都合のいい事を考えている者達に試練が与えられた

彼らはその事が理解できるだろうか

おそらく理解できないだろう

何故なら理解できるのならばこの戦争は回避できたからだ

もう彼らの命運は尽きているのかもしれない




僕たちの独立戦争  第三十四話
著 EFF


「しかし呆れるよね、自分の都合の為にさ戦艦をよこせなんて企業を馬鹿にしてるのかな」

側に控えていたエリナに向かってアカツキは話すがエリナは、

「どうするの、渡すの二番艦コスモスと三番艦シャクヤク」

簡潔に述べていた。

「渡さないよ、無駄に使いそうだしね。折角建造したのに初戦で撃沈されるなんて無駄遣いになるよ」

「このまま行けばそうなるわね。クリムゾンもアスカもスケジュールの遅延を求めているから、

 どうにもならないわね。あいつら焦っているわよ、やけくそみたいに戦艦集めて攻略戦を始めるみたいね」

「さっさと死んで欲しいな、責任逃れで戦争を継続させようとしている連中なんて要らないな」

アカツキの冷めた声にエリナは、

「案外会長に向いているのかもね、それクリムゾンの会長みたいな言い方よ。

 ネルガルの先代もそんな感じだったのかしら、プロスさんがいたら驚くわよ」

「まあ父上に似てるといわれても仕方がないが、この決断は間違っていないよ」

アカツキは苦笑しながらエリナに話すがエリナも、

「そうね、今回の事は間違ってはいないと思うわ。

 市民は彼らがいう戦争の継続に疑問を持っているから軍の扇動も効果はないわ。

 それに市民団体も今回の事には監視の目を光らせているから企業に強制は出来ないわ」

「都合のいい事ばかり言っているからね、

 火星の向かった戦艦が帰るのを待てないのは何故かと聞かれても答えない連中に支持は集まらないね」

「攻略戦は二週間後みたいよ、ナデシコに連絡を入れておくわ」

「動くなと伝えてくれないかな、彼らを囮に使われるのは確実だからね。

 無責任な連中の為に死なせるのは嫌だね、命を賭けるなら自分の命にしてもらわないとね」

「了解、じゃあ伝えておくわ」

退室するエリナを見てアカツキは仕事を再開した。

少しは自覚が出てきたのかもしれない、そんな光景だった。



―――火星作戦会議室―――


「無責任な連中のする事とはいえ、ロバートさんも大胆な事を考えるよな。

 こんな所はアクアのお祖父さんだけの事はあるかな、でも危険だな俺が護衛に付こうかな」

「その方がいいかもしれませんね、今ロバートさんに何かあれば火星にとっては困る事になりますから」

クロノの意見にエドワードも賛成するがアクアは、

「護衛にはSSの皆さんがいますから大丈夫でしょう、問題は月の攻略戦をどうするかではないでしょうか」

「その点は大丈夫でしょう、戦力の確保は出来ているから奴らの失敗した後に予定通り行うつもりみたいです」

『私としては彼らの存在は不要だと判断しています、戦後彼らのおかげでマスターの苦労が増えましたからね。

 火星の後継者の乱に同調するような連中など消えて欲しいものです』

レイの意見にダッシュが未来での事を考えて伝えると、

「確かにダッシュの言う通りね、火星の要求で彼らの責任追及が始まりましたが、

 それを逃れる為に戦争を継続しようなんてふざけていますね。

 お爺様も彼らの無責任さには怒っているでしょうね、この件での行動を見ればそれが分かりますね」

「そうね、お爺様は彼らをここで葬るつもりね。この先には不要と判断したわね。

 だからスケジュールの遅れを理由に戦艦の引渡しを拒んだのよ、失敗させて処理するつもりね。

 まあ失敗すれば生き残るのは難しいわよ、戦死するのは間違いないわね」

アクアの意見にシャロンも同じ判断を示した。

「では監視するに留めて事態の推移を見ましょうか、火星は不参加という事でいいですか」

エドワードの決定に全員が賛成して会議は終了した。

また一つ未来への不安がなくなり始めた事にスタッフも安堵していた。



―――木連 草壁の執務室―――


「我々の調査では何か爆発が起きた事以外は分かりませんでした、申し訳ありません。

 無人機で周囲を偵察しましたが艦影もなく無人戦艦をしばらく索敵に回そうかと考えましたが、

 火星の反撃に備える為に無駄遣いを避ける為に中止しました、閣下はどうお考えですか」

秋山の報告に草壁は報告書を読み終えて考え込んでいたが、

「………問題はないだろう、秋山中佐はどう考えるかね……この爆発を」

「火星の監視基地があったのかもしれませんがなんらかの事故で消滅したと判断しています。

 これで木連にしばらくは攻撃できないのではないかと推測していますが」

何も知らないように話す秋山に草壁は、

「うむ、そう判断したか。私もそう思っていたよ、まずは一安心だな下がってくれたまえ」

「はっ失礼します、閣下」

そう答え秋山は部屋を出て行くと草壁は報告書を叩きつけて、

「くっ火星め、どうやったか知らんが科学者達も暗部も殺してくれるとはな。

 まだ負けたわけではないぞ、必ず貴様らを滅ぼしてやるぞ。私の正義が負ける訳はないのだよ」

自己の正義を絶対と思っている草壁は暗い笑みを浮かべて火星への報復を考えていた。

それが間違いと判断できない草壁は自分を破滅へと進ませると思ってはいないのだろう。

そして独裁者としての終わりの時は近づいている事に気付いていなかった。


秋山は執務室から会議室へ向かうと、

「どうだった閣下の様子は、怒り狂ってはいなかったか」

「そうでもなかったな、九十九。だが相当な痛手を受けたみたいだよ、見事に火星の罠に掛かったみたいだな」

秋山が考えを述べると月臣が、

「では準備を始めるか、今なら謝罪する事で攻撃を一時的とはいえ回避できるかもしれん。

 このまま進めば状況は更に悪化するのは目に見えているからな、ここで食い止めないとやばいぞ」

「そうだな、まず市民に状況の説明をして俺達の計画を理解してもらおうか」

「何割の賛同を得られるかが勝敗の鍵だな、南雲はどの程度だと思う」

白鳥と秋山から聞かれた南雲は、

「六割になれば良いと思いますよ、和平派はこちらに従ってくれるそうです。あとは中立の部隊がどう動くか」

「自らの意見を持たない日和見な連中などこの戦いでは役に立たん!俺達は木連の未来を破滅から救うんだ。

 覚悟が出来ない連中など数が多くても五分になれば勝てるさ」

「元一朗の考えも分かるがな、流血は少ない方がいいんだよ。火星の報復が始まる前に終わらせないと、

 二つを相手にしてはまず勝てんからな。火星に動くなと言っても聞いてくれるか分からんからな」

「九十九の言う通りだ、時間が全てを左右するからな。まず草壁の確保が最優先だ、次にプラントの港湾施設、

 戦艦の確保だ、準備が出来次第始めるぞ。作戦名は熱血クーデターにする。

 責任は全て俺が取る木連の未来が掛かった大事な一戦だ、命を無駄にするなよ」

秋山の真剣な表情に会議室の全員が頷いて木連の未来を破滅から救う為に動く事を誓った。

この行動がなければ木連は滅亡していたと後の歴史研究者は断言していた。

火星の待ち望んだ状況が訪れようとしていた。



―――地球連合宇宙軍司令部―――


「くっネルガルもクリムゾンも我々を馬鹿にしおって戦力の方は揃いそうか」

「はい、戦艦こそ入手出来ませんでしたが数は予定より15%ほど増えそうです。

 火星に戦力を使ってしまった木連に余裕はありませんよ、我々の勝利は確実ですね」

「そうだろうな、これで戦争を継続して我々が勝利すれば問題など何も無いな。

 ネルガルもクリムゾンも後で泣きついてきてもどうにもならんな」

「逆に我々の飼い犬にしましょうか、思うままに金を出させましょうか」

「悪くないな、火星が生き残るから悪いのだよ。さっさと全滅すればいいものを生き残って我々にたてつくとはな」

「まあいいではないですか、どうせ生き残る事など出来ませんよ。

 出来れば足掻いて木連の戦力を奪って欲しいものですな、我々の勝利が際立ちますよ、司令」

この二人が地球連合軍司令とその腹心の参謀であった。

碌な功績も無く権謀詐術を持ってその地位に着き、有能な軍人達を排して自分達の子飼いの者達で周りを固めて、

権力と金だけにしか興味を持たず市民の安全など、どうでも良いと思っているような人間で、

地球連合軍の腐敗を加速させた人物と現在マスコミから叩かれている人物であった。

この戦争でも自分の安全だけを考えて前線には一度も出ずに安全な後方で指示をする為兵士には嫌われていた。

火星が生き残った為に自分達の立場を守る為に今になって前線に出ようとしていた。

既に自分達の命運は尽きている事に気付かず都合のいい事だけを見ていた。

「そうだな、火星など所詮我々の道具にすぎんよ。木連の次は火星を攻撃して余計な事を言う奴らを黙らせるか」

「そうすれば、いつものように我々の思うがままですな」

「当然だよ、軍の改革などさせんよ。旨みが無くなるなど認めんよ、そうだろう」

都合のいい事ばかり話す二人には監視の目がついている事に気付かずに好き勝手に未来について話していた。

この事が自分達が切り捨てられる事になると気付く事は永遠にないのだろう。

何故なら彼らは生きて地球に戻る事はなかったからだ。


「しかし時代も変わったな、まさかクリムゾンのSSと協力する事になるとは思わなかったよ」

「それはこちらも同じ事だ、今回限りだと思うが命のやり取りをしないだけマシだろうな」

連合軍のビルの一室に潜む二人は苦笑して話していた。

「こいつらも懲りない奴らだな、命運が尽きているとは思わないのか」

「無理だろう、俺達みたいに覚悟も持つならともかく、ここまで腐敗させた責任も取らない連中だからな」

「確かにそうだな、死ぬ覚悟も無く都合のいい事ばかり考える奴らなどこの先は不要だな」

「火星の連中は怖いぞ、全員が生き残る為に覚悟を決めているからな。

 力は劣っても油断すれば致命傷を負いかねんぞ、二人ほど危険な人物がいるな」

ネルガルのエージェントが真剣な様子で話すとクリムゾンのエージェントが、

「クロノ・ユーリとアクア・ルージュメイアンか、あの二人には手を出すなと通達がきているぞ。

 数を揃えても勝てるどうか分からんからな、以前1チームが訓練を受けたが相手にならなかったそうだよ。

 ネルガルも危険な人物を敵に回そうとしたな、敵に回れば全滅するかもしれんぞ」

「うちのトップは何を考えていたんだか、ピースランドの件といい、室長の負担ばかり増えているんだが」

呆れるように話すネルガルのエージェントにクリムゾンのエージェントは、

「特に家族には手を出すなと忠告されている、家族に手を出せば何倍にして返すそうだ。

 地球圏でベスト3に入るハッカーと戦闘型マシンチャイルドを相手にすればまず勝てんとグエンが言っていた」

「グエン……あのグエンがそう言っていたのか、勘弁してくれよ。そんなの相手になんてしたくないぞ」

「ちなみにグエンは1分持たないそうだ、格闘戦は避けろとクリムゾンSSに通達がなされている」

「かつて鉄腕と呼ばれ恐れられた男が1分持たんのか、狙撃しかないのか」

「それも難しいぞ、弾道を見切るからな。銃が役に立たんと言われているぞ、

 それにジャンパーだ、何時何処に現れるか分からん。場所の特定が出来んのが現状だ。

 火星にいると噂されているがクリムゾンの葬儀に参列していた事から自由に地球に来る事も出来るみたいだ」

「ジャンパーか………そんな人間には対応できんな、敵にしないようにするしかないか」

「ネルガルの人体実験の被害者だ、人体実験を行う奴らには手加減しないみたいだな。

 うちの会長が人体実験の中止を決定したのはこの二人を敵に回すのを嫌がったと噂されている。

 実際ネルガルの施設を一つ潰しているからな、ネルガルの対応は間違ってはいないだろうな」

「その件は知っている俺も立ち会ったが無駄なく作戦を終了している。俺達ではあんな事は出来んな」

「家族に手を出さなければ無害だと我々は認識している、火星に行くのならその点を注意するようにしておけよ。

 不用意な行動で死刑執行書にサインするなんて馬鹿らしいぞ」

「そうだな、室長と相談してSS全員に通達しておこう」

それで二人は会話を止めて仕事を続けた。

…………意外な所で二人は有名になっているみたいだった。


―――ネルガル会長室―――


『……以上が現在の状況です、予定通り月の攻略戦は始まるみたいです』

「ご苦労様、他に何かおかしな点はあったかな」

『いえ特に不審な点はありませんでしたが、合同で作業していたクリムゾンのSSから面白い情報がありました』

「何かしら、連合の事で私達とは違う事が分かったのかしら」

『全然違う事ですが、お二人には話しておくべきかと考えております』

アカツキとエリナはSSのエージェントの様子から嫌な予感を感じたが聞く事にした。

「話してもらおうか、何の情報かな」

『クロノ・ユーリとアクア・ルージュメイアンについてのクリムゾンSSの見解ですがどう致しますか』

その言葉に二人は嫌そうな顔をしたが続きを促した。

『以前1チームが訓練を受けたそうですが相手にならなかったそうです、また地球圏ベスト3に入るハッカーと、

 戦闘型マシンチャイルドにはまず勝てないから攻撃は控えるように注意を受けました』

「………だろうね、プロス君もそう見解を出していたよ。他には何かあるかな」

『火星に行くのなら彼らの家族には決して手を出すなと忠告を受けました、

 倍返しは当然みたいで状況によってはその程度では済まないみたいです。

 クリムゾンの会長は彼らを恐れて人体実験を中止したという噂がクリムゾンには流れているみたいです』

「エリナ君は気を付けたほうがいいかもしれないね、遺書の準備をしておくようにね。

 ちなみに僕は既に準備が出来ているから、いつでも大丈夫だけどエリナ君はまだ準備は出来てないよね」

アカツキの無責任な言い方にエリナは、

「かっ会長どうしてそうなるんですか、私は志願制でしていましたから問題はありませんよ」

「でもね〜向こうがそう思ってくれるかは分からないよ、そうだろう」

アカツキはスクリーンに映るエージェントに目を向けると、

『その通りです、自分の見解と相手の見解が同じとは限りません。自分は大丈夫などと思う事が危険な事です。

 常に最悪の事態の想定はしないと生き残る事は難しいです。命を賭けるとはそういうものです』

容赦無く言われる事にエリナは絶句していたがアカツキは、

「まあ冗談はそこまでにしておこうか、

 火星に行く場合は彼らの家族のマシンチャイルドの子供達に手を出すのを避けろと言うんだね」

『そうみたいです、死刑執行書にサインするなら構わんがみたいな事を言っていました。

 また家族に手を出さない場合は無害だと認識してるみたいです』

「それもプロス君の見解と同じだね、火星で仕事する時は気を付けないとね。他には何かあるかい」

『いえありません、以上です』

「そうかご苦労さん、そのまま監視を続けて欲しい以上だ」

そう云うとアカツキは通信を切りエリナに話しかけた。

「気をつけような、お互いまだ死にたくはないからね。家族には手を出さないようにしないとね」

「そうね、敵にしないでいい関係を作るようにしましょう。普段は優しい人達みたいだから」

「彼らは家族を守る為なら手段を選ばないけどそれ以外は無害な人達だよ、

 なんだかんだ言っても僕達に力を貸してくれたり、助言もしてくれるからね」

「痛みを知っているから優しいんでしょう、私達じゃ相手にならない訳ね」

「そうだね、絶望を見ても諦めずに戦い続けたんだろうな。修羅場を潜ってきた人には勝てないよ」

そう話すとアカツキは仕事を再開した、エリナも部屋を出て各部署に連絡を取っていた。

いよいよ月の攻略戦が始まろうとしていた。



―――木連作戦会議室―――


「閣下、地球の月攻略戦が始まろうとしていますがどう対応しますか」

「ふむ、現状の戦力で勝てると思うが秋山中佐はどう考えるかね」

「地球の艦艇は数では我々が劣りますが戦闘力では上になります、このまま戦っても負けはしないでしょう。

 確実に勝つ積もりなら増援を送るべきでしょう、但しその場合は短期決戦でなければなりません」

「火星の報復攻撃に備える必要があるのだな、秋山中佐」

「はい、今なら戦力を投入しても大丈夫ですが時間を延ばされると増援は送れません」

秋山の意見に草壁は考えると、

「……地球次第か、今は無理ができんな。火星を再攻撃する為には時間が必要か、ではその案で行こうか」

草壁の考えを聞いた白鳥は慌てて訊ねる。

「閣下!火星に再攻撃を考えておられるのですか、無理はできないと申し上げたはずです。

 何故、そこまで火星に拘るのですか。火星に何かあるのですか、教えて下さい」

「白鳥少佐は高木君の無念を晴らす気はないのか、火星の攻撃に散った彼らの無念を晴らしたいとは思わんのか。

 私は彼らの無念を忘れはしないよ、我々の正義を火星に見せるまでは諦めんよ」

草壁の怒りを押し殺した声に一部の士官達は続いたが半数以上は草壁の考えについて行けなかった。

「どうやって勝つのですか、一万隻の艦隊では勝てませんでしたよ。倍の二万隻の艦隊で攻撃でもしますか」

秋山の皮肉を込めた質問に草壁は平気で答えると、

「二万では足りないだろう、三万隻は必要だと考えているよ。

 ただ時間が掛かるのが問題だが月の戦闘が終われば半数以上の艦艇を戻して整備をして、

 建造中の艦隊を全て使えば数は揃うだろう。時間は余裕を持って半年後位に考えているが問題はないだろう。

 この艦隊は私が指揮を執るつもりだよ、必ず火星を陥落させてみせようじゃないか」

暗い笑みで語る草壁に士官達の殆どが草壁の危険性に気付いた。

「本気なんですか、閣下!勝てると思うんですか、数があれば勝てるなんていい加減な考えはやめて下さい。

 戦略を考えてから攻めるべきです。無意味な作戦など立案しないで下さい、木連を崩壊させる気ですか」

白鳥の叫ぶように話す声に草壁ははっきりと答える。

「木連は私が勝たせてみせるよ、そして火星に木連の正義をみせつけてやるのだよ。

 私の正義こそが絶対の正義だと教えてやるぞ!必ず奴らを滅ぼしてやるぞ」

そう言って笑い始める草壁の姿に狂気を感じる秋山達であった。

追いつめられた草壁の狂気が木連に吹き荒れようとしていた。



―――ナデシコ ブリッジ―――


「暇だな、移動の準備を終えてしまったからする事が無くなった。プロスさんどうするべきかな」

「確かにグロリアさんの仰る通り作業は順調に進みました、私も書類整理が完了して暇になってしまいましたね。

 では艦長、交代制で休暇という形にしますか。クルーの皆さんの福利厚生も考えるべきかと思うのですが」

「プロスさんの言いたい事も分かりますが、整備班や生活班は難しいでしょう。

 彼らの事を考えると一部の者達だけ休むのは不味いと思うのですが」

グロリアの意見にプロスが考えを述べたがジュンは全体の事を考えて逆に聞き返した。

「確かにそうですな、交代制にしても彼らの負担は変わりませんな。整備班は大丈夫かもしれませんが、

 生活班、特に食堂は人員不足ですから負担が増えますね」

「そうよね〜アキトくんがいなくなったから調理はホウメイさんだけだしね。

 艦内に料理のスキルがある人はいないのかしら〜」

「いませんな、専門家はいるのですがマルチに対応できる方は少ないですね。

 ナデシコは専門職は一流ですがそれ以外はダメな方が殆どですな、ミナトさん」

プロスがナデシコのメンバーについて述べるとミナトは、

「そうなんだ〜じゃあアクアちゃんは珍しいタイプだったのね、

 オペレーターにパイロット、技術者に兵士なんていう技術に料理も出来たわね。

 時間のある時は自分で作ってルリちゃんに食べさせたりしてたものね、ホウメイさんのお墨付きだったし」

「そうですか、アクアさんは何でも出来るんですね」

プロスが感心しているとミナトは、

「テーブルマナーから一般常識まできちんと教えていたわね、ルリちゃんもかなり知識が偏っていたから、

 いいお母さんになってたわね。引き取った子供達も大丈夫だと思うけど戦争のせいで苦労してるでしょうね」

「確かに側にいて欲しい年頃ですからね、寂しい思いをさせるのは心苦しいでしょうな」

プロスがそう結論を出すとブリッジもしんみりとした空気が漂い始めたが、

「艦長、お隣のミストルテインから連絡がありますがどうしますか」

「メグミさん、繋いで下さい。何か地球で起きたのかもしれませんから」

メグミはジュンの指示で通信を始めた。

『よお、そっちの準備は終わったか。うちは終わってな、暇を持て余しているんだがナデシコはどうだ』

ジュンの心配は杞憂に終わったがジュンもまた暇を持て余していたのでそのまま話を続けた。

「実はナデシコも暇でして何かレクリエーションをしようかと考えていたんですよ」

『そっちもか、火星の状況も調べたが戦闘もないからパイロット同士の交流戦でも考えたんだが、

 ナデシコからも参加するか、火星は参加するみたいだぞ』

「でもクロノさんとアクアさんが参加されたらまず勝てませんよ。ある意味規格外の二人ですから」

『いや二人は観客に回るそうだ、火星の連中はクロノが鍛えたみたいだから腕に不足はないだろう。

 機種はブレード、ランサー、フレイム、対艦フレームのエステの四種になるが面白そうだろう』

楽しそうに話すアルベルトにジュンも、

「いいですね、プロスさんパイロットのみんなは参加すると思いますか」

「…………確認しましたが全員参加するそうです、これで暇を持て余す事もなくなりそうですね。

 ですが場所の設置はどうされますか」

コミュニケでパイロット達に聞いたプロスはアルベルトに場所の確認をすると、

『火星が準備してくれるそうだよ、この衛星港にはシミュレーター室がかなり余裕を持って作られているから、

 そこなら人数の問題も解決できるみたいだな』

「そうですか、何名くらいの人数で行いますか」

『ナデシコから8名、うちからも8名、火星から8名のトーナメント戦になると思うがそれでどうかな』

「それで構いませんよ、クロノさんとアクアさんは来られるのですか。

 今回の地球の一件でちょっと相談したい事があるのですが、アルベルトさんも同席しませんか」

プロスがアルベルトに話すとアルベルトも考えて話す。

『………そうだな、火星は今回の状況をどう考えているか聞いてみたいな。俺も同席するよ、プロスさん』

「実は木連の状況分析は火星が一番正確なので月の攻略戦はどちらが勝つか、火星なら分かると思うのです」

『確かに火星は情報の正確さでは地球より上だな、俺は地球が負けると思うんだが、

 どの程度の被害が出るのかは分からんな。火星なら分析できるかもしれないな』

「そこなんですよ、損害がどの程度で建て直しに時間がどのくらい掛かるか知りたいのです」

『第二次月攻略戦の準備も考える必要もあるからな、予算も考えないと困るかな』

「そう、そこなんですよ。戦争はお金が掛かりますからね、やりくりするのが大変なんですよ」

苦笑するプロスにアルベルトも、

『全くだな、上のせいで前線の兵士達も苦労しているよ。俺達も予算との戦いがあるからな。』

「早く戦争を終わらせて無駄遣いを無くさないと大変な事になりますよ。

 木連はプラントのおかげでお金が掛からないみたいですが、地球と火星はお金は必要ですからね」

『それも木連が戦争を始めた原因かもな、経済に疎いのかもしれんな。

 無限に近いプラントの生産力で助かっているんだろうな、羨ましい限りだな』

「その通りかも知れませんね、経済観念が無いから今回の火星侵攻も平気で出来るのでしょうな。

 地球がこれをするのは難しいですよ、予算が出るか分かりませんからね」

『全くだな、贅沢な事だよ。でも勝てなかったがな、もっと柔軟な対応が出来ないと火星には勝てないよ。

 ただ突き進むなんて自殺行為だからな、俺なら無人戦艦の人工知能を強化する事を先にしてから進軍するな。

 シオンみたいにまでしなくても良いがもう少し賢くしないと被害ばかり増え続けるぞ』

アルベルトの考えにジュンもぷろすも納得したが、

『私ならあんな無様な攻撃はしませんよ、勝てる方法は幾つかありますよ。

 木連の人工知能などと一緒にされるのは不愉快です。多分他のオモイカネも聞いたら怒ると思いますよ』

『だろうな、実際ダッシュ率いる艦隊の攻撃は見事なものだったみたいだからな』

シオンの文句にアルベルトは苦笑して答えた。

『当然ですよ、木連は全てにおいて柔軟な対応が出来ていません。

 人が変わらない限り、いつまでもこの状態が続きますよ。彼らが勝てたのは最初だけです。

 その後、柔軟な対応が出来れば状況は変わっていましたが、彼らは勝利に浮かれて何もしなかった。

 そんな事では戦争には勝てませんよ、常に先を見続け状況を有利に展開して勝てるのです。

 まあ火星がそうさせない戦略を展開してきたからですが、目先の事に惑わされた木連に勝ち目はありません』

『まあシオンの言ってる事は正しいよ、木連にシオン達、オモイカネシリーズがあれば大変だっただろうな』

アルベルトはそう話すとジュンも頷いていた。

木連の状況を知ったクルーもこの先の展開を考える事になるだろう。

彼らが欠点を改善した時が、もっとも過酷な戦争になると理解したのだから。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

今回のお題は
アクアさん意外な場所で有名になる。
ナデシコ、暇つぶしを行うでした。

では次回は閑話休題になるかもしれません。
火星での一幕を書く事になりそうです。
うまく書ければ外伝を書くコツがつかめるかもしれません(爆)

では次回でお会いしましょう。





押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.