前書き

「戦国BASARA3」発売!!!
ということで、これを機会にまた書き始めました。
最初に注意点ですが、新たな気持ちで書き始めたということもあり、キャラの設定は原作準拠にしています。
……つまりは、家康は成長してますし、三成は秀吉一筋です。



闇と静寂が支配する夜。
篝火に照らされた陣幕が、その闇を掻き消し、静寂を害していた。


「……まだ起きてる……」
「ん?おお、半蔵か」


陣幕の一角で、地形図を眺める人影が一つ。
その人物に、どこからともなく聞こえてきた声。
その声に、その人物は驚くこともなく、気前良く返事をした。


「……寝たほうがいい……」


半蔵と呼ばれたその声は、無愛想にそう告げる。
少し間を置き、その人物の隣に、まるで別の空間から這い出てきたかのように、一人の人物が姿を現した。
篝火のせいで、体の右半分ほどしか見えないが、家康よりもほんの僅か背の低い、藍縁の黒の衣に身を包んだ人物だ。


「……家康、様……」
「ハハハ、構わん。ここにはワシと半蔵しかおらん。以前のように、竹千代と呼んでくれ」


家康は笑いながら言う。
しかし、半蔵は首を横に振る。


「……もう……竹千代、様じゃない……」
「お前とは長い付き合いなんだ。二人きりの時くらい、構わんだろ?」


半蔵は首を縦に振ろうとしない。
自分の右腕に視線を落とし、ゆっくりと口を開く。


「……此方は、徳川軍の忌み嫌われる部分……家康、様とは、真逆の立場……」
「自分を卑下するな、半蔵!」


家康の声が大きくなる。
半蔵の右腕を強く握り、真っ直ぐと半蔵を目を見つめる。
家康のつかんだ右腕には、先端に刃のついた籠手が着けられている。

半蔵は驚いた。
急に腕を掴まれたことではなく、危ないその右手を掴んだことに。


「ワシは感謝しておる。お前という存在がいてくれたおかげで、今のワシがあるのだ。忠勝やほかの将にはできない役割を、お前は全うしてくれている。そのことに、ワシは自信を持っておる!」
「……恐悦、至極……」


深々と、半蔵は頭を垂れた。
その様子を見て、家康はやさしく微笑んだ。


「何度でも言うが、半蔵。ワシが感謝しておるというのは、なにもその右腕で敵を倒すからだけではない。ワシのために失った、その左腕にも、だ」


家康は、半蔵の左腕にそっと触れる。
その腕は、人間のものとは程遠い、造られた腕。
忠勝に注込まれた技術と同じ、機械仕掛けのものとなっている。


「お前がいなければ、ワシはあの三方ヶ原で死んでいた。多くの将兵を失ったあの戦で、ワシが今こうして生きていられるのも、お前のおかげだ」
「……賞賛の、度が過ぎる……」
「相も変わらず、お前は謙遜な奴だ」


気持のよい笑みで、半蔵の肩を叩く。
半蔵は、再び頭を垂れ、半歩下がった。


「さて、お前の言うとおり、休ませてもらうとするか。総大将が戦場で寝ているわけにもいかんしな」
「……御意に……」


一度、大きく背伸びをし、家康は陣幕へと入っていく。
それを見届けてから、半蔵は再び姿を消した。





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翌朝──
目の前に広がるのは、因縁の敵。
かつて辛酸を舐めさせられた、武田軍。


「忠勝、此度の戦も期待しておるぞ!」
「……………!!!」


無言ではあるが、忠勝の士気は高い。
同様に、他の将兵たちの士気も高く、忠勝が掲げた槍を見て、鬨の音を上げる。
しかし、その場に半蔵の姿はない。


「……半蔵」
「……ここに……」


家康が呟くと、その家康の陰から、半蔵が姿を現す。
他の将兵たちの死角に立っているため、誰も半蔵には気が付かない。


「今回の戦も頼むぞ。恐らく、あの信玄公のことだ、別動隊を用いたりと、ワシの想像の範疇など容易く超えた策を擁してくる」
「……承知……」


再び、半蔵は空間の中に溶け込むように、その姿を消す。
次に半蔵が姿を現したのは、徳川軍と左の方面に位置する森の中であった。

鬱蒼と生い茂る木々。
そこには、鳥獣の姿さえ見えず、静寂そのものであった。
だが、半蔵は武器を構える。
気配が、一つあった──


「……見つけた……」
「おっと!危ない危ない」


言うや否や、半蔵は刃を振っていた。
それを受け止めたのは、かなりの大きさの手裏剣。
迷彩服に身を包んだ忍びが、慌てて後ろへと飛び退く。


「お、半蔵じゃん!元気してた?」
「……佐助……」


気軽に話しかけてきたのは、武田軍の忍び・猿飛佐助。
言葉は軽薄だが、武器を構える様に隙は見当たらない。


「……何……?」
「愛想悪いな、相変わらず。久しぶりに会ったんだからさ、もっとこう、世間話とか──」
「……殺す……」


一気に距離を詰め、刃を突き出す。
貫いた感触はあったが、実際に貫いていたのは木片だった。


「いきなりはひどすぎでしょ?」
「……そんなこと、ない……」
「……ま、それが忍びの掟だもんね。同じ里で育ったとはいえ、使える主が違えば、戦場であったときは殺し合う定め」
「……解ってる……?」


ふと、半蔵は首を傾げる。
佐助はそれを見て、軽く微笑んだ。


「解ってるよ、そりゃ。お前は一番真面目だったし、何より俺様だって、給料もらってる身だからね」


一瞬の間を置き、佐助の表情が真剣そのものになる。
半蔵も武器を構えなおし、小さく深呼吸する。


「加減はできないぜ?」
「……此方も、しない……」
「それでこそ、半蔵だ!」


双方、瞬時に印を組む。
次の瞬間には、お互いの姿は幾つにも分かれていた。


「分身の術!」
「裂・衛星陣」


分身はした。
したはいいが、お互い全く動く気配がない。
そのようにしか見えなかった。

よくよく見てみると、僅かに立ち位置がずれたり、周りの草が舞ったりしている。
常人には追いつけないほどの速度で、既に戦いは始まっていた。


「くぅ〜、腕上げたねぇ」
「……佐助も……」


刃と手裏剣が交わる。
だが、その音はほんの少しずれてから聞こえる。
草や落ち葉が舞う。
だが、舞った時にはすでに、その場に二人はいない。

高速の戦いは、その眼に映ることはない。
気が付けば、二人の姿は一つに戻っていた。


「(こんなとこで、足止め食らってる場合じゃないんだけどなぁ……)」
「……左足……」
「え?」


半蔵が呟いた。
佐助がその言葉に反応した時、既に遅かった。


「くっ!なんだ、この縄……!」
「……佐助は、一回の挙動が大きすぎる……罠仕掛けるくらい、容易……」


ゆったりとした足取りで佐助に近づき、半蔵はその右腕の刃を、佐助の首筋へと当てる。
その目に、一切の慈悲はない。
しかし、眼とは裏腹に、言葉には僅かなりと慈悲が込められる。


「……同郷の好……何か、言う……?」
「ハハ、忍びが忍びに討ち取られるなら本望。慈悲なんかかけるなって」
「……そう……」


半蔵は右腕を下す。
不思議に思った佐助だが、すぐにその目は驚愕の色に染まる。
恐ろしいほどの力で、佐助の顔は、半蔵の左手に鷲掴みにされたからだ。


「……逝くなら、せめて苦しまずに……」


半蔵の左腕に、一瞬雷が迸る。
思わず飲み込んだ自分の息の音が、佐助には異常に大きく聞こえた。





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「……………」
「……………?」


何も、起こらない。
まだ一分も経っていないが、佐助には異様に長く感じられた。
気がつけば瞑っていた目を見開くと、半蔵は自分の顔を掴んだまま、違う方向を睨みつけている。


「くっ!」
「……あ……」


その隙を突き、佐助は半蔵の手から逃れた。
自身の頬に、冷や汗が流れていたことになど、佐助は気付いていない。


「戦の最中に余所見かい?俺様も随分──」
「……何か、変……」
「変?何が──」


問いかけようとして、佐助もすぐに気が付いた。
半蔵のみつめる方向……
それは、今まさに徳川と武田がぶつかり合っている戦場。


「(……やっぱり、まだちょっと早かったか?)」
「……………」


佐助の視線が外れたことに気付くや否や、半蔵はその場から姿を消した。
気がついた時には既に遅く、佐助も慌てて後を追う。

そして、追っていてすぐに気付く。
自分が向かいたい方向とは、まるで逆を目指していると──


「(……そりゃそうか)」





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徳川軍本陣──
将兵たちは全員そこにいた。
負傷した者や、戦前は姿があった者など、戦前とは状況は変わっている。
しかしそれ以上に、家康の表情の雲行きが思わしくない。


「……家康、様……?」
「戻ったか、半蔵」


声もどことなく暗い。
心配そうな表情の半蔵に気付いたのか、家康は小さく深呼吸。
頭の中で言葉を整理し、徐に口を開く。


「信玄公は、此度の戦にはいない」
「……え……?」
「病に伏せて居られるとのことだ。命あるもの、生老病死は避けられまいが、残念極まりない……」
「……そのせいで、戦が取り止め……?」


半蔵の問いに、家康は首を横に振る。


「いや……一番の理由は、真田にある」
「……虎の、若子……」
「総大将として日が浅いらしく、采配がどうも覚束ない。同じ武田軍ということで、無意識に信玄公と比べてしまったワシにも問題はあるが──」
「……戦うに、値しない……」


残酷な言葉を、半蔵が告げる。
不承不承といった様子だが、家康もゆっくりと首を縦に振る。


「しかし、取り止めという訳ではない。信玄公の病が治った暁に、再戦するという契りは立ててきた」
「……此方は、従うまでで……」
「……スマンな」


そっと半蔵の肩を叩き、家康は他の将兵の前へと立つ。
全員からの視線が家康に注がれ、その言葉を待つ。


「此度の戦、皆、納得いかないことも多いだろう!だが、真田だけに限らず、ワシにもいたらぬ采配は多々あった!この戦から更なることを学び、次の戦へと活かす!皆、三河へと帰るぞ!」


将兵たちは武器を高々と掲げ、鬨の声を上げる。
かくして、各々不平不満は残る戦とはなったが、一応は勝ちという形を手にした。
それでも、納得のいかない者もいたため、帰路につく徳川軍は始終口数は少なかった。





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帰路につくのは、武田軍も同じ。
先頭には、頭を垂れたままの真田幸村。
その後ろには、疲弊し負傷した将兵たちが、重い足取りで着いていく。

その様子を、高い木の上から眺める影が二つ。
どちらも、先頭の幸村に視線を注いでいる。


「半蔵、どう思う、うちの旦那?」
「……未熟……」
「相変わらず辛辣だねぇ……ま、その通りなんだけどね」


ハァと、溜息を吐く佐助。
半蔵は幸村を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。


「……どうする……?」
「どうするも何も、旦那の成長を手助けするのが、俺様の役目だからね」


佐助は半蔵に微笑みかける。
その笑みには、どこか寂しげで、暗いものが窺えた。


「……じゃ、また……」


それだけ告げ、半蔵は姿を消す。
既に見えなくなったその姿を、佐助は目で見送る。


「……さて、大将になんて報告しますかね」


頭を掻き、困った表情を浮かべる佐助。
だがその姿も、気が付けばどこへともなく消えていた。








後書き

……やべぇ、久々に書いたら、どの程度書いていいのかわかんなくなってる(汗
と、兎にも角にも、服部半蔵編第一章、一応書き上げました。
すでに私、ゲームのほうも十分楽しませてもらってますが……
「お市、愛されすぎ」と思ったのは私だけ?
あと、雑賀の姐さん使いやすすぎ(苦笑)

これからまた、執筆再開させていただきます。
至らない点も多々ありますが、なにとぞどうぞ……
あと、もしもこの武将を書いてほしいとかいうご要望があれば、ぜひともどうぞ。
一応、予定としましては、この半蔵も含め、あと三人ほど書くつもりはしてます。
ついでに、佐々木小次郎と愛姫も新しく書きなおそうかな……なんて考えてたり



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