国連は第十三使徒戦に関した日本政府が提出した調査報告書の内容に紛糾していた。
特に国連への供託金をきちんと納めていた国はこの報告書を読んで……激怒していた。
通称マルドゥック機関――エヴァンゲリオンのパイロットを探す為の機関が実はダミーの会社で固められた組織だったなど、国連に対する裏切り行為とも思える 事態だった。
莫大な予算を与えていた機関が数人の懐を潤していたかも知れないなど……許せる訳がなかった。
ネルフが特務機関の名前のベールで覆い隠しているのは何の為なのかという問題が更にクローズアップしている。
特に供託金で国家の財政を逼迫している国や供託金のおかげで国家としての形がが維持できなくなった国ではネルフとその上位組織である人類補完委員会に対す る不審や怒りを超えた憎悪が向けられている。

『日本政府もやってくれたものだ……』

いつもの暗い部屋の中で複数のモノリスに向かってキールの声が木霊する。
さすがに今回の事件の揉み消しはゼーレでも不可能だったし……自身の問題が表沙汰になったので些か分が悪かった。
マルドゥック機関を構成していたダミー会社の中にはキールだけではなく、ゼーレの幹部の名前も記されている。
ネルフの予算獲得に使っていたのだと話しているが……ネルフ自体の信頼が損なわれ始めているので言い訳にしかならない。

『不味いですぞ。国連内で委員会への不審の目が生まれている』
『然様、このままでは我々の方にも飛び火しかねない』
『あの男を解任しても誤魔化せるでしょうか?』
『無理だな……ネルフ自体が信用されていないので、蜥蜴の尻尾切にしか見られんよ』

キールの冷静な分析からなる意見に全員が不機嫌な気持ちになる。
この停滞した社会を救う立派な計画の遂行を邪魔するとは何事だと叫びたいのかもしれないが、本当に素晴らしい計画なら公にして全人類の合意を得れば良いだ けなのだ。
それを行わない時点でこの計画は胡散臭い物である事に変わりはなかった。
所詮、ゼーレの老人達の独善で勝手な考えだと自分達も承知しているのに文句を言うのは筋違いだが、その怒りという名の感情の矛先は碇ゲンドウに向かう。

『いったい何をやっておるのだ。
 人、金、資材を存分に与えておるのに情報の流出というミスをするとは』
『然様、こういうミスをしない為に様々な特務権限を与えているのだ』
『鈴の報告では戦自の士官の挑発にあっさりと引っ掛かったとあるぞ。
 このような失態をするとは……正直、使い物にならなくなってきているのではないか?』
『解任したいが、今解任させると次の司令には国連主導の人物が選出されかねない』

キールの懸念に全員が黙り込む。
実際に国連総会でネルフの会計監査を行うべきだという報告を日本政府が提出し、議決を承認されかけた経緯がある。
辛うじてゼーレの裏工作が間に合い過半数を割らずに済んで、保留という形にはなっているが……また再燃する可能性もある。
碇ゲンドウの解任は簡単だが、その後任には自分達の意見が通る可能性は少ないかもしれない。
人類補完委員会の存在自体に不審が持たれている状態で次の司令を自分達で決めようものなら反発が起きかねない。
国連主導で選出された人物がネルフの内部事情を知ってしまうと色々と不味い事態に発展する。
口惜しい話だが、ゲンドウの首を自分達が守らなくてはならないという不本意な状況に陥っていたのだ。


RETURN to ANGEL
EPISODE:29 這い寄るもの
著 EFF


「悪いわね。加持君に連絡役なんてさせて」
「いや、別に……これも仕事の内だからな」

加持はリツコの執務室でコーヒーを飲みながら、リツコの説明に耳を傾けている。
協力する気はないとリツコは話しているが、実際にはゼーレへの報告という形で加持に情報を与えているような状態だったから加持はリツコの厚意に感謝してい る。
リンへの協力要請が不首尾に終わったので、リツコのこうした配慮には本当にありがたかった。
おかげでゼーレ側からの信用度は上昇しているし……スピリッツから渡された情報の裏付けも順調に進んでいる。

「人類補完計画……随分とふざけた計画だったんだな」

全人類の姿をLCLに分解して、一つの存在へと昇華するなど……愚かだと加持は思う。
自分達がその頂点に立てると考えているらしいが、リツコに言わせると絶対に不可能らしい。
全人類の意志を一つにまとめるのにどれ程の意志の力がいるのか分からないし、他者を押し退けて頂点に立つにしても全人類の意志を受け止めるだけの力がただ の人間にあるとは思えない。
セカンドインパクトのおかげで人類の総数は減っているが、その全てをねじ伏せるだけの力があるとは加持にも思えなかった。

「成功させるにはどうしたら良いんだ、リッちゃん」
「さぁ、失敗の予測は出来るけど……成功例の予想は難しいわね。
 何故なら、人の形さえも失って一つになるなんて前代未聞の計画だから」
「だな……これって集団自殺にしか見えないんだが」
「そうなる可能性が高いわよ。
 司令は人類が原初の海に戻るだけと位置付けているみたい。
 人類の進化が行き詰っていると判断している節が感じられる時があるわ」
「進化ねえ……俺は今のままで十分だと思うけどな」

無精ひげが生えている顎を撫でさすりながら加持は理解できないといった表情で話す。

「別に無理に進化させる必要もないとしか言えないな」
「そうかもね。私自身、この計画が正しいのか……分からないわ」

リツコはパソコンのモニターを見ながらキーを叩いている。

「でも、老人達には救いの手に見えるんでしょうね。
 自分達が神になるか……失敗しても人類全体が一緒に死んでくれるから」
「……やれやれだな」

呆れと侮蔑を含んだ声で加持は報告のディスクを受け取って部屋を後にする。
加持が部屋を出て行った後、リツコが話す。

「とりあえず加持君の立場を強化したけど……これで良いかしら?」
《ご苦労さまでした》

部屋にはリツコしか居ないが、リツコの脳裏に声が響く。
リツコは普段通りに仕事をしているが、口元には笑みが浮かんでいる。

「あんまり加持君を弄んじゃダメよ。
 結構ビクビクしているみたいだから」
《遊び半分で仕事をするような人は好きじゃないんです。
 リンお嬢様に付き纏い、迷惑を掛けた時点で……優しい対応をする気はございません》
「そうね……仕事の邪魔をした人には苦労してもらいましょう。
 この街にまだ潜んでいると考えますか?」

リンが追跡している使徒に汚染された生命体の一件が気になるリツコは尋ねてみる。

《残念ですが広域探査を行った結果、この街には既に居ません……外へ出たようです》
「何処に向かうと予想しますか?」

リツコは大体の予測はしていたので、その為の最終確認をしていた。

《おそらく……バルディエルの身体へ》
「やはり惹かれるんでしょうね」
《生存本能だと思います。
 生きたいという本能がより大きな力を求める……ありふれた話です》
「スケールは大きいですけどね」

苦笑いという表情でリツコは話す。
現場の技術部のスタッフには注意をしているし、保安部員にも警告しているから大丈夫だと考えている。
只、作戦部からの通達でない以上は何処まで危機感を持っているかは不明だ。
技術部のスタッフは自分の意見に耳を傾けて真剣な表情で現場に向かったから特に不安はないが。

《人手が無いと苦労しますね》
「申し訳ありません……私の警護の所為で」
《いえ、リンお嬢様がお忙しい以上は誰かがフォローするのは当たり前の話です。
 今いるメンバーの中で最も隠密行動に長けているのは私です。
 適材適所という観点からでも間違ってはおりませんよ》

そんなに気にしてはいけないと声が告げるが、私はありがたいと思う。
時間の流れが大きく変わり始めているので、私の安全を確保する為に護衛としてリエさん――かつてレリエルと呼ばれた第十二使徒がこの街で待機している。
自身の身を守る為に私を使徒化する事も考えたが、ATフィールドの訓練を気付かれずにするのは難しい点があったから態々メンバーを割いてくれたシンジ君に は感謝している。
本人曰く、「加持君をからかうついで」らしいが、こうして居てくれるだけでも安心できる。
まあ加持君にとってはいい迷惑だが、リンが加持君を嫌っている以上は情報ソースとして彼女は必要だろう。
実際に必要な情報を安全に手に入れる事が出来ているのだ……パシリ一号として振り回されても仕方がないと思う(多分だけど)
私も彼女には時々仕事を手伝ってもらっている。
彼女は私の勤務時間外にこの部屋を使用する代わりに資料の作成とか、資料の整理をしてくれる秘書でもある。
既にマギを電子制圧しているのでアシが付く事もないので誰にも気付かれる事なく、この部屋で作業できる。
ブラウニーではないが、おかげで私の負担はかなり軽減されている。
ディラックの海を使い、移動は自由に出来る存在であり……私の野望を叶える為の師匠とも言える存在。
そう……未来のネコ型ロボットみたいな技はとても重要だった。
この戦いが終わったら、リン達は世界を見てみたいと話している。頭では理解しているが頭でっかちにはなりたくないらしい。
自分の身を守る事に関しては大丈夫だと思うが、子煩悩なシンジ君が子供ばかりで旅をさせるとは思わないし、私もしばらくは表舞台に出る事は出来ないので保 護者として同行しても構わない。
事が公になればネルフの関係者は監視対象になりかねないし、特に技術部長の私は絶対に投獄される可能性が高いので姿を表に出す事は難しいだろう。一応、戸 籍とかはアメリカで作り直すし、姿も二十代前半か、十代後半にまで戻して学生としてやり直す事も可能だが……生き急いでみたいなので一休みする事にした。
まあ、その代わりに母さん達の発明品に私が考案した道具を用いてリン達の旅のサポートをするのも悪くない。
そんなふうに未来に思いを馳せる事ができる事は幸せな事だと気付いて苦笑する。
私は相当思い詰めていたんだと思うと……無様だと自身を嘲笑うしかなかった。



学校をサボる訳ではないが……暇になった事は確かだった。
お姉ちゃん達の協力のおかげでこの街に寄生生物が居ない事は判明した。
作戦部辺りはもう居ないと勝手に判断して警戒態勢を終わらせようかなどと考えているが、私は危機感が足りないと思う。

「ホント、危機感の足りない組織ってダメよね。そう思わない?」

近くに隠れている人物に声を掛ける。
昨日からずっと付け回している私の後を付け回している事に気付いている。

「いい加減、用があるなら話して見なさいよ。
 暇になったから付き合ってあげても良いわよ……ゼーレのお兄さん」

その一言で周囲の雰囲気が変化する。
殺気が漏れ出したみたいだが、この程度の殺気に怯える程……私は弱くない。

「リツコお姉ちゃんから話は聞いているから敵対する気はないわよ。
 無論、売られた喧嘩は買うけどね」

しばらくして、私の前に男の人が顔を出してくる。
多分、整形手術で顔を変えているのだろう……何処にでも居るような平凡なおじさんにしか見えない。
だけど、街中に入れば存在そのものが埋没して、誰も目の前の人物が暗殺者だと思わないだろう。

「あんまり物騒な人は好みじゃないけど、エスコートしてくれるかしら……お爺様方の元へ。
 ああ、薬とか使っても無駄よ。私の身体は薬とかをすぐに中和できるように作られているから。
 目隠しくらいならしても良いけどね」


正直、目の前で微笑む少女に相対するのは何故か嫌だ。
見かけは普通の少女だが……見かけに惑わされては危険だと自身の培ってきた経験から導き出される感覚が警鐘を鳴らし続けている。
鳥肌が立つなど久しぶりであり……怖れを抱く事など遥か昔の話だった。
王威というものが在るのなら、この少女の持つ空気こそが相応しいと頭の隅に浮かんでしまう。
記録映像では何も感じなかったが、こうして相対する事で理解した。
何も怖れる物はなく、目の前に立ち塞がる全ての敵を叩き潰す意志を見せつけられた気がしてならない。
手段は分からないが、その気になれば自分など即座に滅ぼす事が可能だろう……そんな気がしてならない。

「行くわよ。案内しなさい」

少女の声に思わず頭を下げてから案内する。
ゼーレの信奉者である自分が、この少女の言葉に従ってしまう。

「こちらでございます」

そう……絶対の格の違いを肌で感じでいたのだ。
赤木リンと呼ばれている少女が私に向ける視線に敵意がない事をはっきりと自覚した。
この少女は私の事など歯牙にも掛けずに前だけを見て、歩き出している。

(この細い首を折るのは容易い「試してみる?」……のか)

無防備に背を向けて歩いている少女の首筋に見つめる私の考えを読まれた。

「使命を果たさずに……死にたいの?」
「何の事でしょうか?」
「質問を質問で返すのは誤魔化している証拠よ。
 もう少し気が利いた言葉を返して欲しかったわね」

案内する私に顔を向けずにいるが、おそらく笑っているのだろうと思う。
心を読まれたというより、からかわれたとしか思えない。

「忠犬なのも良いけど、主達が間違った道を歩いていると分かったら諫言するのも部下の務めよ」
「……失敗すると?」
「間違いなく失敗するわ。
 何故なら前提条件が間違っているもの」

待機していた車に案内して、主の元に向かう途中の車内で少女は私に主達の計画の失敗を告げる。

「あなた、一人の人間の魂が全人類の魂を完全に支配下に治められると思う?」
「それはどういう意味でしょうか?」
「全人類を一纏めにする以上、その精神も一つの身体に収めるの。
 二重人格なんて物じゃないわ……多重人格で誰が表に出るのかは精神力の強い者だけよ。
 つまり頂点に立つには表に出ようとする人物を片っ端から排除するしかないわけ」

一つの身体に複数の人格が身体の支配権を得るために共食いするような物だと直感する。

「そのくせ、精神は一つで繋がっているから全ての情報が統合されるから……あなたの主に対する恨みが集中するわよ。
 一つになりたいなんて……考えていない連中にとって余計な事をしたとしか思えない。
 元に戻る事が出来ないと知れば、当然怒りの矛先は何処に向かうか……分かるでしょう」
「それは……人類の何割かが牙を剥くという事でしょうか?」
「只の人間に受け止めて、黙らせる事が出来るかしらね」

可笑しそうに笑みを浮かべる少女の言い様に底知れぬ恐怖を感じる。
この少女は失敗する事を前提に話しているが、それが間違っていないように聞こえる。
確かに主は世界を支配しているが……人類の心を掌握したわけではない。
裏死海文書というテキストを参考にして自分達の計画を推進していただけに過ぎない。
確かにカリスマはあるが、全人類を平伏せるだけの意志の力があるかと問われれば……。

「まあ、全人類を巻き込んだ無理心中で完結ね。
 独りで死ぬのが怖いから道連れが欲しいのなら上手く行くわよ」

少女が告げる結論に反論出来るだけの理由がなかった。
車が目的地に到着して、少女を降ろして部屋へと案内する。
目的の部屋の前で中に居た部下の一人が、

「お召し物をこちらへ」

などと死刑執行書にサインをするような事を言ったので少し焦ると同時にこの少女の実力を見る機会が到来した事に気付く。

「お断りよ。セクハラするような人物と話す事はないわ。
 悪いけど帰らせて貰うわね」

少女が私に告げると背を向けて部屋を出て行こうとする。
部下が慌てて止めようと手を伸ばした瞬間、頭から……両断された。
頭頂部から股間までを瞬時に切断したが、少女は動いた形跡はなく……如何なる手段なのか判断できない。
やはりこの少女は自分達など歯牙に掛ける事もなく、殺せるだけの力を有しているのを確認した。

「薄汚い手で触れる事を許した覚えはないわ。
 臆病者に用はない……そう、爺様方に伝えなさい」

むせ返るような血の匂いの中でも少女は揺らぐ事なく、出口に向かおうとする。
部下の死体には興味がなく……どうでも良い事だと窺える。
部下達が慌てて銃を取り出して構えたが、瞬時に銃身が切断されている事に気付いて声を失っている。
身体を張って少女の前に立った部下を、少女は呆れた目を向けながら……赤い液体らしき物に溶かした。

「ゼーレと喧嘩する気はないけど……売られた以上は買っても良いわね」
「待たれよ。部下の非礼は私がお詫びしよう」

慌てて止めに入るが、少女は私に一瞥すると歩みを止める事なく……部屋から出て行った。
止めたかったが止められなかった。少女は私の存在など路傍の石のように考えているのだろう。
無理に止めようものなら平気で殺しかねないとこの場に居た全員が感じていた。
見かけはまだ少女だが、中身は人間ではなく……自分達よりも遥かに強大な存在だと実感した瞬間だった。


『やはり人間ではないという事か?』
「はい、あれは人ではありません」
 
主の前で自分が見た事を話すと主は唸るように話す。
一応赤木リツコから報告は受けていたが、実際に見て頭を痛めている。
自分達の元にも同じような存在はいるが……まだ目覚めていないので取り押さえるのは難しい。
しかも赤木リツコの報告では儀式自体には反対している訳ではない。
相応しくない存在には協力しないと明言している。
特に碇ゲンドウには絶対に協力する気はないと赤木リツコには話している。
碇ゲンドウが本来この報告をするべきなのだが、赤木リツコからの報告である以上……碇ゲンドウが自分達を裏切る可能性は高い。

『碇め……裏切る心算のようだな』
「所詮十三人目だった訳でしょう。
 あの男が裏切るのは最初から分かっていた筈です」
『確かにな』
「あれが話していた計画の不具合をどう修正しますか?」

あの少女が指摘した計画の問題点の修正を主に問う。
話を聞く限り、主達が神の座に到達するにはこの欠点を改善しない限りに不可能に思える。
集団自殺であるならば……大丈夫だが。

『……計画はこのまま続行する。
 確証がない以上は止める事も出来ぬし……我々にはもう時間がない。
 人類には残された時間が無い事も事実なのだ』

詭弁だと私は感じる。
時間が無いのは主達であって、人類ではない。
こうなるとあの少女が指摘した無理心中という話に信憑性が出てくる。
ゼーレに忠誠を誓っているが、沈没すると分かっている船に何時までも乗っていて良いのか……悩むな。

「(逃げ支度も考えるべきだろうな)それでは私は当面はあれの監視を行う事で?」
『うむ、時期を見計らって再度召喚する。
 それまではお前が監視を続けよ』
「承知いたしました」

恭しく頭を垂れているが心情的には不信が渦巻いていた。
実際にゼーレの影響力は低下している。
主達が必死で歯止めを掛けているが……徐々に押され始めているのが現状だ。
盲目的に信じていたはずだったが、どこか冷めた部分が徐々に沸き上がっている。
目の前で人知を超えた力を見せつけられた影響なのか……自分でも不思議なくらい冷静に考えるようになっていた。



かつて首都であった場所は今は日重の実験場として再開発が始まっていた。
JA3――JAをスケールダウンさせた無人機による土木工事が昼夜を問わずに進められている。
外見こそ変わらないが、その大きさは半分にまで抑えられたJA3は背中から延びるコードによって制御されている。
現場を指揮しているのは時田とスピリッツから派遣されている赤城ナオコ。
マギ開発者の赤木ナオコと一字違いの人物だが……その才能は同一のものと日重のスタッフは感じている。
何故なら無人機JA3を統率するOSと制御用スーパーコンピューターは紛れもなくマギと呼ばれる第七世代型のコンピューターに比肩するものだった。
赤木ナオコの名は科学者の中では雲の上、もしくは伝説の人物として伝わっている。
碇ユイ、惣流・キョウコ・ツェッペリンはゼーレに所属し、露出する事がなく研究に没頭していた。
だが、赤木ナオコは様々な分野で露出し、その理論は現在の科学者達の礎にもなっていたのだ。
姿が瓜二つだけではなく赤木ナオコの再来と日重のスタッフは考え、ナオコに敬意を払っていた。

「第一段階はあっさり終わりましたね」
「まあね、ファントムの能力のアピールには十分だったわ」

エリィの指揮の下で戦自所属のパイロットが操縦するファントムが水没し、倒壊していたビル群を完全破壊するのが第一段階。
水際、水中での活動データーを取るのが戦自側の目的であり、パイロット達のATフィールド展開練習も兼ねている。
日本政府としても旧首都にある瓦礫を放置するのも復興事業を押し出す日本のイメージに良くはないと考えていたので、戦自の訓練による破壊ならという事で許 可を出した。
またファントムの映像を世界に見せる事でUN軍への採用を進めるという狙いもあった。
実際にファントムを動かす事を公表した際に様々な国から見学の許可を求める声があったので、招待客として来日して貰っている。
第二段階としてJA3による土木工事も招待客の目には好意的に映っている。
実際に製品化された時には使いたいと打診してくる国もあり、日重としても十分採算が取れると見込んでいた。
そして、この時期に合わせる様にして時田達の手で開発された新型の電気自動車は世界の注目を集めていた。
常温超電導技術による今までの電気自動車を遥かに上回るエネルギー効率の良い製品。
それはいずれ枯渇する石油、ガスという燃料に頼る事なく、環境に優しいエコロジーな商品なのだ。
使い方を謝らなければ、環境を破壊する事はない。
人類の未来を存続させるに相応しいと招待客からの賛辞の言葉も出ていた。
特にアメリカは絶賛している。既に日重のアメリカ進出は合意に達し、現地での生産工場の建設も始まっていた。
従業員の殆んどが現地で雇用する事が決まっているので失業者対策に貢献し、更に工場の増設の話も出ていた。
何年か先には現地社員による管理と生産、開発に移行するが、必要なパテントは日本が押さえているので利益は放って置いても日本に還ってくるのは間違いな い。
出る杭は打たれるという事はセカンドインパクト前の貿易摩擦で理解しているので、押さえる所を押さえるだけに留めている。
どちらにしても今期の日重の増益は前年度の倍は確実と噂され、日重全体が活気を帯びている。
経営陣は日重を選んだシンジ達に感謝しているし、技術者の時田達にしても信じられない高さを持つ技術力に触れる機会が出来たので感謝されていた。

「JA3のオプションパーツの不具合はどう?」
「特に問題はないです」

ナオコからの質問に時田が答える。
土木開発用に造られたオプションパーツは今後のJA3の多目的活用に必要な物ばかりだった。
今回の作業でその不具合を全て出しきって、改修する目的が日重にはあるし、JA3の運用データーを多く取りたい点もある。
実際に動かす事で出てくる問題点もあるので、この再開発は非常に大きな意味を持っているのだ。
またJAの小型化による不具合の修正もリアルタイムで送られてくる情報で改善を始める予定だった。

「とりあえず更地にして、新首都の再建ね。
 昔の東京より効率良く機能する都市設計をしてくれるとありがたいけど」
「昔の東京は色々不都合がありました」

ナオコの意見に時田が追従すると他のスタッフも同じように頷いている。
特に首都高の交通渋滞は不便でしかなかったので、次の都市にはそういう欠点をなくして欲しいと思っているみたいだ。
スタッフ一同は過去ではなく未来に目を向けている。
自分達がこの場所に新しい都市を作る為の準備を行っているという誇りがあった。



「な、なあ惣流……ケンスケはどないしたんや?」

鈴原トウジがアスカに恐る恐る尋ねてくる。
クラスの大半がネルフの関係者だから事件の事を何となく聞いているのだろう。
トウジが代表して尋ねたが、その質問はクラスの総意でもあった。

「……想像通りよ。あのバカは入院中」
「そ、そうか」

険しい表情でアスカが答えると事情を知るレイ、マナ、ティアを除くクラス全員が複雑な顔になっている。
女子は自分達を隠し撮りして小銭を稼いでいる点は嫌いなのでいい気味だと思うが、入院と聞いては少し同情もしている。
男子はだから言わんこっちゃないという感情が先に出ているし、現実はそう甘くないぞと実感していた。
アスカとしても今回の件は自業自得だと考えているし、泣き喚くシーンを見た事で同情する気も失せている。
『戦争やってんだから泣き喚くんじゃないわよ!』というのがアスカの出した結論だった。
リツコが診察した限り、外傷はないがトラウマにはなっている可能性が高いという話だ。
刃物を見ると戦闘を思い出すのか、ガタガタと身体を震わせて泣き喚くという自業自得のような行動を起こしたりする。
これで少しは危ない事に近付かなければ良いとリンはコメントしていた点はアスカも賛同していた。
参号機は大破したのでケンスケのフォースチルドレンとしての登録は抹消される。
ある意味、このクラスでは最も安全になった可能性は否めないので複雑な気分だったが。

「予定では明後日よね」

アスカはレイに確認の意味を込めて聞く。

「ええ、変化がなければ来る筈よ」
「リベンジのチャンスはアタシにはあるのね」
「そうね。零号機の出撃は無理。
 ヒゲが凍結を解除しないと思う」

レイが不安そうに話す。
第十四使徒は戦闘力においては使徒中最大の存在である。
アスカもかなり腕をあげているから大丈夫だと思うけど心配な点も確かだった。

「……バックアップ出来ないのは痛いわ」
「確かにその点は痛いわね」

今回の使徒戦はチームワークが前回のものとは比べものにならない。
三人で一つのチームとして上手く機能しているだけに背中を守ってくれたレイの不在は不安要素になる。

「アイツ、身体が頑丈だから対抗策はあるけど援護がないと不安かもね」
「コアの防御も万全だったわ」
「そうね。防御用の装甲があるなんて厄介かもね」

そんなものがあるとはアスカは知らなかったので事前に知る事が出来て助かっている。
戦っている最中に判明したら焦るかもしれないと思うと少し気が楽になる。

(ママ……アタシには大事な友達が出来たわ。
 全てが終われば必ず紹介してあげるから)

ママを弐号機から解放する事は決定している。
いきなり大きくなったアタシを見て、吃驚するかもしれないけど、それはそれで面白いと思う。
その時にはここにいるレイとリンの二人を友人として紹介しながら今までの苦労話を面白おかしく説明しようと考えている。

「今回ばかりは負けらんないわ。
 レイの分まで前回の借りは返すんだから」
「そうね。今のアスカなら勝てるわ」
「まっかせなさい♪」

レイの一言で不安はかなり無くなっていた。
アタシはもうすぐ現れる第十四使徒ゼルエルとの決戦に高揚していた。



発令所で伊吹マヤは尊敬する上司であるリツコに尋ねる。

「先輩、参号機はどうなります?」
「多分、廃棄の方向で進めると思うわ。
 使徒に汚染された機体をそのまま使うわけにもいかないしね」
「じゃあ、フォースチルドレンは?」
「登録を抹消ね」

リツコの考えを聞いてマヤはホッと安堵した顔になっている。
どうも話を聞く限り素行に問題のある少年みたいだったのでリン達とトラブルが起きないか心配していた様子だった。

「みんな、嫌っているみたいでしたから心配だったんです」
「そうね。私も揉め事は好きじゃないし、これが最善かしら。
 まあ喧嘩になっても勝ち目はないけどね」

三人の実力を知っているリツコは思い出してクスクスと笑っている。

「レイに無視されて、アスカに口論で負け、リンが殲滅するってとこよね」
「……ありえる話ですね〜」

リツコの意見を聞いて、マヤも釣られるように微笑んでいる。

「でもリンちゃんって、手より口の方がきついですけどね」
「そうよね。アスカと手と同じくらいきついわ。
 嫌いな相手にはシニカルで冷めた目で棘だらけの皮肉ばっかり」
「あれはきついですよね〜」
「副司令にヅラ発言はあの子しか出来ないわ」

二人の会話を聞いていた他のスタッフも思い出して笑いを堪えていた。



同時刻、参号機の回収に向かったネルフスタッフは技術部と保安部を除いて気楽な様子で作業を行っていた。
切り落とされた四肢を回収しながら胴体部の汚染具合をチェックしていた。
一応使徒は殲滅したから大丈夫だと考えているが休眠状態の可能性もあるので注意を怠る訳には行かない。
死んだ振りをしてジオフロントに入る可能性は少ないとリツコは考えているのだが技術部は真剣な表情で分析している。
またS2機関を内蔵している可能性もある……扱いは慎重になる必要があった。

「四肢の分析結果が出たぞ」
「どうだった?」
「伊吹さん経由でマギの意見を聞く限り大丈夫そうだ」

マギの太鼓判が出て、ホッと安堵する整備班。
参号機が暴れたおかげで松代で保存する予定は白紙に戻ったので、本部で保管しなければならない。

「じゃあ先に四肢を運搬しておくか?」
「そうだな」

リツコからの寄生生物によりエヴァの汚染の警告は聞いている。
万が一寄生されて復活なんて事態は避けたいのが技術部の総意だった。
本当はすぐにでも全てを松代の実験施設に搬入して厳重な監視体制の下で検査したかったが……実験施設は破壊されていた。
その為にかなり危険を伴いながら現場で分析するという状態に陥っていた。

「胴体の分析結果は明日以降か……」
「早く出て欲しいな」

外の風景に目を向ければ、夕闇が迫り……夜の世界へと変貌し始めている。
クレーンで吊り上げる四肢の影が伸びて、スタッフの心に不安の影を映し出す。

「……嫌な予感がするんだが」
「奇遇だな、俺もなんだ」
「保安部に監視体制の強化を要請するぞ」
「賛成だ」

勘なんて不確かなものに頼るのも嫌だが、備えは必要だと考える。

「部長はなんて?」
「無理はしない事。やばいと思ったら逃げなさいだ」
「……整備班のスタッフを交代制にして車輌に待機させて動けるように準備しておく」

自分達の上司である赤木リツコの警告を無視する気はない。
最悪の事態を幾つか想定して対処するように動くのがリツコのやり方だ。
リツコの薫陶よろしく、事前に脱出プランを考える整備班の責任者達だった。



それは音もなく、地を這うようにしてゆっくりと進む。
時折、自身の体内に近づく物を捕食して動く力を溜め込む。
だが、取り込んでも取り込んでも僅かな力しか得られないので不満な様子だった。
力への渇望……それがこの生命体を動かす原動力。
そして、それは遠くにある存在を知覚した。
自身が望む力が其処にある事を。
だが、周囲に邪魔な存在がいる事も理解した。
今の状態では其処へは辿り着けない。
自身の身体を溶かして地面に潜り込ませて気付かれずに、地面の中を泳ぐように侵入する。
やがて、その存在は望んだ物を手に入れる。

第十三使徒――バルディエルと呼ばれた存在の抜け殻を……。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうもEFFです。

使徒であって、使徒ではない存在との戦いが始まります。
ゼルエルとの同時侵攻というとんでもない事態にある予定です。
オリジナル要素ではありますが面白ければそれで良しという事で。

それでは次回もサービス、サービス♪

追伸
リアルのほうの影響で少々スピードが落ちています。
第十四使徒戦までは書けましたが……それ以降停滞中です。
もしかしたら隔週になるかもしれませんが、一応最後まで書き上げますので安心して下さい。


押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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