(BGM  不測の罠 峰深き瀬にたゆたう唄より)

 「アル閣下は?」

 「ダメです、あの預言書を抱えたまま部屋に籠りきりです。攻勢防壁すら発動して閉じこもっています。」


 嘆息と共にシルフィエッタが答えた。戦狂いはルノーシュ地方から北上しリガナール半島中央南部の群島国家、ルーファベルテ首長国に向かっている。残り五時間程度で到着だ。それまでに返してもらいたいものだが……


 「シュヴァルツ様、アル様はいったいどうしてしまわれたのです? 貴男様とルクレツィア様の事が話題になるたびに狼狽え、取り乱し、悲嘆してしまわれます。一体彼女に何があったのか【知っている】のではないのですか?」

 「シュヴァルツ隊長、アル閣下で厳密に言えば各々の元帥閣下の護衛“兵器”ですよね? ずっと思ってたけど閣下は兵器じゃないと思います。私達と同じ人です。」

 「全く同感だ、あれは元々人の魂と神の器で作られた人形でしかないのだろう? 即ち道具だ。お前には癇に障るだろうがあれでは道具として欠陥品でしかない。」


 シルフィエッタの懸念、シャンティの疑問とアルヴィド君の追加指摘に憮然として口を開く。ゲーム設定にもないんだよこんなの! 大体魔導巧殻という存在の過去はドゥム=ニールの守護騎としてのシーンくらいしか無くて全て開発会社に伏せられているか、そもそも設定されてないかなんだ。某迎撃都市? あれは魔導“操”殻だ! メルキアの戦略兵器、魔導巧殻を魔術でリスペクトしたに過ぎない劣化品でしかない。そもそも開発会社はこのゲームにおいて設定が最も近しい迎撃都市太閤記(ふうかんのグラセスタ)ですら魔導巧殻と言う単語を未確認の伝説で済ませるくらい情報がないんだよ!! ……八つ当たりは置くにしても、


 「済まない【知らない】んだ。魔導巧殻の由来、能力、軌跡は解る。ただ過去に何があり彼女が何を厭ってこんなことを言い出したのか解らない。正直どうしたらよいのか……」


 頭を抱える。オレはゲームとしての設定を元にこの世界との知識をすり合わせ真実を探し事実を組み直してきた。そう俯瞰した立場で。それでは魔導巧殻・アル一個人の心情まで穿てるはずもない。


 「少なくとも一度戻るべきですわ、メルキアに。」 エリザスレインの言葉、


 ルーファベルテからセーナルの転移門か。


 「キサラで非公式の四元帥会議が行われます。エイフェリア元帥と入れ替わりで参加すべきだと思いますわ。」


 おぃおぃ一応決別してるヴァイス先輩と顔合わせしろと? 気まずいなんてもんじゃないんだが……






―――――――――――――――――――――――――――――――――――


――魔導巧殻SS――

緋ノ転生者ハ晦冥ニ吼エル


(BGM  朝一番の雪景色 峰深き瀬にたゆたう唄より)





 ルーファベルテ首長国、転移の城門から出てきたのは緑髪のじゃロリ(エイダさま)ことエイフェリア元帥、たかが一月ぶりだというのに懐かしくすら感じる。それだけ各々のゲームで知っているにしろ密度の濃い遍歴という事だ。
 それに随伴している一人でなくて一柱、エルフ諸国家からすればなんという贅沢なと呆れられるだろう。エイダ様護衛しているのは白銀公、彼女が柔らかな笑みを浮かべている中、オレは御当人に挨拶する。


 「お久しぶりです。エイダ様。」

 「シュヴァルツよ、たかが一月ではないか。……その様子だと成功したようじゃの?」


 彼女がリガナールに来た理由は簡単だ。今南領と西領は戦争状態、トップ同士がこの時点で面突き合わせれば修羅場必至だ。本人達は良くとも護衛(まわり)が黙っていない。そこで西領元帥代理としてオレがディナスティの非公式四元帥会議に出席するのよ。オレが【宰相と公爵の懐刀】であることを政治的に利用するんだ。その上で会議をドタキャンしたエイダ様は影響力を一段下げつつリガナールに未だ燻っているプラダ家の懸案を片づけてもらう。ヴァイス先輩の新帝国に旧外交事案を持ち込ませないようにするんだ。
 これは前回狂言会敵してもらったスティール・リトへの譲歩でもある。リガナール崩壊の一因にもなってしまったプラダ家、その惣領を引っ張り出せた……その程度の外交的勝利はくれてやっても良いだろう。


 「半分失敗しましたけどね。アルクレツィアは出てきませんでした。あの時がオレの策を根本から葬る最良手、それをしてこなかったという事は何を意味するのか図りかねています。」

 「貴方様が穿ち過ぎ、ないし相手が其処まで及んでいないという線は無いのですか?」


 白銀公の懸念は解る。彼女の手が事実上一つしかないのだからそれを猫砦で看破されダメ王女の一件で運用まで見透かされたのならば扱いは慎重になるだろう。それを差し引いてもここでの一手は大きかった筈なのだ。彼女の策は想定している。しかしその想定が根本的な間違いであったのであれば……とりあえず結果を公表する。


 「そこまで考えなければならないのが謀将であり比翼ですから……ま、完成はしました。これが【魔焔融合(・・)炉】です。」


 懐から取り出して見せると二人とも目を皿のようにして凝視してる。『これが妾等(プラダ)の到達点』、『これが、これ程のものが禁忌で無い物と?』その呟きは右耳から左耳へ聞き流す。現在の魔導や摂理からすればあり得ない代物だ。それが目の前にある。


 「それより尋ねたいことがあります。アル閣下の件です。」


 彼女の今を話し原因を問う。エイダ様は呆気に取られているが登場ゲームでもほとんど表情を変化させない白銀公、その面差しが強張っている。機先を制して尋ねることにしよう。


 「白銀公、その顔からすると何か心当たりが?」


 彼女は黙って宿舎であるこの塔に魔術をかけ始めた。いくつかの遮断魔術。それも神格級だ。使っている魔力こそ小さいがその密度が半端じゃない。オレの額冠、術式の解析はそこらの魔術師より精緻なのに情報統制、情報隠蔽、結界魔術と頭で想像できても小さくそして朧げでそれを確定できない。術式を展開し終えた白銀公が絞り出すように言の葉を並べる。


 「アル様がそんなことを仰ったのですか……未だにあの事件は風化していないということですね。」

 「故に聞かれたくないという事ですか?」

 「ええ、全てはそこから始まったのです。魔導巧殻と言う悲劇は……。」


 此処には魔導巧殻を真の意味で知る3人しかいないという事か……そう確認された。エリザスレインもコリドーラ先生もいない。人間は愚か超常ですら知る事のない世界の秘事。それを白銀公が語る。彼女の話、御伽噺が始まった。何故4柱の魔導巧殻が存在しているのか。彼女達が守護騎という封印の中存在し、そしてジルタニアによって譲渡という解放がなされたのか。




◆◇◆◇◆


(BGM  堕ちゆく者へ悪魔は微笑む 封緘のグラセスタより)




 先ずはメルキア最初の危機とされる900年前、都市国家メルキアへの魔物襲来から始めねばならない。この裏面、御物の暴走と叙事詩でも謡われているがその実はドゥム=ニール【ガーベル大神殿】による人造の神制作、それに伴う禁忌への処分行動が原因だった。
 え? ドワーフ達が御物【晦冥の雫】を使ってアルタヌーを降臨させようとした?? 違う違う! 事実はさらに悪い。確証は持てないと白銀公が言っているがケレースに残っていた先史文明遺跡【オメール竪坑】から発掘された御物を兵器として再活用しようとし暴走させたんだ。収拾がつかなくなった挙句、彼らが手を出したのが封印されていた【晦冥の雫】の力だったという。
 勿論毒で毒を制するつもりでそれは成功したようにも見えた……そう都合よく物事は運べばね。晦冥の雫は逆に人造の神を喰らい尽くし暴走を始めたという。それも一見何が原因なのか解らない狡猾さを以ってね。


 本来は大人しい魔物が狂暴になった。

 ドゥム=ニールであり得ない生物相が見られるようになった。

 動物が魔物に変わるという噂が流れた。

 禁忌を研究していた犯罪者が牢獄の中で狂死した


 そして、魔物にあり得ない能力や異形性を発見したとき全ては手遅れになっていた。

 哭璃の汚染生物……即ち混沌生物

 そう、考えてみれば妙なんだ。ゲームでアルタヌーは混沌生物も部隊ユニットとして使える。しかし彼の女神は混沌の守護者たるアーライナ女神との接点がないんだ。それに真なるラスボス戦で機工帝ジルタニアは配下として結晶化した人間、兵器、魔物を繰り出した。停時結界という変わらぬ秩序を歪めたモノ――混沌――を繰り出してきた。これは何を意味しているのか?

 晦冥の雫は最早それだけのものでは無い。先史文明と哭璃を取り込み全く別の代物と化した! つまりこの時点で神殺しの物語の元凶【女神・アイドスの御物】(ウツロノウツワ)と同じく【真なる御物】から【歪められた御物】(カイメイノシズク)と化してしまったんだ!!

 だから本来の魔術が通用しない。封印と言う鍵と錠前が合わないんだ。だから迎撃都市の鍛冶娘(ロザリンド・ヘフネル)の滅びた祖国【サマラ=バトゥルン地下帝国】の後継でありドワーフ族全体の指導国家とも言えた【ドゥム=ニール古王国】はたかが数年で滅亡寸前にまで追い込まれた。封印方法から再構築しなければならない。そんなもの神でも無けりゃ不可能。しかしこのラウルヴァーシュに顕界という神自身の禁忌に触れる。神殿如きが願う訳に行かない。
 何しろ魔物も動物も植物も……己を含むヒトは愚か被造物や無機物まで世界の敵に代わるのだ。手が付けられない。大感染(パンデミック)生物災害(バイオハザード)という言葉すら生易しい。

 
ケレース環境崩壊(カタストロフ)


 途中からエレン=ダ=メイルを始めとしたネイ=ステリナの諸国家――このころ人間は三神戦争の惨禍から立ち直っていなかった――が介入を始めたが焼け石に水。一歩間違えばアヴァタール地方は愚か中原全体がラウルヴァーシュ大陸南東にある三神戦争の決戦地【死の大砂漠】を遥かにしのぐこの世の地獄と化していただろう。

 
それを鎮めたのが緑の杜七柱が精域神【パライア】。


 
そしてその愛娘だという。


 いや〜聞いててぶっ魂消たわ! その駄女神曰く『随分眠っていたから云々』のセリフから千年単位だと思っていたが高々900年前じゃないか! そう縁と絆の物語【精域神(フィユシア)戦争】で其の愛娘も父神も兵器に封じられた。白銀公の話では精域神戦争はこの直後らしいのよ。精域文書の文句がリフレインする。


 「(愛娘の花園(フィアスピア)にて全ての精霊絆に集い、厄災阻みて輪廻の払暁(アヴァタール)とならん。)」


 正しく神話だ。よくあの駄女神の名前が広まなかったと思うくらい。そう彼女の名前こそ伏せられ何が起こったかも曖昧だが――いや白銀公も解ってないかもだが恐らくこれが西領の最高機密にして最大の秘術、メルキア魔導技巧の始まり、魔焔精製技術へと繋がっていく技術ライン

 
人工精霊配合術式だ。


 実際聞いているエイダ様、顔面蒼白だし。オレが其処までたどり着いてしまった事を察知した。新帝国黎明の瞬間、帝国西領の終わりの始まりと言っていい。
 哭璃から呼び出された混沌の使徒と精域界より招聘され神力配合によって浄化に特化した精霊達は環境そのものを塗り替え合う。いわばアヴァタールにて哭璃世界と精域界の全面戦争が起こったのだ。これがメルキア史最初の危機となった魔物の襲来の中核点だった。グラセスタの悪役爺さん(レギ・ガパウィ・ロマトゥル)……ここまで認識して燐使開発したのかね? たとえ己が神になりラウルヴァーシュを燐使で塗り替えようにもあの程度の力では勝率など毛ほども無いと思えるんだが?
 当然今アヴァタールがあるのも精域神と駄女神の勝利の証だ。だが自然界最強・未来最強――未来? ありとあらゆる知的生命体を繋ぐ権能<絆>を持ちこのラウルヴァーシュに顕界している彼の駄女神こそ神殺しをも凌ぐ最強なのは明らか。だから修正力としての悲劇ルート(ラスト・インプレッション)が開発陣によって用意された――ともいえる二柱の神をもってしても晦冥の雫を破壊することはできなかった。え? パライア神の封じられたあの兵器から見ても破壊は可能? よく考えてみてくれ。

 力の強すぎる神はラウルヴァーシュ大陸に顕界できない。

 この時代父神の神格者、【巫女】役であったであろう駄女神を媒体としても破壊するだけ、または浄化するだけの力を精域神・パライアは展開できなかった。余りに強すぎるが故に世界が歪み壊れてしまう。今度は精域界という精霊の世界が世界の敵になってしまう。

 だからこそ緑の杜七柱が動いた。ルリエン、イシアヌン、マリベラ、キルニア、ルサーラ、勿論パライア、そして堕とされた筈のヴァスタールまでもが。

 其の祝福とオメール竪坑に残された先史文明級浸食型自律戦闘魔導鎧――魔神アムドシアスが着装して操られたアレだ。勿論幻燐戦争での機工乙女も劣化とは言え同類――をもって強大な神格エネルギーたる真なる御物を自己保存行動に特化した自律戦闘兵器に封印、再構成する。……そう勿論足りない。遮断された別の意思たる制御者が必要だ。だから緑の杜七柱はその眷属たるエルフ、いや選りすぐりの使徒(ルーンエルフ)たちに求めた。

 世界を救う生贄を……それが神懸るモノ

 こうして先史文明遺物を管理し受け継ぐドワーフの【鍛冶神・ガーベル】とその力を魔術によってリスペクトした緑の杜七柱、その忠実なり僕たる二つの種族(エルフとドワーフ)によって封印は再度成ったのだ。その証拠こそ、


 
魔 導 巧 殻



◆◇◆◇◆


(BGM  二律に魅入られし徒 封緘のグラセスタより)





 開いた口が塞がらない。どうみても制作会社の舞台設定は小さすぎだ。これはもはや神の介入無きヒトの物語ではない。間違いなく英雄相克の物語(VERITA)に匹敵、いやそれすら凌ぐ大叙事詩だ。
 このゲームのトゥルーエンド、アレがゲームを畳むうえのご都合主義とオレは断じ、アル閣下の不憫な結末に憤ったがそれどころじゃない。そうしなければゲームとして成り立たない程のスケールになってしまう。そして言うなればメルキアどころかアヴァタール全土が世界の敵にならないようアル閣下は人柱となったとも解釈できるんだ。


 「信じられません、信じたくないというのが本音ですか。アヴァタール、ケレース、フィアスピア、リガナールその根源全てが魔導巧殻に集約されるとは。」

 「だから私も緑の杜七柱……いいえ現神全てが今代の預言者である貴方を注視しているのですよ。世界の秘を知り、力を束ね、ここまで迫った者は初めてですから。」


 白銀公の言葉に過大評価ですよと自虐。オレだって制作会社のゲームを繋げていくつもりが全部先に繋がっていましたなんて初耳ですから。でも、


 「これはお土産に当たるのですか? アル閣下自身とは一見何の関係もなさそうですが??」


 前提情報という奴ですね。知って居て当然、これ以上踏み込むと後戻りできないという警告。今更だ、話の続きを促す。


 「そう此処から始まったのです、悲劇は。」


◆◇◆◇◆


(BGM  堕ちゆく者へ悪魔は微笑む 封緘のグラセスタより)




 痛ましい顔をして白銀公が紐解く御伽噺はあまりにも難解で悲しかった。神懸るモノを作り出すために神もルーンエルフ達も幾多の犠牲を強いられた。これがまだ信者なら微々たるものとして押し込め他の信者達を世界の為で納得させられただろう。しかし己を護る神力、神の代弁者たる神格者を多数使い捨てにして神懸るモノは創り出されたのだ。
 緑の杜七柱がネイ=ステリナ時代から現神でも最有力の万神殿でありながらここまで落ちぶれてしまった主原因がこれだと言ったらどれほどのものを彼等はつぎ込んだのだろう? 世界を護らんが為彼等は世界の守護者という権威を他の現神に譲り渡していったのだ。そうして封印は成った。だが……
 この封印を看過しない神がいたのだ。人間族の悪性まで許容しながら古神の存在すら許さぬ苛烈な神

 
嵐神・バリハルト


 三神戦争の終結後、神々の序列再編成が行われた。その時問題になったのは現神と古神の間に生まれた神をどう扱うか? という点だった。勝利者たる現神の大半は鷹揚に自らの子供達を現神として扱った。軍神マーズテリアなんぞ何柱も古神の女神達を妻として子を成していたくらいだし。ただ頑迷なまでに反発したのがバリハルトなんだ。
 こうなると単なる依怙地な神としか思えないが彼にもちゃんとした言い分がある。二級神・嵐の神というだけあり彼の神は天候は愚か世界における移ろい(へんか)を権能としている。今までは現神同士の協約の上でその権能を振るい世界を停滞させず活性化させ続けてきた。ネイ=ステリナのヒト【妖精族や獣人族】はその移ろい【環境変化】に適応順応して文明を形作ってきたんだ。
 彼にとってイアス=ステリナの人類こと今の人間族も敵ではない。彼等も独自に環境を組み立てる機械文明を失いこの世の理に従うようになった。むしろ膨大な信仰を捧げてくれるから彼の神にとって大いに庇護し導くべき存在だ。だが古神は違う、

 
この世界の移ろいにあり得ざる別の権能を持ち込んでくる。


 その始まりが三神戦争でありそれが結末として現神の箱舟のひとつラウルヴァーシュ大陸に異界との結節点が出来てしまった。ゲームで言うなら西方テルフィオン連邦ヴァシナル地方【歪みの主根】、またそれとは逆の状況になってしまっているが400年後のゲーム舞台ともなる迎撃都市・グラセスタの地下【黒の抗】が有名だろう。
 丹精込めた自らの庭園(ネイ=ステリナ)が他世界の神に蹂躙され滅茶苦茶になった。必死になって立て直しより良き世界(ラウルヴァーシュ)に進めようとしても己以外の嵐がやってきて元の木阿弥にしてしまうかもしれない。その異分子で他世界との繋がりともなり得る古神を害獣とみなすのは当然だ。
 故にバリハルトは刺客を差し向けようとした。それがハリティが作られた理由。それを緑の杜七柱に対する脅しとして使い魔導巧殻・アルの完全処分を迫ったのだ。
 当然現神達でも揉めに揉めた。再編されたばかりの秩序を己の我儘で破壊に掛かるアルタヌーを見過ごせない。だが己の配下に多数の従属した古神達を抱える現神からすればバリハルトの論を認めれば彼が好き勝手に脅威を吹聴して他の現神達を弾圧しかねない。この時のいざこざがクヴァルナ神格位争奪戦(かみのラプソディ)で言われる赤の太陽神アークパリスと嵐神バリハルト、その双方の信者まで巻き込んだ対立になっているんだ。あのお話一見主人公側であるバリハルトが正義っぽくてフォルザスレインの信奉するアークパリスの方が依怙地な神に見えるけど魔導巧殻前史から見れば正反対になってしまうのよ。

 だから始まった。始まってしまったのだ。己を神の道具と見るか、神より生み出された被造物と見るかの対立。魔導巧殻同士の殺し合いが。

 本来アルタヌーの真なる御物を封じているアル閣下の他にオプションとして存在する魔導巧殻はリューン閣下、ナフカ閣下、ベル閣下だけではない。え? ディル=リフィーナに存在する月女神に対応して作られたから合計4体の筈?? じゃ神学上月に対応する天体として何がある? そしてゲームにて高々3体の魔導巧殻が破壊されただけで第一次封印は破れてしまうほど脆いのか??
 そう更に再外殻封印としてディル=リフィーナの太陽の数に応じた四体の魔導巧殻が存在していたんだ。しかも真なるものでないにせよそれぞれ対応する太陽神の御物を組み込まれてね。それが神の意思のまま殺し合いになった。イアス=ステリナの科学を否定した現神同士の争いがその科学の寵児【兵器】によって行われる。何という矛盾だ。
 この時その四体の魔導巧殻は愚かナフカ閣下もそしてベル閣下も破壊されたらしい。そう、再外殻封印どころか第一次封印までもが解けてしまったんだ。アル閣下は介入できない、介入してはならない。介入すれば魔導巧殻全てが世界の敵になり中原が地獄に変わる。それどころか戦いを止める為に圧倒的な力を持つ本来の力を解放したら世界の滅亡だ。悲嘆の末彼女が選んだのは制御者たる己の魂、その封印という名の書き換えだった。
 少し考えると不思議に思うんだが本来の序列からして真なる御物を封印のみならず溢れ出す余剰エネルギーを他の魔導巧殻に分け与え、封印のガス抜きを行うアル閣下は『長姉』である筈なんだ。それがゲームでは『末妹』扱い。何故かという答えがここにある。

 話を聞きつつ少し違和感を感じ並列思考。この香りって?

 彼女は……アル閣下の制御者たる神懸るモノ――恐らくエルファティシア陛下の母君――は神に願い己の意思をも封印した。記憶を改竄され皆から可愛がられる『末妹』としてしか存在できないように。そして唯一生き残ったオプションを中心に4体の魔導巧殻が古から伝わるよう歴史と伝説は改竄された。そう再建造されたのはナフカ閣下とベル閣下の二体だけ。
 だから8体存在する筈の魔導巧殻は4体であり、最上位者として唯一晦冥の雫封印時からそのままの姿を継承するリューン閣下が『長姉』として存在していたんだ。彼女のみが魔導巧殻製造技術【神代技巧】を継承しているとみて良いだろう。魔王竜戦でのエイダ様との同調だってナフカ閣下やベル閣下に実装されているか疑問だ。いいやその監視者兼安全装置としてもう一体……



◆◇◆◇◆


(BGM  二律に魅入られし徒 封緘のグラセスタより)





 「それが【旋嵐の秘巧殻・ハリティ】ですか。」

 「つまり現神達は最後まで嵐神バリハルトの意を受け付けなかった。封印で良しとする。その総意をバリハルトは納得していないでしょう。もし勇者・セリカ・シルフィルがいたのであれば排除を命じていたかもしれません。」

 「だか現状神殺しはバリハルトの手を離れ、むしろ彼の神にとっての危険要因になってしまった。そしてハリティに彼の神が介入してくる気配がない。」

 「決定的な場面を狙っているのじゃろうな。アルタヌーの危険性を周知させ否応なくそこな預言者が潰さざるを得ない方向に誘導する。眷属とはいえ古神同士が潰し合ってくれた方が都合が良い。事実そこな預言者はもはや自らの妹を敵……いや自らも含め【世界の敵】として認識しておる。」

 「ハリティとアル閣下を直接合わせるのは避けた方がよさそうですね。」

 「「「同感です」」」


 一つの確認は終わった。つまりアル閣下の慟哭は深層意識からの物、恐らく神懸るモノと化し贄となったエルフの神格者達は全て旧知の仲、それだけでなく今存在していない4太陽神の魔導巧殻ですらその枠に収まるかもしれない。――別にエルフであっても緑の杜七柱を信仰しない者もいるからね。――家族が殺し合った……能天気な不思議ちゃんだったとしても耐えられるものじゃないわ。そしてアル閣下に対して疑惑が芽吹く。居るだろうが確認できない。その手妻は1つだろう?


 「だから妹殺しを平然と画策するオレが許せないという訳ですか。アル閣下?」

 「「「ゑ?」」」


 カマ掛けと同時にエイダ様と白銀公が振り向くと其処にはコリドーラ先生、その手のひらに乗るアル閣下がいた。この塔に張られた神格者級結界魔法の中に妙な香りを感じたのさ。具体的にはクヴァルナの香料に使われる花の香り。シルフィエッタの使う香水は元王族らしくもっと上品で華やかなものだ。そうなるとこの結界を突破してくる実力者が特定できる。


 「……エリザスレインかと思いましたが。」 絶句する白銀公。


 うん、オレも最初そう考えた。ただ今更なんだ。彼女がオレの目的を知る以上、妹殺しが揺らぐ事は無い。逆に世界と私事を天秤にかけアル閣下を説得し始め喧嘩になっていただろう。だから残るのはオレの真意をまだ知らない、そして神格者の魔術を突破できる可能性がある同格の神格級魔術師コリドーラ先生という事になる。


 「残念でした〜 首を突っ込むのも如何と思いましたけど仲間外れは宜しくありませんわー。」


 茶々は無視、本命に話しかける。オレの疑惑はそんな覗き見のことではない。遥かに重大で想定外、そして致命的な事。


 「封印が緩みかけている。それを隠しおおせなくなった。過去の記憶を口にした瞬間で気づくべきでした。ま、知らなかった故、どうしようもないのも事実ですけど……」


 信じたくないというのがオレの本音だ。封印開放、魔導巧殻本人の意思と上司たる四元帥の許可が必要な筈だ。その事実だってアル閣下が真の意味で上司たるヴァイス先輩を信じねば明かされる事は無い。それがアル閣下が意識できる範囲で緩んできている。ゲームにおける最終戦に遅れた場合の例外的バッドエンド、東領首府センタクスへのアルファラ=カーラ戦略砲撃……

 アルタヌー降臨(せかいめつぼう)へのカウントダウンが始まっているんだ。

 あえて詐術に掛ける。己の肉親たちが殺し合ったからといって肉親の情に訴えるのならばそれを逆手に取るくらい謀将の内だ。


 「……アルクレツィアは滅却します。肉親と祖国、どちらかを取らねばならないならオレは躊躇なくメルキアを取る。既にオレの妹は『だったモノ』でしかない。そんな代物にオレの妹を殺させはしません。」

 「シュヴァルツ、何を言って??」  戸惑うアル閣下。オレは胸に手を当てる。

 「オレの妹は生きていますよ。オレの心にオレの過去に、だからアレは妹なのではない。単なる敵だ!」

 「あなたはそれでいいのですかっ!!!」 


アル閣下の怒鳴る声、いや悲嘆の声。それにオレは静かに反論する。


 「想いは人それぞれ、相手に通じぬ想いもある。そしてオレの想いは妹に届かなかった。勿論逆も然り。彼女の我儘でこの世を壊させはしません。祖国メルキアの為にも、オレを信じ散ったカロリーネの為にも、そしてオレの為に道化になると誓ってくれた……」


 この想いは変わらない、この決意は変わらない、ここからオレは始まったのだから。


 「ヴァイス先輩の為にも!」


 あらん限りの力でアル閣下を睨みつける。いやアル閣下ではない、その胸部で蠢き出した【晦冥の雫】こそがオレの敵だ。相対する彼女が呆れと畏れ、何よりも憐憫を以って言う。400年後迎撃都市の地下、リクシュマ魔王宮にて歪んだ神と化した元アークパリス教皇(レギ・ガパウィ・ロマトゥル)を見る天賦を封緘せし英雄王(ジュダル・シュヴァルカ)の様に。


 「アル様、これが国家主義者という狂人ですわ。多数を護るためには己ですら切り捨てる。神格者とは違うヒトで無き、いいえ闇夜の眷属ですらない『怪物』(まぞく)


 煩いわ! コリドーラ先生。貴女の言い分が如何にこの世界に則していようがメルキアは其の枠内に無い。【貪欲なる巨竜】を歪めさせない。ギロリと睨みつけ黙らせる。お前はこの件に限っては部外者だと言わんばかりに。小さな瞳の視線、それをオレに向けて、いや睨みつけてアル閣下が凄む。


 「シュヴァルツ……いつか私は貴男を殺します。貴男はきっとヴァイスの心を置き去りにする! ヴァイスをきっと悲しませる! わたしはそれがゆるせない!!」


 微笑んでしまう。そうだ、それでいいんだ。あくまでこのゲームの主人公はヴァイス先輩、そしてアル閣下がオレの望むヒロインだ。覚悟こそさせたが彼女が主人公になる必要はないんだ。


 「さて、それは兎も角由々しき事態です。アル閣下の御物、その封印が緩みつつあるというのですから。エイダ様?」

 まさか此処で晦冥の雫を破壊するわけにもいかん。できないことも無いけどそれではバッドエンド確定だしアルクレツィアを止める手段がなくなる。それに封印が緩んできているにしても初期段階だし此処で復活するのはアルクレツィアの意に沿わない。彼女からのメッセージも無いという事はオレの狙う対ユン=ガソル戦争、その決戦地になるハルシュハイネ戦までは持ちこたえられると見て良いだろう。
エイダ様にハンドサイン、先ずは未だ完成していない切り札の4枚目の情報公開でいきますか。――そうオレは機工帝ジルタニアにせよ晦冥の雫にせよアルクレツィアにせよ切り札一つで済ませる気はない。6枚もの切札と2枚の鬼札。8手もの力を以って彼等を絶望させ諦めさせる。これが【ヴァイスハイトの比翼】シュヴァルツバルト・ザイルードの抑止力戦略(たたかいかた)だ。


 「無理じゃの。まだそなたの言う切り札【黎明の焔】は構想段階に過ぎん。そもそもそのヒントが為、儂を呼び寄せるつもりだったのじゃろうが。」


 まーその通りです。エイダ様に振った力はメルキア中興戦争(まどうこうかく)の切り札たる【黎明の焔】。ゲームでの開発案件、晦冥の雫を滅却できる黎明の焔が何か? という事はオレも長らく考えていたのよ。考えられるのは人造の相転移結界だ。魔導巧殻に限らずあの制作会社のゲームでは必殺技、特殊魔術、古今を問わない兵器に優劣が存在する。表向き最強とされるのは神格の介在する物にしろその種族の特性であるものにしろエネルギー投射系のものと言えるだろう。――ゲームで言うなら万能属性――ただ別格としてそれを上回る……いやこの世界を理すら消し飛ばしかねない超弩級の代物がある。ゲームの論理なら無属性攻撃というのだが実際は……

 
歪理というべき禁忌どころか認識スレスレの技術体系だ。


 魔王竜エア=シアルを初め歪竜や古代超兵器が必殺技として用いる【歪波動攻撃】、ディル=リフィーナ創生によって生まれたともされる新たなる闇夜の眷属――歪魔族――の使う【歪曲転移】、多数の兵器化されたノイアスがアルクレツィアの指示で使いオレ達を驚愕させた【空間歪曲障壁】、そして神殺しがかつてリガナールでそして未来神の墓場で使うであろう【相転移砲】。これらは神や古来の人類、精霊や魔術とは違う理を崩しそれによって発生する現象を利用する代物だ。
 危険なんてものじゃない。下手すれば混沌生物に限らず【世界の敵】をこちらに呼び込みかねない。そもそもあの制作会社のゲームでも魔法依存とはいえこの力を使いこなしたのは匠王となるユイドラの工匠、ウィルフレド・ディオンだけだ。彼がヒロインたちに作った衣装にその痕跡があり各種地形障害を容易に突破するその力は量産されでもしたら世界中の軍事ドクトリンが覆ってしまうだろう。――あーその技術、コスプレ剣士(アペンド)を介して【救神の鍛梁師】(アヴァロ・ルクレール)にも流れるから一人とは言えないか。


 「歪魔か……これはまたとんでもない事を言うものじゃ。」


 エイダ様に呆れられたが真意も気づいただろう。何故オレが西領からは理論のみで魔導戦艦を作り上げたのに南領からは神殺し直々に歪竜を連れてきてもらったのか。レウィニアで会議にかこつけ彼女に歪竜の資料を渡したのか。メルキア中興戦争ですら数少ない無属性攻撃【歪波動攻撃】の資料を持ちその現物は戦狂いに格納されている。


 「いいえ、そこまで無くとも南領で歪竜が開発され此処にその実物がいますから。時間を掛ければいずれ理論として構築できます。オレやヴァイス先輩はそれを特例としてスキップするだけですよ。」


 実際伯父貴もエリナ研究長も何故歪竜が歪波動攻撃という攻撃手段を持つのか解明できていない。オレの言ったとおりに魔物配合したらトンデモなイレギュラーが完成した。だから各成長段階やタイプの違いがあれど同系統の歪波動攻撃をもつから“歪竜”と名付けざるを得なかったそうだ。――そんなゲーム最重要キーワードを適当ネームで良かったのかね?


 「禁忌どころかこの世界が認知すら定かでない力、それをも取り込むというのですか?」

 「すでに使っているからな。白銀公? 神殺しがかつてリガナールで、そして未来神の墓場にて使う相転移現象こそその証左だ。神が使っているのに人が使えないのは不公平だろう??」

 唖然とする彼女、神殺しは神の力を持ちながら人の理に居る。故に人であると強弁しているオレが全く正反対の言葉を吐いたのだから。だからこそ彼女は理解する。理解してしまう。オレが『節度という名の詭弁』を吐いたことに。伯父貴が警戒し彼女を初め神が警戒するオレの未来図『三すくみ』において神殺しもまたヒトとは違う勢力図に在る事を。三者が互いに牽制しあいながら歩み寄る事で世界は成り立ちうるというオレの世界観から俯瞰した勢力図の意味に。


 「で、アテはあるかの?」   あっさり降伏、そこまで手が回らないよ!

 「ありませんね。正直理論の前に現物を作らねば間に合いそうにもありませんし。それにエイダ様にせよこの情報で得たものは大きいのでは?」


 ついでに神殺しから得た龍人族の秘王国の情報、リプディール竜族の秘跡、ドゥム=ニールとエレン=ダ=メイルの術式を合わせて伝える。そして決定打、西方最大版図を誇るテルフィオン連邦、その自治領にして飛び地、【ヴァシナル地方・エテの町】即ちその地下大迷宮(ユガミノオモネ)――ゲームで想像つくけどアレも一種の歪められた御物なのよ。歪ませた氷結の女神(ルティーナさん)すら意識してないんだけど――に潜み歪められた神託を暴こうとする歪魔族の賢者(ゲラーシム)の事を。実働はおまかせだがこれだけヒントがあればゲーム通り黎明の焔は作り出せるはず。エイダ様プンスカしながら机をバンバン叩いて毒を吐く。


 「【宰相と公爵の懐刀】よぅ言うたわ! まさか我等に丸投げとはな!! で、お主は何のつもりで世界に出た? まさかあの小娘(ルクレツィア)だけとは言うまいな!?」

 「オレが先輩との決別までして押し通した美学は今も昔も変わりませんよ。」

 そう、史上最大の兄妹喧嘩はガワでしかない。珊海王の御蔭で隠さざるを得なかったが円環を破棄した今なら言える。初めからオレが願うのはただ一つ。
 そっとアル閣下に手を翳し指でその頭を撫でる。警戒し嫌がるそぶりすらあったが彼女は為すがままになった。




 「叙事詩の最後、魔導巧殻アルの破滅とその魂の回帰。それが納得いかなかった。あそこまで先輩と想いを通じ合わせ、共に立った二人が運命を言う断絶に見舞われた。……確かにオレがメルキア中興戦争を変えたことで先輩とアル閣下にそこまでの想いと絆が出来ているかと言えば解りません。でも、オレが向こうの世界でこの叙事詩を知りこの世界に来たのであれば、それを覆すことがオレがこの世界で生きることなのだと思っています。」




 「シュヴァルツ……わたしは…………」


 睨んでいたアル閣下の瞳が変わる。怯えたようなその視線、オレは微笑んで話を続ける。




 「良いのですよ。先輩を愛すも愛さないもアル閣下の自由です。自らの義務を果たし自由を願い放埓に至らない。そこまで閣下はこの国に尽くしたんです。叙事詩の報酬(トゥルーエンド)、それがあれなのがオレは面白くなかった。何とかしたいと思った……」




 ひょいと肩をすくめる。




 「それでオレに機会をくれたのが二つの回廊の終わり(このせかい)であるならばそれだけは感謝したいですね。預言者として。」





 「…………そこまで茨の道を歩まなくても良いでしょうに。」


 ポツリとコリドーラ先生が言う。それにオレは静かに返す。


 「イアス=ステリナで歴代の預言者達がどんな末路を辿ったかぐらい承知してますよ。覆せないのならオレの美学だけは押し通させてもらう。貴方がた全てを使い潰してでもメルキアの御伽噺は完結させる。……納得して頂けたのでしたらオレは行きます。」


 還ることを諦めたかのように口が滑らかに動く。


 「メルキアへ。」



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