呂布と陳宮の二人の少し後ろについて歩くこと、約半日……
……って、ちょっと待って?


「どうしたでありますか?」

「い、いや……予想してたよりも距離があって、尚の事疲れたっていうか……」


一緒に帰るとか言うから、さっきまでいた村の中に、その王允とかいう人の家があると思ってた。
でも実際は、二人がわざわざあの村の近くまで足を延ばしてただけらしい。
……でも、なんで?


「そういえば、何であの村の近くに?王允さんとかいう人の家のある場所から、随分と離れてるみたいだけど……?」

「……占い」

「占い?」

「……………(コクッ)」


あの辺に行けば、運気が上がるとでも言われたのか?
でも、態々そんな場所まで行くか?
さっきの輩みたいに、物騒だろうに……


「(……まぁ、呂布にとっちゃ、別に問題でもないか)」


さっき見たあの強さがあれば、物騒だとかそういうのは気にならなさそうだな。
逆に、盗賊だとかの方が可哀想に感じるくらいだし……

そんな感じで一人合点してると、陳宮が言葉を付け足してきた。


「管輅と言う者の占いが、ここ最近、様々な場所で広まっているであります」

「管輅?」


管輅か……
三国志演義は熟読したから、ある程度の武将は言ってもらえばピンとくる。
これから向かう、王允っていう名前にも、実際の所、聞き覚えはある。

……あれ?
呂布と王允の関係っていうか、この組み合わせ……いいのか?


「(……管輅……たしか、曹操に関連して、演義に出てきてたような……)」

「……白石殿?」

「ん?あ、ゴメン。ちゃんと聞いてるから、続けて」

「それで、その管輅が言うには、『この乱世を救うべく、天より遣わされた御方が舞い降りてくる』と言うものであります」

「ふーん……つまりはその、天よりどうのこうの、って言う人を見つけに行こうとしてた、と?」

「……………(コクコク)」


……相変わらず無口だな、この呂布……
必要最低限しか喋ろうとしないっていうか……
いや、それでも足りてないんだけどね?


「……………」

「ん?どうした、陳宮?」

「まさかとは思いますが、白石殿。あなたが天より遣わされた御方だったりとかは──」

「無いな」


まぁ即答だろ、ここは。
そんな神格化されるような人間じゃないし、俺。


「恋殿はどう思われますか?」

「……………」


じっと見つめられる。
考えてることまで見透かしてそうな位、じぃっと見つめてくる。
……気恥ずかしくなってきた。


「……分からない」

「分からんのかい」


何だか、物凄く気疲れした……
言葉遣いまで変わるくらいに……

まぁ、俺が天界から遣わされたとか言う、そんな救世主で無いことは、俺が一番よく分かってるから、それでいいか。
……とは言っても、結構重要な問題があるんだよなぁ……


「そういえば、白石殿は今後、どのように考えているでありますか?」

「だよねぇ……」


ここが本当に三国志の時代かどうかは分からない。
とりあえずは、俺がつい昨日までいた世界ではないんだろうな、っていう感覚があるくらいだ。
兎にも角にも、まずはフランチェスカに、元いた場所(世界か?)に戻りたい。

……ただ、現状では不可能と言っても間違いじゃないとは思える。
理由はいくつかあるけど、一番大きいのが、手段が分からないこと。
もっと言えば、その手段を調べるために、どういった人を頼ればいいのかも分からない。
何をするにしても、問題が山積みになっている。

しかもこの後、呂布達と別れて一人で生きていけるかと聞かれれば、正直な話、自信がない。
自炊の経験があるとかないかとか、そんな話じゃない。
さっきみたいに、人を殺すことを、そこまで問題視しない輩がいるっていう事実があるからだ。

例えば、さっきまでいた茶屋に、住み込みで働かせてもらえたとする。
生活していく分には問題ないだろうし、上手くいけば、どこかから情報が転がり込んでくるかもしれない。
でも、人殺しの連中が集団で村を襲ってくれば、命の保証はない。

仮にここが三国志の世界だったとして、さっきの輩の外見的特徴を見ると、黄巾の乱が始まった辺りかな?
そんな危なっかしい時代に、一人で生きていけって言うのは、死刑宣告と何ら変わりない。


「……まいったなぁ」


知らず知らずのうちに、言葉が口を衝いて出てた
それを敏感に聞きとっていたみたいだ。
呂布は俺に真正面に立って、2・3回小さく頷いた。


「……いや、頷かれただけじゃ流石に分かんない」

「……直詭も、一緒に行く」

「一緒に行くって、王允さんの所に?」

「……………(フルフル)」


首を横に振られた。
どうも、呂布の真意は掴みにくい。


「恋殿?」

「……一緒に、戦う」

「……………え?」


戦うって、何と?
……あの、これまでの人生で持った武器らしい武器って、せいぜいが竹刀くらいの人間なんですが?


「恋殿、どうしてそこまで、白石殿に肩入れを?」

「……………(フルフル)」

「(自分でも分かってないのか?)」


よく分かんないけど、俺をどこかに仕官させてくれるのか?
確かに、演技は熟読したけど、あれはあくまで小説っていうか……
武術の心得なんてものは……ない、な。
部活も幽霊部員だったし……


「あの、正直な話、嬉しいんだけど……」

「恋殿の御誘いを断るのでありますか!?」

「そうじゃなくて……俺にはそんな、戦闘技術とかは持ち合わせてないし……」


って言うか、戦だとか紛争だとか、そんなのと無縁の世界だったからなぁ……
急に「戦う」って言われても、物怖じするって……


「軍略には明るくないので?」

「そんな知識は、多分ないよ。これから身につけろって言われれば、出来るかもしれないけど」

「……白石殿、今までどのような場所にお住まいで?」

「そうだな……一言でいえば、平和な場所、かな?」


少なくとも、武器を持った輩がうろついてるなんてことはなかったな。


「武術の訓練も、したことはないのですか?」

「無い、と言っても過言じゃない。簡単な護身術くらいなら、多少は習ったけど」

「うむむ……恋殿、ねねは賛成できませぬが」

「……大丈夫」


根拠がないよ、呂布さん……?
とか何とか思いつつも、ちょっと乗り気だったりする俺がいる。

嘘か本当かは置いておくとして、目の前にいる少女は“呂布”と名乗っているんだ。
さっきもその武術の片鱗を見たけど、一緒にいれば、死ぬ確率は軽減するだろう。
初対面の俺を、意外と買ってくれてるみたいだし。


「……恋が、教える」

「(一気に断りたくなった)」

「それなら大丈夫でありますね!」

「(何も大丈夫じゃない……)」


神様、もしいるなら、ちょっと来てくれない?
あんたの顔面、骨格が変わるまで殴るから……











「へぇー、結構大きいんだ」


漸く着いたその場所は、一個人の物としては十分すぎるくらい大きな屋敷だった。
何と言うか、入るのに抵抗さえ感じるくらいに……


「……ただいま」

「ただいまであります!」


二人の声に呼応して、一人の女性が出てきた。
……ただ、すぐに俺はその女性から目を背ける結果になったんだけど……


「おかえり〜♪」

「せ、せ、せ、星羅殿!またそのような恰好で──」

「だって〜、お風呂から上がったばっかりなのよ〜?」


星羅──王允のことだけど──の格好って言うのが、バスタオルを体に巻いただけの格好。
しかも、本当についさっき風呂から上がったみたいで、随分と長い藍色の髪も、目のやりどころに困るような胸元も、完全には乾いていない。
もっと言えば、呂布や陳宮以上に豊満なその胸のせいで、後ろを向いていないと話も出来そうにない。


「陳宮、早く何とかしてもらって」

「あらぁ?音々音ちゃん、そっちの男の子は?」

「……直詭」


呂布が代わりに答えた。
ただ、名前だけ聞かされて、王允も何が何だかといった様子(だと思う)。

とりあえず、俺は呂布に連れられて、食卓へと向かった。
陳宮は、王允の着替えの手伝いと、ついでに俺とあった経緯を説明してくるらしい。
曲がり角を曲がって、王允と陳宮が見えなくなった瞬間に、何やら悲鳴が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにしよう。


「あ、落ちちゃった♪」

「だ、だ、だ、だからそのような恰好は──」

「でも、私の部屋までもうすぐだし、いっか♪」

「よくないでありますー!」


……意外と、陳宮って苦労人なんだな、この屋敷の中だと……





俺と呂布はと言うと、食卓に着いても何も喋らない。
……いや、俺からは話しかけてるんだぞ?
でも、呂布の返事と言うのが


「……………(コクッ)」

「……………(フルフル)」


──の二種類だけ。
傍から見れば、俺が一方的に喋ってるだけみたい。
何となく気疲れしたから、二言三言で会話(?)は終了した。
そう思った矢先だった。


「……真名」

「……………ん?」


ちょっと油断してたから、不意に話しかけられて少し驚いた。


「どうかした、呂布?」

「……………(フルフル)」


また首を横に振る。
でも、さっきまでとどこか違う。

さっきまでの会話でも、呂布は首を横に振ることはあった。
でも、その際に表情が変化していたことはない。
基本的に、ずっと無表情だ。

それが、今回に至っては、どこか嫌そうな表情で首を振った。
何かまずい発言でもしたか、俺?


「……恋」

「呂布の真名だろ?陳宮が言ってるの聞いてたから、知ってはいるよ」

「……呼んでいい」

「え?」


唐突だった。
いや、唐突過ぎるだろ、これは!?


「なんでまた、急に?」

「……ねねは、真名で呼んでくれる」


そりゃそうだろう。
呂布と陳宮は付き合い長そうだし。
対して俺は、つい半日ほどの付き合いだ。
そんな簡単に、真名って許していいのか?


「でも、真名って神聖なものじゃなかったっけ?」

「……………(コクッ)」


ここに来る道中、陳宮に一応聞いた。
真名って、心を許した人にしか教えないとか何とか……
一応、今は許可をもらったとはいえ、本当に呼んでいいのか?


「……直詭も、恋と一緒に戦う」

「ま、まぁ……戦うかどうかは置いておいて、今後行動を一緒にさせてもらえるんだよね?」

「……………(コクッ)」

「だから、真名を教えるの?」

「……………(コクッ)」


……まぁ、価値観は人それぞれって言うし、呂布本人が良いっていうなら……


「じゃ、じゃあ……れ、恋」

「……………」


嬉しそうに微笑んだ。
……自分でも分かるくらい、赤面してる。
その位、今の笑顔にはドキッとさせられた。


「……俺も礼儀上、真名を教えた方がいいんだろうけど、そんなもの無いからなぁ……」

「……………?」

「いや、俺が親からもらった名前って言うのは、名乗った“白石直詭”しかないんだ。“真名”っていうのが、自分でつけるのか、親からもらうのかは知らないけど、現段階では俺に真名は無い」

「……………」


何だ?
呂布──恋が、物凄く気まずそうな表情してるけど……


「恋──」

「コラァーー!!!」


話しかけようとした瞬間、物凄い怒声がそれを遮った。
その方向に目をやれば、当然のように、陳宮と王允がいた。

陳宮はともかく、王允さん、もうちょっと服装考えようよ……
否が応でも目を逸らしたくなる。
ヘソの少し下くらいまで、上の服の真ん中の部分が無いんだから……


「白石殿!何を、恋殿の真名を呼んでいるでありますか!」

「いや、まさに今し方、許可貰ったんだけど?」

「嘘を言うなであります!恋殿がそう易々と、御自分の真名を教えられる筈が──」

「……ねね、直輝は、嘘言って無い」


恋の助け船に、陳宮は面食らったようだ。
口をただパクパクさせて、言葉を発せられないといった様子。


「あらあらぁ♪もう、そんなに仲良しになったのねぇ、私も嬉しいわぁ」

「せ、星羅殿まで……」

「じゃあ、私も教えようかしら♪私は王允。性が王で、名が允で、字が子師で、真名は星羅よ、よろしくね直詭君♪」

「はぁ、宜しくお願いします」


恋が許したっていう理由だけで、いとも簡単に教えてくれた。
そんなんでいいのか?
あと、喋り方が独特すぎて、聞いててくすぐったい……


「それで?直詭君の真名は、何て言うの?」

「あ、それなんですけど……」

「無理に敬語で喋ってくれなくていいわよぉ♪恋ちゃんも音々音ちゃんも、私の本当の娘みたいに思ってるの。後一人、息子が増えたと思えば、嬉しいものよ♪」

「……………(やりにくいな、この人)」


良くも悪くもマイペースすぎて、非常に絡み辛い……
正直、苦手なタイプだ。


「それで?」

「あ、あぁ……俺には真名っていうものが無いんですよ。元いた世界(?)に、そんな文化みたいなものがなかったんで」

「あらあら?じゃあ、直詭君は、初対面の私たちに、真名を教えてくれたってこと?」


なんでそうなる?
……でも、分からなくもない、な。
真名の無い世界から来た以上、“直詭”以外に名前の無い俺にとっちゃ、これが真名みたいなもんか……


「じゃあ、音々音ちゃんも教えないとね♪」

「た、確かに……白石殿は真名を教えて、ねねは教えないというのは、不条理であります」

「あ、いいよ、気にしなくて」


若干、意固地になって教えようとしてた陳宮を、俺は手と言葉で制した。


「どうしてでありますか!?ねねは、ねねの真名は、どうでもいいということでありますか!?」

「そうじゃないって……俺は、“誰かに言われたから何かをする”っていうのが嫌いなだけ。陳宮が、恋や星羅さんへの義理立てとかじゃなくて、本心から呼んでいいって言うまで、俺は呼べないよ」

「……し、失礼したであります」


半分、陳宮は涙目だったのが見て取れた。
気付かれないようにと俯いていたけど、声が震えてたから隠し切れてなかったし。


「奇特な考え方ねぇ、直詭君♪」

「それ、褒め言葉ですよね?」

「当然よ♪じゃあ、晩御飯にしましょ♪今日は久しぶりに、私が腕を振るっちゃう♪」

「「……っ!!」」


星羅さんの言葉に、恋も陳宮も身を震わせた。
……そんなにヤバいのか?


「せ、星羅殿!な、何も星羅殿が腕をふるわなくても……」

「……!(コクコクッ)」


恋の首を振る音、“コクコクッ”って言うより“ブンブン”だったような……





とりあえず、結果はどうなったかと言うと──
今度から、星羅さんが料理を作るって言った時には、気絶させてでも止めるべきだと理解した。




後書き

オリジナル武将第一弾、王允こと星羅です。
実は、前もって言っておくべきだったんですが、私は小説版の恋姫無双は読んだことがありません。
なので、「小説の方で、もう出てるよ」とか、「小説と真名(その他諸々の設定)が違うよ」いうのがありましても、私は本気で知りませんし分かりません。(オイ
なので、別モノとお考えいただきますよう、御容赦ください。
(買う金が無いんだよ、チクショウ……)

あと、実はまだ迷っている部分があります。
董卓ルートと言っても、虎牢関で連合軍に勝利して──とかいうストーリー、私には書く技量はありません。
なので、史実通り(?)敗戦することにはなるんですが……
その後の、直詭の仕官先を、まだ決めかねています。
予定では、魏か呉なんですけど、まぁそれは追々……
え、蜀?
ハハハ、ナニヲイッテルンデスカwww(マテコラ

ちなみに、直詭の初陣までに、日常編を3〜5話程書きます。
その日常編の最後付近で、どこかに仕官するという形だとは思います。
では、また次回、お会いしましょう。



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