リィンフォースの言うようにネギが学園長から特使に任命され、

チアリーダーズ三人娘のネギと木乃香がデートしているとの誤情報であやかが暴走し、アスナが巻き込まれ、

カモが木乃香とネギの仮契約を企てスカカードを作り、アスナに折檻され、

その後で仲良くアスナの誕生会と称してカラオケに行ったり、

エヴァンジェリンのネギのためというお題目で始められた愛情溢れる修業という名の苦行があり、

チャチャゼロと茶々丸の合同での戦闘訓練でネギが三途の川辺で渡し守と仲良くお茶するような関係になり、

日を追う毎に成長するネギに古が熱血指導を行い、

ほんの少し……ネギの顔に精悍さが出てきてた頃、



「……い、いよいよ明日から修学旅行です。
  皆さん、準備は万全ですね!」

「は――――い♪」

父の手掛かりを求めてのネギの修学旅行が始まろうとしていた。
ちなみにネギは二人の弟子思いの心優しき?師匠による熱血指導(スパルタとも言う)によって身も心もフラフラだったが。




麻帆良に降り立った夜天の騎士 十四時間目
By EFF




――ピ、ピピピッ―――カチッ

目覚まし時計のベルが鳴ると同時にストップさせる早業で起き上がるエヴァンジェリン。
時計のベルが鳴る前から既に起きていたのか……動きに無駄がなく、その表情は溢れんばかりの喜びに満ちていた。
今日から修学旅行……エヴァンジェリンにとっては外に出られる初めての学生イベント。
忌まわしい登校地獄から15年ぶりの外界へのお出かけだった故にハイテンションだった。

「ふ、ふはははッ♪」
「ウルセエゾ、御主人」

チャチャゼロが近所迷惑と言わんばかりに文句を告げているが、全然耳に入っていない。

「十五年……十五年ぶりの外の世界…………ああ、しかも行き先が京都、奈良♪」

「聞コエチャイネェ……相当浮カレキッテヤガルゼ」
「……修学旅行。この一大イベントを楽しめる日が来るとは♪」
「ナチュラルハイッテ奴カ?」
「しかも夜はリィンと一緒に祇園で京懐石を食べる……久方ぶりに美味い酒が飲めそうだ♪」
「完全ニ親父ニナリヤガッタ……」
「思えば十五年間の苦しみはこの日の幸せを味わうためのスパイスだったのかもしれんな ♪」
「…………好キニシテクレ」

高らかに笑うエヴァンジェリンにチャチャゼロは真祖の威厳は何処に行ったのやらと呆れかえっていた。


「こんなにもお喜びになるマスターは初めてです」

台所で朝食の用意をしていた茶々丸はエヴァンジェリンの笑い声を聞いて嬉しそうにし、

「…………まだ六時じゃない……もう少し寝かせて欲しいのに…」

エヴァンジェリンの大きな笑い声に起こされたリィンフォースは、ハイテンションなエヴァンジェリンに付き合いきれずに二度寝しようとしていた。




「……むぅぅ」
「睨んでもダメよ……早く出たい気持ちも分からないけど、無駄遣いできるほど余裕はそうないんだから」
「マスター、リィンさんを困らせるのはどうかと思いますが?」

朝食の席でエヴァンジェリンが今にでも飛び出したい気持ちを隠せずに食事をしている。
向かいに座るリィンフォースはそんなエヴァンジェリンに注意し、二人の給仕をしている茶々丸は宥めようとする。

「絶対に肌身離さず着けていてね……お風呂でもね」
「……ああ、何度も聞いたぞ」

リィンフォースはエヴァンジェリンの右手にある紅いブレスレットを指差してしっかりと言い聞かせる。

「魔法使いってうっかり属性がそこはかとなく有るみたいだから心配だな。
  茶々丸、気をつけてね」
「承知いたしました」
「クリムゾンムーン、エヴァが外そうとした時は警告音で注意、更に外す時は音声で注意して」
『Yes,sir』

無機質な音声で返事をする紅いブレスレット――クリムゾンムーン。
この世界に来てリィンフォースが設計し、調整を行った三番目のインテリジェントデバイスがエヴァンジェリンの右手首にアクセサリーとして飾られ、朝日を浴びて輝いていた。




「フ、フハハハァァ――――!!!!」

麻帆良学園都市を出た瞬間、高らかに声を上げるエヴァンジェリンにクラス一同は何事かと目を向ける。

「……気にしないで、初めての修学旅行でテンションが高いだけだから」

複雑な事情を知っている者達はリィンフォースの実力に感心し、知らない者は些か納得できない感じでも無理に納得させたというか……子供っぽく喜んでいるエヴァンジェリンに親近感を覚えていた。

「新幹線から見える流れる景色という物は格別だな♪」

ハイテンションで窓にかじり付くように景色を眺めるエヴァンジェリン。

「あのリィンフォースさん……」
「もうしばらくはエヴァは使い物にならないから気をつけてね、刹那」
「……わ、わかりました」

リィンフォースが移動した際に声をかけた桜咲 刹那はこの時点で戦力の確認を頭の中で計算する。

(私がお嬢様の護衛。ネギ先生が親書を携えた特使。瀬流彦先生が一般生徒の警護。
  そしてリィンフォースさんがバックアップですね)

「木乃香の護衛は刹那に任せるというか……一切関与しないから」
「え゛?」

この面子の中で一番頼りになる人物からはっきりと戦力外通告を言われて刹那は硬直する。

「だから、私はネギ先生の護衛はしても良いけど、ジジイの孫娘の世話はする気はないの」
「そ、そうなのですか?」
「当たり前でしょ! なんで私が危険の渦中に飛び込むなんて真似をしなきゃなんないのよ。
  あのジジイはまあ何とかなるじゃろうと楽観視しているみたいだけど……勝手に戦力に組み込まれるのは不愉快なの」
「……す、すみません」

勝手に戦力に組み込むという言葉に刹那もリィンフォースの助力を期待した自分の甘さを恥じていた。

「刹那……班が別なんだから勝手な行動は許さないわよ」
「そ、そんな!?」

刹那の班は六班、木乃香の班は五班で同じ行動を取るとは限らない。
しかも班長のリィンフォースが許可しないと忠告した以上……好きに行動できるのは難しい。

「ま、今回は適当に理由をつけて誤魔化してあげるけど」
「お、お願いします」

事情を知っているリィンフォースが仕方なく譲歩する。
刹那もリィンフォースと対立するのは嫌なので頭を下げて感謝している。

「ねえ刹那。いい加減、護衛の仕事を諦めるか、事情を省みて側で警護するか……決めなさい。
  事情を知っている私が班長だから何とかなるけど、いいんちょなら絶対に見逃さないで制限を受けるわよ」
「う!……し、しかし…」

最初から同じ班にすれば、こんな些細な問題もなく万全の状態で警護できる。

「別に魔法の事を黙っていれば、側にいても良いんだから」
「そ、それはそうなんですが……」
「まあ刹那が後悔しなければ、べつにどうなろうと構わないし。
  木乃香が怪我をしたり、死んでもそれは刹那の責任じゃないの。
  こういう状況を作り出したジジイや木乃香の両親が悪いんだからね」

責任感を過剰に背負っている刹那に、思いつめないようにと注意するリィンフォース。

「それじゃ、私は車内販売のとこに行くから」
「は、はい」

リィンフォースは片手を振りながら刹那から離れて行く。
その後姿を見ながら刹那は自分の我侭による任務の困難さを今一度噛み締めていた。

(このちゃん……うち、もしかしたら守れ―――違う! 絶対に守るからね!

挫けそうになった心に喝を入れて刹那はリィンフォースの後を追って車内の調査を再開していた。
まさかとは思うが……京都に入る前に仕掛けてくる可能性を否定できなかったのだ。



それでは今回の修学旅行の各班の構成人員の説明としゃれ込もうか。

第1班
柿崎 美砂(班長)

釘宮 円
椎名 桜子
鳴滝 風香
鳴滝 史伽

可もなく不可もなく……ごく普通の班だと思うが、アスナの姐さんが言うには桜子という子は運を味方につける天性のギャンブラーらしい(俺っちにそのスキルをくれよ、マジで!)

第2班
古 菲(班長)"兄貴の拳の師匠"(個人的には是非ともパクティオーして欲しいんだよな)

春日 美空
超 鈴音
長瀬 楓 "ジャパニーズ忍者らしい"(ホントに忍者ならパクティオーして欲しいぜ!)
葉加瀬 聡美
四葉 五月

バカレンジャーが二人居るが、そのフォローが出来る天才少女が居るので知力、体力のバランスは取れているらしい。

第3班
雪広 あやか(班長)"兄貴にぞっこんのお嬢さま"(味方になれば兄貴のバックアップは充実するな♪)

朝倉 和美
相坂 さよ "ゆ、幽霊って……"(日本の学校って……門戸が広いぜ)
那波 千鶴
長谷川 千雨
村上 夏美

一斑と同じように普通の班らしいが、兄貴にゾッコンのお嬢さまに、過激な行動力のあるパパラッチがいるおかげでフットワークは一番かもしれないかも。

第4班
明石 裕奈(班長)

和泉 亜子
大河内 アキラ
佐々木 まき絵 "兄貴の事が気になるみたいだ"(ポテンシャルは高そうなんだよな)
龍宮 真名 (よー分からんが……なんか出来る人に見えるんだよな。隙がないだけにリィンの姐さんと同じタイプか?)

一般人として見るなら体力面ではクラス内で高いレベルらしい。

第五班
神楽坂 明日菜(班長)"兄貴の従者"(今回の修学旅行も頑張ってもらいますぜ!)

綾瀬 夕映
近衛 木乃香 "あの学園長の孫らしい"(信じられねえんだよな……それとも年取ったら、後頭部が伸びるとか?)
早乙女 ハルナ
宮崎 のどか "読書が好きなおとなしい子"(だけど兄貴ラブだから上手く誘導してパクティオーさせてみせるぜ!)

アスナの姐さんを除けば、知力面では高いかもしれねえ(姐さん……もう少し勉強しないとダメだぜ)

第六班
リィンフォース・夜天(班長)"魔法使いだと思う"(どうも普通の魔法使いじゃねえし……この人にも逆らわないようにしよう)

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル "真祖の吸血鬼"(……絶対に逆らわないようにしよう)
絡繰 茶々丸 "ガイノイドって言うロボでエヴァンジェリンの姐御の従者"(日本の科学技術はすげえぜ!)
桜咲 刹那 (この人もただ者じゃない気がする。もしかして竹刀袋には本物の刀が入っているんじゃ?)
ザジー・レイニーデイ

火力?ではクラス随一の面子らしい(リィンの姐さんに真祖の姐さん……規格外だから全然読めねえな)



「カモ君……何を呟いているの?」
「えっと、何となく説明しなきゃならない気がしたんで……」

ネギの肩に乗りながら、一人呟くカモ。

「それより兄貴、あんまりキョロキョロ周囲を見るのも警戒してますって言ってるもんだぜ」
「そ、そうかな?」
「そうだぜ。兄貴が親書を持っているって教えているようなもんだ」

何処となく落ち着かない様子のネギにカモが落ち着くように話す。

「重要な仕事を任されたのは分かるけどよー。浮ついた心じゃダメなんだぜ」
うっ……そうだね!」
「いざとなったらアスナの姐さんとリィンフォースの姐さんが協力してくれるんだ。
  まあ大船に乗った気持ちで落ち着いてな」
「う、うん」
(まあ落ち着けって言うのも無理があるけどな。
  仕事だけじゃなくて、兄貴が探し続けていた親父さんの手掛かりもあるかもだし……)

無理矢理落ち着こうとするネギを見ながら、カモは心の中でため息を一つ……吐いている。

(学園長も結構酷な仕事を与えるぜ。
  おかげで兄貴は一杯一杯だから……パクティオーさせようものなら大混乱するんじゃねえか!)

いつもと違う状況下だから生徒も浮かれているのでパクティオーさせるのは楽勝だと考えていたカモだが、与えられた任務が任務だけにどうしたもんかと悩んでいる。

(出たとこ勝負って寸法か……出来れば、いやこの機会を見逃すほど俺っちは甘くないぜ!!
  兄貴のためにも、俺っちの懐を温めるためにも必ずキメてやるぜ!!)

どうやらギャンブラー体質なのか……困難があれば、あるほど燃えるみたいなカモだった。





リィンフォースは新幹線の車内を歩いて、車内販売の売り子の背中を見つける。

「お姉さん、お弁当欲しいんだけど?」
「あ、はいはい。何にしますか?」

売り子のお姉さんこと天ヶ崎 千草は業務用の笑みを浮かべて対応するが、

(なんや? ここまで簡単に近付かれるとは思いませんでしたえ)

声を掛けられるまで気付かないほど接近された事にちょっと焦っていた。

「お姉さん……京都の人?」
「へ? よう分かりましたな」
「知り合いに同じようなしゃべり方の子いるからね」
「おやまあ、そうだったんどすか……奇遇どすな(対象のクラスメイトなんか?)」
「コレとコレ貰える?」
「かましまへんけど……食べ過ぎやとお腹こわしますえ」

幾つかあるお弁当のうち二つを選んで取るリィンフォースに軽く注意する千草。

「大丈夫、友達を半分こだから」
「ならちょうど一人分どすな」
「そ、そ」

支払いを終えて、次のお客を求めて行こうかとする千草に、

「これあげる……」
「なんどすか、これは?(はは、挨拶代わりを見事に避けられましたか)」

列車に仕掛けておいた百八のカエルの式神札を渡される。
内心では驚き、感心しているが表情は一切変える事なく手に取った札の意味が分からない振りをする。

「お名前、聞いてもよろしいおすか?」
「ん、リィンフォース・夜天。じゃあ私も聞かせてもらおうかな?」
「天ヶ崎 千草言います。縁があったら、またお会いしましょうか?」
「まあ、そのうちね」

ひらひらと手を振って千草の前から離れていくリィンフォースを見ながら千草は呟く。

「こら、難儀な仕事になりそうどすな」

あっさりと挨拶代わりの仕事を妨害されて千草は苦笑する。

「しばらく日本に居んうちに東は戦力強化したのは……ほんまかもな」

関西の陰陽術師が悉く任務に失敗し、使い物にならなくなったという噂話は本当かもしれないと千草は判断する。

「こりゃ高村はんが焦るわけや……本番は京都に入ってからやけどな」

麻帆良学園都市が鬼門という話が関西では当たり前の話になり始めている。
侵入に成功しても目的を達する前に捕らえられるだけならまだマシ。
最悪なのは都市の外に放逐された場合で……二度と陰陽術が使えない身体に変えられる呪いがあるらしい。
真っ黒な影の手が背後から身体を貫いて気を失い……気が付いたら魔力を出せなくなるらしい。
気を出す事は辛うじて出来るらしいが、それでもかなり落ち込み一般人より少しマシ程度。
はっきり言って再起不能。おかげでここ一年で強硬派の人員が減らされている始末らしい。

「まあ、そのおかげで外に追放されたうちまで呼ぶんやから……」

徐々に削られるように人員が減っている。
東に文句を言いたいのだが……犯罪行為ゆえに何も言えずに黙るしかない。
生きて帰ってきた者は陰陽術師としては再起不能。
帰って来ない者は犯罪者として裏のルールに従って投獄。
もっともその方が陰陽術師としては再起の可能性があるだけ救いがある。
高村が表向き穏健派の振りをして、裏で強硬派をまとめているが……徐々にその影響力も低下している。
皆、不安を感じているのだ……強硬派である自分達を切り捨てて生き残ろうとしないかと……。

「ここで結果を出さんと……あん人もお終いやね。
  まあ貰うもんもろたら、それでええんやけど」

失墜していく様を近くで見つつ……与えられた任務を完了させるだけ。
自分が追放される前に対処を怠った連中に慈悲の心はない。
一度のミスが生死を分かつ……それが常識だと気付いた千草は京都までは何もしない事にする。
油断や相手を侮るなどするようではプロとしては失格なのだ。

「向こうでは適当に遊んで……夜に仕掛けよか?」

久方ぶりのやばい仕事だが、恐怖という感情を受け入れて……力に変えるのもプロとしての技なのだ。
お互い車内ではマジで戦う事もないと知っているだけに千草は落ち着いて売り子の仕事を行っていた。




「……面倒よね。あの人、実戦経験豊富そう」

軽い脅しを掛けたのに平然と売り子の仕事をしている千草の肝の太さにリィンフォースは嫌そうな顔をしている。

「どうかしたんですか、リィンさん?」
「まあ第一ラウンドは勝ったけど……後々大変だなと思ったの」
「そっちは任せる。必要なら茶々丸も使っても構わん」

買ってきたお弁当をエヴァンジェリンと二人で仲良く半分こで食べているリィンフォース。

「第一ラウンドとはどういう意味ですか?」
「さっきね、ちょっかい掛けそうな雰囲気のお姉さんの仕事を妨害したの」
「な!?」

慌てて竹刀袋に手を掛ける刹那を手で止めて、リィンフォースは話す。

「多分、弱い式神を無数に出して、こちらを混乱させている間に親書を奪おうとしたみたい」
「そ、そうですか」
「ところでネギ少年に刹那の立場を説明したの?」

安堵している刹那にリィンフォースは問う。

「いえ、まだですが」
「うそっ!? 京都に入る前になんでしなかったのよ?
  刹那はあっちと人間として勘違いされて警戒されても知らないわよ」
「ま、まさか?」
「ジジイが説明すると思うの?
  説明してたら、ネギ少年のほうから事前に打ち合わせもするわよ。
  ネギ少年は杓子定規とまでは行かないけど……真面目で真っ直ぐなんだから木乃香の護衛役の刹那に挨拶くらいは必ずするわよ」
「はん! あのじじいもうっかりしてるな。
  ぼーやからは何も聞いていないぞ」
「はい。私もネギ先生から何も聞いておりませんが」

エヴァンジェリン、茶々丸からも同様の意見が出て、刹那は焦り始める。
まさか学園長がそんなうっかりな事はしないと思っていただけに。

「てっきり学園長が事前に教えていたと思ったんですが……」
「あの人、愉快犯なんだから信用しちゃダメよ」
「全くだ」
「……私が言うのもなんですが、信用しても挨拶はしておくべきではなかったでしょうか?」

リィンフォースから自分が敵と思われる可能性を指摘されて刹那は冷や汗を浮かべている。

「しょうがないわね。ネギ少年?」

リィンフォースが立ち上がり、ネギに声を掛ける。

「悪い、ちょっとこっちに来てくれる?」
「あ、はい。いいですよ」

ネギは他のクラスメイトからの誘いを断ってリィンフォースについて行く。

「あれ、桜咲さん? どうかしたんですか?」

クラスの生徒ではあるが殆ど会話をしていない刹那が、ネギが呼ばれた先で待っていたので不思議そうに首を傾ける。

「学園長から事情を聞いてる?」
「何がですか?」

次の車両との連結部の場所で刹那が待ち構え、リィンフォースが問い掛けるがネギは意味が分からずに途惑っていた。

「ほらね、学園長をあんまり信用しちゃダメよ」
「…………はい」

リィンフォースの呆れた声に刹那は肩を落として頷いている。
そんな二人の様子にネギは困惑して声が出ない。

「え、えっと……」
「名前は知っているけど桜咲 刹那、木乃香お嬢さんの護衛役よ」
「え? そ、そうなんですか!?」

呆然とする刹那を尻目にリィンフォースがネギに説明して驚かせている。

「つー事は味方って事ですよね、リィンの姐さん」
「そういう事、アル」
「……カモでいいっス」
「いや、カモって呼ぶと……食材に思ってしまうから」
「お、思わんで下さい……姐さん」

カモを鴨と連想するのか、リィンフォースがカモと呼びたくないと発言する。

「……分かりやした、アルと呼んでも結構です(こ、この人にはぜってー逆らわないぞ)」

食物連鎖の底辺と頂点との位置付けをはっきりと感じたカモは、もはや反論しないで素直に従うのが一番の上策と理解した。



同時刻、同じ新幹線で京都に向かう麻帆良学園男子高等部の面子が居る。
奇しくも彼らも女子中等部と同じ選択式でハワイと京都、奈良の二択だったが……殆どの生徒がハワイ行きを希望し、血で血を洗う抗争の果てに決定された修学旅行に一部を除いて不満を持っていた。
何故なら、ハワイ行きの場合は高等部所属のクールビューティーな教師葛葉 刀子(くずのはとうこ)を筆頭にした女性教師の水着姿付きというイベントを見逃す事になっていたからだ。

「ふ、ハワイ行きを逃した時は悲劇だと思っていたが……やはり天は信じる者の味方という事だな」
「……単に偶然だろう」

慶一がそれはもう見事な笑みを浮かべてナチュラルハイな様子で居るのを豪徳寺が非常に冷めた目で見つめていた。
ただし慶一が期待していたのは刀子先生達の水着姿ではなく、同じ観光地を回る事になるリィンフォースとのイベントだったが。

「大体だな……あの鉄壁のガードをどう掻い潜る気なんだ?」

大豪院が浮かれすぎの慶一を嗜めるように話すと慶一は身体を硬直させて凍り付いていた。
慶一を大事な娘に近付く馬の骨と認識したエヴァンジェリンの指示によって茶々丸が常にリィンフォースの早朝トレーニングに参加し、慶一からの接近を許していないのだ(ちなみにエヴァンジェリンは朝がダメなので就寝中)
リィンフォースのほうから歩み寄る場合は大丈夫だが、その際でも常に背後に控えるようにしている。
"私に勝てない限りはリィンさんに近付くのは難しいですね"とか"一応マスターの指示ですから"と言っているが本人もマジみたいだから容易には近づけないのだ。

「ま、グループ交際みたいに近付けば大丈夫じゃねえか?」
「た、達也!?」
「実際に中武研の部長とか、糸目の嬢ちゃんも出来るみたいだしな。
  ホント、リィンちゃんに会ってから次々とつえーコが出てくるのは嬉しいぜ」

達也も特に文句を言う気がなく、リィンと出会ってから次々と現れる実力者。
そして、その人物らとの手合わせに楽しんでいた。

「まあ俺は構わんが……」
「おお♪ 豪徳寺も協力してくれるのか?」
「ま、二人が言うのなら良いけどな」
「大豪院、感謝するぞ!」

慶一は三人の協力が得られた事に感謝しているが、

「上手く行くと思うか?」
「無理なんじゃねーか……スケジュールが合わんし、最終日か三日目まではな」
「……言うべきか?」

大豪院が浮かれている慶一を指差して二人に問うが、

「……想像でも良いから、つかの間の幸福を味合わせてやれよ」
「そうだな」

保護欲全開の二人の少女によって守られた姫君に恋焦がれる男の空回りを生温かく見守るように返事を返していた。







無事に京都駅に辿り着いた一行はバスに乗って清水寺へと向かう。

「…………素晴らしい。こんなにも美しい物が見られるとはな」
「マスター、これを」
「す、すまんな」

涙を流しながら清水の舞台から京の街を一望するエヴァンジェリンに茶々丸はそっとハンカチを出している。
すぐ側では綾瀬 夕映が薀蓄を話しながらクラスメイト達を感心させている。

「エヴァ、茶店があるから、そこでお団子でも食べようか?」
「そうだな。古都で食べる団子は風情があって良いものだ」
「侘び寂びは今ひとつわかんないけど……苦味のある抹茶に甘い団子は美味しいよ♪」
「ふ……まだまだお子様だな。ま、風情を楽しむには今しばらくと言ったところか?」
「花より団子ですから」

風情を楽しむより、食べる事を優先するリィンフォースをエヴァンジェリンと茶々丸が微笑ましげに見つめている。

「さ、早く行こうよ♪」

二人の会話が耳に入らなかったのか、リィンフォースは二人の手を取って引っ張っていく。

「あ、慌てるな。団子はそう簡単になくなりはせん」
「そうですよ、リィンさん。足元に気をつけて参りましょう」

注意しながらも、その表情は穏やかで温かみのある二人にリィンフォースも笑みを零れさせて仲良く歩く。

「凸凹親子?」
「夏美ちゃん、例え事実だとしてもエヴァンジェリンさんを怒らせちゃダメよ」
「ちづ姉のほうこそ失礼だと思うけど」

那波 千鶴(なば ちづる)が微笑ましくも見ながらもちょっと毒っ気を含んだセリフを話して、村上 夏美(むらかみ なつみ)を呆れさせたりしている。


そんな状況で、

「……ホント?」
「随分と変わった嫌がらせだな?」
「申し訳ありませんが意図がよく分かりません」

音羽の滝に用意された酒のトラップをネギから聞いて……三人は首を捻っている。
周囲には酔っ払って、顔が真っ赤になっているクラスメイトの姿が見える。

「茶々丸は酒樽の回収。
  アスナとネギ少年はみんなをバスへ運んで。
  エヴァは刹那と協力して周囲の警戒ね」
「は、はい!」
「承知しました」
「面倒だが……まあ良いだろう」

とりあえずの指示を出したリィンフォースに特に反対する理由もないメンバーが行動を開始する。

「私は新田先生に観光客を狙った嫌がらせだと報告してくるから」
「だ、大丈夫なの?」
「事情をきちんと説明すれば、きちんと対応する先生だよ」

トラブルの所為で修学旅行が中止になる可能性を心配するアスナに大丈夫だとリィンフォースは言って歩き出す。



「新田先生、少しよろしいですか?」
「夜天か……何かあったのか?」

今回の修学旅行の引率の教師達の責任者である生徒指導の新田がリィンフォースに向いて尋ねる。

「観光客を狙った嫌がらせだと思うんですが……」
「生徒の誰かが怪我をしたのか?」
「いえ、音羽の滝の水に日本酒を混ぜられて……ダウンしました。
  現在、ネギ先生が無事だった生徒に指示を出してバスへと運んでいます」
「…………おかしな嫌がらせだな」

渋面でリィンフォースからの報告を聞いている新田。
その表情からは生徒が巻き起こしたトラブルかと思いきや、生徒が巻き込まれたトラブルとは想定していなかったみたいだ。
何故なら、今回の修学旅行はいみじくも3−Aが参加していたからだった。

「まだ未成年で酒を飲む生徒はいませんでしたから……ちょっと霊験あらたかな味と勘違いしたみたいです」
「むぅ……確かに中学生では酒を飲む機会もそうはないからな」
「まあ、修学旅行ということで浮かれてたという理由もありますが」
「……3−Aだけに否定できんな」
「一応本日の予定では後はホテルに帰って夕食までは特に予定もないので……このまま行きたいのですが?
  せっかくの修学旅行を初日で終わらせるのもどうかと思うので」

リィンフォースの意見に新田は腕を組んで考え込む。
しばらく考え込んだ後、新田は隣にいた同僚の瀬流彦に意見を求める。

「瀬流彦先生はどう考えます?」
「……初日で潰すのはさすがに可哀そうじゃないですか?
  それにうちの生徒を狙ったのかも分かりませんし、とりあえず夕食の席で生徒に注意を呼びかけるというのは如何でしょう?」

事情を知っている瀬流彦は他の生徒には手を出す事はないと思っているし、ネギが親書を渡すまでは帰ろうとは言えないので現状維持を新田に進言する。

「そうだな。偶然の可能性のほうが高いし……ネギ先生が早い対応をした様子だから瀬流彦先生の意見で行こう」

新田は生徒が浮かれて自分から飲酒したのなら罰則に基づいての強制送還もありだが、今回は巻き込まれただけである以上は罪を問わない事にする。

「しかし、ネギ先生はなかなか先生が板についてきたのかも知れないな」

自分達に一礼して無事な生徒達の手を借りて迅速な対応を行っているネギを見て、新田は感心している。

「曲者揃いのクラスに振り回されながらも頑張っていますね」
「それって私もですか?」
「「そうだ(ね)」」

新田、瀬流彦の見事に重なる声にちょっと不満だったリィンフォースだった。






「ま、こんなもんやろか?」
「…………よく分からないね」

千草がネギ達の慌てふためく姿を式神を通じて見ている隣で白髪の少年が表情を変えずに聞いている。

「こうしておけば、一般人の生徒はダウンして動けんはずやで」
「そうだね……一般人を巻き込まないのは一理あるよ」
「とりあえず今夜はうちと月詠はんで行ってみますさかい……バックアップお願いするわ」
「……良いのかい?」
「あんさんは外から来たお人やろ……理由は聞かへんけど、うちらの抗争に係わるべきではあらしませんえ」

忠告するように話す千草に少年は告げる。

「……義理もあるし、仕事だからね」
「そんならもう言いませんけど……あまり本陣に近付かんように。
  あそこは魔法使いのあんさんには居心地が悪いしな」
「……そうだね」

千草の忠告に少年は肩を竦めて返事をする。
本陣――関西呪術協会の本山からすこし離れた場所で術師が集結している祭儀場。

「彼らは何をする気か、分かる?」
「大体は分かりますえ。今夜うちらが誘拐する人物を利用して……封じられた鬼神召喚やろな」
「……随分と派手な事をするね」
「そりゃ……後がないだけに目に見える大きな結果が必要やさかい」
「なるほどね」

結果という言葉に少年は納得して頷く。

「高村さんは焦っているんだ」
「ローリスクローリターンじゃ埒が明きませんって思い知らされたんえ」
「やれやれ、今更そんな事を言うようじゃダメだね」
「そういう事は口にせんほうがええで。
  ま、うちは外様やから気にせんけど……本陣の連中が聞いたら……」

最後のほうは言葉を濁しているが、千草は少年に警告を発する。
少年の方も迂闊な発言だと判断して千草に頷いて、それ以上は何も言わない。

「フェイトはんはいつでも京都から出られる準備をしておきなはれ。
  最悪は……戦争勃発まで発展しますえ」
「……だろうね」

千草の最悪の予想を聞いて、少年――フェイト・アーウェルンクス―― は表情も変えずに首肯する。

(怖いお人やな。高村はんより……やばいで)

千草はフェイトがまるで大戦のやり直しを望んでいるような気がしてならない。
高村は見せ札として手元に置いておくつもりかも知れないけど、自分の隣に居るフェイトは平気で使いそうな気がする。
もっとも、高村がフェイトの声を傾けるとは思わないが、高村の周囲に囁けば状況は動きかねない。
自身もそんな気持ちがないわけでもないが……情報を分析する限り、まだこちら側に足を踏み入れていない少女を生贄にするのはどうかとも思っている。

(不味いわ。外様やし、楽に動けると思おうたけど……どないしたもんか?)

監視されているわけではないが、迂闊に動くと後ろからバッサリと斬られる雰囲気があるだけに……行動できない。

(ほんに計算外かもしれませんな……派手に動かず、周囲には失敗続きでお茶を濁そうとしたのに)

開戦を望んでいない千草はワザと失敗しつつ、強硬派の本隊が動かないようにしたかった。

(高村はんも焦れてきとるみたいやし……悪い方向へ進んでいますえ)

本来の役目を忘れて、危険な妖怪を封じていた封印の破壊を決定して陽動を始めている。
そのおかげで和平派というか、穏健派の戦力が割かれている以上は本山の守備も万全ではないし、強硬派の抑えもままならない。

「本番は明後日の昼と考えておるんや」
「……今夜は威力偵察って事だね?」
「ま、そんなところでおますわ。
  見たところ、子供先生とその従者らしい少女に神鳴流の剣士と魔法使いが居るのは判りましたけど……それで全部かどうか」
「分かったよ。僕は後方から数の確認と逃走経路の確保に専念する」
「お願いするわ」

腹の探り合いをしながら二人は今夜の襲撃計画の大まかな段取りを決める。
今夜、ネギ達はもう一つ手荒い歓迎を受ける事になりそうだった。









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EFFです。

関西弁とかに対するツッコミは……ほどほどにお願いします(大核爆)
新しいインテリジェントデバイスが初お目見えです。
問題は日本語でセリフを出すべきか、英語で出すべきか、非常に悩みます。
まあ、読み易くするなら日本語で行くべきでしょうね。
当面はゴチャゴチャするかもしれませんが……試行錯誤して書いてみます。

それでは風雲急を告げる展開に活目して次回を待て!





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