「よし小僧、準備は出来たな?」
「はい!」

別荘から外に出たネギにソーマ・赤が声を掛けるとネギは気合十分で返事をした。

「夕映の嬢ちゃん……小僧のお守りは任せるぞ」
「分かったです」

ネギの隣に立っている綾瀬 夕映にも声を掛け、

「うちらの方は心配せんでもええよ」
「お嬢様は必ず救います!」

淡々と話す天ヶ崎 千草とは対象的に何処か決死の覚悟を秘めた空気を滲ませて桜咲 刹那が言う。

「そう意気込むな……そんなに硬くなったら、小僧の二の舞だぞ」
「「うっ!!」」

ヘルマン相手に暴走したネギを揶揄するソーマ・赤にネギと刹那は声を詰まらせていた。

「やっぱ心配やし……俺も行くで!!」

そんな二人の様子を見て、一応秘薬を飲んで回復した犬上 小太郎が叫ぶ。

「流石に大技使う千草姉ちゃんの護衛が式神だけちゅうのは不安やしな」

千草の実力を不安視しているわけじゃなく、術を行使している間の無防備さを恐れている。

「ホンマはネギの手助けをしたいんやけど……」
「それはダメです。おそらくですが、アスナさんの力を利用されている以上……」
「わーってる。アレやと……役に立たへん事はないけど、不利なんはわかってる」

夕映が言葉を濁して小太郎の助力を断るが、小太郎もまた自分の不利を理解しているので手を振る事で言わせない。

「アンチマギリングフィールド……か」

別荘内で夕映が見せたAMF(アンチマギリングフィールド)の恐ろしさを千草もまた理解している。

(はっきり言うて……洒落にならんわ)

フィールド系魔法ではあるが、限定された空間内での魔法の使用が著しく制限される結界は初めて見た。
魔法が使えないようにする建造物などは知っているが、そんな建物には壁一面に呪文を刻み込んであるのですぐに判る。
しかし、夕映が使用した魔法は最初こそ魔法陣があったので何らかの魔法である事は判断できたが……フィールド内に入り込んでみるまではその効果が理解でき なかった。

(……気も減衰されてしまうんやな)

外に放出される気でさえも……霧散されていく光景に魔導師の怖さを実感する。

(アスナはんもえらい力を……持たされたもんやな)

魔法使いの天敵と称される"完全魔法無効化能力"。
その力故に保護されたはずの人物を再び利用しようとする魔法使いの汚さには……反吐が出そうになる。

(何が"マギステル・マギ"……正しき魔法使いなんやろか?)

リィンフォースから話を聞くかぎり、神楽坂 アスナという名前さえも本名ではないかもしれないらしい。
家族、故郷、友人やら……全てを消し去って、健やかな時間を送らせていたのに…………再び係わらせようとする。

(所詮西洋魔法使いは……この世界には不要な存在なんやな)

影でコソコソと蠢いて、さも平和を守ってますと自慢している愚か者というのが千草が下した評価。

(うち個人としては木乃香や刹那を巻き込まんといて欲しいわ)

二人とも純粋で好ましい性格だから、千草としては今しばらくは争い事には係わって欲しくない。
子供が子供のうちに裏の汚いものを見せるのは大人として自身の力が足りないからだと責められているような気がする。
自身が恨み言を呟きながら世界を呪っていた頃を思い出すと……世界の理不尽さを痛感する。
どんな綺麗な事を主張しても、結局は力が無ければ……戯言にしかならない。
魔法使い達がこの世界の裏側で好き勝手しているのも、彼らにそれなりの力があるからだ。

(……紛争地帯で活動して人を救って自己満足すんのもええ加減にして欲しいわ)

さも自分達が人々の救いになっているように自慢している連中には反吐が出る。

(ほな、この世界の住民は……薄汚い人間ばかりやと言いたいんか?)

別に魔法使い達だけが頑張っている訳ではない。
この世界の住民だって、危険を顧みずに自分達に出来る事をちゃんと考えて必死に頑張っているのだ。

(本気で救いたいんやったら……力を出し惜しみせんといてんか)

コソコソと力を隠して頑張っている魔法使いよりも、魔法など使わずに頑張っている人々の方が立派やと千草は思う。

(……掟や、決まり事やと言うんやったら、この世界に来んで……自分らの世界で頑張りぃな)

正義感溢れる魔法使い達に嫌味を言いたいが、わざわざ揉め事の種を蒔くのも何だと思って黙っている。
今回の事件も結局のところ、魔法使い達の主義主張から始まった厄介事なのだ。
いい加減、魔法使い達に"自分達の足元をしっかりと見据えて活動して欲しい"と切に願う千草だった。

(ま、そう言うても、耳に痛い話は右から左に流すんが魔法使いなんやけど……)

リィンフォース曰く、"正義の味方病"に罹っている魔法使いという者は思考硬直した愚者らしい。
目に見えるものであっても、自分達には不都合な事実なら否定してしまう性質がある。

(あのぼーやも……罹り始めちゅうとこやね)

真摯で真面目な品行方正で修行中のネギ・スプリングフィールドを思い浮かべて嘆息する。

(まあ力付けるっちゅうんはええんやけど……それがマギステル・マギに通ずるとは違うんやけどな)

強くなれば"マギステル・マギ(立派な魔法使い)"になれると思っているみたいだが、千草は違うだろうと感じている。

(確かに強うなったら荒事には対応できるんかもしれんけど、根本的な解決になるか言うたら……ならへんな)

力で相手をねじ伏せる事は可能だろうが、根本的な問題の解決になるとは限らない。
話し合う事で互いの妥協点を模索して解決するには粘り強く聞く姿勢と賢者の如き"知恵"が必要なんだと思う。

(よくよく考えると、ぼーやのお父はんがしたエヴァはんの問題は……保留ちゅうか、何ら解決の糸口がないんやけど?)

力技で強引に麻帆良の地に封じただけで根本的な解決に繋がる事は一切していない。
やっぱり魔法使いはダメな生き物なんやなと千草は言い知れようのない諦観のような虚しさを感じていた。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 五十三時間目
By EFF




超 鈴音はデバイスを通じてのエヴァンジェリンからの通信で事態の深刻さを即座に理解した。

「……茶々丸をこちらに寄越して欲しい」
『何をする気だ?』

空間スクリーンに映るエヴァンジェリンの視線に怯む事なく超は告げる。

「師父を救うために茶々丸のボディーを試験中の新型に変更するヨ」
『……分かった。例のヤツだな?』
「そういう事ネ」

既に初期のチェック項目をクリアして、一通りのチェックが完了している新しいシステム――AMF(アンチマギリングフィールド)――を展開できる茶々丸の ボディーが超の視界の片隅にある。

「……龍宮サンに連絡を取て待機してもらうネ」
『そうだな。龍宮と綾瀬なら大丈夫だろう』

超が使える人材を口に出すとエヴァンジェリンもその二人なら大丈夫だと太鼓判を押す。

「後はソーマさんと確か……ゾーンダルクさんだたカ?」
『その二人も大丈夫だろうな』
「問題は師父が守護騎士プログラムを稼動させないカ……ダナ?」

最大の問題点を超が指摘し、エヴァンジェリンが眉を寄せて渋面に変化する。

『万全の状態で奴らが出てきたら……厳しいな』

リィンフォースから話を聞く限り、守護騎士達の実力は相当なものだと判断する。
その騎士達四人を加えたリィンフォースが相手にあると非常に厳しいのが超もエヴァンジェリンにも読める。

「私と夕映サンのコンビでは一人を足止めするのが限界ネ」

魔力量はAA+ランク以上はあるとリィンフォースから上方修正を受けた超と、総合で見たらAランク程度の魔導師になれるかもと言われている夕映でも2ラン ク上のAAAランクの守護騎士が相手ではまだ勝つのはキツイものがある。
実戦経験が稀少な二人では足止めくらいが精一杯だとエヴァンジェリンは判断していた。
ちなみに参考にまで聞いた限りではネギ、木乃香は魔導師としての訓練を行えばAAA+は楽になれるだろうとリィンフォースはエヴァンジェリンに告げてい た。
魔力運用に関してはリンカーコアという器官の定義が出来ていない魔法使いと定義が出来ている魔導師の差がはっきりと現れていると元魔法使いになりかけてい るエヴァンジェリン、超の認識でもあった。

『ああ、それで十分だ』

その点を踏まえて超が話すとエヴァンジェリンも足止めするだけで十分だと告げて、無理はしなくて良いと言葉の端に匂わせている。

『要は私とリィンがサシで戦う状況を作れれば……後は何とかしてみせる』
「まだ学園側には見せたくなかたが……仕方ないネ」

ギリギリまで魔法を使える事は秘匿したかったが、リィンフォースを見殺しにする事は出来ない超は自身の甘さを嘲笑う。
理性では切り捨てろと囁くが、感情がそれを許していない。
超もリィンフォースもある意味……異邦人のような存在であり、お互い共感できるところが多々ある。

(もっとも師父には……帰る場所がない点だけは同じではないガ)

超は未来に帰る場所があっても、リィンフォースには……何もない。
そういう意味では自分よりも過酷な状況に置かれているんだと超は思う。

(……ママさんをコレで失うかもしれないんダナ)

茶々丸の記憶媒体からの情報でリィンフォースの中に母親らしい存在がいる事はエヴァンジェリンよりも先に知っていた。
そして残された時間が少ない事も分かっているので、今回の事件でかなりヤバイ状況になるのではないかと超は懸念する。

(学園長……どちらに転んでも、師父が魔法使いの味方をする可能性はゼロになたヨ)

今回の事件で今後リィンフォースが学園長側に力を貸す事はないだろうと予測できる。
むしろ敵対する可能性が高いし、嫌がらせという名目ならば、もしかしたらフェイトに手を貸す可能性もある。

「……ネギ坊主、くれぐれも短慮な行動はしないようにネ」

妙に頭が固く、自分の所為と自虐的な思考に陥りやすいネギがその責任感から、リィンフォースに絡んでしまうと……ヤバイと超は思う。

「師父は……言葉だけの謝罪などで誤魔化されないヨ」

悪いと思って頭を下げても何ら解決にはならないし、どうやって責任を取るのか……考えもせずに刺激するのは非常に不味い。
頭では分かっていても……心まではどうにもならない。
まだまだ心の機微……空気を読むのがヘタクソなネギが傷心のリィンフォースを刺激すればシャレにならないと超は思っていた。

「……エヴァンジェリンに乱入させないように手を打たせるカ。
 たしか、さよ坊が広範囲の封鎖結界系の魔法が使えたナ」

責任感だけで見習い魔法使いが魔導師の戦場に割って入れば……間違いなく足を引っ張るのが目に見える。
意識のないリィンフォースと守護騎士達が手加減するなどあり得ない以上は最悪……殺される可能性が高い。

「こういう時、非殺傷設定というのが如何に便利か……痛いほど、ありがたく感じるヨ」

魔力ダメージを与えるだけで……殺しはしない設定のおかげで全力全開で戦える。
質量兵器を廃棄し、魔法と科学が混合した世界ならでは設定だが、使い勝手は良い。
超は茶々丸がこちらに来るまでこの世界とミッドチルダという世界の違いを自分なりに考察していた。



夕方から降り始めた雨が少し勢いを弱くした深夜、

「時間通りとは……生真面目だな、少年」

ネギの几帳面さを嘲笑うかのようにヘルマンは告げると、ステージに居た神楽坂 アスナと近衛 木乃香が声を出す。

「ネギ!!」
「ネギ君! せっちゃん!」

世界樹広場の野外ステージで待っていたヘルマンの前にネギ、桜咲 刹那、綾瀬 夕映はやってきた。

「招かれざるお客人もいるな」

ネギ達の姿を見ながらヘルマンは一行の中の夕映に話しかける。

「そちらのお嬢さんは……配下の者達を始末した魔法使いか?」
「……そうです。ネギ先生の助っ人です。
 私が怖いのなら……とっとと逃げるです?」

ヘルマンに挑発とも取れる発言をして夕映は最後通牒みたいな言葉を投げ掛ける。

「ハッハッハッ、なかなかに辛辣なセリフを言ってくれるお嬢さんだ」

夕映の挑発にヘルマンは楽しげに余裕にも言える態度で答える。

「別に構わないよ。ただし、そこまで言った以上は私を楽しませてくれないと……死んでもらうよ?」

殺気こそ飛ばしていないが、ヘルマンの視線に剣呑なものが浮かんでいる。
そんなヘルマンの様子に夕映は怯む事なくデバイスを構えた。

「一つだけ忠告しておくです。
 魔導師にアスナさんの魔法無効化能力は役に立つと思わない事です」

そう告げて夕映は足元に円の中に四角の陣を描いた魔法陣を展開させる。

「どうするです……今なら逃げられるです?」

明らかに挑発と取れるセリフをヘルマンに掛ける夕映。

「フム……本当に出来るのかね?」

夕映の挑発にヘルマンは乗るかのように両手を広げて、やれるものならやってみせろと言うようにノーガードの態勢を取る。
木乃香やアスナはその様子に息を呑み、ネギも刹那も夕映の自信溢れる表情に何も言えなくなる。

「後悔するです……サンダーフォール!!」

デバイス――トゥルースシーカー――を天へと掲げて魔法を発動させる。
夜の曇った空に青白き稲光が瞬き始め、トゥルースシーカーから澄んだ音と同時に薬莢が飛び出す。
その瞬間、夕映の魔力が一時的に増幅されたのを側にいたネギは感じていた。
上空の雷光が一点に集束されて雷光球になり、夜空を青く染めた瞬間、

「ガッ! ガァァァァアッァァァァ――――ッ!!!!」

一直線に向かって大地へと突き進む雷が、魔法を無効化できるはずのヘルマンの身体に直撃した。

「……し、信じられない…………」

ネギは魔法使いとして、目の前で起きた現実に目を奪われていた。
"魔法無効化能力"……魔法使いにとって非常に厄介な筈のスキルが今、目の前であっさりと破られた。
それは魔法使いとしての常識が、魔導師に砕かれた瞬間だった。

「ガッ、グァァ…………ま、まさか……本当に出来るとは……?」

地面を転がって悶絶していたヘルマンが息を乱して夕映を見る。
そして、その視線に釣られるように配下の悪魔達も驚愕の表情を浮かべて夕映を見つめていた。

「……言っておくです。私の師匠なら今の一撃であなたを送り返していたです。
 ネギ先生、前衛をお任せするです」
「わ、分かりました、夕映さん」
「次は更に強力な魔法を叩き込むです!」

バックステップでネギとの間に距離を取って夕映は不敵な笑みを浮かべる。
ネギも次第に驚きから冷静さを取り戻してヘルマンに立ち向かうべく構える。
刹那は二人から離れて……木乃香、アスナの元へと走り出した。



「ゆえちゃん……凄い」

アスナは吃驚した表情で夕映を見つめていた。
魔法無効化能力の事はエヴァンジェリンから説明を受けて知っていた。
魔法を無効化できると聞いて、ハマノツルギを使ってネギに頼んで試した事があった。
実際にこの目で自分の力の一端を見た時は、「私って凄いんじゃない」などと思っていた。
しかし、そんな優越感みたいな感情は今起きた光景に「ダメなんじゃない」と感じてしまう。

「せっちゃん! に、逃げてぇぇ――っ!!」
「せ、刹那さん!?」

木乃香の泣き声にアスナは慌てて意識をネギ達ではなく、刹那の方へと向ける。

「い、いやや!!」

木乃香が身に纏っている黒い服の腕の部分から真っ直ぐに伸びる黒い刃が向かってくる刹那を切り裂こうとする。
刹那はその一撃を避けて、この魔法を使っているヘルベルトへと吶喊しようとするが、

「ちっ! 邪魔をするな!!」

ヘルベルトを守ろうとする悪魔達が壁のように立ち塞がり足を止めさせられる。

「せっちゃん!!」

足を止めた刹那に木乃香の悲鳴が響き、背後から黒い刃が襲う。
刹那は瞬動で回避して距離を取る。

「このちゃん! うちらを信じて! 必ず助けるから!!」

刹那は仕切り直しの状況に眉を顰めつつ、木乃香を安心させるように話す。
涙目の木乃香は刹那の声に耳を傾け……今にも折れそうな心を必死に奮い立たせて何度も頷く。

(前衛にこのちゃん、遊撃兼守りに三体の悪魔。そして一番奥に……)

三体の悪魔の巨体に隠れて見えないヘルベルトの姿を思い浮かべて刹那は気合を入れ直す。

(このちゃん……待っててな!!)

まだ戦いは始まったばかりだと刹那は思い、チャンスは必ず生まれるから……絶対に助けると決意していた。



三人の戦いが始まるのを見ながら天ヶ崎 千草は隣に待機する小太郎と日替わり交代で変わったソーマ・青に視線を向ける。

「……三体の悪魔ですけど?」
「ああ、僕が倒すよ」

ソーマ・青は空を一瞥した後、ステージの地面を見つめる。

「小太郎は千草の守りに専念してもらう」
「わかったで」

この作戦の肝が千草にあると分かっている小太郎は神妙な顔つきで返事をする。
木乃香を救うために千草が大きな術を使用しなければならず、その際にどうしても隙だらけになる。
一応式神で守りを固めるが、それはあくまで最後の絶対防衛線。
今、目に見える悪魔以外の伏兵があった時に小太郎が身体を張って守らなければ……この作戦は水泡に帰す。

「おそらくあの爺さんの周りに居る連中もこっちに来るだろうな」

ヘルマンの周囲にいる六体の悪魔がネギ達に向かわずにこちらに来そうな予感がするとソーマ・青が呟く。

「刹那が一つ倒したら……行くえ?」

最終確認をする千草に二人は頷き、いつでも飛び込める態勢を取る。

(ま、多分一人伏兵みたいなのがこっちにも居そうだけど……)

まだ誰も気付いていないが、ソーマ・青はヘルベルトの背後の影に潜む存在に目を向ける。
僅かな灯りから生まれた影にしか見えないが、ソーマ・青には濃密で肌に触れたら……凍り付き罅割れるような寒気を感じた。

(いつの間にか……入り込んでいるんだよな)

距離を取って遠目から見ていたから気付いたが、現場に居たら気付けたか自信がない。
ソーマ・青の視線に気付いたかのように影が挨拶代わりみたいに一瞬揺らいだかのように変化する。
その光景にソーマ・青は長い付き合いになりそうな友人――ゾーンダルク――を頼もしく感じて苦笑していた。




夕映とネギは半ば分断される形へと追い込まれていたかのように動いていた。
ヘルマンの側で待機していた悪魔六体のうち三体が夕映とネギとの間に割って入ってきたのだ。

「……計算通りです」

視界の隅に見えるネギとヘルマンの戦いはややネギの方に分が悪いようにも見える。
時折、ネギの防御が破られて、ヘルマンの一撃が決まろうとしても、

「クッ!」

ヘルマンの死角から強襲する二重に魔力でコーティングされた夕映が放った魔力弾が迫る。
外殻の魔力はアスナのスキルで分解されても中身までは簡単に分散できずにヘルマンに到達した。
流石のヘルマンもこの攻撃を警戒して回避を優先し、ネギへの攻撃を中断していた。

(実に厄介な魔法だよ)

ヘルマンは自分が如何に目の前の少女の実力を見誤っていたかを痛感し、舌打ちしている。
神楽坂 アスナの魔法無効化能力の有無を調べる序でに自分の楽しみに利用しようとした。
確かに果敢に攻めてくるネギは身体強化以外の魔法を使わずに戦っているし、おそらく他の魔法使いが来ても勝てると判断していた。

(魔導師か……彼らは魔法使いとは本当に違うんだな)

魔導師という存在の事は多少は召喚者から聞いていたが、魔法無効化能力があれば間違いないだろうと甘く見積もっていた。

(……まだまだ私も甘いという事かな)

過信して受けた雷の魔法らしい一撃が思いのほか……効いている。

「おっと(やれやれ……これは参ったな)」

確かにネギの攻撃は十分威力もあり、スピードの乗った一撃だが……本来の状態ならば避けられない事はない。
明らかに最初に受けた魔法のダメージが此処にきて響いている。
ネギの攻撃をギリギリのところで防御してヘルマンは苦笑いする。
いい勝負に近い形になった点を喜ぶべきか、怒るべきか……ヘルマンは暢気に悩んでいた。

「たぁぁ!!」

魔力を体内で活性化させて身体能力を強化する事で攻撃力を増すのは、アスナのスキルでも無効化できない。
ヘルマンの注意が逸れた瞬間を狙ってネギが攻撃に転じる。
ネギの格闘戦のスキルは日々成長している事を知っている夕映はネギが暴発しない限りはこのまま行けると思っている。
夕映は悪魔達の攻撃に対して回避を最優先に行い、誘導型の魔力弾を操作してネギを支援していた。

……徐々に悪魔達を刹那立ちの場所から遠ざけながら。

「アクセルシューター……リロード」

最大で八発の魔力弾を制御できるが、あえて四発にする事で余裕を持たせて……回避と守りを固める。
マルチタスク――魔導師特有の並列処理による思考法を着実に自身の血肉へと変えていた。




「―――斬岩剣ッ!!」

各個撃破を優先した刹那は悪魔達を誘導する形で一体だけを離れさせて夕凪で斬った。
刹那の気がたっぷりと込められた夕凪が肩口から一気に胴体を二つに分かつ。

『ギャアァァァァ―――!!』

悪魔は絶叫をあげて大地に倒れ伏して……塵へと還る。

「あんまり待たせられるのは困るんだけどね……」

二体の悪魔が一瞬動きを止めた瞬間を突くようにソーマ・青が瞬動で背後から強襲する。
その手に持った両端に刃がある槍に近い長さの杖を濡れた地面に擦るように斬り上げる。
槍の先端の刃に大地に染み込んでいた水が纏いつき……水の刃を構成し、悪魔を一刀両断。
不意の強襲に反応できなかった悪魔の一体が呆然とした様子で二つに分かたれた身体を見ながら消えていく。

『ギザマ……』

人の言葉を不慣れな様子で使う悪魔に刹那が一気に駆け寄って、

「――雷鳴剣!!」

十分に気を蓄積させて雷の力に変換した一撃を叩き落した。
悪魔は雷撃の光に飲み込まれて消滅した。

「このちゃん! すぐ助けるから!」
「せっちゃん!」

妨害していた壁を取り払った刹那が木乃香との戦いに赴く。
木乃香は状況が好転してきた事を理解して、泣いて沈んでいた表情が明るくなる。

「さーて、そろそろ僕の相手をしてもらおうじゃないか?」

ソーマ・青がゆっくりとステージに居るヘルベルトへと歩いて行く。

「……クッ」

ヘルベルトの視界には新たに現れた術者――小太郎と千草――の姿があった。

「ま、まだ、まだ……勝負はついていません!」
「全くもってその通りだよ」

ヘルベルトの声にヘルマンの声が繋がり、待機していた三体がヘルベルトの護衛に回る。

「は、伯爵!」

ソーマ・青は襲い掛かる悪魔の攻撃をかわしながら呟く。

「そういう事か? 君はその術を使用している間は……動けないと見たよ?」
「ちっ! そいつをさっさと始末しろ!」

図星を指されたのか、ヘルベルトがソーマ・青を指差して殺すように指示を出す。
そして、何かを呟いて、何らかの魔法を行使してソーマ・青に対して告げる。

「術は切り離させてもらった! 私を倒したところで、あの娘に掛けた魔法は終わらんよ」

自信満々にどう足掻いても無駄だと言うようにヘルベルトの容赦ない声が響くも、

「最初からそんなものを期待していないね」

自分達でケリを着けるとあっさりとソーマ・青が冷ややかな視線と声で返事をした。




千草は用意していた札を用いて陣を設置する。
五つの札を五箇所に設置して正五角形の陣を整え、

(刹那、いつでもよろしいで)
(は、はい!)

事前に手配した札を通じての念話で準備が整った事を刹那に知らせ、周囲を守らせるように式神を展開した。

「小太郎、頼むわな」
「応よ! 千草姉ちゃんはきちんと守ってみせるで!!」

千草を中心に四方を守るように現れた式神より前に小太郎が出て、刹那から離れて向かってくる悪魔を睨みつける。
気を高め、狗神を召喚して牽制の一撃を出すと同時に瞬動で一気に肉迫する。
両手の間に狗神を集束した黒い玉を掲げて悪魔に叩き付ける。
叩き付けられた悪魔は勢いよく後方へと吹き飛ばされる。

「俺を倒してから、千草姉ちゃんの元に行けや!!」

意気揚々と小太郎は吼える。
その目にはギラギラと強い者との戦う事の楽しさがあった。




ヘルマンは状況が芳しくないと判断しつつも半ば楽しむような雰囲気でネギと戦っている。

「なかなかに良い友人を得たようだな、少年?」
「…………」

返事を返さずにネギは拳を揮う。
ネギにすれば、六年前に村を襲撃した悪魔であり、アスナ達を人質に取った卑劣な敵に一度不覚を取った。
そして、出来れば自分一人の力で戦って勝ちたいと思う気持ちが胸の中にあった為に今の状況は些か不満だったのだ。
そう……自分よりも後から魔法を習い始め、本来ならば自分が守るべき立場に居るだろう夕映にフォローされている現実もネギにとっては不本意な気持ちだっ た。

「フフフ、そんなに私が憎いかね?」
「あ、あなたは!?」

からかうような口振りでネギを挑発するヘルマン。

「私を憎む事で得た力なら、存分に揮うがいいさ。
 それとも、まさか……あの雪の日からの逃避で力を欲したのかね?」

互いに距離を取るような形で睨み合い、ヘルマンはネギのトラウマを刺激する。

「黙ってください!」
「あの村の住民達の事を切り捨てて得た力は……その程度なのかね?」

緩慢に効いてくる毒のようにネギの心に入り込むヘルマンの声を、

「ネギ先生! 相手の挑発に乗ってはいけませんです!!」

少し離れた位置から聞いていた夕映がネギに注意する。
夕映は悪魔との戦闘を有利に進めて、既に三体のうちニ体を倒し、残り一体としたところで若干の余裕があった。

「フフフ、後方から守られて、何とか私と五分に戦える強さか……流石はサウザンドマスターの後継だな」

自身だけではなく父親さえも侮るような響きを含ませたヘルマンの口調にネギの苛立ちは限界に達する。

「…………夕映さん、後は僕一人で戦います」
「何を言うです!? 自分から有利な状態を放棄するのは愚策です!!」
「僕は負けません! 必ず勝ってみせます!!」

完全に子供のワガママだと夕映は思う。

「アスナさんを見捨てる気ですか!?」

一対一の正々堂々とした決闘みたいなものじゃなく、負けたら何もかも失う戦闘に意地や矜持を出す。

「まだ木乃香やアスナさんを助けていない状況下で……自分のワガママを言うなです!」
「―――ッ!!」

夕映はリィンフォースから聞いていたネギの危うさに苛立ちを覚えながら警告する。

「ハッハッハッ……なかなか上手く行かないものだよ。
 せっかく未熟な少年を孤立させようと狙ったんだが」

夕映の指摘にネギの顔が青褪めるのを見ながらヘルマンは肩を竦める。

「いやいや、実に状況をよく理解している少女だ。
 全く以って……君は巨大な魔力こそないが、食指を伸ばしたくなる」

若干熱の篭った視線で夕映を見つめるヘルマン。
そんなヘルマンにネギは自分の未熟さを痛感させられて苦い感情を味あわされていた。

「実に不本意だよ。君は成長してはいるが、まだ私が狩り取るには……早かったみたいだ」

明らかにネギに対する自身の評価が悪かったと反省したかのような空気を滲ませるヘルマン。

「そんな事はありません! 僕は、僕はあの頃よりもずっと強くなっています!!」

ヘルマンに攻撃を仕掛けながらネギは苛立つように叫ぶ。
挑発と判っていても……ヘルマンの指摘には我慢できない様子だった。



「……いけませんです」

一連のヘルマンの挑発行為でネギの心理状態がネガティブな方向に進んでいるのを夕映は感じていた。

「ここは……賭けに出るです」

ダラダラと時間稼ぎを維持するのはネギの暴発に繋がると判断した夕映はアクションを起こす。

「……ソニックムーブ!」

瞬動法とは違う高速移動魔法を夕映は発動させて、

「え?」

ソーマ・青以外の全ての者の目から逃れるほどの高速移動で一気にアスナの目前に現れた。

「失礼するです!」

手を伸ばしてアスナの首元を飾るネックレスを掴んで力任せに引き千切る。

「貴様!?」

慌てて状況に気付いたヘルベルトが夕映に襲い掛かろうとした時には、

「……残念ですね」

ソニックムーブを用いてヘルベルトの手の届く範囲から即座に離脱していた。

「ネギ先生! アスナさんの力を利用していたマジックアイテムはこの通りです!!」
「夕映さん!!」

夕映の手の中に千切れたネックレスがあった。

「真の実力を見せるです!」
「ま、任せてください!!」

地面に叩きつけて完全に破壊されたネックレスを見ながらネギは夕映の声の意味するところを理解する。

「ここからが僕の本領です!!」
「クックックッ……全く以って計算外だが、これもまた一興だ。
 では、少年の真の実力とやらを見せてもらおうかな?」

全力を揮える状況になったネギが意気揚々と構える。
そんなネギを微笑ましく見つめながらヘルマンもファイティングポーズを取る。
夕映が距離を取った事で一対一の決闘のような空気の中で二人は足を前へと進める。

―――悪魔パンチ!!

魔力をレーザーのように一直線に飛ばすヘルマンの攻撃をネギがギリギリで避けて、瞬動で肉迫する。

―――桜華崩拳!!

無詠唱で生み出した破壊属性の光の矢を手に集束してネギが殴りつけようとする。

「フッフハハハッ!! なかなか威力がありそうだから避けるとしよう」

余裕綽々と言わんばかりに楽しげに話すヘルマンに、

「あの頃とは違うんです!!」

ネギが過去の弱かった自分を払拭するような叫んでいた。



……二人の戦いは激しさを増し始めていた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

忙しい……この一言に尽きる現状に上がらぬテンション。
いや本当に……時間が欲しいと切々に思う毎日です。
書いてて思ったんですが、最初の条件を間違えた気がしています。
よくよく考えると呪いが解けると分かった時点でエヴァがネギに注目する理由がなかったりして。

……この条件を考慮して書き直すべきか、悩み始めて更にペースダウン中です。

それでは次回で。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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