(BGM  空と風の風景 微風の中 戦女神MEMORIAより

 「あの……リンシャ・ユーティス・カーリランさんって貴女?」

 「はい、そうですけどお客様?」

 「あ……そうですそうですお客様です。」

 「いらっしゃいませお客様――! あ――っお客様! 台帳に頭叩き付けないでください――――っ!!」


 都市長から言われて解ってたからやるべきことは決まっていた。女性陣後ろでヤレヤレポーズなのもいつもの事。でもさ、
 なんでカルッシャ王国第三王女に続いてミルフェの援交女将まで同名の先祖がいるんだよ!!! お前等200年後に出直して来い!

 ――奇声が響き渡る野牛の蹄亭の一コマ――




―――――――――――――――――――――――――――――――――――



――魔導巧殻SS――

緋ノ転生者ハ晦冥ニ吼エル


(BGM  青空に浮かぶちぎれ雲 峰深き瀬にたゆたう唄より)











 幾ら表向き出奔したとは言えメルキアの【ヴァイスハイトの比翼】にして【宰相と公爵の懐刀】、都市長から公館滞在を勧められたがオレは比較的新しめの宿を借り受けることにした。今シルフィエッタとエリザスレインが防諜対策を、シャンティとキルヒライア先輩が周囲警戒を行ってる。デレク神官長とリプティー、フローレンさん引き連れてイーリュン神殿に向かった。ゲームじゃバカでかい教会に女司祭(クーンさん)一人しかいないという侘しいものだったけど成程ね。イーリュン大神殿、200年後神殺しと第三使徒が訪れるころには元大神殿に落ちぶれていた訳か。
 その理由も解るんだ。200年後、この街【レルン地方・ミルフェ】は隣接するカドラ鉱山の鉱石枯渇により急速に経営が悪化している。しかも住民流出、隣国の戦争、野盗の頻発のトリプルパンチ。内海を越え態々五大国筆頭レウィニア神権国が軍を送り込まねばならなくなったんだ。
 何故? と地図を思い浮かべるとこのミルフェが西のクヴァルナ大平原からの陸運、東のオウスト内海からの海運の結節点なのは理解できる。ただこの幹線路は大陸公路ではないんだ。

 
ここで200年後の史実、【カドラ廃坑事件】(いくさめがみ)の裏が見えてくる。


 未来起こるレウィニアのミルフェへの第11軍【白地龍騎士団】(ルフィド=ヴァシーン)派遣、この一端にメルキア帝国が関わっていたのではないか? というオレの疑念だ。対外遠征には金が掛かる。レウィニアも分遣隊とはいえ正規軍たる白地龍騎士団を投入したがらない筈だ。何しろレウィニア騎士団には後方兵站組織が無いのよ。だから騎士団は基本国内防衛戦力。それが展開するだけの兵站は何処が出した?? そう、

【貪欲なる巨竜】(メルキア)だ。


そしてその対価(ねらい)は一つ……

 
魔導戦艦による交易路――大陸航路――の開拓。


 何を馬鹿な!? と自己反証してみたが、そう考えるのが自然なんだ。このころのメルキアは経済も政治も飽和状態で良く言えば爛熟期、悪く言えば斜陽の大国化していた。時の皇帝ギニラール・フィズ・メルキアーナの暗殺による政治的混乱はその一端でしかない。それを打破すべく一部の政治家や軍が行動を起こしたのではなかろうか?

 植民地獲得、即ち帝国主義の萌芽だ。

 それは遅きに失したともいえるがオレはそれを200年も前倒ししている。もし西方から東方へ大陸航路を伸ばすならば高度を取らねばならない大山岳地帯は避けねばならない。ドレッドノートのような純粋な魔導戦艦、しかも採算度外視のハイエンドモデルなら兎も角、商船型の魔導戦艦ならばそれほどの高性能だと運輸コストがかかり過ぎるんだ。つまりなるべく平坦な土地を動くことになる。そうなると西方と中原を繋ぐ低地帯は只一つ、

 レルン地方のみだ

 しかも隣のクヴァルナ平原は大草原、オウスト内海は水面、魔導戦艦の運用に支障が無い。オレが先輩と共にメルキアを中興し国を立て直した後、最後のオレの任務が此処になる。大陸航路を完成させ、その富をメルキアが一手に牛耳り、四姉妹を救済するモノと金を生み出す植民地として。

 
レルン地方鉱山都市ミルフェ、メルキア連邦帝国編入


 汚く言えば中興戦争終了後、レルン侵略の総大将がオレなんだ。それほどの戦略的要点なのよ。それを知ってか知らずか件の女将……前言訂正。まだ両親がいるから看板娘ってとこか。大急ぎでカーテン付け替えながら首だけ振り返って明るい声、


 「でも、おっどろいたなー。私の店にこんな凄いお客様が来るなんて!」


 200年後、人外魔境と化すけどな。それを率いるのがあの神殺しだ。鞄から情報ノートと宿題を取り出しながら遥かなる未来を皮肉る。


 「少し野暮用でね。カドラ鉱山に用があるんだ。それと私の店なんて迂闊に使っちゃ駄目だぞ。御両親いるんだろ?」


 彼女ルームメイク――大店舗に入るけど商人用で貴顕御方々を入れる宿じゃないから大慌てで仕切りを変更中――を止め手を腰に当てて宣言。


 「ううん。私の店、私の居場所。この【野牛の蹄亭】はね。」


 話を聞いて絶句、オレが両親と思っていた夫妻は彼女の親では無かった。その血に仕える元家宰と元侍女。彼女の祖母はフェルディナ王国の王女だったらしい。国が滅亡し、レルンに流れてきたという。メルキアの重臣たるオレに失礼のないようにというコケテッシュな衣装(ガウン)からオレはそれを【知っていた】。

 リガナール地方南部平原地帯、フェルディナ王国王女【イルミテシア・ユーデス】


 記憶にある彼女のチョーカー、そして史実のリンシャさんと違う金褐色の髪がそれを示している。……うん真偽を問うのは止めよう。此方の歴史では神殺しの【遊星墜とし】によってラエドア城諸共各国要人は消滅している筈だからだ。己の全財産を使い切り親代わりの彼らと宿屋を構えた亡国の末裔、それでいいじゃないか?


 「そりゃおめでとう。だが経営ってものは建てて終わりじゃない、そこから始まるんだ。オレもメルキアと言う国を動かしていて散々思い知らされているよ。」

 「アヴァタールの雄【貪欲なる巨竜】(メルキア)かぁ。そんな大国が此処まで手を伸ばしてきた。この町の鉱山を目的に?」


 そう簡単に言質はやらないけどな。ただ、


 「伯父貴の命令が残っていてね。オレが投資していた鉱山資金がどう動いたか見ておけってさ。人使いの荒い宰相閣下という訳。」


 実際はもう行方不明になってる。当然ラナハイムの件でだ。それを状況証拠から探れるか? の罰ゲームだったりするんだな。何かは簡単、オレの大ポカ『ユン=ガソル独立承認』だ。厳しい伯父貴だよ。それを表向きにした書類の束がオレの腰掛けているソファーに山積み。せっせとオレは雑談に興じながら精査中の身だ。オレの頭の周りで脳内『?』マークが回転してるのを他所に彼女が素っ頓狂な声を上げる。


 「ひゃぁぁあ! この鉱山の権利まで持ってるの!? ホントにウチの宿で良かったの?」

 「公館や老舗より『色』はついていないだろうからね。内緒話には持ってこいという事。」


 大袈裟なジェスチャーの片腹、リンシャさんも警戒感をさりげなく上げてきてる。『色』が何なのかも解ったかもしれない。
 当然チップのある文化圏なので光の加減で黒光りする大ぶりの金貨数枚をテーブルに置く。ホントは200年後の経営悪化の為に大目に渡したいとこだけどチップとしてはこれが限界。……どころか援交の誘いになりかねない。だからチップで使われるレルン銀貨(シリン)でなく、援交と誤解されかねない共通通貨たる交易金貨(ルドラ)でもない。このミルフェでは直接の両替ができない中原最強通貨、メルキア帝国金貨(フィズ=ルドラ)
 裏は当然口止めの意。ある意味ひたすら店の為店の為で後のリンシャさんがまともな御洒落も出来ないせいでアーライナ性悪神官の罠に嵌ったわけなんだし。額冠の特徴的な魔力サイン、来たか。書類を畳む、これはあくまで偽装。……つーか全然解んねぇよ伯父貴!


 「さて、看板娘さん。内緒話開始だ。」

 「は〜い。お仕事がんばってね!」


 年の頃JK 若女将(おくさま)にはプラス五年欲しいと思いつつ彼女を外に出し魔導防諜機器を起動。そっと転位してきた一人と予めいた一人に話しかける。


 「さてレイナデリカ、ミリアーナ。話を聞こうか?」

 「ふ〜ん。出たとたんに浮気開始か〜?」

 「完全に色目だったしねー。カロリーネに言いつけるぞー。」


こらこら二人とも。貴族男性としてのリップサービスに過ぎないって。それに言いつけるのは無しで!――いやミリアーナの言う通り冥界に逝かず留まっていた場合、そういった霊間通信が可能なのよ。
 愛しい彼女に首かっくんされてる錯覚を覚えながら同僚達に報告を促す。



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(BGM  空白の歴史 戦女神VERITAより)





 「で……証拠のブツがこれね〜。本物かどうかは解らない〜。シュヴァルツを痛い目に合わせられるあの『王妃』が相手だから。」

 「北領のアデラちゃん捲くのに苦労したよ? あの子結構真面目だからさ。言い訳ヨロシク!」


 二人のセリフと共にテーブルの上、レイナの人差し指でコロコロ転がるピンポンボール大の蒼い塊。こっちに向けて転がされ持ってみるとずっしりと重い。そして爪で簡単に傷が付く。非常に柔らかい金属だ。記憶を手繰り寄せる。あるな、『縁と絆の物語』それによる悲劇への分岐ルートに至る最初の関門。


 「レイナ。ユン=ガソルは劣化魔焔に代わる新魔力源の開発を始めていたな。」

 「西領のラインからもそれは確定してる。だからエイフェリア元帥はシュヴァルツに土下座してでも魔焔反応炉の完成を急いだ。」

 「そしてそれを警戒した伯父貴がオレを扱き使って歪竜の配合を作らせる。帝国内乱どころか今回の復讐戦争直前にまでオレは双方の決戦兵器を加速させることに成功した。」


 人の悪い笑みを浮かべるオレ含め三名。それによってメルキアの価値はさらに上がり帝都結晶化の後でも4領の債権は引く手数多だ。その発端がオレによるエイダ様への魔焔反応炉製造過程のリークだったのよ。
 そ、エイダ様がオレに積極的、いや立場からすれば卑屈なくらい協力的になった要因がこれだ。なにしろ向こう側の化学知識から逆算してみたからな。物理法則が違ってもディル=リフィーナにも元世界に共通した物質――金、銀、炭素結晶(コランダム)等々――がある。つまりエネルギーを引き出せる物質を探し組み合わせを片っ端から試し基礎理論から一足飛びに実用化までこぎつけたんだ。エイダ様以下魔導技巧師、錬金術師総員『勝負になるか!』と逆切れされたけど。
 だからこそ元の世界とモノこそ違うがこれが何なのか解る。『鉛』だ。此方で言うなら蒼い鉛そしてその物質から導き出せるユン=ガソルの次世代エネルギーが何なのかも。


 「ユン=ガソルが最初だったとはな。『王妃』(ルイーネ)、いやこれは『軍師』(エルミナ)だな。研究都市ルインハイネ、丸ごと頂きたいものだ。」

 「悪企みはじまった〜。」

 「もったいぶらずに教えなさいよ。」


 レイナの茶々とミリー(ミリアーナ)の膨っ面にピンポンボールを突きつけ宣言する。


 「でかした! こいつは【魔鉛】、エイダ様の妹御(ルトリーチェ)が後に創り出す外燃型『魔鉛』機関、【魔制珠】の中核部品になるであろう基軸物質だ!!」

 「??」

 「魔“焔”? でしょう??」


 解り易くする為誤導したし、二人の疑問も解らないでもない。メルキアの誇る世界の唯一【魔導技巧】、その中核物質は【魔焔】という純粋魔力を発生させる人工精霊生成型魔法鉱石だ。つまりメルキア外では特殊な魔物配合によって生み出される人工精霊を作る術式が無い。それを秘し、独占するからこそメルキア……いいや帝国西領は一国程度の規模で世界を揺るがせる程のアドバンテージを持つのよ。
 ただ対抗者がいないわけではない。メルキア帝政化の折、多数の貴族達がユン=ガソルに流れた。この時に一部とはいえ魔導技巧も魔焔精製技術すら流出したんだ。それを使い彼らはもう一つの生成体系を生み出した。それがゲームでもメルキア最大のライバルたる【ユン=ガソル連合国】の基軸物質、

 
【劣化魔焔】


 まーこの劣化はデッドコピーと決めつける西領のプロパガンダでもあるんだが、ちゃんと理由が存在する。本来汚染地帯を人工精霊で浄化しながらその残渣物質から魔焔は生成される。この魔力エネルギーの焔ともいえる魔焔は使い尽しても世界を汚染しない。だがこの劣化魔焔は違う。

 使えば生成した以上に世界を汚染してしまうんだ。

 しかもこの汚染は人工精霊を以ってしても浄化不可能。現状西領の技巧師たちが再生策を研究しているそうだがエイダ様の方向性と国難故に後回しになってる。史実(ゲーム)ならこれも完成しているんだがどこかを伸ばせばどこかが犠牲になる。魔導技巧もそんなところだ。全ては戦後からとオレもエイダ様を説得したことがある。そして今のユン=ガソル国土の5割がこれで汚染されてる。特に連合国東方に位置し魔導兵器ノイアスが潜伏する【不朝楼の座】は汚染物質で狂った精霊と不死者が蠢く世界のガンだ。
 ただし、魔鉛は違う。汚染を発生させない上、地脈と言う名の霊的磁場を使う事で高効率で魔力を蓄える蓄電池に近い特性を持つ。そして重要なのはこれは魔導技巧で創り出される基軸物質ではないと言いう事だ。
 あの制作会社の開発する各々のゲームで魔焔という言葉を扱うのはアヴァタールのメルキア帝国のみ。この時代に魔鉛という言葉は無いが200年後、この言葉はセテトリ、フィアスピア、ヴァシナル、クヴァルナ……そこらじゅうの地方で展開する各々のゲームで聞かれるようになってる。メルキアが供与したにしても大規模かつ無差別だ。魔導技巧で魔鉛が作れるのなら200年後世界は人類国家で埋め尽くされ現神共そっちのけでイアス=ステリナと同じ状況(せかいたいせん)になっているだろう。
 何故そうならないかは即ち…………


 「いいや、魔鉛で正しい。もはやユン=ガソルも限界だ。汚染された国土に己の国家が耐えきれない。莫迦王がメルキアをどうにかするなら最上だがこのまま膠着した場合。ユン=ガソルは禁忌によって破滅した国家と言うレッテルを現神共から張られかねん。その前に次世代へと階を掛ける。」

「それが……これなの?」


 レイナの驚愕も無理もない。これは明らかに『魔法術式によって再現された魔導技巧』なんだ。魔術と魔導、いくら根底は繋がるとはいえ西領と南領の対立軸をユン=ガソルは易々と超えて見せた。彼らを下に見る傾向が強いメルキア上層部としては癇に障る類だ。つーかあのハーフエルフ神格者、うろ覚えと貰い物でコレ作るなよな? 200年後だろうとユン=ガソル全技巧師が号泣するぞ。


 「レイナ、こいつの優位点は解るな?」

 「禁忌を誤魔化せること……かな?」  大真面目に考えたレイナに対し。

 「ざんねーん。」     ミリアーナが茶々を入れた。続いて持論を述べる。

 「シュヴァルツはユン=ガソルからこれを奪うのね? 魔焔は西領の独占。シュヴァルツであっても手を出せない。でもこの魔鉛ならどうかな?? 都合良いことにこの魔導の産物は魔術で創り出せる。」

 「シュヴァルツの構想の手妻にすること? 危険だわ。」


 身を乗り出し声を低くしてレイナが言う。いくら対立軸かつ叛乱国家が創り出したと言ってもメルキアの力が外に流出することは面白くあろう筈もない。だからオレは方向性を話す。


 「特性は【知っている】からな。こいつは魔導戦艦のような重厚長大な代物には使えない。出力が決定的に違う。だか魔導槍、魔導鎧なら軽薄短小の方が使える。そしてユン=ガソルから奪いそしてオレが与える南領なら量産も不可能ではない。だが他の大規模国家では量産は……」


 無理と言いたいところだがそうは問屋が卸さない。200年後、三つもの国家亡滅を回避した【数多絆結びし救国の工匠】(ウィルフレド・ディオン)とハーフエルフ神格者たる【天賦の才持つ鍛梁師】(アヴァロ・ルクレール)がその製造に成功している。諸大国も後に続くだろう。かつてのイアス=ステリナの人類はそうやって発展を続け、遂には彼等の力【科学技術】は神に届いた。その極限こそが【機工女神】。


 「……ブレイクスルーが必要だ。その金を、機材を、技師を何処から引き入れる??」


 合点云ったのか二人ともニンマリ笑って声がハモる。


 
「「貪欲なる巨竜(メルキア)!」」



 そう【貪欲なる巨竜】に対抗するために【貪欲なる巨竜】の力を頼らねばならない。このジレンマを無視できるのは指導者が必要悪を受け入れ国民全体がそれを支持する最良にして最悪の利己主義集団、【近代国家】になるということだ。それは神と魔法の世界、信仰を奪い合う管理された争いという現神の論理に正面から敵対するという事でもある。個人は兎も角、国家でそれほどの度胸を持てる国と言ったら150年以上後に成立するであろう魔人帝(リウイ)率いるメンフィル帝国位なもんだ。


 「南領は帝国唯一の魔法術式国家だがオレが手妻にした特殊魔物配合という機密を除いて一般の魔法術式を経営基盤にする国家と変わる事は無い。」


 あえてその問題点には触れない。この魔物配合のルーツを辿れば禁忌に到達してしまうんだ。


 「自給ができるだけ大したもの〜。」

 「足りない、全然足りてないよレイナ。」


 ミリアーナの茶々にレイナが渋い顔をするがオレもそれは同意だ。こればかりは現実と向き合わなきゃならない。


 「そうだ。南領が僅か60年でここまで来たと言っても打ち勝つべき他国家(ライバル)は世紀単位で研鑽を積んでいる。基盤も地力も違い過ぎる。そして消費者は余程のメリットがない限り老舗を選ぶ。だからこそ逆から攻め上がる。」


 「メルキア唯一の魔導技巧、その産物と詐称した魔鉛……ユン=ガソルから奪ったその力をメルキアの魔法術式を以ってリスペクト。」


 ミリアーナの差し挟みに感心。元々知力に相当する政治力は低めだったはずだけど浅く広範に知識持ってる。諜報員は無知じゃ務まらない。彼女が静かに残りの言葉を紡ぎ出す。


 「その産物【量産魔鉛】で道筋を変える。今までの連綿と続く系譜から枝分かれしたメルキアの魔術を以って魔術の本流を捻じ曲げる。シュヴァルツの望みメルキアにとって都合の良い魔導と魔術の両輪技術国家【メルキア連邦帝国】へ。」


 オレが魔鉛を欲する本当の理由に至ったようだな。本来の想定では劣化魔焔を魔焔に置き換えたユン=ガソルの卓越した【兵器技術】を使う予定だったが嬉しい誤算だ。メルキアでないのにメルキアを継承せざるを得ないユン=ガソル。その力を以ってメルキアは魔導と魔術を兼ね備える技術国家へ変貌する。【畏れられそして排されざる】――恐れられず侮られず等国家としては自殺行為だ――これならばメルキアという人類国家は全世界が認めざるを得ない【この世にあり得ざるモノ】(かみごろし)として存在できる。


 「オルファン元帥が頭抱える訳ね〜。ヒトの歩み、それを想定し常に前に存在する帝国滅亡への陥穽を潰していく〜。いつの間にやらメルキアはシュヴァルツの論理を肯定せざるを得なくなる。」

 「レイナ、それを伯父貴に言い返してくれよ。少なくともオレのメルキアの政治政策は伯父貴の言いなりだ。レールの上を尻叩かれて走らされてるからな。」

 「それであのお高く留まってる天使(エリザスレイン)の言う【思想家】に慣れるならいいじゃないの? あールツは死後の名誉なんて気にしないか。」

 「「悪名轟かすことは確定だけどねー。」」


 ヤレヤレ、二人してチクチクと。


 「では、魔鉛の精製技術を体系化し創り出したであろうユン=ガソルよりその根幹を奪い取れ。そしてこれはオレの手柄ではなく伯父貴率いる南領の総取りでいく。魔導戦艦や歪竜を餌にコイツを全世界に高く売りつけるんだ。」

 「へぇ? もしかしてシュヴァルツは【知ってた】のかな?? 南領が西領を凌ぐ、それも西領が手出しできない魔法術式をアドバンテージにした国家へ変える。だからオルファン元帥閣下はエイフェリア元帥閣下の魔導戦艦を戦争と云うテーブルの上に乗せることを認めた。」


 間髪入れずにミリアーナが突っ込んできた。うわ! そっちに繋げますか。そりゃここまでバラせばこれから起こる南領と西領の戦争がメルキアの価値をさらに高める御芝居であることなど自明だ。少しばかりはぐらかせておく。肯定すると東領、つまりヴァイス先輩抜きで事を勝手に進めると意訳されかねない。あくまでメルキアが再度纏まる要石は西領でも南領でもオレでもなく、ヴァイス先輩――【ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナ】でなければならないんだ。レイナが合点が言ったように残りを繋ぐ、


 「本来なら建造中どころか計画中でも容赦なく破壊工作かますからね〜今までそれが無かった。オルファン元帥は情の深い方だけど冷徹さも人一倍ある。シュヴァルツが対価を払えるからこそ、そこまで譲歩したのか〜」


 そこまでオレも万能じゃないけどな。ただ只南領の魔法術式はアキレス腱があった。ゲームを知っているオレすらこれは禁忌寸前の代物とは気づかなかったしな。伯父貴にそこを問いただしつつそれを以って完成する南領の切り札、歪竜精製過程の情報『ゲーム展開知識』を渡し譲歩を迫ったんだ。――それを時間稼ぎにして成り行き(ちゅうこうせんそう)予定外事態(アルクレツィア)が為、オレは先史文明技術とそれによるメルキアの世界展開を指示した、そう、戦狂いと大陸航路だ。
 最早伯父貴の仮想敵はエイダ様如きじゃない。メルキアを壟断する時間犯罪者にして自分の甥【シュヴァルツバルト・ザイルード】こそ『技術戦争』において打ち克つべき相手になっている。
そしてその実態も相手に『それをやらせない』というマイナス思考ではなく『何方がメルキアと神々を含めた世界まで利するか』という競争になっている。
 オレが望む魔導と魔術の両輪技術国家への道をメルキアは走り出しているのだ。其のためにオレも伯父貴も譲歩すべきものはどんどん譲歩する。ユン=ガソルから奪う魔鉛すら例外ではない。


 「そろそろ南領も己の魔法術式を秘密秘密言わなくても済むようにしなきゃならんからな。南領の魔法術式研究は禁忌スレスレの魔術【魔物配合】から始まった。魔導技巧が禁忌たる先史文明技術に至るという伯父貴の自論。その裏側の一端は現神の懸念に忖度し、対価に己の家から発祥する禁忌スレスレの技術体系を覆い隠す為ともいえる。だから西領に対抗できる魔法術式とその恩恵を作り出す。それも【宰相と公爵の懐刀】の役割だ。」


 二人ともその笑いが変わる。敬意と侮蔑を混ぜこぜにする『嗤い』に。そりゃそうだ、己達のナンバーワンが揉めている間に下の連中がどんどんメルキアの根幹を変え彼等が思っている未来図を斜めに三回転半ジャンプさせていく。オレ達次世代はエイダ様や伯父貴、ガルムス元帥に『我等も老いたか』を言わせる位出ないとメルキアを背負うことはできない。じゃ報告会終わり、連絡を願う事にしよう。


 「じゃその旨、エイダ様と伯父貴に言っといてくれ。エイダ様が肯んじなければリガナールを航路に追加するぞ? と言ってやればいい。リガナール大戦で全国家吹っ飛んだとはいえ後継国家はあるからな。」


 「エリナ様に言っとくね〜。その経由でエイフェリア元帥には伝わるから。」


 ん? レイナ片一方だけで西領には何もなし、しかも御大たる伯父貴を外しやがった。……そういうことか。


 「伯父貴とエイダ様、もう限界か?」

 「やらかしたよ、領内断絶。双方トップだけだし東領や北領を介して動きはあるけど、双方第一軍団が動き出した。ノタリオンとザスタンが主戦場になりそう。」


 いいのか悪いのか……確かに限定総力戦の舞台としては最適だ。【開拓都市・ノタリオン】はザイルードの故地だし【魔導要塞・ザスタン】は皇帝家やエイダ様が魔導技巧の粋を結集して建造した巨大軍事拠点。南領にしろ西領にしろ奪取されれば政治的ダメージが大きすぎる。双方の第一軍団の優劣に影響するほどにね。
 ただ双方とも威信をかけて守り、奪わねばならない場所だ。現場における予想外の事態によって退くに引けぬ状況に陥り、泥沼の消耗戦に陥る可能背が高い。オレが恐れているのはあの飛天魔族を使いアルクレツィアが双方を憎悪と言う感情を以って煽り立てかねない点だ。

 内乱は国の混乱の極みだがこれを一気に収束させる最悪にして安直な手がある。世が悪いという狭窄した視野から導き出される。

 憎悪

 アルクレツィアの顕現からその企み、ヴァイス先輩を憎悪の支配者にするに何故本人に付込まないか? と考えたこともあったが違うとオレは結論した。外堀から埋めていき先輩や周囲では鎮められない国全体から発せられる憎悪によってメルキアを変質させる。不可能を可能にする【天賦の才】相手には分が悪そうだが今回の女王半殺しがアルクレツィアの布石ではないかと思えるんだ。


 「元帥閣下とて同じではないですか?」


 という誘導によってヴァイス先輩の選択肢を狭めてしまうんだ。憎悪で天賦を踏み潰すのではなく利用させ最後には彼を憎悪で満たすために(ぬりつぶす)。神殺しなら問題なかったが危険を承知でミリアーナに命じる。


 「ミリアーナ。あの飛天魔族は見つけ次第、追尾と妨害に走れ。アルクレツィアの手駒は本来の彼女たるそいつしかいない。」

 「ノイアスは? グラザは??」


 恐らくオレ達の前に現れたノイアス・エンシュミオスは量産した複製にコピーした人格を植え付けただけの物。本物ではない。対処法をオレが考えた以上、標的が隙を見せるまで動くつもりはないだろう。そしてグラザをオレは相手にしない。相手にしたら間違いなく死ぬ。相手の土俵に乗るなど愚策の極みだ。


 「量産ノイアスは兵器だし本体が存命としてもまだ動かない。何故ならノイアス・エンシュミオスと言う狂人はジルタニアの忠実な僕だからだ。奴が手を出すのは己が思うジルタニアの策が崩れた時。そしてグラザには……」


 「世界最強(かみごろし)が殴り込む。」

 「「……うわぁ」」


 こらこら二人とも、解ってるのに外面で退いて見せるなよ。正直人間で対処できない者は人外に対処してもらうしかないんだからね。メルキア中興戦争はあくまで人間族同士の争い。人外の介入は人外によって阻止してもらう方がいい。ヒトと神が対等に付き合えるようになるまでは。


 「じゃ本題〜。シュヴァルツのアヴァタール外での初行動。それが此処になった理由を教えて?」


 レイナの間延びした言葉が切り替わる。そう彼女はオレの言い訳『伯父貴の命令』なぞ信じちゃいない。南領でオレを知る者ならすぐ気づく。オレは南領の政治スタンスを帝国中央に持ち込ませる気など無くメルキアの両輪の一つ、技術的な道具としてしか価値を見出していないことに。そのオレが露骨なまでに『伯父貴の命令』という南領を欺く台詞を吐いてここに来た。


 「ここが、いや此処の地下、未来の【カドラ廃坑】が始まりなんだ。そして再構成された物語(メモリアル)ではその始まりを凌ぐ事実をオレは突き付けられた。彼女に会う、そして承認を求めるんだ。」


 ハリティに作ってもらった異界へ影響を及ぼす希少金属【歪鋼】製の三角環二つを弄ぶ。彼女は【盗獅子】と同じく欺瞞を好む。ある所では三角形の中でなければ真実を語らぬと言い、またある書物では三角形の中でしか欺瞞を語らぬという。では彼女とどうすれば交渉になる? 彼の王と同じ事をすればいいのだ。別に彼女を従わせる気は無いから力ずくの必要もない。


 「彼女って?」   ミリアーナの問いに。

 「()ソロモン72柱が序列64位、かつての(・・・・)豹公さ。」


 疑問符を浮かべる二人にオレはこう嘯く。内心は渋い顔をして。


 「ま、これは人間如きで会える筈もない。人外中心で行ってくるよ。」


 魔導双方向通信機が鳴ってる。もう片方持って行ったデレク神官長からだ。イーリュン大神殿で何かあったのだろうか?




―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(BGM  舞い閃くは剣と魔法 峰深き瀬にたゆたう唄より)





 「たくっ……予定外の行動に巻き込まれるとはな。」

 「仕方ないですよフローレンさんとしても見過ごせませんしクノン直轄領からの正式要請ですし。」

 「アーライナにそこまで義理立てする必要はないと考えますけど?」

 「エリザスレイン様、それは無いですわ。アレでも大陸航路のスポンサーの一柱です。」

 「それもあるが、オレとしては今後の魔導戦艦量産で元大地母神としてたっぷり蓄えた資源が欲しいからな。この程度で歓心を買えるなら我慢するさ。」


 ミルフェ城壁の外にある大きな屋敷、それを包囲している衛兵団と投降勧告メルキア製メガホンでやってるフローレンさん尻目に皆オレが書いた見取り図と実際の見取り図を睨めっこしてる。正直ここまでタイミングよくイベントが発生するなんて予定外もいいとこだ。
 220年後のリンシャさん巻き込んだ邪神官騒ぎ、その大本ともいえるミルフェのアーライナカルト討伐に参加することになるとは思わなかった。簡単に言えばこう。アーライナは現神でも闇陣営に属する。元は秩序と大地を権能に加える強大な女神だったが、三神戦争の前に光の現神達に敗れ権能を取り上げられた。今や権能としては下位の魔術、そして秩序を取り上げられたことで得た混沌の権能をもつ二級神だ。これを良しとしない信者も数多い。だからカルトを作り違法行為によって信仰を集めようとする。まー麻薬とか生贄とかここら辺は元の世界のカルトと変わらない。
 問題はこれを地方の村ではなくれっきとした都市国家(ミルフェ)でやらかしたことだ。しかもイーリュン神殿の司祭を誘拐し生贄に捧げたとの罪状、いくら癒しの神としてのライバル抗争とはいえ限度がある。このままでは都市での布教に支障が出るとアーライナ直轄領クノンより遍歴神官となったフローレンさんに要請が来たんだ。
 これもなかなかに生臭い。総本山の枢機卿ではなく直轄領の領主から。現神各位に今回はアーライナの教義対立からくる異端審問の体裁を取り、事実上オレとメルキアによってザフハごとアーライナ大神殿を解体させられてしまった戦犯であるフローレンさんへの踏み絵を強いる。ついでにオレへの意趣返しの面もあるんだろう?
 意趣返しで済んでいるのはイヴ・アーライナを持ち出しカロリーネを間接的に殺したオレ(どんよくなるきょりゅう)の怒りを買いたくないという点、さらにアーライナはザフハ征服によって大神殿がメルキアに臣従したわけではないという宣伝を兼ねている。要請文書が此処まで居丈高だと本来は外交問題化するのよ。ただし建前オレは出奔の身、どっちが格上か見せつけてきたともとれる。
 勿論懐柔策も用意してだ。向こうもオレ達が撥ねつけることで自らが被る不利益も考慮してる。態々領主自ら今回の件を以ってアーライナ教会はメルキアの大陸航路建設に全面的に賛同し援助すると明文化してきた。オレへの後ろめたさを反転させ己は枠外で利を求めつつザフハ以上の絆をメルキアと結ぶ。よーやるわ!


 「厄介だな、まさか屋敷内に転移門があるとは。しかも転移先がカドラ廃鉱第8層とはな。」

 「廃坑? 第8層?? この鉱山って4層以上あるのかな?」


 内部スパイから得た最新情報、オレは苦い顔と共にリプティーの疑問に答える。そりゃ知ってるからね。この鉱山が本来どういった代物なのか。


 「あぁ、この鉱山は自然に出来たモノじゃない。明らかな神の介在がある。エリザスレイン、【純白の守護者】に連絡付けられるか?」

「なんのことでしょうか?」


 薄く笑みを浮かべて恍ける彼女に軽くチョップ。


 「男女の恋愛ゲームじゃないから真面目にやってくれ。と! キルヒライア先輩もメモ走らせない!!」


 もーこいつら超常クラスの癖に人間臭すぎ! 某工匠に遺言として悪行告げ口しちゃるぞ! 真面目な顔してエリザスレインが返答。


 「純白の守護者……マーズテリアの封印者ですか? 直接の面識は……。」

 「じゃ第三層聖堂にいる【監視者・メティサーナ】はどうだ?


 向こうはアプサエルという独自行動に特化した天使だ。偵察、連絡はお手の物。純白の守護者が此処を動かない以上、能動的行動は彼女が担当していると見た。――――ポンコツだけど大丈夫かねあの娘? エリザスレインぱちぱちと目を瞬かせて頷く。


 「現状第8層は大悪魔クラス二匹の支配下にあるがその上位者、瑠璃王・イルンの階層に通じているのが厄介だ。敵がアーライナとは限らない。」


 神殺し最初の物語、そのサイドストーリーに過ぎないが相手となるのは魔神をも封印した大悪魔二匹だ。彼らの介入は避けたいところ。一時的でもいいからこちら側への干渉を断ち切りたい。今のメンバーでも戦えないこともないけど【いのち大事に】だし面倒だし神殺しのイベント奪っちゃうし……
 魔導双方向通信機から連絡が入る。フローレンさんから予定通り交渉決裂。ここまで話が大きくなるとカドラ廃坑最上層たるミルフェを監視している彼女達も出て来ている筈なんだがお手並み拝見ということかね?


 「1時間後決着をつける。向こうに黄金の鍵は無いが急いでくれ。奴さん達も此方を見ている筈だ。」



◆◇◆◇◆





 変則的とはいえ久々の実戦だ。魔導砲楯【メディウム】を装着し魔導鎧、ファレーズ・ド・ノワール――神殺しにぶち壊されたので二代目――を纏う。ホルスターに魔導拳銃(エケホース)空いた手に軍旗を携える。
 オレが今メルキア軍旗を掲げるのは違法行為だ。国家反逆罪として裁かれかねん。だからこそ、この旗を掲げる。


 「全軍、突入開始!」


 結わえ紐から解き放たれ大きくはためくメルキアの三叉竜頭六角紋、ただし配色が違う。本来は琥珀地に暗緋色の図形だがこれは鮮やかな緋色地に金で縁取られた蒼色。オレ緋色の髪と蒼色の瞳、初めて見たときに因縁を感じた程だった。南領成立の発端となり、不敬が故自ら取り下げ、伯父貴ですら『内乱で使うつもりはない』と言いきった我等が旗、

 
【ザイルード家紋旗】



 「(ヴァイス先輩、この戦いは、この旅は先輩の闘いじゃない。だからオレの旗を掲げる。オレの原罪を皆に返す為に!)」


 雄叫びや歓声と共に戦意が一気に上がっていくのを感じる。ゲームの集合魔術のような効果など無いがそう感じてしまう。人間の集団心理、それすら信仰という名の魔術になるのがディル=リフィーナだ。本来なら【戦狂い】の魔導砲制圧射撃でこんな屋敷など木っ端微塵だろうが今回の名目はあくまで首謀者の捕縛。
 リプティーとシャンティが衛士たちの先陣を切りいきなり屋敷のバルコニーへ跳躍、何を馬鹿なと言いたいところだが同じ人間族でもゲーム制作陣で言う上位種、スペック差が違うとこうなるという事だ。方や三銃士『将軍』の実妹、方や飛燕の後継、3ゼケレー(9メートル)もの高所を僅かな助走で一跨ぎする。

 勿論それを許す敵方ではない。

 何人もの魔術師が【闇弾】【暗柱】といった攻撃魔法で叩き落そうと試みるがその前に腕を、肩を、運の悪いものは脳天を貫かれる。
 ミルフェの街その城壁まで130ゼケレー、そこに二人一組で伏せ撃ちの大勢を取り魔導長銃――勿論レイムレスでの増幅器付きだ――を構え狙撃体勢を維持する十数名のメルキア騎長。
弓なら届くだろう? ただ狙撃側は身体を晒さねばならない曲射弾道と言うリスクがある。では弩――石弓――は? こちらでも石弓は市民の武器だ。あくまで戦う力のない市民が安易な攻撃精度と攻撃力を得る為の武器、だから長距離狙撃は望めない。

 だが

 銃という概念、匍匐姿勢からの観測手を置いての長距離狙撃。こんなものは世界は愚か先進国家がひしめくアヴァタール地方でも想定外だ。個人の武勇なら兎も角。誰が立てこもり犯を最初から集団暗殺すると考える?
 魔法での射撃は基本目視だ。それができないという事は敵の外郭防衛線、即ち屋敷の壁が何の役にも立たなくなったとことを意味する。数の劣勢を補う長距離攻撃、面制圧攻撃を敵は封じられたんだ。


 (「さて援護しないとな。」)」


 軽く旗を振るとミルフェの城門が大きく開け放たれた。巨大な衝角を備え、あちこちから魔導銃、魔導砲を生やした塊が現れる。僅かに地上から浮き、魔法術式とは全く違う駆動音を撒き散らす異形、

 
魔導装甲最終発展型【ルナ=ゼバル】


 西領もここまで行ってない。そもそもこれは本当の意味でのメルキアの魔導装甲ではない。祖霊の塔でリスペクトされた規格外の怪物、しかしその姿はゲーム通り他の魔導装甲と違い流麗なフォルムを持ちながらより凶悪な印象を与える兵器。


 「――門扉開削、開始します。」


 フィオ技巧長の抑揚のない声。これが制約という精神を潰す行為の結果だ。魔術による精神支配に近いがそれよりも酷い。性魔術を正規の手順で使いこなすと支配された側はこうなってしまうのよ。魂までの浸食は無いと神殺しは言っていたがパスワード一つで元に戻るのか大いに不安だ。
 ルナ=ゼバルが急加速し屋敷の正面門にぶち当たる。唯の一撃で突き出したパール鋼製破城槌がコルシノ鋼製と思われる扉をぶち破り勢いのまま正面門そのものを破壊する。
 砕け降り注ぐ石材、その程度でルナ=ゼバルはびくともしない。全周に配された装甲や魔導結界もあるがそれを魔導技巧師たちが増幅させるんだ。リセル先輩の必殺技【副官の采配】はこの上位バージョンと考えて良い。
屋内へ突入したルナ=ゼバルが魔導銃、魔導砲を乱射し屋敷の一階を障子紙を破るように破壊していく。後方の収容扉から続々とミルフェ衛士隊の精鋭が降り掃討戦を始め、


 「敵召喚陣、種別悪魔!」


 部隊長の絶叫と共に天井が内部から出てきたモノにぶち抜かれる。呆気にとられた。いや召喚モンスターで足止めを行い部隊再編制の時間を稼ぐのはこっちの戦術じゃ常識だ。だけど何よアレ。
 身長5ゼケレー(15メートル)の悪魔って。本拠自らぶち壊して向こうもやぶれかぶれか? 
 ゲームレベルにして最低28、オレですら互角と言うには分が悪い。だが此方の真打ち、闇の本懐たる彼女にとって召喚された闇夜の眷属【上級悪魔・カノン】は所詮雑魚でしかない! それでも彼女を前線に出すのはオレとヴァイス先輩がしでかした愚行を払拭するためだ。
 上級悪魔の胸に5本の縦線が走り血飛沫が舞う。怒りの余りカノンは腕を振り回すがその攻撃は全く届かない。そもそも相手は僅か身長2ケレー強(70センチ)それが衝撃波もなしで音速で飛び回る。そうアル閣下だ。
 ただその衣装は黒のフロントカットレオタードでなく魔導巧殻リューシオンの纏った砲撃戦衣装【アイデスゲルデ】でもない。エイダ様がレウィニアで渡してくれた衣装、白銀の尖刃鎧


 
【魔導巧殻襲撃戦衣装・エルタッドウォルフ】



 「グヲオォォッ!」

 カノンが攻勢防壁【滅びの暗礁壁】を両手で生み出しアルを掴み取る。……彼女が回避すらしないことに疑問を持てないのかね?


 「おろかです。全く持っておろかの極みです。ヴァイスはもちろん、シュヴァルツですらその手は使わないでしょう。」


 かっかー! 先輩の下にオレ置かんでください!! というツッコミをしたくなったがオレは皮肉気に戸惑いの声を上げた悪魔に下卑た嗤みを浮かべてしまう。まだフィアスピアで召喚され猫獣人二人に倒されたカノンの方がまともな思考ルーチンしてたぞ。


 「グ? ガ!」

 「ではメルキアの流儀、おみせしましょう!」


 そこでヴァイス先輩の台詞ですか! 突っ込む暇どころか一瞬だった。
 カノンの両掌がバラバラに千切れ飛び白銀の流星がそのままカノンの胸部を貫通、そのまま肉体も魔力も喚石も引き千切る。


 「ア…………?」


 悲鳴を上げる暇すらなく上級悪魔が滅却される。魔力で構成された肉体はスプラッター映像になる暇も無く残滓として霧散していく。その降りしきる白い結晶の中、白銀の天使が下りてくる。そもそも閣下に闇属性魔法は通用しない。しかしそれ以上にこのエルスタッドウォルフには恐ろしい特性がある。
 攻撃魔法を吸収しその位相を魔導巧殻の機能をもって変換。量子エネルギー(ばんのうぞくせい)としてレイシアパール鋼製全身鎧を魔力強化し突撃戦に用いるのだ。そしてこの全身鎧はありとあらゆる部位が鋭利なブレードという代物、対魔術師としては魔法ルートにおける同種の衣装より厄介な代物ともいえる。


 「お見事!」

 「シュヴァルツ、たたかいはおわっていません!」 アル閣下の警戒する声、

 「そうですね。」


 そうだった。大勢は決したが転移門が残ってる。エリザスレインの交渉が遅れればそこから増援――が無くても逃げられてしまう。と、後ろから声が聞こえた。


 「いえ終わりです。既に屋敷の転移門は封じました。あの悪魔以外玻璃王の手下は何もできないでしょう。彼等が別の存在、ソロモン魔神とでも契約していない限り……ソレがメルキアの呪われた兵器【魔導巧殻】ですか?」


 いつの間にか後ろにいた二人、一人はエリザスレイン、もう一人、口を開いたのは金髪ロングヘア翠眼の美人さん。ただその美貌を台無しにしている高慢を絵にかいたような冷たい表情。


 「呪われたのかどうかは見る物次第だ。知っている通り御堅い女性の様だな? 【純白の守護者】。」


 オレの背中にくっついて『じーじじじー!』と警戒し始めた閣下は兎も角、唐突に思いだした。ソロモン魔神、契約……ロズリーヌ!?

 
あぁ〜〜〜〜〜っ、忘れてた!?



―――――――――――――――――――――――――――――――――――





(BGM  神聖と言う名の異界 峰深き瀬にたゆたう唄より)


 振り降ろされる紅い大鎌を魔導砲楯が受け止め火花を散らす。すかさず内懐に飛び込み伯父貴譲りの重魔法剣にしてザイルード一族の家宝【暗黒剣・ザウルーラ】を突き立てる。緑の土偶天使(グラキエル)が一瞬ぶれたように体を震わせ爆散、隣ではアル閣下が多数の闇弾を作り出し光精達と渡り合う。が、あまりにも数が多いし閣下を牽制しながら剣の大天使複数がオレの背後を狙って襲撃を掛けてくる。それを魔弓・プレリュード――ちょ……先輩魔法武器どころか神格武装かよ!――で妨害するキルヒライア先輩。
 向こうの一撃離脱をいなすと早くも次の土偶天使が前方を塞ぐ。クソ! きりがない!! あの時仲間に引き込むべきだった。彼女と言う召喚士、それも闇系に特化した躁霊術師がいれば!!!


 「エリザスレイン 多重奏支援、攻撃に全振りしろ!」

 「これで三回目変更、残り二回」


 他人事の様に最後方で宣う彼女と隣に内心毒づき――当然、今の試練考えれば支援してくれるだけありがたいと思え、だろうしな。魔導砲楯を構え、慣れない魔法剣を握り締めて前の土偶天使に罵声を放つ。


 「さぁ来いガラクタ!!!」




◆◇◆◇◆





 瓦礫の山を踏み越え、管理者たる純白の守護者が放置したと称する黄金樹の鍵を持って深層に挑む。これも一種の外交、後ろにいるエリザスレインの隣がソレなんだけど管理者が自ら鍵を開けるのは『招き入れる』と同義なんだ。オレ達が『押し入った』体裁にしないと彼女の上司たる軍神・マーズテリアとメルキアの間でいざこざが発生してしまう。そう捉えてマーズテリア総本山――教皇庁――が動きかねない。先程の戦闘はそれを防ぐための一芝居でもあったんだ。ホントその点考えれば今度の決別劇に闇系魔術師連れてきたし制作ゲーム会社有数の強キャラ引き込めたのに……
 今更だけど迂闊としか言いようがない。カロリーネの葬儀の時に雇った送りビト、ロズリーヌって誰だっけ? と思っていたけど『縁と絆の物語』(キャッスルマイスター)で出てきてたんだった。ロズリーヌ・フラン、フィアスピア・インラクス王国滅亡のトリガーを引いた貴族家の末子だ。彼女自体は問題ない。その咎でフラン家は断絶、彼女も冷死という呪いを掛けられ半不死人として延々フィアスピアの迷い霊を慰め続ける罰を受けたが200年後にはちゃんと報われるからな。むしろ問題は彼女を取り込む機会を逸したことなんだ。

 どう見ても彼女オカシイのよ?

 先ずこの世界の人間族でソロモン魔神全てを【知っている】自体がオカシイ。古神の知識はそれが向こうの悪魔たる魔神であってもディル=リフィーナでは禁忌。たかが田舎貴族が知るモノじゃない。しかも彼女200年後周回シナリオで魔神ベリアルがせっせと集めた魔神達をことごとく契約で寝返らせている。スキル【魔神殺し】でも持っての? とツッコミ入れたから!
 もし彼女を取り込めたなら今会う魔神を説得し長期的な目でラウルヴァーシュ……いやディル=リフィーナにオレの意を通せるかもしれなかったのだが。


 「止そう、繰り言だし二人に対する侮辱でしかない。」

 「どうか為されたか?」

 「いや、独り言だ。」


 此処で言う二人とは擦れ違ったロズリーヌ嬢と曲がりなりにも顔合わせだけしてくれる元豹公にして機工魔神(・・)フラウロスの事と思いつつ振り返って尋ねた権天使に答える。


 「……だが感謝する。貴官が肯んじなければこの邂逅は跳ばさざるを得なかったからだ。」


 肯んじねばセテトリ地方【焔の祭殿】に“安置”される賢者を訪ねるしかない。“彼”はいいんだ。そのナンバーツーがね。正直『王妃』以上に苦手なのよ。


 「アンナローツェの一件は聞いています。本来我らが神(マーズテリア)としては神敵にも等しい存在。温情に感謝するのですね。」

 「現神にとって『彼の神自身が戻ってくる』より『その走狗が蠢く程度』なら慈悲ではないのですか? この件に関しては勝てぬ戦はしない軍神の理知に敬意を称するべきですね。」


 隣のエリザスレインの皮肉、最後に前を歩く権天使の名前が飛ぶ。


 「ねぇ、純白の守護者(イルザーブ)?」


 睨みつける権天使の瞳とそれを冷笑で返す力天使の瞳。ホントもう神の御使いと言う名の天使は存在せず、この世界に根付いた種族なんだな……と改めて思う。アークパリス直属の戦争指揮官“フォルザスレイン”カドラ廃坑、いやその中枢ヴィーンゴールヴ宮殿を隠匿するマーズテリアの封印者“イルザーブ”、そして現使神にしてオレの疑う選定者たるミサンシェルの“エリザスレイン”それぞれに個性的かつ若い種族特有ともいえる頑迷なる未熟さ(ちゅうにびょう)を持ってる。


 「良い事だ。」   


 後ろに言う、胡乱な目をする二柱。アル閣下とキルヒライア先輩は『?』マークだが耳ダンボだろう。ここで話している全てが世界創生に関わる禁忌の情報だ。


 「不遜な考えに過ぎないがな、オレはこの世界が創生された時『聖なる父』は君達を喜んで送り出したと思ってる。意思があるのにそれを許されない道具として彼の神は君達を創造してしまった。君達が『神は間違わない』という枷で縛られていた時、彼の神は後悔したんじゃないかと思う。」

 「我等は出来損ないとでも言うつもりか?」 剣呑な目で睨みつけるイルザーブ、

 「そうじゃない。そもそも出来損ないってなんだ? 神が間違わなく君達が出来損ないならば天使はとっくに処分されてる。意思があるのが間違いじゃない。彼の神自身が君達の意思に絶対という神意を押し付けてしまった事。それを彼の神は後悔したんだ。だからこの世界は彼の神が君達に対して解放という償いを表した一端だともいえる。」

 「二つの回廊の終わり(ディル=リフィーナ)は御許からの放逐ではなく、旅立つ我等への祝福である。そう考えているのですね?」 


 エリザスレインの相槌にオレは鼻を鳴らして見せる。不満気に、


 「それもいきなりな。全く甲斐性の無い神様だよ聖なる父ってのは。こんな美人揃いの娘達を甘やかすどころか千里の谷に放り出して逃げ出しちまうんだから。」


 イルザーブが豆鉄砲喰らったような顔をし、エリザスレインは『あらあら』と言って微笑む。天使族全てにとって困惑の元であった神の判断を肯定しながらその神の遣り様に不満をぶつけて見せる。預言者というエリザスレインの説明じゃイルザーブは訳解らんの一言だろう。――そもそもオレそんな哲学とかに真面目に取り組むタイプじゃないし。臨機応変、適者適応が国を生き残らせるコツだ。
 坑道、それも人が立ち入れない魔物が跳梁跋扈する洞窟を抜け黄金とも違う黄金色の煉瓦でできた回廊に踏み込む。ここですら再外殻でしかない。

 
ヴィーンゴールヴ宮殿


 カドラ廃鉱、いやカドラ鉱山を作り上げた信仰循環型魂魄転生システムの器だ。この宮殿自体は防衛システムでしかない。表向きに存在する宮殿中枢ですら結果を映すだけの鏡、ダミー同然でしかない。黄金色が碧白色に代わる。一神教の荘厳な教会から峻厳たる戦士の集結地へ印象も変わる。未来神殺し達は上層へ向かいカドラ廃坑事件の真相を知る。だが、今回は宮殿最下層の転移門から奥に進むんだ。そこにこの宮殿本体が存在する。黄金の鍵を使い転移門をくぐる。そこが、ゴールデンバウム……いや此処はアースガルズではなくディル=リフィーナだ。現代魔法(ファスティナ)語で敬意をもって呼ぶべきだろう。

 
黄金樹の谷(ファラ・ルドゥミラム)
 

 それを異界空間に封印し守護する存在がいる。世界の真実を識り、誰も耐えられないが故に己が友を捨ててまで抱え込まねばならなかった魔神、いやその行為は世界に対する殉教に等しい。故にオレはこう呼んでいる。己が如何になろうともこの世界で未だ聖なる父の役目を全うしようと足掻き続ける莫迦、元豹公こと

 
【機工天使(・・) フラウロス】


 ひとつづつ石板を探し宮殿地下の様々な光沢をもつ碧白色の迷宮を巡る。ゲーム通り悪趣味なことしてくれる。オレの生い立ち、ヴァイスハイトとの出会い、超常との邂逅、決別からここに至るまで……未来興るであろうヴァレフォルとの再会を揶揄して引きずり出してやろうかと思ったが、一枚カードをタダでくれてやるようなものだから最後の石板まで自重する。
 最後の石板、黒壇の文字が浮かび上がりオレの妹との因縁が浮かび上がる。それを一瞥し。


 「気が済んだか? 黄金樹の谷の封印者!」

 「それも【知っていたか】? 預言者よ。」

 「さぁな、少なくとも本命が来ても同じことやるつもりなんだろ? 少しは趣向を凝らした方がいいぞ。盗獅子からすれば彼の添え物として此処に来たことになっちまうからな。」


 ゆっくりと振り返る。あの桁外れのサイズの兵器と機工融合した裏ボスとしての姿は無い。赤錆色の皮膚を持ち、顔の半分を仮面で覆い、あり得ない程のサイズの大鎌を担いだ装飾品以外全裸の女性――と呼ぶべきもの
 ここまでバラしても相手は微動だにしない。挑発に過ぎないと看破し問うてくる。


 「何用だ? 汝に我は必要ない。そのまま汝の道を進むがよかろう。」

 「そうはいかない、オレは切り札を何枚か切る予定だ。それを貴公に検証してもらわねばならない。どこまで使えば解決できるのか? この世界が何処まで持ちこたえられるのか??」


 少しジョークで話を締める。


 「オレの所為でラウルヴァーシュが崩壊したなんて願い下げだからな。【預言者】だけに。」

 「力を以ってでも無く、何故私にその義務がある??」


 その筋は【知っている】。彼女はソロモン魔神の頃より己が認めた者以外に秘密を明かすことは無い。機工天使と化しこの宮殿の中枢と一体化したとしてもそれを守り通す。そして打ち勝った神殺しに託すのだ。その中枢、黄金の林檎という神すら蘇らせる究極の復活手段を。神殺しがそれを何に使うかは知らん。だがそれは彼が手に入れなければならないものだ。オレが彼に渡すでは意味は無い――そもそもレベル二桁前半雁首揃えてLV200の魔神に勝てる訳ないでしょオレ等?


 「貴公を倒したら本命の来る理由が無くなる。そしてオレはお前達のような莫迦と違い世界を背負うなんて大それたことは嫌だ。あくまでメルキアは人が治めるべきであり、メルキアの御伽噺(まどうこうかく)は神の介入の無い物語であるべきだ。」


 オレの意思を示す。


 「【貪欲なる巨竜】メルキア、【この世にあり得ざるべき存在】を認めた世界の為にも。そして、」


 これは賭けに過ぎない。だからこそここだけでも彼女に真実を語ってもらおう。歪鋼の三角環を取り出し上下逆に組む。ソロモンの紋章【六芒星】だ。ここまで敬意を表した相手を騙すのはソロモン魔神としての誇りが許さないしソレを確認できるのはこの場所ではオレとフラウロスしかいないからだ。


 「軍神が笑い飛ばした件、それはこの世界の姿なんだろう? それは預言者としての基礎知識だ。」

 「…………」


そりゃこの情報を現神各位が意識(・・)したら発狂するしかないわ。現神の支配せしディル=リフィーナ、その実態は多数の恒星系を解体再構成し機工女神が創り出した方舟に過ぎず、支配者である己達ですら彼女の一存で存在すら可否させられる奴隷に過ぎないことなど。

 足掻くことなど不可能、何故なら機工女神の頸木を脱するという行動自体がこの世界より外に出なければ叶わない。それが成功した途端、世界の理より外れてしまい消滅してしまう。何故かは簡単、ディル=リフィーナの外側はかつての太陽系多数の残り滓が漂うだけの【イアス=ステリナ】の世界でしかないからだ。

 それは信徒の信仰を顧みず己が己の権能を捨てる、神にとっての自殺でしかない。彼等の世界【ディル=リフィーナ】が彼等を動力源とした彼等の為の『優しい牢獄』でしかなかった等認められない。それが

 
恒星規模球殻内包多元世界(ディル=リフィーナ)の正体だ。


 オレを初め預言者達はその強靭な対界隔離外殻から送り込まれる。事象の彼方から存在を発掘(サルベージ)され聖なる父の神力で覆われて世界に順応させられる。オレはやや変則的だったが本質は変わらない。
 そう、聖なる父は本来の御使いたる天使を開放しながら預言者を御使いとしたのだ。この世界にてヒトを神に至らしめる道具として。その報酬が死すべき運命をこの世界で繋ぎ止めるという傲慢(あい)
 そう考えればガウテリオの執着もイグナートの怒りも理解できる。おそらく彼らの中身はかつての世界から事象を超えて送り込まれた。ただオレと彼らが違っていたのは【ゲーム展開知識】という転生ボーナスをあらかじめ得ていたからに過ぎない。
 うん、あくまでオレは【預言者】である限りゲームプレイヤーとしてこの世を見るしかない。見なくてはならないんだ。だからオレはそれに反骨し【時間犯罪者】を名乗る。
 持ってきた水牛の皮から錬成されたキャリーバックを差し出す。オレのこれまで、そしてこれからの行動記憶。すべて実現したとしてもこれが公にされることは無い。100年経っても無理だろう。


 「【メルキア中興“偽”史】、そこまで己の所業、存在まで否定したいか、預言者よ?」

 「オレが超常であっちゃ不味いのさ。オレと言うバカがバカやって幸運にも収まるべきところに収まった。その事実が必要なんだ。」

 「……メルキアにとってか。」  「そうだ」


 バックからつまみ出すオレのゲーム知識ノートを次々精査し己の指で添削していくフラウロス。最後の一枚が終わるとたちまち圧縮され一冊の巨大魔法書(グリモワール)に、それが分裂し三冊に分かたれる。一冊は掻き消え、二冊がオレの手元に残る。


 「彼等はここに来る。間違い無いのだな?」  他から見れば脈絡のない言葉にオレは答える。

 「オレが彼をケレースに送り出したことがその証拠だ。まだ早い。彼が力も絆も失い、支える者と共にミルフェに辿り着かない限り貴方の願う物語は始まらないんだ。」


 オレすら祈るような心地で話す。本当にこれは神殺し次第だからだ。この前で起こる物語で一歩間違えば神殺しは聖女と結ばれここに来ることは無い。または魔人帝との激闘の末、力を失い只のヒトとして生涯を終える。


 「200年程待ってくれ、貴公の願いは“叶う”。」

 苦衷の(ことば)を押し出す。


 「……感謝する【預言者】よ。」

 「すまん、これからは【時間犯罪者】と呼んでくれ。そんな柄じゃない。」


 仮面の下の唇が歪んだように見えた。異形の表情に感情を推し量ることはできない。ただオレには愛しさと言う諦観の微笑みにも感じた。


 「征け、【時間犯罪者】、汝の為にシステムは一瞬のみ解放される。豊穣の羽を以ってルーファベルテにて依代を完成させよ。汝の望みそれだけを我は祝福しよう。」



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