現実を見ない愚か者達の最期が来ていた

我々のしてきた行為の成果はようやく実を結んできた

それだけに不安もあるが最期まで家族と共に生きていこう

この火星で




僕たちの独立戦争  第三十一話
著 EFF



『やはり来たみたいです。現在遺跡へ侵入しています、数は二十二人です』

「そうですか、北辰が率いていますか」

ダッシュの報告にエドワードが確認するとスタッフも緊張を見せていた。

『小型チューリップを用意していますね、これなら回収後すぐに脱出できますね』

「そうですか、北辰達が火星から離脱後すぐに破壊しましょうか」

『いえ監視だけにしてダミーを起動後、破壊しましょう。すぐに破壊すると警戒されるかも知れません』

「研究者を避難させて正解だな、都市の方は問題ないかな、ダッシュ」

『グレッグさん、都市への攻撃はないみたいです。北辰も必死ですね、この作戦自体が無謀ですからね。

 命懸けの行為ですよ、しかも成功しませんから………哀れですか』

木連の悪あがきにダッシュも呆れていたが、スタッフは当然の結果だと感じていた。

「それより艦隊の方はどうなっていますか、最終防衛ラインの準備は出来ましたか」

『はい、全て終えました。現在はジャンプ攻撃で木連艦隊の損害を増やしています。

 推定した結果以上の被害を与える事が出来ますね、おそらく二千隻も残りません』

「はっきり言って馬鹿だな、ここまでの被害を出してもこの火星に侵攻するか。

 信じられないな……木星は現実を見る事が出来ないのか、大統領はどう考えますか」

グレッグの呆れる様子にエドワードは意見を述べた。

「そうですね、決戦前に降伏を勧告してからですね。無駄だと思いますがそれが火星のやり方です。

 その後、草壁に報復の宣言をして決断を促します、まあこれも無駄かもしれませんが。

 報復は港湾施設、次に市民船の順で行います、決戦前にダミーを起動できたら良いですね」

『それが良いですね、草壁の責任を市民に追求させないと問題がありますよ。

 無人機を使って市民に火星の状況を教えて、報復を勧告しましょうか。

 そして無人機で攻撃するのはどうですか、信頼する無人機が自分達を攻撃する事態を味わって貰いましょう』

「いいですね、火星が受けた恐怖を知って貰うのも必要ですね。

 実は木連は既に火星に支配されている事を知れば驚くでしょう、無人機による殲滅戦を知るのも良いですね」

レイの発言にスタッフ全員が賛成したが、今回同席していたシャロンが訊ねる。

「でも切り札を使いますか、一度見せると次は使えませんよ。問題はありませんか」

『それは大丈夫です、木連は現在兵器開発者がいません。その為に無人機の放棄は出来ません、

 更に新兵器を造れない以上危険を承知で使用するしかないのです、

 ここまでの事態に持ち込むのに苦労しましたよ、皆さんご苦労様でした』

シャロンの疑問にダッシュが答えて、火星のスタッフの苦労を労っていた。

「あの子達が頑張ってくれましたね、心苦しいものがありますが」

「そうだな、子供に頼るのは苦しいな。ですがこれで終わりに出来たら良いですな」

「全くですよ、いい子ばかりで幸せになって欲しいですね。ただクオーツ君が心配ですが」

エドワード、グレッグの後のレイの心配にスタッフも考え込んでいた。

「まあ大丈夫でしょう、マリーが改善させるみたいですから。クオーツの朴念仁は変わりますよ」

「シャロンはそう言いますが、あれは筋金入りのものですよ。クロノに勝るとも劣らぬ朴念仁になりますよ」

「レイの言いたい事は分かっていますよ。でもマリーなら大丈夫ですよ、アクアを育てた人ですから」

「なるほど、それなら期待できますね。彼女を育てた人物なら、クオーツも変わるでしょう」

レイの安心を壊すようにエドワードが話す。

「アクアの育ての親か………不安だよ、予想の上ではなく斜めにずれていきそうだから」

「だ、大丈夫です。そんな事はありませんよ、これ以上不安になる事を言わないで下さい」

シャロンもエドワードの意見を否定できず不安を感じていた。

(まあ、大丈夫でしょう。人事だし苦労するのはアクアさんですから)

スタッフはそう考えて仕事に専念した。

火星はこの戦争に勝ち残り、未来を掴もうとしていた。



―――木連艦隊 旗艦こうげつ―――


「くっ奴等の位置は分かったか」

揺れる艦橋で高木は参謀に尋ねてみたが、参謀は同じ事を繰り返した。

「駄目です、既に発射された宙域には艦の姿はありません、見失いました!」

「なっ何故だ!どうして我々がここまで攻撃を受けるんだ、卑怯だぞ!姿を見せろ、火星軍ども!」

度重なる攻撃に木連艦隊は無残な姿になっていた、その光景に高木は苛立ちを隠せなかった。

空間歪曲場が役に立たず艦が次々と撃沈され、損害だけが増えていった。

「提督!一度閣下に連絡を入れましょう、我々は火星の罠に入りました。このままでは艦隊は火星に着く前に、

 全艦撃沈されます。これ以上の損害はいけません、無人機とはいえ再度作るのには時間が必要です。

 そこに火星の報復攻撃があれば木連が持ち堪えられません、このままでは危険です」

「駄目だ!この作戦は木連が勝つ筈なんだ、このまま進むぞ。火星の悪あがきに過ぎない勝つのは木連だ!」

高木の叫びに乗員達は不安を吹き飛ばそうと声を上げるが参謀は、

「まだそんな事を言ってるのですか、この光景を見てもそれが言えるのですか。現実を見て下さい、提督!

 艦隊は既に80%を超える損害を出しているのです、もう負けているのです………木連は」

その言葉に高木も乗員も何も言えなくなり、艦橋は静まりかえった。

「損害を報告せよ、詳細にしてくれ。まともに戦闘の出来る艦は何隻あるか、提督に教えてやってくれ」

参謀の指示によって出された被害状況は深刻なものだった。

「………損害は82%か、動けるだけで戦闘には使えない艦を合わせると88%になるか。

 提督………これでも勝てますか、火星に。私は無理だと思いますよ、空間歪曲場が役に立たない以上、

 火星の艦隊の攻撃を防ぐのは難しいです。火星の総攻撃の前に退くべきです、今なら間に合いますよ」

参謀の意見に高木もやっと状況を理解し始めたが、その時通信士が告げた。

「提督!火星からの通信です!どうしますか」

「………繋いでくれ、火星の考えを聞こうじゃないか」

苛立ちを押さえながら高木は画面を見つめた。

『こちらは火星宇宙軍、旗艦ユーチャリスU艦長のクロノ・ユーリだ』

「こちらは木連艦隊、旗艦こうげつの高木だ。随分と卑怯な事をするな、火星は」

『冗談にしては笑えんな、戦争を知らないのか。勝つ事が全てだよ、勝てなければ正義など無意味だな。

 現実を知らない木連にはいい教訓になっただろう。帰るなら見逃すぞ、感謝して欲しいな火星の優しさに。

 木連は平気で市民を虐殺したが、我々はそんな事を出来るほど狂っていないからな』

「ふざけた事を言うなよ、我々の正義は負けん!勝つのは木連だ、貴様等火星ではない」

『無理だろう、ここまで負けては火星まで来れんぞ。もっとも帰る場所があればいいがな』

「何を言っている、木連は負けていない。次は油断などしないぞ、必ず貴様らを倒してやるぞ!」

『それこそ無理だな、火星の報復攻撃が始まれば木連は終わりだよ。今までは市民船は攻撃対象外だったが、

 これからは攻撃するぞ。市民に被害が出ても勝てるかな、手加減なしで攻撃するからな半数は死ぬかな。

 まあ問題はないだろう、お前達と同じ事をするだけだ。火星の悲劇を味わってもらおうか。

 無差別に人が死んでいくのを見てもらう、自分達が火星で行った事を知ってもらうぞ、殺人者どもよ』

クロノの言葉に乗員は動揺し、高木も何も言い返せなかった。

『これが最後通告だ。撤退しろ、今なら見逃してやろう。クルーの命を大事にするんだな』

クロノはそう告げて通信を切った、高木は画面を見つめて叫んだ。

「ふっふざけるな!このままおめおめと引き下がれるか、勝つのは我々だ。全軍進撃するぞ」

高木の叫びに参謀は慌てて話す。

「お待ちください、提督。このままでは勝てません、今なら撤退出来ます。今回は退きましょう」

「駄目だ!俺はこんな姿を閣下には見せたくはない、奴等に木連の恐ろしさを見せてやる!」

「………分かりました、では進軍しましょう」

諦めた様子で話す参謀に高木は正義を口にして乗員をその気にさせるが参謀は思う。

(どうやら木連は終わりかも知れないな、これが軍の状態なのだから。

 まあ市民が死んでいく様子を見ないだけでも幸せかもな、秋山の言は正しかったよ。

 木連に正義はなかったな、あったのは現実を知らない馬鹿者達と独裁者が居ただけか)

正義を唱える乗員を見ながら、参謀は木連の命運が尽きた事を感じ取っていた。

木連は確実に滅びへと向かっていた。



スクリーンに映る艦隊を見ながらクロノは、ダッシュに問いかける。

「ダッシュ、木連は引き返すと思うか」

『無理ですね、引き返すなら既にしているでしょう。進軍を始めましたよ、マスター』

「………そうか、挑発しすぎたかな。木連に」

考え込むクロノにダッシュは

『ですが言わなければならない事でもあります、数では勝てないと木連に教える必要がありますよ。

 それに負ける事で現実の厳しさを理解するかも知れません。

 それに地球にも火星に喧嘩を売ればどうなるかを知って貰わないと』

「上手くいかないものだな、問題ばかり出てくるな。のんびり火星で生活できるのは何時になるやら」

『そうですね、家族が増えるのは良い事ですが上手く行きませんね、マスター』

「四人の子供達は元気にしてるかな、心配だよ。みんな幸せになって欲しいな」

『その為にも問題を解決させないといけませんね。あの子達には戦場へ出てもらう訳にはいきません。

 そうですね、マスター』

「ああ、俺達で終わらせようなダッシュ。そして火星でのんびりしような」

『はい、マスター♪』

ユーチャリスUのブリッジでクロノとダッシュは次の世代には幸せになって貰いたく作業をしていた。

その為の苦労など厭わない彼らであった。



―――クリムゾン会長室―――


秘書の報告を聞いてロバートは肩の荷が降りたように感じていた。

「連合もネメシスの件には謝罪する方向にしたそうです、流石に誤魔化すのは出来ないと判断したみたいですね。

 木連についても慎重な対応にするみたいです、裏から手を回した結果とはいえ市民の反発を恐れたみたいです。

 この戦争の裏側を知れば、市民も連合の非道さを理解したでしょう」

「そうだな、これには驚いたよ。こんな杜撰な計画など堪らんよ、火星が知れば戦争が起きたかもしれんぞ。

 アクアが言ったのは本当だったな、独立を恐れての火星殲滅作戦を木連にさせたなんてな」

「はい、これには私も怒りを覚えました。木連を挑発して火星を犠牲にして戦争を行うなど言語道断です。

 しかも勝てる保証もないのに戦争を始めたなんて愚かとしか言えません」

冷静沈着な秘書が怒る姿を見た、ロバートは苦笑しながら、

「珍しいな、冷静な君がそこまで感情的になるとはな。

 まあ私も君の気持ちは理解できるよ、正直地球にはついて行けないと思うよ。

 何を考えているのか、どうせ都合のいい事ばかり想像しての事だと思うがいい加減すぎるな」

ロバートの言葉に秘書は落ち着きを取り戻して報告を再開する。

「我々の調査では現在、連合市民の八割が今の連合議会に不審を抱いています、

 経済関係者も会長の話された内容に動揺していましたが、現在は落ち着きを取り戻し検討を始めたみたいです。

 このまま行けば連合の体質に不安を持っている者が半数以上になりそうです」

「そうかこの分だと楽隠居ができそうだな、次の世代に任せる事も出来そうだよ」

秘書の報告に穏やかに笑うロバートに、

「ですが会長がいなくなればクリムゾンは大変な事になりますよ、よろしいのですか」

「それも経験さ、それに何時までも私を頼るのは危険だな。もう年だからな健康面に問題が出そうだよ、

 突然倒れるよりも一歩下がって見ていれば不安もないだろう、違うかな」

「それはそうですが……あと少し時間がいると思います。今は難しいですね」

「そうかな、クロノなんてどうかね、次のクリムゾンのトップにするのは。結構良いと思うのだが」

「彼ですか…………悪くはありませんが無理でしょう、火星が手放してはくれませんよ。

 まだ前線指揮官が育っていませんから、もう十年は居て欲しいと思っているのではないですか」

「残念だな、ではグループ内に後継者が見つかるといいが、候補はいるかね」

「それこそ無理ですよ、今までの状況を考えると会長の次なんて逃げ出したくなりますよ。

 プレッシャーがきついですよ、まだしばらくはこの状態が続いたほうがいいと思います」

秘書の状況分析にロバートは苦笑していた。

「ワンマンのツケが出てきたか、まあ自業自得だと言われても仕方がないかな。だが何とかしないとな」

「アクア様かシャロン様なら大丈夫ではありませんか、昔のお二人ではダメですが今なら問題はありません」

「それは難しいな、アクアは子育てがあるからな。シャロンも火星の生活が気に入ってるみたいだからな。

 私の我が侭に付き合わせるのは避けたいな、まああまり時間はないが後継者を育てるかな」

「そうでもないですよ、重役達も変わってきてますから、後は待つだけですよ」

「それもそうだな、次の時代がそこまで来ていそうだな。楽しみだよ、誰がここに来るのかな」

「新しい時代が見えてきましたね、平和な時代になって欲しいものです」

「そうなる為に動いているのさ、では続けようか未来の為にな」

笑顔のロバートに頷いて、次の時代が平和で穏やかになって欲しいと思い二人は仕事を再開した。

………未来を少しでも良くする為に。


―――衛星ディモス 宇宙港会議室―――


「現在、ユーチャリスU艦長クロノ大佐率いる空母二隻で木連艦隊にミサイル攻撃が続けられています。

 これにより艦隊の損害は80%を超えましたが、なおも侵攻を続けています。

 よって最終防衛ラインで艦隊を全滅させます」

スクリーンを見ていたスタッフにレイは宣言した、スタッフもそれに頷いて準備を進めていた。

「信じられないよ、ここまで損害を出しても侵攻するのですか。僕なら撤退しますよ」

「俺もその意見には賛成するね、もっとも俺なら損害を出す前に下がるがな。

 対フィールドミサイルの攻撃を受けた時点で対応策がなければ無理に侵攻する必要も無いと思うんだが」

ジュンとアルベルトの意見に地球から来た艦長達は賛成していた、それにレイが意見を述べる。

「これが木連の狂気です、無人機に慣れて命の重みを忘れてしまったのでしょう。

 被害は殆ど無人戦艦ですから気にしていないでしょう、しかも現実を知らないせいで火星の悲劇が起きました。

 殲滅戦などという行為を平気で行う彼等に市民は英雄扱いですよ、理解できませんね。

 これらを踏まえて木連の今後の舵取りを進めないと反乱が何度も起きます、まずは市民の意識改革が必要です」

同席している地球軍の士官達も木連の状況を聞いて驚きを隠せなかったが、

「酷いものだな、地球以上に深刻な事態になっているな。地球は市民が現実を理解できるが木連には無理だな」

「アルベルトさんならどうします、僕は現状を維持するのは危険だと思いますが」

「アオイ艦長の言う通りだな、確実なのは戦争を理解させる事だな。血が流れれば気付くだろう、

 自分達の置かれている現実に、どうも戦争を理解してない馬鹿が大勢いるからな。

 だがその行為は危険な事になるかも知れないが、必要な事であればしなければならないだろうな」

アルベルトの発言は木連への進行を意味する事であったが、レイはそれに対して答える。

「現在、この宙域に監視基地があります、ここを前線司令基地にして進撃する事も可能ですね。

 この宙域は木連には戦略的に意味がなく無警戒の場所ですが、火星にはとても都合が良かったです。

 未だ木連はこの基地の存在を知りません、彼等はチューリップに頼り惑星間航行の知識がありません。

 囮の艦隊を進行させて、そこに意識を向けさせてここに戦力を集結させて攻撃を開始すれば簡単に勝てますね」

スクリーンに映し出される火星の木連監視基地は見事なものだった。

監視基地と言うがもはや要塞と言っても問題がない程の基地に見えていた。

「これはどうやって使って作り上げたんですか、これ程のものを気付かれずに作ったんですか」

士官の一人が動揺を隠せずに話すが、レイは平然と答える。

「鹵獲した無人機を分析して木連の位置を知り戦略的に放置した宙域を調べて、

 ボソンジャンプで移動して基地を建設しました、移動で発見される事が無いので準備が楽でしたよ」

「一つ確認したいのですが、この作戦の立案者はアクアさんですか」

ジュンの確認にレイが、

「その通りですよ、彼女のおかげで火星の作戦は秘密裡に進める事が出来ました。

 感謝してますよ、彼女がいてくれたので作戦立案者が鍛えられましたからね。火星にはとても重要な人物です」

「絶対敵にはしたくないですね、まだ奥の手がありそうですよ。木連も大変な事になりそうです」

二人の会話にアルベルトが訊ねる。

「誰なんだ、俺は会っていないから分からんが、火星の切り札みたいな言い方に聞こえるんだが」

「そうですね、ナデシコの元クルーにして火星の作戦参謀の一人で一流のパイロットにして戦士でいいのかな。

 多分本人はそんな肩書きはどうでもいいと思うけどね、違いませんか」

「間違いじゃありませんね、軍に所属はしていますが戦争が終われば退役して静かに暮らすと言ってますからね。

 惜しい人物ですよ、まあ子供達の世話をしないといけませんから仕方が無いですね」

レイが苦笑して話す様子にスタッフもつられて笑っていたが、地球から来た軍人には理解できなかった。

「それ程の人物なら何とかして軍に置いておけばいいのではないかな」

士官の一人の意見にジュンは、

「やめた方がいいですよ、その気のない人に強要はしない方がいいですね。敵に回せばまず勝てないですよ。

 エクスストライカーが一機あればクロノさん以外は負けない人ですよ、戦艦なんて動きの重い標的ですよ」

「クロノと互角に戦える唯一の人物ですからね、味方で良かったですよ、敵にはしたくない人物ですよ」

「敵にすればまず勝てませんね、正攻法では勝てないし、搦め手なんか逆に利用されるのが関の山ですね」

「流石に分かっていますね、イカサマさせたら絶対にばれませんね。ある意味ペテン師ですから」

「全くですよ、見かけに騙されるととんでもない目に遭いますね。詐欺ですよ」

笑う二人に近づく人物に気付いたスタッフは慌てて目を伏せた。

「ひどい言い方ですね、アオイさんにはお仕置きですね」

その声にジュンは吃驚して振り向いた。

「アッアクアさん、どっどうしてここにいるんですか。クロノさん達と一緒じゃないんですか」

冷や汗をダラダラと流してジュンは話すが、アクアは微笑んで話す。

「今回は家に子供達がいるのでみんなの相手をしてましたよ、ルリちゃんが教えてくれたので、

 来てみると艦長が面白い事を話しているので、声を掛けたんですが何が詐欺なんでしょうね」

(うう、どうしてこうなるんだ、アクアさんの目が笑っていないよ。僕って不幸だよね)

動揺して声が出ないジュンを見ながら、アルベルトがレイに尋ねる。

「こちらの方が噂のアクアさんですか、話を聞いても信じられないのですが」

「まあ見た目の印象ではそう思っても仕方がありませんよ、見た目はお嬢さんでも中は魔女ですから」

「レイも自分の事を棚に上げて言いますね。貴女の方がしたたかでしょう」

「まあ否定はしませんが、それはお互い様でしょう、アクア」

笑い合う二人の様子に周囲のスタッフは引いていたが、アルベルトは覚悟の上で質問した。

「とりあえず今回の作戦の後、木連の行動をどう考えているのか教えて欲しいですな」

「そうですね、彼等はこの戦争に勝利出来ると信じていますから、この程度では諦めないでしょうね。

 残念ですが、木連の市民船に攻撃せざるを得ないと判断しています。

 ただ攻撃前に市民へ通告しますよ、木連のした行為を教えて、これが戦争だと知って貰いますよ。

 自分達の軍が火星でした行為を知って貰わないと、何度も繰り返しますからね。

 いい加減、自分達が人殺しだと自覚して貰わないと困りますよ」

「まあ木連が変わらないとこの先地球の政府の暴挙が起きる確率が大きいですからね、

 火星としてはかなり手加減しているのですよ、全滅させないように苦労していますよ。

 数さえ揃えば地球も全滅させる事も可能ですよ、する気はないですけど地球の態度次第では始まりますよ」

アクアとレイの意見に士官達も驚いていたが、アルベルトが真面目に答える。

「その点は出来る限り善処しよう、流石に連合市民も政府の馬鹿さ加減に付き合いきれないみたいだ。

 今回の件で政府も様変わりしてきている、ネメシスの件は必ず謝罪させよう」

「それ以外にもあるんですよ、木連との交渉でわざと怒らせて火星に侵攻させるように仕向けた件もあります。

 まあ火星の住民の命を軽く扱ってくれますね、地球の謝罪がなければ大変な事になりますね。

 いっそ自分達の頭の上にネメシスでも置きましょうか、そうすれば自分達の行為が愚かか分かるでしょうね」

冷めた声で話すアクアに士官達も反論など出来なかった。

「その件も知っているよ、この戦争が終われば彼等も無事には済まないよ。

 既に連合の解体を行い自浄作用を始めているからな、無責任な政治家達は舞台から降ろされているよ。

 責任追及は必ず行おう、これで良いかな」

毅然としたアルベルトの発言に二人は、

「ではお任せしますよ、戦争なんてしない方がいいですからね」

「アクアの言う通りですよ、火星としてはこれ以上の負担を市民に掛けたくはないですから」

「では作戦の準備を始めましょうか、ナデシコを含む艦隊は何処で待ち受けますか」

「そうですね、ここに全艦を集結させるつもりです。

 現在火星の戦艦は七隻に空母が二隻、地球から戦艦三隻に空母一隻の十三隻で最終防衛ラインで待機します。

 そこに木連艦隊が来たら降伏勧告を行い、ダメな時は艦隊決戦になりますね」

レイの作戦にアルベルトが、

「最後まで人道主義で行きますか、見事なものですよ。本来我々がするべき事をさせて申し訳ないな」

「いえ問題はこの後ですよ、問題が山積みですから大変ですよ」

レイの話す事に全員がうんざりするがアクアが、

「まあ仕方ないですね、次の世代に問題を持ち越すのは避けたいですよ。

 ここで終わらせないと、いつまでも犠牲が出ますからね。それは絶対にしてはならない事です」

その言葉に全員が未来は自分達の手で作る事だと思い、次の世代に残す事を考えた。

木連艦隊到着まであと僅か………準備は進められていく。



―――ユーチャリスU ブリッジ―――


「お父さん、どうして木連の兵隊さんは負けると分かっているのに来るのかな………不思議だね」

「そうだな……彼等はね、現実を知らないんだよ、クオーツ」

「どういう事なのお父さん、僕には分からないよ」

首を傾げてクロノに話すクオーツにクロノは少し考えて話した。

「自分達が勝てると信じているのさ、正義が勝つと信じてね」

「僕、木連は嫌いだよ。だってみんなをいじめる悪い人達だよ、あそこにいた人達みたいだもん」

「そうかも知れないな、でもな木連全ての人が悪い人じゃないよ。それだけは分かって欲しいな」

クロノの言葉にクオーツは考えて話した。

「お父さんやお母さんみたいな人もいるかな、それなら嫌いにはならないよ。

 僕ね、お兄さんだからみんなを守るんだ。お父さんやお母さんみたいにね」

その言葉にクロノはクオーツの頭を撫でるとクオーツは目を細めて嬉しそうにしていた。

「そっかクオーツには俺の全てを教えてやるかな、みんなを守る為に強くしてやらないとな」

「うん!僕はお父さんの一番弟子になるよ、だからずっと一緒だよ、お父さん」

「それもいいな、平和になったら火星の再建を一緒にするか。

 まずはユートピアコロニーを再建して、みんなの笑顔を見るのもいいかな、クオーツ」

「ダッシュも一緒だよ、みんなで行こうね。火星を見て回ろうよ、お父さん」

「それもいいな、じゃあピクニックに行こうか。みんなと一緒に遊ぶのもいいな」

クオーツは目を輝かせてクロノに話していた。

戦争によって兵器に変えられたクロノにとってこの光景は大事なものだった。

(守ってみせるぞ、家族のみんなを火星の人達を俺は最後まで守り抜いてみせるさ)

愛する者達の為に戦うクロノの姿がそこにあった。

………戦いは近づいて来ていた。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

今回のお題は
シャロン、不安になる。
ジュン、アクアにお仕置きされるのかでした。

では次回の後書きでお会いしましょう。



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