自分の足元が崩れている事に 彼は気付いているだろうか

おそらく気付いていないのだろう

独裁者の終わりとはそんな物かもしれない

自分の世界だけを見て 他の事は無視しているから終わるのだろう



僕たちの独立戦争  第三十九話
著 EFF


「……必死だな、よく防御しているな。

 負けたら全てを失うからな、草壁もその事を理解しているみたいだな」

草壁が率いる艦隊の防御を見ながら、クロノはそう呟いた。

草壁は第三次防衛ラインまでに損害を二割に抑えていた。

この事により草壁率いる艦隊は血気盛んに火星への攻撃を叫んでいた。

『マスター、第三次防衛ラインの攻撃で損害は三割にはなりますよ。

 その前に通信を入れて警告だけでもしておきますか?』

「そうだな、エドに警告の通信をしてもらおうか?

 多分、無駄になると思うが手続きは取っておいたほうがいいな」

ダッシュの意見に従い、クロノはエドワードに通信を送ってもらう事にした。


「閣下!

 火星より通信が来ました!」

通信士の声に草壁は正面の画面を見て告げた。

「こっちに回してくれ。

 私が相手をしないと不味いだろう」

通信士は草壁の命令を聞いて通信を開いた。

『こちらは火星コロニー連合政府です。

 木連反乱軍首謀者、草壁春樹に告げる。

 直ちに武装解除して火星に従うか、木連に戻って法の裁きを受けなさい』

草壁を見据えて話すエドワードに草壁は、

「お断りだな、君達を放置すれば木連市民を苦しめるな。

 そんな事は絶対に許しはしない」

自分のした行為を棚に上げて告げる草壁に、エドワードは憐れむように見て話した。

『ではあなたが先に行った火星への攻撃は何ですか?

 いい加減にして下さい、自分の都合のいい事ばかり話すのは卑怯ですよ。

 火星の住民約130万人を殺した事はどう説明するのですか?』

エドワードの質問に艦橋にいた乗員が草壁を見ると草壁は、

「我々の正義を示しただけだが問題があるのかね?

 地球に組する火星に攻撃するのは当然の事だよ」

平然とエドワードに答えると乗員も正義を口にして叫んだ。

『つまりあなた方の正義とは対話もせずにいきなり人を殺す事なんですか?

 まあ……あなた方の正義などそんなものですよ。

 火星に侵攻するのなら生き残れるとは思わない事です。

 あなた方の考えは平和を望む者達には邪魔でしかありません。

 決して火星には辿り着けませんよ』

呆れた様子のエドワードは草壁に最後通告をした。

『これが最後です。

 直ちに停船して武装解除しなさい。

 あなた方の行為は火星の住民は絶対に認めないでしょう。

 このまま侵攻するのであるならば、相応の覚悟が必要ですよ』

「我々は決して負けないぞ。

 火星の横暴を許すわけにはいかんのだ」

草壁はそう宣言するとエドワードは、

『では我々は木連反乱軍としてあなた方を攻撃します。

 既に帰る所を失ったあなた達は最後に残った命も失う事になります。

 ではこれにて通信を終わります』

通信を終えて草壁は乗員達に宣言した。

「全てを失うのは火星だ。

 我々は火星に勝って英雄として木連に凱旋する。

 正義が負ける事はありえないのだ」

「閣下!

 火星の大型戦艦を発見しました!

 数は一隻で射程には入ってきていません」

その報告に草壁は指示を出す。

「周囲を警戒しろ!

 またミサイル攻撃をするつもりだろう。

 射程に入り次第攻撃を開始せよ」

草壁の指示に従い艦隊は動き出したが、ユーチャリスUより放たれた砲撃に乗員は驚愕した。

「そっそんな馬鹿なっ!

 ……………さっ左翼の艦隊が消滅しました。」

信じられずに叫んだ乗員の声に艦橋は動き出したが、その隙にユーチャリスUはジャンプして戦場を後にした。

「敵艦は跳躍しました!

 しっしかし左翼の艦隊は………全て撃沈されました」

索敵を行っていた乗員の報告も草壁には届かなかった。

呆然と左翼を見つめて棒立ちになっていた。

先程まで確かに存在していた艦隊が消滅したのだ。

全艦が動揺していた時に防衛ラインに入った艦隊にミサイル攻撃が始まった。

感情の無い無人戦艦は忠実に草壁の指示を守り、

艦隊の防衛を行ったがソフト方面では劣る木連は柔軟な対応が不十分であった。

この為に損害は大きくなってしまった。

草壁は慌てて全艦に指示を出して被害を最小限に抑えようとしたが既に遅かった。

この攻撃で草壁の所有していた艦隊の約50%が撃破された。


「……………分かってはいましたが相転移砲の威力は凄いものですね。

 これで出力は……三割も出てませんよ」

オペレーターシートから告げるアクアの報告にスタッフも驚いていた。

真剣な様子でスクリーンを見つめていたクロノは全員に語り始めた。

「そうだろうな、

 俺も初めて見た時は呆然としたものだよ。

 たった一発の砲撃でそこに存在する全てを相転移させて消滅させるんだ。

 防御するには同じ相転移砲を使って相殺させるしかないな。

 草壁がこのまま進むのなら……次の攻撃で全てを終わらせる事になるだろう。

 そしてこの相転移砲は火星の機密として封印する事になる。

 俺達が望んだ平和な時代にこんな兵器は必要ないからな」

クロノが言い聞かせるように告げるとスタッフも真剣な様子でスクリーンを見つめていた。

「……気をつけないとな。

 兵器に善悪の区別はつかないからな、俺達の行動が全てを決めていく。

 全員もこの光景を忘れないでくれ。

 二度とこんな戦争が起きないように武力ではなく、対話をもって行動して欲しい。

 力を持つ意味を考えてくれ、そして自分の行動を振り返って見つめ直して欲しい。

 自分達の行為はこれで良かったのか?

 もっと良い方法がなかったか?

 常に最善の方法を模索して、行動して欲しいな」

命の重さを知り、痛みを知っている者が話す言葉の重さにスタッフも真剣に聞いていた。

……ユーチャリスUは最終防衛ラインに向けて進行していった。


―――木連作戦会議室―――


「現在の防宙体制なら当面は持ち堪える事が出来ます。

 ですが草壁派の防衛は難しくなります。

 草壁は全艦を連れて行きましたので、防衛には艦を割かないといけません。

 これによって万全な状態から穴だらけの防宙体制になります」

南雲が作戦会議室にいた者達に状況の説明をすると全員が悩んでいた。

草壁派の中には和平派に入ろうとする者達も出てきたが、

安易に受け入れる事が出来ない状況になっていた為に受け入れを拒否していた。

住民には状況を説明して納得させたが、

万が一火星の攻撃が始まった時の為に準備を始めると艦艇の数の不足が表面化してきた。

「…………仕方ないな、

 戦艦を増産するしかないか?」

秋山が全員に話すと納得できない者もいたが概ね賛成していた。

「不味いな源八郎。

 食料の供給は問題ないが、戦艦の方は時間が掛かるぞ」

「まだ草壁を信じている者を救う為に戦艦を作らねばならないとはな。

 正義は負けないと言われ続けた影響は大きいぞ。

 こんな状態で迂闊に武器を渡すのは危険だな、

 …………何をしでかすか分からんぞ」

白鳥と月臣が話す事を理解していた者は、秋山に顔を向けて秋山の発言を待った。

「時間のほうは仕方がないな、俺達にもどうにも出来んしな。

 奴らに武器を渡すのは危険だからな、俺達で管理するしかないだろう。

 偵察艦を向かわせたが草壁の艦隊の状況はどうなったか報告は来たか?

 市民に状況の説明をすれば、草壁を信用しなくなるかもしれない。

 今の俺達に出来る事はこの程度だな。

 他にする事があれば発言してくれ、出来る限りの事をしておく必要があるからな」

秋山の発言にそれぞれに意見を出しあって会議は進行していく。

……全ては木連を改革して生き残る為に会議は続く。


―――クリムゾン会長室―――


「お久しぶりです、ロバート会長。

 やっと木連との交渉が出来るかもしれません」

タキザワの嬉しそうな表情を見て、ロバートも楽しそうに話す。

「これからが我々の出番ですな。

 火星と木連の交渉が終わり次第、地球と木連の和解の条件を作成しなければなりませんな。

 地球の方も無事改革が進んでいますから前回みたいな事にはならないでしょう」

「まずは国交を結ぶ事から始めましょう。

 火星は十年かけて移民の準備をしようと思います」

タキザワが告げる言葉にロバートも賛成して話す。

「百年も離れて生活していたから、いきなりは難しいでしょう。

 少しずつ木連市民にこちらの生活習慣に慣らす事が必要ですな。

 慌てず一歩ずつ進んで行きましょう」

タキザワはロバートの意見に頷いて、火星の状況を話し出した。

「現在草壁が火星に侵攻しています。

 これについては火星の攻撃で撃沈するので問題はありません。

 後は地球との和解を早くできるか次第でしょう」

タキザワの情報を聞いたロバートは地球の状況を考えて結論を出した。

「市民から動かす事にするかな。

 幸い厭戦感情が出てきたから世論を動かし易くなりそうだな。

 今度は密室での交渉は無理だから議会もそうそう無理な条件は出せないでしょう。

 市民も戦争の発端を知っていますから監視の目は厳しいでしょう」

その意見を聞いてタキザワは和平が現実のものになる事を確信していた。

「後は草壁をどうするかだな。

 捕まえて収監すれば反乱の元になりそうだな。

 このまま戦場で死なせるつもりですか?」

ロバートの質問にタキザワが答える。

「………そうなると思います。

 警告はしましたが無視して侵攻していますので、迎撃しないと火星に着きますから

 そうなれば火星に殲滅戦を仕掛けるのは明白です」

「仕方がないかな。

 出来ればきちんとした手続きを経て処罰するのが一番いいのだが………」

「全てが上手くいくとは限りません。

 これでも終戦の条件としてはかなり好条件です。

 我々が少し頑張れば良いだけです、会長」

側に控えていた秘書の言葉に二人は苦笑していた。

「確かにその通りですよ。

 前線で働いてくれた兵士達の苦労を考えると我々が頑張らないと」

「全くだな。

 全てが上手く運んだから調子に乗ってしまったかな」

タキザワとロバートは兵士達の苦労を思い反省していた。

「では準備を始めます。

 和平に向けての情報操作を開始します。

 これから忙しくなりそうです」

秘書は二人に告げると会長室を退室した。

残された二人はこの後に起こる事態を想定して対策の相談していた。

平和を築き上げるのはとても難しいと感じながら、この作業の先に平和な未来がある事を信じて。


―――最終防衛ライン 火星艦隊旗艦ユーチャリスU―――


『木連反乱軍の速度では36時間後にこちらに到着します』

ダッシュの報告にスタッフも緊張が増してきたが、クロノは意外な指示を出した。

「緊張するな、これから交代制で休憩を取っておくんだ。

 監視はきちんとしておけば良いぞ。

 人間は長時間の緊張には耐えられないからな」

クロノの指示にダッシュはスタッフのスケジュールを作り休憩を勧めた。

『このスケジュールで休憩を始めましょう。

 艦隊に連絡してクルーの緊張を和らげましょう。

 木連反乱軍の監視は万全の状態ですので、小細工など見逃しませんよ』

「そういう事だ。

 みんなは休憩を始めて万全の状態で最終決戦を迎えるようにしてくれ」

クロノがスタッフに命令すると各自休憩を取る事にした。

その様子を見ながらクロノはダッシュに話しかける。

「ダッシュ、火星の子供達は元気でいるかな。

 もう少しで帰れそうだが寂しくしてはいないかな」

『大丈夫ですよ。

 みんながマスターの帰りを待ち望んでいますよ』

クロノはその言葉に真剣な様子で語りかける。

「まあ十年くらいは俺は忙しくなりそうだが、

 あの子達の側にいてやりたいな。

 せめて成人するまでに自分の身を守れる強さを持たせてやりたいな。

 俺が心配しなくても周りのみんなが守ってくれるから大丈夫だと思うが」

『そうですよ、みんなはアクア様とマリーさんが教育してますからね。

 大胆さと慎重さを持つ元気な子供になりますよ』

ダッシュの告げる事を聞いたクロノは沈黙していた。

『マスター、どうかしましたか?

 子供達の未来に何か不安でもあるのですか?』

黙り込んだクロノにダッシュが訊くとクロノは真面目な顔で話し始めた。

「大丈夫だと思うが、

 イタズラ好きの部分があると怖くてな。

 ………悪影響を受けてないと良いんだが」

クロノの心配事にスタッフは笑っていたが本人は真剣だった。

前回の苦労を考えるとクロノの言い分はダッシュには納得できたが、

今回は大丈夫だと思っていた。

『マスターの心配は杞憂に終わりますよ。

 アクア様はそんな事はしませんよ。

 それはマスターが一番分かっているでしょう』

「…………そうだな。

 順調にここまで来たから不安になってしまったな」

『上手くいくのは当然です。

 私達は情報を正確に押さえているので勝てたのです。

 歴史がそれを証明しています。

 戦力が五分にあれば、情報戦を制する者が強いのです。

 会戦当初は負けましたが、戦力が整えば勝つ事は可能です』

クロノの不安を吹き飛ばすようにダッシュは語る。

「これからは難しくなるな。

 事態の推移を読むのが大変だよ。

 エドワードに苦労をかける事になるな」

『その点も大丈夫でしょう。

 未来において不安材料となる人物は排除しました。

 あとは木連と地球の関係の改善をするだけです』

二人の会話を聞いていたスタッフも火星の置かれている状況を聞いて安心していた。

未来に希望の光が見えてきた場面であった。

………………最終決戦まで後36時間を切っていた。


―――反乱軍旗艦 かぐらづき―――


『では無人戦艦を囮に二手に分かれて行動するのですか?

 閣下は火星に侵攻して、私は防衛ラインの艦隊に奇襲をかければいいですか』

画面に映る人物に草壁は、

「そうだ、密集しては勝てないのは解っている。

 ならばこれしかないだろう」

『確かにこの作戦しかないですが、時には退く事も必要ですよ。

 何故火星に拘るのですか?

 それを教えて頂かないと私はこの作戦には参加しません。

 このまま木連に帰還しますよ。

 部下達に説明もしないで死ねとは言えません』

右翼を指揮していた海藤丈太郎大佐は草壁にはっきりと告げた。

それを聞いた草壁は内心で舌打ちして海藤に説明した。

「実は火星には跳躍を制御する中枢の遺跡があるのだ。

 これを手に入れれば我々の勝利は間違いはないのだよ」

『火星はその事を知っているのですか?』

海藤の質問に草壁は話す。

「いや知らないだろうな。

 そして今が絶好の機会なのだよ」

海藤は考え込むと草壁に、

『了解しました。

 では我々が囮となり閣下は火星に侵攻して下さい。

 ………………ご武運を』

そう話すと海藤は通信を終えて艦隊を動かした。

それを見て草壁も有人艦を火星の監視から外れるように動かし始めた。


通信を終えて海藤は叫んだ。

「俺達を犠牲にする気だな。

 ふざけるなよ!

 そんな事は絶対に許さんぞ!」

海藤の怒る様子に乗員が訊くと、

「遺跡の件は事実だが火星が知らないのは嘘だろう。

 今まで俺達も騙されていたんだよ。

 草壁は最初から自分が支配者になる為に俺達を騙していたんだ。

 秋山の言葉に嘘はなかった………正義などこの戦争にはなかったんだよ」

海藤は今までの草壁の行動を見て、自分の疑念が事実だと確信していた。

信頼する上官である海藤の言葉に乗員も草壁の行動に疑問を抱き始めた。

「大佐、このまま進むのは危険です。

 火星の攻撃で無人戦艦を撃破されて、その後の奇襲が成功する確率は低いでしょう。

 戻りましょう、木連へ」

側に控えていた参謀の篠原義春中尉が進言すると海藤は、

「このまま作戦行動を行うぞ。

 草壁がこちらの通信領域を離れてから艦隊に告げて全員を木連に帰還させるようにする。

 俺は木連に正義があると信じて草壁に従ってきたが正義がないのなら従うつもりはないぞ。

 火星が先程の攻撃で無人艦隊を消滅させた事は全員知っているだろう。

 俺は自分を信じてくれた部下を死なす気はない。

 最悪は火星に降伏するがその時は全責任は俺が取るから安心してくれ」

海藤の言葉に乗員たちも安堵して草壁が領域より離脱すると全艦に通信を取った。

海藤は全艦の意思を統一すると作戦を開始した。

……………生き残る為に。


―――ユーチャリスU ブリッジ―――


『草壁が動きました。

 百隻の有人戦艦を率いて、火星に侵攻しています。

 航路から推察して遺跡に向かうみたいです。

 また別働隊の有人艦隊も動きが変です。

 まるで無人艦隊を囮に後退するつもりみたいです』

ダッシュからの報告を聞いたクロノは艦隊に指示を出した。

「予定通り作戦を開始する。

 ユーチャリスU以外の戦艦は草壁の迎撃に向かって移動してくれ」

クロノの指示に従って艦隊は移動を開始した。

それを見てクロノはダッシュに、

「相転移砲スタンバイ、出力は40%で次弾の準備をしておいてくれ。

 囮の艦隊を攻撃後にこちらに突っ込んでくるのなら撃破する。

 その後で周囲の索敵を行い、安全を確認して火星へと跳躍する」

『了解しました。

 こちらの準備は既に完了しています、マスター』

ダッシュの報告にクロノは頷いて話す。

「やっぱりお前は俺の一番の相棒だな。

 俺の意図を理解して準備を進めてくれるからな」

『当然ですよ。

 マスターとは長い付き合いですからね。

 もうすぐ私達の長い戦いの旅も終わりそうです。

 火星でラピスたちと一緒に暮らしていきましょう、マスター♪』

クロノはダッシュの弾んだ声に苦笑していた。

「その話は勝ってからにしような。

 生き残って帰らないとみんなに怒鳴られそうだな」

『はい♪

 皆さんも待っていますよ、マスター』

ユーチャリスUは準備を進めて木連反乱軍を待ち構えていた。

最終決戦はもうすぐ始まる事をスタッフも二人の会話から聞いて気を引き締めていた。


「いよいよ始まりますね。

 火星に降下させてから迎撃しますか?」

アクアが隣にいるレイに訊いた。

「そうですね。

 相転移エンジンの特性を考えるとそれが一番有効的な作戦になりますね」

アクアはスクリーンに作戦を表示してスタッフの意見を求めた。

「まず火星の軌道上に艦隊がいないように見せて、

 草壁の艦隊を火星に降下させてからジャンプで軌道上からグラビティーブラストで砲撃、

 そしてエクスとブレードを使って完全に撃破する。

 ……この作戦が一番だと思いますよ」

「問題はありませんね。

 この作戦でいきましょう」

アクアが立案した作戦にレイも賛成する事で全体の意見を統一すると細かい部分の準備を始めた。

作戦会議室はスタッフが行動を開始して活気を帯びてきた。

「遺跡内部に陸戦部隊を万が一の為に待機させましょう。

 研究者の皆さんは引き上げていますから安心ですが、

 立て篭もると面倒な事になります。

 草壁が侵入して来た時は捕縛して木連との交渉に使いましょう」

レイが作戦の補足をすると追加の指示をスタッフは部隊に送っていた。

準備は着々と進んでいった。


―――木連作戦会議室―――


『艦長、状況はあまり良くないみたいです。

 自分が見た限り反乱軍の艦艇は既に半分は撃沈したみたいです。

 ここまでは無事に来れましたが、この先に進むのは危険だと判断します』

秋山の命令で偵察艦を動かしていた高杉三郎太は状況を報告した。

高杉の報告を聞いた秋山は次の指示を出した。

「了解した、三郎太。

 とりあえず警戒しながら待機してくれ。

 もし海藤が草壁の思惑に気付いて引き返す事があれば、合流して帰還してくれ」

『了解しました、艦長』

「いいか、決して火星と交戦するなよ。

 機動兵器を動かしたいのは解るが、我慢しろよ。

 お前の行動一つで木連の命運が決まるんだぞ」

『自分はそこまで馬鹿ではありません。

 自分より判断力のある海藤さんは必ず帰ってきますよ。

 必ず海藤さんと一緒に戻りますよ』

秋山の注意に高杉は真面目に答えていた。

「では通信を切るぞ。

 状況が変わり次第連絡するんだぞ」

『了解しました』

秋山の心配をよそに高杉は普段通りに敬礼をしていた。

通信が終わると白鳥が心配そうに話した。

「三郎太一人で行かすのは危険だったかな」

「ですが回せる人もそういないですよ。

 高杉はジンシリーズを使えますから偵察艦を動かすには最適ですよ」

南雲が白鳥に話すと月臣が、

「九十九の心配も解るが、俺達が動くのは無理だぞ。

 九十九と新城は市民船の護衛艦隊につかんと不味いだろう。

 源八郎と南雲はここで状況を見てもらわんと困るぞ。

 俺も残った者達で市民船内部の混乱を鎮めるから動けんぞ」

周りにいた士官達も月臣の意見を聞いて頷いていた。

「そうだな、三郎太を信じないとな。

 俺達も今できる事をしっかりやっておかないとな」

秋山が苦笑しながら話すとその場にいた者達の緊張も解れたみたいだった。

「海藤さんは無事でしょうか?

 ………草壁の犠牲になっていない事を願いますよ」

南雲が海藤の無事を考えると秋山が話した。

「大丈夫さ、あいつは部下を巻き込むことはしない男だ。

 火星の攻撃を受けた以上、その危険性に気付くさ。

 おそらく草壁の言う事を黙って聞くような事はないだろう。

 ヤバイと判断したら撤退も考えるだろうな」

「草壁にただ従うだけの男ではないぞ。

 今回の件では草壁についたが本来はこちら側の人間だぜ。

 いずれ草壁の正義と衝突する事になっていたぞ」

月臣の考えに全員が納得していた。

「今回は家族の事があったから草壁に付いただけだな。

 家族の市民船が和平派側ならこっちに付いてくれたよ」

九十九が説明すると秋山も納得して頷いていた。

兵士達の中には自分たちの住んでいた市民船が草壁派に付いた為に敵対している者も多かった。

だが草壁の行動で市民船の安全が保障されないと解った為に秋山達に従う者も出てきた。

市民も草壁の正義に疑問を感じていた。

自分達は何の為に戦うのか?

草壁の言う正義とは何なのか?

………木連も少しずつ変化しようとしていた。


―――最終防衛ライン ユーチャリスU―――


『マスター、無人戦艦の艦隊が突入してきます。

 相転移砲の準備は既に完了しています。

 射程に入ると同時に砲撃を始めますか?』

ダッシュが報告するとクロノは頷いて次の指示を出した。

「砲撃後、次弾の準備をしつつ後方の有人艦隊に連絡。

 『後退するのなら追撃はしない、後方にいる和平派の偵察艦と合流して木連に帰還せよ。

  草壁は火星で捕縛もしくは処理する。

  和平派の意見を統一して停戦交渉に臨まれるように』以上だ」

『了解しました、マスター。

 射程内に入りましたので砲撃します』

ダッシュがスクリーンに映る艦隊に相転移砲を発射して全艦を消滅すると、

通信士が艦隊に向けてメッセージを送った。

「艦長、向こうから通信がありました。

 『火星の厚意に感謝する。次に会う時は和平の場で会おう』との事です」

その言葉を聞いたスタッフ達は安堵してクロノの指示を待った。

「艦隊が合流して帰還すると同時にこちらもジャンプする。

 それまでは警戒態勢を維持してくれ。

 ダッシュ、草壁が火星に到着するのは何時頃か分かるか?」

『遺跡に到着するのは3時間後です。

 ギリギリ間に合いますよ。

 火星からの作戦は聞いていますのでそれに合わせて行動しましょう』

ダッシュの報告にクロノとスタッフは準備を始めた。

この戦争の終わりが見えてきた事にスタッフは嬉しそうにしていた。


「やはり木連に正義はなかったな。

 火星は全て知った上で行動しているぞ。

 これでは木連の戦力があっても勝てんな」

艦橋で無人戦艦の消滅を見て、火星からの通信を聞いた海藤は篠原に告げた。

「秋山さんの言う通りになりましたね。

 草壁の手の内は全て火星に知られてるみたいです。

 どうやって調べ上げたのか、知りたいですよ。

 木連の存在を火星は地球とは別の方法で知っていたのでしょうか?」

篠原の疑問は艦橋にいた乗員達も知りたかった。

木連の存在は地球の一部の高官しか知らないはずなのに火星は知っていたのだ。

誰もが疑問に思う中で海藤は話した。

「その点は不明だが、火星は戦争の継続を望んでいない。

 今はそれだけで十分だろう。

 俺達は生きて木連に帰る事にしような。

 後方にいる秋山達の偵察艦に連絡を取って合流しよう」

海藤の指示を聞いて篠原は通信士に通信を入れるように指示を出した。

『海藤さん、無事ですか?

 艦長の指示でお迎えにきましたよ。

 どうもこっちの動きは全部知られているみたいです。

 早く合流して帰還しましょう』

三郎太の意見に海藤は頷いて話した。

「そっちも人手が足りないみたいだな。

 まさかお前が来るとは思わなかったよ、三郎太」

『仕方がありませんよ。

 艦長達は市民の不安を解消する事を優先しています。

 自分が来たのは万が一戦闘になった時にジンシリーズを扱える様にとの配慮です』

三郎太の報告に海藤も納得した。

「とりあえず合流して帰還するぞ。

 帰還後は秋山に艦隊を預けるからな」

『了解しました。

 では急いで合流しましょう。

 お疲れ様でした、海藤さん』

三郎太は通信を切ると合流する為に艦を動かした。

艦隊は合流後、木連に帰還する航路をとった。

草壁は味方からも見捨てられ始めていた。

その事を草壁は気付いていなかった。









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EFFです。

今回は後書きは無しです。
次回に持ち越す事を許してください(爆)

多分後書きは読まれていないと思いますが(汗)



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