僕たちの独立戦争  外伝5
EFF


―――ジュールの受難の日―――


「……で、これはどういう意図で行われているのでしょうか?」

不機嫌さを隠さずにジュールは全員に問い掛ける。ジュールは椅子に縛られた状態でこの場に居たのだ。

「さあ、俺にも分からんが」

聞かれたクロノも少々困惑しながら席に着いてジュールに答える。

「大体ですね、何故、俺は縛られた状態で居なければならないんですか?」

「いや、俺はどうしても連れて来てくれと頼まれたから、一番手っ取り早い方法を選択しただけだ」

クロノがジュールを取り押さえて此処まで連れて来たのだ。

ジュールもそれなりの強さがあるがクロノ相手にはまだ敵わなかったようだ。

「少々不都合があると思いますがお聞きしたい事がありますので」

ジェイクが恭しく頭を下げてフォローするとロバートとシオンは大体の状況を理解したのか苦笑していた。

「さて……ジュール君といったな」

「…………」

ピースランド国王の問い掛けにジュールは沈黙で答える。拉致監禁紛いの行為をされる謂れはないので答える気がない。

(一応、ルリちゃんのお父さんだから反撃しないが……)

「まあいい。ところでジュール君……うちのルリの事をどう思うかね?」

ジュールの沈黙を特に気にせず国王は聞くと、

「はあ?」

いきなりルリの事を聞かれてジュールは困惑している。

(これって……ちょ、ちょっと待てよ! もしかしてそういう意味なのか!?)

何故自分がこの場に連れて来られたのかを知ってジュールはがっくりと力が抜ける。

(……勘弁してくれ。いきなりこれはないだろう)

隣に座らされているクロノは状況を知ってニヤニヤとした顔でジュール達を見ていた。

「可愛い娘が気になっている人物……親としては一度会ってみたかったのだよ」

(お、親馬鹿だ……間違いなく、この人……親馬鹿だよ)

ジュールは冷や汗が止まらなくなっている。

このパターンから考えて、どんなふうに話しても自分の立場は好転しないと理解する。

かといって沈黙を維持しても状況は最悪な方向に進むだろうと思う。

(爺さんの援護は当てにならない……兄さんも頼りになるか判断できない。

 もしかしてこれが四面楚歌という事なんだろうな……ヤバッ、現実逃避しかけてる。

 しっかりしろ、ジュール。ここで逃避すれば、親馬鹿?共の宴に巻き込まれて……死ぬぞ)

悲壮な決意を胸にジュールは上手く立ち回ろうと考えている。

……第一回親馬鹿?頂上決戦の始まりだった。


「我が家も大事な孫娘が居ますが……これが少々問題児でな、悪戯好きで問題ばかり起こして、困った子だが憎めないのだ。

 もう一人も手が掛からない子でもう少し私に甘えて欲しいと常々思うのだが」

ロバートが自身の心境を話す。後ろで控えているミハイルは呆れた様子で聞いている。

(帰りたい……何が悲しくて親馬鹿、孫馬鹿の集いに居なければならないのか?)

「うんうん、そうだろう。うちの娘は親を放り出して男と手に手を取って駆け落ちする始末。

 ……育て方を間違えたかな。だが、孫のサラはとても出来た子で私は一刻も早く平和にして側にいたいと思うのだ。

 今度は育て方を間違えぬ――どこぞの馬の骨などには渡さん! わしが見込んだ男に託すのだ!!」

ロベリアはシオンの意見を聞いて一部?賛成しているのか頷いている。

(確かに平和になってもらわんと家族サービスも出来やしない……先生、期待してますよ)

(いや、もう手遅れだと思うけど……サラちゃん、クオーツにぞっこんだし。

 そういえば、俺もお義父さんには苦労したな……エドは理解があると思うがシオンさんは大丈夫かな?)

クロノは自身の経験と火星に居るサラの父親であるエドワードを思い浮かべてこの件は黙っていようと思った。

迂闊に口にしてシオンに卒倒でもされたら困るから……。

「そうだな、サラちゃんはいい子だった。

 ところでクロノ君……私としてはそろそろ曾孫の顔が見たいと思っているのだが……できれば女の子がいい」

「!! そ、それは……」

「今度こそ、蝶よ花よといった可憐な女の子に……深窓のご令嬢にしたいと思うのだが」

夢を見るようにロバートは目を閉じて話している。言われたクロノは冷や汗をダラダラと流して聞いている。

そういう事をアクアに言われるとイネスも刺激を受けてややこしい状況になりかねないからだ。

(ま、まあ確かにアクア様、シャロン様は色々問題がありましたから、ロバート様のお気持ちは多少は分かりますが)

ミハイルは何も言わずに二人を見ている。だが、アクアの子供というのは非常に興味がある。

(出来れば問題児にならないと良いですね……クロノさん、期待してますよ。

 私個人の意見としましては男子がいい……次の次にクリムゾンのトップに据えたいですな。

 では何時でも良い様に準備だけは進めましょうか?……どちらに似ても優秀なお子様でしょうから。

 シャロン様のお子様とアクア様のお子様をくっつけるというのも捨てがたい。

 だが、一番はルリ様でしたか……ジュール君が上手くそういう関係になればピースランドとの結びつきが生まれる。

 ふむ、ジュール君……陰ながら期待してますよ)

幾つかの考えからミハイルはジュールがルリと結ばれる事が望ましいと考える。

(ルリ様のお気持ちを確かめた上で密かにバックアップをするべきでしょうか?

 アクア様のご意向も確認しないと……全てはルリ様も御心のままに。

 まあ、ジュール君にはすまないと思いますが将来性豊かな少女に望まれて一緒になれるなら文句は無いか)

果報者ですなとミハイルは思う。ミハイルもこの空間の毒気に晒された所為か……おかしな思考展開をしていた。

「それは良いですな、こう……甘えてくれる娘というものは可愛くて目に入れても痛くはないものだ」

国王陛下が自分の思いを併せて話すとシオンもロバートも頷いている。

「全くですな……甘えてくれる孫というのはいいですな。

 うちのサラももう少し甘えて欲しいのだが」

「アクアも幼い頃は会う度に私の後をピッタリと付いて来たものだ。

 あの頃の事は今でも大事に記憶しているよ」

「ああ、ラピス達も同じように私の側に来ては甘えてくれますよ。

 女の子は日に日に可愛く、綺麗になるものですから。

 ……ルリちゃんなど年頃の少女になり始めてますから目が離せなくなりますな」

クロノの意見にジェイクは思う。

(確かにそうかもしれませぬ。午後の柔らかな陽射しの中、お年頃の可憐な姫様の側に控える執事……素晴らしいですな)

ジェイクは自分の想像した光景に満足していた。

ルリの容姿は妖精の様に可憐でその背後で控える老執事……まるで一枚の絵画の様だと思うと身体中に歓喜が湧き上がる。

「美しく可憐な姫様というのは得難いもの……」

思わずジェイクが呟いた言葉に国王陛下も賛同する。

「そうだろう、そうだろう。ルリのような可愛い姫など滅多に居らぬぞ。

 そうは思わないかね……ジュール君」

「え、ええ、確かにルリちゃんは可愛い子ですね(勘弁してくれ……兄さん、助けて!)」

展開次第では自分にとって非常に不味い状況になるとジュールは直感していた。

「いい子ですよ。日に日に綺麗になっていく……目を瞠る事が多々ありますね。

 出来得る限り記録はお渡ししますので期待して下さい」

ジュールの魂の声に反応したのか、クロノがフォローの手を差し伸べる。

「ぜひ送って差し上げなさい、クロノ君。親というものはいつまで経っても子供の心配をするのだよ。

 ましてやあれほど可憐な姫ならば心配の種は尽きないものだ」

「……確かに心配だ。クロノ君、サラに悪い虫が付かないように気を付けてくれ給え」

「は、はあ……(う〜む、これは不味いな。クオーツの事をどう言えばいいんだろうか)」

(兄さん……どうする気ですか? 

 クオーツの事ですよ、これってピンチって奴なのか? 俺、なんか世界に嫌われる事したか……)

天を仰いでジュールは自分を取り巻く環境から逃げたいと痛感している。

「そういえば、クロノ殿。貴方の子供達は皆、可愛い子ですな。

 どうでしょう……うちの王子の嫁に貰えませぬか?」

「なっ! ダメです! うちの子は嫁になどやりませんよ。ずっと側に居るんですから」

クロノが思わずダメ出しをするとジュールとミハイルを除いた全員がため息を吐いている。

「そう言っていられるのも今のうちだよ、クロノ君。

 男親というものは大きくなるにつれて疎まれるものなんだよ」

シオンが深いため息を吐きながら話すとロバートと国王陛下の雰囲気が暗く重くなって行く。

……特に国王陛下は暗い影が差し込んでいた。

「うちの娘はそうだった……小さい頃はお父さんのお嫁さんになるって言って、いつも甘えてくれたよ。

 それが大きくなるにつれてお父さんよりボーイフレンドを大事にする……結構きついよ、これは」

(や〜め〜て〜……その方向に話を持って行かないでくれ〜〜ヤバイんだよ)

ジュールが縄を外してこの場から逃げようとしている。このまま行けば国王陛下の恨み言を延々と聞かされそうだったから。

「貴様かっ! 貴様が私からルリを奪うのか!? どうなんだ答えろ!?」

「な、何を言うんですか!? ルリちゃんはまだ子供なんですよ!

 俺が子供に手を出すようなそんな趣味の持ち主に見えるんですか!?」

胸倉を掴まれて振り回されるジュールは慌てて答える。

「なんだと―――!? うちのルリが可愛くないというのか!?」

「なんでそうなる!?」

二人が暴走気味に話している側でクロノ達は会話を続けている。

「そんなラピスが離れて行くと言うのですか?」

驚愕の表情でクロノが聞くと、

「ああ、間違いなく……離れるね。所詮、男親とはそういうものだよ」

シオンが自分の体験談を話す。それを聞いていたロバートは難しい顔で話す。

「では、サラちゃんもお前を疎ましく思うようになるのか?」

「ば、馬鹿な!? そんな事はあり得ん!!」

「そ、そうですよ。うちの子に限ってそんな事はありません」

焦るシオンに慌てて同意するクロノ。部屋は次第に混沌と化して行く。


「よろしいのですか?……このままにして」

周囲を見渡してミハイルが落ち着いた様子のジェイクに尋ねる。ミハイルは四人の親馬鹿?を見て疲れ気味だった。

「構いません……少々ハメを外しておられますが、偶にはこういう日があってもよろしいかと」

ロベリアとミハイルに紅茶を渡しながらジェイクは楽しそうに見ている。

「執事の仕事などは側で見守り続ける事が基本ですから姫様が何処へ行かれようとも付いて行くだけです。

 無論、お側で立派な姫に育てるのは当たり前の事ですが」

「……大変な仕事なんですな。一生ものの仕事とは……」

「ええ、その代わり側で成長を見る事が出来るという特権がありますが」

ロベリアが感嘆した様子で聞いている。ジェイクは誇らしげに執事の仕事を話していた。


この後、あまりの騒がしさにアセリア王妃が部屋に乗り込んで全員に注意するという事態に発展する。

……ジュールは更にアセリア王妃の尋問を受けて真っ白に燃え尽きた事は言うまでもなかった。

そしてクロノはアセリア王妃に依頼されてルリの日常の様子を送る事になった。

アセリア王妃から事の顛末を聞いたアクアは真っ赤な顔で、イネスもちょっと困った顔でクロノに告げる。

「あ、あの、クロノがその…望むなら……私はいつでもオッケーですから」

「まあ、立場は違うけど、お兄ちゃんが良ければ私もいいわよ」

クロノがこの問いにどう答えたのか……それは二人の秘密だった。

ただ二人は嬉しそうにして、クロノが疲れ気味だったと……記載しておく。


「ジュールさん……何があったんですか?」

食事時に疲れた様子のジュールにルリが尋ねると、

「気、気にしないでくれ、ルリちゃん。ちょっと国王陛下と話し合いがあっただけだから……」

「話し合いですか?…………ま、まさかっ!?」

「えっ? えっ、えっと……どうかしたのか?」

急に赤い顔になって俯いたルリにジュールは嫌な予感に囚われる。

「ルナさんに聞いたんですけど、男の人が……お、お父様に会うのはプ「ちっ、違う! 絶対、違うぞ!!」ですよね?」

ジュールは一番重要な部分に大声を出して周囲に聞かれないように誤魔化した。

だが、周囲に居る者にははっきりと知られていたようで、せめてもの情けとしてジュール達を見ないようにしていた。

何故なら会った後の話し合いの内容が容易に想像できたのだ。

(ジュールも大変だ……心配症のお父さんを相手にするのは。

 国王と言っても娘が心配なのは変わらないという事か……父親は大変だ)

おそらく娘の側にいる悪い虫とジュールは思われているのだろうと考えると不憫な奴と思い同情している。

「(ル、ルナ! 余計な事を教えるなよ)な、なあ、ルリちゃん、どうしてそう思ったんだい?」

「……ルナさんが貸してくれた少女マンガという物にそういうシチュエーションがありましたから」

ジュールに否定されてルリは少々不満気に話している。

(ル、ルナ! よ、余計な間違った知識を与えるなよ。ルリちゃんが間違った方向に進んだらどうするんだ?)

「どうかしましたか、ジュールさん?」

「い、いやっ。なんでもないよ」

ルナに対して心の中で文句を言いつつジュールは不機嫌なルリと相対している。

まるで綱渡りをしているようだとジュールは思っている。

(不用意な発言をしたら命は無いかもしれんな……でも、ルリちゃんが幸せになって欲しいと思うのは俺も同じだ。

 可愛い子だと思うしな……待てよ、これって兄馬鹿って事なのか?

 まさかな……俺がシスコンのシンと同類か…………嘘だろ?)

疲れているのか思いも因らない思考展開をしたジュールは変な方向に考えを移動させている。

「ま、まあ、お母さん達がルリちゃんを大事に思っているって分かったからいいか」

不味い方向に考えを巡らせないようにジュールはそう結論付けて思考を閉じる。

「母様……変なこと言ってませんよね?」

「な、何、変な事って?」

アセリアの尋問?を思い出して逃げ腰気味のジュールが聞き返す。

「……本気で言っていますか?」

ジト目で聞いてくるルリにジュールは退路を絶たれた気にさせられる。

「ま、まあ、なんだ。ルリちゃんがみんなから大切に想われているのが分かって良かったよ。

 ちょ、ちょっと親馬鹿気味なのが心配だけど……」

「そんなふうには見えませんが?」

ルリから見れば、父親というのは威厳ある国王にしか見えない。

「そんな事はないさ。ルリちゃんがとっても大事だと話していたよ(言葉でなく……行動でね)」

「だとすれば……嬉しいです」

大変な一日ではあったが、最後にルリの微笑みを見られて良かったと思うジュールであった。


第一回親馬鹿頂上決戦は混沌のままに閉幕した……第二回は未定である。

「ふむ、もう一度招待するべきかな?」

今ひとつ収穫がないと感じている国王が呟くとジェイクが追従する。

「よろしいかと思います。姫様もお誘いして午後のお茶会など如何でしょうか?」

「それは良いですね。アクアさんとルリの妹達もお招きしましょう。

 クロノさんの視点ではない、ルリの日常も知りたいものです」

アセリアも一人娘のルリの事をアクアから聞いてみたいと思い、ジェイクの意見に賛成する。

……どうやら第二回の予定が決まりそうである。

ジュールの受難の日々はまだまだ続きそうである。









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どうもEFFです。

時系列で言うと八十一話以降ですね。
外伝はどうも脱線気味な話が多いです。
ガス抜きというか、気分転換として書いている部分がありますね。
ルリに振り回されながらも、頼られているジュール。
彼の受難の日々というものを書くのは楽しいですね。

それでは本編でお会いしましょう。



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