「何故、見えんのじゃ?」

近衛 近右衛門は遠見の魔法でエヴァンジェリン達の戦闘を見ようとしたが……全然見えない状況に顔を顰めていた。
目的地の山中に居る筈なのに……山の中は戦闘行為をしている気配さえない。
急遽、式神を使用して現場へと向かわせたが……戦闘が行われていると目される場所には何もない。

「……結界なんじゃろうか?」

この状況から推察される事は唯一つ。
エヴァンジェリン達にはもう一人……魔法使い、もしくは魔導師が居て、戦闘をこちらに一切見せないようにしている。
森全体を自分達の使用する術式とは違う魔法で切り取って完全に秘匿している。

「わしは……そこまで信用されておらんのか?」

エヴァンジェリンも含め、魔導師達が一切の情報を与えないと気付かされて凹む近右衛門。
しかし魔導師側から見れば、今回の事件の元凶は魔法使い側にあり、自分達の情報を見せる事で余計な厄介事をまわしてくる可能性を極力減らしたい気持ちが あった。
情報の秘匿に関して魔法使い達は一切信用してはならないと常々リィンフォースが愚痴のように零していたのも原因だが。

「何とかせねばならんな」

魔導師のリーダーであるリィンフォースとの和解、もしくは謝罪をする必要性を痛感する。
おそらく今回の事件で更に信用を失っているとしても……頭を下げて信用回復をしなければならない。

「……アンチマギリングフィールドか」

魔法使いを無力化させかねない技術が既に確立されつつある。
しかも、その技術は麻帆良学園最強頭脳と言われている超 鈴音の手に渡ってしまっている。
二年前以前の情報が全くなく、魔法の事を知りたがっていた人物。
リィンフォースと接触してからは、かなりおとなしくなっていたと聞き及んでいたのだが……何の事はない。
彼女は魔法使いではなく、魔導師として修行中だっただけなのだ。

「……エヴァンジェリンが認めるだけの実力者とはな」

辛口で他人を簡単に認めるような真似をしない人物が認めた以上は、その実力は相応のものがあるだろう。
対話を行う為にはテーブルに着いて貰わねばならないが、其処に至る道筋をどうするか……苦悩する。

「……胃に穴が開きそうじゃな」

十中八九間違いなく……拒絶される予感がしてならない。
遊び心満載の近右衛門は自業自得という言葉の意味に眩暈を感じていた。

―――バァンッ!!

「ふぉ!?」

そんな時に学園長室のドアが勢いよく開かれた。

「お、おじいちゃん! ネ、ネギくんが!?」
「ど、どうしたんじゃ、木乃香!?」

今にも泣きそうな顔で孫娘の近衛 木乃香が神楽坂 アスナと桜咲 刹那と一緒に入ってくる。
同行していたアスナは苛立ち不機嫌な表情で、刹那は心配そうな顔付きで立っている。

「学園長……ネ、ネギ先生が」
「せ、刹那くん、何があったと言うんじゃ?」

焦って要領を得ない木乃香ではなく、隣にいる刹那に顔を向けて聞くと、

「あ、あのバカ! 責任感じて……エヴァちゃんの後を追いかけたの!」
「な、なんじゃと!?」

アスナが非常に腹立たしく怒った表情で叫ぶ。
椅子を蹴倒すように飛び上がって事情を察して慌て出す近右衛門だった。
エヴァンジェリンが本気で戦わざるを得ない相手――リィンフォース――にまだ見習い魔法使いの立場であるネギを戦力として外すのは当然だと近右衛門は思っ ていた。
才能は過分にあるが、実戦経験など殆どないネギの今の実力でそのリィンフォースを相手にするなど自殺行為にも等しい。
聡明な子だと思っていたが、想像以上に無鉄砲な部分があると思い知らされ、近右衛門は大いに焦る。
まさか、このような暴挙な真似をするとは思わずに……硬直していた。

「なんという事じゃ……(責任感があるという範疇を超えておるぞ)」

近右衛門は心配する孫達を宥めつつ、ネギの精神面の危うさを実感する。
生真面目で聡い子だという評価を修正しなければならんかもな、と考えさせられる。
また一つ、頭の痛い問題が表に出てきたと思い、胃の辺りが重くなっていた。


ちなみにネギの使い魔であるカモは別荘内での事情を説明に戻っていたために……先に帰されていた。
おそらくカモがネギの側に居れば、このような事態には発展しなかったであろう。
少々問題のあるオコジョ妖精だが、いざという時の参謀役にもなれる筈だから。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 五十九時間目
By EFF




隔離結界を広範囲に展開中の相坂 さよは不安そうな顔で隣人?のチャチャゼロに顔を向けた。
現在、二層式の結界でこの森からは簡単に抜け出せないようにさよがしている。
外側の結界自体は魔法使い達の監視の目を防ぐ為のもので然程強力ではないが、内側の結界の強度は流れ弾を防ぐ為に強固に作られている。
本人が戦闘向けではないと自覚し、結界魔導師として確立されつつあるさよが展開した結界はリィンフォースが開発したデバイス経由での魔力供給システムのお かげで術者の負担も軽減されながらも強固な物へと変貌している。
魔法使い達は知らないが、超の隠しラボの一画に試作の小型の魔力炉が既に稼動している。
十数人分の魔力を簡単に生み出せるシステムの恩恵を受ける事が出来る大規模結界システムを稼動させる事が出来る魔導師はさよとリィンフォースだけだった。

一度展開すれば、魔力炉から供給を受け続ける限り維持できる結界。

自己主張が若干乏しいが、やれば出来る子の相坂 さよだった。

「ホ、ホントに大丈夫なんですよね?」

さよは涙目で隣で待機しているチャチャゼロに聞く。
チャチャゼロから見れば、これほど大規模な結界を維持できるさよが何故怯えるのか不思議でならない。
確かに戦闘力は皆無かもしれないが、結界の中に閉じ込めてしまえば……二度と出られないような目に遭わせる事だって今のさよなら出来るし、結界を縮小させ て押し潰すくらいの事は楽勝のはずなのだ。

「安心シナ。余計ナ覗キ見野郎ドモハ、バッタバッタト斬ルゼ」

自身の背丈よりも長い剣とナイフをその手に持ってチャチャゼロが楽しげに嗤う。

「い、いや、それはそれで怖いんです」

殺人現場を間近で見るのは嫌だと言わんばかりに涙目でさよが話す。
まだ夜の森の中は今にも何か出そうな気配で一杯で、怖がりのさよにとっては怖くてたまらない。
本当は寮の朝倉 和美の部屋でぐっすりと寝て居たかったが、リィンフォースのピンチと聞いた以上は逃げる訳には行かない。
幸いにも護衛役に顔馴染みのチャチャゼロが居てくれるので何とか怖いのを我慢している。
チャチャゼロもさよも大きさ的には殆ど同じで人形同士が仲良くお話中にも見えるが、真夜中の森の中で人形同士が話し合う光景自体がある意味……ホラーかも しれなかった。

「誰カ、斬ラレニ来ネェカナー」
「で、ですから! そんな物騒なこと言わないで下さい〜〜」
「コノ剣ハヲ欲シテイルンダゼー」

剣を高く掲げて、誰も来ない事を残念がるチャチャゼロ。
ヒィ〜と声を上げて怖がるさよを見るのを楽しんでいる節がある……何気にいいコンビかもしれなかった。



ネギ・スプリングフィールドは悲壮な決意を表情に浮かべて森の中を進む。
みんなと別荘に戻ろうとした時に適当な理由を付けて、少し席を外して森へと向かった。

「……僕が助けるんだ」

今回の事件は自分の所為だと思い詰めて……自分の手で解決したい。
自分が災いを引き寄せているんだとネガティブな方向に囚われ続けていた。
しかし、ネギの悲壮な決意とは裏腹に、森の中に入ってからは一向に目的地に辿り着けない。

「まるで、京都での……結界なんですか?」

空から向かっても通り過ぎたように目的地らしき場所には何もない。
エヴァンジェリンの姿もリィンフォースの姿も見当たらないし、魔力の流れさえも感知できない。

「どうしてっ!?」

自分が役に立たないから……外されているんだと思い知らされる。
頑張ってエヴァンジェリンのキツイ修業だってやってきた。
六年前のように泣いているだけの弱い自分じゃないと言えるだけの力を得たはずなのだ。
それなのに、師であるエヴァンジェリンからは戦力外扱い。

……魔法を習い始めたばかりの魔導師の綾瀬 夕映は戦力と計算されているのにだ。

納得できないという感情がネギの中で渦巻いていた。

「必ず中に入ってみせます」

このまま何もせずに終わりたくないと思い、ネギは必死に森の中を彷徨い結界の綻びを探し出そうとした。





突然、チャチャゼロはさよから目を離し、薄暗い森の中へと向きを変えた。

―――がささっ


「えっ!?」
「何カヨーカ?」
「ひっ!? お、お化けですか!?」
「チゲーヨ。招カレザル御客人ッテ奴サ」

結界を維持しながらもちょっと怖くて逃げ腰気味に変わるさよにチャチャゼロは落ち着いた様子で返答する。

「チャチャゼロさん!」

長時間森の中を歩いていたのか、若干くたびれた姿のネギが二人の前に現れる。

「……ネギ先生?」

ネギの姿を見て、さよは一息吐いて落ち着きを取り戻す。

「あの〜ネギ先生、ここは危ないから学園に……」

さよが途惑いながら森から出るように促すが、

「相坂さん! 僕を中に入れてください!」
「へ?」

さよが最後まで話す前にネギが悲壮感溢れる表情で告げる。
しかし隣で聞いていたチャチャゼロがそんなネギの気持ちを踏み躙るような返答をした。

「何シニ来タ? 此処ハ戦場デ、半端ナ実力シカナイ見習イガ来ル場所ジャネーヨ」
「チャ、チャチャゼロさん、もう少し優しく言ったほうが……」
「と、通してください!」

チラリとネギを一瞥して、チャチャゼロは侮蔑の言葉を容赦なく吐く。
勢いだけで突っ走ってきたのならば、まだ救いみたいなのがあるかもしれないが、自身の実力を知った上で此処に来たと言うのなら……失望、呆れのような感情 しか浮かばない。

(コノガキ……死ニタガリナノカ。
 ウェールズノ魔法使イドモハ、後進ヲ育テル事ガ出来ネエ……マヌケバカリダゼ)

勇気と無謀さは全く違う意味を持つ事をチャチャゼロは経験から理解している。
無論、退く事が出来ない戦いもあるが、今がネギにとって、その時かと問われれば……違うだろうと判断する。
確かにネギを狙って来たものかもしれないが、既にそんな状況ではない。

(最悪ハリィンフォースノ無差別砲撃ニヨル大量殺戮ショーナ ンダガナ)

この一戦でエヴァンジェリンが敗れた場合、チャチャゼロの想像通りの展開が始まる。
まず最初に麻帆良学園都市の崩壊が起き、この世界全体へと被害は拡大する。
魔法を知らない一般人が魔法による砲撃など対応できるわけがなく、何らかの災害が突如発生したと最初は思うだろう。
魔法使い達にしても、まさか魔法による都市の破壊など想定外であり、魔法を表に出していない点を考慮しても即座に対応できるわけがなく……初動は後手に 回っていく。
この世界は一つに纏まっているわけではなく、それぞれの国同士の思惑があり、自国の利益を優先している以上は……深刻な事態だと気付くまではバラバラに行 動するのは間違いない。
まして、人間サイズで次元転移を行う戦略兵器が相手では位置を掴む前に全滅する可能性だって無きにしも非ずだ。

(大体認識阻害ノ魔法ヲ使用シタ宙ニ浮カブ人間ヲ判別デキタカ?)

一歩間違えば、疑心暗鬼に陥った大国同士の戦略兵器の撃ち合いで世界の終焉だって起きかねない。

(人間ハ馬鹿バカリダカラナー)

世界の終焉を安全な場所からなら見てみたい気がするチャチャゼロだが、主であるエヴァンジェリンが敗れれば、それを見る事が出来ない点に気付き、ネギを絶 対に行かせるわけには行かないと判断する。

「自殺志願者ニハ通ラセネーヨ」
「ぼ、僕は死にません!」

ネギに対して構えを取り、臨戦態勢に入るチャチャゼロ。

「ウゼーヨ、テメーハ」

ネギが二重結界の隙間を見つけて入り込んで来た事に苛立っていた。

(チッ! 相変ワラズ魔法使イドモハ弛ンデイヤガルゼ)

エヴァンジェリンの忠告を聞き流した魔法使いに内心で舌打ちし、面倒事をこっちに持ち込んできた事に腹を立てる。

(イッソ、バラシテヤロウカ?)

幸いにも結界のおかげで此処で何が起ころうと魔法使いに知られる事はない。
自分から死にたがっているのなら……楽にしてやろうとか本気でチャチャゼロは考えるが、それをやると後々面倒な事が発生するのが確実なので今は止めて置く 事にした。

「サヨ……外側ノ一部ガ綻ンデイルゾ」
「え、ええっ!? す、すみません!」

ネギが入って来れる理由を考えて、さよに注意を促すと慌てて謝罪しながら結界の修復を行う。
さよは慌てて結界の状況を確認して、綻んでいる部分を幾つか発見する。

「チャチャゼロさん……今すぐ中の圧力が漏れて、破損した部分の修復をしますね」
「任セタ」
「う、うぅ……あんまり激しくされると壊れるって言ったのに〜」

さよが涙目で結界の綻びの修復を始める。
その間は自分がネギを此処で足止めて、これ以上中には入らせないようにしようとチャチャゼロは思い、声を掛ける。

「半端モンハ帰レ」
「どうして!?」
「味方ノ足ヲ引ッ張ルカラニ決マッテンダロ」

憤るネギにチャチャゼロははっきりと足手まといと告げる。
ネギの言い分とリィンフォースの命を天秤に掛ける場合、チャチャゼロは即座にリィンフォースの方を優先する意思がある。
十五年も動けない退屈極まりない状況から解放される好機を生み出してくれる少女と親が仕出かした呪いの事を知らずに暢気に教師をやっているぼーやのどちら かを取ると言われれば、答えは既に出ている。

「リィンノ命ガ懸カッタ負ケル事ガ許サレネエ戦イダゾ。
 子供ノワガママヲ、"ハイ、ソウデスカ"ト聞ケルワケネーダロ」
「だけど、僕だって戦えます!」

ネギが必死に戦えると主張するも、チャチャゼロは聞く耳持たない。

「仕方ネーナ」

面倒臭いと言わんばかりにチャチャゼロが肩を竦める。

「チャチャゼロさん!」

そんなチャチャゼロの様子に通してくれると思ったネギが明るい表情に変わるが、

「サヨ、少シ離レルゾ。クソガキヲ〆テクル」
「……すぐに帰ってきてくださいね」

さよは大人気ないと思いつつも、ネギに魔導師の戦闘に参加するのは危ないと感じて、チャチャゼロの考えに従う。
魔法使いというものを完全に知っている訳ではないが、さよは魔導師の事は十分に理解している。
質量兵器を廃棄した世界で、それらの兵器に成り代わった魔法使い。
言ってみれば、魔導師自体が兵器とも思わせる存在だと……超や夕映の修業風景を見て、さよは感じていたのだ。

「俺ニ勝テネークセニ意気ガッテンジャネーヨ」

やる気の欠片もない冷めた声でチャチャゼロがネギを黙らせにかかる。

「チャ、チャチャゼロさん! 待ってください!」
「待タネーヨ」

ネギが慌てて襲い掛かるチャチャゼロから距離を取ろうとするが、

「アグッ!」
「オセーヨ」

先に動き出していたチャチャゼロの攻撃がネギに当たり……吹き飛ばす。
吹き飛ばされたネギは木に背中を打って辛うじて踏み留まる。

「ドウシタ、モウオ終イカ?」

いつものからかうような笑い声のなく、心底面倒臭い声音でチャチャゼロがネギを見る。

「どうして……?」
「言ッタロ。人ヲ殺セネー奴ガ戦場ニ出ルノハ十年早イゼ。
 オメー、リィンフォースヲ殺ス覚悟ハアンノカ?」

抗議にも似た声を出すネギにチャチャゼロはネギの覚悟を問う。

「ウチノゴ主人ハ最悪ノ結果ヲ受ケ入レル覚悟ガアルゼ(マ、実際ハソンナ事態ニハナランダロウガ)」

リィンフォースの母親である夜天もいるし、サシで戦って負けるような腑抜けではないとチャチャゼロは知っている。

(アイツ、微妙ニ経験ガ有ルヨウナ、無イヨウナ感ジダシナ)

リィンフォースという存在はチャチャゼロから見ると酷く不安定な強さだと感じている。
記憶を受け継いでいるが、実戦経験が乏しいのでまだ上手く活用し切れていないの一言に尽きた。
現状で戦えば、ご主人であるエヴァンジェリンが勝てる可能性が高いと見ているが、

「ガキニ足ヲ引ッ張ラレルト勝テネーヨナ」

目の前にいるキレイ事ばかりほざく現実を知らない子供がいれば、状況は変わる。

(ウチノゴ主人……ナンダカンダ言ッテ甘イ時ガアルカラナ)

微妙に身内には甘いのがチャチャゼロの主なのだ。
ネギをあの場所に送り込めば、確実に手痛い目に遭う可能性が高い。
口では切り捨てると言いながらも、もしかしたらエヴァンジェリンが庇う可能性を捨て切れない。

(タダデサエ、可愛ガッテルリィンヲ相手ニスルンダ……不確定要素ハ減ラサネートナ)

「オラ、構エロ」
「何故ですか? 僕はチャチャゼロさんと戦いたい訳じゃありません!」
「ナラ好キニシロ。俺ハゴ主人ノ命令ヲ守ルダケダ」

もはや話す事は何もないとチャチャゼロは判断し、途惑うネギに容赦ない攻撃を加えて……〆る。
凹ってボロ雑巾のようにし、意識を失ったネギをチャチャゼロは粗大ゴミ扱いして森の外れに手足を縛って捨てる。

「ハン。自分ノ都合バカリ、押シ付ツケンジャネーヨ」

本当はエヴァンジェリンに付いて、リィンフォースとの戦闘に臨む予定だったが、魔導師戦に限って言えば……身体の強度が足りないらしい。

「…………アームドデバイスガ欲シイゼ」

デバイスがあれば、バリアジャケットを展開して防御力に関しては大丈夫になるはずだが……まだ貰っていない。
非常に不本意な話だが、今回の事件はチャチャゼロ専用のアームドデバイス製作中のところで起きてしまった。

「ゴ主人ガ新シイ身体ノ製作ヲシテクレレバ良カッタンダガ……ツイテネーナ」

対魔導師戦用に守護騎士プログラムを用いた新しい身体を製作する予定は麻帆良祭の後だったのも痛恨の出来事だった。

「来ルンナラ、モット後ニシロッテンダ」

ネギを凹って、若干ストレスの発散にはなったが、不満の全てが解消したわけではない。
他にも侵入者が来ねーかなとチャチャゼロは思いつつ、さよの元へと戻った。



森の外に放逐されたネギは慌てて駆けつけた魔法先生に発見されて……学園長室に運ばれる。
しかし、戦力外通告に加えて、チャチャゼロに役立たずと言われたネギは沈痛な表情で憔悴しきっていた。

「わしらの考えは……甘かったんじゃろうか?」

憔悴したネギを見て、近右衛門は彼の力の成長を促す事ばかりに気を取られて、心の成長を置き去りにしてしまったと深く思い知らされる。
降りかかる困難に負けない強さをネギに持って欲しいと思い、出来うる限り一人で何でも出来るように敢えて……サポート役を側に置かなかった。
その結果が誰にも相談する事なく、過剰な責任感で危険な戦場に飛び込もうとする蛮勇にも近しい感情を発露させた。

「これでは助けではなく……助長じゃな」

助ける心算が、助けどころか……真っ直ぐに伸びるはずの成長さえも阻害している。
成長はしているが、危うい所が浮き彫りになり、早急に改善しなければならない気持ちにさせられる。
教育者である近衛 近右衛門は教育の難しさを分かっていたのに、子供を歪に成長させてしまったと痛感させられる。

……ネギ・スプリングフィールドにとって、今回の事件は真の意味での挫折を味わう結末となった。




龍宮 真名は状況が優位に進んでいると確信する。

「フ、まさか、これほどの技術があるとはな」

確かに結界を張ってでも魔法使い達に見せないようにする価値はある。
AMF――アンチマギリングフィールド――を展開した茶々丸は平均レベルの魔法使いにとっては天敵だと判断する。
前衛に位置する茶々丸は湖の騎士の攻撃魔法を完全とまでは行かないが弱体化している。
放たれた魔力弾は何事もなく茶々丸に接近するも、徐々に揺らいで結合を解かれて……形が崩れていく。

「……ムダです」

茶々丸がそう呟くように真名の目から見ても威力、スピードは放たれた時点に比べると弱体化しているのは明白だった。

「ロックオン……現状で対抗できる魔法はあるか?」

寡黙というか、自分の性格を慮って要点しか話そうとしないアームドデバイスに声を掛ける。

《……幾つかありますが、使用には訓練を要します》
「ほう」

AMFに対抗できる魔法があると聞いて、真名は声を唸らせる。

「それは魔法使いの呪文か?」
《魔法使いの攻撃方法は不明慮な点が多いので判断できません》
「やはりな」

精霊魔法ではないと当たりを付けていただけに真名に動揺はない。

「……物理破壊力を伴った攻撃だな?」

二丁拳銃の形で片方の銃は跳弾用のシールドを維持する為に時折カートリッジを排出する。
茶々丸の周囲にシールドを展開しても無駄ではあるが、湖の騎士の側面や背後に設置して囲む分には十分だった。

「―――ッ!…………危ないところだったな」

油断していた訳ではないが、空間を捻じ曲げて捕まえようとする手をギリギリのところで回避する。

「足元に魔法陣を展開していなければ……どうなったか分からんな」

殺気という物がなく、淡々と与えられた仕事を忠実にこなしている為に回避し難い時がある為に攻撃を読み切れない。
発動する際に浮かぶ魔法陣のおかげで攻撃のオンオフを判断し、魔眼で空間に設置された罠を判別していた。
茶々丸の場合はAMFで魔力が結合を緩ませるために設置型の罠は役に立たない。

「そろそろ私も肉迫しての攻撃に入るかな?」

空間転移による強襲。
いつもは値が張る転移札を使用しているが、今回からは違う。

「ロックオン」
《いつでもどうぞ》

空薬莢を排出するようにカートリッジが宙を舞うと同時に真名とその周囲に四つの魔法陣が浮かんで、それぞれに真名の姿が浮かび上がる。
そして本体を含めた五人の真名が湖の騎士の周りに転移する。
湖の騎士は表面上は落ち着いているようにも見えたが、慌てて包囲網から出ようと行動する。

「逃がしません」

しかし、前衛、後衛のポジションを変えた茶々丸がガトリング砲を用意して、銃口を向ける。

「悪いね、全部……幻さ」

まさか味方ごと撃たないだろうと計算し、本体らしい真名を盾にしたはずが……それさえも偽者。
事前に茶々丸と真名が決めていた作戦の一つを行い、その罠に湖の騎士が陥った。

「ターゲットロック……これで終わりです」

淡々と声を出して、茶々丸が銃撃を開始する。
怒涛の如く叩き出される銃弾が湖の騎士が緊急展開した盾に当たり機動力を削いで行く。
茶々丸が銃撃を加えながら、徐々に湖の騎士の元に向かう。
緊急転移による脱出したい湖の騎士だが、接近する茶々丸のAMFが魔力の結合を阻害して……魔法の発動を狂わせる。
そして絶好の狙撃ポイントへと転移した真名が自身の持つデバイスの切り札を展開していた。

《チャンバー内、圧力上昇》

狙撃モードの形態に変化したロックオンが魔力による高圧力で放つ実弾の準備を開始する。

「……逃しはしないさ」

息を潜め、チャージが完了する瞬間を真名は待つ。
甲高い音が周囲に響き、銃口から煌めく光が漏れる。

《チャージ完了》

ロックオンの完了の声と同時に真名はトリガーを引く。
軽く引けたトリガーとは正反対に真名の身体に巨大な反動が襲い掛かる。

「―――ぐっ!」

反動を中和していたのだが、それで中和しきれない力を真名は耐えてみせる。
音の壁を楽に突破し、飛び出した銃弾は実弾であるが故にAMFなど関係なくその威力を発揮する。
防御に徹していた湖の騎士の盾を簡単に貫き、頭蓋を砕き、その余波が上半身も同じように吹き飛ばした。

……後に残っていたのは物言わぬ下半身のみだった。


「やれやれ……そうそう使うわけには行かんな」

魔力で構成された湖の騎士の下半身が消えていくのを見ながら、真名はその背後の風景を見てため息を吐く。
着弾した木々に円状の大きな穴を穿つだけに収まらずに地面さえも抉り削って伸びる破壊の爪痕。
高出力の電磁力で撃ち出す電磁投射砲――レールガン――のように魔力で高密度に圧縮して実弾を発射するロックオンの最大の切り札の威力に満足しつつ、真名 は反動の軽減を何と かしなければと思う。

「狙撃と言うより……ボーリングマシンによる掘削かな?」

防壁たる盾があったから下半身が残っていたと真名は判断する。
もし一般人に使用していたら、確実に消滅するに留まらず周囲ごと粉砕しているだろうと思い、魔法使いが相手でも障壁を無視して撃ち抜ける威力があるだろう と感じさせる。

「茶々丸、他の戦闘に加われるか?」

動きを止めていた茶々丸に声を掛ける真名。
二人の戦いは一応の決着はついたが……まだ戦いは続いていた。

「…………申し訳ありません。システムの一部がオーバーヒートしています。
 新しいシステムに負荷が掛かり過ぎたようです」

戦闘後のシステムチェックを行っていた茶々丸が深刻そうな表情で告げた。
一刻も早くマスターであるエヴァンジェリンの支援に向かいたいのに……動く事が出来ない。

「そうか。実は私もさっきの攻撃で鎖骨にヒビが入った」
《マスター、銃身が熱による歪みが出ています。
 修理と調整に若干の時間を要します》

治療の魔法を発動させながらロックオンが状況を報告した。

「お互い……しばらくは行動不可ですね」
「そうだな」

本当はすぐにでも援護に向かいたい二人だが、現実は厳しく反映する。
過剰に稼動させたわけではないが、想定以上の負荷が掛かって動けない茶々丸に、携行出来るほどのサイズに纏められた電磁レールガン並みの破壊力を持つ魔力 による超高速の弾丸の反動で損傷したデバイス――ロックオン――を持つ真名。
歯痒い気持ちを持ち、一刻も早く友人の手助けをしたいと感じていた。


湖の騎士、撃破。

されど茶々丸、真名の両名の即時戦闘復帰は困難だった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

まず第一戦が終了しました。
まあ、ネギの場合は閉鎖的な環境故に人に頼る事を教わっていないのが不運かもしれません。
原作でも同年代の男友達は小太郎しかいませんし。
仲間というものをよく理解せず、強力な戦闘力を持ち、単独で活動していた父親に憧れるのも問題ですが。
アスナみたいに少々強引に物を言う少女が居なければ……独り突っ走って自滅しているかもしれませんね。

それでは次回でお会いしましょう。




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