あっぢ〜〜……
ちょっとマジになりすぎたな。
髪まで汗でぐっしょりだよ……


「ってか律、まだ手が痺れてるんだけど?」

「鍛錬が足りんのだ!私のせいではあるまい」

「いやぁ、律の馬鹿力のせいやと思うで?」

「直詭、大丈夫?」

「怪我はしてないから大丈夫ということにしておく」


恋・律・霞の合計4人で武稽古してたわけなんだが……
律のおかげで手が痺れて、これが痛いのなんの……
やっぱりまだ、あの得物の扱いに慣れてない分が大きいな。
とっさに順手と逆手とを入れ替えて、指を取っ手に引っ掛けるのには慣れが必要だ。


「何でもいいや、取り敢えず風呂やろ?風呂!」

「その意見には賛成だけど……さっさと済ませてくれよ?」


大抵の場合、風呂の順番は女性陣が先だ。
他の兵たちが使ってる風呂でもいいんだけど、広い風呂を独占させてもらえるのはでかい。
多少なり待つことにはなるけど、見返りは大きいから文句は無い。


「一緒に入らないの?」

「……あのな、恋?仮にも俺は男なんだし、別々に入るのが普通なんだよ?」


どこぞのギャルゲ―じゃあるまいに……
そんな展開なんかごめんだ。


「大丈夫ちゃうん?湯に浸かってまえば、どっから見ても女湯で通るやろ?」

「ば、馬鹿を言うな!」

「律に同意……いらんこと言うな、霞」


と言うか、本気で男扱いしてくれない?
そろそろ傷つくよ?


「んじゃ、俺は部屋で待ってるから、終わったら呼びに──」

「あー、御遣い様ー」


羅々?
風呂場の前で何やってるんだ?


「何してんだ?」

「皆様もーお風呂ですかー?」

「せやけど?なんか問題あんの?」

「えとー……ですねー……」

「もごもごせずに、さっさと話せ」


律、こいつはこういう口調なんだから多めにみてやれ。


「んで?」

「はいー。お風呂なんですがー、一回分の薪しかないですー」

「「「は?」」」


思わずハモっちまった。
それはともかく、どう言うことだ?
結構な量の薪は用意してあるはずだろ?


「さっきー、詠様がー薪に水をぶっかけちゃってー」


やってくれたなあの野郎……


「一回分はあるんだな?」

「それはーとりあえずー」

「んじゃ、女性陣は入っちゃって。俺は後から水浴びでもするし」

「「「「えっ?!」」」」


おい、何でそこでみんな驚く?
当然の選択肢じゃねぇの?
俺は女の子差し置いて、自分だけお湯を満喫するようなサディストじゃねぇよ……


「そんなん、ナオキだけ損するやん!」

「そうだぞ?もとはと言えば、詠の失態なんだ」

「直詭、我慢しなくていい」

「ですねー。私たちがー、さっさと上がればーいいんじゃないですー?」


いや、あの、その……
──って、何で俺が責め立てられてるんだよ!
男として当然の対応だろうが!


「俺は最悪、汗さえ流せればそれでいいんだよ。それこそ、濡らした手拭いでも良いわけだし」

「……一緒に、入る」

「そうそう、ナオキも一緒に……はい?」


……いや、言葉が詰まったのは俺だぞ?
恋さん、あなた何を口走りました?


「一回分しかないなら、みんなで入ればいい」

「いや、その理屈はおかしい」


この際だ、女顔と言われても別にいい。
だからって、4人の女の子と一緒に風呂に入るとか……
……羨ましいとか思った奴、むしろ代わってくれ……


「せやな。ナオキも一緒に入ったらいいだけの話やな」

「……ま、こういう事情だし私も別にかまわんが」

「私もーいいですよー?」


何で全員OKなんだよ?!
これだと、断ろうと思ってる俺が悪く見えるだろうが!


「よし、全員一度落ち着け?俺は男で、みんなは──」

「ごちゃごちゃ言わんの!ほれ、恋!」

「……………(コクッ)」

「ちょっ!?」


二人掛かりで連行するんじゃねぇ!
確かに女の子だけど、その実自分ら豪傑の武将だろうが!
抗えるわけないだろうが!


「直詭、服くらいは自分で脱ぐんだぞ?」

「お手伝いしましょーかー?」

「ふ・ざ・け・る・な!」


え、ちょっとマジですか?
マジで混浴とか言う話なんですか?
いや、頼むから──


「俺の、俺の話を聞けー!」











……ハァ、マジかよ……


「いやぁ、やっぱ訓練の後の風呂は格別やなぁ!」

「んー……!こういう時はやっぱり羽が伸ばせるな」

「私もー、雑務処理が終わったあとなんでー、一息つけますー」

「……………?直詭、どうかしたの?」


あのですね恋さん。
何度も言いたくないけど俺は男なんですよ?


「そっち見るわけにいかないだろが」

「なんや〜?ナオキ、照れてるんか?」

「当り前だろうが!生まれてこのかた、混浴なんて未経験なんだよ!!」


背中向けてないとしょうがないだろ!
これだけ肩身の狭い入浴ってのも初めてだ!


「ほれほれ、そんな照れんでええやんか」

「馬鹿、やめろ!手ぇ引っ張るな!」


タオル越しでも透けるから見えるだろ!
霞、もうちょっと羞恥心とかだな……


「直詭、諦めてこっちに来い。折角なんだ、たまには裸の付き合いでもいいじゃないか」

「律……お前が最後の砦だと思ってたのに……」

「御遣い様ー、いい加減にこっち来てくださいよー」


羅々、お前までもか……
言っちゃ悪いけど恋は当てにしてないし……
律までこうだと、何もかもに見捨てられた気分だ。


「あーもう、俺は体洗って即出るからな!」

「ええやん!あ、ちょい待っててや」


なんだよ?
急に湯船から出るなって……
その、だから……見えるだろうが!


「霞、どうかしたか?」

「ええもん持ってくるだけやって♪」


いい物だと?
……悪いが一つしか思い浮かばないんだが……


「直詭、分かる?」

「……予想は着くけど、裏切ってほしいところだ」


どうせ“アレ”だろうしな。
……ほら、予想通りのモノ持って帰ってきた。


「やっぱ酒か」

「ええやろ?こんな機会やし、みんなで飲もおや」


裸じゃ無けりゃ付き合うぞ?


「えー、私はーお酒弱いですー」

「軟弱だな。酒くらい嗜めないでどうする」

「律、その理屈はおかしい」


酒に弱いくらい許してやれって。
言って、俺もそんなに強い方じゃないとは思うけど……


「ほい、ナオキの分な」

「マジで飲む気か?」

「直詭?」

「……分かった、分かったって!」


酒飲むのに、背中向けたままじゃ駄目なんだろ?
分かったよ……
そっち向けばいいんだろ……?


「御遣い様ー、顔が真っ赤ですよー?」

「……普通の反応だ」

「にゅふふふ♪そういうとこ、ナオキはかわいいなぁ」

「かわいいかどうかは別として、確かに直詭、この中で一番女に見えるぞ?」

「直詭、かわいい」


頭撫でなくていいんだよ、恋?
分からないかなぁ……
タオルから片手離したら、胸とか見えちゃうんだぞ!?


「……………?」

「(分かってないか、やっぱり)」

「ほら直詭、さっさとこっちに来い!」

「御遣い様ー、酔ったら介抱してくれますー?」

「酔う前にやめろよ……」

「んじゃ、乾杯〜」


霞の声を合図に、各々コップの中身を飲みほしていく。
湯に浸かってるってのもあるかな、酔いが回るのが速そうだ。


「あー……酔いが回る前に、体洗っちまうわ俺」

「ならー、私の頭ー洗ってくださいー」


ガキかお前は……


「自分で洗えよ」

「えー、いーじゃないですかー」

「恋も」

「おいおいおい……」


便乗してくるなよ。
てか、逃げ口上なのに逃げ道塞ぐなって……


「あ、ならウチも頼もっか」

「まだ便乗してくるか……」


列作ってるんじゃねぇよ!
てか羅々マジで待ってるし……
これ、マジで洗ってやらなきゃいけない感じか?


「お願いしまーすー」

「あーもう、好きにしろ!」


面倒というか小恥ずかしいというか……
もうどうにでもなれってんだ!
やけくそ気味で、羅々の頭洗ってやる。


「ぁきゃっ!くすぐったいですよー」

「知るか」


てか、女の子の頭洗うなんて初めてだぞ?
いや別に、女の子に限った話じゃないんだけどな?
でもなんていうか、感触は良いっていうか、その……
……あー、どんだけ恥ずかしがればいいんだよ!


「直詭、早く」

「ウチも待ってんやで?早よしてな?」


まだ二人も残ってんのか?
律まで便乗してこなくて助かったと思うべきか?


「ほら羅々、あんまり動くな」

「だってぇー、くすぐったいですー」

「……痛くしてやろうか?」


ま、冗談だけどな?
羅々はあんまり髪が長くないから楽だな。
髪質もいいし、洗ってるこっちも気持ちいいな。


「(しっかし黒が良く映えるな)」

「どーかしましたー?」

「いんや、羅々の髪って結構きれいなんだなぁって思っただけ」

「え、え、え?!」


何で今動揺するんだよ?
もっと前に動揺する場面あっただろ?
男と一緒に風呂入るって時点とかさぁ……


「(そ、そーいうことはー、もっと違う時にー……)」

「何か言った?」

「ななな、何でも無いですー!」


変な奴だな。
まぁ、前からか……


「とりあえず、こんなもんでいいか?」

「へ?あーはい……ありがとー、ございましたー」


何でちょっと残念そうなんだよ?
俺の羞恥心の方も気にしてくれって……


「次、恋の番」

「あ、あぁ」


羅々と交代して、次は恋か。
恋も髪はそんなに長くないしな……
それに、羅々と違って、撫でてることもあるから抵抗は少ないっちゃ少ないけども……


「……直詭、上手」

「そうか?」

「……………(コクッ)」


恋もなんか嬉しそうだな。
人の髪を洗うなんて初めてだし、上手とか言われても実感ないんだぞ?


「あ、そうだ。かゆい所とかある?」

「……………?」

「んにゃ、聞いただけだから気にしなくてもいいよ」


理髪店とかだとよく言われるセリフだしな。
なんか、口ついて出ちゃった。


「もうちょっと、上の方」

「上の方?……この辺か?」

「……くすぐったい」


恋まで……
もう照れ臭いとかそういうの通り過ぎたか?
とにかく早く終わらせて、今日はもう寝ようそうしよう。


「ほい、こんなもんでいいか?」

「……………(コクッ)」


何で同じように残念そうなんだよ……
そんなにいいのか?
俺が男だからか分からないけど、よく分からん。


「ようやっとウチの番やな!」

「へいへい」


漸く霞で最後か……
めちゃくちゃ気疲れした気がする。


「霞、結構髪長いな」

「せやろ?よろしゅう頼むで」


髪下ろしたの、あんまり見たこと無かったからな。
へぇー、相当長いんだな。


「こんだけ長いと、洗うの難しそうだな」

「まぁウチも、いつも格闘してるしな」

「だろうな。さすがに洗い方分からんから、その辺許してくれな?」


えっとぉ、どう洗ったらいいんだマジで?
とりあえず頭の方は後にして、先の方から洗ってしまうか。


「(なんだかんだで霞も女の子だなぁ……)」

「どうかしたん?」

「いや?言い方悪いが、ちょっと意外だったって言うか……」

「何がぁな?」

「だから、その……霞も、髪きれいだなぁって思って」

「──っ!?」


体動かすなって。
何だ、霞も動揺したってのか?
言っちゃ悪いが、動揺する場面間違えてるだろ、ほんと……


「ちょっと時間かかるけど、痛くないか?」

「い、痛いことあらへん!だだ、だ、大丈夫や!」

「……何照れてるんだよ」

「(せやかて……ナオキ、そんな風な言い方されたら照れるって!)」


どいつもこいつもまったく……
言いだしたのはそっちだろ?
だったら、照れたりするのは俺の方だってんだ。


「んじゃ流す──冷たっ?!」

「へ?どうしたん?」

「……薪が切れたな、大分ぬるくなってる」


水とまでは言わないけど、これかけられたら冷たいだろうな。


「せやったら、流すんは自分でやるわ」

「あぁ、そうしてくれ」


結局、自分の体とかは洗えなかったな……
ま、汗は流せたんだし、それで諦めておくか。


「恋、もう上がろうか。羅々に律も──って、律?」

「にゃんだぁ?」


酔ったのか、それとものぼせたのか?
顔は真っ赤だし、ふらふらになってるし……
って、ヤバいだろ!


「おい羅々、律を引き揚げろ!」

「は、はいー!」

「霞にも任せていいか?さすがにそこまでは面倒見れないぞ、俺?」

「ま、ええで?髪洗てもろたし。恋、悪いけど手伝おて?」

「……………(コクッ)」


律のことは三人に任せるか。
俺は風呂場の後処理しておけばいいな。
……ったく、結局風呂に浸かりに来たのか疲れに来たのか分かんねぇな……



んで、律はただの湯あたりだったらしい。
酒にはあんまり酔ってないらしいんだが、俺が三人の髪洗ってる間、ずっと浸かってたからな。
と言うか、それが普通なんじゃないの?
あんまり男に裸見られたくないとか、ましてや髪洗ってもらうなんてなぁ……


「散々な入浴だったなぁ、まったく」


……で、何故かはよく分からんが……
髪を洗ってやった三人、律よりも顔が真っ赤だった気がする。
照れるなら最初から言わなきゃ良いのにな。














後書き


日常編二つ目ですね。
あともう一話くらい書きたいです。
特に、最近出番が激減してる音々音とかにスポット当てたり?
ちょいちょい考えてます。

んでまぁ、直詭君の新たな士官先は一応決定しました。
何処になるかは今後のお楽しみということで。
では、次回の投稿はまたしばらく先になりますが、よろしくお願いします。



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