霞に教えてもらって、華雄のいる場所へと向かう。
部隊の準備が整っていれば、都の入り口にいるらしい。
でも、俺が行った時には、その影も形も見えなかった。


「(……まだ来てないのかな?)」


そう思いつつ、何となく遠方へと目を向ける。
映ったのは、何かが砂埃を巻き挙げている様子。
……あぁ、置いて行かれたってことか。


「どんだけ血気盛んなんだよ……」


馬に跨って、その砂埃へと向かう。
ちなみに、まだ騎馬の練習なんてしたこと無いから、賈駆に借りた兵士の一人の後ろに乗っている形だ。

借りた兵士の数は15人。
賈駆曰く、この人たちは「斥候に向いている人材」らしい。
ただ、馬を奔らせるのは良いんだけど、伝わってくる振動が物凄く痛い。


「(もうちょっと遅くしてほしいな……)」

「副官様、どーかしましたー?」

「あ、お気になさらず」


……独特な話し方だな、この兵士も。
語尾を伸ばした、のんびりした喋り方だ。

兵士と言っても、今俺の前に乗っているのは女の子。
何て言うか……態と着物を開けて着てる感じかな?
短めの黒髪をツインテールにした、少し背の低めの女の子だ。


「ちなみに、君の名前は?」

「私ですかー?私、曹性って言―ますー」

「そう、よろしく」

「よろしくーですー」


うん、武将の名前を聞いても、もう驚かなくなった。
これは俺にしては、随分な進歩だな。

名前を聞いた辺りで、漸く華雄の部隊に追いついた。
俺の顔……と言うより、俺が兵士の後ろに乗って来たのを見て、随分と怪訝そうな表情を見せた。


「何の用だ?」

「いや、賈駆に副将として付いて行けって言われたから、こうやって来たんだけど?」

「馬もまともに乗れないのにか?!呆れてものも言えん」


……どうぞ、好きに罵ってください。
大して気にもならないから……


「それに、私に副官など不要だ!早々に引き返せ!」

「……それ、本気で言ってるなら怒るよ?」

「私が冗談を言うようにでも見えたのか?貴様、私を馬鹿にしているのか!?」


……待て、俺よ落ち着け。
一度深呼吸しろ。


「あの、ですね?華雄さ──」

「これ以上無駄口を叩くつもりは無い!引き返さぬと言うなら、私が直々に叱責を加えるぞ!」


……………………
………………
…………

今、俺の中で何かが切れる音が聞こえた。
正直な話、「気のせいだった」で済ませたい音だった。
でも、その限度を優に超えていたから、抑える気も失せていた。


「……華雄、ちょっとだけいい?」

「まだ何か言うつもり──」

「いいから、馬を降りて、こっちに来て」


先に馬を降りる。
別にそんなつもりは無かったけど、随分と威圧的な目で睨んだみたいだ。
華雄の後ろの兵士たちが、どことなく動揺しているように見える。


「……………」


渋々と言った様子で、華雄も馬を降りる。
先を歩いて、兵士たちから少し離れた場所で立ち止まる。
華雄も後ろをついて来てたから、振り返って面と向き合う。


「早くしろ、私は急いで──」

「失礼」


俺は、その一言だけ言った。
そして、俺がとった次の行動に、華雄はただただ目を点にした。


……パチン


聞こえるか聞こえないか、そのくらいの音。
音の大きさ同様、伝わった衝撃とか痛みとかも、非常に小さなものだと思う。
ただ、突然の出来事だったから、華雄の頭の中は真っ白になった様子だった。


「……仮にも、一軍の大将に手を上げたんだ、罰は後でちゃんと受けるよ。でも、少しだけ聞いて」


まだ、華雄は焦点が合っていない様子。
俺が叩いた頬に手を当てて、目をキョロキョロさせている。
でも、そんなことは別にいい。
俺は淡々と、言葉をつづけていく。


「あくまでこれは、受け売りなんだけど……この世に、完璧な人間なんていない。同時に、1人で全てを出来る人間もいない。少なからず、誰かの手を借りないと、人は生きていけない」

「……………」

「俺はまだ、誰かと戦ったり、誰かを殺したりした経験は無い。だからこそ、ほんの僅かの縁でも大切にしたいし、そのための手助けになりたい」

「……………」

「簡潔に言えば、華雄には死んでほしく無い。だから、その手助けをさせてほしいってこと」


……よくもまぁ、こんなセリフがスラスラ出てきたもんだ。
自分の本心を言葉にするのは、結構な数の人が苦手としてることって聞く。
実際、俺もその部類に入るしな。

でも、なぜか今回は、思っていることをそのまま吐きだせた。
言いたいことが言えてすっきりして、俺は大きく深呼吸した。


「……白石直詭、だったな」

「うん、そうだけど……」

「……歯を食いしばれ」


言うが早いか、俺の胸ぐらをつかんで、物凄い力で頬に一撃入れてきた。
予想をはるかに超えた衝撃で、俺は膝から崩れ落ちた。


「……ぅぐ、ごほっ……!」


口の中に、鉄の味が広がる。
何かのかけらの感触もある。
……奥歯が折れたみたいだ。


「……今回は、これで不問にする。行くぞ、直詭」

「……………(コクッ)」


別に、恋の真似をしたわけじゃない。
あまりの痛さで、口が利けないだけだ。


「それと──」

「……………?」

「少々、お前に興味が湧いた。これからは、真名の律と呼ぶことを許してやる」


……意外と、早く許してくれたな。
正直ビックリした。

今度は華雄──律が先に歩いて、俺はその後に続く。
暫く口が利けそうにないから、手で口元を押さえながら……


「皆の者、進軍を再開する!私に続けぇ!」


声高らかに叫び、軍の先頭を行く。
でも、心なしか、さっきよりも進軍の速度はややゆったりだ。
気のせいなのかな……?


「ふ、副官様!く、口から血が出てますー!」

「……………(コクッ)」


気にするな、って言いたいけど、まだ無理そうだな。
痛いって言う感覚とかじゃなくて、麻痺してるような感じだし。


「え、衛生兵ー!」


どたばたと、曹性が衛生兵の元へと走っていく。
他の兵士たちも、俺の腫れた頬だとか、口元に滲んだ血を見て、ざわめきが起きている。
注目されるのは好きじゃないんだけど、この状況じゃ仕方ないか……











行軍すること、大凡1時間ってところか。
敵が野営を張っているのが遠目に確認できる位置まで来た。
律の指揮の元、こちらが動くのに差し支えない場所に、陣幕などが張られていく。
ここら辺の手際の良さは、流石と言ったところだな。

漸く、喋れるようになってきた。
ただまぁ、痛みはまだ引いていない。
兵士から話しかけられても、頬を抑えながらじゃないとキツイ。


「直詭、ちょっと来い」

「ん?」


律に呼ばれて、陣幕の一つに入る。
中には他に、数名の兵士がいた。
その全員が、一つのテーブルを囲っている。


「私たちは今、ここにいる。敵は、この位置だ」


テーブルの上に地図が置かれ、律が指さしながら説明する。
この時代だから仕方ないけど、大分アバウトな地図だな。


「それで、相手はどのくらいの人数?」

「そこまで知らん。だが、私にかかれば、問題では無かろう」


自信過剰と言うか何と言うか……


「とりあえず、斥候は出そうよ」

「必要は無い。相手は烏合の衆……すぐさま蹴散らしてやる!」


……頼むから、ちょっとくらい耳を貸してくれ。
さっきの俺とのやり取り、もう忘れたわけじゃないだろ?


「それとも何か?直詭は、私が簡単に負けるとでも思っているのか?」

「知らないよ……そもそも、律がどのくらい強いかも知らないし」

「じゃあ!他に何か良い案でもあるのか!?」

「だ・か・ら!相手の全容を把握してからでも、遅くは無いって言ってるの!」


ついつい、俺も声を荒げてしまった。
こういう時って、喧嘩口調になると、話は全く進まない。
もうちょっと冷静になろう、うん……


「……あのさ、律は大丈夫かもしれないよ?でも、他の兵の人たちのことも考えてよ」

「私の部隊の者に、賊徒に後れをとる者など──」

「そうかもしれないけど……」


……ダメだこりゃ。
話が堂々巡りで、進展する気配なんて無い。
こう、自分が正しいと思ってる人との会話って、本気で疲れるんだよ……


「じゃあさ、斥候を出して、情報を持って帰ってくるまで待って。その後は、好きに進軍すればいいから」

「……まったく、それが最大の譲歩だぞ?」


やっと折れたよ……


「それじゃ、指示を出してくるから」

「勝手にしろ」


陣幕を後にする。
自分でも分かるくらい、足取りは重い。


「あれー?副官様、お疲れですかー?」

「あぁ、曹性か」


俺を見つけて、駆け寄って来た。
効果音でもつけるとすると、“とてとて”とかか?


「そんな他人行儀に呼ばないでくださいよー。真名で呼んでくださいよー」

「じゃあ教えてよ。まだ聞いてもいないんだし」

「そーでしたっけー?じゃあ、真名は羅々(らら)ですー、よろしくーですー」


なんかこの話し方、気が抜けて仕方がないわ。


「えっと、じゃあ羅々。今からちょっとお願いがあるんだけど」

「はいー、何でしょうー?」

「賈駆から聞いてるけど、羅々達って斥候に向いてるんだって?」

「まー、そーですねー。それが何かー?」

「何人か連れて、相手方を探ってきてくれる?主に、兵数・兵糧・指揮官の人数を」

「りょーかいーですー」


どこで覚えたんだか、のんびりと敬礼して、また駆けだした。
……マズイ、羅々の話し方のせいで、ちょっと呆けてた。

って、言動があんなにのんびりしてるのに、お前足は早いんだな?!
もう見えなくなったよ……


「(人は見かけによらないとは言うけれど……)」


意表を突かれたみたいで、暫く俺は立ちつくしてた。
ほんの一瞬、頬の痛みも忘れてたくらいに……











羅々が出て行ったあと、もう一度俺は、律のいる陣幕へと入っていく。
いつの間にいなくなったのか、中には律1人だけだった。


「律、今斥候を出したから」

「……分かった」


ん、どうしたんだ?
何となくだけど、元気が無いような……


「どうかした?」

「いや、何でも無い……」


とてもそうは見えないって。
なにか悩みごとでもあるのか?


「……律、今はここに誰もいないんだし、悩みがあるなら聞くよ?」

「私の弱みを握ってどうするつもりだ!?」

「どうするも何も……ただ、心配してるだけだけど?」

「……………」


口は開けど、言葉が出てこない。
何か言いたそうなのは十分わかるけど、それを言葉にできないのも良く分かる。


「……直詭」

「何?」


少しして、漸く律が言葉を口にした。


「私は、将としての器はあるか?」

「……何をいきなり──」

「答えろ!今すぐに!」

「……俺には、将の器っていうのが、そもそもどんなのかは分からない。だから俺の価値観で言わせてもらうと、律はまだ、何かを注げるような器じゃないと思う」

「……………」


ちょっと、言いすぎたかな?
でも、どことなく雰囲気の違う律に、嘘だとか世辞だとかは言わない方がよさそうだ。


「自分に自信を持ってるってことは、称賛に値するとは思う。でも、他人の意見を聞き入れないその性格じゃ、人は付き従ってはくれないんじゃない?」

「それは……」

「思い当たる節はあるみたいだね?」


言葉を詰まらせてはいるけど、律も何となくは俺の言葉を理解してくれてるみたいだ。
そのままの調子で、更に俺は言葉を続ける


「俺も偉そうなこと言える口じゃないけどさ、自分が全部正しいってことは、実際問題あり得ないんだよ」

「……………」

「もし、本当に全部正しいなら、それは神様か何かだ。でも、俺も律も、どうあがいても人なんだ、必ず何かしら間違いはある」

「人、か……」

「うん。もっと言うと、人同士が知恵を出し合った結果も、本当に正しいかどうかは分からない」

「……随分と、曖昧だな」


ま、本当に神様の類がいるなら、何もかもに正解はあるんだろう。
でも、所詮は人が出した答えだ。
本当にそれが正解なのか、分かるはずもない。


「──だから、最初の質問に戻るけど、将としての器があるかどうかは、俺には分からない。他の人に聞いても、色んな答えが返ってくるだろうし、その中に答えがあるかも分からない」

「では……私はどうすればいいのだと思う?」

「それこそ、律が自分自身で考える問題だよ。正しいかどうかより、納得できるかどうかを考えて、ね」

「……まったく、天の御遣いとやらは、随分と手厳しい」


お互いに苦笑し合う。
でも、律のその表情は、出会ってからさっきまでとは打って変わって、どこか人間味が溢れてるような……
何て言えば良いか分からないけど、見てて気持ちの良い表情だった。


「副官様ー?どこですかー?羅々が戻りましたよー?」


気の抜けた声で、俺たち2人は少し肩を落とす。


「もうちょっと、言葉遣いはどうにかならないのか、羅々は……?」

「何だ、もう真名を許し合ったのか?」

「まぁね。じゃあ、斥候も戻ってきたし、情報を確認しようか」

「漸く出陣か……待たせおって……」


自分の出番が来たことに、律は純粋に嬉しそうだ。
ただ、対照的に俺の気分は沈んでいくのがよく分かる。

……さぁ、殺し合いが始まる。
自分が生き残れるかももちろん大切だけど、“死”と“殺意”が混濁する場所で、俺は正気で居られるんだろうか……?




後書き

戦闘パートいけなかったーorz(泣
結局、またグダグダで終って、本当に申し訳ないです。

そして、しれっと登場したオリジナル武将、曹性(真名は羅々)
この名前に心当たりがある方、今後の彼女にご期待ください。
あと、独特な話し方を目指したら、読み難さ満点となりました、本気ですいませんorz



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