「はぁ……」

文醜の足取りは――まるで身体中に鉛を付けているように――重かった。
その原因は勿論、長曾我部軍に自殺特攻並みの命令を伝えに行く事にある。
提案したのは自分とは言え、まさか自分自身が伝えに行くとは予想していなかった。

伝えに行く事を強制させたのは君主である袁紹だ。
だが悲しいかな、逆らえないのは主従関係と言う物で出来ないのである。

「姫も無理矢理やらすよなぁ。斗詩も何か助け舟を出してくれりゃ良いのに……」

君主の身勝手さには慣れたとは言え、時々本気で袁紹軍を辞めたくなってくる。
あまりにも酷い時には――親友の顔良を連れて――袁紹軍から脱隊を考えた事もある。
しかし今の不自由無い生活に落ち着いてしまっている為、結局は脱隊していない。

「仕えるならもう少し物分かりが良い人に仕えたいよ……」

愚痴を零しつつ、文醜は長曾我部軍の陣地に到着した。
周囲を見渡し、責任者が居ないかどうか探してみる。

「ん? あれかな? 3人の女の子に……半裸の男?」

姿形からして明らかに一般の兵士とは違う4人を見つけた。
4人の内3人は女性であり、残る1人は男だ。

そして男の方は何故か半裸だった。

「(き、着る服が無いのか?)す、すみませーん!」

文醜が声を掛けると4人は同時に振り返り、文醜の方へと歩いて来る。
徐々に近づいてくる4人を見つつ、文醜の視線はある一点に注がれていた。

(うわぁ……ちょい遠くから見てたから分かんなかったけど、結構良い身体付きしてんじゃん!)

男の立派に鍛えられた身体を見て文醜は心の中で歓声を上げた。
自分が今まで目にしてきた男性と言えば金で肥え太った者達ばかり。
男性に対して少々減滅していた文醜だったが、世の中にはこう言う男も居るのだと改めて認識させられた。

「おーい? あんた大丈夫か?」
「――えッ!? あ、あー……ゴメン!」

気が付けば凝視していた男が自分の顔の前で手を振っていた。
どうやら彼の身体を見るのに気を取られ過ぎてしまったらしい。
文醜は若干顔を赤くしつつ、男に軽く頭を下げて謝る。

「あの……我が軍に何か用事でもあるんですか?」

3人の女性の中でも特に小さい少女が文醜の元までやってきて用事を伺う。

「あ……うん。用事があって来たんだ。長曾我部元親って人、何処に居るか知ってる? あたいは袁紹軍の将の文醜って言うんだけど……」

文醜が名乗ると、4人は驚いたような表情を見せる。

「……おう。俺がお探しの長曾我部元親だ」
「一応自己紹介はしておこう。私は関羽だ」
「鈴々は張飛なのだ!」
「私は諸葛亮です」

4人は文醜と向かい合い、礼儀正しく名乗ってくれた。
思いもよらなかった丁寧な対応に文醜は少々戸惑う。
もしこれが曹操や孫権の軍だったらどうだっただろう。

「それで? 袁紹軍の将が俺達の陣にどういった用で来たんだ?」

元親が文醜にわざわざ来た理由を問い掛けてくる。
文醜は口籠りながらも、ゆっくりと用件を伝えた。

「……えっと、姫……じゃない。我が主君である袁紹からの通達だよ。長曾我部軍はこれから城門突破の任を務めてる魏呉両軍を助ける為、今すぐ前進をしてくれってさ」

それを聞いた元親は眉間に皺を寄せ、不機嫌な表情を見せる。
他の3人は驚きに眼を見開いていた。

「……こんな状況で前進しろだぁ?」
「この戦乱の中を今すぐにですか? それはかなり危険じゃないかと思うんですが……」
「そんな事をすれば戦場は大混乱に陥るぞ。一体何を考えているんだ!」

不平不満を漏らす3人へ文醜は申し訳なさそうに頭を下げる。
この雰囲気で自分が提案した策であると言えなかった。

「本当にゴメン。こんな事をしても事態は変わらないって思ってるんだけどさ……」
「野郎共の休息も充分じゃねえってのに……そいつは袁紹の命令か?」

元親の真っ直ぐな瞳が文醜を貫く。

「あ……う、うん……そうだよ」

その瞳を直視する事が出来ず、文醜は顔を伏せてしまった。
自殺に近い命令を下してしまった長曾我部軍への罪悪感が彼女に圧し掛かる。

「ちっ……しょうがねえな。朱里、愛紗と一緒に部隊の編成を頼む」
「は、はい」

元親は諸葛亮――朱里に指示し、関羽――愛紗と共に部隊の編成に当たらせた。
残った張飛――鈴々は元親と共に兵士達の激励に行く事となった。

「ご苦労様。それじゃあたいはこれで……」
「ああ、わざわざすまねえな」

これ以上この場に居るのは忍びないと思った文醜は早く陣内から去ろうとした。
だがその途中に元親から「ちょっと待て」と呼び止められた。

「えっと……何?」
「1つ言っておきてえ事がある」

元親は頭を少し掻いた後、腕を組みながら文醜に言った。

「あんた……頼れる大将を探した方が良いぜ」
「――――ッ!」

元親の哀れむような視線が文醜に向けて注がれる。
文醜はそれを振り払うように苦笑しながら言う。

「ご忠告どうも……」

 

 

 

 

そんな袁紹の命に従い、仕方なく元親達は自軍を前進させていた。
分かってはいたが、先程の戦で兵達の疲れが充分に取れておらず、動きが若干鈍い。
元親は鈴々と共に激励はしたが、回復の見込みがあるのは気力のみ。

気力とは違って体力の回復は別物である。
労いの声を掛けた後、無理に笑顔を作る兵士達の姿が痛々しい。
そんな時、悲鳴に近い朱里の報告が元親達の耳に届いた。

「大変です! 魏軍、呉軍の両軍が後退していきます!」
「「「な──ッ!?」」」

城門突破の任を務めていた両軍の後退と言う事態に元親達は言葉を失った。
長曾我部軍が進もうとする先には魏と呉の兵達が左右に分かれて退いていく様子が見える。
このままでは援軍に来た自分達の軍が殿を務める事になってしまうのだ。

「どういう事なのだ!? これじゃ鈴々達が先鋒になっちゃうのだッ!」
「ご主人様! このままじゃ敵の攻撃が私達に集中しちゃいます! 後退をッ!」

この事態に焦る朱里の声が内心舌打ちをしていた元親の耳に届く。
無論言うまでも無い。元親は全兵士に後退を告げるべく口を開いた。

「野郎共ッ!! 今すぐ――」
「城門が開きました! 敵軍、突撃してきます!」

最も聞きたくなかった最悪の報告に元親は現状を否定したくなってくる。
だが今は無念の気持ちに浸っている時ではなかった。

「クソッタレが……野郎共ッ! 今すぐ止まれ!」
「は、はいッ! 全軍、止まれーッ!!」

前進していた兵士達をすぐに後退させるには若干無理がある。
とりあえず今は前進するのを止める為、元親は号令を掛けた。
その号令は1人の兵士から波の如く後方の兵士達に広まり、歩みが止まった。

次にやるべき事――それは自軍を速やかに下げる事だ。
出来るのなら魏軍や呉軍と同じくらいの位置まで行きたい所ではある。
しかしこのまま下がったとしても迫る董卓軍に捕まるのは間違いない。

元親は自嘲気味の笑みを浮かべ、決断した――

「朱里、俺の直衛部隊を前線に回せ。俺が奴等を喰い止めてる間に本隊を下げろ」
「「「――えッ!?」」」

元親が出した提案に愛紗、鈴々、朱里の3人が顔を青くし、言葉を失う。
だが元親にとってこの時間すら勿体無いと感じていた。
早急に兵士達に指示を出さなければそれだけ被害が大きくなってしまう。

「何をボーッと突っ立ってやがる! 早く指示を出して、後ろへ下がれ!!」
「ふ、ふざけないで下さいッ!! そんな無茶が通るとでも思ってるんですか!!」
「いくらお兄ちゃんでもそれは本当に無茶なのだッ!!」
「ご主人様は大将なんですよッ! 大将が殿を務めるなんて……」

元親が3人から一斉に反対の言葉を浴びせ掛けられる。
予想はしていた事だ。だがこのまま押し切られる訳にはいかない。

「大将だからやるんだ。言ったろ? 俺はお前等と野郎共を見捨てたりはしねえし、必ず守り切ってみせる。それにこんな危険な役目、他人に押し付けて引き下がるような腐った根性を、俺は持ち合わせてはいねえんだ」

元親の迷いの無い瞳に3人は射抜かれたように身体が固まった。
だが3人は頷かない。愛紗が元親の前へ出て必死に説得を続ける。

「俺の事を想うんだったら、早く部隊を下げて大人しくしてろ」
「ご主人様! しかし……」
「愛紗!! このまま言い争ってたら無駄な犠牲が増えるんだ!! 理解しろ!!」
「――――ッ!」

愛紗の必死の説得も虚しく、元親は直衛部隊を集結させた。
鈴々と朱里も愛紗の傍に行き、元親へ説得を試みる。
しかし結果は愛紗と同じだった。

鈴々と朱里が落胆する中、愛紗の瞳から1つ、また1つと涙が零れ落ちる。

「ご主人様は……私達が……信用出来ないのですか……!」
「…………」

愛紗が泣いている所を初めて見た元親は表面には出さないが、内心動揺していた。
元親自身、彼女等が猛烈に怒るのも自分を止めたいと言うのも理解出来る。
自分は軍の大将なのだから危険には晒せないと言う気持ちも分かっている。

だが――

「――馬鹿野郎」
「あっ……」
「「ふえ……」」
元親は目の前に居る3人を自分の胸に抱き込んだ。
元親の厚い胸板に押し付けられた愛紗は動揺し、鈴々と朱里は呆然としていた。

「信用してねえ訳がねえだろう。俺に付いてきてくれてる奴を、仲間を、大将の俺が信じないでどうするんだよ」
「…………」
「お前等が信じてる限り、俺は死にはしねえさ。俺もお前等に訊くぜ? 天の御遣いを、兄貴を信じてねえのか?」

元親からの問い掛けに3人はゆっくりと首を横に振る。
その反応を見た元親は微笑を浮かべ、3人の顔を見た。

「心配すんな。必ず生きて帰って来るからよ」
「「「…………はい」」」
「愛紗、鈴々、武人であるお前等にとって、力を信用してないって言う感じに聞こえたかもしれねえ。……かなりの侮辱だったろ? すまねえな」
「いえ……ご主人様の身心は、この身に深く刻みました」
「鈴々もなのだ! お兄ちゃん、気にしなくて良いのだ」

愛紗と鈴々のありがたい返事に元親は安堵の溜め息を吐いた。
そして抱き込んだ3人を解放し、朱里が素早く指示を下す。

「では殿はご主人様に任せ、私達は軍を下げます! 本隊は速やかに転進して下さい!」
「慌てるな! 慌てると混乱を招き、思うように進めないぞ!!」
「みんな〜〜! 慌てず、騒がず、ゆっくりと行くのだぁ!!」

朱里の号令に愛紗と鈴々が続き、兵士達がそれに応えて後退を始める。
その場には元親と彼の直衛部隊だけを残して。

すると後退を進めていた朱里がまだ場に残っている弓兵に指示を出した。

「両翼の皆さん! 弓を持っている人はすぐに構え、合図と共に一斉射してください! 狙うは、敵の前線です! …………3、2、1……発射です!」

朱里の合図と同時に軍の両翼から多くの矢が放たれ、敵軍の鼻先をかすめていく。
それに驚いた敵兵達は次々に足を止めていく。

「よくやった! さあ、早く後退するぞ!!」

愛紗が必死に兵士達を激励する。
その心中では自分が心から慕う主の無事を懸命に祈っていた――

 

 

 

 

前方から徐々に迫る敵兵達をマジマジと見ていた元親は突如後方から降り注ぐ多くの矢に驚いた。
更にそれに驚いた敵兵の足が止まっていくのを見て元親は微笑を浮かべる。

「良いモンを見せてくれるじゃねえか。これで出鼻を少しは挫けたか?」
「兄貴、今のって諸葛亮ちゃんの指示ですかね?」
「だろうな。ありがたい攻撃で涙が出るぜ」

元親は朱里に感謝をしつつ、自分の直衛部隊の兵士達を見た。
疲れが溜まっている筈なのに良い面構えをしていた。

「野郎共ッ! あいつ等が無事に後退出来るように何としても喰い止めるぞ! 覚悟を決めやがれ!!」
「「「「アニキーッ!!!」」」」

雄叫びのような声を上げる兵士達に元親は満足そうに軽く頷く。
そして再び敵兵達の方へと視線を移す。

この時元親は気のような物を肌で感じていた。
あの時取り逃がした者が、あの中に居ると――

「(華雄…………今度こそ、戦り合おうじゃねえか)行くぜ野郎共ッ!!」
「「「「オオオオオオオオーッ!!!」」」」

矢の攻撃から立ち直った敵兵達が再びこちらへと迫る。
元親は待っていられるかと言わんばかりに自ら先頭に立って突撃するのだった。

 

 

 

 

両軍はついに激突した。
あちらこちらの場所で互いの兵士達が戦い、倒れていく。
元親はその乱戦の中を碇槍に乗って駆け抜けていた。

「食われたくねえんなら、とっとと逃げちまいなッ!!」

元親が宙に高く跳ぶ。
着地すると同時にそこに居た数人の敵兵を押し潰し、再び駆ける。

「真夏の海よりは涼しいってもんだな!!」

元親の前方に多数の矢が降り掛かる。
それを見て取った元親は素早く右に方向転換。
何とか矢を避け、身体に受けずに済んだ。

「味方に当たるかもしれねえってのに、お構い無しかよ。胸糞悪ぃ!」

元親が少しの吐き気にも似た嫌悪感を抱いていると、自分の少し前方に馬に乗った敵兵の姿があった。
馬に跨っている者は――見間違えようも無い。
手に持つ戦斧に銀の頭髪――董卓軍猛将の華雄である。

「やっと会えたな……華雄!!」

元親は微笑を浮かべ、大声で叫ぶ。
それに対し、華雄も元親に気付いたらしい。

「――鬼かッ!!」

2人が擦れ違い、互いに戦場を駆け抜けていた物から降り、大地に立った。
華雄の乗っていた馬は乗り手を失ったせいか、落ち着きを失い、戦場へ消えていった。

元親と華雄――2人が対峙し、武器を構える。
2人の周囲はまるで決闘場のようにガラガラに空いていた。
まるで兵達の誰もがこの時を望んでいたかのように。

「鬼めッ! 預けておいた首を今こそ貰い受けるぞ!!」
「生きが良いじゃねえか! はたしてあんたにこの鬼が喰らえるかな?」
「黙れ! 鬼がぁぁぁぁぁぁッ!!」

気合いの雄叫びと共に華雄は一気に間合いを詰める。
対する元親は華雄の醸し出す迫力に圧倒される事はなかった。

「力押しなら負けねえぜッ!!」

元親は碇槍を横に振るい、巨大な衝撃が身を襲う一撃を向かってきた華雄に浴びせる。
華雄はギリギリでそれを戦斧で受け止めるが、両手が強く痺れてしまった。

「くあ……ッ! お、おのれッ!!」

思わず戦斧を手放してしまいそうなぐらいの痺れに華雄も表情を歪める。
その様子を見て取った元親が不敵な笑みを浮かべて言った。

「おいおい。それぐらいで参ってるんじゃ、鬼の首なんざぁ討ち取れねえぞ」
「な、舐めるな! 勝負はまだこれからだッ!!」
「ハハハ! そうこなくっちゃあ、面白くねえぜ!!」

金属の巨大な衝突音が、戦場に響き渡る
元親は荒々しくも豪快な動きで碇槍を振るい、華雄を圧倒しようとする。
華雄も元親と同じくらい荒々しい攻撃を繰り出し、元親を一撃の元に倒そうとしていた。

互いの攻撃を受け止め、受け流す。
その際の衝撃は余すこと無く、本人達の身体に伝わる。

「ウオオオオオッ!!」
「ハッハッ! やっぱ良いじゃねえか! 片割れ月みてえに張り詰めた勝負はよぉ!!」

やがて――ある変化が生まれてきた。
最初は互角の戦いを2人は見事に繰り広げていた。
しかし時間が経つに連れ、華雄が息を切らしてきたのだ。

「どうしたぁ!! その立派な武器は飾りかよッ!!」
「くっ……黙れぇ!!」

息を切らす華雄に容赦無く、元親の攻撃は続く。
時折反撃はするが、徐々に華雄は防戦一方になっていった。
それを見て取った元親は徐々に攻撃の手を緩め、距離を取る。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
「…………そろそろ決着を着けるかい? 華雄さんよぉ」
「わざわざ距離を取るか。……少し屈辱だが、まあ良い。望み通り、これで決着だ」

虚勢を張る華雄に、元親が挑発的な笑みを浮かべる。

「さあ来な。あんたの燃える魂が詰まった攻撃で、俺の心のド真ん中を打ち抜いてみやがれッ!!」
「なら貴様も……私の心のド真ん中を打ち抜いてみろぉ!!」

元親の、華雄の、2人の瞳に闘志が宿る。
そして互いに愛用の武器を構えた。

「おおおりゃあああ!」
「ウアアアアアアア!」

今までの比べ物にならない、金属同士のぶつかり合う音が響く。
そして――1つの武器が宙高く舞う。
その武器を持っていた者も地面を勢い良く転がった。

 

 

剣が打ち合う音と雄叫びが絶えない戦場。
そこに用意された――2人の大将が戦った――決闘場は不気味な程に静寂に包まれていた。

「うっ……くっ……ガハッ……!」

大地に倒れ伏し、呻いているのは董卓軍の猛将――華雄。
そして大地に悠然と立っているのは長曾我部軍の大将――長曾我部元親。

「俺の……勝ちだな」

元親は一言そう吹き、倒れ伏す華雄の元へ歩み寄る。
周りは戦場だと言うのに、元親はまるで大きな戦が終わったように感じられた。
自分の元へと歩み寄ってきた元親を華雄は鋭い目で見上げる。

「そう……だな。は、早く殺せ……貴様の小さな軍では、大手柄だろう……」
「…………」

元親は華雄から向けられた視線を暫く受け止めた後、掲げていた碇槍を下ろした。
その元親の行動に華雄の表情は驚愕の色に染まる。

「――ど……どういうつもりだ!! な……何故……殺さない!?」

華雄の――苦しそうな――怒声が元親の耳に届く。
その言葉に元親が呆れたように溜め息を吐いた後、華雄の方へ向き直った。

「悪いが……無抵抗の奴を殺す趣味は、俺には無いんでね」
「な……何だと……?」

微笑を浮かべて話す元親に華雄は何とも言えない表情を浮かべる。
少なくとも元親の考えている事は彼女には到底理解出来なかった。
元親はそれを気に留める事なく、言葉を続ける。

「それにな、俺はあんたのその強さと気迫が気に入ったんだ。どうだ? 董卓軍の華雄はここで死んだってことにして、俺達の仲間にならねえか?」
「――――ッ!?」

元親は倒れ伏す華雄に向け、ゆっくりと手を差し伸べる。
華雄は困惑した表情を浮かべ、元親の手を見つめた。

「決闘で生き長らえちまった命、俺に預けてみねえか? 良いモン見させてやるぜ」
「…………」

元親の表情は期待通りの答えが出ると信じていた――

 

 

 

 

「ほう……華雄将軍は失敗しましたか」
「……いかが致しましょう?」

薄暗い一室――その中で白い衣服に身を包んだ男から、眼鏡を掛けた青年が報告を聞いていた。
内容は水関での長曾我部軍と華雄軍の戦である。

「ちょっと待って下さい。我が主に指示を仰がなくてはいけませんからね」

眼鏡を掛けた青年――名は干吉。方術と言う術を使う者である。
干吉は奥で眼を瞑りながら立っている主へ静かに声を掛けた。

「さて、どうしましょうか。聞いていたかもしれませんが、華雄将軍は失敗したみたいです」
「……言うまでもなかろう」

干吉からの問い掛けに主の男は眼をゆっくりと開きながら言った。
その眼は鋭く、氷のような冷たさを漂わせていた。
服装は白装束を纏う男に近かったが、色や細部等が異なっている。

「奴共々消す……と言うことですね。分かりました」

主から指示を受け、干吉はすぐに白装束の男に伝えた。
男は頷くと瞬時にその場から姿を消した。

「それにしてもすぐ消さなくても良いんじゃありませんか? 彼女はまだ利用価値はあるかもしれませんのに……」
「……駒如きが我に説教を垂れるつもりか?」

干吉の細い首根っこを主の男が掴む。
だが干吉は表情を変える事なく、言葉を続ける。

「すいませんでした。以後、慎みますよ」
「ふん……覚えておけ。誰であろうと我が使えぬと思った者は切り捨てる。そなたもその1人である事を忘れるな。そなたが得意とする方術が自身の身を助けている事を心身共によく刻んでおけ」

主の男は乱暴に首根っこから手を離し、その場から姿を消した。
干吉は微笑を浮かべながら掴まれた首根っこを擦った。

「ふふふ……私も貴方と同じ気持ちなんですけどねぇ。毛利元就様……」




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