだ。

そんな経緯から生み出された二つの機体の違いを理解するのは戦いの専門家でもある彼らも難しかった。

「欧州の政治家達と会談する必要があるな」

「状況を認識してもらう必要が出てきました。

 彼らも火星の事を悪くは言えないでしょう」

「問題は北米の連中だな。

 未だに支配者気取りの連中の説得など無理だぞ」

「当面はオセアニア、アフリカとの連携で行くしかないですな。

 どちらも火星には好意的です。

 独立への承認は難しくとも火星と戦う事は避けてくれるでしょう」

「極東はネルガル次第か?」

「そうですな、アスカはどちらかといえば民間向けの企業です。

 軍需にはそれほど執着はないようです。

 立場上クリムゾンとネルガルに対抗しているといった感じですな」

私達の会話を聞いて士官達も状況を認識しているようだ。

慌ただしくなっていく幕僚本部を見ながら私はこれからしなければならない事を順序良く整理する。

このくだらん戦争を終わらせる事を誓って。


―――トライデント 格納庫―――


意思を持たないサイボーグ達に俺は銃と刀を用いて戦う。

(万が一の為に製作してもらって良かったよ)

バッタやジョロを銃でも倒せるように考案した炸裂弾は想像以上に破壊力を秘めていた。

一撃で人間を肉片へと変えていくので迂闊に撃てない事と、

反動が大きくて生体強化された俺とアクアにしか使えない事が欠点でもあった。

(外したら損害が増えて……始末書を書かないと不味いんだろうな)

レイとアクアの二人がかりの説教など怖くて冷や汗が出る。

半数の人形を倒した俺に男が拍手してくる。

「なかなかやるじゃねえか。

 退屈な仕事だと思ったんだが、愉しくなりそうだな」

愉快そうに俺を見つめて嘲笑うように立っている男に俺は殺気をぶつけていく。

「人形どもの親玉か。

 少しは出来るのかな……まあ出来損ないには無理か」

こんな簡単な挑発に奴は反応する。

「出来損ないだと……誰に言ってんだ!!」

「ふん、どうやら事実のようだな。

 安っぽい挑発に引っ掛かるようでは所詮失敗作か」

「殺す……殺してやるぞ―――!!」

奴の怒りに呼応するように人形達が俺に銃弾を撃ち込んでいく。

「効かんな」

ディストーションフィールドを展開して銃弾を防ぐと跳躍しながら銃弾を撃ち込んでいく。

三体をミンチに変えると俺は一気に詰め寄って行く。

「ちっ、いいもん持ってるじゃねえか」

人形達が男を囲むように陣形を整えていく。

「臆病者らしいな……興醒めだよ」

嘲笑うように口元を歪めて男を蔑んでいく。

ギリギリと歯軋りの音が聞こえるくらいに男は怒りに顔を赤く染めていく。

(そうだ、それでいい。

 貴様の意識が俺に向けばそれだけ子供達とクルーが無事だからな)

冷静に計算しつつ俺は戦う。

怒りに任せて戦う事はとうに捨てている。

かつてのように非情なる世界の住人に俺は戻っていく。

だが復讐者ではなく、家族を守る為に敵を殲滅する。

攻撃的な陣形にシフトした人形達に俺は一気に距離を詰める。

俺を囲むようにして攻撃してくるが、五感を取り戻した俺の戦い方には死角など無かった。

触覚が、聴覚が全てを教えてくれる。

背後からの銃撃にも対応していく。

素早い動きをする人形達だが、俺には通じない。

動きが交差する度に銃撃と白刃の煌きが人形達に死を告げていく。

「……化けもんだな、テメエは」

「お前と同類だよ……なあ出来損ない」

銃口を向けて話す俺に男は嘲笑う。

「ふん、この身体じゃあ勝てねえみたいだな。

 まあいい、目的は達した……あばよ!!」

勘で跳び退きながら俺はディストーションフィールドを展開して防御する。

男は自爆という選択を行い……実行した。

なんとか爆発から逃れた俺は男の言った意味に気付いた。

「ちっ、全部本物だが偽物でもあるんだな」

アクアと子供達のどちらに向かうべきか俺は迷う。

『艦内に侵入したサイボーグは残り六体です、マスター』

「どっちが……危険だ?」

『グエンさんの方が不味いよ。

 四体も向かっている。

 向かってクロノ!

 ブリッジのほうは時間を稼ぐから』

オモイカネの報告に俺は駆け出す。

(間に合ってくれよ)


「うざいな……さっさと死ねよ」

「グハッ……ま、待て」

「待たねえよ」

倒れていく男を無視して俺は進む。

止めを刺したいのだが、時間を取られると足止めしている戦闘用マシンチャイルドの男が追いつきかねないのだ。

「イライラするぜ……さっさと道を開けろってんだ」

黒い戦闘服のマシンチャイルドに敗北した事が苛立ちを増やしていた。

『あの男を捕らえる事は出来んか?』

「無理だな……戦力不足だぞ。

 子供を囮にして次の機会にでもしとけよ」

ゲオルグの声に俺は告げる。

『だがあれほどの性能のある者を……』

「どっちか一つにしとけよ。

 もう7割が使い物にならんのに何が出来るというんだ」

対人用のレーザーシステムでの損害も馬鹿にならなかった。

想像以上にこの戦艦は侵入者に対する迎撃システムが充実していたのだ。

事前に得た情報は既に当てにならないと考えている。

確保した後の足を失う状況にはしたくない……あの男と戦うには数が足りなくなっているのだ。

ゲオルグの我が侭には付き合いきれないのだ。

『……分かった』

(イライラする……俺が出来損ないだと…俺は貴様などより優秀なんだよ)

ゲオルグの命令が癇に障る。

俺が……出来損ないだと言われているようで。


「ダッシュ、床に電流を流せるか?」

『高出力のやつは無理だよ。

 こっちもクラッカーの迎撃作業があるから』

出力制御に不安があるとダッシュが言う。

「ああ、構わないぞ。

 時間を稼いでクロノと挟撃するからな」

グエンは今の状況で出来る限りの作戦を思いつく。

「計算外だな……お前にクラッキングをしてくるなんてな」

『変だよ、こいつら。

 なんていうか、私達に似ているんです』

「はあ、どうやって作ったんだ?」

とんでもない事を言われてグエンは驚いている。

『多分、人間の脳を切り離して使っていると考えられます』

「クソ野郎だな」

非合法な生体コンピューターだと聞いて、グエンは不快感に顔を顰める。

「電流が流れる場所に来たらスプリンクラーを使って水浸しにして攻撃する。

 動きを一瞬でも止めてくれ。

 その瞬間に一斉に発砲して数を減らしていく」

『了解だよ』

グエンの指示にダッシュは答える。

SSのメンバーは頷くと配置につく。

「発砲後に手動で隔壁を降ろして後退する」

自分達の役割を知る男達は文句も言わずに行動する。

プロフェッショナルとアマチュアの違いを見せつけるかのように。


艦内に爆発による震動が起こっていた。

「隔壁が破壊されていきます」

「そう……ジュール、悪いけど交代して」

私は扉の前で銃を構えていたジュールに告げる。

「えっ、ええっ?」

「早く!」

「ね、姉さん?」

席を交代して立ち上がる私にルリが泣きそうな顔で見ている。

「あらあら立派なレディーがそんな顔をしてどうするの。

 いつも優雅で可憐にしなくちゃダメよ、ルリ」

不安になっているルリに笑って話すとレイに告げる。

「私が出るわ。

 ここで一番戦闘力のあるのは私だから……時間を稼ぐわ」

「仕方ありませんね。

 ですが無理はしないでください、アクア」

「大丈夫よ、レイ。自分の力量は理解しているから」

この状況では迂闊にクルーで迎撃しても返り討ちになる事に気付いていたレイは悔しそうに話して念を押す。

「時間を稼ぐだけにしてください。

 無理だけはしないように」

「ね、姉さん!」

悲痛な声で私を見つめるルリに告げる。

「落ち着きなさい、ルリ。

 貴女が今しなければならない事は何ですか?」

詰問気味に話す私にルリは泣きそうになりながら為すべき事を言う。

「……オモイカネとダッシュに協力してこの艦を守る事です。

 でも……それじゃあ姉さんが…」

私の身を案じてくれるルリを抱きしめて話していく。

「大丈夫よ、ルリ。

 まだ死んだりはしないわよ。

 貴女の姉さんとして幸せになったルリの姿を見るまでわね」

「……信じていいですね」

「当然でしょ。

 まだ結婚もしてないのに死ぬなんて勿体無いじゃない。

 それにルリのウェディングドレス姿も見たいから」

「な、何を言っているんですか?」

真っ赤な顔でルリは抗議する。

私にからかわれたと思ったルリは一睨みすると前を向いて作業を始めていく。

私は優しく頭を撫でてから扉に向かう。

「ジュール、ルリの足を引っ張ったらお仕置きですからね」

「何を言うかと思えば……さっさと終わらせて援護しますよ、姉さん」

「期待してますよ、ジュール」

肩を竦めて作業に入るジュールに私は嬉しく思っていた。

(姉さんと呼んでくれた。

 ますます死ねなくなりましたね)

「信じてますよ、姉さん」

「お姉さんに任せなさい、ルリ」

背を向ける私にルリが呟く。

その言葉を胸に私は歩き出す……大事な妹と弟を守る為に。


ブリッジへ続く最後の隔壁を破壊した二人の人形に告げる。

「そこまでにしておきなさい」

「あ〜ん、なんて言ったんだ。

 聞こえねえな」

下卑た笑い顔で話す男に私は宣言する。

「これ以上好き勝手はさせません。

 あなたは此処で死んでいただきます」

「くっくっくっ、出来るもんならやってみな。

 なっ、なんだと!?」

男の言葉など聞かずに私は一気に懐に飛び込んでいく。

至近距離で下半身に炸裂弾を撃ち込んで返り血を浴びながら追撃を行う。

腹から下が無くなって血だまりに沈む男を確認してもう一人の男に意識を向ける。

「ちっ、この艦は化け物ばかりだな」

「あらあら、出来損ないの同類に言われたくはありませんね」

クロノとのリンクで状況を知っていた私は男を挑発して短期決戦に持ち込む。

(絶対的な経験がない私に持久戦なんて無理です。

 ルリには安心するように言いましたが、状況は良くないです)

何度か戦闘を経験したせいで、私は自分の未熟さを知ってしまった。

クロノの動きを真似ているだけで、クロノの強さを持ってはいない事に気付いてしまった。

(あくまで動けるだけで、素人よりはマシなだけ。

 落ち着いて相手を見て動くのよ。

 自分の力を過信してはダメよ)

私は落ち着かせるように自分に話していく。

「テメエも俺を馬鹿にするのか。

 どいつもこいつも苛つかせてくれるな」

苛立つように話す男に私は無視する事で更に苛つかせる。

「テメエもあの男と同じように殺してやるさ」

「誰が死んだのですか?

 ああ……あなたが自爆したんでしたね。

 未熟ですね、たった一人も満足に殺せないなんて」

嘲笑うように話して私は男の怒りを私に向かわせる。

「テメエは引き裂いて殺してやる!」

男はそう叫ぶと地を這うように私の間合いに飛び込んでくる。

私は天井に向かって飛ぶと天井と壁を蹴り込んで跳ねるように回避する。

距離を取った私は失策に気付いた。

(銃が使えないわ。

 外したらブリッジに被害が……)

男はブリッジへの扉を背にしていたのだ。

「使えねえよな、銃は」

「それはどうかしらね」

私は銃を向けると発砲する。

弾丸は艦内の非常用のディストーションブロックシステムによって扉には傷一つ無かった。

(なんとか持ち堪えたわね)

賭けではあったが、成功した事に私は安堵していた。

「死期が早まったわね」

「ふん、いい度胸じゃねえか。

 名前を聞いておこうかな」

「コードネームでよければお答えしましょう。

 The Princess of Crimson――と知る人はそう呼んでいますわ」

冗談のつもりで言ったが、男は私の姿を見て納得していた。

「……鮮血の姫君か…似合ってんじゃねえか」

私は返り血を浴びて赤く染まっていた。

私は血に酔いしれる気はないが、血を浴びても気にならないようになっていた。

……どうやら結構タフな女になっていたようだ。

(私は愛する家族を守るために戦う事を選択したのよ。

 誰かを傷つける事になっても後悔はしないと決めたの)

心に浮かぶあの子達の笑顔に釣られるように私は笑っていく。

「……おかしな女だな。

 血塗れのくせに慈悲深い聖女にも見えちまいそうだぞ」

「狂った女ですから」

私は笑うとナイフを投擲しながらもう一つの道具をナイフの軌道に合わせて投げる。

ナイフを弾いた男は私が離れている事に気付いてから、もう一つの道具――スタングレネードに気付いた。

「な、何考えているんだ! テメエは!?」

私は目を閉じて、閃光を浴びて動きを止める男の足元に銃を撃ち込む。

炸裂する音と光の衝撃にダメージを受ける男の頭上を跳び越えて発砲する。

「――ちっ」

舌打ちして攻撃を回避する男に私は感心していた。

「しぶといですわね。

 まさか台所にいる黒い虫の親戚ですか?」

「誰が○キブリだ!」

右足を失い、地面に倒れている男に止めを刺そうとした時、私は慌てて下がった。

何故かは分からなかったが、危ないと感じたのだ。

その直感を信じて良かったと思う。

下がらなければ確実に私は死んでいただろう。

不意打ちとも思える銃撃に私は三発の銃弾を受けてしまっていたのだ。

「ぐっ、何処から?」

私は男を見ると死体の腕に拳銃が握られていた。

どうやら男は死体も動かせるようだった。

(ゆ、油断したわね。

 死体だから大丈夫だと判断した私が甘かったわ)

自分の油断を反省する私に男は告げる。

「引き分けだな、どうやらまだ素人みたいなものだったな」

嘲笑う男を射殺して死体も完全に破壊してから私は倒れていく。

「やっぱり経験が足りないわね。

 これじゃあクロノが頼ってくれる日はいつになるやら」

自分の未熟さに苛立ちながら私は意識を手放していた。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

アクアさんの弱点が暴露されました。
無敵のお嬢様にしようかと思いましたが、面白くないと考えまして。
次回はルリちゃんの戦いが始まります。
クラッキングしてくる侵入者の正体は?
ジュールはやはり足を引っ張ってしまうのか?
グエンVS人形遣いはあるのか?
アクアが傷ついた事でロバートは何を思うのか?

では波乱含みの次回を楽しみにしてください。



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