山下 慶一は今……世界の不条理さを恨んでいた。

(な、何故なんだ―――っ!?
 こ、こんな事が許されても良いのか!? 否!! 断じて認めん!!)


慶一にとって、週に三回の合同稽古は至福の時間のはずだった。
数少ないリィンフォースとの接点で楽しい時間を送るはずなのに……、

「お、姫さん……また一段と腕を上げたな」
「そ、そう? ま、時間を作っては、茶々丸に作り方を教えてもらったからね」
「はい、リィンさんはスジが良いので教え甲斐があります」

ソーマと名乗る謎の人物がよりにもよって……リィンフォースの手作りサンドイッチを食べている。
自分だって、まだ食べた事がないのに……ポッと出の男がいきなり美味しく頂くなど言語道断!!

「理不尽だ、ああ理不尽だ、不条理だ、ああ理不尽だ、ああ不条理だ……」
「……五、七、五、七、七だな」
「結構、余裕っぽくねえか?」
「情けないな」

豪徳寺 薫、中村 達也、大豪院 ポチの三人が呪いの言葉を吐いている慶一の様子を冷静に見つめて話している。

「リィンちゃんって……罪作りよね?」
「そうかもしれませんが、気付いているんでしょうか?」
「1、眼中に入っていない。
 2、天然?
 3、知っているけど……好みじゃないからパス?」

朝の新聞配達の後の稽古でこの場にいるアスナと刹那に臨時で参加しているまき絵が意見を述べると、

「……どれも当たりのような気がしないわけでもない」
「俺は天然に賭けても良いぜ」
「俺は1だと思うがな」
「私は渋い人が好みかなと思うんだけど?」
「いえ、そうじゃないでしょう。リィンさんは実力の有無をまず最初に当て嵌めるはずです」
「渋いって、アスナじゃないんだから」

六人の男女が顔をつき合わせてリィンフォースの好みの男性について語り合っている。

「でもさー、ソーマさんって……渋くない?
 何ていうか、若く見えるけど……裡から滲み出る渋さってイイ感じなのよね。
 まあ普段は周りに合わせているのか、ちょっと軽いのが偶にキズだけど」
「歴戦の戦士という表現の方が良くないですか?」
「ちょっと怖く見えるって感じじゃないの?」
「そっかな〜。高畑先生とは違う人生の苦味を知っている男って思うんだけど」
「違いますよ。一本強靭な芯を持っている武士(もののふ)です」
「危ないお兄さんじゃないのかな〜? 触れたら切れるぜって感じ?」

最初に会った時の印象の違いで三人の意見が合わない。

まき絵から見れば、ネギ君をイジメる嫌な大人。
アスナが最初に思ったイメージはハードボイルドな硬さを持ちながらも、話の分かるノリの良い人。
刹那が手合わせして感じた印象は、隙だらけに見えるのに隙がない……常在戦場を心に刻んでいる自分 よりも格上の双剣使い。

「で、薫ちんはどう思うよ?」
「今の俺の力では……勝てなさそうだ」
「うむ、彼女と会ってから自身の未熟さを痛感しつつ……まだ限界が先にあるのが分かって感謝している」
「いや、そっち方面じゃなくて……慶一に芽があるかだよ」
「「知らん。俺の得意分野じゃないんだ(ぞ)」」

きっぱりと知らないと告げる二人に達也は、味方のいない慶一の命運がそう遠からず尽きる事を予感していた。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 三十八時間目
By EFF




「ところでさー、ネギ君が来てないのはどうして?」

てっきりネギも参加していると思っていたまき絵は不思議そうにアスナに聞く。

「それがさー……自分の手の内を見せたくないって言って、小太郎と古ちゃんと別の場所で猛特訓中なのよ」

ガキっぽいと言うか、ソーマと顔を合わしたくない感情をネギは顕にして朝からエヴァンジェリンの別荘を借りて、古 菲を巻き込んで特訓している。

「へ〜、ちょっと残念。せっかく差し入れ持ってきたのに」

頑張るネギの為に眠い目を擦りながらお弁当を用意したまき絵は残念そうに話す。

「……いや、差し入れはイイんだけど……ボリュームありすぎ」

気合が入っているのが丸分かりになってしまうほど……そのお弁当は量が多すぎた。
少なく見ても……五、六人前は優にありそうなお重のお弁当にアスナの頬は引き攣っている。

「そっかなー?」
「いや、まあ……(悪気があるわけじゃないから困るのよね)」
「朝からそれでは……動けなくなります」
「え゛?」
「いえ、ですから……適量にしてあげて下さい」

アスナの困り果てた顔を見ていた刹那がフォローに入ったが……ストレートすぎてまき絵が凍り付いていた。
言った刹那も若干言い過ぎたと判断して、申し訳なさそうな顔でお願いしていた。

「まあ、今日の放課後からは引っ張ってくるから……多過ぎず、少な過ぎずでね」
「オッケー♪」

とりあえず、まき絵の暴走によるネギぽっちゃり増量事件は一先ず回避された。
ちなみにお弁当の中身はこの場にいる者達のお腹の中に入って行った。




南の島を思わせる暖かな朝の陽射しを受けながら犬上 小太郎はネギに告げる。

「サイッテーでもこれは絶対に覚えんと話にならんで」

白い砂浜の波打ち際に立って瞬動法をネギに見せる。

「確かに縮地は必要アル!」

ネギと一緒に見ていた古も感心するように何度も頷いている。

「ちなみにソーマの兄ちゃんも使えるで」

小太郎の口からソーマの名が出た途端にネギの目が鋭くなる。

「ま、基本はまず足に気を……じゃなかったネギの場合は魔力やな、それを集める」
「……こうかな?」

小太郎の言うように、ネギは自身の右足に魔力を集めてみせる。

「そや……ほんで集めた力を爆発させて一気に加速すんのや。
 ま、とりあえず一歩目は海に向かってや!」
「う、うん! てぇェェェ――――!!??」

小太郎の指示を疑う事なく受け入れてネギは加速して動くも、止め方を聞くのを忘れていたのを思い出したのは海に……ダイブした後だった。

「分かったか、ネギ。瞬動法のキモは加速して……その後の急停止なんや」
「なるほど、確かに飛ぶのは簡単アルが、止まるのはもっと大変アル」
「ヒ、ヒドイよ! 小太郎くん!!」

ネギはずぶ濡れになった頭をタオルで拭きながら小太郎に抗議する。

「そう言いないな。ネギは練習場所に恵まれとるで。
 ここがアスファルトやったら、擦り傷やのうてもっと大きい怪我しとるわ」
「う……そ、そうだね」
「そうアルな」

小太郎の言い分にネギも古も周囲を見渡して納得している。
衝撃を吸収し、怪我をしにくい砂場に水辺ならば、失敗しても大怪我をする可能性は小さい。

「感覚的なもんやから……こればっかりは身体で覚えんとな」
「うむ、ガンガン海に飛び込むアル!」
「ええ――――ッ!?」

海へのダイブを奨励する二人にネギは何か失敗した気分にさせられていたが、

「できひんかったら、まず勝てんやろうな」
「うむ、これは勝つ為に必要な事アル!」
「う、うん! 僕、必ずマスターします!!」

どうしても勝ちたいという気持ちがネギの中にある。
父――ナギ――をバカにした訳ではないみたいだが、どうしても言われた事を否定したい気持ちが胸の中にある。
砂浜をしっかりと踏みしめて……瞬動法を会得するために前を見据える。
そこには、ネギにしか見えないソーマの姿がある。

(必ず……勝つんだ!!)


「おっ! 気合十分やな!」

ネギが真剣な表情で練習を再開するのを小太郎は楽しそうに見ているが、

「……入れ込みすぎアル」

同じように見ている古は心配そうに見つめている。

「気持ちだけが急いている。マ、才能はあるから覚えるが……本番で空回りしないといいアル」
「あー、そうやな」

古の言い分も理解できるだけに小太郎も表情を引き締めなおす。

「でもなー、口で言うて聞くタイプか?
 なんとなく、頑固で融通の利きそうにない感じもするで」
「……頑固な部分は大いにあるて、アスナが言てたよ」

一番ネギの近くにいるアスナの意見だけに古も小太郎も苦笑いしている。

「後は自分で気付くしかないやろな」
「戦いとはそういうものアル。どんなに仲間が強くても……どうしても一人で戦わないとイケない時もアルネ」
「そやな」

仲間に頼りきりでも不味いし、仲間を信頼しないのも正しいとは言えない。
どうしても譲れない戦い――自分自身の手でカタをつけたいケンカもある。

「……勝てへんかもしれんなー」

小太郎はネギが気負い過ぎで空回りして……自滅する光景が頭の中に浮かんでいる。

「それも……強くなるために必要なことアル。
 今回はそういう意味でもネギ坊主にとては大事な試練の一つネ!」

古にしてみれば、今回の試合は実戦ではないので……負けても良いかとも考えている。

「……ネギ坊主はここまで挫折するようなことがなかたアル。
 負ける事で……知らなければならないことを分かれば、次に繋がるヨ」

才能溢れるネギだからこそ、どんな時も上手く行って……自分は失敗しないなどという甘い考えを持つかもしれない。
世の中は成功ばかりするわけではなく、時には失敗することだってあると知って欲しい。
失敗を糧に更なる強さを得られれば、もっともっと強くなれる。
必死に瞬動法をマスターしようと頑張るネギを古は温かく見守っていた。




リィンフォースに付き合って、朝の練習に参加していたソーマは見慣れないまき絵に声を掛ける。

「よぅ、嬢ちゃん。それって踊りなのか?」
「へ? 新体操を知らないんですか?」

近くでソーマの質問を聞いていたアスナがちょっと驚いた様子で聞き返す。

「ああ、俺は……色々あってな。世事に疎くなっちまったんだよ」
「そうだったんですか……道理で色々不慣れに見えたわけですね」

刹那がソーマの日常生活の不慣れさを納得して頷いている。
実際に自動販売機の前で悩んでいる姿を見たし、缶ジュースの開け方が分からずにリィンフォースに聞いていた。

「なげえこと山ん中で修業していたからな(実際は寝てたんだが、まあ時々目を覚ましてはごく稀に通りかかる人間を見てたが)」

一応神でもある鬼神リョウメンスクナを完全に封じる事など人の身では難しい。
山に封じられていたのは別段やりたい事もなく、動きたくなれば内側から封印を解き放てば良いと思っていただけなのだ。
今更だが人に使役される気もないし、勝手に封印を解いてそこらにいる鬼神兵と同格に扱おうものなら話は別だった。
召喚者との契約の繋がりを以って……こちらの破壊衝動を見せ付けて自滅させようかとも考えていた。
自分を使役するからには相応の力と揺るがない心胆がなければならないと常々思っていた。
安易に自分を扱き使おうものならしっ ぺ返しの一つや二つは当然だと判断し、人が自分の精神に触れて自滅するのを見ようと山の中で楽しみにしていたのだ。
そんな理由で眠っていたが、時折起きては精神体を山に浮かばせて人を観察していたのは退屈しのぎだった。
もっとも人里離れた山の中に来る者など猟師や修業を行う武芸者や修験者ばかりだった。

「「へー」」

アスナが感心で、まき絵が呆れたという感じの声を出す。
山に篭って修業という行為など、今時の女子中学生にはバカみたいに思えたかもしれない。
だが、一心不乱に励む行為自体は悪くないとも思っているみたいでもあった。

「ま、見る限り……色気が 足りねえな。
 こう目を惹きつける艶ってもんが……まだまだだな」
「う!…………や、やっぱり〜〜」
「ま、まき絵ちゃん!? ど、どうしたのよ?」

がっくりと項垂れて落ち込むまき絵にアスナが焦ったように近付いて聞く。

「う、うぅ……実は…………」

涙目でまき絵はコーチに言われたことを話していく。

「あ〜〜ま、まあ……まき絵ちゃんの良いとこは……」
「ま、そうだろうな。お嬢ちゃん……惚れた事ねえみたいだし」
「……惚れる?」

今ひとつ意味が分からずに首を捻るまき絵にソーマが話していく。

「女が色艶を 得るにはそうだなぁ……誰かを好きに なるっていう感情が必要なのさ」
「……なるほどね。まあ意味は分かったけど」
「見た感じで悪いが、嬢ちゃんは……男を本気で好きになった事ねえだろう?」
「う゛…………」

ソーマの指摘にまき絵は痛いところを突かれたのか……口篭る。

「ぶっちゃけ男と寝るだけじゃ……足りねえな。
 狂おしいまでに人を愛するって感情までは行かなくても、好き以上の気持ちがねえとダメだぜ」

三人は何か思うところがあったのか、それぞれ考え込むように黙り込む。

(う〜ん、これってすんごく難しいかも。あ! でもネギ君は結構イイかな〜とは思っているんだよね♪)
(好き以上か……そういうのって理屈じゃないから難しいもんね。
 私もちゃんと高畑先生に告白できたらな〜)
(お嬢様がいなくて良かったと言うべきだろうか?
 もし居られたら……うち、せっちゃんのこと好きやえ〜とか言われて困っていたかも)

三者三様に自分の身の回りの事を頭に思い浮かべて苦笑いしていた。





朝の練習、そして着替えて登校、午前の授業を無事に終了したアスナ達はランチタイムを楽しんでいた。
ただし、ネギは雪広 あやか達のグループに引っ張られるように連れて行かれたが。

「ねえ、古ちゃん。ネギの様子はどう?」
「う〜ん、気合は十分アルが……入れ込みすぎな感じだた」

別メニューで練習していたネギの様子を心配して監督していた古に聞いて……顔を顰めている。

「……やっぱり。あいつってば、お父さんのことになるとな〜んか目の色変わるのよね」

憧れなのか、お父さんの事になると視野狭窄気味のネギの様 子に呆れながらもアスナは心配している。

「でも反則気味みたいに才能はあた! 正直なところ羨ましいアル」
「そうなん?」
「うむ、普通は一ヶ月は掛かるはずの技だたが……三時間で覚えたアル」
「それはまた……羨ましいですね」

少し嫉妬したくなるような成長速度に刹那の口からはため息が一つ出ていた。

「……それでもソーマさんには厳しいアル」
「そりゃ、まあ……リィンちゃんの仲間だもんね」
「そやな〜」
「ですが、そのおかげで危険な場所に足を踏み入れるのを……遅らせる事が出来ました」

ネギの性格から、踏み入れないという言葉を外した刹那。
もし、今回の一件がなければ、一人で図書館島の最深部へと行っていた点を考えると悪くはない。

「もうちょっと早足で駆け出さないで、歩けば……楽なのにね」
「才能あるのがええとは限らへんちゅうこと?」
「そうかもしれませんね」

才能溢れる事が悪いわけじゃなく、ただ常人とは違う早さで歩くのが……幸せになれるのか?という点が心配なのだ。
……周りが追い着けずに、気が付けば独りぼっちになる事だけがネギの幸せになるのかが不安だった。

(もう! なんで心配しなきゃなんないのかな!)

気に喰わない嫌な奴ならば……心配などしないが、生憎と悪い奴じゃなく一生懸命に頑張っているから……捨て置けない。
大本命の高畑には何も出来ないのに、どうしようもなく気になってしまう感情にため息が零れる。
アスナは自身の感情を持て余し気味だった。




一方、あやかに引き摺られるようにランチタイムを取る破目になったネギは、

「ネギ君、勝てそう?」
「え、ええと……「ちょっとまき絵さん! 私がお誘いしたんですから!」
「まあまあ、固いこと言いっこなしで」

あやかを押し退けて、質問するまき絵に途惑っていた。
詳しい事情を説明したわけではないが、今週末の試合に掛ける意気込みはまき絵には知られている。
アスナが言うには、心配していた様子で今日の朝練に加わっていた。

「とりあえず勝つ為に頑張りますよ」

心配しているまき絵を安心させるために笑顔を見せるネギだが、小太郎からの話を聞く限り……勝ち目は薄いらしい。
それでもこの試合の結果如何で図書館島最深部へ入る事が出来るかもしれない以上は負けられないのも事実だ。
朝の練習では何度も海へと飛び込んで、瞬動法のコツを身体に覚えこませていた。

(うん! 瞬動法の目処は立ったし!)

少なくとも動きについて行けるだけの技はモノに出来た。
後はその技に磨きを掛けて、連続で出来るようになって攪乱できれば……一撃くらいは当てられるかもしれないと小太郎は言っていた。

「おっ! 気合十分だね、ネギ君!」
「はい!」
「まき絵さん! な、何の話なんですか!?」

蚊帳の外に置かれていたあやかがまき絵に抗議してくる。

「フフン♪ ネギ君ってさー、古ちゃんに弟子入りして頑張っているの」
「そ、そうなんですか?」

初めて聞いたネギの弟子入り話にあやかが知らなくてショックを受けていた。

「あ、はい。リィンフォースさんが古 菲さんを紹介してくれたんです」
「そ、そうですか(リィンさん、古さんに武術を教える役目を任せるなら、 何故私にしてくれないんですか!?)

自分も護身術として柔術を学び、アスナと同じくらい強いのだ。

(わ、私だったら、手取り足取りみっちりと優しく教えて差 し上げるのに!!)

自分が古 菲に劣っているのなら仕方ないとも思えるが……ネギへの愛ならば誰にも負ける事はないと断言できる!

(や、やはり、リィンフォースさんは私の天敵かもしれ ません!!)


「あ、あの……僕、何か変な事を言いましたか?」
「さあ? 別におかしな話をしてないと思うけど……」

何故か怪気炎ら しいものを立ち上らせているあやかの様子を不思議そうに見るネギとまき絵。
悪意があったわけでもないし、間違った事を言ったわけでもない。
しかし、着実にあやかとリィンフォースの関係に不穏な空気が出ているのは紛れもない事実だった。




放課後、世界樹が後ろに見える広場でネギ達は練習に励んでいる。

「あ、ああ――――ッ!!」

部活を終えて、友人達と見物に行く破目になった釘宮 円は広場に着いて、ソーマを見て……叫ぶ。

「ソーマさん、何かしたの?」
「さあ? 僕にはとんと覚えがないね。もしかしたら……の知り合いかな?」

サングラスを掛けて、いつもとノリが違うなと感じていたアスナが聞くも、ソーマは首を捻って覚えがないと言う。

「赤って誰?」
「言ってませんでしたね。実は僕達、一日おきで身体を使っているんです」
「へ?…………何、それ?」

訳が分からないアスナ達の前でソーマはサングラスを外すと、

「あれ? 赤じゃない……しかも左目が青じゃない!」

アスナが少し驚きながらソーマの状態を話すと別人かと思って一同が首を捻っている。

「ま、二重人格みたいなものだと思ってくれると助かるね。
 僕の名前はソーマ・(しょ う)、今後は間違えないように気をつけて」

納得できるような、出来ないような顔で青の話を聞いているアスナ達。

「そういうこった。ま、よろしくな」
「は、はぁ……」

一瞬ではあるが、瞳の色が変わり……赤が表に出てくるとアスナ達はマジだと知って途惑いを隠せなかった。

「くくく、なかなかに面白い顔に変わったねぇ♪」

ドッキリが上手く行ったのが楽しいのか、青は口元を軽く歪めて笑っている。
そんな青の様子に一同は思う……もしかしたら青い方は学園長みたいに人をからかう事が大好きなタイプかもしれないと。



釘宮 円は説明を聞いて……非常に複雑な表情で考え込んでいた。
偶々昨日の夕方はいつもの面子とは別行動していたせいで、ガラの悪い五人組に絡まれて困っていた。
思い出す限り、あれはナンパというよりも無理矢理に連行するような自分の都合だけを優先する最悪な連中だった。

「盛るのも構わんが、もう少し気の聞いた 言葉を出して口説けよ、猿ども……あ、でも猿の方がマシか」

円が困っているのを分かっていても、ちょっとヤバいから遠巻きに見ていた人達の中から現れたのが……ソーマ・赤。

「なんだ、テメーは――ブベッ!!

まっすぐに足を高めに突き出して、顔面にヒットさせて地面と接触させる。

「靴越しとはいえ……心の卑しい連中に触るのは自分も汚れそうでヤダぜ♪」

グリグリと足を顔に押し付けて楽しげに笑う。

「嬢ちゃん……さっさと向こうに行きな」「え?」
「テメェ――ゴハァ!!

慌てて赤を退かそうとする連中の一人に腕を振るって、手の甲で吹き飛ばす。
その空いた隙間に身体を潜り込ませて、取り囲んでいた連中の輪から円は飛び出す。
そのまま円は逃げる事もできたが、自分の所為で迷惑を掛けたのが気に掛かり……少し離れた場所から見ていた。

「テメェ!! 死にてぇのか!?」
「ヒーロー気取りなら痛い目見るぞ!!」


頭に血が昇ったのか、血走った目で赤を睨みつける男達。
周りで見ていた者達も巡回しているはずの指導員を探して……止めるべきかと思い始める。

「痛い目ねぇ……しっかし、まあ、なんていうか……「うるせぇっつってんだ!!」

まるで意に返さずに殺気溢れる連中を前に自然体で赤は立っている。

「ちょうど良いか……実のところ、あのお嬢ちゃんを助けるために割って入ったんじゃねえんだよ」
「なんだと!?」
「うちの姫さんに言われてな……手加減攻撃の練習をしてこいってさ。
 骨を砕くのは構わないけど、死なない程度に抑えろってお願いされたんだ」
「ふ、ふざけんな――ぐへっ!!

意味の分からないことを言われた男達が怒鳴ろうとした時、男の一人が宙を舞う。
二メートルほど宙を舞い、うつ伏せになって地面に叩きつけられた男はピクリとも動かない。
ただ徐々に男の顔の辺りから赤いものが零れだして水溜りのように広がっている。

「ふぅん。これでも手加減したんだが……ま〜だ威力があったのかよ。
 近頃の人間は存外に脆いんだな。ま、顎が砕けた程度なら……死なねえか」
「テ、テメェ――ッ!!」

仲間の一人がやられた事を知った男達が慌ててバタフライナイフなどの得物を出そうとしたが、

「ガッ!!」「グハッ!!」「ギャァ!!」

一気に接近した赤が周囲には見えないほどの速さで男達を吹き飛ばしていた。

「な、ななな!?」
「後はお前さんだけだな……どんな吹き飛び方が望みだ?」
「う、うわ―――っ!?」

たった一人になって仲間達を置き去りにするように赤に背を向けて逃げ出そうとするが、

「ったく……それでも男かよっと」

逃げ出す男の背中を呆れながら見つめて、赤は腰を落として拳を腰に引きつける。

「小物相手に見せるのもなんだが……ま、これも有りだな」

力を溜める体勢から放たれた拳から周囲には見えない衝撃波らしい物が飛び出して逃げる男の動きを止める。
何をしたのか分からない様子で見つめていた者達だったが、しばらくして男がゆっくりと倒れていくのが目に入ってくる。

「ま、聞こえちゃいないと分かっているが言っておく。
 あんまり卑しい事ばかりしていると……が腐っちまうぞ。
 せっかくこの世に生を受けたんだ。を輝かせるようなそん な生き方をしてみるんだな」

男が倒れるのを知っていた赤はあっさりと背を向けて歩き出していた。
見物していた者達はちょっと呆気に取られたような気持ちで立っていた。

「……え、ええと、お礼言うの忘れてた」

これが釘宮 円とソーマ・赤の出会いだった。




「へ〜、そんな事があったんだ」

アスナが感心するように話すが、聞いていた刹那は複雑そうな表情になっていた。

(て、手加減攻撃って……いや、まあ……殺しちゃ不味いのは確かなんですが)

一般人を相手にする場合の練習とはいえ……良いのか、どうか判断に苦しむ。
もっとも木乃香に同じような事をすれば、問答無用で斬る刹那が悩むのは色々物議を 醸し出すかもしれないが。

「ダメだな〜赤は。せっかく可愛い女の子と知り合えたチャンスを棒に振るなんて」
「うるせえよ!」

青の物言いに赤が強引に表に出て叫ぶのを見た円の頬が引き攣っている。

「ハ、ハハ……なんなのよ(結構不良っぽくってイイかな〜と思ったのに)」

ちょっと悪っぽくて好みだったのに円は肩透かしを受けた気がしていた。
見た感じは二十代くらいで少し年上な気がしないわけではなかったけど……助けてもらったはずだった。

「へ〜二重人格って初めて見たよ〜♪」
「そ、そうね……」

椎名 桜子は楽しそうに珍妙な人を見るようにソーマと見つめ、柿崎 美砂は円の恋愛運波乱万丈さに同情中だった。

「え、ええと……昨日はありがとうございました」
「悪いね。それは僕じゃなくて、明日にでも赤に言ってくれないかな」
「は、はぁ……」

お礼を言うも別人格である青には言われる筋合いもなく、ちょっと困った顔で円に告げていた。

(いやいや、これは結構面白い展開だね〜)
(なに言ってやがんだ?)
(鈍感なケンカバカにはわからないだろうね〜)
(ケッ! この陰険な策士が!)
(何を言うんだい。頭を使って調子に乗っているバカな敵を罠に嵌めるのが面白いんじゃない♪
 言いかい、わざとやられた振りをして……調子に乗るバカが慌てふためく姿というのは滑稽なんだよ)
(そんなつまんねえ戦い方よりも殴りあう方が楽しいぜ!
 男と男の戦いって奴は拳に魂を込めて戦うもんだぜ!!)
(……ふぅ、それは赤の好みであって、僕の趣味じゃないね。
 まあ、お姫様が綺麗に分割したのが良かったのやら、悪かったのやら)
(はん! そんなの決まってんだろ……こうして自由に動けるのに文句を言うと罰が当たるぜ!)
(ま、否定はしないさ。お互いのやり方に関しては邪魔しない程度にね)

頭の中でいつもの議論を行い、いつも通りの干渉不可(口出しすんじゃねえ!)の結論に到達する。
なんだかんだ言って元が同じなので互いの主張を認めつつ、自分のやり方の方が楽しいと言い合っているだけだった。




ソーマが脳内会議を行っている時にネギが尋ねる。

「と、ところで僕って……どちらを相手にすれば良いんでしょうか?」

二重人格とい うものを初めて見て、ちょっと吃驚しつつ……対戦相手の確認を取る。

「それなら赤のほうだよ。僕は君みたいな未熟者の相手をするほど暇じゃないし」
「なっ!?」
「どうせ戦うんだったら……それなりに楽しめる相手じゃないと面白くないからね」
「む、むむむ……」

明らかに相手じゃないと言われてちょっと不愉快な様子のネギ。

「はぁ……(悪気があるとは思わないけど、いや、多分ネギをからっかっているのかな?)」

挑発しているのかと勘ぐりたくなるような青の話し方にアスナはため息を漏らしている。

「そういや……古 菲って娘さんは居ないのかな?」
「へ? く、古ちゃん?」
「何アルか?」

青が周囲を見ながら古 菲を探していた。

「……修学旅行の時に手を借りただろ。
 うちの姫さまが、その礼に使えそうな技を伝授してあげてとお願いされてね」
「ホォ……それは嬉しいアル♪」
「赤が小太郎って坊やと遊んでいるから代わりに僕が教えてあげる。
 これはね、仙術気闘法っていうとても珍しい気功法みたいなものさ」
「仙術気闘法アルか……」

古 菲が初めて聞く武術の名前に興味が湧いたのか耳を傾ける。

「内なる気と外から取り込む気を独特の呼吸法で体内で混ぜるというか、一つにするのさ。
 仙人が不老不死なのは内と外の気を無駄なく調和させるからという説があって……ね」
「フム、フム……何となく分かるアル」
「ま、これを覚えたから仙人になれるんじゃないけど……呼吸法だけだから、今使っている武術をそのまま使える利点がある」
「それって、気と魔力を混合させる咸卦法ではありませんか?」

隣で興味があって聞いていた刹那が質問してくる。

「あれは外で混ぜて一時的に強化しているだけでしょう。
 しかも時間切れになったら一々混ぜ直す面倒が掛かる不具合があるけど、これは常に呼吸する事で体内で循環させる技だよ」
「……制限なしって事ですか?」

初めて耳にした独自の呼吸法に刹那は吃驚している。

「そうでもないさ。呼吸法だから呼吸が乱れると中に蓄えた力が切れると衰えてしまうね」
「なるほど……便利なように思えたのですが、意外な盲点がありました」
「まあ体内に蓄積できるからすぐに切れるってわけでもないけどね」
「逆に言えば、息を乱されなければ……効果は持続するアルな!」
「そういう事だよ。使い時は自分で考えるとして、練習してダメだったら他のを教えよう。
 体質っていうか、向き不向きがあるらしいから試してみないと判らない。
 ま、体質的に無理なら、そのときは別の技にしてあげるさ」
「楽しみアル♪」

上手く活用できるかはこれからの修行に掛かっているが、才能という点ではこの場にいる者達に劣っているわけではない。
今の自分の技を活かして全体的に強化できる可能性を秘めた力が手に入ると古は考えて素直に喜んでいた。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

新キャラ、ソーマによるネギパーティー強化が始まります。
まあ、これもアリと言う事でお願いします。
ちなみに強化されるのは小太郎と古 菲の二人がメインです。

それでは次回も刮目してお待ち下さい。

追伸
今、読者の皆様の間で問題提議が起きているリィンフォースの名前ですが、これには意味があります。
娘リンフォー スと母リン フォースとこのSSでは別人として扱っていますので、一部読者の皆様を混乱させて申し訳ありません。
色々伏線とかがあるので詳しく説明できず……申し訳ない(ツッコミはしないでください)




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