勝つ為の算段を整える

それは簡単な時と難しい時がある

簡単に出来る人物ほど柔軟な発想を持っている

一つに囚われる人物ほど簡単には出来ない



僕たちの独立戦争  第百話
著 EFF


「また厄介な場所を戦場にしてくれたな」

敵別働艦隊の潜伏先を特定した秋山はその宙域を見て、一言述べた。

入り口に当たる場所は非常に狭いが、入れば中は広く艦隊行動は楽になる。

後方に回り込みたいが無数の衛星が邪魔をして大きく迂回しなければならない点と広範囲に機雷原が存在している。

狭い入り口から侵入するという事は砲火の集中を受けて被害が大きくなり、

また一気に突入する数も少なく容易に撃破出来るという場所だった。

その中央に敵艦隊は布陣していた。

「飛燕とジンで衛星群を潜り向けて強襲が一番だと思いますが」

「明らかに罠に嵌るだろうな」

かんなづきに乗艦していた南雲の意見の後に秋山は自分の意見を重ねる。

「待ち構えている奴らはこっちで引き受けよう。

 このまま捨て置く訳にも行かん。

 何をしでかすか……二度も同じ事をされるとこちらの信頼も損なわれる」

北辰が二度目の惨劇を示唆する。同じ事をもう一度されれば間違いなく軍の信頼が失墜する。

失った信頼を取り戻すのは容易ではないと三人は思うのだ。

「あの男は戦う事よりも殺す事に快楽を感じている。

 放っておけば必ず同じ事を繰り返す」

手合わせして北辰は相手の持つ狂気を肌で感じていた。

「奴を戦場に出してはならぬ。此処で止めなければ……必ず災いを齎す」

北辰の言葉の重さを二人は感じ取っている。

「一つ、策があります」

「聞こう」

秋山が複雑な顔で二人に話す。

「正直、後の事を考えると頭が痛いですけど」

南雲、北辰の両名は秋山に近付き、耳を傾ける。時間が経つにつれて二人の顔は複雑になっていく。

「た、確かにその作戦は後が大変かもしれません」

「うむ、しかし此処で勝たねばならない以上は止もう得ぬ」

秋山の作戦は色々問題があるが勝率は高いと二人は判断する。

「ではこの作戦で行きます本隊は自分が、機動部隊は北辰殿に、遊撃で要の部隊は南雲に」

「承知した」

「了解しました」

「では、南雲は十時間後までに作業状況を報告してくれ。

 この報告で時間を決定する」

秋山が決断し、二人はそれぞれの艦に戻り準備を始める。

南雲は部隊を何処かに移動し、北辰も機体の調整と機動部隊の連携の意見交換を行っている。

……決戦の時が近づいていた。


同じように相手側も決戦の時を待ち望んでいた。

「頭、今度の相手は楽しめそうですか?」

「ああ、白水を倒したっていうのは間違いない。

 年寄りが焦るわけだ……あの男が相手なら身の安全が保障されないからな」

「そりゃあ、結構じゃないですか。

 あいつ等が部屋でガタガタ震えるのを見てみたいものです」

「全くだ、必死に威厳を見せようとしていたが相当不安に思っているんだろう。

 まだ自分達は大丈夫だと思っているようじゃお終いだがな」

閻水が呆れたように話すと副長はゲラゲラ笑っている。

普段高圧的に命令を出す連中が焦る姿を思うだけで気分が良いのだ。閻水も同じ気持ちなのか……嘲笑っていた。

ひとしきり嘲笑った後、閻水はポツリと呟く。

「……別によ、勝っても負けても構わないんだよ。

 ただ相手を殺した瞬間……生きていると実感出来るのさ。

 目の前の相手を殺して生を奪った時こそ……愉しくて仕方がない。

 どうしようもなく壊れていると判っていても変えられない……救いようのない男って奴だ」

「良いんじゃないっすか。

 此処にいる連中は大なり小なり……壊れていますから。

 俺達は人を殺してなんぼの暗殺者集団です……暗殺者が人を殺さずに何をするって話でしょう」

正当化する訳でもなく、当たり前のように話す副長。

この部隊に所属する者は全て何処か壊れていると言い切った。

「少なくとも自分は月臣でしたか……あいつの言う事など戯言にしか聞こえませんし、強硬派自体が嫌いですよ」

「俺もあいつ等は嫌いだね。人を殺した事もない連中が言う正義なんて嘘っぱちだしな」

「ええ、何様なんでしょうね……そういう意味では今回の事で焦っていると思うと愉快ですよ」

さげつの一件でさぞ動揺しているだろうと思うと愉快になれる。

自分達がした訳ではないが、確実に元老院と強硬派の権威は失墜する……それが愉快でたまらない。

「何人か生かしておいた方が良かったかもしれませんね」

情ではなく、木連に不和の種を蒔くべきだったと副長は告げている。

生き残った連中は元老院と強硬派を憎む。連中にとっては厄介な存在になるから面白くなると考えているだけ。

「年寄りどもの権威を貶めるには好都合だったか……失敗したかな。

 これに勝ったらもう一つか、二つ……殺しておくか?」

「そうですね。くだらない正義に踊らされる市民など幾ら死のうが関係ないです」

事も無げに話す二人だが、艦橋の乗員達も同じ気持ちなのか……クスクスと笑っていた。


―――強硬派艦隊 旗艦いかずち―――


自室で安西は秘匿回線で元老院と通信を行っている。

「では、あれはやはり……暴走ですか?」

『そうだ……不本意だがこちらの意思を無視して行われたものだ』

苛立っているのだろう、苦々しい顔で東郷が告げる。

責任は奴らにあると考えているのだろうが、そんな人物を動かしたという事実を忘れようとしているのかもしれない。

「困りますな、こちらの事も考えて下さい。

 あの男の歪んだ正義感が暴走しかねないですよ」

『それを何とかするのが君の仕事だ』

「無茶を言わんで下さい……青臭いガキの面倒ほど難しいものなんです。

 こんな事が何度も続けば、抑えきれませんよ」

『……そうか、いざという時は排除して君が指揮を執り給え』

「よろしいのですか?」

『存外に役に立たないようだから構わん。

 ところで……奴らを囮にして本陣を強襲できるかね?』

指揮権に関してはこれで終わりというように東郷は次の話題に移る。

「海藤率いる艦隊を撃破しなければ無理ですな。

 正直なところ……月臣の艦隊指揮では数がなければ無理でしょう。

 基本的に力押しで戦う男です。一応、作戦参謀として意見は述べますが正義が勝つと叫んでいる時点で……」

言葉を濁して話す安西に東郷は不愉快といった顔で告げる。

『そこを何とかするのが貴様の仕事だ』

「承知しています。ですが、このままでは無理でしょう。

 こちらが時間を稼ぎますので、奴らに強襲させる方法にするべきでは?」

『奴らを使えというのか?』

「背に腹は変えられません……勝たなければ意味がない事はご承知の筈です」

安西の意見に東郷は押し黙る。二人はしばらく黙り込んでいたが、

『判った……勝たなければならないのも事実だ』

そう言い残して東郷は通信を切る。通信が終わって部屋が静かになる。

「こりゃあ、所属する場所を間違えたかな」

安西は現状を自己分析して呟く。現有戦力で勝てると判断した自分達強硬派と新型機を極秘で製造した草壁率いる和平派。

有人機の操縦方法にあれほどの差が出るとは予想していなかった。

「イメージフィードバックシステムだったか……便利な物だな」

火星で使用している物を使うなど出来ないと安西は考えていたが、その考えは改めなければならないと思っている。

IFSを搭載している飛燕を撃墜するのに自分達の陣営の飛燕一機では難しいのだ。

一騎討ちという戦いを良しとする搭乗者にタコ殴りしろと言っても聞かないだろうが……言わなければならない。

また月臣がそんな指示を出さないし、言っても良い顔はしないと思うとため息が出る。

安西の憂鬱な時間は続きそうだった。


安西がため息を吐いている頃、月臣は近くの市民船に物資の援助を求める為に訪れていた。

弾薬の不足もあるが、とりあえず水と食料の確保を優先しなければならないと月臣は考えていた。

まだ余裕はあるがいずれは尽きる……その前に補充しておく方が良いのだ。

安西の報告では何度かの戦闘で弾薬が尽きると聞いていた。

此処に至って月臣は遺跡の便利さを実感していた……遺跡があればこんな苦労などしなかったと。

市民船に物資の援助を求めるのは心苦しいが、これも正義を守るためと思い、頭を下げようと考えていた。

だが、そんな考えなど木端微塵にするように市民船の雰囲気が変わっていた。

以前は友好的に挨拶をしていた者が手の平を返すように挨拶もせずにいる。

これにはさすがの月臣も途惑っているが、物資の不足を解消させないと理解しているので気にしないようにしていた。

「お話は理解しました。ですが……お断りいたします」

「何故だ!?」

市民船の管理を任されている市長が月臣達の話を聞いてから……拒否する。

まさか拒否されるとは思わなかった月臣は思わず叫んでいた。

「正直なところ……備蓄があまりないのです。

 開戦時に貴方方が配給用の物資を備蓄した場所を強奪したので政府が緊急配付した分で市民の生活を賄っています」

「だ、だが我々も必要としているのだ。

 この通りお願いする!」

余裕がないと告げられて困惑する月臣だが物資が必要なので頭を下げて願うが、市長達は冷めた目で見つめている。

市民船さげつの一件を知った者は強硬派が唱える正義が正しいのか……判らなくなっている。

政府が強硬派が軍を私物化したので気を付けろと警戒を促していたが、さげつの件があるまでは大丈夫だと思っていた。

だが現実は政府の言った通りになり、さげつの住民の虐殺という形になった。

軍部の暴走が如何に危険かを市民が気付き始めたのだ。

「一つお聞きしたい……何故さげつの住民を虐殺したのですか?」

「あ、あれは俺達がした訳ではない!」

「では誰がしたと言うのですか?」

「そ、それは……」

否定する月臣に問い質す市長。その目は明らかに月臣の言を信用していなかった。

政府はさげつの一件を木連中に話して、元老院の部隊によるものだと告げた。

元老院は否定していたが、強硬派に肩入れして内乱を引き起こし現在の状況にした前歴がある。

内乱が起きなければ、あのような事件は起きなかったと市長は思っていた。

当然、その胸の内は強硬派と呼ばれる月臣達に対する不審で一杯だったから、弁明など最初から期待していない。

だが、一応聞いておいて要求を拒否するという形にしておく。

問答無用で殺されるより、証拠を残して置くのだ……強硬派が如何に危険な存在であるかを。

「同胞を殺しておきながら……よくもまあ好き勝手な要求をする。

 それとも自分達に逆らう者は全て敵だと言うのでしょうか?」

「だから俺達ではない! 俺達は木連を勝利に導く為に決起したんだ!」

月臣に随行してきた士官が叫ぶ。

「だが、貴方達の決起で同士討ちという事態になり、幾人もの兵士達が亡くなっている」

士官の言葉を拒絶するように市長は話を続ける。

「何が正義だ。軍を私物化して同胞を殺していくのが正義か……お笑い種だな。

 この国は元老院の物でもなければ、逆賊の物でもないのだ」

冷ややかで怒りを押し殺した言い様に月臣達も途惑う。

「お引取り願おう……欲しいのなら奪っていけば良い。

 警備の者は最少人数にしておくから機動兵器を用いれば楽に奪えるようにしておく。

 欲しいもの、やりたい事は力尽くで行う……それが君達の流儀なのだから好きにするといい」

もう話す事は何もないと市長は告げると部屋から出て行く。

開き直った言い分の市長に月臣達は呆然として見送っていた。

「どうします?」

「……帰艦して備蓄の状況をもう一度確認する。

 今の状況で強行すれば、更に市民からの評判を落とすから無理強いは控えるしかない」

士官の問いに月臣は苦々しい顔で告げて艦隊に戻る。

強攻策は自分達の評判を落とす事になると言われて士官達も項垂れている。

さげつの事件は強硬派にとって致命的な事件へと発展していった。


―――L2コロニー―――


月奪還作戦の為に訓練中の兵士達が無重力下での訓練を日夜行っている。

「威力偵察って上手く行ってないんだろ?」

「ああ、途中でロストしている。

 木連も警戒して、簡単には侵入させてくれない」

何度も試しているが成果は挙がらずに上層部は苛立っていたが、下士官達は文句を言われてもどうしようもないと考える。

無人偵察機では動きが悪く、警戒網に掛かる。かと言って有人機の使用許可を申請すれば却下されるのだ。

戦力の損耗を防ぐという名目を出されては反論出来ない。

だったら改善策を出して欲しいというのが下士官達の偽らざる気持ちだった。

「L3を後回しというのもどうかと思うんだ」

「同感だな、後方に不安があるのは士気に影響しそうだ」

先に月という上層部の考えも理解しているが、後方に不安があるのも事実だ。

出来れば牽制に部隊を動かしてくれると助かるが、此処に来て司令官の失策が出ている。

「オセアニアが南米の援護に回ったのが痛いな」

「仕方ないだろう……司令官殿が守りを放棄したんだ。

 誰かがフォローしなければ、南米は壊滅的な打撃を受けるぞ」

「欧州はやっと再編が始まる……これも司令官殿の元部下のおかげでかなり手間取るみたいだ。

 全く……碌な事してねえな」

「アフリカも同じような状態だな……子飼いの連中が片っ端から排除されている。

 まあ役に立たない連中だから戦況には変化がないが」

下士官達の会話は軍内部の人事が中心になっている。風通しの良い組織になって欲しいと願っているようだった。

このまま戦争が続くというのは避けたいと思う士官は意外と多い。

それは市民の反戦活動が活発になり、軍に対する不信感というのが目に見えてきたのだ。

税率の引き上げによって市民の生活は少し困っているようで、敗北続きの軍人は後ろ指を指され……肩身が狭い様子だった。


その状況を作り上げた人物はというと、

「訓練を急がせろ!

 ああ、そうだ。作戦の予定を繰り上げる!」

通信機の前で部下に怒鳴り散らすように指示を出していた。

『しかし、急げと言われても極東との連携もありますので……』

「そんな事は知っている!

 極東には私が通達する!」

『で、ですが予定を繰り上げると言っても二週間くらいしか……』

「それで構わん!」

言葉を濁すように報告する部下にドーソンは苛立つように叫ぶ。

ドーソンには猶予が無かった。作戦を発動させる前に査問会が開かれる可能性が出たのだ。

今査問会が開かれると月奪還作戦は中止になりかねない。そうなれば流れを変える事もできずに終わり……そして破滅。

作戦スケジュールを早めて、宇宙に上がって作戦行動中と偽って時間を稼ぐしかないとドーソンは考えていた。

通信を切ったドーソンは苛々と部屋を歩き回る。

「何故だ? 勝つと言っているではないか……私に責任の全てを押し付けて始末する気か?」

もう誰も信じられないとドーソンは考えているが、自業自得……もしくは因果応報だと思う者が殆どだろう。

この期に及んでまだ自分に非がないと思う傲慢さには呆れる。

グルグルと部屋を歩き回ったドーソンは机に座り、ある場所へ音声のみの連絡を行った。

「私だ……ああ、準備は出来ているな…………そうだ、必要な書類は送るから……任せる」

必要な事案だけを告げると連絡を切る。

「ふん、このままで済むと思うなよ……奴等も、火星も木連も……滅びるがいい」

血走った目でブツブツと呟くドーソン。その雰囲気は精神的に追い詰められてかなり危険な状態に見える。

何をするのかは分からないが、良からぬ事だというのは判断出来た。


―――シャクヤクブリッジ―――


「セカン……状況を?」

ブリッジに赤い非常灯が点灯する。グロリアの問いにオモイカネ・セカンド――通称セカンが報告する。

『相転移エンジン一番出力45%ダウン。右舷対空システム損傷……戦闘力75%に低下』

「イズミさんは右舷の対空支援を!

 ガイくんとリョーコさんは敵戦艦への攻撃を続行、ヒカルさんはバックアップ。

 イツキさんは右舷を警戒、近付いてきた無人機の迎撃と牽制を」

『『『『『了解』』』』』

ジュンがエステの指示を出している。

「グラビティーブラストのチャージが完了次第、敵チューリップを砲撃します」

「チャージ96%、カウント始めます。

 10、9、8、7、6、5、4、3、2、チャージ完了」

「グラビティーブラストって――――!!」

カスミ、アリシアの報告の後、ユリカが主砲を発射させた。

砲撃は見事にチューリップに命中して二つに打ち砕いて海面に沈んでいく。

そして対艦フレームのエステバリスが戦艦を撃沈して、画面が切り替わりシミュレーションが終わった。

「まっ、こんなものか……さすがに単艦での地上戦はキツイわね」

ムネタケが今回のシミュレーションの内容を分析して評価する。

「そうですね、遭遇戦を想定したからチャージに手間が掛かりました」

「チューリップ2、戦艦12、その他駆逐艦タイプ18ならナデシコじゃあキツイけど、シャクヤクなら勝てるわね」

「一応最新艦です。良い結果を出してもらわないと困るんです、はい」

プロスがユリカとムネタケの会話に割り込むように話す。

自社製品を褒める気は無いだろうが事態の推移によっては最後の砦になる可能性も有るから結果を真摯に受け止めている。

「連装式グラビティーブラストは伊達じゃないんです」

「プロスさん、もう少し対空システムを増やしませんか?

 私も注意しているんですが、やっぱり貧弱な気がするんですけど」

「そうね、もう少し増やせると楽になるわね」

ユリカの意見にムネタケも賛成している。

巨砲主義というか、ネルガルの戦艦は主砲の威力は凄いがその他に色々問題がある様な気がしてならないのだ。

試作艦ナデシコは対空迎撃がお粗末だったので、シャクヤクはその点を改善してはいるがまだ十分とは言えないようだ。

「機動兵器に取り付かれるとダメね。

 ネルガルってスペック重視だから現場の意見が今一つ通らないから」

「そんな事はないと思うんですが?」

「でも実際シミュレーションでこの有様よ。

 まあ軍艦建造の実績がまだ少ないという点もあるけど」

グロリアの意見にプロスは押し黙る。北米企業が幅を利かしていた所為で軍需関係は非常に入り込み難かった。

ようやくその一角にネルガルが入り込んだのだ。軍艦建造のノウハウはまだ未熟と言われても仕方がなかった。

今回の被弾はエステの弾薬補給でフィールドを一時開放した瞬間に受けたものだった。

単艦で活動するという欠点を突かれた点はどうしても改善しなければならない。

「防空用のレールガンを増やすとなると色々厄介な事がありますので」

「……弾薬の積み込みね」

「はい、積載スペースが……」

「エステの予備フレームを減らしてみない?

 開発用は別として詰め込み過ぎのような気がするのよね」

ムネタケが気になる点を指摘する。エステバリスのフレームが多いのではないかと言うのだ。

現在、シャクヤクには対艦、0G戦、空戦、巡航戦、陸戦、砲戦の六種を搭載し、開発用のフレームも存在している。

「整備班としてはどれを減らすべきだと思う?」

『あん、そうだな……宇宙に出ないのなら0G戦は半分にしても良いと思うぞ。

 後は空戦と巡航戦を減らそうと思えば何とかなるかな』

空中戦の機体が多いとウリバタケは指摘する。

『対艦が0G戦と空戦の代わりになるんで空戦の出番は減ってるぞ。

 0G戦は宇宙に出た時に必要だから残すとして、巡航戦はデーター取りで要ると思うから置いとかねえとな』

空戦フレームはどうしても対艦フレームに比べると攻撃力が劣るので使う局面が減っているのだ。

無論、空戦フレームが悪い訳ではない。エースクラスのパイロットが居る為に対艦フレームの方に慣熟しているだけなのだ。

『ウチはパイロットが良いからな。対艦が空戦の代わりになってんだ』

「一流の人材を集めましたから」

プロスが誇らしげに話す。スカウトとしての面目躍如といった所だろう。

「じゃあ、空戦外しちゃいましょう。

 その空いたスペースに弾薬を搭載して対空用の武装を拡充しましょうね」

「……仕方ありませんな」

ユリカがあっさりと結論を出すとプロスも仕方ないといったふうに賛同する。

この艦の重要性を考えると簡単に撃沈されると困るし、被弾するという事態もない方が良いに決まっている。

(まあ、当面戦場に出さないという点を考慮して改修する方が効率が良いですな)

こうしてシャクヤクは幾つもの改修を行い、より戦艦らしくなる。

このフィードバックでネルガルの造船スキルが向上して北米軍需産業のシェアに食い込む事になるとは誰も予想しなかった。


シミュレーション終了後、グロリアはプロスに話す。

「プロスさん、あの人から連絡あったけど……ネルガルとの提携のメリットが少ないからパスだって」

「やはりそうなりますか」

「もう少し早ければ検討したけど、火星と技術提携して派遣する事にしたって」

「……遅かったという事ですか」

「ええ、そうみたいね。ほら、マーベリックって一応軍需部門もあるから戦艦建造には問題ないし」

マーベリックの軍事部門を指摘するとプロスが顔を顰めている。

「相転移機関さえ手に入ればハンデはなくなるからすぐに取り戻すって言ってたわよ」

「う〜〜む、手強い相手になるみたいですな」

「だから今のうちに戦艦の作り方を研究しておいた方がいいわよ」

「むむむ……確かに忠告承りました」

二人の会話を聞いていたブリッジメンバーは顔を合わせて話す。

「いいの、余所の企業の人みたいなものじゃないかしら?」

「うむ、その点はミスターも気にしているがオペレーターの代わりがいないのでどうしようもないのが現状だ」

ムネタケの懸念にゴートが答える。

「そうね、悪い人じゃないし〜私はいいと思うけど〜〜」

「私もそう思います」

ミナト、メグミは本人が産業スパイじゃないと言っているので、特に気にしていないと言う。

「オペレーター代表として言うけど今抜けられると困るわ」

「結構オペレーターって大変なんです。

 抜けちゃったら仕事増えるじゃないですか」

「戦闘時のオペレーターの中心なんです。

 グロリアさんがいないと困ります」

セリア、アリシア、カスミがグロリアが抜けると困ると言う。

実戦経験のない三人にすれば、戦場に出た事があるグロリアに頼る部分があった。

「提督は気にしていないの?」

ミナトの質問にゴートが答える。

「特に気にしていないようだ。提督にすれば、実戦経験のある人材をブリッジに勤務させる事に異論はないとの事だ。

 私としても経験者がいるのはありがたい……ミスターが反対しない以上は現状維持がベストだと考える」

「問題を起こさない限り、私は今のままで良いと思うけど?

 まあ問題を起こすようないい加減な人じゃないって事も確かだしね」

ゴートの意見を聞いたミナトは現状維持という結論を出すと全員が賛成している。

とりあえずマーベリックと縁のあるグロリアの存在は認められたようであった。


―――旗艦いかずち 艦橋―――


「……なるほど、確かに強攻策では不味いですな」

安西は月臣から市民船での一件を聞いて納得していた。

「俺としては一気に遺跡へと進んで、遺跡を確保するべきではないかと思うが?」

「無理ですな。第二艦隊と戦って勝てると?」

「確かに数では負けているが、俺達には木連を導く大義がある……負けはしない!」

「精神論では勝てませんよ。士気というものは大事ですが勝つためには上手い戦術を導き出さないと」

冷ややかに熱血で勝つという月臣の意見を否定する。否定された月臣はというと、

「貴様、熱血を信じていないのか!?」

瞬間湯沸かし器のように沸騰していた。安西はそんな月臣の叫びにうんざりした様子で問う。

「では聞きますが、IFS搭載の機体に対抗できる手段はありますか?

 正直、我々の飛燕では一対一ではまず勝てませんが」

「そ、それはだな「まさかとは思いますが、熱血ならば鋼の刃も弾くとか言うんじゃないですよね?」」

月臣の精神論を遮るかのように問い掛ける安西の目は冷ややかなものだった。

「それにまだ実戦配備はされていませんが新型機に対する対策も講じないと」

「あの機体か……」

北辰とその部下達が乗っていた機体を思い出して、苦々しい顔になって呟く。

「ええ、提督が操縦していた飛燕を簡単に叩きのめした機体です。

 熱血が足りなかったから勝てなかったんですか?」

夜天光に敗北する瞬間を安西は見ていたので、痛烈な皮肉となって月臣に返っていく。

「とりあえず飛燕の動きを変更するべきですな。今のままでは動きを読まれて勝てません」

「そうだな。だが条件が同じなら俺は負けていない!」

「はいはい、条件を五分にするのも優れた将の条件です。

 それが出来ない以上は提督殿は将としてはまだ未熟……死にたくないのなら、精進しなさい」

棘のある安西の言葉に月臣の苛立ちは増すばかり。

安西に文句の一つも言いたいが、結果を出していない月臣の言葉など通用しない。

「正面から戦わずに勝つ方法を考える事です。

 数が足りないなら頭を使う……それも将の仕事です」

「分かっている!」

「時間的にはまだ猶予があります……それまでに考えなければ私の策を用います。

 それでよろしいですね?」

安西はそれ以上は何も言わずに艦橋を出て行く。

「貴様の策など必要ない!」

月臣は自身の力で勝ってみせると決意して、第二艦隊との決戦に目を向けている。











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EFFです。

地球の様子を入れながら決戦前を書いています。
旧日本軍みたいな精神論で勝てると言う考えに月臣はなっていますね。
現実はそう甘いものではないんですが。
特に近代戦は情報と国力で戦うと考えます。
優れた兵器を考案しても作るだけの産業がなければ意味がないし、情報を得てもそれに対応できる環境がないと勝てません。
士気の高さは必要ですが、士気だけでは勝てないんです……戦争は数ですね。
数の劣勢をカバーする為に草壁がボソンジャンプを利用しようとしたのは間違いじゃないです。
ただ戦法は奇襲が中心になりそうですが、戦法が読まれていくとどうする気だったんでしょうか。
積尸気は片道特攻機みたいな物でしたから、数が減ればまず勝てないと思いますけど。

それでは次回でお会いしましょう。



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