ホテル嵐山に無事?に辿り着いたネギ一行は酔い潰れた生徒を各部屋で休ませてから、関係者を集めて相談を始める。

「……そう、また魔法関係のトラブルなのね」

ネギから事情を聞いたアスナは腕を組んで天を仰ぎながらため息を吐く。

「やれやれ……正直、気は進まないけどクラス全体の安全が掛かっている以上は手を貸すわよ」
「ア、アスナさん……」
「すまねえな、姐さん。感謝するぜ」

アスナは自分がお人好しだと思いつつ、頑張っているネギを助けたいと考えて苦笑いしている。

「メンバーはこれだけなの?」

アスナはロビーの近くにある簡易休憩所みたいなベンチに座る人物を見ながらネギに聞く。

「エヴァちゃんにリィンちゃん、茶々丸さんに……桜咲さん?」

一人だけ知らなかった人物の存在にアスナはリィンフォースに顔を向ける。

「木乃香専属の護衛よ」
「そうです、お嬢さまの身辺警護を行っています」
「へ? な、なんでこのかに専属の護衛がいるのよ?」
「そりゃ木乃香は何も教えてもらっていないけど、内包する力だけならネギ少年より上だから」
「ま、力だけならぼーや以上かもな」

茶々丸がエヴァンジェリンとリィンフォースに缶ジュースを差し出し、他のメンバーにも渡す。

「あ、ありがと」
「す、すみません、茶々丸さん」

受け取ったアスナとネギはお礼を述べてから刹那のほうの顔を向ける。

「実は……私とお嬢さまは幼馴染なんです」
「え、ええっ!? そ、そんなの初耳よ!」
「そ、そうなんですか!?」

いきなりの刹那の告白にアスナは驚きの声を上げていた。
ネギも初めて聞く内容に目を見開いて聞いていた。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 十五時間目
By EFF




自身が京都の神鳴流という退魔系の剣術を学ぶ傍らで木乃香と友人として仲良くしていた事を刹那は話す。
そして木乃香が麻帆良に行くと同時に護衛として影から警護していた事も……、

「―――というわけで私は影からずっと見守ってきたんです」

木乃香との出会いから始まり、今に至るまでの話を刹那から聞いたアスナは、

「それでか……中1の新学期の頃に落ち込んでいた理由」
「申し訳ありません。事情が事情なだけに近くにいれば、魔法の事がバレると不味いと思っていたので……。
  私は事情を隠しながら仲良くできるほど……器用じゃありませんから」

木乃香が落ち込んでいたと言われて俯きながら言い訳めいた説明を行う刹那。

「ゴ、ゴメン、刹那さんが悪いと言ったんじゃないの!
  このかが私に話してくれなかったのが水くさいと思ったのよ」

慌てて落ち込んでいる刹那をフォローするアスナ。

「そ、それより今はどういう状況なのか教えてくれる?」
「ぼ、僕にも教えてもらえませんか?
  マスターからは教えてもらったんですが実際に見るのは初めてなので詳しい説明をお願いします」
「マ、マスターとは?」

聞き慣れない言葉を耳にした刹那がネギを見ると、

「私がぼーやの師匠(マスター)なのさ」
「エ、エヴァンジェリンさんが!? リ、リィンフォースさんではなくて!?」

エヴァンジェリンがハッキリと刹那に告げると、驚いた様子で聞き返していた。
刹那はリィンフォースがネギの指導をしていたと思っていただけに、まさかという表情がありありと出ていた。

「私は異端の魔法使いだからね。
  これでも魔法使い歴一年ほどなの」
「「「え、ええ――――!!!?」」」

更に信じられない事をリィンフォースから言われてネギ、カモに刹那は絶叫していた。

「ま、普通は驚くだろうな」
「そうですね」

事情を知っているエヴァンジェリンと茶々丸は落ち着いた様子で驚く面子を見ていた。

「魔法って、簡単に覚えられるもんなんだ……」

アスナだけは一年で覚えられるのなら自分も覚えようかと考えているみたいだった。

「いや、リィンは私達とは技術体系の違う魔導師だからな。
  最初から習い覚えるというには語弊があるぞ」
「え、そうなの?」
「私も初めて聞きましたが?」

アスナと刹那がリィンに確認すると、

「そうよ。私が居た所では魔導師=騎士という名で呼んでいたから」
「だからベルカの騎士なんだ」
「ま、そういう事。私はベルカの魔導師リィンフォース・夜天なのよ」

なぜ騎士と名乗っていたのかを分かりやすくリィンフォースが説明し、続いて刹那が関西呪術協会の術者の説明を行う。

「こちらでは日本古来の魔法――陰陽術を以って戦うことが基本スタイルです。
  西洋魔法にミニステル・マギ……従者がいるように、こっちでは式神を前衛に用います」
「式神っていうと、この前ネギが持ってきて、木乃香と一緒にビデオで見た鬼とか蜘蛛みたいな奴?」
「あれはマスターが一例として見るように言ってくれた参考資料です」

アスナがネギと一緒に見たビデオの内容を思い出すように呟き、ネギが追加補足する。

「ま、口で言うより見たほうが判り易いから茶々丸に参考映像としてそれらしいのを用意させたんだよ」
「はい、ちょうど特撮関係のビデオで参考になりそうなのがありましたので」

エヴァンジェリンと茶々丸が京都でのトラブル対策用にと見せたらしい。

「そうですか……私は見てないので内容は分かりませんが大体合っていると思います。
  後は私が所属していた京都神鳴流が護衛に付く可能性があります」
「し、神鳴流?」
「はい、神鳴流とは元々京を護り、魔を討つ事を生業とした戦闘集団です。
  今は関西呪術協会に所属し、呪符使いの護衛に付く事があります。
  その場合は非常に厳しい事になると思われます」
「うわわ……ちょっとやばそうじゃない!」
「じゃ、じゃあ神鳴流は敵になる可能性があるんですね!?」

対人戦の経験の少ないアスナは焦り、ネギも経験不足故に途惑う。

「はい……彼らにすれば、私は西を抜けて東に付いた裏切り者です」
「「え?」」
「ま、否定は出来ないわね」
「そうだな」

驚く二人にリィンフォースとエヴァンジェリンは否定せずに頷いている。

「ですが、私は……お嬢さまを守れれば、それで十分です」
「……刹那さん」
「…………」

感動して声が出ないネギとアスナを見ながらリィンフォースが嘲るように呟く。

「そして、木乃香は仮初の平和の中で暮らし、いつか降りかかる災いに対応できないまま……その時を迎えるって寸法ね」
「え?」
「幸せな時間はいつまでも続かない……それを維持する為の努力をしないとね。
  偽りの平和が儚く脆く壊れていく光景は歴史が証明しているわ」
「そう虐めてやるな」

エヴァンジェリンは苦笑しつつ、リィンフォースに注意する。

「でも、アルがネギ少年と木乃香のパクティオーとか目論んだりしたら……平穏な生活も終わりね」
「な、なんの事っスか!?」

前科のあるカモは焦った声でリィンフォースに尋ねる。

「だから今の木乃香は導火線に火が点きかけた爆弾みたいなものなの。
  なんせ内包する魔力はネギ少年以上だから、ちょっとした刺激で目覚める可能性がある」
「ふむ……否定出来んところがあるな」

リィンフォースの意見をエヴァンジェリンが肯定すると、アスナの視線が鋭くなる。

「ホンっとに碌な事しないわね、エロオコジョは!」
「まさか! リィンさんの言うようにパクティオーしたんですか!?」
「え、ええっと……ゴメンなさい」

問い詰めるとまでは行かないが、若干鋭くなり始めた刹那の視線にネギが小さくなりながら謝罪する。

「ス、スカカードで契約失敗なんすけど……」

ネギ一人に責任を押し付けるわけにも行かずに、カモが結果を恐る恐る話した。

「……手遅れだな。遠からず近衛 木乃香は覚醒する可能性が高いぞ」
「ま、早めに目覚めたほうが順応し易いから親とジジイの意向とは違うけど、本人のためになるわよ」

エヴァンジェリンが諦観気味の未来予想を告げ、第三者的意見をリィンフォースが述べる。

「……となると刹那も覚悟したほうが良いわね」
「覚悟って何よ?」

アスナが訳が分からずにリィンフォースに問う。

「木乃香が覚醒したら、誰かの師事を仰ぐ事になるの。
  当然、その人物によっては刹那の護衛の任は解かれてしまうだけよ。
  それに木乃香が刹那の護衛を断る可能性も高いわ。
  だって……刹那が自分を嫌っていると木乃香が思い、刹那が嫌々護衛していると考えたら外す可能性が高いよ。
  今だって刹那は逃げているし、木乃香だってこれ以上自分の所為で迷惑掛けたくないって思うかもね」
「そ、それは……」
「うーん……否定できないわね。このかならそう思う可能性もあるわね」
「このかさん、優しいですからね」

口ごもる刹那にアスナとネギはありえそうな話だけに複雑な気持ちになっていた。

「とりあえず、一旦解散して刹那とアスナ、ネギ少年の三人は木乃香の護衛ね。
  私とエヴァは基本的に他のクラスメイトに危険が及ばない限りは何もしないから」
「私は魔力を封じられているから一般人よりは実戦経験が豊富なだけに過ぎないからな」
「申し訳ありませんが、私もマスターが万全の状態でない以上はお側に控えなければなりませんので」

リィンフォース、エヴァンジェリンと茶々丸の三人は自分達の役割を告げるとさっさと部屋へ戻っていく。

「……なんか薄情な気がするけど?」
「いえ、他の生徒が既に巻き込まれている以上は役割分担としては悪くないです。
  むしろ、こちらのほうが戦力的に劣っているかと思います」
「すみません……未熟者で」

自分の力が足りないと感じたネギは肩身の狭い思いで一杯だった。

「そ、そういう意味で言ったのではありません。
  私だってリィンフォースさんには勝てなかったんですから!」
「「え?」」
「つまり……リィンフォースの姐さんがこの面子では一番つー事ですか?」

カモが三人を見ながらチームバランスを考えて聞いてみる。

「おそらくは……」
「うーん、実際に戦っているところを見た事がないから分かんないけど?」
「僕も見た事がないですね」

カモの質問に刹那が答え、アスナとネギは見ていないだけにリィンフォースの戦い方を想像出来ずにいる。

「……爆撃機か……移動要塞でしょうか?
  とにかく大火力で押し潰すスタイルが得意そうでしたね」
「なんつー物騒なスタイルっスか!?」
「あとは剣とハンマーを使った接近戦も出来ました」

端的ではあるが一番例え易くしっくりきそうでイメージに合う兵器を出して刹那は告げる。
聞いていたカモは冷や汗を浮かべている。

「もーそういう物騒なイメージを言うのは失礼な気がするんだけど」
「魔法剣士じゃなくて、魔法使いのスタイルなんですね」
「何、それ?」
「魔法使いの戦い方を分類するとその二つになるみたいなんです。
  単独というか、高機動でスピード重視の戦い方が魔法剣士で、前衛に戦闘は任せて、後方から強力な呪文で戦う魔法使い。
  僕はまだどちらで行くのか決めてないんですが、父さんは魔法剣士みたいです」
「へー、じゃあネギもいずれどっちかに決めるんだ」
「はい、個人的には父さんと同じスタイルを目指そうかと思うんです」
「ふぅん……ま、ネギのこれからを左右しそうな事だから後悔しないように決めないとね」

どちらを選ぶのかはネギが決める事だとアスナは思うし、どっちを選んでもエヴァンジェリンが厳しく指導するだろうとも考えていた。





「さて……こっちはこっちで一つ小細工をしておこうかな」

ネギ達から離れたリィンフォースが廊下を歩きながら今夜起こりそうな襲撃に対する備えを行う。

「……敵を欺くには、まず味方からと言うが振り回されるぼーやは大変だな」

リィンフォースの打った策に感心しつつ、騙されて動き回りそうな気がするネギ達を思ってエヴァンジェリンが苦笑する。

「しかし、これなら安全面は十分かと思われますが?」
「確かに……それはそうと今夜の予約は出来ているな?」

茶々丸がリィンフォースの打った手を良策と判断し、エヴァンジェリンも納得して今夜の予定を尋ねる。

「はい、マスターとリィンさんの二名の予約で席を確保しました」
「うむ、久しぶりの外出で、しかも京都だ……夜の祇園へ行かずは片手落ちだからな」
「流石♪ エヴァのおかげで京懐石を食べに行けるなんて嬉しいな♪」

嬉しそうにエヴァンジェリンに抱きついて、リィンフォースが甘えると、

「ハハハ♪ コラコラ、人前で抱きつくのは行かんぞ♪」

注意しつつも顔は笑みを浮かべて嬉しげな様子のエヴァンジェリンの姿がある。
話の内容から二人は今夜ホテルから抜け出して遊びに行くみたいだった。

「ザジさんにはお土産買ってくるって言っておいたし、茶々丸を残していくのは悪いけど……」
「いえ、お食事の席ですから私が同行して気を遣われるのも申し訳ないです。
  それに護衛としての役割も私のほうが最適でしょう」

人としての生理行動を行わずに動力を確保できれば二十四時間活動可能な自分が警護に付くのは当然だと茶々丸は述べる。

「マスターとリィンさんは存分に楽しんできて下さい」

二人を安心させるように告げて頭を下げる茶々丸。
学園から出られないマスターには久しぶりのお出掛けを心行くまで楽しんで欲しいし、大切な家族と考えているリィンも同様に楽しんで欲しいのだ。
この後、二人は主思いの従者に見送られて夜の京都の街に出掛ける。
ちなみに姿は幻術で二十代に変更していた。






千草はどうしようもなく自分の居る陣営の不手際さに嘆く。

「足の用意くらいしてくれんと困りますな」

これから誘拐しようというのに逃走用に足(車)の用意さえしない連中に愛想が尽きそうになる。

「これやから魔法に頼りきりの連中は……」

いくら認識阻害の術を行使しようと同業者の目を完全に欺くのは手間が掛かる。
まして式神に担がせて逃げようものなら……目立つ事この上ない。
むしろ自動車で移動すれば、魔力の痕跡を隠して自由に動ける利点があるのに、

(後が無いというのに……それともまだ体面に拘ってはるのか?)

手段を選べるような状況じゃないのに魔法だけで解決しようという考えには呆れるしかなかった。

「……僕が行こうか?」

肩を落としている千草を憐れに思ったのかフェイトが口を挟む。

「あきませんて……あんさんに何かあったらイスタンブールの協会に迷惑掛けるやあらしませんか」
「……今更だと思うけど?」

名目上研修で関西呪術協会に来ているフェイトの立場を考えて千草は却下する。

「手ぇ貸して下さるんはありがたいけど……これはうちらの問題ですえ。
  お客人にばかり負担を掛けるのも心苦しいやおませんか。
  今日の仕事は失敗してもかましませんよって……バックアップに専念してくださいな」
「……ま、良いけどね」
「こっちの戦力をいきなり全部見せるわけにも行きませんしな。
  ほな、ちょっと行ってきますわ」

片手を振って千草がホテルの従業員の扮装をしてホテルへと向かう。

「……お互い腹の探りあいか。
  彼女は彼らみたいに甘くなさそうだ」

一人になったフェイトは千草がホテルに入るのを確認した後、水をゲートに用いた空間転移で移動した。
……後に残ったのは小さな水溜りだけだった。






刹那は風呂に入る前にホテルに式神返しの呪符を張り、式神による侵入を防ぐ事にした。
ホテル内の各場所に呪符を張り、最後に玄関に張り終えた頃、

「刹那さん、うちのクラスのお風呂の時間よ」
「か……ア、アスナさん」

声を掛けてきたアスナに途惑いつつ返事をした。
最初は神楽坂さんと言っていたのだが、堅苦しいのは嫌だからアスナで良いと言われた。

「私、魔法関係は素人同然だから分かんないけど……何をしてるの?」
「式神返しの結界を用意したんです。これで外から侵入するのは難しくなりますし、侵入されたらすぐに判りますから」
「そっかそっか、とりあえず一安心ね♪」

友人である木乃香の安全を確保できると理解したアスナは嬉しそうに頷いている。

「お嬢さまはどうされましたか?」
「何か疲れてたみたいでさ……室内にあったシャワーで汗流して寝ちゃったみたい」
「……そうですか」

酔い潰れたクラスメイトをバスまで背負っていたのを思い出して、刹那はアスナの報告を素直に受け入れている。

「今は先にお風呂に入ったネギが部屋で護衛しているから、こっちも汗流しておかないとね」
「わかりました。では行きましょうか?」
「うん」

ネギが警護に付いていると聞いて刹那は安心したのか、アスナと一緒に露天風呂へと向かう。
服を脱いでガラス戸を引いて露天風呂へ入ろうとした二人の前に無数の子ザルが現れる。

「……これって?」
「式神です!! 既に術者が中に侵入していたか!?」

常に持ち歩いている愛刀夕凪を抜いて刹那は可愛らしい姿のサルを斬って捨てる。
切り捨てられた子ザルは煙を上げて札に変わる。

「アデアット!」
「アスナさん!」

アスナもパクティオーカードを取り出してアーティファクト――ハマノツルギ――を手にしてサルを叩く。
ハリセンというアーティファクトに刹那は力が抜けそうになったが、一撃で小猿の式神が札へと戻るのを見て目を見開く。
一撃で式神を還したアスナに刹那は驚きを隠せずにいた。

「刹那さん! さっさと片付けて木乃香の元に行くわよ!
  ネギだけじゃ、やばいかも!?」

ネギの実力を疑ってはいないが、アスナは一人じゃ大変だと思って叫ぶ。

「は、はいっ!」

刹那もアスナの言い分を理解して夕凪を構えて振るう。

(もし、これが足止めなら……くっ! ネギ先生、お嬢さまを!!)

「アスナさん、下がってください!」
「え、わかったわ!」
「神鳴流――奥義 百烈桜華斬!!」

アスナが後ろへと下がると同時に刹那は前へ出る。
刹那は夕凪に気を纏わせ、円を描くように振り……周囲の式神を薙ぎ払った。

「す、すごい……」

桜の花びらが舞うように気の刃が吹き荒れる光景にアスナは驚いていた。

「お嬢さまの元へ!」
「オッケー! 急ぎましょう!」

刹那の声に呆けた顔を引き締めてアスナは駆け足で部屋へと向かう。

――ドンッ!!

「ま、待てぇ――!!」

部屋のドアを開けたアスナと刹那は叫ぶ。

「ネ、ネギ!?」
「お、お嬢様!?」

壁に叩きつけられたネギと大きなサルの姿が其処にはあった。

「ぼ、僕は大丈夫です!」
「ほな、お嬢さまは頂きますえ」

小さな小猿が窓の鍵を外して窓を大きく開く。
そしてサルの着ぐるみをきた千草がそこから飛び去って行く。

「す、すみません。呪文を詠唱しようとしたら小さなサルに邪魔されて……」

ネギの声を聞いて周囲を見ると破れた札が幾つもある。

「すぐに倒したんですが……今度は大きいのが後ろから」

油断したつもりはなかったが背後から襲い掛かられて捌き切れなかったみたいだ。

「ネギ先生、追跡は出来ますか?」
「大丈夫です! このかさんは絶対に取り返します!!」
「よし! 急ぎましょう!」

三人は急いで玄関から飛び出して追跡を開始した。





「まだまだお子ちゃまやと思うてましたが……やるやないですか」

千草は侮っていたわけではなかったが、自身の想像以上にお子ちゃま先生――ネギ――の奇襲に対する反応が良かったのに舌打ちしていた。
ちょうど他のクラスメイトが部屋にいない状況になったので天井から奇襲を仕掛けた。
しかし、お子ちゃま先生は奇襲に対して驚いてはいたが優先順位をきちっと理解して対応して見せた。

「呪文詠唱の妨害に無詠唱の呪文でうちの式神を払うか……」

手にしていた杖に無詠唱呪文の魔法の矢を纏わせ、槍のように振るって式神をまとめて潰して対象に近づけないようにした。
仕方なく自身を囮にして、天井からネギの前に躍り出て意識を向けさせて……式神を背後に忍ばせて殴り飛ばした。
不意打ちにしたつもりだが魔法障壁を展開していたのか、完全なものにはならずにすぐに仲間と合流して追い駆けてきた。

「ほんまに割りにあわへん仕事を押し付けられたわ」
「待てェ――――!!」
「元気がよろしいおすな」

大切な友人を取り戻そうとする意思を全身から出して追跡する姿に感心する。

「お嬢さん、あんた……自分が恵まれているって知っておりますか?」

千草は羨むような声を出して眠り続ける木乃香に問う。
暴れると困るので眠ったままの状態で額に札を張ってそのまま眠らせている木乃香は答えないし、千草も聞きたいわけではない。

「ほんまに……汚い仕事を押し付けられたもんや」

このまま本陣に連れて行ったらどうなるか判っているだけに気が進まないが、プロとしての矜持もあるので感情を押し殺す。
千草はそんな事を考えながら駅に辿り着いて電車に乗り込んだ。




「なんだ? おかしいぜ、兄貴! 人気が全然ないぞ」

カモの疑問に全員が人気のない駅の様子に途惑う。

「人払いの結界!?」

刹那は周囲を見渡して駅の各部に貼り付けられた呪符を発見して叫ぶ。

「刹那さん! あそこ!!」

アスナが指差す先に木乃香を担いだサルの着ぐるみ姿があった。

「僕達も電車に!!」
「はい!(まさか……ここまであらかさまに)」

計画性のある行動に気付き焦る刹那。
逃走経路をきっちりと確保して行動する以上……組織的に動く可能性もある事にその表情は険しくなる。
電車に乗り込んだ三人は千草を最前部の車両へと追い詰めようとする。

「お札さん、お札さん、うちを逃がしておくれやす」

次の車両に移る前にネギ達に向かって投げられたお札から大量の水が一気に噴出して車内を満たし始める。

(魔法の射手! 光の1矢!!)

濁流に飲み込まれながらネギは無詠唱で魔法の矢を窓に向けて放つ。
魔法の矢はガラスを砕いて水の流れの一部を外へと逸らし、刹那の周囲の水の圧力を減らして援護する。

「刹那さん!」
「神鳴流――斬空閃!!」

気合一閃――夕凪に気を込めた放った気の刃が千草側のドアを吹き飛ばし、両者を水浸しの状態にして駅へと到着させた。

「ふふ、なかなかやりますな」
「くっ! まさか、ここまでやるとは……正気か!?」

扉が開いた瞬間、水に流されるように押し出された千草とネギ達。
そして刹那は千草に問い質す。

「正気どすえ……後がないらしいどすからな」

からかうように笑みを浮かべながら千草は逃走を開始する。

「くっ! 甘かった!
  まさか、ここまで事態が深刻になっていたなんて!」
「どういう事よ!?」

刹那が苦々しく叫ぶ声を聞いたアスナは千草を追いかけながら聞く。

「学園長も私もこのような暴挙に出るとは想定していませんでした!
  嫌がらせくらいはあるとは考えていましたが……誘拐までするとは!」
「そ、そうなの?」
「はい、ネギ先生の持つ親書を狙うくらいでお嬢さまを狙うとは思っていなかったんです」
「確かに先程聞いた話からして、このかさんを狙うとは僕も考えていませんでした」
「そりゃー自分達の長の娘を狙うなんて普通は考えないわよ!」
「そうっスよ! こりゃ、このかのお嬢ちゃんを何かに利用するって考えるほうが妥当かもな」

カモの意見に刹那は奥歯を噛み締めて事態の深刻さに苛立つ。

(リィンフォースさんの言う通り……危機管理が甘かった!)

組織的に行動して動く事はないと刹那は思っていただけに……自身と学園長の予測が如何に甘いものか思い知らされていた。



大きく開かれた大階段に辿り着いた時、

「フフ……よう此処まで追ってこれましたな」

式神を防護服代わりにしていた千草が式神を脱いで待ち構えていた。

「おサルが脱げた!?」
「あなたはさっきの!?」
「ってか……新幹線で見た売り子じゃねえか!?」

三者三様に叫ぶ中で、千草は札を見せるようにして投げる。

「そやけど、それもここまでですえ」
「おのれ、そうはさせるかっ!」

刹那が追撃しようとするが、

「ほな、三枚目のお札を行かせてもらいますえ。
  お札さん、お札さん、うちを逃がしておくれやす」

投げられた札が光を放ち始め、

「三枚符術!! 京都大文字焼き!!!!」

上から見ると大の字に見える炎の壁が三人の前に現れた。

「刹那さん!」

いきなり現れた炎の壁にぶつかりそうになった刹那をアスナが後ろから引っ張って戻す。

「ア、アスナさん」

「ホホホ、並みの術者ではその炎の壁を越えられませんえ」
「待ちなさいよ!」

勝利宣言みたいに告げる千草にアスナが吼える。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!
  吹け 一陣の風 風花 風塵乱舞!!」

杖を構えてネギは呪文を唱えて炎の壁を吹き飛ばす風を放つ。

「な、なんや―――!?」

吹き荒れる風に千草が体勢を崩さないように動きを止めている。

「逃がしませんよ! このかさんは僕の生徒で……大事な友人です!!」

懐からパクティオーカードを取り出して掲げる。

「ネギ!」
「契約執行 180秒間!! ネギの従者『神楽坂 明日菜』!!」

アスナにネギから送られる魔力が身体を包み込んでいく。

「ん……アデアット!」

こそばゆい感覚にアスナはホンの少し身構えつつハマノツルギを取り出して構える。

「うちの炎がかき消されたか……なかなかやりますな」

西洋魔法使いとその従者との戦いを経験している千草はネギが契約執行する様子を見ながら気を引き締めなおす。

「猿鬼、熊鬼……それと兎鬼に牛鬼!」

現状で動かせる式神を出して、自身も札を手にして後方に飛んで木乃香を肩から降ろした。
千草は担いだままでは不味いと判断し、ここで確実にダメージを与えてから逃走する事に決めた。

「えっとサル、クマ、ウサギにウシ?」
「見掛けに騙されないで下さい! 先程話した前衛の式神です!」

ファンシーで巨大なヌイグルミにアスナが途惑うが、刹那が慌ててフォローの声を掛ける。

――魔法の射手 連弾 光の24矢!!

杖の尻に当たる部分に魔法の射手で生じた光の矢を集め、アスナに向かってくるウシの式神を杖を槍のように振るって貫くネギ。

「刹那さん! 式神は僕とアスナさんが倒しますからこのかさんを!」
「分かりました!」
「アスナさん、行けますか?」
「誰に言ってんのよ……あんたのパートナーなんだから頼りにしなさい!
  刹那さん、私のコレ! あれには有効みたいだからまかせて!」
「はい!」

途惑いをなくして、刹那にハマノツルギを高らかに見せてアスナも式神に向かって走る。

「たぁ――――!!」
「なんやて!?」

ただの一撃で式神が返された光景に千草は驚きながら考える。

(厄介なアーティファクトちゅうことやな……式神を返しただけか……それとも)

懐から子ザルの式神札を出して二人の動きに牽制を仕掛ける。

「このかお嬢さまを返せ―――!!」
「……甘いどすな」

真っ直ぐに飛び込んでくる刹那を嘲笑うように見ながら千草はこの場に待機していた隠し札を三人に見せる。

「え―――い!!」

――キィィィィン!!

刀と刀が衝突し、甲高い音が響く。

「ま、まさか!?」

互いに後方に飛んで体勢を立て直しながら刹那は最悪の状況になった事を知ってしまう。

(くっ! 今の太刀筋は? 神鳴流剣士が護衛に付いていたのか!?)

自分の太刀筋を似通った一撃を刹那は感じ、相手を見据える。

「どうも〜〜神鳴流です〜〜おはつに〜〜」

暢気な口調で自分と対峙する剣士に刹那は唖然とする。
自身と同い年か……年下に見え、少女趣味の可愛らしい服装だが、手に持つ刀は二刀……それも小太刀。

「え、お…お前が神鳴流剣士だと?」

刹那は自身が学んだ神鳴流とは全く違うタイプに見えて半信半疑で問う。

「はい〜〜♪ 月詠、言います〜。
  見たとこ、あなたは神鳴流の先輩ですけど、雇われたからには本気で行かせてもらいますね」
「……こんなのが神鳴流とは……時代は変わったな」

ノリの軽い相手に刹那は自身の学んだ流派を汚された気になって睨む。

「フ……甘く見てると怪我しますえ。
  ほな、よろしゅうに月詠はん」

海外に放逐される前から神鳴流剣士の力量を見た事のある千草は刹那の侮りを嘲笑う。

「では、ひとつお手柔らかに――」

一礼して刀を交える月詠に刹那は焦りと途惑いを感じていた。

「く!(い、意外にできる……まずいぞ!!)」

大きな野太刀を使って戦うのが神鳴流の基本スタイルだが、月詠は小太刀を使った小回りが利くスタイル。
間合いで詰め寄られ太刀を思うように振り回すことが出来ず、更に手数の差で刹那は押される。

「ホホホ、伝統も大事やおますけど……世の流れというのも大事やで」

嫌味というわけでもなく、淡々と刹那に忠告めいた意見を千草は述べる。

「ほんに平和な場所でぬくぬくと暮らしていた魔法使いちゅうのは危機管理がなっておりまへんな。
  お札さん、お札さん、うちを守っておくれやす」

千草が刹那のほうに気を取られたと判断したネギが無詠唱で魔法の射手を3矢飛ばすが……お札から飛び出た水の防壁に阻まれてしまう。

「なかなかええ判断ですが……まだ実戦経験が足りまへんな」

――そうね

「お嬢さま!?」「このか(さん)!?」

急に飛び上がって千草を強襲する木乃香に三人は驚いている。
何故なら木乃香は運動神経は悪くないかもしれないが、不意打ちできるような性格ではないし……格闘等できるようなスキルを持ち合わせていない筈だった。

――パン! パン!

軽い発射音が聞こえると同時に千草の手の中に拳銃が存在している。

「貴様!!」
「……やっぱり偽者やおましたか?」

木乃香に銃を向けた事で激昂する刹那を気にせずに千草は平然と木乃香だけに注意を向けていた。

「急所に撃ったけど……血も流れませんか?」
「いつからバレてたのかしら?」
「電車に乗った辺りからおかしいなとは思っておりましたわ。
  あれだけ部屋でバタバタしたのに眠ったままなんて、幾らなんでも図太いの一言では片付きませんしな」

互いに口元に笑みを浮かべて対峙する二人。
ネギ達も動きを止めて状況を把握しようとしていた。

「一杯食わされましたね〜千草さん〜」
「ちなみにあなた達以外に監視していた連中はきっちり始末させてもらったわよ。
  リンカーコア……簡単に言うと魔法使いにとって魔力を生成する部分を破壊してね」

ゾッとするような意見を平然と話す木乃香に魔法使いであるネギは震撼する。
魔法使いにとって魔力が如何に大事であるか知っているだけに……目の前の人物がどれほど危険な存在であるか理解したのだ。

「あんたが噂の魔法使い殺しですか……麻帆良ちゅうとこは油断できひん人が多そうどすな」
「犯罪者に人権なんて必要なのかしら?」
「……そうどすな」

肩を竦めて話す木乃香に千草も苦笑いで応えている。

「……月詠、退きますえ」
「もう少し先輩のお相手したかったんですけど仕方ないですね〜」
「逃がすと―――」

刹那が月詠に詰め寄ろうとした時、月詠と千草は懐から閃光弾を出して三人の目を眩ませる。

「それじゃ、今夜はここまでにさせてもらいますわ」
「せんぱ〜い、またお相手しましょうね〜」

軽やかに別れの挨拶を行う二人に悔しげにアスナが叫ぶ。

「待ちなさいよ! 逃げるなんてずるいわよ!!」
「アスナさん、深追いは禁物です」
「そうですよ。とりあえずこのかさんは無事なんですから」
「そうよ。茶々丸がちゃんと警護しているから大丈夫」

木乃香のそっくりな姿をした存在が声を掛けてきたので三人は驚きで硬くなっている。

「……リィンフォースさんですよね?」

代表でネギが確認の声を出す。

「そうよ。刹那の事で話があるって誘い出してすり替えたの」
「な?」

思いもよらぬ方法で木乃香を誘い出したと聞いた刹那は絶句する。

「せっちゃんに嫌われたんやろか……なんて泣きながら話すから困ったけどね」
「う……いや、しかし……」
「本来は木乃香の護衛は対象外だけど明日刹那が一緒に観光するのなら対象に加えるわよ。
  二者択一……危機管理の甘さから来た事態に刹那はどっちを選択する?」
「それは……」

アスナとネギが何か言おうとするのを手で制して返事を待つ。

「自分の都合で大事な者を危険に曝すか?
  それとも、ここらで素直になって友人として木乃香を信じてちゃんと向き合うか?
  別に何もかも全部話す必要はないの……ただ時間がないのも事実だけどね」

時間がないとの言葉で葛藤していた刹那は決断する。

「……分かりました。明日はお嬢さまの側で護衛します」
「では、朝食の席から木乃香の側にいるようにね。
  この契約は絶対の物として扱うから破棄するようならば……相応の代価を頂くわ」

ギクッと刹那の身体が震えるのを見たアスナが声を出す。

「ちょっと! 勝手な事を押し付けるのはダメよ!
  刹那さんだって、好きで離れているわけじゃないんだから!」
「その結果が今回のミスに繋がったわ」
「ぐ……で、でも!」
「リィンフォースさん! このかさんは何処に居るんですか?」
「ホテルの私達の部屋に居るわ。
  私とエヴァは夜遊び兼ホテル周辺で二次攻撃もしくは監視中の人員を排除したわ」

二次攻撃と言われてアスナは反論できずに黙り込んだ。

「ま、私が原因の可能性もあるし、尻拭いはしておくわ」
「原因って何よ?」
「さっき聞いたでしょ……魔法使い殺し、ちょっと不本意な二つ名だけど学園都市に不法侵入してくる魔法使いの処理でね」
「それです! 何をしたんですか!?」

ネギが詰め寄りながら問い掛ける。

「魔力封じよりもはるかに強力な魔法で二度と魔法が使えないように処理しただけ。
  ネギ少年は知らないけど、あの街は不法侵入してくる魔法使いが結構多いのよ。
  例えば、図書館島の奥深くにある魔法書とか、木乃香のように保護している人物狙いとか、世界樹の魔力を欲するバカとかね」
「そ、そうなんですか?」
「はい、リィンフォースさんの言うように無許可で侵入してくる魔法使いは大勢います」
「私が担当する時は捕縛後、さっき話した処理を行うの。
  簡単に言うと大気に存在するマナを取り込んで自分の魔力として放出する器官を損傷させて魔力行使をできないようにしたの」
「おいおい、そんな事すりゃ魔法使いとしてはお終いじゃねえか?」
「そうだよ、アル。だけど人を誘拐しようとしたり、人を実験材料にしようとする悪質な魔法使いを放置もできないでしょう」
「そりゃまあそうだけどな」
「司法に引渡しも出来ないし、魔法使いって意外と同じ魔法使いに対して甘い部分もあるから困るのよ。
  一番楽なのは殺す事だけど……いい顔しないし。
  犯罪として立件しようにも魔法は秘匿されているから迷宮入りが殆どだしね」

木乃香の顔で話すので非常に違和感があるし、聞いているだけで胃が痛くなるような話に三人は黙り込んでしまう。

「ま、そんな暗い話はまた今度にして帰還用の魔方陣を用意するから入って」

木乃香の足元に浮かぶ回転する三角形の魔法陣にネギとカモは途惑う。

「僕、こんな魔方陣は初めて見ました」
「俺っちもこんなのは見たことがねえ」
「私も初めてですね」
「ふーん、そうなんだ」
「ま、異端の魔法という事で空間転移でホテルの近くまで移動するからね」

途惑いながらもネギ達は無事にホテルへと帰っていく。
こうして修学旅行一日目は手荒い歓迎を受けつつも終わっていった。









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EFFです。

魔法使い殺し――リィンフォースの二つ名ですね。
リンカーコアを知らない魔法使い達にとって、リリカルの世界の魔法使いは非常に危険な存在かもしれません。
ここでのネギ君は既に古 菲から近接戦闘を、エヴァンジェリンから魔法使いの戦い方を学び始めているので原作よりちょっと強い状態ですね。
京都編は少し状況が変わります。

それでは次回も活目してお待ち下さい。



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