(あ、あかん……なんや、あの姉ちゃんは!?)

犬上 小太郎は自分の目を疑いたくなるような光景に言葉を失っていた。
虚空瞬動かと最初は思っていたが、すぐに違うと気付いた。
西洋魔法使いが主に使う魔法の射手と同じ大きさの魔法の矢に見えた物が桁違いの貫通力を持つ弾丸だと気付いた時は既に遅く。

(……間違いなく骨折れよったな)

防御用の札で作り上げた盾が何の役にも立たずに魔法の弾丸が術者の身体に突き刺さるように当たった。
口から血を吐き出す術者を見て、小太郎は思う……おそらく肋骨を数本砕いただろうとまざまざとその目で見つめていた。

「セイバーモード」
『Yes,sir』

剣の柄らしき物から伸びる魔力で形成された刃に鬼達は切り裂かれ……還って行く。
術者達も反撃しているが……西洋魔法使いの従者が持っているアーティファクトらしい服の防御を突破できずに無駄撃ちしているように見えた。

「チェーンバインド」
「な、なんだ!?」

周囲の空間に自分が見た事がない魔方陣が描かれて、そこから青く輝く鎖が術者を完全に拘束した。
鎖を振り解こうと手足を動かそうとするが、鎖はビクともせず……更に強力な力で締め上げ始める始末。

「あかん……格が違うで」

慌てて残った鬼達に拘束を破壊するように指示するが……全て切り裂かれて何も出来ないまま敗れた。

「悪いけど……魔法使いとしてのあなた達は此処で終わりよ」
「ま、待てっ!」
「待たない……蒐集開始」

術者達の背後から黒い手みたいなものが現れて……貫き、その手の中に光るものが握られていた。
そして本のようなものが光に近付いて何かを書き写す。その間、術者達は苦悶の声を上げていた。

「やっぱり物になりそうな術はないか……ま、期待してないけどね」

白目を剥いて気を失った連中を気にせずにその女は手にした本を読んでいる。

「おいっ! やり過ぎやろ!!」

思わず怒鳴るが、その女はこちらに見向きもせずに何かを呟くと、術者は口から泡を吹き出し、拘束を解かれて地面に叩きつけられた。

「あんた、何をしたんや!?」
「まあ簡単に言えば、魔法使いの魔力……ああ、彼らの場合は気力だったかしら、その生み出す部分を破壊しただけよ」
「なっ! そ、そんなことしたら!?」
「そうよ、魔法使いとしては再起不能。人様を殺そうとするような連中に手加減するほど甘くないの」

悪びれずにごく自然に話す女に小太郎は敵対する者に容赦がない態度に寒気を感じる。

「ネギ少年と真っ向勝負に出た君は見所ありと判断して見逃すわ。
 こいつらは君とネギ少年が戦って疲弊したところを狙うような連中だから容赦する義務もなければ義理もないしね」
「なんや、こいつらもあんたも最初から見とったんか?」
「一応仕事だからね」

そう言うと女は俺の首根っこを掴んで歩き出す。

「猫みたいに持ち上げんな!」
「あら、足引っ張って地面とキスしたいの?」
「そんなわけあるか!」
「捕虜のくせに偉そうなこと言うわね」
「俺はあんたに負けたわけやない!」
「ああ、ネギ少年に油断して負けたのは知ってる。
 仕事を遊び半分で行って、更に油断して格下の見習い魔法使いに負けるなんてプロ失格よ」
「ぐっ……」
「ま、遊び半分で仕事するバカは遠からず死ぬわね」
「なんやと!? もっぺん言ってみろ!!」
「何度でも言ってやるわよ。
 プロのくせに仕事を遊び半分でするバカは遠からず死ぬわ……仕事ナメんのもいい加減になさいよね。
 なんなら、そこらに転がっている連中みたいに……壊してあげましょうか?」
「…………」

足元に転がる連中を見ながら言われて口ごもる。

「油断と余裕は別物。そういう事を頭の中にきちんと刻み込んでから戦場に出なさい。
 ケンカと戦争は全くの別物。ちょっと自分が強いと勘違いして油断するような君には余裕を見せるなんて、まだ十年早いわね」

……悔しかった。

……今の自分じゃ歯が立たない事ははっきりと感じただけに次に戦う時はもっと強おうなって勝ってやる!

そんな事を俺は思いながら、後でネギから名前を聞いたリィンフォースの姉ちゃんに背負われて移動した。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 二十二時間目
By EFF




関西呪術協会本山の一画の森の中で休憩していたネギ達の前に小太郎を担いだリィンフォースが現れる。

「リィンフォースさん! 大丈夫ですか?」

リィンフォースの姿を見たネギはのどかが治療してくれているのを中止してもらって声を掛けた。

「ええ、話にならないくらい弱かったわ」
「リィンさん、結界を破って出て来られたんですか?」

ちび刹那が不思議そうにリィンフォースを見ながら聞いてくる。結界を掛け直したのに破壊された感覚がなかったのでどうやって出てきたのか知りたいみたい だ。

「空間転移と思ってくれれば良い(ホントはスターライトブレーカーで壊したかったけど……魔力の無駄遣いはダメだからね)」
「……わかりました」

空間そのものを閉じているので出られるのかと一瞬思ったちび刹那だが、自分達とは違う魔法を使う魔導師だから……もしかしたら出来るのではないかと考え直 した。

「隠れて見ていたけど、ネギ少年は少し強くなったな。このまま慢心せずに頑張りなさい」
「は、はい」

リィンフォースから褒められてネギは嬉しそうに笑う。教わった時間こそ短いがネギにとっては最初の魔法戦闘の師のような存在から褒められたのは嬉しかった のだ。

「さて、小太郎だったな。お前の上役は天ヶ崎 千草か?」
「…………そうや」

担いでいた小太郎を降ろして尋ねると憮然とした顔で小太郎は答える。

「では、あいつらは千草の指示で動いたのか?」
「違うわ! 俺だけが千草姉ちゃんに頼まれてあそこで待機してたんや。あいつらは知らんで」
「リィンさん! これは一体?」
「一枚岩じゃないって事ね、ちび刹那」

話の内容からちび刹那は小太郎達とは別のチームが動いていると判断するが、ちぐはぐな動きに不審感を覚える。
リィンフォースも強硬派内部で別のチームが無断で動いているのではないかと指摘する。

「つまりは千草っていう女は……信用されてないって事ですかい?」
「なんやそれ!? 千草姉ちゃんは頼りになる姉ちゃんや!!」

カモの言葉に反応して小太郎が腹立たしそうに声を荒げる。
小太郎から見れば、千草は話の分かる姉ちゃんで、腕も確かなのだ。その千草が信用されていないと言われては怒りたくもなるかもしれなかった。

「偶然だと良いんだけど、偶々本山の様子を監視していたチームが特使であるネギ少年が来たので指示を待たずに動いた?」
「……否定できねえな。兄貴の持つ親書を奪えば、何かと都合がいいはずだし」
「そ、そうで―――…………」

突然、ちび刹那の様子がおかしくなり、式神の紙型へと戻る。
カモが慌ててちび刹那の紙型を拾い上げて、リィンフォースのほうに顔を向けて尋ねる。

「リィンの姐さん、これはやっぱり……」
「多分だけど、刹那の方でも敵襲があったんでしょうね」
「式神の制御が出来ない状況になったってみたいだぜ、兄貴」
「「え、ええ―――!?」」「?」

ネギとアスナは焦り、事情をまだ聞いていないのどかは首を傾げていた。

「どうしようか? 私もまた戻らないと不味いんだが? 一応助っ人は用意しているから大丈夫だと思うけど……」
「そうなんっすか?」
「ええ、こっちの探査と封印はまだ終わってないのよ。助っ人はエヴァ達だから木乃香を攫うなんて難しい」
「ぼ、僕が行きます!」
「ちょ、ちょっと、ネギ? 怪我し てるんだから無理よ」
「ネ、ネギせんせー!?」

ダメージが残りふらつく身体で行こうとするネギをアスナとのどかが止める。

「あ、兄貴、無理すんじゃねえぞ!」
「そうね。もう少し休んでからじゃないと足引っ張るだけよ」

ネギのコンディションを見つめるカモとリィンフォースからもダメ出しされて、ネギは顔を俯かせる時……偶然にも目に留まった紙型に一つのアイデアが浮かん で話す。

「あ、あの! この紙型を使って僕が刹那さんの元へ行く事は出来ませんか?」
「出来そう? ネギ少年」
「わかりませんけど……試してみる価値はあります!」

ちび刹那の紙型を掴んでネギが今の自分に出来る可能性を示す。

「よし! 役に立つかどうかはわかんねえけど……状況を見られる分マシと思うことにするぜ」
「じゃあ、私は戻るけど……本当に危険だと判断したら来るわ。
 だからネギ少年はアレコレ考える前に出来る事を頑張りなさい。後のフォローは私と向こうに居るエヴァでするからね」
「はいっ!」
「それと小太郎は本山に入る前に解放しておいて。まあ、今解放しても暴れるような真似はしないと思うけどね」
「当たり前や! 俺は汚いマネはせん!!」

一通りの方針が決まって動き出す。
リィンフォースはロストロギア――ジュエルシードの探索と封印に。
ネギとカモは式神の紙型を使って刹那の支援。
アスナとのどかは小太郎の監視と紙型に意識を移して無防備な状態のネギの身体の守り。
それぞれの出来る事を精一杯行おうとしていた。




桜咲 刹那は木乃香の手を取って京都の街を走っていた。

「せ、せっちゃん?」
(……くっ! ネギ先生を襲った二つの班か……?)

ちび刹那を通じて見てきた状況に刹那は不安要素が増えた事に歯噛みしている。

(過激派内の意思統一が不完全なのか? 個別に襲撃? もしくは別の班を囮にして本命はやはりこちらなのか?)

時々二人を狙ってくる飛針を片手で掴みながら刹那の背中に冷や汗が流れていく。

(エヴァンジェリンさんや茶々丸さんを巻き込むのは心苦しいが……状況が不透明すぎる以上は戦力を整えないと!)

今日の朝、リィンフォースから聞いた天ヶ崎 千草の班の構成人員はおそらく四人。
そのうちの一人は先程ネギ先生が倒したのを知っている。

(あと……三人か? 私一人では……どこまで持ちこたえられる)

人気のある場所では襲い掛かってこないと考えていただけに、街中で飛針を使って牽制してきたのは刹那には計算外だった。
昼日中には襲っては来ないと刹那は考えていたが、実際にはこの有様だ。

「な、なぜにマラソンですか?」
「ちょ、ちょっとー桜咲さん。なにがあったのよー?」

後ろから追って来る夕映とハルナの声を耳にしても刹那には答える事が出来ない。

(ちっ! またか!)

刹那は自分を狙ってくる飛針を掴み取って、朝のミーティングでエヴァンジェリンの従者である茶々丸から教えてもらったスケジュールを思い浮かべて目的地へ と急ぐ。

(おそらく、この攻撃は月詠)

絶対にとは言えないが、天ヶ崎 千草という人物は陰陽師と推測できる以上はもう一人の人物か、月詠のどちらかなのだ。
初日での戦闘で自身と月詠の技量は同じ位か、若干自分の方が上ではないかと考える。
もし月詠が足止め目的に戦闘を長引かせられたら……木乃香は孤立してしまうと刹那は苦々しく思っていた。

(エヴァンジェリンさんには申し訳ないが……お力をお借りするしかない!)

襲ってくる面子が三人だけならば、対応できるかもしれない。
しかし、ネギ達の様子を知ったからには楽観的な考えは捨て去るべきだと思うしかない。

(もし別働隊がいるのなら、どこまで守りきれるか――ってダメだ! 命に代えても守ると誓ったではないか!!)

弱気になった心を叱咤して戒める。刹那にとって、木乃香は大切な友達であり、守るべき存在。不甲斐ない自分を嫌って鍛え上げてきたのも二度と木乃香の泣き 顔を見ない為なのだ。

「シ、シネマ村ですか!?」
「な、なんだ、桜咲さん、シネマ村に来たかったんだ」
「す、すいません! 綾瀬さん、早乙女さん! わたしはこのか……さんと二人っきりになりたいのでここで失礼します!!」
「へ? せ、せっちゃん!?」

刹那は夕映とハルナの二人に一方的に告げて、木乃香を抱き上げてシネマ村の塀を飛び越えていく。
ただでさえやばい状況なのに夕映とハルナの二人を巻き込むわけには行かず、申し訳なく思いつつ二人から離れていく。

「さ、桜咲さん、金払って入れです」
「う〜ん、女の子同士で二人っきりか……まさかね」

飛び越えていった刹那に注意する夕映と、おかしな方向に考えを巡らすハルナ。

「どうするです?」
「ここは追っかけるしかないっしょ♪」
「では私達はきちんとお金を払って入りましょうか?」
「…………そーだね」

一応の方針を決めた夕映とハルナの二人は入場料を払ってシネマ村へと入って行った。




少々強引な方法でシネマ村へ入った刹那は携帯電話で茶々丸経由でエヴァンジェリンに連絡を入れる。

『状況はどうだ?』
「ネギ先生が初日襲ってきたチームの一名らしい人物を確保しました。
 ただ、その際に別働隊らしき連中が現れ、リィンフォースさんがこれを撃破しました」
『ほう、ぼーやも頑張っているじゃないか。
 だが問題は……別働隊だな。そっちには出たのか?』
「いえ、まだ確認は出来ておりません。こちらはおそらく残りの三名だと思われます」
『ネギ先生のところは偶然の遭遇戦ですか?』
「……多分、そうではないかと」
『ふむ、いいだろう。今からシネマ村へ行く……時間を稼げば、お前の勝ちだ』
「ご助力感謝します」

助っ人の確保が出来た事に刹那は安堵する。
形振り構わずに動き出している連中だけに何が起きるか予測できないので、人手があるのと無いのとでは木乃香を守りきれるか……不安になっていたのだ。
エヴァンジェリンは呪いによって力を封じられているが、戦闘経験は自分よりも遥かに持っている。もし何かあった時に最善の手を打ってくれるだろうと刹那は 思っていた。

(とりあえず人気の無い場所への移動はせずに……時間稼ぎだな)

自分の役割を明確に出来た所為か、刹那は焦りが消えて肩の力が抜けた気がしていた。

「せっちゃん、せっちゃん」

木乃香の声を耳にした刹那は振り返ると、そこには日除けの番傘を片手に可愛らしい着物に身を包んだお姫様の姿をした木乃香が立っていた。

挿絵「お、お嬢様、そ、そのカッコは!?」
「あれ、知らんの? シネマ村では着物貸してくれるんやえ」
「そ、そうなのですか?」
「あ、そや! せっちゃんも着替えよ♪」
「え? わ、私もですか?」
「うちが選んだげる♪」
「お、お嬢様!? わ、私はこういうのは……って、あ、ああっ!?」

木乃香の有無言わさずの押しに刹那は勝てずに更衣室へ連れて行かれる。

「…………なぜ私は男物の扮装なのですか?」

腰に差す夕凪が新撰組の扮装に似合わずに違和感が出るのを口にした刹那が木乃香を伴って更衣室から出てきた。

「似合うとるで、せっちゃん」
「そ、そうでしょうか?(ま、まあ刀を手にしてもおかしくない姿ではありますが)」

さすがに町娘とかの格好では刀を持っているのが却って目立つので不本意ながらも我慢する。
可憐な花が咲いたように楽しげに微笑む木乃香の顔を見ると自分も同じように楽しくなってくる。

(……そうだな。私はこんなふうにこのちゃんと遊びたかったんだ)



「う〜ん。なんだか……ラブの匂いがするわね
「そうですか? 仲の良い友達にしか見えませんです」

二人に追いついてきたハルナと夕映が影から隠れて様子を見つめる。

「い〜や、あれは間違いなくラブだわ!」
「……頭にカビでも生えましたか?」

ギラギラと血走った目で断言するハルナに冷めた目で返事を返す夕映。

「ふ〜ん。あの二人がね〜」
「あ、朝倉さん!?」
「わあっ! あ、朝倉にいいんちょまで!」

そんな二人の後ろから三班の面子が現れて刹那と木乃香を見つめ始める。

「ところで……その格好は一体?」
「な〜に、しっかり変装してんのよ」
「ここに来たら、これはやらないとね♪」

ハルナが指摘するように三班のメンバーは全員が貸し衣装に着替えていた。
雪広 あやかがたくさんの簪を頭につけ、豪華な着物を重そうに羽織った花魁ふうの姿をすれば、那波 千鶴が明治、大正風味の貴婦人といった姿で立っている。隣には村上 夏美が動きやすそうな着物姿の江戸時代ふうの町娘で興味津々と言わんばかりに刹那と木乃香の様子を見つめ、少し離れたところで我関せずという雰囲気で長谷 川 千雨がこれまた大正時代のハイカラさんの女学生の扮装でいた。

「ところで朝倉は結構似合っているじゃない……それって子○れ狼?」

ハルナが木の乳母車を押しながら歩く着流しふうの武士の姿の朝倉を見ながら話す。

「まあね。これならさよちゃんにも合うやつがあると思ったのよ」
『に、似合いますか〜?』

乳母車に座っているさよが楽しそうに自身の着た服装を見せる。江戸時代の女の子用の着物姿だがサイズ的にピッタリでさよの可愛らしさがきちんと表現されて いる。

「バッチリ似合ってる♪」
『えへへ、嬉しいです』
「実はさー、もう一つ考えてたんだけど……サイドカーとトランペットがなかったのよ」
「……○カイダー01? また微妙にマニアな」

仲良く仮装を楽しんでいる朝倉達を見て、ハルナと夕映も着替えようかと考えた時、

「あ――何か来たよ」

夏美が刹那達へと向かってくる馬車を指差して注意を促す。

「ひゃあっ!」

自分達の前に急停車した馬車に驚く木乃香を庇いながら刹那は構える。

「お、お前は!?」
「どうも神鳴流です〜〜〜じゃなかったです」

ゆっくりと馬車から降りてくる月詠に周囲の観光客も何事かと見始める。

「そこの東の洋館にございます〜〜。
 そこな剣士はん、今日こそは剣士はんの大切なお嬢様を借金のカタに貰い受けますえ〜〜」

何処となく楽しげに間延びした口調で話す月詠。

「な、何……どういうつもりだ? こんな場所で」
「せっちゃん、これは劇や劇。お芝居や」
(なるほど、衆人環視の目を劇で誤魔化して……堂々とお嬢様を奪うつもりか)

まだ事情が分かっていない木乃香が刹那に話す。
そして物陰から二人の様子を見ていた夕映がハルナに説明する。

「シネマ村では突然お客を巻き込んでお芝居が始まるそうです」
「へーなんか面白そうだね」
「設定はメチャクチャっぽいですが」
「いいじゃん、面白ければ♪」

木乃香から教えてもらった事を頭に入れた刹那は叫ぶ。

「そうはさせんぞ! このかお嬢様は私が守る!!」
「キャ―――ッ! せっちゃん、格好えー♪」
「な、い、いけません、お嬢様!」

背後にいた木乃香が刹那の啖呵に嬉しげに抱きつき、刹那を困らせている。

「む、むむ。やはりあの二人はそういう関係……?」

女の子同士の怪しい関係にハルナ達が興味津々といった空気を纏って見物する。

「そーですかー。そういう事なら仕方ありませんなー」

間延びした口調は変わらないが、どこか浮かれた感じで月詠は真っ白な手袋の左手を取り刹那に向けて放り投げる。
飛んできた手袋を刹那は受け止め、月詠を睨み返す。

「このかお嬢様をかけて決闘を申し込ませて頂きます――。
 30分後、場所はシネマ村正門横「日本橋」にて――」

決闘の申し込みに刹那は顔を顰める。
30分後とはいえ、助っ人のエヴァンジェリン達と合流できるか……微妙な時間になる予感がし、負けるつもりはないが月詠以外の誰かが木乃香を襲わないかも 分からない。

「むむむ!? ただの芝居じゃないのかも」
「え……? それはつまり?」
「だからーこのかと桜咲さんがそういう関係で、更にこのかに横恋慕したあの子がシネマ村のお芝居を利用した略奪愛なのよ」
『ええ――? そ、そうなんですか!?』
「……マジかよ」
「ち、ちづ姉はどう思うの?」
「夏美ちゃん……愛の形はね、人それぞれなのよ」
「いや……分かんないよ」
「ちょっと皆さん? どういう事ですの?」

今ひとつ事情が理解できなかったあやかの声を聞きながら全員が目の前の芝居に託けた略奪愛の様相に注目する。

「ご迷惑かと思いますけど……うち、どうしても手合わせしたんですー。
 逃げたらあきませんえー刹那センパイ」

口元を歪め、白目と黒目を反転させて狂笑を浮かべて狂気と殺気を振り向けた月詠に感受性の高い木乃香が反応して身体を硬直させる。

(仕方ない……やるしかないな。
 出来る限りお嬢様の側で戦いながら時間を稼ぐのが一番か……)

馬車に乗り去って行く月詠を見ながら刹那は決断する。
まずは月詠を排除して、追手を出来る限り牽制しながらエヴァンジェリン達に合流してこの場を逃れる。

(残りは三人……問題は月詠より強いか否かだ)

一人は術者である事は判明している。問題は残りの一人が戦士なのか、術者なのかだ。

(あの女ならば、距離を詰める事が出来たら勝つ自信はあるが、もし前衛を務める戦士が居れば……)

天ヶ崎 千草だけなら苦戦するかもしれないが負けない自信はある。
しかし、もし前衛を務める戦士がいると想定するなら……時間稼ぎに徹すれば良いとも刹那は考えている。

「ちょっと桜咲さん! どーゆーことよー?」
「へ?」
「今の心境は!?」
「な、なにを?」
「もーこういう大事な事は言ってくれないと!」
「さ、三角関係? それともセンパイって言ってたから……まさか昔の彼女?」
「え?  な、何の話をしているんですか?」
「こうなったら二人の恋を応援しちゃうよ♪」
「よっしゃ――っ野郎ども、助太刀だ!!」
「わああ!! ご、誤解しないで下さい!!」

この後、刹那は周囲の誤解を解こうと苦心するが効果は無く……クラスメイトを引き連れて日本橋へと行く羽目になる。

(な、なんでこうなるんよ……ウチなんか変なことしたん?)

意気揚々と歩いて行くクラスメイトを見ながら刹那は頭を抱えていく。
この時、刹那は一つ気が付かなかった……月詠の狂気に当てられた木乃香が不安を感じていた事に。



時代劇の舞台としてよく使われる日本橋の中央で月詠は待ち構えていた。

(…………怖い。なんかよーわからんけど、あの人は……怖い)

刹那の後姿を見ながら木乃香は不安な気持ちをどうしても消す事が出来ずにいた。

「ふ、ふふふ。ぎょーさん連れて来てくれましたなー。
 ほな、始めましょうか……センパイ♪」

表情が楽しげで微笑んでいるのに木乃香には寒気を感じさせるような気持ちにさせられる。

(な、なんでなん? 顔は笑っているし、楽しそうな雰囲気なんやけど……なんでこんなにも寒いんや?)
「このか様も刹那センパイもウチのモノにしてみせますえ――♪」

木乃香はこれから刹那と彼女が真剣を使用する斬り合いをするとは知らない。
ただ……自分が原因で何かが起きるような予感がして、目の前にいる刹那が遠くへ行ってしまうような不安だけが湧き上がってくる。

「せ、せっちゃん……あの人、何かおかしいような……」
「……安心して下さい、お嬢様。
 何があっても、必ずお嬢様は私がお守りします」

自分に対して心配させないように微笑む刹那を見て、木乃香の不安が高まる。
本当に何処か遠くへ行ってしまう……そんなふうに感じさせるような儚げな微笑み方だったのだ。

「そ、そうやのうて……せっちゃんが怪我するのは嫌やで。
 うちの事よりも、せっちゃんが怪我すんのは……ダメなんや」

自分を守ってくれるのは嬉しいけど……その代わりに刹那が怪我をするのは心が痛くなる。
互いの身を案じる姿を見た観客から拍手が出る中、

「男役でウチの部に来て欲しいなー」
「桜咲さん、魅せますねーあやか?」
「ええ!! お二人の愛をまざまざと見せ付けられました!!
 私もネギ先生とあのように美しい 愛を育みたいものです!
「だ、だから…………誤解しないで下さい

気合が抜けていきそうになるのを堪えるように刹那が話す。
そんな一行からニ、三歩距離を置いて朝倉 和美はさよに小声で確認していた。

(え、えっと……万が一の時は頼りにしていい?)
(はい?)
(いや、だからね。魔法使い同士のケンカになりそうな気がするのよ)
(え? そ、そうなんですか!?)
(うん。だから、何かあった時はさよちゃんの魔法の力を借りたいかな〜と思ったわけよ)
(ええ―――ッ!? わ、私、魔法を習い始めたばかりの見習いなんです!  ケ、ケンカの仲裁なんて無理です!!)
え゛……マジ?)
(攻撃魔法なんて習ってません! 守りの呪文だって先週から習い始めたばかりなんです!!)
(そ、そうなんだ……ちょーとヤバイかな?)
(一応、デバイスを持っているんで使えない事もないですけど……多分、すぐに魔力切れになるんじゃないかと思います)

さよが懐から出したテレカサイズのカードが光を放って、先に星を象った玩具の杖みたいな物に変化する。
リィンフォースが訓練用にさよに与えたストレージデバイス――ティンクルスター(専用のデバイスではないが、存在が希薄だったさよの為に名前くらいは派手 にしようとリィンフォースが命名した)を見せる。

「へー仮契約のカードみたいだね」
「結構便利なんですよ。懐中電灯にもなりますから、暗い夜道を歩く時は助かるんです♪」
「そ、そう(幽霊が明かりを欲しがるのはなんか変な気が……いや、敢えて言うまい)」

幽霊らしくないさよの言動にツッコミを入れたくなる和美だが、今更な気がして口を閉じる。

(なんて言うかさ……幽霊らしくないところがさよちゃんらしいというかねー。
 まあ、魔法を秘密にしなきゃならないルールがあるみたいだから、シロート相手に本気はないっしょ)

周囲を見渡して和美はそう結論付ける。

「やれやれ……時間を稼げと言ったが、遊べとは言っておらんぞ」
「へ? あ、エヴァちゃん」

和美の隣をゆっくりと優雅に歩く金髪碧眼でアンティークドールを大きくしたかのような存在が観客の目を惹き付ける。
黒いゴスロリ服がまるでお姫様のように思わせる美少女――エヴァンジェリン――が燕尾服を着込み……男装の執事を思わせる茶々丸を従えて登場する。

「エ、エヴァンジェリンさん」
「はわ〜〜これはキレイな助っ人ですね〜」

エヴァンジェリンは優雅な仕草でパンッとその手に所持していた鉄扇を開いて、笑みを浮かばせた口元を隠しながら告げる。

「そこの二人を守ってくれと頼まれている……ちょっかいを掛けたいなら、まず私を倒す事だな」
「センパイとの死合いを邪魔すると言うんですか?」

やや気分を害したような口調で月詠はエヴァンジェリンに話す。
勿論、声に殺気を含ませていたが、エヴァンジェリンは全然気にしないで平然と構えている。

「ふん……横恋慕というのはみっともないぞ、小娘」

からかう響きを含ませたエヴァンジェリンの声に3−A組の面子は彼女が事情を知っているものだと判断して詰め寄る。

「エヴァンジェリンさん! 事情を知っておられるのですか!?」
「それってエヴァンジェリンさんも、どっちかを狙ってたの!?」
「何の話をしているんだ、こいつらは?」

勘違いで暴走気味のあやかとハルナの様子を見ながら、エヴァンジェリンは刹那に尋ねる。
聞かれた刹那はなんとも言いようがない諦めきった顔で一言。

「…………聞かないで下さい」
「ご主人様……いつものアレかと思われます」

TPOに合わせたのか、マスターではなく、ご主人様と呼ぶノリの良い茶々丸がエヴァンジェリンに耳打ちするように恭しく推測を述べる。

「……アレか、バカ共の暴走なんだな?」
「そ、そうなんです! なんでこんな事になったんか……うちの方が聞きたいんです!」
「まあいい。下らん瑣末事はさっさと終わらせるか」
「スルーしないで聞いて下さい!」
「お前の苦労など知った事か! 私はな、もう少し重文巡りがし たかったんだよ!!」
「ちなみに私はリィンさんのお世話がしたかったです」

ポツリと周囲に聞かれないように小さな声で呟く茶々丸。
表情こそ何ら変化はないようだが……結構黒くなっているみたいだっ た。

「桜咲 刹那、こいつの相手は私がする。邪魔をすれば、どうなるか……分かっているな」
「え゛?」
「ご主人様のお仕置きで、大切なお嬢様の前でみっともない姿を晒す事になるという事態になるだけです」
「え゛え゛え゛え゛え゛!!??」
「茶々丸……ようやくお前も悪というものが分かってきたみたいだな」
「お褒めに預かり光栄です、ご主人様」

畏まったポーズを取り主人に忠実な執事然の姿を見せる茶々丸に、嫌な未来予想をした刹那の顔が蒼白になっていく。
そんな刹那の顔を見たエヴァンジェリンが悦に入った顔で微笑んでいる。

「くっくっくっ。何から始めるか……迷うな」
「な、ななな、なにを想像しているんです か?」
「エヴァちゃん、こんなのはどうよ?」

会話を聞いていたハルナが調子に乗ってラフスケッチで刹那のお仕置き風景をエヴァンジェリンに見せるが、

…… 早乙女さん、斬っても良いですね
「ちょ、ちょっと――ッ!! 首の辺りに刃が当たってるって、これ本物!?」

目にも止まらぬ速さで鞘から夕凪を抜き放った刹那が血走った瞳でハルナを脅している。

「あのーそろそろ始めてもよろしいですかー?」

何気に放って置かれた月詠が声を掛ける。3−A組独特の空気を浴びて、若干気勢を削がれて纏っていた殺気も減っている。

「そうだな……後が支えている。私はこの後……刹那にお仕置きしなければならんからな」
「う、嘘ですよね!! 冗談ですよね!?」
「ご主人様は何時だって本気です……お覚悟を」

茶々丸の嘘偽りない決定事項通告に思いっきり焦る刹那に見ていた観客は、お姫様じゃなく……小さなワガママ女王様だったのかとエヴァンジェリンの役柄を決 め付けていた。
そして刹那がその女王様に振り回される騎士役に変わり果てたと憐れみを込めた目で、その後に起こる悲劇にそっと涙していた。

「い、いやや――っ!! う、うちはなんも悪うないんやっ!!」
「桜咲……不運なヤツだな。同情はするが、私は巻き込まれたくないから助けんぞ」

みんなから離れた場所で観客になっていた長谷川 千雨が無情にも突っ込みを入れ、その隣で同感だと言わんばかりにザジ・レイニーデイが頷いていた。





……それでは次回に続きます(活目して次回をお待ちください By茶々丸)








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

端的に言えば、刹那……壊れ気味?
ラック値が微妙に低いかも。
ま、久しぶりの観光旅行を邪魔されたエヴァンジェリンの八つ当たりも入っていますが♪
更に最悪なのが、茶々丸が微妙に黒い点か も。

それでは活目して次回をお待ち下さい。




押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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