続いていく時間 開かれた未来

新たな絆を大切にしよう

私はこの光景を見続けたい

だから守り抜こう 家族と一緒に

帰るべき場所を



僕たちの独立戦争  第二十八話
著 EFF



会長室で書類整理をしていたアカツキの前にクロノとアクアが突然現れた。

「………どちら様ですか一応聞いておきたいねえ」

「呼ばれたから来たんだがエリナから聞いていないのか、子供達を引き取りに参上した」

「クロノ喧嘩はダメですよ、初めましてアクア・ルージュメイアンです。

 こちらは私の夫の予定のクロノ・ユーリです、子供達は何処ですか」

「そうなんだ〜君が噂のアクアさんか、一度話がしたかったんだよ。食事でもどうですか」

「いい気なもんだな、無能な男がナンパなどしないで仕事をしろよ」

アカツキの軽い調子にクロノが痛烈な皮肉で応戦した。

「君にそこまで言われたくないね、いきなり無礼じゃないか。それとも妬いてるのかな」

「何の為に社長派の不正資料を流したのか分からんようだな、

 お前の力を強めて火星の悲劇を無くそうとしたが無駄に終わったよ。

 期待外れの馬鹿野郎が、テンカワ・アキトは最後までお前を信じていたぞ。

 アイツに力があれば火星の悲劇を回避できる助けてやって欲しいと言い遺したが、

 それは意味が無かったな、アイツは大事な友人だと言われたが……結局彼の信頼は裏切りで返されたよ」

告げられたクロノの言葉にアカツキは何も言い返す事は出来なかった。

「さっさと呼んでくれ、ここには用はないな。もうネルガルには来ないよ、来る時は敵になった時だけだ」

「クロノ言い過ぎですよ、すいません口が悪い人で」

謝るアクアにクロノは更に皮肉で返す。

「自分の都合しか考えない馬鹿に謝る事はないな、130万人の住民を殺したんだ。

 それも自覚が無いときた、いい加減責任を持って仕事をしてもらわんとネルガルを潰す事になるぞ」

「まあそれもそうですね、中途半端な事では困りますね。でもネルガルの社員は何も知りません、

 彼らに暴露して重役陣と一緒に退陣してもらいましょうか」

「随分きつい事を言うね、僕の苦労も知らずに勝手な事を言うな!」

二人の意見にアカツキは怒鳴り返すが、クロノは再び皮肉で応酬した。

「甘ったれるな、苦労した笑わせるな人体実験の恐怖を知りたいか。

 貴様らが俺達にした事をお前の体にしてやろうか、過剰なナノマシンの投与、

 麻酔なしで身体を切り刻まれる痛み、人間扱いされない苦しみを味わうか。

 全てはお前達の欲望のせいだろう、命を失いかける毎日を味わったか、気が狂うような毎日を知っているか。

 それでも勝手な事と言うつもりならこの場で殺してやるよ」

殺気を放出してアカツキに尋ねるクロノにアカツキは怯えるように下がった。

「失礼します………だっ誰よ、何をしているの」

エリナが異変に気付いて来るとそこにはアカツキと二人の人物が立っていた。

「子供達を迎えに来ましたよ、ついでに会長さんに文句を言ってる所ですね。

 随分都合のいい事ばかり言われるのでクロノが殺しかねないので早く行きましょうか。

 この人を殺す価値はありませんよ、そんな重要な人物ではありませんよ。

 子供達を迎える事が大事です、行きましょうクロノ」

アクアがエリナに答えて、クロノが殺気を消してエリナに告げた。

「何処だ、これ以上俺を怒らせるな。ふざけた事を言われて切れそうだよ、早く案内してくれ」

「わっ分かりました、こちらです。……ついて来て下さい」

クロノのバイザー越しに貫くような視線にエリナは怯えるように案内した。

クロノは会長室を出る前にもう一度アカツキに言った。

「甘えるなよ、お前は人殺しの一人にすぎない。

 今のままだと俺ではなくても別の誰かの復讐の刃がお前と家族に向けられるぞ。

 その時苦しむのは家族だぞ、お前の罪を肩代わりさせる気なら構わんが、

 兄貴を失った痛みをまた味わう事になるぞ、今のうちに覚悟を決めて責任を持って行動しろ。

 今ならまだ間に合うぞ、もう十分だろう父親の真似事など。兄貴のようになるんだな」

その言葉にアカツキは反応してクロノを見たが既にクロノは部屋にはいなかった

「甘ったれるなか、きつい事を言いながら大事な事を言われたな。

 兄貴のようになれか、兄さん………僕は兄さんのようになりたいです。

 今からでもなれますか………違うな戻る事は無理か、自分のやり方で兄さんのようになるしないか」

アカツキもまた覚悟を決めようとしていた。


「随分きつい事を言いましたね、少しかわいそうな気もしますが」

「そうか、人体実験の恐怖を知らないくせに自分が苦労したと言われてどう思う」

「そうですね、あなたが受けた苦しみを味わって欲しいですね。

 五感が破壊されかけ生ける屍の日々を知って貰いましょうか、エリナさんは体験しますか」

さり気なくエリナに振ってアクアはエリナの反応を見ていた。

「けっ結構です」

「一度味わうべきだと思いますね、そうすれば世界が変わりますよ。

 エリナさんもモルモットになれば人体実験の苦しみを理解できますよ、どうですか」

「ほっ本当に結構です、すいません………許して下さい」

怯えるようにアクアに謝るエリナにアクアは、

「謝るくらいなら最初からしなければいいんですよ、エリナさんも家族が死ねば痛みを味わいますよ。

 その時は後悔しても家族は戻ってきませんね、まあ覚悟が出来ているから大丈夫でしょう」

「そっそんな事はさせないわよ、殺すなら私を狙えばいいでしょう。

 どうして家族を狙うのよ、卑怯よ!」

怒り出すエリナにアクアは平然と返した。

「決まってるでしょう、あなたに苦しみを味わってもらうからよ。

 自分のした行為に苦しんでもらうなら何でもするわ、奪われる苦しみを知りなさい。

 自分が加害者から被害者になるだけ立場が変わるだけの事ですよ、

 そんな世界の住民でしょう私達は。覚悟が出来ないと苦しみますよ、理解しましたか」

「………そこまでする必要があるんですか」

「何を言うかと思えば火星の住民にした事を忘れたのか、自分が大量殺人者だと自覚しないと大変だぞ。

 殺し殺される世界にいるんだ、覚悟がないなら降りた方が楽になれるぞ」

クロノのセリフにエリナは自覚の無さを再認識させられた。

やがて三人は子供達の部屋に着いた。

「ここです、子供達をお願いします」

扉の前でエリナは苦しそうな表情で伝えた。

二人は頷いて部屋に入りエリナが後に続いた。

部屋の中の子供達はクロノ達に怯えるように部屋の隅に逃げた。

クロノはバイザーを外して子供達の一人に近づいて膝をついて手を伸ばしたが、

怯える男の子はその手に咬みついたがクロノは頭を撫でて優しく話した。

「大丈夫だよ、君達は俺達が守るよ。もう怖い思いをさせないよ、ここから出ような」

「私達があなた達の家族になります、痛くて苦しい事はもうさせませんよ」

アクアが怯える子供の一人を抱きしめて優しく告げると子供達は二人を見て抱きついて泣き出した。

二人は泣きじゃくる子供達を抱きしめて泣き止むのをただ待ち続けた。

エリナはそれを見てネルガルのした事に後悔していた。

泣き疲れて眠った子供達を抱き上げてクロノはエリナに告げた。

「ではこの子達は俺達が両親になって育てるよ、戸籍は火星で作るからいらないな。

 二度とネルガルはこの子達にかかわるな、俺達の子供に近づく事は許さないぞ」

そう言ってフィールドを発生させると二人は消えていった。

残されたエリナは自分の愚かさに気付いて自己嫌悪になっていた。

いい気になって犠牲を出し続けた、それが今自分に向かって牙を見せている。

その恐怖に耐えられるかはいずれ分かるだろう。


―――火星 ヒューズ邸―――


「お帰りなさい、パパ、ママ………どうしたのその子達は」

セレスが二人に尋ねるとアクアが微笑んで、

「私達の新しい家族よ、弟と妹になるわね。優しく仲良くしてあげてね、セレス」

その声にセレスは、

「もしかしてあそこから助けたの、パパ、ママ」

「別の所だよ、お姉さんになれるかなセレスは」

「なれるよ、ママやルリ姉ちゃんみたいになってみせるよ。だからまかしてね、パパ」

嬉しそうに微笑んでセレスは子供達を見ていた。

そこにマリーが来てアクアに話した。

「ダッシュから聞きました、お部屋の用意が出来ています。こちらになります」

「ごめんなさい、マリー。負担ばかり掛けてしまって」

「大丈夫ですよ、三人とも優しいお姉さんとお兄さんになれますから負担は少ないですよ」

マリーは微笑んでそう話した、セレスも隣で頷いていた。

二人は子供達を抱きかかえて部屋へと向かい、子供達をベッドに寝かした。

「健康面は大丈夫みたいだが心のケアが必要だな、セレス達のように笑顔を取り戻してやらないとな」

「大丈夫だよ、パパ。私はパパとママが居てくれたから、みんなもきっと大丈夫だよ」

眠る子供達を見つめながらセレスはクロノに話しかける。

「それにルリ姉ちゃんやラピスにクオーツもいるよ、サラちゃんやジェシカさんもいるし、

 火星のみんなが助けてくれるよ」

「そうですよ、ここには温かい人達がいますよ。だから大丈夫です、クロノさん」

「そうですね、ルリちゃんはどうですか。まだ悩んでいますか」

「はい、みんなに気を使っているようです。

 ですが一度会う事をなされるでしょう、自分の答えを見つける為に」

マリーの言葉にクロノはルリの幸せを願った。

「ルリちゃんが決めたなら笑顔で送り出しましょうね、クロノ」

少し寂しそうに話すアクアにクロノは、

「大丈夫だよ、どんなに離れても絆は切れないよ。

 ルリちゃんは家族だ、どこに居てもピンチの時は俺達が助けに行くさ………そうだろ」

「ええ、守りますわ。大事な妹ですからどんな時でも助けを求めたら駆けつけますわ」

「その時は私も行くよ、お姉ちゃんを助けるなら何処でもついてくよ、パパ、ママ」

セレスの声にアクアは優しく微笑んで、

「セレスもいれば無敵ですね、まあルリちゃんは私の一番弟子だからそんな事はならないと思いますが」

「む――――ルリ姉ちゃんはママの一番弟子なの、私が一番だと思ったのに」

拗ねるセレスにアクアは頭を撫でて、

「一度対戦してみる、セレス。オペレートならママより上かもしれないわよ、でも勝つのはママだけどね」

「どうして、おかしくないかな。どうして負けちゃうのルリ姉ちゃん」

「経験の差よ、こればかりはまだママの方が上よ。そのうち追いつかれるけどね、楽しみだわ」

「負けてもいいの、ママ」

「いいわよ、私を超えてどこまでも上に行ってくれると嬉しいな。

 セレスもラピスもクオーツもママより強くて優しい人になってね、あんな研究員にはならないでね」

「大丈夫だよ、ママ。私はパパやママみたいになるから」

しっかりと話すセレスにアクアは微笑んで抱きしめた。

クロノとマリーはその光景を優しく見守っていた。

(俺は家族を最後まで守り続けるさ、この子達もセレス、ラピス、クオーツ、

 マリーさん、そして………ルリちゃんにアクアを命に代えても守ってみせるさ)

こうして新しい家族が増えて、クロノは決意を新たにしていた。



―――木連作戦会議室―――


『閣下、準備は整いこれより火星に正義の鉄槌を与えてきます』

モニターに映る高木に草壁は、

「期待しているぞ、木連の正義を見せるのだ。我々は勝って地球に進むのだ」

『はっ、お任せ下さい。全艦発進せよ』

高木の号令と供に艦隊が動き始めた、その光景を草壁は、

「火星など敵ではないな、地球を落としてみせるぞ。勝つのは私だよ、私の木連だ」

その発言に士官達も草壁の危険性に気付いていたが、一部は聞かなかった事にして誤魔化した。

別の者は木連の未来を案じて危機感を募らせた。

また変えるべく動き出そうとする者達も存在した。

木連は混沌と化して、事態が僅かではあるが変わり始めていた。

その先に何があるかは、まだ誰にもわからない。


―――地球衛星軌道上 空母ミストルテイン―――


「艦長、まもなく合流時間になりますがまだ来ていませんね」

副長の報告にアルベルトは平然として語った。

「大丈夫だろう、それより艦内の様子はどうだ。クルーは混乱していないか、

 なんせ初めての事だからな不安な者も出てくるだろう、その点は大丈夫かな」

「うちのクルーはタフな連中ですよ、民間人に出来て俺達が臆病風に吹かれる事はねえと叫んでましたよ」

苦笑する副長にアルベルトは、

「向こうに着いたら、合同で演習を行い決戦の準備を始めるぞ。火星の連中には借りがあるから返さんとな」

「そうですね、借りっ放しは嫌ですね。ここらで地球の事も見直してもらいましょう」

そう言って二人は話し合っているとオペレーターが、

「来ましたボース粒子が増大しています、ジャンプアウトします」

「来たか、火星の戦艦はどんなものかな」

アルベルトの声に戦艦が現れたがそれを見たブリッジは声が出なかった。

「でかいな、何か違うような気がするな……勘でそう感じるだけだが」

「艦長、通信が入ります」

「おう、繋いでくれ」

『こちら火星宇宙軍旗艦ユーチャリスU、これよりまず二隻を格納して火星に向かう。

 準備はよろしいか、アルベルト提督』

「艦長でいいよ、どうも提督と言われるのは恥ずかしいんだよ。しかし大きな戦艦だな、クロノ大佐」

『クロノでいいさ、俺も大佐と呼ばれるのは苦手でな。この艦はドック艦なんだよ、

 ナデシコ級なら二隻まで搭載出来るのさ。運搬には便利だからこいつで来たのさ』

「なるほどな、ではまず空母ミストルテインと戦艦グンニグルを送ろう。副長通信を入れて準備を始めてくれ」

「わかりました、準備を始めます」

アルベルトの命令に副長は準備を始めた、それを見てアルベルトはクロノに、

「火星の状況はどうですか、木星は動きましたか」

『ああ、侵攻を開始したよ。俺も移動が終わり次第、迎撃に行く事になるな。

 まず鹵獲した無人戦艦の艦隊で攻撃を始める予定だ、それからジャンプによるゲリラ戦をするよ』

「最後に地球と合同で決戦するのか、途中で引き返さないかな。俺なら撤退を考えるが」

『無理だな、自覚が無いんだよ。正義が勝つと信じきっているから逃げる事はないよ』

「馬鹿だろう、現実を見てないのか。異常だぞ、木星は」

『アニメが聖典の国だ、しかも独裁者に踊らされている。狭い国だから無知な人間しかいないよ』

「そこまで酷いのか、事後処理が大変だぞ。戦後の対応で反乱が何度でも起きるぞ」

『それを解決しないとダメだな、連合は大丈夫かな……火星はそれを心配しているんだ。

 戦後駐在する人間が馬鹿なら確実に反乱が起きるぞ、それを避けたいんだよ』

「確かに重要だな、俺からも要望書という形で連合と軍に注意を促すよ。

 連合も変わってきてるから大丈夫だろう、軍も大丈夫さ」

『俺はこのままの状況で市民を交流させてから国交を正常にした方がいいと思うんだ。

 木連の市民の意識改革をしないと何も変わらないように思えるんだ、

 単純と言える人が多くて交渉も満足に出来ないから、まともな交易も出来ず騙されまくる事になるぞ』

クロノの意見にアルベルトも木連の様子に呆れていた。

「疲れそうだな、自分の都合のいい事しか見えないような人間ばかりに聞こえるのだが」

『そうだよ、そんな人間が軍の責任者なんだよ。怖い事だよな、地球も火星も気をつけないとな』

「全くだ、苦労ばかり増やされて困る事になるな」

そう言って二人は苦笑して通信を終えて火星へと移動した。

着々と決戦の準備が完了していく、終わりと始まりを迎える為に。



―――ナデシコ ブリッジ―――


「………次の目的地はピースランドになります。

 そこでは戦闘はありません、アクアさんと合流して火星に向かいます。

 合流までの間は休憩時間になります、72時間ありますので上陸の許可も出ました。

 買い物がある方は私に連絡を入れてコミュニケを持って降りて下さい」

緊張した雰囲気のプロスにクルーは変に思ったがセリアの、

「ピースランドか……ホシノさんの実家が在ったんですね」

この一言でプロスの様子に納得した、そしてカスミが続いて、

「ピースランドってどんな国ですか、実はよく知らないのですが」

『永世中立の国で産業は特に注目するものはありません、ギャンブルと金融関係が優れた国です。

 また王族による政治形態の国であり、ホシノ・ルリさんは国王夫妻の娘で長女です』

「そうなんですか、シオンはどうして知っていたのですか」

『マスターが教えてくれました、ネルガル、クリムゾン以外の企業もここに隠し口座を持ち、

 企業にとっては重要な意味を持つ国だと聞いてます』

「そうですな、企業にとっては税金が掛からないありがたい国です。

 ですから敵にする事は絶対に避けたいところなのによりにもよって…………喧嘩をする事になれば、

 ネルガルは終わりかもしれませんね、皆さんも問題を起こさないで下さいよ」

悲壮感溢れるプロスにクルーも中間管理職の悲哀を見せられて困惑していた。



「さてルリちゃん、心の準備は出来ましたか。今なら逃げても大丈夫です、責任は私がとりますよ。

 ここを進めば後へは引けません、いいですか」

「アクアお姉さん、脅かすのはやめて下さい。逃げたらお姉さんに迷惑が掛かります、そんな事は出来ません。

 顔が笑ってますよ、冗談はここまでにしましょう」

門の前で二人は話すがアクアは膝をついてルリと顔を合わして、

「そんな事はいいのよ、貴女が嫌なら連れて逃げるわ。私は貴女が幸せになれるならそれでいいから」

真剣に話すアクアに側に控えていた執事は、

(姫様には良き姉がおられたのですか、陛下もお喜びになられるでしょう。

 調査報告を見て憤りを感じておられましたから、この事は嬉しく思われるでしょう)

「アクア……彼女が決めたのだ、我々は最後まで見守ればいいのだよ」

「ですがお爺様……すみません、余計な事を言いました。ごめんなさい、ルリちゃん」

ロバートの声にアクアも従い一行は進み始めた。

ピースランドに連絡を入れたロバートは国王夫妻に状況を報告し今回の謁見の求めた。

そしてピースランドもまた調査を終えてネルガルに連絡を入れる前の事であった為に、

急遽、謁見を行う事に決まった

回廊を通り抜け謁見の間の扉の前に着くとルリは不安になり始めた。

「お姉さん、大丈夫ですね。火星に帰る事は出来ますよね」

「……無理かもここまで来たら会わないと帰れないわよ、ルリちゃん」

アクアに尋ねるとそう答えてアクアは執事に話しかけた。

「すいません、少しだけ時間を下さい」

その言葉に執事は頷き、背を向けた。

「ルリちゃん、不安なのは分かるけど逃げる事は出来ないわ。

 でもね………最初に貴女に教えた事を覚えているわね、諦めたらそこで終わりよ」

その言葉にルリは、

「自分で決めたんです、後悔はありません。これではお姉さんを超える事は出来ませんね」

「違うわ、ルリちゃんはもう超えているわ。私はクロノがいて運命に立ち向かう事が出来たの。

 でもルリちゃんは自分でここに来たわ、だから大丈夫よ」

そう言って優しく抱きしめて話した。

「違います、お姉さんがいてクロノさんがいてラピス、セレス、クオーツにマリーさん、

 ロバートさんにみんなが私に手を差し伸べてくれたから強くなれたんです」

「国王夫妻は優しい人だよ、公の場所では冷たい人に見えてもプライベートでは大丈夫だよ。

 ドンと飛び込んで甘えなさい、十年分を取り戻しなさい」

ロバートがそう言って微笑み、ルリも微笑み返した。

(姫様は大事な事を学ばれたみたいですね、立派な姫になられるでしょう。

 ですが火星に行かれるかも知れませんね、それでも姫様が幸せなら陛下も許されるでしょう)

「もう大丈夫ですね、開ける前に言っておきます。私とクロノは貴女が困った時は何時でも来ます、

 それは貴女が姫だからではありません、大事な家族だから来るのです。

 だから何時でも頼っていいですよ、ルリちゃん」

微笑んで話すアクアにルリは、

「嫌です、私は守られるだけの存在にはなりませんよ、お姉さんが頼りに出来るようになりたいです」

「生意気ですね、そんなに弱く見えますか。一度コテンパンにしちゃおうかしら」

「無理ですね、そう簡単に負けませんよ。必ず超えてみせますよ、アクアお姉さん」

二人は笑いながら顔を合わしていた。

「さていいかしら、ルリちゃん」

「はい、アクアお姉さん。もう大丈夫です」

その声に執事が扉を開け始めた、その光景にルリは前を見て歩き始めた。

アクアは感慨深くその光景を見つめていた。


謁見を終えて控えの間にアクアとロバートは通された。

「今回の件は誠にありがとうございます、両陛下に代わりお礼を申し上げます」

深く頭を下げる執事にアクアは、

「いえ、連絡が遅れた事を謝罪しなければならないのはこちらの方です………申し訳ありません」

「ですがそれは仕方がないと陛下は言われました、姫様の感情を考えるとこれで良かったのです」

「ご存知でしたか、あの子の問題に気付いていましたか」

ロバートの問いに執事は頷いて続けた。

「はい、両陛下もこれには憤りを感じておられましたが、貴女のおかげで救われたと感謝されていました。

 立派な姫に見えましたよ、若い日の王妃様を見ているようでした」

遠い日々を思い浮かべる様に執事は目を閉じて話していた。

「似ておられますか、王妃様にルリちゃんは」

「はい、瞳と髪の色は違えど幼き日の王妃様にそっくりですよ。私の苦労も報われました、

 無事にお会いされる事が出来て……本当に感謝します」

十年以上探し続けていた苦労を今まで感じさせなかった執事の様子にアクアは報いる事が出来たのだと思った。

扉がノックされ王妃が二人の前に姿を見せた。

アクアとロバートは立ち上がり頭を下げて礼をするが、王妃は静かに二人に話しかけた。

「礼など無用です、この度は本当にお世話になりました。もう諦めかけていたのですが、

 こうして元気な姿を見る事ができた事に本当に感謝します。アクアさんには本当に感謝します」

王妃が深く頭を下げる姿にアクアが、

「そんな事はありません、亡くなられたテンカワさんの遺言を守っただけです。

 あの方は最期までルリちゃんの身を案じておられました、私はその手伝いを少ししただけです」

「それでもアクアさんがあの子を立派に育ててくれた事には変わりません、

 良い目をしていました、前を真っ直ぐ見て運命を切り開いていく力を感じました。

 強さと優しさを兼ね備えた見事な姫君になりましたね、それだけでもう…………」

会えた娘の姿を嬉しく思い王妃は言葉が続かなくなり、周囲も何も言えなかった。

ずっと捜していたのだろう、王妃の思いにアクアは

「これからです、失った時間を取り戻しましょう。蟠りもいずれ解決します……家族ですから」

その言葉に王妃も嬉しそうに頷いたが、

「残念ですよ、あの子は火星に戻るそうです。あそこに守りたい家族がいるそうです。

 大勢の人に助けてもらったので、今度は自分が力を貸す番だと言ってました。

 ですがまた会いに来ると言ってくれた事は嬉しいです、どうかあの子を守って下さい」

「必ず守ります、私はまだあの子の笑顔を見続けたいですから、必ず連れて戻ってきます」

アクアの真摯な態度に王妃もルリが無事に帰って来る事を確信した。

ロバートと執事は静かにその光景を見ていた。

「では王妃様、火星のルリちゃんの事を話しましょうか。まずは知る事から始めましょう」

「そうですね、是非聞きたいですね。ボーイフレンドはいますか」

「まだいませんね、同年代の男の子がいませんから戦争が終われば学校に通わせようと思っていたのです。

 でも同い年の男の子は幼すぎてダメかもしれません」

「そうですか、嬉しいような残念な気もしますね。

 私は男の子しか育てていないのでルリには綺麗なお洋服を着せたいですね」

「その点はお任せ下さい、これはどうでしょうか」

アクアが王妃にルリの映像を見せ始めた、それを見た王妃も楽しそうに話す。

「見事ですね、他にもありますか。やっぱり女の子はいいですね、着させる楽しみがありますね」

「はい♪、素材がいいから似合うのですが、嫌がるのです。服に興味がなくて困ります」

「それはいけませんね。由々しき事態ですね、改善しなければ」

真剣に話す王妃にアクアが、

「では王妃様のプレゼントとして贈られるのはどうでしょうか、これなら一度は着ますし着る事で変わるかも」

「ですが逆効果になりませんか、無理に着せるのは問題がありますよ」

「他の子供達と一緒にすれば大丈夫です、みんなと着るなら文句を言わないでしょう」

そう言ってアクアはラピスとセレスの映像も見せた。

「この子達と新しい家族と一緒なら着るでしょう、映像は随時お届けします」

「女の子はいいですね、可愛くて華がありますね」

うっとりと映像を見る王妃にアクアも、

「その通りです、これなど如何ですか」

「いいですね、ルリの姿もみたいものです。アクアさん期待してもいいですか」

「はい、これは成功させるべき事です。これなど素晴らしいものですよ」

アクアが見せる映像に王妃も頷き、

「恥らう姿がいいですね、側でみたいものです」

「次に来る時は二人で見ましょう、そのための準備をしておきましょう」

「楽しみな事です、綺麗なお洋服を用意しなければいけませんね」

「慎重に進めましょう、失敗は許されません。ルリちゃんも勘が鋭くて逃げるのが上手になりました」

残念がるアクアに王妃も声を潜めて話し出した。

その光景にロバートと執事はルリの運命に不安を感じていた。

「お母様とアクアお姉さん、どうかしましたか」

ルリの声に二人は振り向き慌てて話した。

「何でもないのよ、ルリちゃんの火星でのお話をしてたの。好きな食べ物とかね」

「そうですよ、ルリの事を知りたくてアクアさんに無理を言いましたね。

 それより似合いますよ、ルリ。綺麗ですよ、母は嬉しく思います」

ドレスを着たルリを見て王妃は嬉しそうに話すがルリは、

「私には似合わないような気がします、服はシンプルで機能性が優れていれば十分です」

その言葉に二人は顔を合わせて頷いた。

「どうかしまたか、やはりこの服装は変ですか」

二人は沈痛な顔でルリに問いかける。

「おかしくないわ、似合いますよ。ルリちゃんは美少女ですからもっと服に気を使って下さい」

「その通りですよ、ルリ。母が服を贈りますからそれを着て下さいね」

「そうでしょうか、セレスやラピスは似合いますが私は似合いませんよ」

二人はルリの考えを改める為に決意をかためた。

(必ず着せてみせます、ルリちゃんの為、私と王妃の為に)

(任せますよ、ルリの為、私達の為に)

………見事なアイコンタクトであった。

こうしてルリの知らない所で静かに計画は進行していった。

ルリの苦難はこれからであった。










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EFFです。

今回のお題は
セレス、お姉さんになる。
プロス、中間管理職の悲哀を体験する。
アクア、ルリの着せ替えを計画する提出した(汗)

ルリの運命はどうなるのか、アクアの魔の手から逃げられるのか(爆)
外伝を書ける事を祈って下さい

それでは次回でお会いしましょう。

感想

ごめんなさい。
こういうのは初めてなのですが、どうにも、ついていけそうもありません。
私的にどうしても一方的なものは苦手なんです。
敵対者や一発キャラに対する愛情や、個々キャラの個性といったものを私は大事に読んでいるつもりです。
残念ながら私にはその辺りを感じ取る事が出来ませんでした。
人気作品ですので、出切ればこれからも感想を入れたかったのですが…
今後は、感想をきちんと入れられる自信がありません。
申し訳ありません。




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