本部に帰ってきた冬月はリツコからの報告を聞いて頭を痛めていた。

「それは本当かね?」
「残念ながら事実です。一応、注意はしていたんですが一向に態度を改めなかった葛城三佐の所為ですが」
「……葛城三佐をここへ」

ゲンドウが告げると冬月が発令所経由でミサトに来るように伝える。

「頭の痛い話だな。
 ロンギヌスの槍の件をあの子に話さねばならんというのに」
「その件でしたら……了承させました」
「ほ、本当かね?」
「ええ、少々手こずりましたが、このままでは本体が保てないとリリスから言われたそうです。
 最悪は初号機をベースに新生すれば問題ないみたいですが……シンジ君を失うのは避けたいと」
「どういう意味だ?」

ゲンドウがリツコに問う。冬月も同じ気持ちなのか、リツコに顔を向けている。

「容量の問題だそうで。
 リリス本体の魂をコアにダウンロードすると他の魂は上書きされるので消えるそうです」
「……間違いないのか?」
「こればかりは検証のしようがありませんので」
「ユイ君はどうなるのかな」
「リリス曰く、要らないとの事です」

ギリギリと歯軋りする顔のゲンドウから瘴気が噴き出ている。
自分の妻を勝手に取り込みながら、不要などと言われて我慢出来ない事にリツコは呆れを含んだ視線で見ている。
散々、人を踏み躙るような行為をしていたくせに、自分が踏み躙られるのは我慢出来ないなど身勝手すぎると思っている。
そんなゲンドウを見ながら報告を続ける。

「ロンギヌスの槍を使えば、力を溜め込んで一気に再生出来るようになるそうです。
 なんでも再生する力よりも抜け落ちる力の方が多くて維持が出来ないと」
「槍が制御棒代わりになるというのかね」
「みたいです」
「赤木博士……サルベージは可能か?」
「分かりません」
「なんだと?」

一縷の望みと言わんばかりにリツコに問うゲンドウだが、あっさりとリツコは突き放すような言い方で答える。

「コアには変化はありません。
 以前、お二人が見たユイさんはご本人の遺伝子情報が正確に複製されていました事はご存知ですね」
「ああ、報告書は読ませてもらったよ」

冬月がゲンドウの代わりに告げる。
サングラス越しだがゲンドウの視線は突き刺すくらいの鋭さでリツコに向けられている。
リツコはと言えば、全然気付いていないのか……手元の報告書を見ながら冬月に話している。

「削り取ったという魂がどの程度回復しているのかが問題でしょう。
 私個人としても聞きたいと思いますが、変に刺激する訳にも行きませんので」
「なるほど……確かに変に刺激させて、また削りかねないというのかね」
「あまり良い感情を持っていません。司令が以前、監視した事も一因ですが」
「……自業自得だな」

困った顔で話すリツコに冬月がゲンドウを見ながら答えるとミサトが入室を求めてきた。

「葛城です」
「入りたまえ」

冬月がドアのロックを解除してミサトを入室させる。

「さっそくだが、作戦部に造反が起きたのは間違いないかね」

来るべき時が来たとミサトは思った。
リツコが告げ口したかと思うと怒りたくなるが、不協和音を残したままで戦闘に入るのは避けたいと考えたのだろう。
自身が招いた事なのだ。リツコに当たるのはお門違いだと思うが、友達なんだから言わないで欲しかったとも思う。
ミサトは覚悟を決めて報告する。

「間違いありません。自身の不徳が招いた事なので部下には寛大な処置を」
「分かった……沙汰があるまで謹慎処分とする」
「……申し訳ありません」
「さがりたまえ」

冬月が告げるとミサトは深く頭を下げて部屋を出て行く。

「どうする心算だ?
 葛城君を外すと老人達が煩いぞ」
「そうだな」

セカンドインパクトの生き残りが使徒戦に貢献するという記述があるのでミサトを使っている。
裏死海文書の記述を否定するような真似をするのは老人達を刺激するので避けたいと二人は思う。

「葛城三佐が態度を改めれば、少なくとも表立って造反はしません。
 流石に今回の件は堪えていますので、勤務態度も改善されています。
 勝手な真似だと思いましたが作戦部の職員のカウンセリングを行い……態度を改めれば従うと言っております」
「では、葛城君の処遇だが……始末書と謹慎三日で、後は減給半年で片付けるか?」
「問題ない」
「一応、副司令が個別に面談して話を聞き、不満を僅かでも減らすべきではないでしょうか?」
「そうだな。面倒だが仕方ないか」

余計な仕事を増やしてくれたものだと冬月は思う。
完全な解読の終わった預言書のシナリオなら安心も出来るが、不完全な解読のままで進めようとするのはどうかと考える。

「やれやれ、老人達も面倒を押し付けるものだな」
「ああ」
「では、明日にでも初号機で作業を」
「うむ、お願いすると伝えてくれたまえ」

リツコは頷くと司令室を退室する。

「碇、これ以上面倒をかけさせるなよ」
「問題ない」
「……本気で言ったなら殴るぞ」

本当に嫌な奴だと思い、殴りたくなるのを我慢する苦労性の冬月だった。
この後、冬月は予定していたスケジュールを変更して作戦部のスタッフとの面接に及んだ。

「……碇も人に面倒を押し付けるのは程々にしてもらいたいな」

リツコが言うように作戦部のスタッフの我慢はピークに達していた。
中にはミサトを作戦部長にした司令であるゲンドウに対する不審を仄めかす発言をするスタッフもいたので頭が痛かった。

「まともに報告すれば……粛清して更に不審を煽ると分かっていても……やるんだろうな」

そんな事をすれば、どうなるか予測できるだけに報告書に記述できない。
強権を発動してミサトを庇い立てしても他の部署も不審に思うだろう。
殆んどのスタッフが葛城ミサトの能力を疑っている以上、切り捨てるのが正解。
だが、それが出来ない以上は黙らせるしかない……冬月コウゾウの心労は増すばかりだった。



翌日、リリスにロンギヌスの槍を使用したが、

(どっちもダミーとは気付いていないおバカさん♪)

初号機の中でリンが笑いを堪えながら作業した事を二人は知らなかった。


RETURN to ANGEL
EPISODE:17 記述なき使徒
著 EFF


「山岸マユミです。よろしくお願いします」

どこか不安そうな顔で話す少女にアスカは複雑な顔をする。
悪い子じゃないと思うけど、昔のシンジみたいに人の顔色を窺って生きているからどうも好きになれない。
リンもレイのほうを見るが二人とも我関せずを貫いている。
コード707――このクラスがチルドレン候補生を集めた事は聞いた。
チルドレンに選出された時点で家族をコアにインストールしてエヴァにシンクロ可能にする。人身御供というふざけた事を平気でする司令と副司令に反吐が出る し、その指示を出すゼーレにも腹が立つ。
リンがこのクラスの生徒と距離を取るのは仲良くなった生徒を使われるのが嫌らしい。
友人殺し、もしくは傷付ける事で精神にダメージを与える事がゼーレのシナリオらしいから……仲良くなった子が間違いなく選ばれると判断したようだった。
前回はシンジと仲の良い鈴原が選ばれたのも予定通りだったのだ。
今回は誰が選ばれるか……まだ判らない。
もしかしたらヒカリが選ばれる可能性もあるそうだから、ネルフという組織に嫌悪感だけだ積もっていくが、動く事も出来ないから自分にもどかしさを感じる。
そして、目の前の転校生もどうすればいいのか……判断に苦しむ。

(はぁ〜どうしたものかしら……あの子の中にコアがあるんだけど)

人体解剖する趣味はないし、何故知っていると聞かれたら答えようがない。
前回の記憶などと言われれば、大抵の人間は精神科の病院を紹介されそうな気がする。
まして、生きた使徒を手に入れる可能性に少女の命など気にしないし、躊躇するような甘い連中ではない。
直情的な性格の自分は隠し事などは苦手である。どうしてもボロが出そうで困ると思うから。

(進化……もしくは未来を司る番外の使徒。確かに前回も何度か姿を変えて戦闘したわよね)

ティアイエル――確かそんな名前をシンジに与えられたみたいだった。
寄生する前に何とかしろと言いたいが、シンジ達は基本的に人手不足で一個人に四六時中、張り付く事は不可能と聞いた。
日重の警備、ゼーレに対する嫌がらせの攻撃、日本政府と国連との情報交換、使徒戦後の住居の設営、南極での光体作製、アメリカでの事業展開など……多岐に 渡ってする事が多いらしい。

「これじゃあ、アタシの方が楽かもね」
「ん? アスカ、何か言った?」

小さく呟いたはずだが、ヒカリには聞こえたようだ。

「面倒な厄介事が多くてね……ため息しか出ないのよ」
「そ、そう。多分、そのうち良い事あるわよ」
「ヒカリもさっさと鈴原を餌付けして手懐けなさい。
 何時までも見ているだけじゃ、横から手を出されてお終いよ」
「な、何、言ってんのよ!」

真っ赤な顔で抗議するヒカリに、

「アタシなんて、初恋だって気付いた時には手遅れだったのよ。
 ホント、失ってから気付くなんてバカよね」
「フラれたってこと?」
「それ以前だったの。告白する前に、相手には彼女が出来たのよ。
 ま、今のヒカリと良く似た状況ね」
「や、やな事言わないでよ」
「まあ、ヒカリがフラれたら、ヤケ食いくらいなら付き合ってあげるから」
「…………あ、ありがとう、アスカ」

自身の失恋話をして煽ってみせる。傍で見ていると全然進展しない二人だから、今度は上手く行って欲しいと思う。
窓の外は快晴でアタシの悩みとは無縁の世界……そんな時に非常召集の指示が出ると同時にサイレンの音が鳴り響く。

「やってらんないわね」
「が、頑張ってね、アスカ」

ヒカリの気遣う声に手を振って応えながら教室を後にする。
勝利条件は分かっているが、その条件を満たす事が出来ない戦いの始まりだった。



アスカが悩んでいる頃、ゼーレのメンバーは第十使徒戦の映像を見て唸っていた。

『初号機ですが、我々の想像以上の強さではありませんか?』
『然様、ATフィールドの攻撃転用は見事すぎる』
『強力な駒と言っておるが信用できぬ』

No.3、No.4の二つの輝きはなく、四つのモノリスだけが輝いている。
二人の同胞を失いはしたが、諦めるなどとは無縁の連中であり、今日も会議を続けている。
だが、着実にその力は衰退している事も事実である。
権力集中型の欠点はトップを失った時に顕著に現れる。指示を出す者が居なければ、現場で作業する者は与えられた指示以外は出来ずに停滞する。アメリカ、ロ シアの国内のゼーレの動きの乱れに諜報機関は迅速に動くが、ゼーレ側は統率者の損失に……現場は混乱して満足に動けなかった。
結果は彼らの満足なものではなかった。要所要所に配置していた数名の中堅クラスの幹部を諜報機関とスピリッツに狩り取られ、命令系統が混乱している状況で は末端の構成員には対応できる訳がなく、諜報機関の優勢のまま事態は進んだ。
どちらの国のゼーレ側の議員は事故死、突然の病死などという形で狩り取られ、または厳重な監視下に置かれて……身動きが取れなくなっている。
最大の衝撃だった事件は米国副大統領の暗殺だった。厳重な警備体制でありながら10キロ以上も離れた場所からの光学兵器での狙撃という前代未聞の暗殺事件 となった。
そして狙撃現場らしき場所には"神を騙る狂信者に死を"というメッセージが壁に焦がされて残っていた。
ゼーレには犯人が誰か分かっているが、その姿は未だに全貌が掴めない。どれ程の技術力を持ち、構成員の数も分からず、巨大な牙を持つ組織という事だけ身を 持って知っただけだった。

『サードダッシュの召喚をするべきだな』

キールがその結論を述べる。

『では、さっそく準備を』
『待て、あの男を使わずに執り行う。あの男は信用できぬからな』
『確かにその通りですな』

ゲンドウとゼーレの関係は冷え切っている。どちらも信用などとは無縁の関係であり、利害の一致だけで繋がっているようなものだった。互いを利用しているだ けで、どうも自分達の思惑とは別の何かで動いているとゼーレのメンバーはゲンドウを見ている。

『記述では次の使徒は恐怖を司るものだ』
『では、基地内の混乱時を利用して』
『うむ、上手く利用し……なんだと?』

別回線からの連絡にキールが不審気な声を上げる。

『何か問題でも起きましたか?』
『……我々の知らぬ使徒が出現した』
『な、何と!?』
『番外の使徒とは?』
『これは例の記述にあった特定の条件下で生まれ出るという存在ですな』
『おそらくな』

ゼーレも全ての解読を終えたわけではない。
まだ解読を終えていない記述があるのに全てを知ったかのように振舞っているだけなのだ。
都合の悪い記述は無視して、自分達の望みを叶えようとする身勝手な存在……ゼーレ。
彼らの醜悪な願いが叶う事はない事を彼らは……知らない。



パレットライフルの一斉射撃で使徒は消えた。
突如、第三新東京市の空中に現れた光のイモムシにも見える使徒は何もせずにただ浮いているだけで、あっさりと消える。
発令所の面々は拍子抜けという顔で見つめているが、

「逃げたと見るべきかしら?」

ミサトが画面を見ながら話す。
一応の処分は決まり、今後は態度を改めて職務に就くと謝罪する事で沈静化はしたが、不協和音は残っている。
燻った火種が鎮火するかどうかはミサト次第だとリツコは見ている。
現在は真面目に勤務に就いているが、また調子に乗って羽目を外すと今度はダメだとも考えている。

「そうね。一旦、引いたと見るべきね」
「目的はなんだと思う?」
「エヴァの能力の偵察かしら(正確にはこちらの攻撃力を、その身で受け止めて記憶したんだけど)」

リツコの意見を聞いたミサトは考える。

「つまり、次が本番ってわけね」
「可能性としてはだけど、使徒は自己進化する特性があるからすぐに来るとは思わないわ」
「日向君、警戒態勢を維持して」
「了解しました」
「で、どの程度強くなると思うの?」
「不明よ。一度で進化が終わるとも思わないから」
「それって何度か侵攻してはその都度逃げ帰っては進化するってこと?」
「あくまで可能性の話だけどね」

リツコの考えを聞いたミサトは顔を顰めている。
要は使徒の都合で動く事に他ならない状況で、しかも相手は強くなる可能性が高いのだ。

「マヤ、さっきの使徒の質量は?」
「そ、それがゼロなんです」

困った顔でマヤが分析結果を報告する。
何度もチェックしたが結果は同じだったので困惑する。目の前に存在しているのに……質量がないなど理解の範疇であった。

「質量が無いという事はATフィールドを利用した映像ね」
「つまり、実体がないって事よね……じゃあ、本体は何処よ?」
「この街のどこかに潜んでいるのかしら……興味深いわね」
「……リ、リツコ?」

リツコがどうも危険な方向に考えが行っているような気がして、ミサトは慌てて声を掛ける。
技術部では尊敬を集めているが、それはマッドだからなのと叫ばずにいられない気持ちのミサトだった。


最上段にいる二人は現れた使徒について話し合っていた。

「記述にはない使徒だな」
「ああ」
「こういう展開は予測していたか」
「問題ない。使徒は全て倒さねばならない」
「そうだな。今更、戻る事は許されんしな」
「そうだ。目的を果たす日までは負ける事は出来ない」

その為には如何なる犠牲も惜しまないのかと言いそうになってしまうが口の中に留める。
言った処でこの男が止まるとも思えないし、彼女が望んだ未来というものに興味がある事には変わらない。

「老人達はシナリオにはないこの事をどう思うだろうな」
「全てがシナリオ通りに行くとは限らんよ」
「確かにな、我々のシナリオでも計算外はある」
「……ああ」

変化はないが、自分のシナリオ通りに進んでいない現実に苛立っていると冬月は思う。

「この修正は容易ではないぞ。
 リリス覚醒は絶対に秘匿しないと」
「ああ」

初号機を儀式の核に考えている老人達に知られると叛意ありと思われ処分されない。

「知られたら、間違いなく介入してくるだけでは済まんぞ。
 初号機は間違いなく凍結、もしくは彼らが押収する」
「そうだな」
「お前は不本意かもしれんが、あの子への介入は出来る限り遅らせる必要があるぞ」
「……ああ」
「日本政府も気になる……A−17のおかげで冷戦状態から、悪化の一途を辿っている」
「奴らに何ができる」
「少なくとも施設の破壊くらいは出来そうだが」
「…………」
「真相など彼らは知らなくても動くさ……ネルフは嫌われているからな」

黙り込むゲンドウに冬月は更に告げる。

「自分達を踏み躙る真似をする連中を許すほど……人は優しいわけではないさ」

何も語らないゲンドウだが、冬月も期待している訳ではないので気にしていない。
二人は黙したまま、状況を見つめるだけだった。


パイロット控え室で三人は今後の対応を検討する。
初戦はあっさりと終わったが、これからが本番だとアスカは考える。

「で、どうすんのよ」
「ある程度、大きくなるまで待つしかないわね。
 成長するに連れて、身体の中の存在感も大きくなるから、その時に発見したようにするのが……楽だけど」
「それじゃあ前回と同じじゃない」
「アスカはどうしたいの?」

レイの質問にアスカは答える。

「そこが問題なのよ。アタシとしてはさっさと終わらせたいんだけど」
「私もさっさと終わらせたいけど……無関係の人を殺すのは後味悪いし、悪い人じゃないから余計に困るのよ」

裏を返せば、悪人なら躊躇しないと話しているようなものだった。

「あんた、ホントに過激ね」
「殴られたら殴り返すのは基本だと思うけど……私、聖人君子じゃないから」
「言いたい事は分かるけど」
「私の行動基準は人を守るという事ではないの。
 ここで戦うのは実戦訓練を兼ねているに過ぎない。
 私はお父さんが好きだから、お父さんを傷付けようとする人類と戦う為に強くなりたいだけ」
「人が嫌いなの?」
「全てを嫌いになれば良かったんだけど……簡単に割り切れないから困るのよね。
 レイお姉ちゃんは別枠だし、リツコお姉ちゃんやアスカだって嫌いじゃない……好きだよ」
「……とりあえず、ありがととだけ言っておくわ」
「ありがとう、リン」
「どういたしまして」

素直じゃないアスカは顔を背けて話し、レイは素直に感謝の言葉を伝える。

「私はヒトであって人じゃない……多分、永い時間を生きて行く事になるんだ。
 だから、仲良くなっても別れの時が来るから泣きたくないの」
「そう」
「人には成れないって事?」
「だって、最初から人として産まれてきた訳じゃないから。
 生まれてきた事を否定なんて絶対にしないけど……独りは寂しいな」

最後に漏らした呟きにアスカは複雑な顔になる。
自分は一人で生きると宣言したが、実際には一人では生きていけないと気付かされた。
この目の前の仲間であるリンは一人に近い状態になる事を運命付けられている。
無論、完全に一人になる訳ではないが、生きて行く時間の違いをはっきりと言われて途惑う。

「大丈夫、私はリンの側にいるから」
「そっか、レイお姉ちゃんは居てくれるんだ」
「ええ」
「アスカもこっち側に来る?」
「無理よ、アタシは生き急ぐタイプみたいだから……限りある命の方が気が楽だし」

自分一人、取り残されるという事態に耐えられるとは思えない。
もし家族が出来れば、家族も同じようにして欲しいというかもしれない。
だが、そんな事をする訳にも行かないだろう……そんな事をシンジが許可するとは思えない。
誰も彼にも永遠に近い命を与える事など出来ないのだ。
確かに魅力的な話だが……実際に一人で生きるとなれば、良く考えなければ……後悔する事になると気付いたのだ。

「ま、人それぞれだから強制しないけど……最後の最期で望んでも良いわよ」
「それもありなわけね」

苦笑してアスカは聞いていた。
確かに最後の最期で満足して死ぬとは限らない……生きたいと望む可能性もある。

「とりあえず保留にしておくわ。
 ずっと先の話をするより、今をどうするか決めないとね」
「そういう切り替えの早さは嫌いじゃないよ」
「ダンケ」

リンの声に笑顔で応えるアスカだった。

「とりあえず、学校では様子見で行くわ。
 今は休眠に近い状態だけど、覚醒が近付けば……最悪はあの子は喰われるかもしれないから」
「どういう意味かしら、聞かせてくれる?」

丁度部屋に入ってきたリツコがリンに聞く。

「だって、側で使徒が居るなんて知ったら大慌てしない?」
「……可能性としてはありえるのね」
「レイお姉ちゃんは人に近いけど、私は見掛けは人間だけど……使徒には気付かれるよ」
「それは内包する力のせいなのね」
「そういうこと。多分、本体へと逃げるか、取り込んで身を守るか、のどちらかの手段を選択する」
「……当面は実験でもでっち上げて本部内で待機する?」

リツコが安全面を考慮した考えで聞いてみる。

「文化祭もあるから……どうしよっか?」
「アタシは休みたいわよ! 相田の馬鹿のせいでメイド服なんて着なくちゃならないなんて〜〜!」
「メ、メイド服?」
「そ、喫茶室兼バンド活動するんだって。
 生演奏を聞かせたいらしいの、おかげで女子は交代制で歌う事になりそうなの」
「服装以外はまともそうに聞こえるわね」
「せっかく看板娘が三人もいるなら使わな損だって」
「ちゃっかりしてる子ね」
「アクセントに猫耳のヘアバンドだったか、カチューシャ付けるわ、尻尾のアクセサリーまで付けさせられるなんてね」

猫耳と聞いて、俄然リツコの興味は増大する。

「ぜひ、見に行くわね」
「多分、このまま行ったら文化祭は使徒戦でおじゃんね」
「……そんな」

ちょっとガッカリするリツコにリンが話す。

「大丈夫、リツコお姉ちゃんには特別に見せてあげるから」
「……なら良いわ。楽しみにさせてもらうわね。
 もうストレスばかり溜まるから、心の平穏というか……和んでみたいのよ」

趣味を押し出さないでと叫びたい気になるアスカだが、ヒゲとミサトのフォローをしなければならないリツコの苦労を思うと何も言えなくなった……誰に聞いて も一番勤勉な働き者はリツコだと決め付けるだろう。
実際にトラブルが起きた時、副司令不在の場合は問い合わせは全部ゲンドウに向かわずにリツコに向かい解決するというパターンが基本になっている。司令に話 しても解決しないと誰もが了解し、またミサトに話しても役に立たないと思っている。ネルフで一番現実的な解決法を行う頼れる人物とスタッフから認識されて いた。
後日、リンの猫耳メイド服の映像ががリツコの個人ファイルに厳重なセキュリティーを掛けられて保管された事は当然の話しだった。


第三中学は文化祭に向けて準備をしている。
特に2−Aの喫茶――地球防衛軍の注目度は非常にあった。

「ふ、時代はメイドなんだよ」

怪しげな眼鏡のレンズの反射を見せるケンスケに男子生徒は喝采の視線を向けている。
口に出すとアスカの物理攻撃を受けるので称賛の視線に留めているが、他のクラスの男子も絶対に行こうと思っていた。

「ダメダメね。お祭り気分になれたら、楽なんだけど」
「そうね」

アスカとレイが当日の服装――メイド服+猫耳――で教室の設営の準備をしている。
最初の戦闘後、小競り合いのように出現しては、すぐに消失というパターンを何度もしている使徒――ティアイエル――にどうしたものかとミサトは悩んでいる 様子だった。
真面目に勤務しているようで、部下の意見の積極的に聞き入れる事もしているが結果は満足出来るものではなかった。
本体の位置を特定する事が急務だという結論に達しているが、その本体が発見できない。
少なくともこの街のどこかにいるはずよとリツコが断言しているが、大きさも形も不明なものをどうやって捜せと言いたいようで作戦部も匙を投げているような 状況だった。
本体の位置は既に知っているとアスカは言いたいが、その特定した理由が話せない。
万が一の時はリンがマユミを一旦LCLに分解して魂を回収して、コアを分離させるという過激な手段もヤバイと思う。
マユミは後日復活させる事もできるが、リンの能力を表に出してしまえばゲンドウ辺りがリンを隔離するという手段をこれ幸いとしかねない。リンの危険性をア ピールして封じ込める可能性は十分にあるから、頭が痛い。
もっとも隔離しようとして隔離出来るかは別の話だと思うが。

「問題を抱えて遊べるほど図太くないのよ」
「そうね」

レイも表情こそ変わっていないが困っているとアスカには読み取れた。
生まれや生活環境を知ったので、レイの感情の希薄さを理解した。あまり表情が変わらないように見えるが、微妙に変化しているのも読み取れるようになり始め た。

「リンは監視?」
「ええ」
「一緒にいられないからつまんないの?」
「……そうね」

リンはマユミの監視で別行動を取っている。その所為でレイが不機嫌だとアスカには読み取れるから困る。
微妙に不機嫌な空気が周囲に溢れているが、自分以外は気付いていない。
なんだかな〜という気持ちがアスカの中にある。自分だけが危険物を存在を知っているという状況は辛いし、厄介だと思う。

「早く、片を付けないとね」
「そう、それが重要なの」

レイから怪気炎が吹き出した気がして……天を仰ぐアスカだった。


日増しに胸の痛みが増している気がするとマユミは思う。
引っ越してきてから異常が発生しているが、どこにも異常がないと医師には言われた。
マユミは知らないが、通常の精密検査では使徒の存在など発見できる訳がないのだ。

「山岸さんも図書室に避難して来たの」
「えっと……赤木さんですね?」

声を掛けられた相手は同じクラスの赤木リンという人物だった。
いつも綾波さんと一緒に窓際で本を読んでいる人で、惣流さんとも仲の良い人だった。
なんでも三人はネルフの決戦兵器のパイロットでクラスでも一目を置かれている人達なのだ。
クラスの中で埋没するような自分とは違う何かを持っていると思えて……気後れする。

「そうよ」
「本が好きなんですか?」

思わず質問してしまった。いつも本を手にしているので、私のように本が好きなのかと聞いてしまう。

「珍しいからかな……私のいた場所には電子書類みたいなものしかなかったから、こうして手にとって読む事が楽しいのよ」
「そ、そうなんですか」
「そ、あなたのように本の世界に逃げている訳じゃないの」

声を失う。
いきなり核心を突くような事を言われて動揺する。誰にも知られていなかった心の内側に入り込まれた。

「そうやって、逃げ続けるのも良いけど……お先真っ暗よ。
 まあ、無難に生きるって事は間違いじゃないけど」
「分かったふうに言わないで下さい!
 あなたに何が分かると言うんですか!?」

思わず叫んでしまった。誰にも知られていないはずの場所に土足で踏み込まれたと思い、カッとなる。

「分かる訳ないじゃない。
 私はあなたじゃないし、あなたは自分の気持ちを誰かに伝えたの。
 人っていうのは気持ちを口にしないと気付けない……鈍感な人のほうが多いのよ。
 色眼鏡って言葉があるように自分を見せなければ、勝手に想像していく生き物が人間なの」

肩を竦めて、冷ややかな視線で話す。その視線の所為で熱くなりかけた感情が冷えていく。

「昔、あなたみたいな人の話を聞いた事があるわ。
 その人は非常に無責任で自分を殺してくれなんて、言ったみたいだけど……最低ね。
 言われた側の気持ちを配慮しないと思わない……相手が傷付くとは思わないのかしら?」
「そ、それは……前後の状況が読めないと答えられません」

唐突に話を変えられて困惑するが、一応返答する。

「そうね。では、自分が傷付くのは嫌だけど、相手が傷付くのは構わないと思う?」

真面目な顔で問われるので、軽い気持ちで考えない事にするが、

「どうして、そんな事を聞くんですか?」
「嫌な選択をしなければならない時が来るからかな」
「意味深な質問ですね」

まるで私がさっきの話と同じ事をしようと言うのだろうか……。

「死ぬってどういう意味か分かる?」
「よく分かりません……何を聞きたいのでしょうか」

質問の意図が分からない……彼女は私に何を伝えたいのだろうか。

「死にたくなったら、私のところに来るのね。
 そうすれば、遠慮なく……殺してあげるから」

冷笑しながら去って行く彼女に苛立ちを感じる。ズケズケと私の心の中に入り込んで来て、言いたい放題された。
私の気持ちなんて知らないとはっきり言われ……まるで、この世の不幸を背負った気になっている悲劇のヒロインでも演じているの、と馬鹿にされた気分にな る。

「あなたなんか……嫌いです」

リンの背に向けて告げる。

「そう、良かったわ。私もあなたが嫌いなの」

振り返りもせずにリンも返事をすると図書室から出て行く。
苛立つように見つめていたマユミの胸に痛みが走り……蹲る。

「く、くぁ……なんで、こんなに目に……遭うんだろ」

今まで以上に痛む胸に手を当てながら泣きたくなり、どうして自分ばかり苦しまないといけないんだろとマユミは思う。
本格的に活動しようとしているティアイエル……いよいよ、次の段階へと進むようだった。


「今度はイモムシから繭に変わったのね」
「質量が増大しています」

発令所で呻くように話していたミサトにマヤが分析結果を報告する。
イモムシの姿で出現したティアイエルは身体を丸めると所々に突起を生やした繭へと形態を変化させて滞空している。

「どうやら、始まったようね。
 葛城三佐、いよいよ進化してくるわよ」
「しゃらくさいわね。各機、フィールドを中和後、手持ちの火器で攻撃。
 いいわね、フィールドの攻撃転用は絶対にしない事。覚えさせて、対策を講じさせないように」
『『『了解』』』

ミサトの指示に一応返事をする。リツコからの報告に作戦部は一つの結論に達している。
それは可能な限り、手持ちの火器で撃破を続けて強力な武器は封印した状態で進化させ、その間に本体を発見する事だった。
特に初号機のATフィールドの攻撃転用の技は絶対に見せない事が決定していた。

それぞれが手持ちの武器で攻撃を開始するが、

『あまり効果ないわね』
『そうね』
『ったく、硬くなってくれたもんね』

学習進化しているティアイエルには効いている様には見えなかった。

「アスカ、リンは牽制して! レイはポジトロンライフルに持ち替えて攻撃開始」

パレットライフルで迎撃を続けていたが、効果がないとミサトは判断すると即座に武装の変更を決意する。
都市外周部に零号機が移動して武装の変更を始めると初号機と弐号機は時間を稼ぐべく攻撃を続ける。

『ミサト、バズーカ出して。パレットライフルじゃダメ』

実弾系で最も破壊力ある武器で時間を稼ごうとアスカは要請する。

「日向君、出して」
「了解」

実弾系の武器は捨て駒としてミサトは考えた。
作戦部の意見としてATフィールドを使った攻撃方法が一番威力があるとミサトに進言して、ミサトは了承したのだ。
弐号機は兵装ビルからバズーカを取り出して攻撃を続けるが、

「質量増大、使徒が反撃してきました!」

突起を飛ばして攻撃という手段をティアイエルは行い始めた。
初号機、弐号機はビルを盾にしながら攻撃を続行しているが、散発的になり戦況は膠着しかけている。

「あれの威力ってどの程度?」
「パレットライフルから覚えたみたいだから同じくらいね」

リツコがミサトの質問に答える。

「ATフィールドの弾丸だから弾切れはないわね。装填する時くらいは止まると思うけど」
「そう、零号機の換装は終わった?」
「まもなく完了します」
「アスカ、リン、時間を稼ぎつつ中和を続行して」
『『了解』』
「レイ、チャージが完了したら攻撃よ」
『了解』

初号機、弐号機は攻撃を続けている。零号機は武装の変更が完了して電力のチャージを開始した。
ポジトロンライフルはリツコの手によって再設計されている。
大型の蓄電用のバッテリーを搭載させる事で出力を更に向上させ、弾数の増大と全電力を集めて一発限りだがポジトロンスナイパーライフルの三分の一くらいの 一撃も可能なまでになっていた。

『ノーマルモードで攻撃します』

レイはポジトロンライフルを構えて攻撃を開始した。
放たれた陽電子の光がティアイエルの身体を貫く。

「使徒、質量増大します」
「やっぱり、本体を発見しないとダメか……日向君、市内に異常は起きている?」
「いえ、特に変化はありません」

穿たれた部分を修復しながら使徒は第三新東京市を滞空している。
この街の何処かに本体はいるのだが、未だネルフは本体を発見出来ずにいた。


痛みの所為で図書室に蹲っていたマユミは逃げ遅れて……戦闘の様子を見る事態になっていた。
レーザー兵器のようなもので使徒の身体が貫かれた時に今まで以上の痛みがマユミを襲う。

「ど、どうして……」

痛みを堪えながら見つめると更に光が使徒の身体を貫くと同じように痛みが現れ、マユミは蹲る。

「そ、そんな……まさか…………ここに……いるの?」

ガタガタと震える身体を自分の手で抱き締めながらマユミはどうすれば良いのか……考える。

「ネ、ネルフに行けば何とかなるかも……」

使徒に対抗する組織なら何とかしてくれるかと思い、痛みを堪えて歩き出そうとする。
図書室から廊下に出るとマユミの前に一人の女性――エリィ――が立っていた。
その女性――エリィはいつもと同じように軽いウェーブの掛かった金髪の髪を後ろで纏めてサングラスを掛けている。

「さて、申し訳ないけど……死んでもらえるかしら。
 ネルフに行かれてサンプルになると困るのよね。だから潔く死んで頂戴」

サングラスの所為で目を見る事は出来ないが、口元は……笑みを浮かべている。
まるで自分の命を奪う事など当然のように話すエリィにマユミは弱々しい声で呟く。

「どうして、わたしばっかり……こんな目に遭うの」
「簡単よ、逃げ続けているから。
 生きるって事は戦いよ。苦しい現実に立ち向かうことが大事だけど、あなたは逃げ続けている。
 いつまでも逃げ続けられると思っていたの?……世の中、そんなに甘いものじゃないのよ」

諭すように告げてエリィはゆっくりと近付いてくる。
マユミにとって、その歩みは死神が近付くのと同じように思えていた。

「こ、来ないで!!」

叫んだ瞬間二人の間に赤い八角形の壁が現れるが、

「邪魔よ」

エリィはその一声であっさりと破壊して更に歩を進め、喉を掴んで締めつける。

「ぐ、む……むぐ……ぐはっ」

息が詰まり、喘ぐような声が出る。段々と気が遠くなり目の前が霞む。

「…………やっと出て来たわね。さっさと本体に戻りなさい」

マユミの胸から明滅する光の球体が出て来て、何処かに飛んで行く。

「ヒュー、ヒュゥ……クハッ……」
「ご苦労さま。運が良かったわね……もう少し出てくるのが遅かったら死んでいたわよ」

必死で息を吸い込んでいるマユミにエリィは暢気に告げる。

「こ、殺す気だったくせに……」

マユミは恨みの篭った視線を向けながら息を整えて文句を言う。
そんなマユミの視線など物ともしないでエリィは話す。

「いいじゃない。生きているか、死んでいるか、分からない状況なんだから」
「生きています!」
「そうかしら、人の顔色窺って自分を殺し続けている事を生きているとは言わないと思うわよ。
 なんせ、自分という存在が其処には存在しないから死人と変わらないわ」
「それでも生きているんです!」
「……あなたが死んだら悲しむ友人っているのかしら?」

言葉の刃が胸に突き刺さる。言い方を変えれば、"お前の側には誰もいない"という意味になる。
容赦ない一言にマユミは絶句している。

「大体、使徒が此処に来ると分かっていながらその上に都市を作るなんて……何を考えているんだか。
 この地に来た瞬間から命を危険に晒しているって理解してない人間が多くて困るのよね」
「……そ、それは……」
「ネルフがまとな組織だと思わないことね。
 使徒が体内にいるなんて言ったら……お終いよ。
 使徒を捕獲する為なら如何なる犠牲も惜しまない狂人連中がトップなんだから」
「え?」

エリィの話を聞いてマユミは硬直している。

「ネ、ネルフって人類をインパクトから守る組織なんじゃ…」
「大外れ。人類を守るなんて掲げているけど、インパクトを自分達の手で起こそうとしている連中がトップよ。
 その為には使徒のサンプルが必要だから、あなたは格好の実験材料になるところだったわ」
「そんな……」

信じられないと言った顔でマユミは廊下に座り込んでいる……ネルフに行けば何とかなると思っていただけにショックの様子だった。
そんなマユミに近付いてエリィは掌をマユミの額に当てる。

「な、なにを……?」
「少し、黙りなさい……」

掌から暖かい何かが流れ込んでくる。

「一応、大丈夫みたいね。
 安心なさい、使徒に浸食されていないから黙っていれば誰にも気付かれないわ」
「それって……」
「私はネルフの人間じゃないから、報告する義務なんてないしね。
 何かあったら赤木リンに相談しなさい」
「あ、あの人にですか?」

苦手であり、見透かされた人物に頼りたくないとマユミは思っている。

「ま、問題もないし、黙っていれば良いだけよ」
「わ、分かりました」

此処で起きた事は黙っていろとエリィが言うとマユミは頷いていた。

「悪いけど、気を失ってもらうわよ」
「な、何故ですか!?」
「シェルターに行くけど……移動方法とか知られると困るから。
 あなただって、聞かれると困るでしょう」
「あ……そうでした」
「転んで気を失った事にして誤魔化すから……悪いわね」

その一言から先の事をマユミは知らない。
気が付いた時は戦闘が終了し、シェルター内の医療室のベッドで横になっていて、家族が心配そうな顔で付き添っていた。
看護士から"避難する時に転んで頭を打ったけど異常ないわよ"と告げられ、医師からも問題なしと診断されたのだ。
一体なんだったのかと考えるが、とりあえず死なずに済んだ事を良しと思うことにした。



発令所では膠着した状況の次の一手を考えるミサトの元に青葉から報告が行われた。

「パターン青確認! 使徒本体を発見しました!」
「場所は!?」
「真っ直ぐに映像に向かって行きます」

画面に視線を向けると小さな光点が明滅しながら繭の中に入り込むシーンが見えた。

「質量増大!」
「孵化するわよ」
「レイはポジトロンライフルでバックアップ!
 アスカ、リンは近接戦闘に!」
『『『了解』』』
「日向君、ソニックグレイブとマゴロク・E・ソードを出して」
「了解」

徐々に繭に罅が入り、中から使徒の完全体が出現する。

「蝶、それとも蛾かしら?」
「どっちでもいいわよ。
 散々焦らしてくれた分をお返ししてやるわ。
 レイ、先手必勝よ」
『了解』

ミサトの声に合わせて零号機がポジトロンライフルを発砲するが、

「何よ、あれ!?」

放たれた陽電子は使徒の身体に触れる事なく歪曲して兵装ビルに命中する。
使徒が羽ばたきしながら、光の粉のような燐粉を撒き散らしている。

「燐粉自体に微弱なATフィールドを確認しました」
「なるほどね。あれで磁界を狂わしたみたいよ。
 ポジトロンライフルを封じられたし、パレットライフルも微弱なフィールドで威力を減少させられるわ」
「しゃらくさい事するわね。
 中距離、遠距離はダメなの?」
「多分ね」

マヤの報告にリツコが仮説を立ててミサトに話す。

「熱量増大!」
「まさか、加粒子砲!?」

日向の報告にミサトが反応した瞬間、使徒の口から放たれた光線が兵装ビルを熔かす。

「……ポジトロンライフルを真似たのかしら?」
「側面から攻撃よ。
 レイは実弾系に武装を変更して支援」

ポジトロンライフルだと歪曲させられて当たらないが、実弾系ならばと判断して指示を出す。
零号機は装備を外してパレットライフルとバズーカで攻撃を加えるが、燐粉の壁に弾が当たり本体には届かない。

『リン、先に行くわよ!』
『上から行きなさい。そこが薄そうに見えるわ』
『任せなさい!』

ソニックグレイブを握り込んだ弐号機は兵装ビルを飛び跳ねて使徒の上空から突き刺すように落下する。

『ちっ! 避けたわね』

身体の中心部を狙った弐号機だが僅かにずれて翅に刺さり、そのまま落下して地面に縫い付ける。

『アスカ! 受け取りなさい』
『ダンケ!』

初号機が接近しながらマゴロク・E・ソードをアスカに放り投げ、そしてプログナイフを投擲してもう片方の翅を地面に縫い付けて動きを封じる。
マゴロク・E・ソードを掴んだ弐号機は振り下ろして使徒の身体を両断する。
刃がコアに到達したのだろう……何度か、痙攣するように身体を震わせると使徒ティアイエルは活動を止めた。

「パターン青消失。使徒沈黙しました」
「エネルギー反応ありません」

シゲル、マヤからの報告に発令所はやっと倒したと思い、一息を吐く。

『コレ、どうすんの?』
「悪いけど、指示を出すからナイフとソードで解体して」
『しょうがないわね』

事後処理の為に初号機と弐号機が手持ちの武器で使徒の身体を解体して、搬入口に運搬する。
零号機はポジトロンライフルの後片付けを行っている。

「ねえ、リツコ……別にエヴァで片付けしなくても」
「解体予算を減らしたいのよ。言ったでしょ、無駄遣いは出来ないって」
「そんなに……予算ないの?」
「いいえ、潤沢とは言わないけど、余裕はあるわよ。
 これは人目に触れさせたくないから」

テントを張って人目に触れさせないようにしているが、見せないようにネルフの本部内に置くのが一番とリツコは言うのだ。

「面倒事を避けろって?」
「そうよ。周囲の警備に人を回すより内部で作業するのが一番だから。
 暑い中、立ちっ放しなんて誰もしたくないわよ」
「まあ、確かに嫌ね」

空調のない場所で汗だくで作業するより、空調が効いている場所での作業のほうが効率良く動くと思う。
一応仕事だから文句は言わないだろうが、リツコの考えに賛同する者は自分も含めて他にもいると考える。
リツコの意見にミサトは苦笑しかなかった。










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どうもEFFです。

進化≒未来とちょっと安直かもしれませんが番外使徒ティアイエルとなりました。
一説にはイロウルの一部が分離してマユミに寄生、復活したという意見もありますが……良く分からないので独立した使徒の一体として書いてみました。

それでは次回もサービス、サービス♪。




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