――魔導巧殻SS――

緋ノ転生者ハ晦冥ニ吼エル


(BGM  迫りくる数多の気勢 珊海王の円環より)





 「カロリーネ下がれ! 第二梯団出るぞ!!」

 「くうっ! これは想像以上ですね。高位精霊級とは……障壁は鈴4つ分(20分)しかもちませんよ。」

 「面白ェ! 倍返しだ!!」

 「石弓はムリ! ムリムリムリ――――。」


 先鋒切って一気に前へ前進、全身で台風の暴風域を数倍した風の渦――恐らく【大竜巻】を受け止める。さらに【空気弾】、【旋刃】、【落雷】まで! 風系魔法のオンパレードだ。
 その悉くがオレの前に霧散し灰塵し滅壊する。低位魔法である空気弾の殆どは味方に向かうが、そちらは帯電の皮鎧を纏ったデレク神官長直下のバリハルト女性神官団――良かった、マクル神殿領時代のエロ神官衣に下着な痴女衣装じゃなくて。解放部がやたら大きいあの神官服は上衣でちゃんと鎧を付けてから纏うのよ。――の障壁が無効化する。その後ろからシャンティとアルベルト、リプティーの隊長クラス。その後ろからラギール商会雇用の傭兵隊が続く。


 「てやぁぁぁぁ……ほうぅぇええぇぇぇぇっ!?」


 ぶ! 突貫掛けたシャンテイが風に煽られて『くるくるまわってとんでいけー!』になった。打撃役のおまいが真っ先に戦線離脱してどうする。地面に魔力収束と向こうの陣形変更、早速来るか!? 


 「【爆塵礫】、来るぞ!」


 さらに前に出る。こいつは突っ立っていては防げない。
 先程の第一梯団を後退に追い込んだ魔術物理複合攻撃に対し先程の爆散点まで突撃、楯の斥力場を展開。ゲームにはない精霊魔法で大量の飛礫を散弾銃の様に飛ばしてくる攻撃方法、いや銃の規模じゃない。攻撃範囲は攻城列車砲から叩きつけられるキャニスターショット規模だ。
 そのエネルギーを収束する魔方陣が踏み込んだオレの存在で圧潰する。行き場を失った魔力は逆流して敵十数体の精霊にバックファイアを発現、精霊の人型はバラバラになって消滅、彼女達の存在力を破壊したんだ。しかしその後ろから続々現れる新手、


 「ひゅーひゅー♪」

 「ひゅるる〜ん♪」

 「ひゅるるりるりら〜〜♪♪」


 頭髪からカラフルな翼を伸ばすちっこい【風幼精・シルフィ】、水蒸気をまとわりつかせたシルフィ似で人間大の【煙精・ジルニー】……コラ! 其処のシルフィ、勝手に勝利宣言するんじゃない。泣かせちゃる!! むしろ厄介なのはその後ろ。膨大な魔力を集積する守護者、風の……いや嵐の上位精霊。

 【嵐精・ルファニー】

 見た目は露出度50パーセント――へそ出し、腰布(サロン)、太ももルック――の天女様なんだがゲームと明らかな相違がある。額を飾る額冠が異様に大きく、仏像の光背の様になっている。しかもその形がレウィニアの聖印――水の巫女の象徴印――に酷似。多分これが精霊強制環、こっちの世界の某おサル神様の緊箍児(きんこじ)みたいなものか? 
 厄介なことにこいつが周辺の魔力を吸い上げてこれほどの大量精霊召喚と各々の魔法使用に分配していると魔法技術者や魔導技巧師が偵察で判断していた。だからオレ達が囮、ついでにこれは対ノイアス戦における実験を兼ねている。


 「ぶっとべクソ精霊共ぉ!」


 アルベルトの怒声と共に彼に随伴してきた魔導外装・グランが魔導光分子砲を拡散モードで取り巻きシルフィに乱射、その陰から彼が魔導槍内蔵の4連魔導銃でルファニーを掃射する。明らかに攻撃対象(ヘイト)がアルベルトに向いた。魔力を集めるルファニーの両掌が剣呑な蒼雷を纏う。不味い! 次々とこちらにジルニーが落雷を叩きつけてくるが無視、アルベルトとグランの前に立ちはだかる。そして轟音、


 「ご……【轟雷】まで使いますか。」


 息も絶え絶えでデレク神官長が膝をつき、隣のアークリオンの巫女が魔力の急速移譲を始める。風属性上級精霊魔術【轟雷】、範囲型のしかも破壊力でオレが想定していた直線攻撃の雷撃呪文を上回る攻撃魔術だ。オレの判断ミスか、オレは大丈夫でも範囲攻撃故、アルベルトは緊急障壁が無ければ黒焦げだっただろう。事実、魔導外装は吹っ飛んで機能停止してしまった。怒りに任せて命令する。


 「リプティー突っ込め!」

 「はいな!」


 オレの魔導砲楯が三連装ガトリング魔導砲を展開、猛射を浴びせる。シルフィの十数体が吹っ飛びジルニーも一体が消滅する。さらにリプティーがルファニーの取り巻き共に突っ込み、呪鍛剣で数体を薙ぎ払い連射弩弓で呪鍛太矢(クォレル)をばらまく。そのまま後退、再びこちらに攻撃対象を向けてくれたが牽制以上に魔法をぶつけてこない。向こうもどういう理屈か解らないだろうがオレに魔法が効かないのを見て思案しているのだろう。千日手か?


 「シュヴァルツ退け! あとはオレ達でやる!!」


 オレ達の後ろから待機している筈の第三梯団指揮官のギュノア百騎長とジャクソン君が飛び出す。シルフィもジルニーも竜殺しの魔剣(リアスレイヴァー)の前にポロキレの様に吹き飛ばされジャクソン君が召喚した緋焔精霊【ファラ・ルイ】がルファニーに殴り掛かる。一見全裸のサンバねーちゃんというエロゲらしい精霊だが物理攻撃能力はゲーム有数という武闘派だ――なにしろ炎拳で殴りに来るから魔法無効化一辺倒のオレはひとたまりもなく焼き殺されちまう。


 「カロリーネ、どうだ!?」

 「今最終段階、…………来たよ!」


 続いて自分の梯団放り出して来たカロリーネに尋ね、同時にそれが来た。地面に展開を始める巨大魔法陣。【ファラ・ルイ】の召喚接続が消える前にジャクソン君は召喚解除する。敵方はそれどころではない。次々と過剰な魔力で集められ従わさせていた風精霊が消滅し、旅団規模の数の精霊の群れが一気に数個小隊レベルまで減少してしまう。

 集合魔術【破術】を起爆点にした魔力中和空間形成

 ゲームでは些か使いにくかったこれは現実の戦闘ではさらに使い難くなる。相手の魔法に対応してこちらも破術を用意して置くという後の先をとり続けねばならない。それも指揮官級の秘印術師か魔術師多数の集合魔術でないと構築できないという効率の悪さだ。これなら攻撃魔術の数で圧倒した方がマシ、魔術師なら対魔術障壁位は展開できるしね。そこでオレはこう考えた。その障壁を極大範囲化し水の巫女と同じチート行為ができないものかと? 馬鹿げたほど膨大な必要魔力はどうするんだ?? その誰でも解る理屈を引っ繰り返せる算段が付いたのが。
 最後方で巨大魔術陣形を南領の魔法術式者、西領の魔導技巧師と共に構築しているシルフィエッタ。流石ルリエンの『神の子』、使用できる魔力が桁外れだ。伯父貴が試運転で絶句して言葉に出た単語がそのまま名称になった。

 
【環魔の結界】


 いやー、ルノーシュ海賊バトルロイヤル戦で最も使い勝手の良い【円環魔法】がこうやって作られるとは感無量。うん、形勢が一気にこちらに傾いた。慌てたルファニーが環魔結界内の魔力をかき集めて追加召喚を始めているがギュノア百騎長唯一人に切り崩されていく。まだ傷だらけのカロリーネと微笑んで拳を軽く打ち合わせ。


 「全梯団、総攻撃開始!」


 そう命じ、再びオレは前線に立った。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(BGM  悲哀の淫儀 冥色の隷姫より)





 「ヤダ。」

 「やだって……隊長、子供じゃあるまいし。」

 「ヤダったらヤダ。何が悲しくて衆人監視の中、羞恥プレイせねばならんのだ! しかも愛人同伴でだぞ!! そんならジャクソン君の方が適任じゃないか?」

 「依頼に書いてないので拒否します。相手は嵐精霊ですよ? 絶対にファニー(ファラ・ルイ)が剥れます。ただでさえ風と火の精霊は相性最悪。ここら一帯彼女達の大喧嘩で焼き払われたいなら別ですがね!」

 「……じゃ別の誰か。」

 「「「そんなに性魔術の使い手がいて堪りますかっ!」」」


 皆に怒られた。ルファニーは倒したし【エ・ギヌス遺跡】には入れた。明日から遺構の探索になる。だが其の奥、【祖霊の塔】への結界解除方法が見当もつかない。いや今天幕の中に捕縛陣で閉じ込めてあるルファニーを支配下に置けば問題なく解除できるんだがそこで揉めてるのよ。オレの我儘が原因なのは解ってるけどヤダもんはヤダ! でも着々と天幕は完成しオレが一方的に追い詰められていくのは変わらない。

 性魔術による精神戦

 ファンタジー系エロゲらしいこの世界の設定の一つなんだが今回の件はエグイ方、ゲームで言えばいつもの方だ。ゲーム設定そのままに性行為を通じて相手の精神と同調し、己の意思で相手の精神を捻じ伏せる。相手を支配下に置いたとしても相手の精神に多大なダメージを与える邪法だ。事実支配下に置かれた少女が魔術を掛けた男に捨てられたことで発狂し、憑魅霊という上半身のみのトップレス幽霊に変性して一つの村を不死者の巣窟に変えてしまったとかある。
 本来の有用性と人間族の男では適正者が少ないことから人としての禁忌でないという代物なんだ。その適正が下から数えた方が早いというレベルながらオレにもあった。
 だからディナスティの先生にみっちり仕込まれたんだ。貴族としての責務という奴、こっちから仕掛けなくても向こうからハニトラと言う形で攻撃されることはありえるからね。この術は攻撃と防御が表裏一体なのよ。それなら義務で我慢して……もあるんだが…………モラル面でオレが我儘してるのは皆も解る筈だ。
 え? ゴーカンだから?? そりゃ精神戦だ。優位に立つなら愛情よりも恐怖、しかも野良の精霊に人権は無い。そもそも精霊の方がヒトに襲い掛かる場合すらあるのよ。例とすれば黎樹知精霊のフェメール、あれをゲームで作ろうとすると光幼精メルタンと翠樹妖精族ユイチリで魔物配合すればいい。だが、それに近い現象が自然界で起きるんだ。
 メルタンが毒沼等致命的な場所にユイチリを誘い出し、死亡したユイチリの魂魄を喰らって知性とより強い力、そして実体を手に入れフェメールとなる。
 つまり下位精霊は可愛らしい幼女の姿とは裏腹にとてつもなく残酷で剣呑な性癖を持つ。飼い慣らすことができるから魔術師でもジャクソン君のような力のある者は精霊を使い魔にしてより大きい力を引き出せるが只人にとって精霊は身近にいる危険種そのものなんだ。しかも自然から勝手に湧く。冒険者の討伐依頼で精霊の項目が消えることが無い。こう考えてると向こうの世界じゃ脱法御褒美なんて鼻の下伸ばせそうなんだが、こっちの世界だと斜め上の論理で絶句することになる。

 精霊は自然から勝手に湧く。つまり自然物だ。それとヤルということはこっちの感覚からすれば『木の洞に自分の息子ぶち込んで自慰』するのと同義という事。

 それを天幕という壁があれども衆人監視、しかもオレだけだと流石に上位精霊屈服できる訳無いからこういった性魔術経験を破戒の魔人(イグナート)に仕込まれた玄人、愛人同伴(シルフィエッタ)でヤレと……自殺モンだわ! まだ公然猥褻罪のほうがマシだ!! 
 こっちの世界でそんなもん無いがな。――変態扱いは変わらないけど――そして玄人である筈のシルフィエッタ一人だとまず不可能なのよ。同性同士での精神戦は圧倒的な実力の差が必要になる。魔神ハイシェラクラスの実力をシルフィエッタに求める方が酷だ。


 「ルツ……」


 呆れたような声でカロリーネが説得しようとする。そりゃ恋人も合意の上での仕事だしな。オレの拘ってるのは結局のところちっぽけな男の見栄と向こうの世界の倫理でしかないんだ。調査成功になれば報酬も出る。軍関係者なら昇給だってあり得るだろう。プロジェクトリーダーが我儘でプロジェクト拒否なんてすべきではない。頭じゃ解って居るけどさ。


 「我儘なのは解ってる。だから言わせてくれカロリーネ。本当にいいのか? お前が一番苦しむことになるんだぞ。」


 俯瞰して見ればオレがこれからやる事は自ら行う公開処刑だ。宮廷雀共からすれば格好の攻撃材料になる。ただ問題はこの騒ぎが表沙汰になるとしても、メルキア中興戦争が終わりオレ達が平時の軍人貴族に戻ってからという事だ。そしてヴァイス先輩の帝国においてオレの立ち位置は最低で『表向きナンバーツー』になるであろう事、そのナンバーツーの妻が夫の性癖を締めれない――妻の尻すら守れないという向こうの世界の論理とは真逆になるのよ――という嘲笑の種になる。下手すればカロリーネがオレとの政略結婚による繋がりを望む勢力によって追い落とされると言う危険すら出てくるんだ。この周りにいる連中だって平時になれば何時掌を返しても可笑しくない。
 女にとって妻の座を守るのも命がけ、女同士で合従連衡、孤立した者を集中攻撃して叩き潰す。その陰惨な犠牲者となったのがヴァイス先輩の母上であり、それを揺り動かされた事件こそがオレとヴァイス先輩の出会いになったんだ。事実ヴァイス先輩は帝都結晶化が解かれた後、後宮の大粛清を行う気でいる。皇帝が私怨で粛清劇等、良いことじゃないがそれが先輩がオレの願いを受け入れる条件の一つだった。だからオレはエイダ様にも噛んでもらうことにしたのさ。間に入れることで旧体制側の罪という事で全体の罪を軽くする。


 「後の事なんて解らない、軍人だからね。でも今を考えようよ。好きなのはわかってるし慮ってくれるのは嬉しいけど……逃げちゃダメだよ?」


 そう言って周りの皆をドスの利いた目で睨みつける。そうすることであくまでこれは仕事、お前達三下の犠牲に自分の恋人がなってくれると言うのだ感謝しろ! そう印象付けるのかな? カロリーネは部隊全体にオレと言う恩を押し付けるつもりのようだ。優しさに甘えては価値が無い……それほどまでにこの世界では女の価値は安い。妙に捻くれたフェニミズムが台頭した元の世界の人間に見せてやりたいくらいだ。
 男共は納得し女共は不承不承と言ったところか。素早くこちらも損得勘定をする。ディナスティに帰還する時にキャラバン、しかも大陸公路の認証商人団を招くように手筈を整えている。そう伯父貴に動いてもらった。異国の珍しい産物に浮き立たない女はいない。それにオレは連動、カロリーネ経由で女共に小遣いをばら撒く。輿入れの支度金の一部と言う名目でね。一時でもカロリーネに支持が集まればのちの掌返しも躊躇する連中もいる筈だ。こうして味方を増やしていく。


 「シュヴァルツ様、準備できました……けど? きゃっ!」


 先程まで着替えていて全身包むシーツ姿でシルフィエッタが来たけど危うく吹きかけた。いやマントの下が素っ裸ならまだいい。どう見ても彼女のヒロイン時代の調教服――素肌に布打ち金属環、透っけ透っけかつ露出度90%級の下着、一体何処に持っていた!? しかも天然なのか作っているのかおどおどした顔に物欲しげな瞳でオレを覗ってる。ついでにシーツ翻させた空気読む……オレにとって絶対空気読んでない風幼精(シルフィ)一匹。


 「もげろ!」

 「爆発しろ!!」

 「リア充タヒね!!!」


 今まで仕方がないで一致していた男共の敵意が激増する。女はなんとなくご愁傷さまとカロリーネへの同情が増してるみたいだけど何故?


「とっとと乳繰り合って来いアホンダラー!!!」


 最後にカロリーネが投げつけた罵声とマグカップにオレ達は這う這うの体で逃げ出すことになった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(BGM   原初の刻〜互いの正義 創刻のアテリアルより)




 御機嫌斜めなカロリーネの後を附いていく。仕事だから二人きりってことではなく先行偵察班、そしてオレ達、後ろにジャクソン君たちのチームが控えてる。占めて一個小隊程度。しかし考えてる余裕がないな。


 「イテテ……。」   頭痛と言うか精神的なダメージがでかい、特に自己嫌悪。

 「つーん!」


 カロリーネ、自ら言ったんだし仕事だったんだから大目に見てくれても……そりゃオレが種というか原因なのは解っちゃいるけどさぁ。シルフィエッタが嵐精の後ろから抱きすくめて精神的な逃亡先と限定、オレは恐怖を演出するため前から突貫という作戦だったが、最初に恐怖感を演出すためにルファニーの衣、襟部分に手先ひっかけて一気に下へ引き千切ったのさ。

 泣くわ喚くわ

 こちとら精霊の服が破れるなんて驚きだったが今考えればあれほどルファニーが狂乱したのも理解できる。こっちは精霊系の魔法どころか精霊そのものをかき消しかねない反精霊というべき特性だ。つまりルファニーにとっては貞操の危機――そんなものがあればの話だが――どころか存在の危機になる。それで性魔術による精神戦だから一方的にオレが有利だったんだ。最後は哀願と嗚咽しかなかったよ。ここまで嫌がられると流石に襲っている身としても保たない。演技と自分を縛りつけても萎えかねん。嗜虐欲なんてオレにには無縁だ。
 さて問題だったのはその声もドタバタも天幕の外には丸聞こえだったという事だ。『恋人』のカロリーネにとって見れば針のムシロの筈。自分の恋人とその愛人扱いの女が無垢な少女襲ってやりたい放題、本当に『夫の性癖を締めれない』と揶揄されかねん。さっきの苦労して作り上げた『仕方がない』をオレがぶっ壊すような顛末になってしまったんだ。だからオレの精神的ダメージが倍加してる。『やっちまった』感満載だ。ちらりと後ろ向く。


 「ぴ――――っ!」


 その悲鳴と共にシルフィエッタの後ろから恐る恐るついてくるルファニーが涙目で彼女の背に隠れてしまう。なんか風幼精(シルフィ)っぽい。上位嵐精って知精霊級の知性や判断力を持っているんだけどあまりにも変だ。精神的ショックを受けると退行現象が起こると何かの本で読んだ記憶があるが精霊もそうなるんだろうか?


 「はい、怖くない怖くない。貴女がとうせんぼして意地悪してただけでしょ?」


 シルフィエッタがルファニーの頭なでなでしてやるけどますます縮こまる。ますます周囲の視線が痛い。女の子虐めた男の子が周囲から詰問されればこうなるという展開……いや虐めるどころの話じゃないのは理解はしているのですが…………もういい!
 不貞腐れてずかずか歩いていくと妙な岩塊のようなものが目に入ってくる。岩塊じゃない遺物、いや遺構というべきか。朽ちた兵器……それにしても大きい。フレームの大きさからすると先史文明期の自律戦闘兵器か? 
 少なくとも機械文明で現代魔法語たるファスティナ神聖語が無いとなるとそう捉えるしかない。同軸世界観で出てきた凶悪極まる兵器をいくつか記憶の底から掬い上げようとする。ついてきたシルフィエッタが驚愕の声を上げオレはその単語を耳にした。


 「うそ……何故、なぜこんなところに【破滅の魔導戦艦】が!?」

 「な!」


 オレも驚愕する。そのアイテムは【知っている】。彼女がメインヒロインとして生きた時代。破戒の魔人・イグナートの征服劇で出てきたアイテムの名だ。とはいっても使えるものでは無い。確かに地上部隊を航空部隊と同じように渡洋作戦できる点は強みだが強いて言えばそれだけ。能力補正も特殊能力もまともにない使えないアイテムだった。しかもバミアン氏の上役にしてラギールの店の頭取【神格者・ラギール】から安値で買える。飛天魔族や睡魔族の強者を配下に持っていれば要らないアイテムだった。だが、根本的に可笑しいんだ。魔導でないものを何故魔導と称した?


 「シルフィエッタ、聞きたい。イグナートやラギールは何故これを【魔導戦艦】と呼んだ!?」


時代は80年も前、帝制に移行して日も浅いメルキアが魔導兵器を魔法に頼らぬ新兵器と号し、世界中に低性能薄利多売で売り込みをかけていた時代だ。まだ【魔導戦艦】という単語すら設計図どころかヴェルロカ・プラダ筆頭公爵の頭にしかなかった。『孫あたりが完成させるであろうな。』神殺しにそう寝物語で語る程夢のまた夢だったんだ。
 事実、孫娘たるエイダ様が完成させちまったんだが時系列を考えればおかしいことに気付く。まだ魔導の揺籃期、その時代に魔導戦艦の概念に辿り着いた天才がいたということに……アレ? シルフィエッタの答えはオレにとって斜めに走った情報だった。


 「先史文明期の遺跡から発掘された空飛ぶ船、武装もまともにない艀だとイグナート様は笑っておられました。先史文明の遺物と言うだけで戦艦の名を付けるのがおこがましいと……しかし売り込んできたラギール様の隣にいた魔術師がそれを両肩についた竜の顎で嘲ったのを覚えております。『東の彼の国では禁忌ではなく、別の手段によってそこへ至ろうとする者がいるぞ。人を捨てた者よ、人がなぜ恐ろしいか解るか? 愛するが為に全てを打ち捨て突き進む。100年も経てばお前の力など問題にならぬ【魔導戦艦】が世界を絶望へ導くだろう。他者から借りた力如きで人を恐れさせているお前が餓鬼に見えるわ。』……そう覚えております。」


 シルフィエッタの齎した過去にゾッとする。魔神級の存在(イグナート)にそこまで啖呵を切れるのは並みの存在じゃない。それに、シルフィエッタの単語の一つ一つにある人物との類似点が多すぎる。


 「その魔術師の名前は……プレアードと言わないか?」

 「解りません。【名もなき影、愛を挫かれたモノ】と。」


 はい確定! 姫神フェミリンスを愛するが故に敵対し、破滅していった『野心の解放者』。狂気のカッサレの祖にして、今現在レスペレント地方の影に居る存在。彼の末裔『腐海の大魔術師』と『神殺し』の激闘はこの世界のテーマでもある。それほどの大物が動いていたわけか。示威、警告、示唆……どうとでも取れるが問題はそこじゃない。


 「その時点、帝国となったばかりでまだ七転八倒しているメルキアがこの道へ突き進むことを魔術師は知っていた。あの野心の解放者が期待するほどの代物だったのか、【魔導戦艦】は。」


 どう知ったのかは解らない。だが『野心の解放者』すらメルキアの存在を異端視し、イグナートの率いるザルフ=グレイスに示唆を与えた。対抗馬とするつもりがまさか『神殺し』の介入で御破算とはね。
 そりゃ隔意も持つわ。レスペレントの大戦である意味そこで一歩神殺しが出遅れたことが後の魔人帝、リウィ・マーシルンの『正妻』、イリーナ・テシュオス・マーシルンの死へと繋がったともとれる。実は悲劇のヒロインとして描かれるシャンティの姉、シルフィア・ルーハンスすら端役に過ぎないのよ。彼らの物語、【幻燐戦争】ではね。ツンツン駆け引きどころじゃないとオレの前に来た彼女が愕然とした声を上げる。


 「信じられない。伝説の魔術師や不滅の英雄、天使や神様まで昔からメルキアを見ている。なんでこんな国になってしまったんだろ、メルキア帝国って。」

 「カロリーネ、答えは簡単だ。メルキアは抗えない筈の魔法と神の世界【ディル=リフィーナ】の浸食を正面から跳ね返し続ける先史文明時代の国家意識を色濃く受け継ぐ【此の世に存在してはならないモノ】なんだ。だからこそ価値がある。」


 そう現神共にとってメルキアはフィアスピアに眠る、そしてその聖地で咆哮を続ける【最強の兵器】と同列の存在なんだ。向こうの方が強力だがこっちはより厄介。下手な潰し方は今の既存秩序を崩壊させてしまう。だから現神はメルキアに対し殲滅でなく教化を名目として介入しようとするんだ。ただ、その原因が何なのかがオレ全く分からないんだけどね。
 困惑の言葉をカロリーネが並べ始めた。オレにとっては自然な考えでもこの世界此処に生きる彼女からすればこの論理は異質だ。そう『世界の敵』、【哭璃】や【歪秤】と同じくらいには。


 「価値があるって……私また解らなくなってきた。そんな危険な道を歩み続ける必要が何処にあるんだろ? オルファン元帥閣下はその魔導を危険視し、魔法をメルキアの主軸に据えようとしてるってルツは言ってるよね。何故それでいけないの?」

 「そこさ、四元帥会議で伯父貴はこうエイダ様に宣うんだ。『魔法は普遍の力だ。一つの国が間違いを犯してもそれを是正する勢力が現れる。故に禁忌が人を破滅させることはない。』」

 「その点は同意見ですね。メルキア単独で暴走する魔導技巧を掣肘出来る国がディル=リフィーナには存在しない。いいえ、理論だって間違いを指摘できるだけの識者を作ることすらできない。故に独善と言う果実を実らせ、禁忌を踏み抜き破滅する。」


 エリザスレインの割り込みに憮然とする。相手方も準備が整ったようだな。でもこんな修羅場でやらなくても。仕方なくそっち(テスト)の方に頭を回転させる。
 魔導の危険性と言うがオレがこの問題をそれ以前と言う段階で語って欲しいと思うんだ。この世界で人間族は最も繁栄していると言われているが、人間族国家全て集めてもこのラウルヴァーシュ大陸の僅か一割を占有するに過ぎない。しかもそれはここ千年、殆ど変わっていないんだ。人類否定論者(エリザスレイン)からすれば今ですら不満なんだろうが不満なのはこっちもだ。

 かつての人類は二つの回廊の終わり(そうせいきせんそう)より続く危機的事態を未だ終息できていない。

 「も少し大きな視点で考えてほしいな、エリザスレイン? オレは魔法術式も魔導技巧もその本質は大差変わらないものとみている。もし、魔法術式で対処不可能な事態がラウルヴァーシュで起こったらどうする? 混沌や相滅の具現にして明確なる世界の敵、【哭璃】や【歪秤】という例すらあるぞ。どっちが禁忌に触れるかが問題じゃない。どんな事態にも対処できる力をヒトは持つべきだ。『適応力と多様性』、それが君達が崇めていた神がオレ達ヒトに期待したモノだと思ってる。」

 「『聖なる父』が望んだのは、」  予想通りと遮る。

 「それはナシだ。【知っている】身としては、今それを期待されているのは『神殺し』だけだ。」

 「…………」

 よし、やった! ここでエリザスレインが言いたかったのは『聖なる父が望んだのは人が己の力で運命を切り開き新たな地平へと世界を至らせること』。それは人が新たなる神になれという期待。只人には重すぎ、天使にとっては存立の危機だ。天使ゆえに率直に答えねばならない概念をオレが遮ることで恩を売るという考えだが、


 「……そうですわね、メルキア帝国と言う国家を『神殺し』に変貌させようとする貴男もなにをかをいわんや、でしょうが。」


 見事に返された! こちらの本意を間違いなく察している。僅かな情報からも本質を突く、これが御使いの恐ろしさだ。どうも変な方向へ問答がそれたのを察してシルフィエッタが割り込んできた。感謝!


 「シュヴァルツ様は前に叙事詩として知っているとおっしゃいましたよね。この【破滅の魔導戦艦】が何なのかも知っているのですか?」


 シルフィエッタの問いにカロリーネも耳を澄ませて来る。エリザスレインはどこ吹く風だが確実にオレを計っているだろう。オレがどの時代にいたかという判断材料だからな。正直に答える。21世紀初頭にこんなものはない。
 やれやれ、隠蔽レベルまで極小化された盗聴呪文があちこちに仕掛けられてる。仕掛けた部下が第7位天使級(ドミニオン)【マルティエル】となりその上司でメルキアに関係する一人となれば思い当たるのは一人か。


 「オレの時代には夢物語だったさ。いや一種類だけモドキは実働してたけどな。軌道間往還機(スペースプレーン)という奴だ。ただこいつがいた時代を想像するのには難くない。おそらく人類は月を手に入れ、さらに外惑星へ手を伸ばしていただろう。モドキが早すぎた……そんな時代をオレは【生きていた】。」


 凹まされた礼とばかり皮肉気に彼女に問いかける。それにもしオレの世界と整合性が取れれば同世界、ないし類似世界の先にオレが転生したという確証が取れる。


 「特定できたか。エリザスレイン?」


 なんと彼女顔を覆ってしまった。常に冷静な彼女には似つかわしくない嗚咽が混じった声が漏れる。


 「何故……何故こんなことに! 間違いはあっても皆でそれを正し合い、輝いていた時代!! 何故人は手に入れてしまったの!? 異世界からもたらされたパンドラの箱を!!!」


 カロリーネもシルフィエッタもポカンとしてるけどオレは危うく表情を変えるところだった。まさか彼女を知っているのか!? イアス=ステリナに漂着したネイ=ステリナの客人(まろうど)

 
――地の女魔神 ハイシェラ――


 いやそれは無い筈だ。それならエリザスレインを代表としそれを支持する現神と神殺しの間で全面戦争が勃発する。破滅の後にできた世界を再び破滅させるなど秩序の守護者たる天使のするべきことではない。おそらく漂着したという情報だけで特定はできていないのだろう。または三神戦争にて何らかの協定でかの女魔神は関与していないことにされているのか。彼女の不確定情報にトンデモな情報があるからな。


 「カロリーネ、知っての通りオレは転生者だ。しかもこの時代を叙事詩と把握した上で、在るべき歴史を改変する気でいる。それが最悪の偽善者、【時間犯罪者】という奴だ。だから伯父貴の城で言ったのさ、オレの咎を含めてな……と。」


 「ルツは何をもって悪と言うの? ルツは全然悪くない。ヴァイスハイト様やルツがメルキアを動かすようになってからずっといい方向へ動いている。ワルぶっても何の得にもならないよ!」


 思い当たったが納得できないようでカロリーネが反論を始めた。確かにそうだ『今を必至で生きているカロリーネ』と『今を劇中としか意識できないオレ』噛み合う筈もない。エリザスレインが問答に引き戻そうと話を繋げてくる。


 「カロリーネさん、あなたの恋人は自分の考えを闇雲に善と意識していないだけ救いかもしれないですね。教えて頂けますか? 貴方は犯罪者として何をしたいのです。」

 「ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナによる中原全土のパワーバランスを維持するメルキア連合帝国の設立。いいえ、こんなものは言い訳ですね。このメルキア中興戦争で救いたい人達がいる。伯父貴、リセル先輩、エルファティシア陛下、ダルマグナ翁、そしてアル……いまやその人々はどんどん増え続けています。ヴァレフォル、シルフィア・ルーハンス、そしてシルフィエッタ・ルアシア。」


 胸を抑えるシルフィエッタの仕草に慌てて付け加える。


 「カロリーネは別枠だぞ! オレは【共犯者】と言った。それは救われる側ではなく、救う側だ!!」

 「ルツ…………。」


 涙ぐみそうになるカロリーネを尻目にエリザスレインは前方の荒れ地に歌いかけるように言葉を並べた。さて、天幕から出た直後に示唆されて彼女達を出汁にエリザスレインと問答を繰り返したが合格点に達したかな? まったくヴァイス先輩とガルムス元帥以上に難解な問答だったわ。


 「これで納得しましたか? 少なくとも彼は違う、預言者は世界を謀る者では無い。預言者は希望を与えるもの。彼もまたヒトに過ぎないのです。」


 なんだそれ? と言うまでもなく最後の起伏にそそり立つ岩の影から姿を現す人影。……予想通り、粛清役はそちらか! 赤の太陽神アークパリス直下第五位階パッ金石頭天使(フォルザスレイン)。おどけて肩を竦める。敵わないまでもメルキアにとって宣戦布告級の事態だからだ。


 「彼女は見なかったことにします。ガルムス閣下が暴走しかねませんから。初めましてというべきですか?」

 「……そうですね。貴男と私は初対面の筈ですし。」


 隣で唇だけにまにまして見せる同位階同僚天使(エリザスレイン)を不機嫌そうに一瞥して彼女は背中の翼を広げ上空へ飛び立つ。すると出るわ出るわ。聖霊のヒエラルキーばかりと言え天使の軍団。数にしてメルキア一個軍団相当の天使なんて圧巻だわ。声が届く。


 「約束通り現神のメルキア介入はしばらく控える様、進言いたしましょう。ですがエリザスレイン? お忘れなく。現神が人間族の国家で最も危険視しているのがメルキアであることは変わらないのですから。」


 「稚拙な粛清を画策する貴女を窘めるなら多少の労苦は厭いませんよ。」


 え? どういうことだ?? 同じ天使同志で意見対立って。しかも人間否定論者のエリザスレインが何故オレを庇う???


 「貴女の配下は正しい判断をしたと私は確信しています。メルキアは消滅するべきだと。監視者はその任ではないと言い訳でもするつもりですか?」

 「聖なる父は悔い償うことで許される、そう仰られた。不可逆の罰だけが正義と現神に唆されたのですか?」


 双方沈黙と言う隔意が続いた後、フォルザスレインと天使の軍団は巨大な転送陣でどこかに去っていった。二つの回廊の終わりの後、天使族が一枚岩で無くなったのは知ってるが対立一歩手前の概念論争にまでなるとはね。しかし後のユイドラの工匠(ウィルフレド)クヴァルナの神格者候補(エルバラード)も苦労する筈だわ。こんな堅物と石頭どう絆せばいいんだ!?
 起伏から下の低地を見下ろす。草原や森なら良い。破滅の魔導戦艦を見てからこんな予感はしていた。祖霊の塔、先史文明遺跡、軌道間往還機、そのイメージを一致させる場所は科学の世界では数少ない。オレの下に広がる自然の繁殖すら拒否するように往時の姿を留めている建造物群。その一つ書かれているロゴに驚かせながらも納得する。確かに繋がっていたよな……となると【歪秤世界】へ繋がったあの【天慶第二学園】もオレの元居た世界の一つだったという事か。

 高層建築物に書かれた社名ロゴ【MHI】……ミレニアム・ヘヴィ・インダストリーズ、その直下に広がるのは。

 
――軌道間宇宙港――


 ディル=リフィーナの創生はさて……西暦二十何世紀に当たるのだろうか?




―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(BGM   深淵への誘い〜荒廃した古の大地 創刻のアテリアル〜天結いキャッスルマイスターより)




 一日野営して後続と合流した後、祖霊の塔という名の軌道間宇宙港へ侵入を開始する。オレ達三羽烏とエリザスレイン、そしてギルク百騎長にも来てもらった。流石にラ・ギヌス遺跡の指揮にデレク神官長とギュノア百騎長を取られるからな。それとジャクソン君とシルフィエッタ、シャンティが祖霊の塔外で中継指揮、南領と西領の兵は半数ずつの臨時混成を組んで1個小隊分。偵察班はオレ達自らが先頭に立つことで解消している。


 「操典からすると下策だけど今回ばかりはね。ノイアス相手だと奴が病み上がりでも偵察兵が連絡の間もなく抹殺されるか支配魔術にかかってオレ達に牙をむく。それだけならいい。奴も元帥だ、情報の価値をよく解ってる。偽情報で誘導され罠に追い込まれたり無駄な捜索の挙句、手ぶらで返されたりとやり口は数十手はあるからな。」

 「ルツの悪辣そのままだね。」 まだ不機嫌なのかカロリーネの揶揄が飛ぶ。

 「ノイアスに限らず歴代元帥が前線に出てくるのは決定的な場面でしかないからね。自分が不利な局面は極力避ける。……今度は右で次のエントランスホールの左から3つ目の下り専用エレベーターだ。」

 「シュヴァルツ……貴方はこの施設を【知っている】のですか?」


 エリザスレインの不審な声にオレは答える。


 「知らない、だがこういった施設を遥か前に見て回った事はある。この【中央管制センター】がこの祖霊の塔と称した軌道間宇宙港の中枢だ。だが外は解るとしても内部構造はさっぱりだでね。だからガイドに頼っている。」


「ガイド!?」


 皆きょろきょろ見渡すがこの時点で違う。魔法の世界だとガイドと言えば使い魔か雇いの案内人。でも科学の世界じゃこっちが当たり前になるからね。入り口で手に入れた樹脂製と思われる板切れを振りながら。


 「こいつと何度か廊下の端末……そう、そのエレベーター前にある“水晶”の平板が付いた箱だ。それで確認しているからね。ただ困ったことに此処の主はオレ達を中央管制室に招待したいらしい。棟内の隔壁システムに介入して最短距離でそこに行かせようとしてる。」

 「罠……かな?」  


 魔導槍を握り締め、呟くカロリーネ。オレも初めはそう思ったけどね。


 「あり得なくも無い。だがリスクが高すぎる。オレ達を抹殺するために自らの心臓にわざわざ案内する奴はいないだろ? それに自動機械以外、知性体が侵入したような痕跡が無いんだ。たぶん此処にノイアスはいない。そしてここに招き入れる奴はノイアスじゃない。エリザスレイン、間違っているか?」

 「そこまで知る……いいえ推測できるのに肝心の物は知らない。先程の文字も正確に言い当てて見せました。あれこそかつての世界で我等が最も呪わしき名として秘していたもの。それを簡単に公表してしまうとは。」

 「そりゃあ……あの企業の悪行は【知っている】からね。ただこの世界との関わりは知らないんだ。詳しく言えばネイ=ステリナと歪秤世界との一大事件くらいか? これ以上はそっちの迷惑もあるし伏せておこうか。代わりに話してくれ。ここには何がある?」

 「あなたが探しているモノですよ。正直ここで貴方達を選定すべきか悩んでいます。特にシュヴァルツバルト・ザイルード、貴方が最大級の危険要因です。」


 カロリーネがさりげなくオレとエリザスレインの間に割り込んでくる。アルベルトが魔導槍の安全装置を静かに外しギルク百騎長が剣の鯉口に指を這わせるいや、こういう場合挑発だって!


 「皆」 窘めようとすると、

 「それで良いのです。最悪全員で楯になってください。シュヴァルツ、貴方がアレに取り込まれる可能性は皆無でしょうが万が一の場合、遺跡ごと貴方達を消し去らねばならなくなる。貴方は恐らく今世における適格者なのですよ。」


 「それはどういう……行けば解る。そういうことか。」


 大きく出たものだ。先史文明遺跡がなぜ禁忌と言われるのか。過去に設定された命令がいまだに稼働を続け物質、生物、情報を取り込み咀嚼しつつそれを完遂しようとする。この世界の全存在にとって何が起こるか解らないパンドラの箱なんだ。適格や不適格など関係ない。全てを喰らい己の奴隷に変えて意味もなくなった命令を遂行し続ける。それを適格者と呼んだ。彼女と初めて会ったときから気になっていることがある。彼女がオレの扱いを変えたであろう発言『憐憫と嫉妬』、そして今言った『選定』と言う言葉……たぶん此処にその根源がある。
 エレベーターに乗る。地下施設のいくつかのゲートを通過。明らかに機密保持地帯の通路を進む。そして最後の、その割に役所会議室の入口のような殺風景なドアを潜る。そこは想像通り宇宙開発関連施設の中央管制室だった。そう――だった。

 
巨樹――端末が融合し天井をぶち抜いている巨大な金属とセラミックの複合体


 
心臓――格納容器に入れられ強大なエネルギーをその小さな塊が生み出している。


 そして……


「君が来たという事は古神共はまた戦争でも始めるつもりかな?」


 挑発としか言いようがない少年特有の声にエリザスレインが答える。


 「私用にすぎませんわ。本来貴方は我等という古神の眷属など破壊対象でしかないのでしょうけど。」

 「ボクはそこまで狭量じゃないさ。創造者の嗜好まで継承してると思うなよ。敗者の兵卒。」


 傲岸極まりないセリフを吐いて飛んでくる小さな躰、呆然とする、何故こんなところにいる。いや、いてもおかしくない。ここなら絶対に気付かれない。そしてノイアスは絶対に此処に来ない。天敵たる安全装置の傍に誰が行きたがる? つまりオレ達が捜索したのは全くのガセネタか本命は【ラ・ギヌス遺跡】の方だったかのどちらかだ。


 「魔導巧殻だと! メルキアに5体目が存在していたのか!?」


 そのアルベルトの驚愕をその魔導巧殻はせせら笑った。オレ? オレはそれどころじゃない! なぜそうなる!? 彼を作り出した嵐神バリハルトは……神殺しとなる勇者を生み出したのは偶然ではない!!


 「5体目? あぁ、アルのお付のモドキ共含めて5体目か! 笑えるね。確かに魔導巧殻は五騎が神造(・・)された。メイル(エルフ)ニール(ドワーフ)はそれを模倣してモドキを作ったに過ぎないのさ。だからラウルヴァーシュではボクが二体目。アルが序列第二位、ボクが三位」


 最後だけ男性をモチーフとしたには澄んだ声が響く。


 「神造秘巧殻【五騎之秘巧殻】ボク等は本来そう呼ばれてる……自己紹介がまだだったね、ネイ=ステリナの客人。ボクはハリティ・バル、【旋嵐の紋晶】を受け継ぐ秘巧殻だ。」


 繋がった。レノアベルテの神の御業、バリハルト総本山から送られた真なる御物、魔導巧殻の安全装置、そしてマルク神殿領大破壊。どの現神も欲しがるわけだ。魔導という権能を。神が創造した対神域決戦兵器。敵性神の神域へ特攻し相手の神域や権能までも奪い取る。真の意味で神殺しの権能だ。
 可能なんだ! それを闇の月女神アルタヌーが神骨の大陸でやらかし、マクル神殿領では神殺しが己の教団にやらかした。そうでなければ神々の大陸の半分をアルタヌーが席巻し、総本山スペリアよりも隆盛を誇ったマクル神殿領が物的どころか人的資源まで含めて、いや総本山まで巻き込んで崩壊する筈がない。この事件でバリハルト教会は100年近くもの間機能停止してしまったのだ。

 
その元凶と瓜二つの顔がオレの前に居る。


 暗蒼色のざんぎり頭、黒瞳、人懐っこい顔と茫洋とした視線の奥にある割り切りという冷たさ。もし彼が外敵を打ち払い開拓地を守るバリハルトの神官戦士でなく教義を伝え広めるバリハルトの神官であったならば纏っていたであろう緑と白の神官衣装。


 「ハリティ、尋ねたいことがあるんだがセリカ・シルフィルと君、どちらがオリジナルなんだ?」

 「へぇ! シュヴァルツバルト・ザイルードだっけ? 君、面白いこと聞くね??」


 そう、余りにも似ていた。女神・アストライアを弑し『神殺し』となる前、一人の男としてサティア(アストライア)という少女を愛してしまった彼に。





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(BGM   光纏う幻想〜護るべきものの為に 創刻のアテリアルより)





 忙しいと思う。状況を外の連中に話し、部隊再編制。エ・ギヌス遺跡のメンバーをこっちに向かわせる。東領への使者はコロナとギルク百騎長、デレク神官長に随伴してきたユリアナには急遽伯父貴に伝令を走らせる。南領憲兵隊を急派するようお願いした。
 尋常な事態じゃない。これは帝国の危機そのものだ。ここにある存在、使うだけで只の一武将に過ぎないオレがアルと機工融合したジルタニアを踏み潰せる。付随しているこの施設ですら完全稼働状態で動かせる存在を現神が確認したらただでは済まない、オレがこの遺跡に封印されかねん。


 「いくつかの対神格防御フィールドを再稼働させたね? どうせなら対神域全周防御(アイアンドーム)を稼働させればいいのに。」

 「フォルザスレインが真っ先に突撃してくるな。神と神族では無理だが天使族の総力を挙げれば十分この施設は陥とせる。オレが危惧しているのは。」

 「機に乗じた神殿。少なくとも神格者はこっちで捉えられるし、此処の防御システムなら神殿が創り出す【勇者】如き問題にならない。奴等が手を突っ込むには熱すぎる大釜さ。」

 「随分と自信なんだな?」

 「そりゃ900年も閉じ込められていれば使い方くらい覚えるよ。」


 どうやらハリティの方がオリジナルらしい。考えてみれば神造秘巧殻と神殺しの誕生は600年ほどタイムラグがあることを失念してた。ただ血の系譜を辿ると闇が透かし見える。
 神殺しの母はスティンルーラ人、マクル神殿領が創設する前の女系土着民族だ。事実、彼の姉がその褐色の肌と黒瞳という特徴を受け継いでる。父についてはバリハルト神官とだけしか語られていない。おそらくはマクルを開拓に来たバリハルト信者の子孫セアール人だ。ここまではいい。違う民族同士の婚姻により授かった姉弟。だが歴史上、これ自体があり得ないのよ。
 かつてのスティンルーラ人は外の血を入れることを酷く嫌った。かつてマクル神殿領と言われたスティンルーラ地方で騎士階級になれるのは褐色の女だけだ。男は種馬にしかならない。それも同族間で使いまわされるという家畜という意味でね。とんだ意味での性差別民族でもあったのよ。
 今では【スティンルーラ女侯国】が建国され、急激に列強に準じた制度に替わったが神殺しが誕生したマクル神殿領時代。いくら道ならぬ恋の末、しかも僻地に移り住んだとしても大問題になる。しかも母はスティンルーラの筆頭巫女だった。大醜聞もいいところだ。

 だが其処にバリハルトの介在があったら?

 バリハルトはマクル神殿領の安寧と両民族の統合の為に両者の血が入った偶像を元筆頭巫女の胎に送り込んだのではないだろうか? スティンルーラ人は精霊崇拝だがマクル神殿領の布教活動によって徐々に切り崩され、バリハルト信者が増えていった時代。ここでバリハルト神官とスティンルーラの巫女との間に【神の子】が誕生したらどうなる? 彼の父と母の恋愛が本物だったからこそバリハルトは付け入るスキを見いだせたとも捉えられる。
 向こうの世界なら神の非道、そう罵ることもできようが、こっちじゃこれを肯定できるのが神の信徒なのよ。ではその『種』は半端なものであってはならない。こっちで遺伝子という概念があるかどうかは解らないが最良の神の子をバリハルトは与えたつもりの筈。神自らが介入して作り上げた被造物、『神造秘巧殻』の因子であれば申し分ない。


 「ほぼ正解かな。実際ボクが作られた時、バリハルトはボクを安全装置ではなく実験作と呼んでた。『そなたから始めることにしよう』ってね。でも君の記憶、随分酷い結末になったじゃないか? ボクの分身があろうことか古神を愛し、己の故郷を教団ごと滅ぼした。

 「とんだ失敗作と言われなかったか?」


 オレの皮肉にニヤリと笑ってハリティが答えた。ガチゴチの権威主義かつ権力志向の軍神や赤の太陽神と違い、嵐の神・バリハルトは寛容な一面がある。賄賂、情実、忖度といった人間の悪性すら容認してしまうほどに。彼の神が妥協しないのは古神だけなんだ。その彼に創り出された【神の子】がこれほど柔軟だとはね。


 「ここに封印されて繋がりは絶たれたからね。ボクは封印者、でもそれにもいい加減飽き飽きしる。こんな預言者がマスターなら面白くなりそうだ。」


 そう彼の解放は『この場所を継ぐべきモノ』が来た時、だからエリザスレインが恐れた。それでもなおオレの背を押した。即ちオレは……嫌なこった! その思考がオレ流の言葉として彼に流れてしまう。


 「言うな、(ゆーな)放っておけ(ほっとけ)。」


 そう、オレがなぜこんな未来技術を使えるかも解ったんだ。まさかあの国の国教会共が『聖なる父』を解析していたとは。だからこの施設はオレ達専用に調整されたものなんだ。はっきり言いたい、役不足だと! かつての世界の預言者達とオレが同等だと!? 
 オレは人を、世界を救うなんで大それたことは考えていない。カロリーネと共に周りをさらに周りの犠牲の上で救い、最終的にメルキアを中興したヴァイスハイト皇帝の比翼……そう呼ばれれば万々歳だ。
 たがそれゆえの事実を突きつけられた。オレはこの世界の人間として扱われていない。それゆえの歪な魔法無効化と思考形態の異常、オレが転生者であることがこの世界の人間との思考の差異ではなかったんだ。そもそもオレは多神教と言うよりは神を意識しない宗教行事耽溺国家の国民だったんだぞ。それが一神教の究極形態たる『聖なる父』の代弁者だと!? …………アホくさ。


 「思考がダダ漏れしてるからあえて聞くけどさ。『転生元』ってどこの地獄?」


 そうなのよ。今ハリティと思考連結してこの軌道間宇宙港のシステムを統御してる。ハリティがこれを使えるのも簡単、真なる御物【旋嵐(戦乱)の紋晶】から発生する神力とオレの存在を維持している『聖なる父』の神力、それを同調させているんだ。双方出来損ないとはいえ神間通信やってる。だから思考も論議も御喋りもあっちこっちに飛び、そのくせ命令は滞りなく処理されていく。面白いことに神と言うラインまで来れば精神に接触しても発狂しない。


 「そりゃモラルも戒律もヘッタクレもない『なんとなく』の国だったからな。国民が何となく纏まってなんとなく代表者だしてなんとなくの気分で国が回ってる。締め付けるだけで反発が出る国だ。真面目で凝り性だけど楽天家で暢気でお人好しの国、そんな故郷だったよ。」

 「最後はそんなの国じゃないと言いたいけどさ。それってメルキアの事だろ?」

 「似たようなもんさ。安定して平和になり豊かになればどんな国だってそう変わっていくかもね。」


 腕を竦めて首を振るようなイメージが流れ込んでくる。表層の感情なら目で見えるように感じる事が出来るんだ。脳どころか精神同士を同調させる。それも性魔術無しでね。いったい創世記は西暦何年よ??


 「呆れてモノも言えないよ。これじゃ神なんて【要らない】じゃないか。古神の世界(イアス=ステリナ)はほんと神の必要が無かったんだな。しかもこの情報、ボク達は下賤な娯楽に過ぎなかったのかい?」


 まさかオレがやったエロゲの記録まで検索されるとは思わなかったわ!


 「神話なんて大概エロがグロだろ? オレとしてはその御伽噺がこっちに実在してて実体験までやらされてるんだからな。勘弁してくれ。」

 「嵐精霊を壊したのはやっぱり君か。使い捨てなのにやけにピーピー煩いと思ったんだけどね。」


 うるへー! まさかレウィニアの水の巫女がハリティに与えたものとまでは気づかんわ。考えてみれば合点がいくのよ。神殺しが初めてメルキアに来たとき、そう100年以上前だ。その時の暴走した人工精霊討伐依頼で門番だけ神殺しに討伐させて『ハイおしまい!』、
 位置関係からしてそれが帝国南領で【原精の森】という精霊多発地帯、そこからノタリオン街道を挟むと此処【祖霊の塔】だ。さっきの嵐精霊が二枚目でおそらく門番を倒した段階で水の巫女の介入があったのだろう? 
 だがおかしい?? 今回も水の巫女の名を出せばオレ達は引き下がらざるを得ない。少なくともレウィニア第二軍が『力づくで通れ』なんて言い放ったりしない。向こうだってメルキアの力は痛いほど解って居る筈だからだ。先程飛ばした偵察用のドローンの映像を見ると。お、いたいた。もう遺跡から出ようとしてる。


 「よし、ギュノア百騎長達が動いた。概念図から再現できてるか?」

 「問題ないさこの程度、後30分で完成する。君の言う魔導戦艦だって36時間あれば作って見せる。先史文明技術を舐めるなよ。」


 全く容赦ないな。今ここの自動建造工廠でラ・ギヌス遺跡残留組を回収する為、【魔導装甲・ルナ=ゼバル】を作らせてる。勿論エイダ様んところはそこまで行ってないというか二世代前の同系列機がアルベルトに随伴していたグランだからな。簡単に言えば魔導技巧で動く兵員輸送車、いやホバー式歩兵戦闘車と言える代物だ。これが100あるだけでラウルヴァーシュ大陸の戦術思想が根底から覆る。
 巡航速度100キロメートルで陸だろうが海だろうが国境線を突破し、敵中枢に押し寄せる“機甲師団”。いかなる攻撃も戦略的奇襲になってしまう反則兵器だ。とりあえず何台か作って残留組だけではなく南領憲兵隊も運ぶつもりだ。ついでに伯父貴に国家危急事態宣言を出してもらう。今もそうだが帝都結晶化を超える事態と言う意味を持たせてね。多くは語らない『魔導巧殻五体目の発見』、これだけで各国“政府”は震撼する。今各国が注視するメルキアのザフハ侵攻が霞む程の事件だからだ。


 「古神が存在することすら許さない神、その使徒ともいえる君が先史文明技術に全く抵抗感が無いとはね。この点は驚きだよ。」

 「人とモノは違うだろ? 君の国の(ガルムス)元帥が言う『使えればどちらだろうとかまわない。』ってことさ。現神だって先史文明技術を封印したのは人という無限大の可能性を持つ種族を恐れ、愚民化を促す手妻に過ぎない。……言い方が悪かったね。現神はネイ=ステリナの人間族が生み出した科学技術をその当人達が扱いきれていないことを恐れたのさ。やっと手に入れたばかりの『現神の揺り籠』(ディル=リフィーナ)を滅茶苦茶にされたくないってこと。」


 「いわばこの世界は現神の為の箱舟っていうわけだ。」

 「随分なやっつけ仕事のボロ船だけどね。」


 二人して笑う。とりあえずオレ達も神々の端っこ辺りには存在してるんだ。中央で喧々囂々と実りの無い小田原評定をやってる神々を揶揄する位良いだろう。ハリティが今後の事を聞いてくる。


 「で、君の言う南領元帥が来るまで待機かい?」

 「この部屋に専門家を集めるつもりだ。オレ、シルフィエッタ、デレク神官長、レイナとエリナ所長、伯父貴、南領総動員てとこだな。西領のエイダ様は呼ばない。魔導技巧の権威だけどこれ見たら正気でいられるか解らん。防衛部隊として南領憲兵隊に今此処に居る調査部隊の大半を集結させる。伯父貴が来るなら南領第1軍団からいくつか部隊を持ってきてくれる筈だ。それで遺跡自体を完全に封鎖する。時間は2週間てとこか。」


 「で、君ごと封印されたら元も子もないんじゃないかな?」


 伯父貴は愚策と断ずるだろうな。拙速の余りやらかせばメルキアが消し炭になりかねない。それだけの力がこの施設にはある。


 「伯父貴はそこまで短絡的じゃないさ。それに対策はとってある。オレの持ってる書類からどれだけ建造に時間がかかる?」

 「言ったろ、36時間。資材の都合がつかないけど此処の在庫だけで魔導戦艦3隻と魔導装甲50艘、魔導外装50体は作れるね。でもソルガッシュやメールガッシュを増産した方がよっぽど戦力になるよ?」


 ソルガッシュ、神殺しの最初の冒険とされた【カドラ廃坑】の奥、偽装された封印神殿に配置されていた戦闘兵器だ。ゲームでオレ達のヒットポイントが数百だとしてもこいつは二万近いボス級モンスター。戦闘能力にそれに比して強大だ。下位の神格者なら返り討ちにする。メールガッシュはその上位戦闘兵器だ。ヒットポイントだけで15万超、もうヒト如きが対抗できる相手ではない。


 「そんなもん繰り出してみろ。世界中が敵に回るぞ。あくまでこの世界で使われる兵器は魔導技巧によって作られたメルキアの産物、先史文明兵器が大暴れしただけでボロ船に大穴が開いちまう。」

 「あはは……御尤も。でも性格悪いね君。言うなれば先史文明技術でリスペクトした魔導兵器。ん? 来たようだよ君の花嫁達。」


 オレの瞼が持ち上がる。それと同時に脳内に覚醒物質が流され外界との遮断された感覚が戻ってくる。自分の重さが腰や足に伝わり始めゆっくり拳を開いたり握ったりしてみる。うん、特に異常はない。最後に円筒形のカプセルのハッチが開き心配そうにカロリーネとシルフィエッタが覗き込む姿が映った。


 「大丈夫?」 「大丈夫ですか?」 「隊長?」


 最後控えめに言った言葉の主はシャンティかな? 彼女達は警備シフトを変える為に東奔西走し、オレはこの祖霊の塔と言う軌道間宇宙港とラ・ギヌス遺跡という全自動建艦工廠を統御できる様因子を移植されていたんだ。


 「おはよう、夢の内容は最悪だが御姫様方に見守られて良い目覚めだったよ。ところでおはようのキスは?」


 え! 何をボコられるような発言をって?? いやいや、これくらい言わないと逆にボコられる。こっちじゃ恋人複数の男は時にこうやって女達の独占欲を健全な意味で煽らなきゃならんのよ。『女心は細やかで気まぐれ、一手で複数の感情を引き出しなさい。』ディナスティの先生の至言だ。
 面喰らうカロリーネを尻目にシルフィエッタが左頬にキス、対抗心でカロリーネが右頬にキス。もじもじしてるシャンティには近寄って額にキスをしてやる。唇は誓約、頬は親愛、額は感謝、ちゃんとそれぞれ意味がある。


 「お熱いことで!」


 飛んできたハリティが囃し立てた途端、真顔……や剣呑な表情になる。


 「来たな侵入者! 三下神格者如き、何を相手にしているか思い知らせてやる!!」


 こっちにも因子接続を開始……成功。まだ祖霊の塔の機能を使用はできなくとも総覧はできる。妙だ。最下層に侵入者? 地下900ゼケレー(270メートル)、確かにこの管制センターの防御死角、外郭の下から潜入できるが其処が最も分厚い創造体――ゴーレムや機械兵のこと――の集結地だ。


 「神眼の鳥はいたよな。いや、あんな神造じゃなくてもいいから相手の確認できるものを急派してくれ。」


 相手が解らんと対策のしようもない。同時に周りにいるカロリーネ達と中継するホールに居るアルベルトやエリザスレイン達に連絡。


 「すまん皆、侵入者だ。これから誘導する。こちらの防衛拠点を壁にしてなんとか相手を捕縛して欲しい。アルベルトとエリザスレインは中間迎撃、無理はせず相手を見定めてくれ。カロリーネ達は管制センターの外郭でオレと共に迎撃。後方から追いすがるアルベルト達と挟撃する。ハリティはシェルターまで退避してくれ。恐らくは君が狙いだ。」


 まずは妥当策、咄嗟遭遇戦で初めから細かい作戦など破綻するようなものだ。ハリティの声が上ずる。甘くはないな、まずは情報収集に徹するべきか?


 「バカな! 向かわせたゴーレムどころが炉精が消滅!? 半端な相手じゃないぞ!!」

 「腐鉄の這者は?」


 廃棄物処理用のモンスターだ。金属だろうが生体だろうが敵対者を溶解して呑み込む。


 「真っ先にやられた! 人間如きにアレは倒せない筈……明らかに神格者だ!」

 「映像回せるか?」  


 不味い、監視カメラから優先して叩かれている。しかも攻撃してくる瞬間すら捉えさせない俊敏さと隠しカメラまで見破る奸智、只者じゃない。神器盗掘を司る神(フール・トラーマ)関連か!? それにしては移動が訳解らん。上に向か訳でも下に行くわけでもなくオロオロしながら見かけた警備兵を片っ端から壊しているだけにも見える。


 「今やってる! くそ捉えられない! なんて奴だ、速さと隠蔽能力が段違いだ。シュヴァルツ、ソルガッシュを出すぞ!!」


 管制センターの大型搬入出扉が開き、20ゼケレー(6メートル)ものずんぐりむっくりした首も尻尾もない金属の蜥蜴が這い出して来る。しかも二体、機工兵器【ソルガッシュ】。遺伝子操作によって人為的に作り出した生体組織を異世界の素材と融合させ莫大な情報量をもってその意識や本能すら押し潰して傀儡にする。
 ゲームでもその外見は怖気を感じさせるものだったが実物は比較にならん。これは人間が到底容認できるものでは無い! かつての人間族――人類――がここまで狂った代物を作り出した。いったいイアス=ステリナの終末はどれ程酷いものだったのだろう?


 「アルベルト、聞こえるか?」

 「感度良好、と言うより押されているようだな。シュヴァルツ?」

 「あぁ、半端な相手じゃない、そっちに出来たばかりの魔導外装・アシュクラーナ6体が来てるはずだ。そいつを盾に情報だけでも送ってくれ。戦闘に加わらなくていい。そいつらすら時間稼ぎにしかならん。今から片っ端から隔壁閉めて遭遇を遅らせる。急いでくれ。それとエリザスレイン。」

 「なんでしょう?」

 「済まない。皆を頼む。」


 オレが願ったのは自爆前提で相打ちに持ち込んでくれという要請。これで駄目なら全面撤退しか手はない。いやその全面撤退に余力を回すための捨て石。押しかけかつ状況における最善手とはいえ仲間だ。今の肉体に死ねと言うに等しいこと。優しげな声が通信機越しに聞こえる。


 「せめてその結末は知っているという声音くらいは出してくださいね。士気にかかわりますし預言者として失格ですよ。」

 「言うな、(ゆーな)放っておけ(ほっとけ)。」


 オレの本来の呼び名に憮然としたのが解ったのか、最後クスリと笑われたような感触を残して通信が切れる。


 「よし、今度こそ。対神格防御フィールドの前に神格者は只人に過ぎない。そのまま出力上げて圧殺してやる!、シュヴァルツ適当でもいいから奴を追い込め!!」

 「了解。」

 限定的ながらこちらへの創造体指揮権が回ってくる。ゲームでの超高速マニュアル操作の難易度だがこちとらやり慣れているんだ。ここで負けて堪るか!
 持ち駒は造殻の溶巨人(メル=ゴーレム)、炉精、斬排の狩娘、合わせて20体、向こうの生体反応が分裂……喚石による使い魔か! しかしこちらは魔神でも召喚しなければ問題にすらならない強者揃いだ。側面の通用口から包囲作戦、ただ張本人は狙わない。敵がどれだけの物を召喚したか造殻の溶巨人(メル=ゴーレム)を盾に確認する……なんだと!?


 「なにやってんだよ!」

 「くそ! これでも一瞬かよ!!」


 ハリティの罵声も致し方が無い。これだけ重厚な布陣ですら紙ペラ一枚にしかならないとは。しかし、


 「確認した、敵は龍人族(ナーガ)を僕にしてる。マグマの塊たる溶巨人を全く恐れずに踏み込んできた。」

 「超低温攻撃必須か。だが終わりだ! 神力を封じられては何もできまい!!」


 犯人がそのフィールドに入った途端。轟音と振り回されるほどの振動に翻弄された!


 「「何が起こった(の)!?」」


 カロリーネとアルベルトの悲鳴。こちらもそれどころじゃない! ハリティの絶叫に近い管制をそのまま流し、無茶と知りつつ命令を加える。

 「第1088、1045、1022隔壁損壊! 第9フィールド崩壊、第11警備隊全滅、200体の機工兵器が10秒保てないだと!? 第7フィールドも第5警備隊も突破された。滅茶苦茶だ!! 隔壁も階層も防壁も警備隊も全部駄目だ!!!」

 「後25秒で接敵する。何としてでも情報を送れ!」


 オレの声に『手前等、命の賭け時だぞ!』の怒声と『恐らく七獄の悪魔王(アークデヴィル)相当、此処で足を止めます!』――アルベルトとエリザスレインの通信機から漏れた声に慄然としポケットから【飛翔の耳飾り】を取り出す。勝てない……いや、負ける。完膚無きまでに負ける。

 「カロリーネ、シルフィエッタ、シャンティ、シェルターに入りそのまま脱出しろ。」

 「ルツは!?]

 「オレはこれがある。ディナスティで――――!!!」

 再び轟音、しかも連続して! 正面の壁が吹き飛びそこから朦々と煙が流れ出す。そこから現れようとする……

 
桃金色の聖光と黄金の稲光!



 「敵確認したぞ! おめえと同じ赤髪の女、白の中装鎧、双剣使い…………」


 違う、赤髪ではなくもっと明るい『茜色』の髪、女ではなく『男』、イメージを取り違え易い女神アイドス戦時の『白銀』の戦闘鎧、二刀流でも双剣を使わず、左は強度だけに絞った長剣(パールミル)、右は魔神の変化体である短剣、

 
【ハイシェラ・ソード】!



 「おぃ! 聞いてるのか!?」


 そのアルベルトの声すら滑っていく。手遅れだ……だって、正面に居るのは…………


 
「神殺し。」



 回避不能、防御無駄の絶望が其処にいる。



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