その背に背負った罪は重く

その罪は死をもって清算するには大きい。










TRAVELER

第一章 天地編







第一話








(……何故だ? 何故俺は、まだ物を考える事が出来るんだ?

 あの後確かにジャンプして意識が消えた。あれは死では無かったのか?

 ならここは……どこだ? 俺はどこにいる? 何故周りが見えない……! 体が動かない?!)

闇の中でテンカワ・アキトは考える。

彼の考えももっともだ。

彼は死んだ筈だった。

なのに、今彼は物を考える事が可能であり 状況を把握しようともがいている。

しかし、無理であろう。

彼の五感は既に閉ざされ、体の自由はもはや利かない。

だが彼は諦めない。

(動け動け動け!俺の体!!
 また、勝手に弄くられて……それでいいのか!)

そして、彼に一条の光が射す。

(あそこ……何にか感じる?! 進むしか無いか)

彼の思惑道理、彼の意識は光へと近づき……








太陽の光が差し込む木造の部屋で身を起こす者がいる。

「ここは……どこだ?」

アキトは、目覚めた。

「確か俺は……光のある方へ向かって、それから……

 いや?! その前に俺はランダムジャンプをして、死んだ筈だ!」

アキトは訳の分からないと言わんばかりに、頭を激しく振る。

で、ふと周囲の状況を調べようと首を回すと……信じられない事が彼の身に起こった。

「……何故、眼が見えるんだ? それに」

彼は臭いを嗅ぐように鼻を鳴らし、

「料理の臭い、だと?!……まさか、、っ! ……さすがに味覚はいつもどおりだな」

臭いが嗅げる事に驚いたアキトだが、すぐさま唇を噛み血で味覚を確認して落胆する。

「しかし、一体どういう事だ?」

今のアキトの状況は、ナデシコ長屋時代の自分の部屋を思い出させる部屋に

布団を掛けられて寝ていた所を体だけ起こして、自分に起きた出来事に頭を捻らせる、という物だった。

「服は見覚えが無い。 バイザーは、服と共に隣に置いてある。

 もしかして、ジャンプアウトした先で介抱されたのか?俺は」

畳まれた黒の服に置かれたバイザーを見ながら、呆然とするアキト。

話の流れから、シリアスにどんどんネガティブ思考に埋もれていきそうだが……

「俺の刀とアーマーはどこへ」

自分のお気に入りの一品が無いので、少し落ち込むアキト。

「気に入ってたんだがな」

そしてそれらを探そうとキョロキョロと辺りを見回すと……

「……?!  さっ!」 

「誰だ!?(ちっ、油断した!)」

襖の隙間から見えた物陰に鋭く牽制の声を浴びせるアキト。

そのアキトの問に答え、向かって来たのは……

「みゃああぁぁん!」

「!?……って何だ? ウサギ? 猫?」

さささっとアキトに近づいてきたその……変な生き物は、アキトが寝ている布団の手前に来ると腰を下ろし、

「みゃん♪」

と鳴いた。

「……とりあえず害は無さそうだな」

アキトはその深緑毛で金目の生き物をそう判断し、襖の奥に居る人物も害は無いと判断した。

「用があるなら出てきてくれないか?」

「……」 すすっ

アキトの言葉に、襖を開けて入ってくる人物……というより少女。

「君は?」

一瞬、ジャンプする前に会った義理の娘の姿を思い出したがそれを振り払い問うアキト。

アキトの問いに、少し怯えの混じった瞳で見つめる少女。

「こういう場合俺から名乗るべきか。……俺の名前はテンカワ アキト。 君は?」

その少女の瞳を見て慌てて取り繕い、本名を名乗っていいかどうか少し悩んだ後、可能な限りの笑顔を浮かべるよう心がけて名を明かす。

その笑顔を見て安心したのか、少女に笑顔が宿った。

「私の名前は砂沙美(ササミ)って言うの! よろしくね♪」

水色の髪をなびかせながら満面の笑みを浮かべる砂沙美を眩しそうにみるアキト。

「そっか……砂沙美ちゃんって言うのか。 ところで……」

そっと立ち上がりながらアキトは聞く。

「わっ、もう大丈夫なの?」

「(もう? と言う事は彼女が俺を見つけて) あぁ大丈夫だ。 ところで、ここは何処だい?」

「ここは天地兄ちゃんの家だよっ」

「天地……? 砂沙美ちゃんのお兄ちゃんなのかい?」

アキトがそう聞くと、砂沙美は少し困った様な顔をする。

「何て言えばいいのかな? 親戚のお兄ちゃん、って所かな?

 でも天地兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ」

「そうか……(とりあえず普通の民家っぽいが、そうすると俺の視力と嗅覚が戻っている理由が分からない)」

そしてそのまま考え込むアキト。

ぐぅぅぅぅ

「……(そういや腹が減ったな。 何日寝ていただろうか?)」

「あはっ♪  アキトさんったらお腹空いてるんだね……そうだ!もう、お昼だからアキトさんもおいでよ」

「いやしかし(味覚が無いし、そこまで世話になる気は)」

アキトは遠慮するが砂沙美は容赦なく彼の手を掴み、どこかへ連れて行こうとする。

「いいからいいから遠慮しないで!」

元来から女の子には弱いアキト。 無下に扱うのも酷いと思い、そのまま砂沙美に連れられていく。

「みゃぁん」

「そうね、魎ちゃんのニンジンもちゃんと準備してあるよ」

「みゃん♪」

深緑の毛玉……いや、猫(うさぎ?)が砂沙美達の後を追い、砂沙美の提示したニンジンという言葉に

うれしそうな鳴き声をあげる。

「これは、なんなんだい?」

アキトが恐る恐る砂沙美に聞く。

「え? 魎ちゃんの事? 何って言われても魎ちゃんは猫だよ」

「猫、ねぇ」

彼女がそう言い張るんならそうなんだろうと思い、階段を降りて行った。








「みんなまだ来てないみたいだね……ま、その内来ると思うから先に食べておこうよ」

一階の居間らしき所に連れてかれたアキトは、そのまま料理が並べられている食卓に座った。

隣には砂沙美と、魎皇鬼がいる。

「いや、しかし一応みんなを待っていたほうがいいんじゃないのかい?」

「アキトさんが待っていられるならいいけど……」

「みゃーん」

アキトの言葉に魎皇鬼が文句のありそうな声を挙げる。

「あ……アキトさん、待たなくていいかも」

「え?」

「みゃみゃ」

砂沙美はぼそっと呟くと、時計を見て次に玄関の方を見る。

「(どういう事だ?)」

アキトが訝しがっていると、

ぼーんぼーん

アンティーク物の時計が正午を知らせ、それと同時に玄関の戸が開かれる。

「ただいま〜!」 「ただいま帰りました、砂沙美」 「腹減った〜」 「ほっほぅ」

「おかえりなさ〜い」 「みゃ〜ん」

住民であろう人々が腹を空かせて帰ってきたのだ。

当然飯がある所、アキトの方へ進むわけで

「「「「 ………… 」」」」  「……(まいったな)」

色んな思惑が載せられた視線にアキトは何とも言えずただ黙る。

「あ、貴方誰ですの!!?  不審な輩め、砂沙美から離れなさい!」

「……!」

と、突然黒髪の女から何か攻撃を加えられるが上手く後ろに跳び避けるアキト。

「避けた?!」

「どいてろ! 阿重霞!  てやぁぁ!!」

自分の攻撃を避けられた事に驚く女を退かし、今度は白髪の女がアキトに飛び掛る。

「ちっ早い!? (避け切れん!) ……ぐ、だぁぁ!」

「な、何?!」

細身の腕からは信じられない位の威力の力を感じたアキトは、すぐさま”受け”から”流し”に変えてやり過した。

「(くそっ、やはり罠だったのか?! 武器が無いのは痛いな)」

全員から距離を取り、隙を窺うが2人の女は少しも隙を見せない。

「(まずい……)」

と、アキトが窮地に立たされた時救いは訪れた。

「ちょちょっと! お姉さまも魎呼お姉ちゃんも止めてよ!!」

「そうだ! 早く止めるんだ二人とも! その人は怪我人なんだぞ?!」

突然の事に唖然としていた砂沙美と、高校生くらいの男が女を止めに入ったのだ。

「け、けどよぉ天地ぃぃ……あいつ絶対怪しいって!」

「そうですわ天地様!」

「怪しいって、あの人の何処が怪しい……ん、だ……?」

そういうと天地と呼ばれた者はアキトの方を見て、微かに「うっ」と言い一歩後ろに下がった。

「だろ!?」 「きっと変態って言うんですよ! 砂沙美の事を!」

「……ひどい」

その3人の言葉に影を落としてその場でいじけるアキトに砂沙美が近寄り慰めに入る。

「まぁまぁアキトさん……元気だしてよ。 その目に掛けているのも似合っているよ」

なるほど。みんなはアキトのバイザーを掛けた顔を見て怪しい奴だと認識した訳だ。

ここに来る前にちゃっかりバイザーを掛けているところがアキトらしいというかなんと言うか。

「慰めなんて……」

「ホントだよ!」

「みゃーん」

砂沙美と魎皇鬼は純粋にカッコイイと思っているのがせめてもの救いであろう。

「ほっほっほぉ、若いもんは元気で良いのぅ」

傍観していた老人が笑いながら食卓に着く。

「これ。 せっかくの昼飯が冷めてしまうぞい!   砂沙美、そちらの青年も早く連れてきなさい」

「なっ?! じいさん、何考えてんだ!」

「そうですよ、お兄様!! 第一こやつは誰なのです?!」

黒髪の女性の台詞に、老人と青年は「あっ」と呟くと頬を掻き言いにくそうに口を開く。

「その人は……なぁじっちゃん?」

「うむ、まぁそのなんじゃ……客じゃよ」

二人がそう言うと、女二人は顔を引きつかせ

「「客ぅぅぅ?!!」」

周りを湖と山々に囲まれた一軒の家に驚きの声が響いた。








彼はこの世界でどうするだろうか。どう生きるだろうか……そして許せるだろうか―――

それは彼の意思と、この世界に期待するしかない……


テンカワ・アキトの旅は、ここから始まる。









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