「…………」
「…………」

新幹線のある車内は非常に重苦しい空気に包まれていた。
偶々その車内に入った人物はホンの少し驚きで足を止めるも……即座に動揺を抑えて足早に通り過ぎる。
車内の席に座る少年達は……苦々しい顔をしながら苛立っている。

「ダァァァァ!! 豪徳寺!! アレを何とかしろ!!」

重苦しい空気に耐えかねた少年の一人が指差して叫ぶ。
指し示す先には……陰々滅々な ジメジメとした空気を漏らし続ける山下 慶一の姿があった。

「……そっとしておいてやってくれ」

豪徳寺 薫も流石にこの空気はイヤなのだが、事情を知っているだけにどうしたものかと悩んでいた。

「だ〜か〜ら〜奇をてらうより、ストレートに行くべきだったんだよ」
「全くだな」

中村 達也が呆れたような口調で話すと、同じように大豪院 ポチも何度も頷いている。

「カッコばかりに拘るから……すれ違いばかりすんだよ。
 最初からケータイで連絡とって一緒に出かければ良いものを」
「出会いのシチュエーションとやらに拘るから空振りになるのだ」

二人が呆れた声で話すと聞いていたクラスメイトの少年達も大体の事情を悟って呆れている。

「そういう事かよ」
「演出に拘って失敗したというわけか……マヌケだろ、そ りゃ?」

その一言に慶一の肩が震え……呻くような嗚咽が車内に響く。

「……トドメを刺すなよ」
「……悪かった」

更に車内の空気が悪くなって全員がうんざりした顔で慶一を見つめている。

「……なぁ?」
「なんだ?」

少年の一人が慶一を指差して豪徳寺に尋ねる。

「コイツ、非常に不本意なんだがモテるだろ?」
「……否定はせんがな」

他のクラスメイトの嫉妬が混じった視線が慶一に向かう中、最大の疑問が出る。
実際に顔に関してはイイというのは否定できないし、おかしな趣味もなく、女子との他愛ない会話だってきちんと出来る。

「何で今更シ チュエーションに拘りやがったんだ?」

この点だけが全員の心が一つになって聞きたい部分だった。
正直、顔はイイのは断じて認めたくないが……認めざるを得ない。
少なくとも下手なナンパなどしなくても彼女を作ろうと思えばいつでも作れる可能性が高いのはむかつくが認めても良い。

「…………声を掛けられるのは慣れているが、自分から声を掛けるのは苦手だそうだ。
 特に大本命に対しては弱々だ な」

実際にリィンフォースの前では空回りしている点が多々あるのを豪徳寺達はその目で見ている。

「なんつーか、キンチョーしてんのか……ダメなんだな、こりゃ」
「組み手の時もちょっと見蕩れて……イイのを貰ってダウンするしな」
「……惰弱だな。あれでは良いイメージを持たれないだろうな」

嘆息して話す豪徳寺達の説明に男達は拳を硬く握り心を一つにする。

「……殴ってイイか?」
「死人に鞭打つような真似はしてやるな」

「何を言う!! コイツは俺達の最大の敵だぞ!!」

モテない男達の偽らざる気持ちだった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 三十四時間目
By EFF




男達の怒りが頂点に達しようとした時、ドアが開く。

「あ、大豪院さん、こんにちわ」
「ああ、こんにちわだ」

開いたドアから現れたのはリィンフォースだった。

「奇遇ですね」
「ま、まあ……そうなるのかな」

完全なすれ違いばかりだったので、こうして顔を合わすのは久しぶりには違いなく、ごくありふれた挨拶から始まる。

「それにしても……何か、空気がおかしくないですか?」
「気にしないでくれ……モテない男の嫉妬だから……」

後半の部分は小声で話してリィンフォースの耳には入らなかった。

「? まあ良いですけど」
「……世の中、知らないほうが良い事もあるさ。
 ところで修学旅行は楽しめたかい?」

話題を変える事で誤魔化すというか……正直この状況を説明するのが大豪院はイヤだった。
リィンフォースのほうも少々疲れているので、変な事に巻き込まれるのが嫌なので大豪院の意図に合わせるも、

「…………何処ぞの阿呆のせいで楽しめなかったというのが本音です」

ふか〜いため息を吐いて告げるリィンフォースに、

「……君も苦労してるな」
「……お互い様です」

チラリと慶一のほうを見て、大豪院と豪徳寺の苦労を鑑みて話すリィンフォース。
互いに視線を合わせて……出たのはため息だった。

「良かったら……お茶でも奢ろう。食堂車に行けば、ケーキセットくらいあるだろう」
「ゴチになります♪」

嬉しそうに微笑むリィンフォースを微笑ましく思いながら、大豪院は車内の空気の入れ替えを決断する。

「慶一……リィンさんとお茶するが「俺も行く!」

リィンという単語を耳にして即座に再起動した慶一の様子に大豪院は思う。

(……慶一よ、そんな軽い反応だといつまで経ってもお付き合いなど無理だぞ)

今までの付き合いから何となくリィンフォースの好みみたいなものは分かってきた。

(顔じゃない事は分かった。そして軽い男はダメだというのも知った。
 まあ友人としてつるむ分には問題ないが、今のままではアウトオブ眼中だろうな)

ノリの軽い達也あたりは確実に友人止まりで、キザっぽい口調の慶一のほうも微妙に友人で終わりそうな気がする。

(……どうしたものかな…)

友人の本気度を知るだけに上手く行けば良いかと思いもするが、こればかりは相手――リィンフォース――のほうがその気にならないと空回りで終わるのが目に 見えて分かるだけに憂鬱になりそうだった。

「……ダメっぽいな」

クラスの友人達が初見で見切るのを見て、隣にいる豪徳寺も乾いた笑みを浮かべる。

「お前らも苦労してんな」
「「ほっといてくれ」」

クラスの少年達の優しげで憐れむような視線と慰める声に二人は肩を落としていた。
一行が車内を出て行った後、残ったクラスメイト達は、

「慶一がすげなくフラれるのに賭けるぜ!」
「俺もだ! ぜってーフラれるぜ!」

「というか……眼中に入っているのか?」
「案外、大豪院や豪徳寺のほうが視界に入っているような気がするぜ」

モテる慶一がフラれる可能性が高い事を肴にして盛り上がっていた。

「でも結構イイと思うぞ。大豪院や豪徳寺の彼女にはもったいないぜ」
「でもよーあの子……噂のラ イトニングバーサーカーなんだろ?」
「……マジ?」

知らない生徒達は一様に凍り付き……真偽のほどを確認する。

「マジだぞ。俺……デスメガネとの一戦を見てたからな」
「……人は見掛けによらないって事かよ」
「防戦一方でよ……狂化が消えなかったら、勝つんじゃねえかと思ったぞ」
「ま、慶一もすげえ子に惚れたもんだな」
「ダメっぽいけどな」
「違いないが……それも良しだ!」
「モテるやつは敵だからな!」


派手にフラれる事を期待しながら話の花を咲かせる……薄情なモテない友人達だった。







疲れて眠るクラスメイト達を見ながら、ネギの声が聞こえる。

「……いいんちょさん、リィンさんはどちらに行かれたか、知りませんか?」

雪広 あやかは疲れ気味の脳を最大限に動かして考えていた。

「先ほど食堂車に行くと……(や、やはり……私の最大の敵はリィンフォー スさんで間違いありません!!)

あやかはこの修学旅行では今ひとつネギとの交流が図れなかった。
しかも最大のイベントのラブラブキッス作戦では不覚にものどかに美味しいところを持って行かれた。
ネギの年齢から考えて、あやかはネギのファーストキスをのど かに奪われたと思い込んでいたのだ(まあ実際にはノーマークの神楽坂 アスナが奪っていたのだが)
リィンフォースは参加していなかったが……やはり新学期の一件を鑑みて、まだネギが諦めていないのではないかと考える。

「そ、そうですか…………僕も行こうかな?」
「そ、それでしたら私も一緒に参りましょう」

監視と牽制を兼ねて同行を申し出るも、

「え?…………そ、それは困ります」
「え゛?」

ネギからの拒絶の言葉にあやかが凍りつく。
魔法使い同士の話に何も知らないあやかを連れて行くわけにもいかないのが理由だが……彼女には非常にショックだった。
凍りつくあやかを不思議そうに見るネギ。

(リ、リィンフォースさん! 貴女は3− Aでは数少ない常識人であり、頼りになる人ですが……私の敵です!!)
「ど、どうかしましたか?」
「い、いえ……なんでもありません」

彼はまだ心の機微をいうものに疎い少年だったのがリィンフォースにとって……限りなく不運だった。

(……ぼーや、自爆してどうする気だ?)
(ネギ先生……うっかり度がレベルアップするのはどうかと思いますが)
「オーオー、アノ坊主モ、ウチノゴ主人ト同ジクライノウッカリダゼ」

エヴァンジェリンと茶々丸は内心で思い……口には出していなかったが、チャチャゼロは遠慮せずに口に出す。

「……被害を被るのはリィンなんだが、あのぼーやのトラブルメイカーの気質は父親譲りだな」
「リィンさんに迷惑を掛けるのは頂けませんね」
「ケケケ、面白クナリソウダナ♪」

3−Aで希少な常識人らしい?あやかだが、それでも3−Aの一員である事には変わりなく。
この後に起こりそうなあやかの暴走による事件を想像してエヴァンジェリンと茶々丸は沈痛な表情になる。

「妹ヨ、ソノ時ハ俺ニモ見学サセロ」

一人?チャチャゼロだけが傍観者の立場を取って愉快な事件を見物しようとして笑っている。



そして、ネギを見つめる視線がもう一つあった。

(やはり、ネギ先生は所謂……魔 法使いなのでしょうか?)

綾瀬 夕映……バカブラックの名を持つくせに、実は頭の回転は速く鋭い少女もネギの動向を静かに監視している。

(大体、あのが 不自然というか……御伽噺等に現れる魔法使いが持つ杖そのものです!)

常に持ち歩いているネギの身長よりも長い杖。
誰も深く突っ込む事がなかったが、今思えば不自然な点が多いというか……ネギが赴任してから不可思議な事件が起きている。

(図書館島といい、世界樹といい……極めつけは噂がそこかしこにある魔法少女に桜通りの吸血鬼
 大体、あのゴーレムっぽい物は誰が作って配置したんです!!)

麻帆良には不可思議な都市伝説が多々在る。
しかもネギがこの麻帆良に来てから、そんな噂が増えたような気がしてならないし……自分のこの目でしっかりと見た。

(一番気になるのがアスナさんの変わりようです!
 アスナさんが魔法の本を取りに行こうと言うなど……よくよく考えればありえない話です!!)


魔法などというファンタジーな話などをアスナが信じている事自体……おかしい
そんなおかしな噂などネギと出会う前のアスナなら絶対に否定したはずなのだ。

「…………ここは一つ、ネギ先生を引っ掛けて暴露させるです」

隣で疲れて眠るのどかには申し訳ないと思いつつ、夕映は麻帆良に帰ってから真実に至る罠という名の論拠をネギにぶつけようと決断する。

「ふ、ふふふ……リィンフォースさん、貴 女の秘密を教えてもらうです」

(ゆえ……燃えているみたいだけど……死なないでね。アシスタントがいなくなると私が困るから)

もしクラスメイトの少女が起きていれば間違いなく退くような怪しげな笑みを浮かべる夕映にハルナは冷や汗を浮かべながら……自身の都合を考えて心配してい た。
相手が悪い……ハルナが思うに、リィ ンフォース・夜天という人物は手段を選ばない可能性が高いのだ。
夕映が調子に乗って、懐に入り過ぎたら……蟻地獄に陥るのは間違いない。
同居人で貴重な締め切り時のアシスタントを失うのは痛いが、係わると碌でもない事に巻き込まれそうな気もする。

(ネギ君だったら、係わっても良いんだけどね〜。
 ゆえには申し訳ないけど……距離を取るのが吉でしょうね)

ハルナが見る限り、ネギ先生ならば……調子に乗って係わっても大丈夫だと思う。
何て言うか……子供だし、隙だらけで死ぬような事にはならない気がする。
対してリィンフォースを相手にするのは……怖いというか、逃げろと女の勘が警告している気がする。
普段は非情とまでは行かないが……安易に首を突っ込む連中には容赦がない可能性が高い。
静観――ハルナが選択した行為が吉と出るか、凶と出るかは不明だった。



(綾瀬サン……貴女もこちら側に来る気かネ?
 もし師父に弟子入りする気なら……ワタシ率いる悪のチームの仲間入りは確実ネ♪)

また一人、自分の側に魔法使いではなく魔導師が入る可能性が増えて超は愉快に笑う。

(サテ……どんな搦め手で悪の魔導師にしようカナ♪
 イヤハヤ……なかなかに面白くなってきたネ)

世界の真実を知れば、間違いなく夕映はこちら側に転ぶ可能性がある。
時期的には厳しいかもしれないが……リィンフォースがその気になれば速成教育で使えるようにするのは間違いない。

(って言うか……師父はスパルタ、鬼教師なのネ。
 綾瀬サンには是非ワタシと同じ目に遭て欲しいヨ)

自分と同じ境遇の仲間が欲しいと超は思う。

「超さん……何を泣いているんですか?」
「イヤ、ある事を思い出して……心の汗が出たダケネ」

いきなりブルーな空気を出す超に四葉 五月が心配そうに声を掛ける。

「……大丈夫ですか?」
「心配ないヨ。ただある人の不運を喜ぶべきか、悲しむべきか……大いに悩むけどネ」

訓練内容を思い出して、目頭を押さえながら話す超に癒すような優しい目で見つめる五月。

(綾瀬サン……貴女はイイ人だたが…………その好奇心と探求心が……ク、心の汗が止まらないネ)

「これ、どうぞ」
「ス、スマナイ」

一人涙する超に五月はハンカチを差し出して何も言わない。
本来ならば警告や注意するべきだが……、

(苦労を分かち合う友は必要ネ!!)

人の不幸は蜜の味という言葉を実践しようとする超だった。





リィンフォースと麻帆良四天王の一行は食堂車に足を運んだ。

「んじゃ、俺と大豪院はこっちに座るから」

人数の都合で二手に分かれて席に座る一行。
達也は大豪院と連れ立って隣のテーブルに陣取って注文を頼む。

「修学旅行はどうだった?」

親父みたいなノリで豪徳寺がリィンフォースに尋ねる。

「面倒な厄介事のせいであまり観光にならなかったかな?」

リィンフォースは修学旅行を思い返して答える。
ジュエルシードの回収に野を駆け、山を越え、水の中に飛び込み……古都京都の建築物を見る事も満足に出来なかった。

「…………それは残念でしたね(その厄介事のせいで……)」

慶一はリィンフォースを慰めつつも自身の不運さを痛感していた。

「ただ……」
「何かあったのか?」

先を促すように豪徳寺が声を掛ける。

「……お母さんが生きている事が分かった」

リィンフォースが漏らした小さな呟きの一言に聞いていた四人の肩が跳ねる。
茶々丸から聞いた話では、既に亡くなっていた筈だったが……生きているらしい。

「逢う事は無理みたいだけど……私が此処にいる意味が分かったし、感謝している」

寂しげな笑みを浮かべて話すリィンフォース。
実際にリィンフォースが表に出ている時は夜天は眠っているのか……何も応えない。
自分がピンチになった時だけ手を貸してくれるだけの状況がちょっと寂しいのが本音だ。

「いつか、出会える事もあるさ」
「だと良いな」

慰めの言葉など言うべきではないかとも豪徳寺は思いつつも口に出す。

「後は……卒業したら、妹を引き取ろうと思った」
「妹?」
「義理だけどね……私と同じで家族を失ったところは一緒。
 全く以って運命という奴は皮肉でしか応えてくれないわね」

明るい車内なのに暗く感じるほどに空気が重くなる。

「……帰る場所へは戻る事が出来ず、み〜んな、私を置いて去って行く。
 ゴメン、湿っぽい話になったわね」

手を軽く振って、苦笑いでリィンフォースは重くなった空気を入れ替えようとする。

「気休めかもしれんが……今は無理でもいつかまた会えるかもしれないさ」
「そうだね。可能性はゼロじゃないしね」

泣き、悲しんでいる事を感じさせずにリィンフォースは話す。
そんなリィンフォースの様子に四人は痛ましい気持ちになりながらも、本人が悲しい気持ちを表に出さないのなら気付かぬフリをしようと思っていた。

「……ところで慶一さんは何を落ち込んでいたんですか?」

話題を変えようとしたリィンフォースだが、その一言は迂闊だった。

「え゛? え、えっと……それはですねえ……」
「あ、もしかして……可愛い彼女を作ろうとしてナンパに失敗したとか?」

グサリと深く邪気のない言葉の杭が慶一の心臓に突き刺さる。

「プ、プククク……そ、そんなとこつーことで」

痛恨の一撃、もしくはクリティカルヒット……首を刎ねられたという言葉がピッタリと合いそうな意見に達也が思わず飲み始めたコーヒーを吹き零して笑い始め る。

「なんか……悪いこと聞いたみたいですね?」

ダメージが大きいのか、テーブルに突っ伏してピクリとも動かずに涙する慶一を見て、リィンフォースが申し訳なさそうに話す。

「……自業自得だな」
「ああ……慶一が悪いだけだ」

豪徳寺も大豪院も、もう面倒でフォローする気がないのか……投げ遣り気味に話している。
日を追う毎に落ち込み、そのフォローに精神が疲弊していたのだ。

(お、俺って、もしかしてアウトオブ眼中……ただのお友達!?

ようやく自分の立場を自覚した慶一だった。






「何時もこうだと楽なんだがな」

旅の疲れで眠る少女達を見つめ、苦笑しながら話す新田教諭。
鬼の風紀、もしくは学園生活指導員として恐れられている新田も今は優しく見守るように生徒達を見つめている。

「そうですね」

新田の隣で生徒達を見つめていた瀬流彦教諭も疲れ気味の様子で見守っていた。

「ところで夜天は何処に? また駅弁を買いに行ったのか?」
「……多分」

3−Aの生徒を見ながら一つ空いた席に座っていた人物が何処に行ったのか考える。

「ま、まあ彼女なら大丈夫でしょう」
「……3−Aでは比較的まともな生徒だからな」

目くじら立てるほどではないと判断したのか……それとも諦めているのか、新田は瀬流彦の意見を聞き入れて動かない。

「しかし、まあ今回の修学旅行はト ラブル続きだったな」
「……全くです」

立場上の意味合いは違うが二人とも今回の修学旅行を思い返して……意見を合わしている。
新田は生徒達が巻き起こすトラブルの 後始末に奔走し、瀬流彦はそれのプラスして魔法使いとしての仕事でも忙しかった。
今回は魔法関係の問題があったので、件の生徒以外の生徒達が巻き込まれないように気を遣っていたのだ。

「ま、麻帆良に帰れば、また忙しくなる思いますが頑張りますか?」
「そうだな。その時はまた頑張るか」

無事に修学旅行も終わりそうなので二人は安堵しつつ、少し張り詰めていた気分を緩める。
また明日から忙しくなるだろうと思うも生徒達が楽しそうに暮らせるのならそれも悪くないと思っていた。





二人の教師が微笑ましく見つめ、疲れて眠る生徒たちだが、

「う、う〜ん……リィンフォースさん、貴女は私の宿敵です……」
「……いいんちょ、勘弁して欲しいんだけど」

お茶して、帰って来たリィンフォースが心底嫌そうな顔であやかの寝言を耳にする。

「お、お嬢様……い、いけません。う、うちは……ダメですって」
「せっちゃん……あかんて、アスナよりも、うちと……な」
「……なんか、複雑な人間関係が出来そうな予感が」

刹那が木乃香に抱きつかれて魘され、木乃香は木乃香でアスナから刹那を取り戻そうとしている夢を見ている。

「ネ、ネギせんせー……」
「匂う、匂うわ……ラブ臭が そこかしこから……匂うのよ〜」
「アホですか……ふ、ふふふ、この溢れる探究心を捨てろというのですか……否、ナッシングです」
「さっさと捨てて欲しいんだけど」

図書館島探検部三人組の寝言に一抹の不安を感じ、

「フ、フフフ……我が野望をこの手に…………さあ綾瀬サン……地獄巡りをしようではないカ」
「夕映を悪の道に引き込む気なのかしら?」
「……師父は鬼ネ」
「……鬼らしく、新しい訓練メニューをプラスしようかな」

ウッカリ漏らした寝言に超の命運が 決まり、

「ダ、ダメです……わ、私には高畑先生が……で、でも渋い……」
「……はぁ、アスナ、もう少し対象年齢を下げてみてはどうかしら?」

アスナのオジサマ趣味に辟易しつつ、

「コラ、リィン、勝手に私のオヤツを食べるな……全く以って意地汚い……」
「ふ、ふふふ、リィン殿……そのミルクプリンは拙者が貰うでござるよ」
「私は意地汚くないし、茶々丸特製のミルクプリン以外はどうでもいいわよ」

龍宮 真名と長瀬 楓の寝言にちょっとお冠になり、

「リィン師父、勝負アル……」
「バトルマニアじゃないし、毎日はしないわよ」

古 菲の対戦を求める声にヤレヤレと言った表情で答え、

「……デバイスのシステムを使って……変身ヒーローユニットを………でもヒーローユニットに自爆装置を組み込むわけには…」
「そんな物騒なものに協力はしないから」
「う〜ん、G3…ファイズ……ブレイド…カブトに……電王……イクサですか……それとも宇宙刑事シリーズも捨てがたい」
「……本気なのかしら?」

バリアジャケット、騎士甲冑を構成する形で作れない事もないだけに本気かと考えてしまう。
簡単に携帯できて、瞬時に展開できる点では特撮ヒーローっぽいのは否定できない。
葉加瀬 聡美のあくなき挑戦の恐ろしさを実感しつつ……聞かなかった事にしようとリィンフォースは決意する。

「……遅かったな」
「ちょっと豪徳寺さんたちとお茶してたから。
 なんて言うか……山下さんって変な人だよね」

そう切り出して慶一の修学旅行中のおかしな行動をエヴァンジェリンに話す。

「不憫なヤツだな♪」

聞いたエヴァンジェリンは全く以って眼中に入っていない慶一の不憫さを愉快に思う。

「イイ人だけど……空回りしているって感じよね♪」

悪いとは思いつつもリィンフォースが他人事のように笑って言う。

「ク、クハハ、全くだ」
「ケケケ、空回リデ自爆ッテ奴ダナ♪」

愉快痛快とエヴァンジェリンとチャチャゼロが笑う中、

(問題ありません……山下さん、リィンさんは私が認めた方以外と付き合う事はないでしょう)

茶々丸が一人静かに決意していた。

「リィンさん、ちょっといいですか?」

そんなリィンフォース達の元に眠い目を擦りながらネギがやって来る。

「ん、どうかしたの?」
「ええとですね……図書館島の大司書長の方なんですけど、アルビレオ・イマさんですよね?」
「は? クウネル・サンダースさんだけど?」

意見が食い違うように名前の違いが二人の間に溝を作る。

「……おそらくだが、それは偽名だな」

おそらくと前置きしてエヴァンジェリンが心底嫌そうな顔で話す。

「ぼーやの父親のパーティーの面子の一人なんだよ。
 本名アルビレオ・イマ……人をからかい、おちょくる事に命を懸ける大バカ野郎だ」
「ふぅん……やっぱりそっち方面の人間だったんだ」

いつも楽しげに笑みを絶やさずにいるも、何か不自然というか……観察されていたのを感じていた。

「道理でエヴァの事を聞きたがるわけだ。
 多分、からかうための材料集めをしてたんだ」
「……間違いないだろうな」

苦々しい表情でエヴァンジェリンが肯定する。

「でも、あの人、相当ダメージがあるのか……魔力で作った身体で生活してたよ。
 多分、本体というか、身体の回復が終わるまでは魔力に満ちた場所から動けないのは間違いないね」
「いい気味だ……そのまま棺桶に入っていれば良いものを」

クククと笑みを漏らしながらエヴァンジェリンが本当に残念そうに言う。

「……そんなに苦手なの?」
「天敵ッテ野郎ダナ」
「そんな方がいたんですか、姉さん」
「アア、相性ノ悪サデハ世界デ一番ダゾ」

この中で一番の古株のチャチャゼロが補足説明する。

「あ、あのリィンさん」
「何、ネギ少年?」
「図書館島の最深部なんですが……」

若干口篭りながらネギが本題に入る。

「案内ならしないわよ。あそこは実力で強引に入るか、クウネルさんの許可した人物以外は進入禁止地区だから」
「そ、そうなんですか?」

リィンフォースが話す内容にネギは腕を組んで考え込み始める。

「リィン、ぼーやが最深部まで辿り着ける可能性はどうだ?」

エヴァンジェリンの問いにネギは真っ直ぐにリィンフォースを見つめる。

「ゼロね」
「そんな〜〜」

一秒のタイムラグもなく、即座に告げる言葉にネギが情けない声で抗議する。

「無理っすか?」
「無理ね」

カモが再度確認するもリィンフォースはハッキリと無理と決め付けて告げる。

「で、でも! やってみなくちゃっ「だから、見習い程度の実力では死ぬのよ」……」

諦めきれないネギが叫ぶのを遮ってリィンフォースが言い聞かせる。

「あそこは正攻法で地下に潜れば、潜るほどに危険度が跳ね上がる場所なの」
「そうなんっすか?」
「裏技使えば、ある程度は回避できるけど……ネギ少年が良しとするかしら?」
「……兄貴なら馬鹿正直に進むだろうな」

何となく図書館島の全容を理解したカモが納得する。

「魔法使いの訓練場も兼ねているんっすね」
「そ、下の階層に潜れば、戦闘訓練が出来るからね。
 ちなみに図書館島探検部は裏技で出来る限り戦闘を回避して潜っているわ。
 ネギ少年が潜るのならマッピングから始めないとね」
「そうだな……地図もないのに最深部まで行こうとしても迷子になるだけだな」

リィンフォース、エヴァンジェリンの意見にカモは頷き、

「兄貴、潜るんなら装備を整えてマップ作りから始めようぜ」
「そ、そうだね……それしかないか」
「のどかを連れて行くのは止めときなさい……アスナもだけどね」
「聞く限り、一般人に毛が生えた連中を引き連れていくのは自殺行為だぞ、ぼーや」

警備上立ち寄ったり、足を踏み入れなかったエヴァンジェリンが師の立場からネギに注意する。
手持ちの材料が殆どなく、一から用意しなければならないとネギとカモは判断した。

「ちなみに最後の門番はワイバーンだ から」
「「え゛?」」
「ほう、そんなのが地下にいたのか……今のボーヤじゃ間違いなく死ぬな」

リィンフォースから聞かされた事に絶句するネギとカモ。

「フ、フル装備で行ったら勝てるかな……?」
「ぜってぇ無理だと思うぞ、兄貴」

最後の門番がドラゴンと聞いて、流石の突貫思考のネギも迷いが生じる。

「ジジイも私に黙っているとはな……イイ度胸だ」

ナギの手掛かりを探していたのを知っているくせに近衛 近右衛門が黙っている点にエヴァンジェリンが立腹している。

「要は何かしらの情報を得て、エヴァが強引に外に出ようとするのを回避したかったんじゃないの?」
「……否定はせんよ。だがな、与り知らぬところで好き勝手されると腹が立 つんだぞ!
 特にアイツは人をおちょくる事ばかりのろくでなしだ!
 私が呪いで困っているのを笑って見物していたんだぞ!」

「ネギ少年のお父さんの仲間って……マトモな人いないんだね」
「そうだ! 能力はトップクラスだが、頭の中身はノーテンキな奴らばっか りだ!」
「…………(父さんの仲間って、英雄なんだけど……)」
「…………(兄貴……遠くから見るのと近くから見るのは見方が変わっていくもんっすよ)」

激昂するエヴァンジェリンを見ながら、ネギはカモと小声で父親の仲間について囁き合う。

(ちなみにマスターもその一人に入るのでしょうか?)

茶々丸は自身のマスターであるエヴァンジェリンもナギ・スプリングフィールドの仲間の一人なのかと考えている。

(……ウッカリなところを鑑みると、否定できません。
 せめて、リィンさんにはそんなところを真似させないように注意して見守るべきですね)

そのままエヴァンジェリンによって、ナギ・スプリングフィールドの秘話が暴露され……少年の心にダメージが刻まれる。




列車は走る。


一行は無事任務を終えて麻帆良学園へと帰還する。



……そして、また新たな日常を迎える。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ようやく修学旅行編が終わります。
若干日常編を入れてからヘルマン編の予定です。
ちなみに日常編でオリキャラが出ます。

それでは刮目して次回をお持ち下さい。




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