信じるという事は美徳だと思う

人の悪意ではなく、何かを信じるという善意から出るからだ

ただし、そんな善意につけ込む輩もいる

そして信じるが肥大して妄信にするのも困る

妄信とは目を閉じて何も見ない事と大差はない

何も見ないというのは状況を見極めない事に繋がる

人の命を預かるものは決してしてはならない

自身を信じる者を裏切る事になりかねないからだ



僕たちの独立戦争  第百八話
著 EFF


月臣艦隊――現在、総数二千四百隻。元三千隻の内、約六百隻以上が秋山によって沈められていた。

対する海藤艦隊――総数三千六百隻。内八百隻は増援艦隊として到着した白鳥九十九の艦隊であった。

その差は千二百――このまま戦えば数の差で強硬派の敗北は間違いないと和平派は思っている。

だが、士気は未だ衰えない月臣達に海藤は存外に損害は大きくなるかもなと懸念していた。

『海藤中佐、自分の最後の説得の機会を!』

「覚悟は出来ているか?」

『……出来ています。自分は何があろうとも最後までこの戦いの結末を目を逸らさずに見届けます』

九十九が海藤に頼み込んでいる。海藤は無駄だと思うが九十九の熱意に動かされて話す。

「正直、説得できるとは思えんぞ」

『確かに無理かもしれません。ですが何もしないで決着を見届けるのは嫌です』

「これが最後だぞ……後が無いという事だけは自覚しておけ」

『……了解しました』

通信を終えると海藤はため息を吐いている。不首尾に終わると分かっているのに許可する自分の甘さが恨めしい。

「上手く行くとは思えませんが」

「その通りだろうな。俺も上手く行くとは思っていない」

新田が呆れた様子で話すと海藤も同じ意見を述べている。

「茶番としか思えません」

「まあ、最後通告と言う意味では一度は通信をしないとな」

「確かにそうですが白鳥少佐が裏切ると不味いです」

「その可能性は少ないさ。今更裏切っても部下はついてこんよ」

「まあ、そうですが」

こんな土壇場で裏切っても和平派の人員で構成されている九十九の艦隊では逆に九十九が排斥されかねない。

大義なき内乱と和平派は位置付けているから、末端の兵士も強硬派に与する事はもはや……ないだろう。

今更、説得?という冷ややかな空気が戦艦むつきの艦橋には流れていた。


「良いんですか、艦長?

 説得なんてしても、聞く耳持たないように思えるんですが」

ゆめみづきの艦橋で九十九の副官は疑問を投げかける。

九十九の副官を務めていた期間が長いので元一朗とも面識があり、聞くような人物ではないと知っているのだ。

「……分かっている…………それでも俺は、同胞を討つ前に止めたいんだ」

苦渋に塗れた顔で九十九は告げる。

九十九自身、もう手遅れだと感じているが、それでも最後の機会に賭けてみたいという気持ちがある。

「……仕方ない、それが我らの艦長ですからね」

九十九という人物を知っているだけに、無理に反対はしない。情の厚い人だからこそ従っていると言っても過言ではない。

心酔している人物の為に命を賭ける――それが男の心意気と思っているのだ。

「……すまん」

部下達に苦労を掛けていると思うと心苦しい。だが、こんな結末であっても良い筈がないと九十九は思う。

木連の未来を考えた末に元一朗は内乱を起こした。

その背景は薄汚い連中の思惑があったが、元一朗は純粋な思いで内乱に身を投じたのだ。

「回線を開いてくれ……これが最後のチャンスだ」

九十九はどんな結末になっても見届けるという悲壮な覚悟で友との会話に臨んだ。


戦艦いかずちの艦橋で月臣元一朗は敵艦隊を前に臆する事なく、勝つ事だけを考えていた。

背水の陣にも見えるが艦隊の士気は下がらずに戦う意志は万全の状態だった。

「提督、敵艦隊から通信が」

「繋げろ」

月臣の指示に敵艦隊との通信が開かれる。

『久しぶりだな、元一朗』

「九十九か、何の用だ?」

『今からでも遅くはない……投降しろ。このような大義なき内乱はもう止めるんだ』

九十九は落ち着いた様子ではっきりと告げる。元一朗は一気に激昂して叫ぶ。

「大義なき内乱だと……ふざけるなよ、九十九!」

『ふざけてなどいない! この内乱に正義などない……お前は騙されているんだ!

 いい加減、目を覚ませ!』

「正義は此処にある! 俺達が木連を正しき方向に導いてみせる!」

『では、さげつの住民の虐殺はなんだ? あれが正義だというのか?』

九十九が指摘した、市民船さげつの虐殺という言葉に元一朗は即座に否定する。

「あれは俺達ではない!」

『お前が属する組織が見せしめで行った事だろう。お前が関与しなくても、そのような事をする連中が正義なのか?

 お前自身は正義を行うという理想があるだろうが、お前に命令をする人物は本当に正義か?』

九十九が元一朗の痛いところを的確に突いてくる。

元々、元一朗は元老院を完全に信じてはいないから、彼らが正義かと問われても正義だと断言できない。

むしろ、その逆だと言いたくなりそうな信用出来ない連中なのだ。

『元一朗、お前の理想は罪なき人を殺めてまで叶えなければならんような正義なのか!?』

「黙れ、九十九! 俺は俺の信ずるままに戦い、この国の民を勝利へと導く!

 それこそが俺にとっての正義だ!」

『ふざけるなよ……罪なき人を殺めるようなものが熱血ではない!

 お前のしている事は正しくはない……悪だ!』

「お、俺が悪だというのか!?」

『そうだ! 正義とは押し付けるものではない!

 人の心の内から湧き出るものであり、家族や友人を……そして愛する人を守るものだ!』

傲慢に自分の正義を押し付けようと意固地になっている元一朗に九十九は自分なりに考えていた正義を叫ぶ。

「……お前なら分かってくれると思ったんだがな」

『いい加減、意固地になるな……同胞を殺してまで行う行為が正しいなどと叫ぶな!

 まだ間に合う。間違いはは正せばいいだろう、元一朗』

「……悪いが俺は間違っているとは思わん」

『元一朗!』

叫ぶ九十九を無視するように通信を切らせる。

「始めるぞ! 勝って我らの正義が正しいと知らしめる。

 全艦砲撃用意……熱血はここにあり!」

鼓舞するように叫びながら指示を出す。

自信の正義を疑う事なく戦うと誓うように……。


「まあ、こうなる事は最初から分かっていたんだがな」

「そうですね。月臣さんは頑固な人ですから」

新田は月臣が自身の正義に妄信していると見ていた。だから他人の言う正義は認められないし、受け入れない。

「始めるぞ。射程に入り次第、砲撃開始だ」

「了解、白鳥さんはどうします?」

「右翼を任せる……消極的に動いても構わん」

白鳥九十九は牽制に使えば良いと海藤は考えていた。白鳥に親友を討つのは荷が重いと海藤は思う。

覚悟はしている筈でも……気分のいい話でもないと考える。

「さて、これで終わらせるぞ。

 白鳥が言うように罪なき民を巻き込むのは正しくはないからな」

海藤の声に全員が市民船さげつの二の舞は嫌だと考える。

あのような光景は二度も見たくはない……そして、それを行うような陣営に組する連中を見逃しはしないと決めていた。

海藤の艦隊は緩やかに動き出し、迎え撃つように月臣の艦隊も行動する。

「ん? 索敵手……敵艦隊の総数だがおかしくないか?」

「はい、最初に発見した無人機の映像からは二千四百でしたが、現在は三百から四百ほど数が足りません」

「伏兵でしょうか?」

海藤の指摘に索敵手が偵察時の映像と比較した数の違いをはっきりと告げると、新田が行方不明の艦の動きを予測する。

「おそらく……そうだろうな。

 目の前の艦隊が攻勢防御を行いつつ、こちらの艦隊を懐に呼び込んで側面から強襲ってところだろう。

 白鳥に連絡、「伏兵あり、側面からの強襲に注意されたし」とな」

通信士が海藤の指示に沿って九十九の艦隊に警戒を促すと同時に両艦隊が射程に届く。

互いの前衛艦隊が砲撃を浴びせながら宇宙空間に光の華を咲かせている。

海藤はまるで互いの身体に牙を突き立てた獣だと思い、輝く光の華が吹き出した血の様に見えて……度し難い性だと感じる。

こんな内乱を先にあるのは滅びだと分かっているのに……避けられない自分達に苛立つ。

そして苛立ちを抑えるように殊更冷静になるように自分を言い聞かせるようにしながら、静かに戦況を見つめる。

「主砲発射! 等距離を維持しつつ、前衛の無人艦隊を撃破せよ!」

敵艦の砲撃によって微かに震動する艦橋で海藤は艦隊に命令を下す。

「前衛を撃破後、敵艦隊に肉迫して機動兵器戦を展開する。

 九郎、飛燕の各機は対艦兵装の準備を始めるように通達しろ」

伏兵が強襲しても冷静に捌いて、勝つ為に次の手を準備する。

試作された対艦兵装は想像以上に使えるとの報告がなされているから、切り札として用いる。

自身がどっしりと構える事で部下達が安心出来る事を理解している海藤は不安要素を着実に排除出来るように対策を考える。

勝つ為の武器は後方で用意してくれたのだ……海藤は負ける筈がないと確信していた。


「では、艦長。我々の艦隊は無人機を中心に撃破して……有人艦を丸裸にして投降を促す事にしましょうか?」

白鳥九十九という人物の性格は知っている。

例え、敵対しているとはいえ、同じ釜の飯を食った仲間だったのだから……出来る限り救いたいと考える人なのだ。

甘いと言われようがこれが自分達が信頼する艦長だ。

そしてそんな甘さが白鳥の美徳でもあり、自分達の艦長たる資格だと思っている。

「すまん……俺は多分、甘くて大馬鹿野郎なんだろうな」

「いいんじゃないですか……俺達はそんな艦長だからこそ共にありたいと思いますから」

「そうですよ。艦長は艦長のままであれば良いんです」

「それでこそ我らの艦長です」

励ますように話す部下達に九十九は鼻にツンと来るものがあった。

「お、お前ら……くっ……馬鹿だぞ」

「そりゃあ、大馬鹿野郎の部下ですから」

副官が何言ってんだと呆れるように話すと部下達も笑っている。

「……艦隊を動かすぞ。不器用な頑固者の目を覚まさせる為にな」

九十九が泣き笑いのような顔で指示を出すと右翼の白鳥の艦隊も本隊の海藤艦隊に呼応して砲撃を開始する。

「海藤さんには悪いが俺達は最後まで無駄な足掻きをさせてもらうぞ」

「仕方ないですね」

九十九がしようとする事は楽な戦闘ではないが、困難に立ち向かう事が男の本懐だと九十九の部下達は思っている。

部下達の心意気に感謝しつつ、九十九は無人艦を優先して撃破する事を決意した。


「海藤大佐には伏兵は通用せんと思うが、強襲して分断すればまだ勝機はある」

安西は四百隻の艦を率いて、小惑星帯に潜んでいた。

艦隊を分割するのは愚策だと思うが、一気に強襲を仕掛けて……艦隊を分断、もしくは旗艦を沈める。

そして月臣の艦隊が分断された艦隊を各個撃破する戦術を月臣に進言した。

正面から削り合う戦いでは戦力を回復させる事が出来ない自分達では敗北するとはっきり告げた。

補給の重要性に気付いた月臣は今更ではあるがこれ以上の損害を出さずに勝つ戦術を選択する必要性があったのだ。

正面決戦を望む月臣だが勝たねばならないという事は承知している。

内心では忸怩たる思いはあるが安西の進言を受け入れて、分艦隊による強襲を決断した。

無人戦艦の中でも特に足の速い型の戦艦を更に増速出来るように事前に改造するように指示を出していた。

「よし! 最大戦速で旗艦を沈める!」

安西の指示に艦隊が一気に戦場を駆け抜けて突き進むが、安西は知らなかった問題が一つ……起こった。


「やはり奇襲を仕掛けてきたか……全艦、何っ!?」

海藤は奇襲に備えようとしたが、それよりも早くに白鳥九十九の艦隊が陣形を崩してまで……迎撃した。

「ど、どういう事だ!?」

白鳥の艦隊は陣容が薄くなり、月臣の艦隊の砲撃を支え切れずにいた。

「身を挺して庇った訳じゃないな……いかん! 艦隊の一部を回して白鳥の援護を急げ!」

海藤の指示に白鳥艦隊の援護の為に火線を集中して月臣艦隊の攻撃を阻止する。


同じように安西も白鳥艦隊の迎撃の早さに驚いていた。

「どういう事だ? 何故、こうも早く動く!?」

白鳥の艦隊は陣形が大きく乱れて分断する前に……自分から分離した形になりかけている。

そこへ月臣の艦隊が猛攻するので白鳥の艦隊は損害を増しているが、安西にとって予想外の結果になっていた。

そして安西の艦隊は横合いから攻撃を受け、動きが……鈍る。

「くっ! 白鳥艦隊の迎撃を始める……まず右翼を分断する」

このまま包囲されると数の上で劣勢の自分達の方が不味いと安西は考え、まず陣形を崩した白鳥の艦隊の撃破に切り替える。

想定外の修正を安西は行うが、艦隊の乱戦は安西にとって不利な展開へと急展開する。


「火線を集中して敵艦の動きを押さえろ!」

白鳥は迅速に指示を出して、艦隊の動揺を抑えながら必死に持ち堪える。

「無人戦艦の指示が不味かったようです。どうやら近場の敵を目標にしたみたいで」

「確かにな、一気に肉迫したから慌てて攻撃したか……」

無人戦艦の撃破を最優先命令にした為に白鳥の艦隊は等距離を維持していた月臣艦隊ではなく、奇襲した安西艦隊に動いた。

「向こうも、海藤さんも驚いただろうな」

「明らかに想定外の事態でしょう。こちらとしては旗艦むつきを守れて良かったんですが……」

「……火の車になっちまったな」

一気に陣形が崩れて月臣の猛攻を受けていると思うと苦笑するしかなかった。

「艦隊を密集させて防御に専念する!

 ここが崩れると戦局が傾く可能性もある」

『無事か?』

「ええ、何とか無事です」

海藤からの通信に九十九は落ち着いて話す。

『何をした?』

「無人戦艦の撃破を最優先させた為に、遠くの艦より近場の艦に動きました」

画面に映る海藤は呆れた様子で九十九を見ている。この期に及んでまだ、そんな悠長な事をしている九十九に驚いている。

『お人好しにも程があるぞ』

「……自分でもそう思います」

一人でも多くの同胞を救いたいと願った結果が自身の艦隊の崩壊では洒落にもならない。

『こっちから艦隊を送るからもうしばらく持ち堪えろ。

 ……礼は言わんぞ』

「……はい」

既に海藤の艦隊の一部が九十九の艦隊の支援を始めている。

海藤の艦隊は奇襲した白鳥の艦隊の半数と安西の艦隊と乱戦気味になり、奇襲は失敗に終わっていた。


「九十九のお人好しが……まあ、良いだろう。

 白鳥艦隊を撃破する。全艦砲撃を敵右翼に集中しろ!」

安西の奇襲は失敗したが、敵艦隊――特に敵右翼は陣形が薄くなり、各個撃破し易くなった。

月臣はこの隙を逃さずに右翼――白鳥艦隊――をまず最初の目標に決めた。

親友ではあるが、今更戻れぬ事も覚悟している。戦場に出た以上は友人と言えど容赦はしないと決めたのだ。

月臣艦隊は一気に猛攻に転じて白鳥艦隊を噛み砕こうと牙を突き立てる。

白鳥の艦隊は周囲に待機させていた艦を集結させて、その身を縮め丸めるようにして耐え続けている。


「乱戦か……好都合だ!」

「では提督……艦載機で撃破しますか?」

新田がもう一つの牙を見せつけようと話すと海藤はニヤリと笑って告げる。

「予定変更だ。まずこの張り付いた艦隊を撃破する。

 九郎、飛燕を出せ。少々物足りないが対艦兵装の恐ろしさを見せてやる!」

出番を待っていた九郎、飛燕の操縦者達は自分達の出番を聞いて続々と発進許可を求めて出撃する。

解き放たれた猛禽は加速して鈍重な獣に研ぎ澄まされた爪を持って……引き裂く。


「こ、こっちも飛燕を出して迎撃させるぞ」

慌てたのは安西であった。彼は強襲後、一気に離脱する予定だったが乱戦になり……動きを封じられたのだ。

自分達の飛燕と海藤のIFS対応の飛燕では勝ち目は薄く、最新の九郎は更に手強い存在だから焦る。

「最大戦速で離脱する! このまま包囲されたままでは長くは持たんぞ」

今は飛燕と無人機と戦艦で対空は持ち堪えられるが、時間が掛かれば、掛かるだけ……危険度は上昇して行く。

「一番包囲の薄い場所を探して、そこに砲火を集めて穴を開ける!」

安西の指示に艦橋の索敵手は最も薄い場所を探す。

「三時の方向が薄いです!」

「そこから脱出して本隊に合流する!

 機関出力最大! 最大戦速で艦隊を進ませろ!」

安西の命令に艦隊は迅速に行動する。

火力を集めて、包囲網の一角を崩して一気に離脱しようとしたが、それこそが海藤が即席で作った……罠だった。

進もうとする艦隊の砲火は前方の空いた空間に無駄撃ちし、側面から九郎、飛燕が対艦兵装で艦隊の頭を撃沈して足止める。

先頭の艦の残骸を避ける為に急制動を掛けるが勢いを止める事は容易ではなかった。

一気に離脱しようとしたおかげで艦隊の動きはまとまらず、各艦は思い思いの方向に回避して衝突する。

乱れた足並みを更に乱れさせるように最後尾の艦も対艦兵装で撃沈して、前後への動きを封じる。

側面からは対艦兵装を装備した九郎、飛燕が攻撃を加えている。

対空迎撃は必死に行っているが、嘲笑うように攻撃の手は苛烈さを増している。

崩れた包囲網は即座に閉じられ……完全に逃げ場を失い、安西の艦隊の命運は閉じようとしていた。


「不味い! 分艦隊の脱出の支援を!」

月臣は安西が離脱出来ないと判断すると慌てて包囲網の一角を外から崩そうとした。

『無駄な事をするな!』

だが、安西は月臣の行動を制止した。

『いいか、俺達の艦隊を救う前に白鳥の分艦隊を落とせ!』

「馬鹿を言うな! 味方を見殺しにしろというのか!?」

『これは戦争だぞ……捨て駒を気にして勝てるなどという甘さを捨てろ!』

自身を捨て駒と言い放つ安西に月臣は絶句する。

『いつまで甘えたままで戦う気だ! 俺達の艦隊四百と白鳥の艦隊三分の二以上……交換するには丁度良いだろ』

不敵に笑って失う艦艇の数を話す安西。

白鳥艦隊の不規則な動きで奇襲は失敗したが、白鳥艦隊は大打撃を受けて既に構成している無人戦艦の半数を失っていた。

そして海藤の艦隊も打撃を受けている……分断こそ出来なかったが状況は悪くないと話すのだ。

確かに数ではこちらが少ないが人の命を数で割り切るほど……月臣は非情になれない。

「し、しかし……」

『ったく……お前はどこまで綺麗事で済ます心算だ。

 勝ちたいと本気で願うなら……冷酷に、非情になれ!』

月臣の狼狽する姿に呆れた顔で話すと平然と勝つ為に自分を切り捨てろと告げる。

『勝ちたいなら……甘えを捨てんと何も得られんぞ』

「ま、待て!」

そう言い放って安西は強制的に通信を閉じて足を止めて攻撃を続ける……少しでも敵艦隊の数を減らす為に。

「……攻撃を続行する!」

月臣は死を覚悟した安西の行動に見つめながら攻撃の再開を告げる。

いかずちの艦橋の部下は月臣の苦渋の決断に逆らう事なく、攻撃続行の指示を出した。


「甘ちゃんだ……あんなのを旗印に選んだ元老院は滅ぶべくして滅ぶんだろうな」

安西は艦橋で一人呟いている。部下達は退艦させた……運が良ければ捕虜として生き残れるだろう。

「そんな元老院に従った自分も甘いか……くく、これでは人の事は言えんな」

冷静に割り切れば良かったが、柵――浮世の義理に逆らえなかった自分の甘さを嘲笑う。

艦が攻撃を受けて大きく揺れる。艦橋に火の手が上がり、安西は自分の最期が来た事を知った。

安西卓司――享年32才、分艦隊旗艦と共に戦死。


月臣の艦隊の猛攻に白鳥の艦隊は崩壊しかけていた。

ここで終わりかと白鳥が覚悟した時、海藤の艦隊が月臣の艦隊に砲火を集中させて怯ませる隙になんとか……合流した。

『た、助かりました』

「気にするな。こっちも助かった。

 とりあえず後方に下がって残存艦を集めて再編しろ……向こうも距離を取って睨み合う形になっている」

『……了解しました』

不満そうに話す九十九に海藤ははっきりと告げる。

「もう一度、説得したいのだろうが……あいつは引くべき時を見誤った。

 止めたいなら力尽くで押さえるしかない」

意固地に自身の正義に拘って、もう引けなくなっていると海藤は思っている。

『それでも説得したいと願う自分は愚か者ですか?』

「さあな、友人を救いたいっていう気持ちを否定する気はない。

 ただ俺達は軍人だ……文民統制って言葉がある以上は勝手は許されんのも事実だ。

 主義主張を叫ぶのは構わんが、政府の方針に逆らって反乱をするのはどうかと思うぞ」

『…………』

海藤の言い分は正論だったので月臣元一朗の行動は正しいとは言えないのだ。

「最後通告をした時点で説得の機会は失った。

 こちらが折れる事は出来ない以上は向こうが折れるか……こちらが敗北するかだ」

お互いの主張は平行線を辿り、交わる事はない。

対話から平和を望む者と力で自分達の主張を正当化する者……彼らが実権を得れば、この戦争は泥沼になる事は決まってる。

聞く耳持たない地球と戦うのは仕方がないが、火星は対話する用意を整えたのだ。

その彼らさえ攻撃するというのは正義とは言えない。

ましてや火星はこちらの本拠地まで侵攻して、攻撃できる力があるのだ。本土防衛を考えなかった自分達は不利だった。

距離によって地球は攻撃できないから安心しきっていたが、それもどうなるか……先行きは不透明なのだ。

「誰だって不本意な事はあるし、苦いものを飲み干さなければならない時もある……それが出来るのが大人だ。

 軍人は軽挙妄動は絶対に許されないという事を忘れるな。

 月臣元一朗は割り切れずに駄々を捏ねた……ただの子供だ」

正義と言う言葉で理論武装した事が海藤には許せない。自身の行動を正義と言う言葉で美化するなど論外なのだ。

「次で終わらせる……これ以上、月にいる高木少将を孤立させる訳には行かない」

その意見に九十九は何も言えなくなる。高木達は増援もなく、現有戦力で戦い続けなければならない。

それがどれ程、大変な事なのか……補給の重要性を再認識した九十九には理解出来る。

「月からの報告では地球も反抗作戦を実施する気だ。

 時間の猶予があれば説得でも構わないが、その時間が我々には……無い」

時間切れという理由も九十九には逆風だった。時間があれば、元一朗も冷静に周囲を見つめ直す事も出来るかもしれない。

だが、その時間さえも無くなった……打つ手が無いのかと九十九は挫けそうになっていた。


同じ頃、月臣は艦隊の再編を急がせていた。

詳しい数は出てないが、こちらの艦隊が五百くらい消失し、敵艦隊は七百から八百の損害を出している。

安西は死兵となって防御よりも攻撃に重点を置いたので、海藤艦隊の内部に牙と爪を突き立てて傷付けたようなものだった。

「損傷した無人戦艦は応急修理して戦闘続行可能な物を優先して前面に出せ!

 中破、大破した艦で航行可能なやつは特攻させて目晦ましに使う!」

爆発した際に索敵の目を晦ませる事が出来るから有効に活用すると月臣は言う。

無人機は全て相手を確認してから攻撃する性質があるから目が見えない状態では動きがどうしても鈍る。

そこを上手く利用して敵艦隊の目を晦ませて攻撃力を僅かでも低下させる気なのだ。

月臣は勝ちたいと心の底から願う……犠牲者の為に。

だが、自分が決起しなければ犠牲者が出なかった可能性については考えが……及ばなかった。


海藤はむつきの艦橋で現状の確認をする。

「白鳥艦隊の損害は?」

「約五百隻は出ています。そして我々の方が約二百隻程です」

新田が推定での損害を報告する。その表情は嬉しさはなく、苦々しい顔だった。

「まさか死兵になってまで戦うとは思いませんでした。もしや最初から捨て駒だったのでしょうか?」

「それはないだろう。月臣は甘ちゃんだ、捨て駒など考えもしないだろう。

 これは分艦隊の頭が決断したんだろう。

 だが問題はこれからだな……これが原因で月臣が非情に割り切れるようになると厄介かもな」

「確かにそうですね」

海藤の言いたい事は理解出来る。月臣は自身が正義だと考えているので正面から正々堂々と戦う事を念頭に置いて行動する。

だから、どう行動するか読み易く……そこを突くのが一番有効だったが、これでどうなるか判らなくなるかもしれない。

補給の重要性も理解しただろう。次があれば手強くなると新田は考える。

「まあ、これで終わらせるから心配するような事態にはならんだろうがな」

新田の懸念を無意味なものだと言わんばかりに海藤が話す。

「これで終わらせれば良いだけですね」

「そういう事だ。艦隊の再編は完了したから始めるか?」

「全艦砲撃用意!」

「内乱を終わられせる……発進せよ」

両陣営の艦隊は再編を終えた瞬間……第二回戦の始まりだった。


「増援の分艦隊はほぼ黙らした……次は本隊を黙らせて見せる!」

元一朗の宣言と同時に砲撃が始まり、前衛の無人艦が敵艦隊の攻撃に撃沈するが相手陣営も同じように撃沈していた。

「揺さぶりを掛けんと陣形は崩れんか……どうする?」

元一朗は誰にも聞こえないほどの小さな音量で自問自答するように呟く。

同じように戦っては数の上で不利な自分達の方が先に力尽きるのは明白であり、これ以上の戦闘は難しいのだ。

安西は後二回と話していた……弾薬が尽きるのは時間の問題だ。

これで決着をつけて、しんげつへ帰還。そして補給して最進撃という選択を取らなければならない。

もう後がないという背水の陣の覚悟で月臣達は戦いに臨んでいた。


「あまり気が進まんが……乱戦に持ち込んで機動兵器戦でとどめか?」

海藤は接近戦から対艦兵装を用いての攻撃に切り替えるべきか、悩んでいる。

出来る限り操縦者の損耗を避けたいと思っているし、無人艦を一隻でも多く取り戻したいという点も考慮したかった。

「短期決戦です。長期化を避けたい以上は損耗に関しては目を瞑るべきでは?」

新田の意見は間違ってはいないが正しいとも言えないと海藤は考えるが、長期化を避けるという点を優先するのが重要課題。

「機動兵器戦を用意しろ……出し惜しみはしない。

 動かせるもの、全て使用してケリをつける!」

「了解! 全艦に通達、ジン、九郎、飛燕を出せ!」

全艦に通達が行われる。戦艦の持つ牙ではなく、もう一つの鋭い牙と爪が月臣の艦隊に容赦なく突き立てられる事になった。


敵艦隊から発進する機動兵器の報告を聞いて月臣は舌打ちする。

「ちっ! 出て来たか……こちらもジン、飛燕を出して迎撃する!

 一騎討ちは絶対にするな、二機、もしくは三機で囲むようにして落とせ!」

操縦性の違いはこの身で体験している……少々の技量差では勝ち目はないのだ。

そして、その機体が装備している対艦兵装は非常に厄介な武器だった。

「防空警戒を厳重にしろ! 無人艦を重ねて死角を減らすんだ」

艦毎に連携させて死角を減らすように指示を出して、艦隊の奥深くまでの侵入を阻止しようとさせる。

九郎と対艦兵装の映像を見るたびに苛立つ……お前の判断の甘さが破滅を招いたと嘲笑うようで。

敵機動兵器は味方艦と連携して着実に戦艦を撃沈して行く。

完全に戦術を立案して一騎討ちなどという方法ではなく、戦争を勝ち抜くための手段を模索するように。

陣形をキチンと組み、協力して敵を討ち滅ぼす……其処には一欠片の甘さもない。


「……終わりだな。そしてつくづく……度し難い」

戦艦むつきの艦橋で海藤は勝敗の行方を知り、安堵すると同時に同士討ちという自分達の馬鹿さ加減に怒りを覚えていた。

砲撃を集中して艦隊に穴を開けて、機動兵器を突入させる。

そして入り込んだ機動兵器は着実に穴を広げて、艦隊に綻びを作り上げる。

木連の戦術は新しい局面に移行しつつあった。

対艦兵装の登場で戦艦での砲撃戦ではなく、機動兵器戦が主流になりそうな予感がする。

しかし、それは人的資源の消耗という危険な側面を秘めていると海藤は考える。

(今以上に防御力の向上と攻撃力の強化だけではなく、機動性の向上か……課題は山積みだな。

 操縦者の生存率の向上は絶対条件になる……我が国は人的資源は貴重だからな)

木連は小国に過ぎないと理解している。閣下が勝つ為に火星の遺跡を得ようとしたのもその欠点の克服だと承知している。

その目論見は潰えた……次の方法を改めて模索しなければならないのだ。

計らずも和平への糸口は出来たが、これからが正念場になると海藤は知っている。

火星と共同歩調を取りつつ、力を充実させる――これが現段階での木連が選択した最善の道筋だ。

その為には強硬派と元老院の排斥はどうしても必須であり、強硬派の戦力の損失と発言力の低下は成功しつつある。

生き汚い元老院の排斥が面倒になるかと思ったが……元老院は失策を行い、その名声は失われつつある。

「もう一幕……あるんだろうな。

 薄汚い連中は生き残る為に……無駄な足掻きをするだろう」

「無駄な足掻きですか?」

ぽつりと零した呟きに新田が問い掛ける。

「ああ……例えば、あそこにいる男を自分達で始末して、脅されたと言うんじゃないか」

「はあ? そんな事をしても誰も信じませんよ」

呆れを含んだ新田の意見に海藤は頷く。

「俺もそう思うが連中はそう思うかどうかは判らん」

「では月臣さんは憐れですね……利用されて、意味がなくなれば捨てられるとは」

「もう少し冷静に見れば判断できるのだが……それを怠った。

 木連人は基本的に人を信じやすい傾向があるからな……悪辣な連中に騙されないようにしないと」

「今後の課題ですね」

「そういう事だ」

二人とも戦況から眼を離さずに会話している……一瞬の判断が生死を分かつという事を知っているのだ。

波乱の第二幕――無駄な足掻きと話す海藤の言葉通りになるかは……これからだった。











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EFFです。

とりあえず武力での決戦はほぼ終わりました。
いよいよ内乱の終局へと進み……地球VS木連、火星連合艦隊戦になるんでしょうか?(オ〜イ)
いや、一応その心算なんですけど捻くれてますからね〜〜。

では次回をお楽しみにして下さい。

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