「アクティブ・ディフェンス・オンライン、ターゲット4-9-9、ヴァルフィフセヴンSSMスタンバイ!」

 「アイ、ターゲットインサイト。クソッ! インペリアルの亡霊共め!! さっさと地獄に帰れ!!!」

 「シャラップ! 命令外の言葉を吐くな。復唱どうした!?」

 「イエス・サー、ターゲットインサイト!、目標FOF102、104、108、ファルフォーティカバーパージ! フルアタック!!」


 アメリカ太平洋艦隊所属第81機動群、所属駆逐艦“ズムヴォルト”から放たれた72発のマンタ・レイ対艦ミサイルによって決戦の火蓋は切られた。





―――――――――――――――――――――――――――――





 「始まったな。」

 「ええ、始まりました、米母艦航空群との同時スタンドオフ対艦ミサイル攻撃700発。恐らく一割は戦術核弾頭搭載のタイプです。」


 うねびの艦橋で私と北艦長は囁気を交わす。艦橋のCICは大騒ぎの状態だ。誰もが興奮し報告、観測の声を上ずらせるほどの規模。海上戦闘が大砲からミサイルに代わって100年近く、それほどの間我々人類は海洋における総力戦と言うものを経験してこなかった。10年前の台湾海峡沖海戦でも両軍が使用したミサイルは30発に足りない。700発! 大盤振る舞いと言って良いだろう。全弾命中すれば一国の海軍を軍港ごと……いや国家ごと吹き飛ばすだけの弾量だ。だが、恍けたフリをして艦長の声が届く。


 「さて、楓君。何発届く?」

 「ゼロだと思いますが? クラインフィールドに通常弾頭は愚か戦術核すら通用しないのは北大西洋で証明されていますから。」


 副長、と北艦長が尋ねない辺り、公式にとても載せられる会話ではないと言う事だ。あの時はフランス海軍最新鋭空母“リシュリュー”がことごとく随伴艦を海に叩き込まれながら航空用電磁カタパルトで射出したカストール対艦核ミサイル――あの艦の艦長からすれば刺し違えるつもりだったのだろうが――至近距離から撃ちこまれた人類最大級の破壊を引き起こす兵器があっさりはじき返された実例がある。
 そう霧の大戦艦“リシュリュー”のクラインフィールドによって! もう一度艦長が私に質問した。


 「いや、楓君。私は何発届くか? と聞いたのだ。」


 つまり防がれるのは想定内、何発が奴らの鼻面までたどり着けるかということか。もし戦術核であれば鼻面――至近距離――での近接炸裂ならば奴等に被害を与えられるかもしれない。


 「それは……奴等、霧の艦隊次第でしょうね。今までクラインフィールドのない敵艦に対しても此方の攻撃は奴等に届きませんでした。最も弱いと見られる霧の駆逐艦に核を撃ちこんだら撃沈できるか? という点については未検証ですし。」

 「流石に1000隻を超える奴らの下っ端たる駆逐艦に1発1発戦術核を撃ちこんでいったら霧が消滅する前に我等人類が絶滅か。」

 「奴らの駆逐艦、軽巡洋艦といったクラインフィールドを持たぬ艦艇に効く可能性はあります。しかし我等のSSM(対艦ミサイル)が彼らの防空網を突破できるかとなりますと、」


 想定を打ち切らざるを得なかった。あっさりと結果がホロディスプレイに映し出され現実が我々の前に突き付けられる。艦長が渋い顔をして艦長席のひじ掛けにあるコンソールを叩く。私も展開されたホロディスプレイを覗き呻いた。全てのミサイルが想定する霧の防空最外郭で、

 叩き落された。


 「敵、霧の艦隊、突っ込んできます! 相対速力230ノット!!」


 レーダー員の絶叫が響く。相対速力230ノット、その内訳は我等の艦隊が巡航とはいえ30ノット、奴等【霧の艦隊】が200ノット。これだけで我等と奴らの使う技術のケタが違う。それでも私は海上自衛隊第3護衛群所属【あきつ丸】副長として定められた命令を発した。


 「VLS41、SSMマンタ・レイ、2番から13番までパッケージ解凍! 【あかぎ】の戦術情報共有。砲術、荷物は使えるか!?」

 「サイクロトロン、陽電子流入開始、冷却機作動良好! 1発は持たせて見せます!」

 「VLS41、14より17番マンタレイ対重高圧弾頭オールグリーン!! あの忌々しい壁(クラインフィールド)が無ければ沈めて見せます!!!」


 いささか海自にはあり得ない垢抜けた声、筑波の民間技術者達だ。この戦の為に民間人にすら臨時で自衛隊員として志願してもらうという悪環境。彼らに発破をかけると言う意味で北艦長が厳しい命令を発する。


 「なら当てて見せろ、初弾必中以外認めん!!」

 「「了解(ようそろ)!!!」」


 筑波の研究チームが必死で間に合わせた試作品、真珠湾の単冠湾ではあるまいが硫黄島の地下ドック出航直前に間に合った新兵器、せめてコレが奴らの駆逐艦に通用するならば。」


 「FOF 水雷戦隊ターゲットインサイト! 【あかぎ】より自動管制射撃開始(オートランニング)

 「マンタ・レイ2番から10番まで射出開始、続いて11番から17番巡航プログラムで射出開始。」


 【うねび】の前甲板、本来なら140ミリ滑降砲が備えられているさらに後ろMk41VLSから12発の対艦ミサイルが轟音と烈風を艦橋に叩きつけながら飛翔する。僚艦の【おうみ】【するが】といった第二世代の巡察艦も負けじとマンタ・レイを撃ち放す。目標は米海軍81機動群――これだけで空母を中心とした100隻を超える艦隊――に向かわず、何故か弱小のこちらに突っ込んできた霧の艦隊の水雷戦隊、其の外見は旧大日本帝国海軍所属【第二水雷戦隊】(にすいせん)
 何の冗談だと自嘲の笑みすらでる。現在の日本国海上自衛隊最大最強の戦力が100年以上前、消えたはずの大日本帝国海軍の最強水雷戦隊を相手取る。悪趣味の極みのように彼らの外見を思い出す。【軽巡神通と陽炎型駆逐艦8隻】さらに後方から波を蹴立てて近づいてくる奴等の軽巡【最上】
 たったこれだけ、外見から見ればたったこれだけの敵に海自が総力戦を挑まねばならないのだ。唇を噛む。モニターから発射されていくマンタレイの噴射炎が映し出されその光が私の顔を照らしだした。




―――――――――――――――――――――――――――――






 「こんにゃろ! キリシマなんで私の獲物を優先的に狙う!? そっちの優先目標を先に片付けなさいよ!!」

 「臨時総旗艦殿は効率良い戦いを希望している。タカオ? そちらの主砲で届かない目標にわざわざ援護してやっているつもりなのだが感謝の一言ぐらい言えんのか?」

 「でかい獲物ばかり狙いやがって! そういうのを“人間様”は選り好みっていうのよ!!」


 キリシマの連装荷電粒子砲が後方の敵空母を艦首から右舷、中央、左舷に切り開き。その空母は人間の言う三枚に下ろされた。直ちに両舷は海面に叩きつけられ間抜けにも残った中央部は少しばかりの沈黙の後。主機関――原子炉――を損壊した余波で大爆発を起こす。タカオも敵巡察艦三隻を同時に相手取り二隻の甲板を自らの兵装で真っ平らにし、一隻は艦の横腹に体当たりして転覆された。同時にその上に乗り上げ挽き潰す。真っ二つにされたその巡察艦は海中にいながら誘爆、轟沈するがその破壊の直撃を受けたはずのタカオには何の損害もない。これが人類艦と我等の間にある越えられぬ壁と言えば良いだろう。だがそれ以前に…………
 二艦共、そもそも我の行動命令を放り投げて言う台詞か? 並列でクラインフィールドを人類の車両競技(チキンレース)の如く互いに擦過されながらスコアの奪い合いの様に人類側呼称、米太平洋艦隊を次々に海底に叩きこむ両艦の戦闘詳報を観察する。別に戦況には問題ない。どんなに足掻こうと彼らに我々を沈めることはできない。決まりきった事柄をもう一度検証するのは後でもよいだろう。むしろ問題は……

 
どうしてこうなった?


 初めは人類の指揮官の望みえる艦隊としての隊形を我等も構築していたはずだ。それが戦闘に移行した途端、滅茶苦茶になった。もはや我が実装しようとした筈の【艦隊戦】というものは影も形もない。ただ目につく目標を手当たり次第に沈め、暴れ回る霧の艦艇と、無駄な抵抗と無様な逃走を見せる人類艦と言う獲物しかいない。


 「これは艦隊戦ではないな。ヒエイ、どう思う?」


 影として存在し、今だ戦闘を考慮せず海底で情報の蓄積に励む我の海上、そこに鎮座してアンテナの役割を果たしている大戦艦【ヒエイ】に尋ねてみる。人類における教育機関の生徒間互助組織――生徒会――の書記のような性格をアップロード画面に載せている彼女が答えた。


 「乱戦と称すれば艦隊戦であるとも言えます。しかし総旗艦の想定されている状況と異なる結果になったのは、我等が艦隊で無い以上に軍隊でないのではないかと愚考致します。」

 「ふむ…………」


 確かに我等に序列は無い。方面ごとに旗艦として大戦艦を配し、その下に各中小の霧を配する。その単位をまとめるのが総旗艦だ。基本これだけしかない。そもそも軍隊という論理はおろか序列すら殆ど無いのが我らだ。役割に準じたおおまかな目的と命令、唯それだけ。

 
人類を海洋から駆逐し海洋での活動を空間レベルで封鎖せよ。


 我等にある唯一の命令。それを実行するのは実に容易い。後の事等、状況が確定的になれば我等の大元が勝手に提示してくれるだろう。むしろこの状況の方がより深刻だ。場合によっては今後の命令を我等が実行できない要因になりえる。我等マトリクスコアでシュミレートこそ済んだが他の意見も必要だ。確認の為の質問を行う。


 「ヒエイ、つまり我の想定と外れた理由は霧に序列を作らなかったという事に原因があると? そしてそれを行うためには我等が霧の艦艇である前に人類側呼称【軍隊】であらねばならないと言う事か?」

 「御意、彼ら人類と“戦う”為には我等が未来を見るという意識改革(ダウンロード)を行わねばならないと演算します。そうでなければ戦争は起こりえません。人類の情報、報道機関が記載する『我等霧の一方的な屠殺』でしかないかと。」

 「適切な提言、感謝する。」    彼女の感謝の言葉を聞き流し任務に戻る。


 既に我の索敵ユニットのいくつかが人類通信網に情報収集(ハッキング)を試みている。軍隊と名のつく膨大な情報がかき集められ、取捨選択され、霧として使えるシステムを構築していく。現総旗艦のナガトや次期総旗艦のヤマトは人類で言う天才に相当するものであり我とは違う。ヤマトと準同型の外見をもつ我だが彼女達を一人の天才とするならば我はそれを同等の事を行う組織という点だろう。
 ――ふと収集している情報をもとに例え話ができた。軍事の天才と呼ばれたナポレオン・ボナパルトとその能力を人為的に剽窃したドイツ陸軍参謀本部、この関係がしっくりくるかもしれない。――
 今後の事を考えヤマト宛てに霧の軍事組織化を提言するレポートを構築していく。癪には障ったが命令系統による指揮硬直化の実例が人類にあった為、それを回避する手段として中堅指揮官たる霧にはある程度の裁量権を付与するべきとの提言を含めて。


 「臨時総旗艦殿、反応ありました。状況想定2038-5-24-55D」


 再び【ヒエイ】からの通信。この想定は余りにも人類にとって安易かつ妥当なものだ。我等霧を一か所に集めて艦隊運動能力を潰し、動きが取れないまま集結という事態を引き起こす。事実現場はそうなっている。そうなれば彼らは持てる最大火力をして最大集中して潰しにかかるのだろう? 現に彼らの電子情報ではそうなっているし現状我等と戦い続けている目標からも逐次情報は入ってくる。収集している情報流で言えば彼等は、


 釈迦の手のひらで踊らされているようなものだ。


 彼らのメガトン級ペネトレイト核融合弾搭載大陸間弾道弾ですら数十発束ねても我等に大した損害はない。さすがにクラインフィールドを持たぬ中小の霧では被害は免れ得ぬが、統合クラインフィールドを展開、海中1000メートルまで急速潜航してしまえば何の問題もない。人類の兵器などその程度だ。


 「作戦を変更する。」     「はい。」


 打てば響くように「ヒエイ」の声が返ってくる。


 「人類側に効かなかったと絶望させるより教訓を垂れてやるほうが良いだろう? 現況では我等に抗うだけ無駄だと。ならば彼らの言う抑止力とやらを我らが試しても【ヤマト】は文句を言うまい。」


 そのまま作戦ファイルを送りつける。ヤマトには事後報告だ。ごちゃごちゃと話すより独自裁量権でかまわんだろう? ファイルを確認したヒエイは顔を顰めているようだ。厄介なことに我々には失われた勅命(アドミラリティ・コード)という制約が存在している。今回は抵触しないまでも掠る程度の可能性はある。


 「問題無いと演算しますが、臨時総旗艦自ら任務を投げ出すと言うのは承服致しかねます。たとえ○○○が次元空間曲率変位(ミラーリングシステム)を模倣できるからといっても連携の取れない艦同士の連結制御は高いリスクを伴います。」


 渋い顔で懇々と説教になっている辺り本当に上位者に苦言を吐く生徒会書記のようだ。もしかしてそういったプログラムに執着を持っているのではなかろうか?


 「ならば我直衛のイソカゼ、ハマカゼ、ユキカゼを使う事にしよう。これらには我の索敵ユニットを追加し完全同調させる。そして観測は東太平洋封鎖艦隊3群に優秀な潜航観測艦がいる。それを使おう。」


 それと我の目の一つが興味深い戦況を注視する。確かに悪くない。今人類側が放った攻撃は明確に霧を傷つけることに成功した。大した実害も無く挙句にクラインフィールドが無いという余りに悪条件下での戦果に過ぎないが、人類艦の真似事を我等がやって悪いと言うプログラム(じょうけん)は無い。


 「メガトン級ペネトレイト核融合弾を包み込むだけのクラインフィールドを臨時総旗艦以外で形成、爆発と同時に総旗艦によってエネルギーを相転移増幅させ重核レーザーとして発射命令を出した基地に撃ち返す……実験としては危険すぎます。」

 「しかし実戦データとしても有意義なものだろう。そして人類で言う保身は我の望むところではない。…………我等は兵器だ、違うか?」

 「仰る通りです、始まりました。人類側呼称NOLADより核サイロへの命令伝達を確認。実験シークエンスに入ります。」


 無機的なログに変わった彼女を尻目に我は準備を整えていく。少し悪感情を覚えた。彼女に対してでなく、参加させる潜航観測艦。我等霧にとって関係のない人類の艦同士の因縁。それをふと認識したのだ。




―――――――――――――――――――――――――――――





 「あきづき、うみぎり轟沈! おうみ被弾!!」

 「第1波マンタレイ迎撃されています。残存3!」

 「キャビテーション長魚雷4発の直撃……ダメです! 効果なし!!」

 「モガミよりSSM8発射確認……いえ途中分裂! 数48、来ます!!」

 「5分でこれか! 迎撃薄い!! 撃ちまくれ、空にしても構わん!!」

 「RAM(近接防空ミサイル)全弾射出、奴らの電磁照射弾を撃ち落とせ!」

 「CIWS(近接防空火器)射撃開始!」


 副長である楓の指揮と担当士官の怒号、台湾海峡沖海戦を凌ぐであろう喧噪のなかに【うねび】はいる。私は眼を軽く閉じ再びあける。“あきつ丸”艦長として的確な指示を出しているつもりだ。だが、いくら戦術が勝っていても粘土の盾と粘土の鉾では鉄壁と無双に勝てはせん。 現に元巣(かいじ)のあきづきは霧の駆逐艦3隻の集中砲火を浴び火達磨の後横転、うみぎりは霧の軽巡・ジンツウの魚雷を防ぎきれずに2発を全く同じ場所に被弾、船体を分断されて爆沈した。最新鋭の巡察艦の1隻であるおうみも別方向の霧の一撃を浴びている。ひじ掛けの小型ディスプレイに表示がでる。損害甚大、艦長・副長戦闘中行方不明(MIA)……艦橋をやられたか。

 破滅の一撃がいつこの艦に向けられるか解らない。だからこそ、第2波のマンタレイ・それに仕込まれた対重高圧弾頭に賭ける。

 「対重高圧弾頭直撃!!」

 「今だ! サイクロトロン解放、目標霧駆逐艦シラヌイ」  年甲斐もなく叫ぶ。

 「了解! 荷電粒子砲、てぇ―――――ッ!!」      楓の声が重なる。

 対重高圧弾頭が着弾した駆逐艦に追い討ちとばかりにうねびの艦首砲塔を失う対価として装備された陽電子照射システムが力ある光を叩きこむ。
 奴ら霧の構造材質については僅かながら解っていることがある。エネルギー偏差のある兵器の同時着弾という事態になると構造の劣化を起こしやすいという仮説があるのだ。そしてそれは証明された。
 見た目は大日本帝国軍所属陽炎型駆逐艦“不知火”いや霧の艦隊駆逐艦【シラヌイ】の前半部は我々人類に希望を与えるだけの戦果を上げていた。
 駆逐艦特有の小型艦橋、そしてその前の12.7サンチ連装砲塔が船体からこそげ落ちている。人類が望んでもやまなかった霧の艦艇の初撃破、だが……


 「馬鹿な!!!」


 命の危険と引き換えに艦外見張りを行っている一尉からイヤホンを通して絶叫が響く。


 「樫賀谷一尉、報告せよ!」


 あの声の上ずり方だと本人は恐慌に陥っていかねない。自衛官として報告の義務を精神的に叩きこまれている以上、上官の『報告せよ』は絶対である。


 「敵艦が……再生しています。あいつら……せ、生物なのか!?」

 「カメラ望遠最大! シラヌイを映し出せ!!」   楓が絶叫する。


 艦橋の大画面ディスプレイに映し出された映像は悪夢そのものだった。

 『シラヌイが再生(リジェネレイト)している』

 潰された筈の艦橋基部から腫瘍のように粘性の構造が盛り上がっていき、見る見るうちに艦橋の形を再現し始めたのだ。破壊された連装砲塔も同様、絶望などしない、して堪るか! シラヌイの艦体を睨み続け……そう、違和感に気付いた。


 『バケモノめ……』恐怖、畏怖の交じった声で楓が呟くのが聞こえる。それに私は真っ向から反論して見せた。

 「楓副長、あれはバケモノ等ではないよ。良く見たまえ、シラヌイの甲板中央だ。」

「は?…………エッ!?」


 そうシラヌイは我がうねびからみて右舷側に見えている。つまり正面からとはいえある程度は側面を俯瞰できるのだ。そして奴の甲板中央にあるべきものがない! そう第二次大戦型駆逐艦の決戦兵器・魚雷発射管が!!


 「つまり再生(リジェネレイト)ではなく再構成(リコンストラクト)だ。奴等は質量である以上無限ではない。つまり奴らの艦橋は中枢ではないとしても兵器よりより高い価値をもつ部位であることがはっきりしたわけだ。そして奴等は質量を失えば自らの身を削って代替しなければならない。すなわち……
 決定的な閃きが私の言葉から自然に出た。


 「限界はある……奴らは無敵でも絶対でもない。」


 筑波のオペレーターの一人が振り向いた。無理やり笑みを作って言う。


 「艦長、次へ繋がりましたな。」


 思わず私は渋い顔をした。今はいい、だがこれからだ。


 「技官殿? 戦いはこれからだ。生き残る戦いが始まるぞ。うねび反転、全力でケツを捲れ!」

 一斉にCICの警告ランプが増大しいくつもの情報が展開される。敵も馬鹿ではない。復讐と言う感情の前にこの【あきつ丸】を脅威として認識したのだ。つまり最優先攻撃目標として!

 「きました! 指向性射撃レーダーおよび測的レーザー20以上、全て本艦を指向中。なお一つの照射元は奴等の大戦艦級です!!」

 「第2巡察艦群より通信  『我等、援護ス、御国ニ、希望ヲ』以上!」

 「敵コンゴウ級と思わしき大戦艦より垂直発射炎多数、数256! さらに分裂!! 数えきれない!!!」

 「第2巡察艦群、迎撃始まりました。」

 「第2護衛群、前方進出? あいつら楯になる気か!? クソおぉォッ!! 」

 
地獄の釜が開く。






―――――――――――――――――――――――――――――





 穏やかな波が艦体を洗う。我と僚艦三隻、そして観測艦のみがその世界にいた。
 何が原因となったのか? すでに数万回もシュミレートは続いている。クラインフィールドで人類が放った我等からすれば自棄糞の大陸間弾道弾十数発。その搭載核弾頭すべてが炸裂すると同時に霧の全艦をもって統合クラインフィールドを発生、エネルギーを閉じ込める。それを我のミラーリンクシステムをもって相転移させエネルギーそのものを形質変化、収束、増幅……ここまではうまくいった。だがその時クラインフィールドとは違う何かが裂けた。そこに我等だけが吸い込まれ…………。
 イソカゼから送られてきたばかりの観測ファイルを眺める。人類が呻くという感情表現をするのなら今という時なのだろう。

 
1902年6月13日、東太平洋伊豆諸島沖


 人類の該当資料からすればタイムスリップという現象だろうか。次期総旗艦(ヤマト)はおろか現総旗艦(ナガト)とも概念通信が通じない。一つの想定を考え統括記憶艦の特権であり総旗艦すら持たぬ権利、人類評定の対象連絡コードを活用したが駄目だった。ある意味当然と納得する。人類評定は1914年以降、我等本体からすれば寝ている内に誰かの寝言が聞こえただけのこと。反応する筈もない。

 「さて、どうしたものか?」

 人間が言うところの独り言を呟く。演算すら意味のない事態だ。こう言った時人類は己に疑問を呈すると言う。纏めて言えば現在から我等が構築される『始まりのとき』以前に我は来てしまったのだ。――4隻の艦と共に。――この後としては対応を考えれば100通りは想定できる。適度にこの世界に介入し人類評定を発動させるのが良い選択。だがあの事件『失われた勅命』を再現べきなのだろうか? 早々にビスマルクとあの3人を始末したほうが我等の利益とならないか?? しかしそうなれば元の世界のような状況は再現できないのは明らかだ。ふと思った。

 『戦争を実装する。』

 思えばハワイ沖の無様な戦いぶりも、我の思い上がりも、この状況すらも戦争が何たるかを考えなかった故に起こったのではないだろうか? 我等が初めから戦争を実装で来ていたのなら……心地よい量子反応が艦体を駆け巡る。人間なら笑みを漏らすといった感情表現なのだろう。なら手近な観察対象はこの二年後に起こる日本-ロシア戦争、観察対象としてまた我の戦争を実装するための練習台としてこれ以上のものは無い。
 さらに僥倖は続く。日本本土を偵察中の索敵ユニットが興味深い生体ユニットを発見したのだ。もはや生体組織として機能不全になる程損傷しているが、脳内への直接アクセスによって情報を表層情報を吸い出せた。対象は臨時の生命維持装置に繋がれ安定している。その幼生体……人間でいうところの子供の名は【乃木橙子】
 概念通信が通じる索敵ユニットを通して我は語りかける。

 「お前はもうすぐ死ぬ、生きたくはないか?? ついでにお前の願いも叶えよう。」


 
――我が()はシナノ――


 
――人類から生み出され、その名称の通りに投入された唯一の航空戦艦――


 
――その似姿を継承する霧――






彼方の物語(リコンストラクト)は始まる。





◆◇◆◇◆







 そして、うねびは満身創痍となりながらも横須賀に還る事が出来た。海上自衛隊参加艦艇ほぼすべての喪失と、うねび被弾時に重傷を負い半身不随となった楓をはじめ幾多の犠牲者を出して。私は政権与党の幹事長として、辛くも一命を取り留めた楓は霧によって海上封鎖された日本国の首相として重責を担っている。
 そして我等はあの結末の他に思わぬ戦果を得ることに成功していた。【げんりゅう】艦長の千早翔像中佐が自らの艦と引き換えに霧の艦艇の拿捕に成功したのだ。

 
拿捕艦の名は伊401


 電話が鳴り数度の応答からその艦が佐世保に現れた事を確認する。たかが学生が誰も動かせなかった401を従えたのだ!  私は見極めなかればならない。彼の父親、千早翔像すら霧に取り込まれれ人類の裏切り者となったのだ。アレを本当に従えたのか!? もしそうなのであれば……

 私は煙る雨の中を政府専用車に乗り込む。もしそうなのであれば…………






 
――大海戦(あのとき)より15年後。――


 
――千早の名を継ぐ蒼き鋼(ぐんぞう)を乗せ――


 
――伊401は其の航路を定める。――




 此方の物語(アルペジオ)は始まる。






 あとがきと言う名の作品ツッコミ対談





 イダダダダダ……全く持ってなんでこんな砲撃娘相方にしたのやら。


 「自分で性格設定して暴走させたんだから当然よね。それにコレ(ツッコミ砲)については元ネタがあるんでしょ?」


 あ……内輪ネタで済みません。ども、作者です。


 「どもっ!とーこです。ま、いっか。もう消えちゃったサイトだしね。作者が気にいって当時何度も読んでいたというだけだから。じゃツッコミ前にはっきりさせとこっか?」


 はい霧の転位艦はシナノです。以上!


 「まてやコラ! 何処をどうしたらシナノになるのよ作者!! そもそも航空戦艦ってなによ!? 史実じゃ無いじゃん!!!」


 では聞くが作者は史実艦とは言って無いぞ? そして作者側の史実の戦没艦とも言って無いぞ??


 「おひ…………(汗濁流中)」


 だからこそのヒントなのさ。そもそも第一章で飛行甲板の記述は出ていたぞ。しかしこれに対応する筈の航空戦艦はイセとヒュウガしかない。即ちアルベジオ既出艦だ。つまりこっち側には“まだ”いないことになる。そうなると空母と言う霧の海域強襲制圧艦が考えられるが超重砲を持つ辺りで持っているか持っていないかの議論が発生してしまう。ここで作者側の史実ではない事を疑えるようにしたんだけどな。重巡クラスはスペック上あり得ないと読者も感づくだろうしね。


 「(絶句)」


 そこからヒントの解析を行うと潮岬沖の信濃に行き当たる。だが信濃は史実では空母、これで史実と違うという疑惑が確定、初めて航空戦艦・信濃が浮かび上がるようにした訳。そしてこれは必然の理由だったりする。こっちの歴史を引き延ばしても絶対にアルペジオにならないから。喩え霧が存在していてもね。


 「何となく解った。作者物語構成中に年表が不合理すぎると頭を抱えていたわよね? つまり歴史をアルペジオに合わせるんじゃ無くアルペジオに沿って歴史を再構築した。それが『橙子の史実』なのか。」


そういうことだ。しかしまぁ此処でもものの見事に矛盾が生じたわな。


 「そりゃそうでしょ。下書きではシナノは世界唯一の航空戦艦と書いていたのになんとコミック版でヒュウガに航空甲板があったしね。どうするのよこの始末(にたーり)。」


 だから唯一実戦運用された航空戦艦に書きなおしたのよ。ホント苦しい言い訳になっちゃったけどね。一応『橙子の史実』では信濃はレイテからの出陣と建造工程からすれば最速の段階なんだけどね。


 「で、結局結末は同じか。」


 その時点からどうやっても日本帝国が勝てるわけないだろ。ただ戦果や戦術的目標だけでなら大和や武蔵より活躍したかな? 其の程度だ。


 「ほー、そこらへんはこの外伝で改めて書くのかな?」


 努力します。ハイ。というか今回はツッコミはなしの方向で?


 「出すべき伏線で開示していいモノは全部出たしね。それに重要なお知らせがあるんでしょ。作者?」


 そうだった。この後物語は第4章に入りますがあとがきはここにて終了します。なぜなら2014年12月連載再開より再び隔週連載へと突入するからです。さらに原文から下書きへの書き出しが全話終了した段階でさらに加速する予定です。今までばらまいたネタ、伏線、設定を駆使し全力を持って書きあげたいと存じます。


 「さていつまでもつやら高みの見物よね。作者大概自爆して泣き言言いながら前言撤回するから(笑)」


 あははははははははは…………(乾笑)


 「笑ってる暇があったらとっとと書け! このぐーたら作者あぁ――――!!!」


 (最後まで轟音と悲鳴が交錯)



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