目を開けたら、そこは異世界だった。
……なんてこと、漫画とかゲームの中だけの話だと思ってた時期が、俺にもありました。


「……え?何、ここ?」


目の前に広がってるのは、広大な裸の地面。
乾燥した空気だとか、遠くに見える山の形とかから考えても、とりあえずはここが、元いた場所じゃないって言うのは分かる。
……いや、分かりたくないって!


「夢オチ……じゃ、ねぇの?」


出来れば夢であってくれ。
そんな願いを込めて頬を抓って見るも、裏切られたかのように痛みを感じた。

思いっ切り溜息を吐いてみる。
対して何にも変わらないけど……


「(とりあえず、何がどうなった?)」


頭の中を整理してみよう。
一番新しい記憶は──


「おい、そこの!」

「ん?」


不意に、俺の思考を遮った声に振りかえると、見るからに人相の悪い輩が2人、そこに立っていた。
顎髭の生えた奴と、目の下にほくろのある奴
ただ、なんだか違和感のある服装だった。
目についたのは腰の刀、頭の黄色い布の2つ。
……お前ら、そのファッションは流行らないと思うぞ?


「珍しい恰好してるな、兄ちゃん」

「……珍しい?フランチェスカの制服って、そんなに珍しいのか?」

「ふら……あぁ?何だって?」


一回で聞きとれよ、この位……
まぁ、うちの学園の制服は、よその学校から見れば珍しいデザインかもしれないけど……
それでも、そこそこ名前の売れてる学園だぞ?


「まぁ、何でもいいや。兄ちゃん、金目のもの、置いて行きな?」

「……何をいきなり……?」

「まだ死にたくはねぇだろ?」


古臭い言い回しだな、おい。
……って、刀抜きやがったよ……
お前ら、銃刀法違反だぞ?本物かどうかは知らないけど……


「何処でそんな模造品買ったんだよ……」

「あぁ?いい加減にしねぇと、本気で殺すぞ?」


そう言って、片方がその刀を俺の首筋に──
……って、おいおいおい!


「ほ、本物か、これ……?」

「当たり前だろうが!ほら、さっさと金目のものだしな!」


……まるで、虫でも殺すような目つき。
こいつら、別に俺から金品奪うのは、殺してからでもいいとか思ってそうだな……


「ちょ、ちょっと待てって!見たら分かるだろ?ほら、俺が何か持ってそうに見えるか?」

「……面倒くせぇ奴だな。兄貴、もう殺しちまいやせんか?」

「まぁ待てよ。生憎とうちの頭目方は、殺しが御嫌いだ。こいつを殺したことがバレたら、俺たちが嫌われちまうかもしれねぇだろ?」

「ですけどよ、他に誰も見てませんぜ?」


乱暴な敬語を喋る奴──目の下にほくろのある方──と、兄貴と呼ばれた奴──顎髭のある方──が、それぞれ辺りを軽く見回す。
これだけ見晴らしが良い場所だと、人がいるかどうかはすぐに分かるな……


「……確かに、な。ちょっと遠くの方に人影が見えるが、まぁ気付かんだろ」

「でしょ?じゃあ、サクッと──」

「殺されたくはないって」


言うが早いか、俺は立ちあがって、ほくろの鳩尾に一発叩き込む。
不意打ちを食らって、前のめりになったところに、蹴りの追撃を入れる。
顎髭の方に飛ぶように蹴ったから、ほんの僅かとはいえ、そいつらの動きは止まった。


「て、テメェ……!」


物凄い目つきで睨んでいるのは承知の上。
でも、そいつらの表情を確認するまでもなく、蹴りを入れた直後には、俺は走り出していた。

目指したのは、さっき顎髭が言ってた、人影の方向。
いくらなんでも、人殺しの場面は見られたくはないだろう……


「……まぁ、危ない薬でもやってたら、話は別だけどな」










必死に走って、正直なところ、俺は少し気落ちしてしまった。
見えていた人影は、近づくにつれてその詳細がはっきりしてくる。
……で、結局その人影の正体は──


「(女の子2人って……)」


片方は、俺と同じくらいの背丈で、紅い髪の女の子。
もう片方は、少し背の低い、薄い緑の髪の女の子。

……ただ、意外と距離があったから、もう息も上がってる。
女の子2人の目の前で肩で息をしてると、紅い髪の子が話しかけてきた。


「……?」

「い、いや……何か喋ってよ……」


話しかけてきた……と思ったら、首を傾げた時に、声が漏れただけだった。
流石に全力疾走した後だったから、ちゃんとした言葉をかけてほしかった……


「どうしたでありますか?」

「あ、えっと──」


緑の髪の子は、まともに話しかけてきた。
とりあえず、何とか呼吸が整ったから説明しようとした矢先、例の二人も追い付いてきた。


「この野郎……いい度胸してるじゃねぇか!」

「ん?その2人は何だ?」


顎髭の言ってるのは、明らかに後ろの女の子のこと。
これが男だったら、助けてもらうつもりだったのに……


「兄貴。なかなか上玉じゃないっすか?」

「……そうだな」


にやついた顔つきで、女の子2人を品定めしている。
……時代が時代だったら、売り飛ばすとか何とか言いそう──


「連れて帰りゃ、それなりに楽しめそうだな」

「……おいおい」


そういうのは、思ってても口に出すんじゃない。
そんなこと考えてると、緑の髪の子が、また話しかけてきた。


「こ奴らに、何かされたでありますか?」

「え?あぁ……危うく殺されそうになっただけだよ」

「……………」


ちょっと強がって、何でも無いように言ってみた。
すると、紅い髪の子が、俺の前へと歩み出ようとした。
思わず腕を掴むと、さっきみたいに首を傾げられた。


「ちょっと、危ないって。あいつら刀持ってるし……」

「……大丈夫」

「いやいやいや……」


腕を放してほしそうな顔つきだったので、止む無く放す。
その様子を見ていた緑の髪の子は、俺の方に向き直っていた。
やけに安心した風な顔つきだったから、どうしても疑問を抱かずには居られなかった。


「ねぇ……」

「言いたいことは分かるのです。大丈夫でありますよ」


独特の口調で、俺の不安を払拭しようとする。
とは言え、逆に俺の不安は募るばかり……
そう思ってた時には、既に顎髭とほくろは、紅い髪の子に迫っていた。


「ほぉ……姉ちゃん、俺たちと一緒に来て──」

「……煩い」


言い寄ったほくろは、突如その言葉を遮られ、遥か後方へと吹き飛んだ。


「……………え?」


とにかく、それ以外に言葉が出なかった。
何がどうなって、ほくろが吹き飛んだのか……
後ろから見ていた俺には、まるで理解できなかった。

ほくろはと言うと、元いた場所から10m以上は飛ばされて、仰向けに転がっていた。
起き上がる気配も見せず、だらしなく両手足を広げている。


「な、何しやがっ──」

「……邪魔」


顎髭が強く迫ろうとしたが、今度は向かって左方向に転がっていった。
ただ、今回は何をしたかは分かった。
言うところの“裏拳”だ。


「……死んで、ないよな?」

「……………(コクッ)」


無言で頷く赤い髪の子。
その返答を見てから、緑の髪の子も付けたしたように言葉をつなげる。


「恋殿からすれば、あの程度、手加減したうちであります」

「あ、そうなの……」


……とは言ってみたものの、普通は死ぬよな、あれ?
ま、まぁ……死んでないって言ってるし、死んでないんだろう、多分……


「それよりも、どうして殺されそうになったでありますか?」

「ん?あぁ、金目のもの出せって言われて、抵抗したら、ね?」

「それは災難でありましたな」

「まったくだ」











その後、二人と一緒に近くの村の茶屋へと入った。
俺が「別に行こうとしてる場所はない」って言ったから、成り行きで一緒に行くことになっただけだけど……


「そういえば、まだ名前を聞いていなかったであります」

「そういえばそうだ……俺は直詭(なおき)。白石直詭だ」

「ねねは、陳宮、字は公台であります」

「……………ん?」


どこかで聞いたような気もしなくないような……


「それで、君は?」

「……呂布」

「……………」


……何の冗談だ?

呂布に陳宮っていう組み合わせ。
三国志を読んだことがあれば、否が応でも分かるだろ?
……多分、それだろうな……


「……?」


呂布って名乗った子に首を傾げられる。
無理を言うようだけど、俺の気持ちを察してくれ……


「……ん、あれ?」

「どうかしたでありますか?」

「いや……さっき、呂布のこと、違う名前で呼んでなかった?確か──」

「ちょっと待つであります!」


店内に響き渡るような大声。
思わず俺も、言いかけてた言葉を引っ込める。


「な、何……?」

「許されてもないのに、真名を呼ぶことは許さないのです!」

「……真名?」


聞きなれない単語。
今度は俺が首を傾げる。


「真名であります、真名!」

「いや、連呼されても……知らないんだけど?」


え、何?
俺の言葉そんなに信じられなかったのか、呂布も陳宮も、俺の顔をまじまじと見つめてきた。
いや、知らないものは知らないし……


「真名を、知らないでありますか?」

「まぁ……そんな言葉は知らないけど?」

「信じられないであります……普通、その位は知っているはずでありますのに……」

「……少なくとも、俺は生まれてこの方、そんな言葉は聞いたことが無いけど?」

「白石殿……どこの生まれでありますか?」

「生まれは京都だけど?」

「きょうと?どこの郡でありますか?」


……話が噛み合わん。
呂布とか陳宮とかいう名前にしても、京都を知らないことにしても、さっきの悪漢にしても……
まさか、ここは三国志の世界、とか言うんじゃないだろうな……


「……ねね」

「な、何でありますか、恋殿?」

「……一緒に、帰る」

「帰るって……まさか、この者を星羅殿の元へ!?」

「……………(コクッ)」

「……誰、その人?」


肝心の俺を放置して話が進んでたから、ついつい口を挟んでしまった。


「ねね達の、母親の様な御方であります」

「……さっきも気になったけど、一人称おかしくない?」

「ね、ねねは、これでいいのであります!」


……そういえば居るな、自分の名前を一人称にする奴。
この陳宮って子も、そういう口か……


「それで?その母親代わりの人の名前は?」

「王允殿……王子師殿であります」




後書き

どうも、お久しぶりすぎて、申し訳なくさえ思ってます、ガチャピンαです。
いやはや、私的事情で色々切羽詰まってまして、ここ最近は執筆活動さえできてませんでした。(汗
でもまぁ、やっぱり書きたいって言う意欲に駆られまして、図々しいとは思いつつも書かせていただきました。

今回のこの作品は、結構前に書いたもののデータが残ってたんで、それを元に新規に作成しました。
見ての通り、董卓軍(呂布かも?)ルートですね。

一応、北郷じゃない理由としては、今後登場してもらうからです。
それ以外にも、恋姫には出てこない三国志の人物にも、何人か登場してもらう予定です。
今回の一番最後に名前の出た王允以外には、今のところは後二人が確定しています。
……誰でしょうね?

今後の更新ペースとしては、週一を目標にはしています。
ただ、試験やら就活やらが眼前に迫っていることもあって、大幅に遅れる可能性は否めません。
そこのところ、御容赦くださると幸いです。

最後になりますが、このような場所で失礼とは存じていますが、非礼をお詫びいたします。
私的事情とはいえ、管理人様以外にも多くの皆様にご心配おかけいたしました。
今後とも、御迷惑は多分におかけするとは思いますが、宜しくお願い申し上げます。



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