雪広 あやかと佐々木まき絵の二人は新田の目を逃れて廊下の角からロビーを見つめる。

「ひえ〜〜ん」
「……何でこうなるんだよ」

明石 裕奈と長谷川 千雨の二人が背後に立つ新田の視線に泣きながら正座中。

「ごめん、ゆーな」
「死して屍拾う者なしですわ」

パートナーの犠牲を出したあやかとまき絵は二人の冥福を祈りつつ廊下を徘徊する。

「しかし、あの体力バカお二人を何とかしないと……ネギ先生の唇は間違いなく100%の確立で奪われてしまいますわ」
「ええ〜〜!? そんなぁ―――っ!!」

長瀬 楓と古 菲の二人の強敵を相手にどう立ち向かうべきか、あやかは考え……一つの決断を行う。

「まき絵さん、あの二人にだけは譲れません」
「いいんちょ……」
「まずは一時休戦という事で如何かしら?」
「OK、いいんちょ。その代わり早い者勝ち……恨みっこなしだよ♪」

拳を軽く合わせて二人は同盟を結ぶ。
ここに残存する第三班と第四班のメンバーが合体して戦線復帰する事になった。
体力面では第二班には若干劣るが知力面ではあやかがいる為に十分勝てそうなチームだった。

「一旦、二手に分かれて探しましょう。
 どうやら先程の騒ぎで部屋には居られないみたいですから」
「そっかーネギ君、隠れたんだ」

上の階で大きな声がしたのを二人は耳にしていた。
完全には聞き取れなかったが……逃げたという単語が聞こえたのであやかが予想と意見を出して、まき絵が決断する。

「じゃーここでお別れ、後はどちらが先に見つけるかだね」

階段があり、二つの選択肢が二人の前に提示される。

「私は上の階に行くから」
「では、私はこのまま進みますわ」

あやかは一階をこのまま進み、まき絵は上の階へと進む。
この後は二人はネギが生み出した身代わりと出会い、他の班のメンバーも身代わりと出会う。

『おお――っと!? あ…あれれ?』

実況していた朝倉 和美さえ予想しなかったハプニングを展開しながら事態は進んでいた。

「な、ネギ先生が五人? し、しかも告白タイムだ――っ!?」
「姐さん、ノリノリっすね」

中継室で実況中の和美の隣にいるカモは困惑しながら事態を見つめていた。
ちなみに各部屋で状況を見つめていた他の生徒達はこのハプニングを朝倉の演出と判断して好意的に受け入れていた。
いよいよラブラブキッス作戦は佳境へと向かうみたいだった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 十八時間目
By EFF




早乙女 ハルナは今の状況に対してどう行動するのが最善なのか……現実逃避気味に検証していた。

(……ゆえとの友情は大事だし、かと言ってのどかとの友情も大切)

どちらも親友といえる間柄だから、片方の味方をするわけには行かない。

(どっちも恋愛初心者だし……どうして、こうもややこしく、楽しい事態に発展するのかな〜〜)

何となくラブ臭を感じて304号室に戻ってきたのだが、

「ぼ、僕、夕映さんのことが……」

ほんの少しドアを開いた瞬間に聞こえてきたネギの一言に……硬直してしまった。

「……キスしてもいいですか? 夕映さん……」
(とりあえず今は見学という事で……いいかって食券はどうする?)

のどかに賭けた食券の事を思い出して、友情とその手に入る報酬との天秤で揺れ悩む。

「えっ……な、なっ……ネギ先生…?」
(お、おおっ! ゆえが珍しく動揺してる……ここはやはり親友の恋の行方を見守るべきだね♪)

報酬よりも恋の行方が気になるお年頃みたいだった。


明かりを消して、窓からの月明かりだけが部屋に入っている。

「ネ……ネギ先生…………?」

混乱した様子で夕映は赤くなった顔で後ろに下がろうとして、

「あっ!」

のどかが横になっていた布団に足を取られて倒れてしまう。
そんな夕映にネギは覆い被さるような体勢で近付いてくるので、夕映は更に困惑しながらも背後で休んでいるのどかに気付いて、

「み、見損ないましたよ!!
 のどかに告白されておきながら私に迫るだなんて!!」
(ゆえ……いや、それは違うよ。ネギ先生にも好みがあるんだから♪
 しかし、こうなると俄然面白くなるな……俗に言う修羅場ってやつか〜〜)

二人に気付かれないように忍び込んで近くで観賞しようとするハルナ。
ネギ自身がのどかに恋していないのなら、更に複雑な三角関係になるので面白いなどと考えているみたいだ。

「すいません……それでも僕は夕映さんとキスしたいんです」
「なっ!?」
(おおっ! ネギ先生、言ったよ♪)

キリッと凛々しい顔つきで真面目に告げるネギに夕映は自分でも理解できない胸の高まりを感じて途惑う。

「う、うぅ……!?」

押し倒される形になり徐々に近付いてくるネギに夕映は焦る。

(ま、まさかネギ先生が私のことを……!?
 い、いえ何か変な気が……大体ですね、私とネギ先生の接点はない筈です!
 唐突すぎる! 確かに私はネギ先生に好意らしきものを持っていますが、先生の気を惹くような行為をした覚えはないです)

近付くネギの顔を見ながら夕映はこんな状況になった原因を必死に考える。

(か、仮に私の事を好きだとしても今の状況で迫るような方でしょうか?
 他のクラスメイトに対して可愛げのない私を好きになるわけがありませんし……まさか朝倉の罠!?)
(……あれ?……ネギ先生が五人!?」
「えっ!?」

突然近くから聞こえてきた声に反応してその声がした方向に振り向くとハルナが自分達を見つめていた。
そして夕映は火事場のバカ力を発揮して慌ててネギを引き離そうとすると……、

「な゛?」
「う、う〜〜ん、なに……って、キャア―――!?

二人の声に反応して目を覚ましたのどかが……腕が伸びているネギを見て悲鳴を上げた。

「どうもネギです……チュ―――!!
「テイッ!!」「フンッ!!」

ハルナと夕映のツープラトンの攻撃がのどかに襲い掛かろうとしたネギ?に炸裂した。

「も゜!!」
「あ、あわわ。ゆ、ゆえ、ハ、ハルナ……ぼ、ぼ、撲殺!?」
「安心してください、これは「ニセモノだよ」」
「ハ、ハルナ? ど、どうして〜〜?」
「決まってるじゃない! のどかの援護をする為に六班枠で参加したのさ♪」

サムズアップして頼りになる友人を演出しようとするハルナ。
そしてネギの身代わりの紙型は煙を出して爆発した。

「やはり……ニセモノだったね」
「ハ、ハルナ〜〜」
「こ、これは……確かオカルト関係の本に書いてあった……紙型?」

煙が消えた後に残った紙を見つめて夕映が話す傍らでハルナが危険を冒してまで自分の為に来てくれた事に感動するのどかの姿があった。

「みなまで言うな……感謝の言葉ではなく、のどかは勝つことで報いてくれたらいいんだよ」

そんなハルナにのどかは感激しているが、夕映は騙されないと言った視線で見つめていた。

(パル……どこから見ていましたか?)
(さ、さあ……なんの話?)

ハルナと夕映はアイコンタクトで会話をする。

(いや、まあ夕映も女の子って事で♪)
(絶対に秘密ですよ!! もし誰かに言ったりしたら!!)
(中継されているから……もう手遅れじゃない?)
(あ゛……そ、それでもです!!)

クラス一同にニセモノとはいえネギに押し倒されたという事実を見せてしまった夕映は愕然としながらも口止めする。

(了解♪……ま、たまにはこんなバカをするのも悪くはないさ)
(そうでしょうか?)
(将来の予行練習ってことにしとけば?)
(……な、何を言っているんです!)
(いや〜お姉さんとしては修羅場になるのかと心配したよー♪)
(ぐっ……)

偽者とはいえ、押し倒された点をハルナから婉曲に告げられて夕映は口篭る。夕映を黙らせる快挙にハルナは喜んでいる。

「それじゃ、図書館島探検部の実力を見せ付けようか♪」
「が、がんばるね、ゆえ、ハルナ」
「……そうですね。行きましょう」

のどかが真っ赤な顔で行こうと言う以上は夕映としてもこのまま此処にいるわけには行かない。

(う、うう……ま、まさかハルナに見られるとは……一生の不覚です)

日頃から冷めた目でクラスを見つめていた夕映としては赤面ものの失敗だった。

(わ、私としたことがあのように押し切られてしまうなんて。
 しかも相手は十歳の子供でニセモノに……!)

夕映がのどかには恥ずかしくて言えない事が出来た事態に途惑いながらハルナを伴って移動を開始した。



――インターミッション

「なんかさー旅館内が騒がしい気がするね」
「そ、そうですね」

時間外れではあるがアスナと刹那は露天風呂で今日の疲れを癒している。

「せっちゃん、背中流してあげるわ」
「え゛?」

茶々丸からこの時間に刹那とアスナが露天風呂に入ると聞いた木乃香が風呂場に入ってくる。

「ご機嫌ね、このか」
「うん♪ 昔はこうやって背中の流しっこしたんよ」
「お、お嬢さま!? そ、そんなことをされると……こ、困ります!」

昼間は仲良く観光が出来て、夜も一緒に休めるので木乃香の機嫌は上々だが、刹那は恐れ多いと思うのか……逃げ腰気味だった。

「ま、平和が一番よね」

逃げたいけど出口は木乃香の背にあるので逃げられない刹那は抵抗空しく背中を洗われる。

「う、うう……」
「……何も泣かなくても」

涙目で居た堪れない空気を醸し出す刹那にアスナは呆れていた。
隣には木乃香が幸せそうな顔で刹那の腕を掴んでいる。
それはまだ今夜の騒動に巻き込まれなかった幸運に気付いていない刹那とアスナの二人だった。



同時刻、夕映がニセモノのネギに押し倒されている頃、あやかは独り旅館内を探索していた。

「ネ、ネギ先生……何処に行かれたのですか?」

巡回中の新田に見つからないように慎重に歩き、朝食の時に使用された大部屋に入る。
中は照明が消えて真っ暗で人気もないように見えたが、

「……いいんちょさん」
「ネ、ネギ先生……?」

あやかは呟くような小さめの声を耳に入れて振り向くと……ネギが近付いてきた。

「……キスしてもいいですか?」
「もちろんですわ!!」

少し様子がおかしいかなと思っていたあやかだったが、ネギのこの一言で完全に警戒心が吹き飛んでいた。

「し、信じていました! ネギ先生は必ず私を選んでくださ るという事を!!」

慌ててキスシーンを記録するためのビデオカメラをセットし、化粧直しを始めるあやかの姿があった。


同じ頃、中庭でも史伽がネギに同じような事を言われて、

「な、なんで史伽なのよ―――ッ!!」
「お、お姉ちゃんが乱暴だからです!」

風香との姉妹喧嘩へと発展していた。


また廊下でもお菓子を片手に持ち、

「ネギく〜〜ん、出ておいで――アメあるよ――」

そのお菓子でネギを釣ろうしたまき絵の前にもネギが現れて、

「まき絵さん……」
「ネギくん、みーっけ♪」
「……チューしてもいいですか?」
「え♪」

ネギの言葉に胸をときめかせていた。


そして階段脇の廊下でも同じように、

「ネ、ネギ坊主……大丈夫でござるか?」
「……くーふぇさん」
「あやや、いざとなると恥ずかしいアルネ」

恥ずかしがりながらも足でネギの顔を壁にめり込むくらい押し付ける古に楓がネギの心配をしていた。
そして夕映とハルナがネギのニセモノを倒した時に彼らが反応してキスの一歩手前から一転してロビーへと駆け出して行った。


全てのチームがロビーに集合した時、

「ええ―――!?」×9

ネギが四人もいるという事態に驚愕していた。

「全部ニセモノかな?」
「おそらくは……」

他の参加者に聞かれないようにハルナと夕映が小声で確認する。

「ネギ先生ってマジメだからこんなイベントに参加するわけ……ないか?」
はっ!! よくよく考えると……いえ、その点に気付かな かった私がアホでした!」

反省といった感じで夕映が複雑な顔で話す。

「んじゃ、まあここは私が牽制するから二人は別行動で」
「そうして貰えると助かるです」

運動能力の高さに定評のある楓と古がネギの一人を押さえてキスに及ぶと煙を上げて爆発した。
そして、その爆発音を耳にしてロビーにやってきた新田はニセモノらしきネギによってロビーに沈んでいる。

「夕映とのどかは玄関前でネギ先生を待ってなさい。
 他のメンバーが見つけられなかったという事は……」
「そうですね。見回りで外を巡回している可能性が高いと思われるです」

次々と爆発音が響く中、ハルナと夕映は同じ結論に達していた。
責任感の強いネギの事だから初日に起きたイタズラが起きないように気をつけていると判断し、眠る前に周辺の様子を見て回っているのだと考えたのだ。

「ゆ、ゆえ! のどかも隠れて!」
「は、はいです!」
「う、うん……」

意識を失っていた新田が身動ぎして目を覚まそうとしているのを知り、ハルナは二人を死角に隠れるように指示を出す。

「う……うぅ……な、なにが?」
「新田先生、大丈夫ですか?
 何か、派手な音が聞こえたんで雪広さんと相談して降りてきたんですが?」

目を覚まして周囲を見る新田にハルナは近付いて心配する振りをする。

「……ロビーに来た途端、煙が出てるし……先生は倒れているし、何があったんですか?」
「そ、そうか……」

不審な気もするが、何かが起きているのも事実なので頭ごなしに叱るべきか……新田は逡巡する。
問題児が多い3−Aだけに、もしかしたら何かに加担している可能性を捨てきれないみたいだった。

「……と、とにかく早乙女は部屋に戻るように」
「は、はい」
「今回は見逃すが……この後も出歩いているようなら正座してもらうぞ」

後ろでは裕奈と千雨がズルイと目で言いながら睨んでいる。
すぐ隣には煙を吸い込んだのか……咳き込みながら涙目で夏美も見つめている。

「それじゃ……上のほうで騒がしかったので途中まで一緒に行きましょう」

ネコ被って神妙な顔つきで上の階で何かあったと告げて、新田をこの場から遠ざけようとするハルナ。

「上で騒がしかっただと?」
「はい、バタバタ足音が聞こえましたよ」
「くっ! 子供先生だから今ひとつ目が届かないのか、それとも……やはり問題児が多いからか」

新田は苦々しい表情で足早に上へと向かおうとする。

「早乙女、早く来なさい」
「は、はい」

死角に隠れていた二人の成功を祈りつつ、ハルナは新田を上の階へと移動させる。

(ガンバ♪)
(ハルナ……後は任せるです)
(ハ、ハルナ〜が、頑張るね)

新田からは見えない角度でピースサインを出すハルナに夕映とのどかは心の中で感謝している。
第六班枠早乙女ハルナのリタイアにより……同班のリタイヤが確定した。



周辺のパトロールをつつがなく終えてネギはホテルへと帰ってくる。

「ふぅ……マスターがリィンさんにお酒を飲ませてないか、心配だな」

見かけは自分と同い年くらいの少女だが、中身は幾多の実戦を生き残った不死の魔法使いだから心配するだけ無駄かもしれない。
それでも根がマジメな少年は心配するし、未成年のクラスメイトに酒を飲ませないかと不安になる。
玄関を通り抜けてロビーに入ると、

「ネ、ネギ先生……」
「の、のどかさん?」

今、最も顔を合わしたくないというか……返事をどうするべきか、悩んでいた相手であるのどかが立っていた。

「え、ええと……すみません、のどかさん。
 ぼ、僕、告白されたの初めてで……女の人を好きになるというのはよく分からなくて!
 で、でものどかさんの事が嫌いって訳じゃないんです!
 そ、その……のどかさんの事は好きですし、アスナさんやこのかさんもそうですし……クラスの皆さんも嫌いじゃありません」

いつになく饒舌というか……自身の考えがまとまっておらずに思いつくままにネギは話していく。

「は、はぁ……」
(そうですね。普通は十歳の子供がキ、キスなんて事しませんよ……私は何て愚かな事を考えたのでしょうか)

のどかの後ろでネギが話すのを聞いていた夕映は、自分が如何に慌てていたのかと知り……猛反省している。

「そ、それでですね。僕、女の人と付き合うというのもよく分からないんです」
(まあ、致し方ないというか……無理強いはいい結果は出ませんよね)

真っ赤な顔でのどかにマジメに話すネギに夕映はネギの言い分に納得している。

「で、ですから勝手な言い方かもしれませんが……お友達から始めませんか?」

ネギに嫌われていないと知り、返事は保留という形だが……のどかにとってはそれで十分なのか、

「は、はい♪ こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします!」

まず一歩ネギとの距離が近付いた事が嬉しくて満面の笑みを浮かべていた。

(良かったですね、のどか)

親友と呼べるのどかの嬉しそうな顔を見ながら夕映は足を差し出してネギと見つめ合うのどかの足を払う。

「きゃっ!」
「の、のどかさん!」

――チュ!

倒れ掛かるのどかを支えようとしたネギだが、身長差からのどかが押し倒すような形になりかけ……二人の唇が触れる。

『おおっと! 大穴の第五班 宮崎 のどかがネギ先生の唇を奪った――――っ!!』
『キャアアアァァ――――』

各部屋のモニターから朝倉が実況を告げ、部屋で見ていた者達は歓声を上げている。
だが、この主催者の朝倉 和美は脱出に失敗して……ロビーで正座する事になる。

「派手にしたのにパクティオーカードは一枚だけ……残りは全部スカカード。
 俺っちもまだまだって事か……」

ロビーでネギと一緒に正座する事になったカモが自身の甘さを反省している。

「な、何故……僕まで正座なの?」

何が起きたのか、全然分からずに新田に叱られて正座するハメになったネギ。
実際にはニセモノのネギが新田に膝蹴りをしていた事を本人は知らずにいたのだ。
ちなみにニセネギとのキスで昏倒した面子は新田によって確保され正座する事になったとさ。

「良かったな、のどか」
「上手く行きましたね、のどか」
「あ、ありがとう。これもハルナ、ゆえが協力してくれたおかげね」

新田が移動した経路をハルナからメールで教えてもらったのどかと夕映の二人は新田に見つからずに部屋へと戻っていた。

「あれ? このかさんとアスナさんはどちらへ?」

部屋でジュースによる乾杯をしていた夕映が二人が居ないことに気付いてのどかとハルナに尋ねる。

「今夜は内緒でザジさんと部屋を変えてもらったんだって」
「そうなの〜?」

ネギとキスした事でまた一歩近づけたと思い、嬉しいやら恥ずかしいやらという感情で顔を赤く染めているのどかが夕映に聞く。

「このかは久しぶりに旧交を温めているところだってさ」
「なるほど……桜咲さんでしたか」
「幼馴染だったよね?」
「ええ、麻帆良に来てからは疎遠だったとアスナさんから又聞きしたです」
「そうなんだ……仲良くなれるといいね」
「ホントだね。のどかは優しいし、ネギ先生も可愛い彼女が出来るチャンスってか♪」
「や、やだ……は、恥ずかしいよ、ハルナ〜」

のどかは恥ずかしそうにハルナに言わないようにとお願いする。

「でも、のどかは新田先生に見つかってネギ先生と一緒に正座のほうが良かったかも。
 そうすれば、仲間同士っていう連帯感も出て、更に仲良くなれたかもね」
「……たしかに」
「え、ええっと、それだとゆえとハルナを巻き込むかもしれないし〜ダメだよー」

さすがに二人まで正座させるのは悪いと思ったのどかはちょっと惜しい気がするが我慢していた。



のどか達、三人が祝杯を挙げている頃、アスナ、木乃香、刹那の三人は部屋で仲良く話している。

「しっかし、うちのクラスはどうして……お祭り好きなのかしら?」

ネギとのどかのお友達発言を聞いていたアスナは木乃香から聞いた"ラブラブキッス作戦"に呆れ返っている。

「ま、まあええんちゃう。結構楽しんでいたみたいやしー」
「お、お嬢さま、そう引っ付くのは困ります」
「いやや……せっちゃんが昔みたいにこのちゃんって呼んでくれたら離してもええよ?」

甘え切っている木乃香を嗜める刹那だが、木乃香は挑むように話してくる。

「そ、そんな……お、畏れ多いことは…」

主家筋に当たる木乃香を気安く呼ぶのを躊躇う刹那。
そんな刹那に対して事情を知らない木乃香は不満な顔で話す。

「う、うう〜、やっぱり、うちのこと嫌いになったんやな?」
「い、いえ、そういうわけではなくて……」

困った顔でどう説明するべきか悩む刹那にアスナが仕方なさそうに助け舟を出した。

「このかも無理強いさせない……そうやってワガママばかり言うと刹那さんが困るでしょ」
「う! うう……」

ピンポイントで痛いところを突かれた木乃香は不満げに刹那から離れて座る。

「ま、慌てることなく、少しずつ昔に戻ればいいじゃない。
 小さい頃の記憶のない私が言うのもなんだけどさ」
「え?」
「あ……か、かんにんな。そういうつもりやなかったんやけど……」

少し羨むような目で二人を見つめていたアスナに刹那は意外な事を聞かされて驚き、木乃香は申し訳なさそうな顔で謝っている。

「アスナさん、それは一体?」
「ちょっとね、私って小さい頃の記憶がないのよ」

苦笑しながら話すアスナに刹那は困惑した顔で聞いている。

(記憶がない……ふ、不安はないのだろうか?)

良い記憶ばかりではないが、何もないよりかは遥かにマシだと刹那は思う。

(少なくとも私にはこのちゃんとの思い出があるから頑張って来れた……アスナさんはどうなのでしょうか?)

木乃香との楽しい時間があったからこそ……苦しくて辛い修業にも耐えられた。
もう二度と木乃香を泣かせるような真似はしないと決意し、辛い時は木乃香の笑みを思い出して挫けそうな自分を支えてきた。

「ア、アスナさんは不安にならないんですか?」
「う〜ん、特に不安にならないわね。何て言うか……思い出せれば良いけど、無理に思い出そうとしてもダメみたいだし。
 昔の事を思い出したいって言う気持ちもあるけど……今も大事なのよね」
「は、はあ……」

少し納得できない気もするが前向きな気持ちを告げるアスナに刹那は自分には無い強さを感じていた。

「ま、まあこういう話はナシにしてくれると助かるの。
 私自身、特に気にしてないのに周りが心配してあれこれ言われてもどうにもならないしね。
 それに過去よりもこれからの事の方が大事だと思ってるから」
「わ、分かりました。もし何か力になれる事があれば、いつでも相談に乗りますね」

本人が気にしないで欲しいと言う以上は自分が口を挟むのもなんだと刹那は考え、助けがいる時は呼んで欲しいとだけ告げる。
今回の一件でアスナとこの場にいないネギには世話になったから、二人が困っている時には手助けがしたいと刹那は思ったのだ。

「む……なんや、せっちゃんとアスナが仲ようなって嬉しいやら……羨ましいやら……」

アスナと刹那のどちらも大切な友人なので仲良くしてくれるのは嬉しい。
でも、刹那が自分よりもアスナと仲良くするのはなんとなく胸のうちがモヤモヤしてきて……気になる。

「なーに言ってんの。これからもっともっと仲良くなるんだから気にしちゃダメよ」
「それもそうやな♪」

ちょっと嫉妬っぽい感情を見せる木乃香をアスナが嗜めると機嫌を直してみせる。
この夜、三人は仲良くおしゃべりしながら楽しい時間を過ごしていった。




時間を遡り……リィンフォースとエヴァンジェリンの二人の行動を此処で話そう。
予定通り二人は京懐石を祇園で堪能していた。
さすがに未成年の姿では何かと面倒な事が起きそうなので幻術で変装している。
リィンフォースもエヴァンジェリンも元が良いだけに成人した姿は美しく、ドレスアップした姿は更に二人の美しさを際立たせている。
その所為か、観光地という事で異国人の姿を見慣れている住民も思わず振り返るくらい綺麗な女性二人組の姿を見かけて、何かの撮影かと周囲を見たりする者も いた。
もっともエヴァンジェリンもリィンフォースも周囲の視線には無頓着に気にせずに歩いていたが。
一見さんという立場でも、それなりに楽しめる席を茶々丸は事前に用意していた。

「……仕来りって、ちょっと困るよね」
「まあな、紹介がないと入る事も出来ない場所というのは何処にでもあるさ」

格式を重んじるのは致し方ないと二人とも思うし、一見さんでも十分に満足できる店があるのも確かだ。

「呪いを解いたら、麻帆良を拠点にするかどうかは別にして自由に遊びに行こうね」
「そうだな……自由気ままに歩くのも悪くない」

"光に生きろ"とエヴァンジェリンに告げた男――ナギ・スプリングフィールド――は何か事情があるにせよ……十五年も放置したままだった。
その代わりに呪いを解き放とうする少女――リィンフォース・夜天――は自分と同じように生きる場所と家族を失って、この地に落とされてきた元人外の存在。

(……人間嫌い)

隣を歩くリィンフォースを見ながらエヴァンジェリンは思う。

(正義を掲げる連中を嫌い……価値観を押し付ける連中を憎んでいるのは間違いないな)

管理局と呼ばれた連中の身勝手な正義で主諸共殺されかけた経緯があるらしい。
詳しくは聞いていないが、部下を失った復讐と犠牲を最小限で済まそうという思いだったらしい。

(いつの世も正義の味方を標榜する連中の身勝手さは変わらんな……)

宗教の教えを絶対の正義に掲げて自分を殺そうとした連中と似ている点には反吐が出る。
麻帆良にいる魔法使い共もお綺麗なお題目を掲げている点ではそう変わらない。

(光に生きろ……か、その光が私の生きる場所をなくしてきたのに……)

ナギ・スプリングフィールドみたいにノーテンキな人間ばかりなら悪くないと思うが、現実はそんなに甘くない。
登校地獄の呪いを解呪したいと言っても近衛 近衛右門が首を縦に振るとは想像できない。

(ジジイはまあ思うところはあっても反対はしないが……他はダメだろうな)

自分の悪名を知っている正義の味方気取りの魔法使い様方は絶対に賛成するわけがない。
十五年も学園都市で警備員をしていたが、ジジイ以外にまともに声を掛けてきたのは咸卦法の訓練に付き合ってやった高畑・T・タカミチくらいだ。

(結局のところ、魔法使い達にとって私は所詮……敵でしかないのかもな)

お互いに歩み寄る事をしなかったのも事実だが、エヴァンジェリンは自分のほうから譲歩する気はないのも確かだ。

(光に生きたくても……それを許さない連中がいるという事をお前は分かってないんだろうな、ナギ……。
 そして、この新しい友人もそれを知っているからこそ……人を嫌っているんだろうな)

チラリと隣を歩いているリィンフォースに目を向ける。
表向きは仲良くしているが実は全てとまでは行かないが、大半は演技みたいなものだと知る者は少ない。

(コイツが茶々丸や私を好きな理由は人じゃないからだと思う。
 そういう意味では刹那はお気に入りなんだろうな。
 後は茶々丸を生み出した超 鈴音に葉加瀬 聡美にビジネスライクな点から気に入った龍宮 真名。
 そして裏表のない古 菲に長瀬 楓くらいか?)

混血という理由でどちらからも疎まれていた刹那。
茶々丸関係の面子とドライに割り切って無理に踏み込まない龍宮と長瀬に真っ直ぐに強さを求めてくる古 菲。
交友関係を見れば、その程度の事はすぐに分かってしまい……エヴァンジェリンは少し心配する。
敵対こそしていないが、他のクラスメイトが目の前で何かあっても助けるかどうか判断できない。
エヴァンジェリンの直感から導き出される答えは……助けないと結論付けている。
麻帆良に侵入してくる連中を生かしてはいるが、何の事はない……魔法使いにとって魔法が使えない事は死んだも同然なのだ。
知識はあっても一生使えない魔法……生かしているが内容的には死よりも辛い現実が彼らには待っている。
魔法使いとして歩んできた人生が終わり、ただの人として生きていく。
魔法使いが魔法を使えないなど……高畑・T・タカミチを見れば、どういう運命か末路は見えている。
今でこそ周囲の見つめる視線が尊敬と憧れに変わっているが、落ちこぼれと蔑まされていた時期があった事を知っている。

(……生き地獄だな。生きてはいるが魔法使いとして死に……それでも魔法使いとしての自分を捨てられるかどうか?)

魔法使いとして、それなりに自負してきた連中にとって魔法使いである事をやめろと宣告する。

(魔法世界の住民なら最下層の奴隷以下だな)

旧世界とこちらの世界を呼んでいる連中には最悪の帰結となり、こちらの住人なら社会復帰も可能だろう。

(やれやれ……チャチャゼロあたりなら大笑いするだろうが、茶々丸は優しいから心配するだろうな。
 恨みで襲い掛かる連中を返り討ちに出来ると考え、余計な恨みを買い続ける事になって心配するんだろう)

一番の古株のチャチャゼロは人を殺すのを忌避しないが、生まれたばかりでしかも魔法と科学の混血みたいな茶々丸は他の人形達と違っている分……命を奪う事 を躊躇う時がある。

(まあ、もっとも茶々丸はリィンを傷つける連中を生かす様な真似はしないが……ぼーや達は無理だろうな。
 その軋轢がいつか厄介な事態に発展しない事を祈るだけだ)

真面目で善人のネギ・スプリングフィールドに神楽坂 明日菜なら人が人を殺すという現実を快く思わないだろう。

(まあ今回の一件が一つの試金石―――何だ?」

リィンフォースが周囲の空間に探査魔法を掛けているのに気付いてエヴァンジェリンが敵襲かと考えて警戒する。

「……ウソでしょ? なんで、この世界にロストロギアが……しかもこの反応はジュエルシード?」
「ロストロギア……遺失遺産、アーティファクトか?」

困惑した顔で反応があった場所を見つめるリィンフォース。

「物騒なシロモノなのか?」
「ピンからキリまで在るけど……ピンのほうかな。
 この街が簡単に完全消滅っていう現実が待ってるよ」
「……随分とやばいシロモノがあるもんだ」

内心では焦りつつも表情は変えずにエヴァンジェリンはリィンフォースの対応を待つ。

「暴走して次元震が発生する前に封印するよ」
「……次元震とは何だ? まあ何となくイヤ〜な予感はするがな」
「この世界そのものが崩壊するってこと」
「とんでもないアーティファクトがあったもんだ」
「ちなみに製作者は不明というか、先史文明とか、超古代魔法で作製されたらしい。
 ま、言ってみれば、知性と制御機構を持たない私みたいなもの」
「……核って奴だな」
「核は放射能汚染だけで後は大丈夫でしょう。あれは空間そのものを破壊するから何も残らないわよ」

走り出すリィンフォースを追いながら詳しく聞いていたエヴァンジェリンは思う。

(……コイツがいた世界はよくまあ無事だったな)

最強の魔法使いという二つ名を持っていたが、リィンフォースがかつて居た世界では自分程度は然程脅威にはならないかもしれないと感じていた。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ラブラブキッス作戦は無事?に終了しました。
そして原作で虚数空間に落ちていったジュエルシードが出現しました。
リィンフォースの全力全開を書こうとしたら、ノーマルのスクナでもちょっと足りない気がしてます。
なんせ、ストライカーシリーズじゃ戦闘機並の機動性、攻撃力を有していそうなガジェットをあっさりと落としていますから。
ネギま原作での強さ表を見る限り、リリなのの面子ならリィンフォースならイージス艦なんて楽勝みたいに思える。
あの面子が全力全開で戦ったら……スクナだって平気で倒せそうですね。
低く見積もってもなのは、フェイトクラスは戦闘力4000〜5000は有りそうな気がする。
個人的な見方とはいえ、パワーバランスをどう取るか……難しいですね。
ま、悩みつつ、活目して次回を待て!




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