世界は1つでは無い。我々の知らない所で、我々の知らない世界が存在する。
その距離は極めて近く、限りなく遠いようで――交わりそうで交わらない。
無数の世界は並行を進み、隣同士に立つ存在なのだ。

だが――もしも異なる世界同士が混ざってしまったら?
もしも異なる世界の住人同士が出会ってしまったら?
世界を混ぜ、破滅を望み、強者を求める者が居たら?

世界はどうなってしまうのだろうか。
答えは誰も知らない――知る由も無い。

 

 

無双OROCHI IF〜英雄達の激闘〜

 

 

薄暗い檻の中――丁寧に掃除されていないせいか、不快な臭いが鼻を衝く。
自分を見張っている2人の兵士の背を睨みながら、趙雲は頭を抱えた。

(桃香様……)

桃香――この名は真実の名であり、家族や親しい者にしか教えてはいけない“真名”と言う物だ。
誰もが知っている名で言ってしまえば、趙雲が内心で呟いた者の名は“劉備”と言う。
趙雲が自身の誇る武を預けた人物であり、生涯家臣として仕える事を誓った主だった。

しかし彼女はもう存在しない。
突如襲ってきた、得体の知れない軍勢によって殺されたのだ。
正しく奴等は地獄からやって来た“鬼”と言うに相応しかった。
あの時の光景が、徐々に頭へと蘇ってくる。

(私が付いていながら……本当に情けない……!!)

敵に隙を突かれ、地面へ倒されていく自分の身体。
その眼の前で主は押し倒され、敵に囲まれていく。
彼女の悲鳴を聞きながら、自分は気を失ってしまった。

あの状況では助からない。途方も無い絶望感が容赦無く自分を襲った。
気が付いて思い出した時には、舌を噛み切って死のうとすら思った。
だが――趙雲はこの場で死を選ばなかった。

どうせ死ぬのなら――ここをどうにかして脱出し――奴等を1人でも多く地獄に送る。
そしてあの軍勢を率いていた頭――“遠呂智”を自身の手で倒し、桃香の仇を取る。
それを全て果たした際には、潔く死んでやろう。だからここで死ぬ訳にはいかない。

そう決意したのだ。

「な、何だ貴様……! 何を……ギャア!?」
「ヒ、ヒィ……!! ぐわああああ……!」

男の悲鳴が響く。趙雲が思わず見張りへ眼を向けた。
するとそこには力を無くして倒れている、2人の見張りの姿。
そして白装束に身を包んだ、鋭い眼付きの男が立っていた。

「貴様が趙雲か……?」

男が静かに訪ねた。
趙雲はゆっくりと頷く。

「そうだが、お主は何者だ……?」

男は小さく舌打ちし、面倒そうに答えた。

「俺の名は左慈。かつて1つだった、この世界の管理者だよ」
「左慈殿か……(世界の管理者? この男、何を言っている?)」

趙雲は静かに立ち、鉄格子に阻まれながらも、左慈と名乗る男を見つめた。
底が深く、暗い瞳だ。何を考えているのか、まるで読み取る事が出来ない。
怪しいと感じながらも、趙雲は見張りを倒してくれた事には感謝していた。

「私に何用だ? 何も私と話す為だけに、見張りを倒した訳ではあるまい?」
「当たり前だ。貴様と気ままにお喋りをしている程、今の状況は甘くない」

左慈は趙雲に指を突き付け、言い放った。

「良い事を教えてやる。貴様の大切な主――劉備は生きている」
「――――ッ!!」

左慈の言葉を聞いた瞬間、趙雲は全身に衝撃が走るのを感じた。
自分の主が生きている――真実ならば生きて再会し、謝罪したい。
趙雲は取り乱さないよう冷静さを保ちつつ、左慈に問い掛ける。

「…………それは本当か? 左慈殿」
「嘘など言わん。この世界を戻す為には、あらゆる人間の協力が不可欠なんだ」

左慈が鉄格子を掴み、趙雲を睨むように言った。

「ここから出してやる。その代わりお前は各地で戦う奴等を集め、遠呂智の野郎を必ず倒せ」

趙雲の――彼女の答えは決まっていた。

 

 

突如現れた魔王・遠呂智の力により、三国志の世界と戦国の世が融合された。
異なる世界の融合は、異なる世界の住人達の出会いを果たしてしまったのだ。

 

「政宗殿ッ! どうして貴殿のような方が、遠呂智と言う悪党に与するのだ!」
「ごちゃごちゃうるせえぞ、真田幸村ぁ! 俺は遠呂智軍、あんたは反遠呂智軍、ただそれだけだろうが!」

「やれやれ……あんた等が遠呂智側に回るとはねえ。オレ様泣いちゃいそう」
「忍が……政宗様は苦渋の決断をされた。テメェがそれを非難する資格はねえ!」

「利……! どうしてあんな奴に従うんだ! お前らしくないぞ!」
「まつが人質に取られたんだ……! 某にはこうするしかない!! 許せ慶次!」
「くっ……本当にやるしかねえのかよ!!」

対峙し、背負う想い故にすれ違う両雄――

 

「愛紗、鈴々……お前達とこうして道を別れ、矛を交える事になるとはな……」
「星……私も同じ想いだが、これが現実だ。今はこうして従うしかないんだ」
「鈴々達も嫌だよ。でも遠呂智とか言う奴に従っていないと……駄目なのだ!」

かつての戦友と対峙し、悲しみを露わにする3人――

 

「オメェは……」
「初めまして、貴方が徳川家康ね。私は孫策、字は伯符。貴方と同じ、今は遠呂智に従う手駒よ」
「オメェがあの孫策……? お、女子じゃねえか!?」

同じ苦しみを分かち合いながら、密かに力を蓄える両雄――

 

「姉者……桂花達がこちらへ向かっているらしい。我々を殲滅しろと遠呂智に命じられたのだろう」
「ふん! 何度攻めてこようが、何度でも追い返すまでだ! 秋蘭、出るぞ!!」
「ああ……! 華琳様の戻られる魏を残す為だ。力の限り戦おう」
「その通りだ。華琳様は必ず生きている。あの方が戻られる場を、我々で残すんだ!」

主の生還を信じ、袂を分かちし友と戦う彼女達――

 

「軍神よ……こうしてお主と手を結ぶ事になるとはな」
「これも……びしゃもんてんのみちびきなれば」
「ふふ、お主らしい答えよ。虎と軍神、共に遠呂智に抗おうぞ!」

「さあ、同盟の証じゃ。酒を酌み交わさんね」
「へっ! 鬼島津よぉ、のり気じゃねえのが1人居るみてえだぜ?」
「ふん……せいぜい我の駒となって働くが良いわ」
「オーウ、愛が足りナーイデスよ。眩しいスマイルをお願いシマース!」

共通の敵の為、手を取り合う強者達――

 

「……お前も迷子?」
「…………!」
「恋殿ぉ! こいつは何か怖いですよ!? 大きいし、喋らないし、人間っぽくないし!」

何かに共感し、共に行動する英雄達――

 

出会う事の無かった英雄達――絶対に戦う事の無かった英雄達。
ある者達は遠呂智に与し、ある者達は遠呂智打倒を目指す。
それぞれの野望を胸にし、英雄達は行動を開始した。

「遠呂智様♪ 次はどうしましょうか?」
「強者ノ居ル所ガ、我ノ向カウ場ダ」

戦え――英雄達。
己が目的の為に。

 

 

後書き
はい、無双OROCHI IFをお送りしました。
三国無双の登場人物を恋姫に、戦国無双の登場人物をBASARAに置き換えた物です。
実はこれ、鬼姫†無双の後に投稿しようと予定していた物だったりします。

蒼竜の爪の前の作品ですね。これも実は候補の一つだったんです。
ルートの全勢力は出せるし、BASARAキャラも万遍無く出せる。
あらゆるキャラが遠呂智を筆頭に敵味方に分かれ、戦い合う。
プロットも作り、保管してあります。お蔵入りって奴ですね。

かなり無茶した設定ですが、ワクワクして頂ければ何よりです。
では。



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