「ローン♪」

「また桃香様〜?もうたんぽぽの点数ないよ〜」

「あわわ……桃香様の自摸の率が高いですね……」

「俺、何もしてないんだが?」


何でこの面子で麻雀なんだか……
桃香・蒲公英・雛里・俺の四人がたまたま暇だっただけなんだろうけど……
と言うかだな、俺はさっき漸くルールを理解したところだぞ?
もうちょっと手加減とかしてくれないかな……?


「はーい、次々〜♪」

「桃香はいいよなぁ、そんだけ点数あればもう勝ち確定だろ?」

「そんなことないよ?ね、雛里ちゃん」

「そうですね……麻雀は運の要素も大きく絡みますが、頭脳戦で負ければ一気に逆転されることもあります」

「たんぽぽじゃ勝てる要素ないじゃん!」


安心しろ、初心者の俺も勝てる要素ないから。


「ほらほら〜、たんぽぽちゃんも洗牌(シーパイ)してね」

「混ぜるけど〜……直詭兄様、どうやったら勝てると思う?」

「桃香の運が尽きるのを願え」

「そんなんじゃ日が暮れちゃうよぉ……もう、こうなったら──」


ん?
蒲公英の奴、何かする気か?
まぁ、麻雀ってそんなに酷いことできないんだろ?
知ってる限りだけど、自分の引きが良いか悪いかだけなんだろ?


「それじゃあ始めるよ〜」


桃香がサイコロ振って、それぞれ牌をとる。
俺の配牌は……悪くはないと思う。
と言うか、あれ?
字牌が一つもないな……


「(理牌(リーパイ)してみないと分からん……)」

「ほらほら、次、直詭さんの番だよ」

「へ?あぁ、もう桃香も雛里も牌を切ったのか」


二人とも字牌切ってるな。
ただちょっと待てって、まだ並べ終えてねぇ……


「直詭兄様、早く早く」

「急かすなって。よっと」


引いたのは筒子(ピンズ)の3だな。
んで、えっと……いらないのを切ればいいんだよな?
取り敢えず理牌して──あれ?


「どうかしたの?」

「いや……和了(あが)ってる……」

「えぇ〜?!」

地和(チーホウ)……直詭さん、すごいですよ……」

「さっすが直詭兄様!これで桃香様の点数が大幅に減ったね!」


地和?
そんな役、まだ覚えてないんだが?


「……結局、これはどういうものなんだ?」

「一言でいうと、役満だよ」

「役満……マジで?」

「だからみんな驚いてるんだよ。直詭さん、そんなすごいの和了るとか……」


これが話に聞いた役満……
いや、もうちょっとすごいものかと思ってた。
聞いたことがあるのは“国士無双”とかぐらいだけど、そもそもどんな形か分かってない。
てか、なんで蒲公英はさっき喜んでたんだ?
俺が自摸(ツモ)で和了ったんだから、蒲公英からも点数もらえるんだろ?


「じゃあ、親が変わって雛里ちゃんだね」

「はーい、洗牌〜♪」

「……………」


まさかとは思うけど、蒲公英の奴、何かしたのか?
桃香の親番が終わってやたらと嬉しそうだが……


「〜〜〜♪」

「(何考えてんだか……)」

「では、私から切りますね」


取り敢えず、俺の配牌は……
……コレはどういう事だ?
牌の種類が5個しかないんだが……
詳しく言うと、筒子の5が3つ・筒子の7が3つ・索子(ソーズ)の4が3つ・萬子(マンズ)の1が2つ・萬子の8が3つ……


「(さっきからどうなってんだ?)」

「直詭兄様、引いていいよ」

「あ、あぁ……」


まさかまた地和なんてことはないだろう……
……ホラな?
引いたのは索子の4──ん?


「(これはどうしたらいいんだ?)」

「切らないの?」

「(よく分かってないけど、4つもあったら邪魔だしな……)」


取り敢えず自摸ったやつをそのまま切る。
……蒲公英?
何でそんな唖然としてんだ?


「蒲公英の番だぞ?」

「切っちゃっていいの、それ?」

「多分いいと思う」

「……………」


開いた口が塞がらないって言うのを生で見させてもらった。
いや、さっさと引けよ?
何を信じられないとでも言いたげな顔してんだよ……


「たんぽぽは、これでいいや」


そこから6巡くらいかな。
俺は自摸切りばっかりだけど、他の皆は入れ替えたりしながら切っていく。
その間にも、一応ルールブックには目を通す。
この役は、えっと、三暗刻(サンアンコウ)対々和(トイトイホウ)でいいのか?


「……………」

「ん?」


今、蒲公英が何かしたように見えたけど、気のせいか?
っと、俺の自摸番だな。
引いたのは……筒子の5……
また4つになったよ、どうすりゃいいんだ?


「(えっと……ルルブには──あぁ、4つで(カン)ってのができるのか)」


素人目に見ても、まだみんな聴牌(テンパイ)してない、だろう……
それに“暗槓は栄和(ロン)されない”って書いてあるし、ちょっとやってみるか。


「これ、槓な」

「そこ槓するんですか?」

順子(シュンツ)出来辛くなっちゃったよぉ」


何を嘆いてるかまだよく分かってないけど、引いていいよな?
えっと、槓の場合、嶺上(リンシャン)牌ってのを引ける、と……
嶺上牌は、あぁあれか。
さて、と──


「あぁ、和了りだわ」

「また直詭さん?!」

「えっと──自摸・三暗刻・対々和……でいいのか?」

「違うって、直詭兄様。それも役満。四暗刻(スーアンコウ)って言うの」


まだ役満のページまで読んでないのにわかるか……
てか、なんだと?
二連続で役満だと?
……そんなに出やすいものじゃないんだろ?
これだけ点数高いってのに。


「うぅ〜、また役満〜?そろそろ点数が厳しいよぉ」

「私も同じくです、あわわ……」

「やったね直詭兄様!これで一位確定じゃない?!」


それはいいんだが……
何でこんなにうれしそうなんだ、蒲公英は?
これだけ高い点数の役を和了ることもそうだけど、相手が和了って喜ぶ蒲公英も不思議だ。
変なこと企んでるんじゃないだろうな?


「んじゃあ、次は俺の親番だよな?」

「そーだよ」


また洗牌して──ん?
蒲公英の奴、変に積むの遅くないか?
気のせい、じゃないよな。
なにせ、初心者の俺と同じくらいの速度っておかしいだろ。
桃香も雛里も、もう積み終ってるし。


「(……何か仕掛けてる?いやでも、麻雀でそんなことできるのか?)」


……まぁ、まだ分からないことだらけだし、余計なことは言わないでおくか。
えっと、俺の配牌はっと。
今回は適度にばらけたな。
この中でいらないものとなると、やっぱり字牌かな?


「じゃあ俺はこれ──」

「ローン♪」

「へ?」


一巡目で栄和?
てか蒲公英、お前マジで何か仕込んだのか?


「ふっふーん。直詭兄様、人和(レンホウ)・純正国士無双の三倍役満だよ♪」

「……点数が分からん」

「96000点♪」

「そんなにあるのか!?」


いや、一気に飛んだぞ?
これ、マジで仕込んでたとみるべきか?
でも今更言及したって──


「蒲公英ちゃん……今、イカサマしましたよね?」

「何のこと〜?」

「見えましたよ?直詭さんが切る直前、自山から一気に全部入れ替えたの」

「えぇ〜?でも、だったとしても今更じゃない?」

「ま、まぁ?仮にイカサマだったとしても、俺には分からないし、もっかい仕切りなおせばいいだけだろ?」


別に金賭けてるわけじゃないし……
だから雛里、そんなに不服そうな顔するなよ。
と言うかだな、そんな表情になるのは俺であるべきだろ?
一気に飛んだんだぞ?


「んー、何だか分からないけど、次の局に行ってみよっか」











んで、大体6回くらいやったかな。


「なーんーでー?!なんで蒲公英がビリなのー?!」

「あはは……なんだかんだで雛里ちゃんが一位だね」

「頭を使う要素もふんだんにある勝負事で負けるわけにはいきませんので」

「俺も健闘した方だろ?」


一回休憩をはさむってことで、これまでの点数をトータルしてみた。
何故か俺はビリじゃなく三位に収まってた。
まぁそりゃ、蒲公英が調子に乗って立直(リーチ)しまくって、雛里に栄和されまくってたせいだな。


「納得いかないー!早く、兄様次早く!」

「ちょっと休ませろ。何か飲み物取ってくるから」

「私もお手伝いします」


雛里と二人で厨房へ向かう。
そういや、さっきイカサマとか言ってたよな。
やろうと思ってできるもんなのか?


「なぁ雛里、蒲公英のやったイカサマってどういう物なんだ?」

「ある場所では“燕返し”と呼ばれているイカサマです。最初に自山の下段に和了りの形を仕込んでおき、他の面子が気を取られた隙に、最初の手牌とその仕込んだ牌を入れ替えるものです」

「聞くだけだと簡単そうだけど……?」

「かなり難しいですよ?蒲公英ちゃんがすんなり成功させたのには驚きました」


それを見切った雛里もすごいと思うが……
えっと、13枚まとめて入れ替えるってことか?
そんなことよくできたな蒲公英の奴……
でも、麻雀にもそんな裏技があったとはなぁ……


「あ、直詭さんは間違ってもやっちゃだめですよ?」

「初心者ができることか?」

「そうではなくて……」

「分かってるって。出来てもやらないよ」


一人でやるゲームならともかく、複数人でやるゲームで裏技はあまり使いたくない。
それがイカサマって言うなら猶更だ。
ゲームバランスが崩壊するし、何より面白くなくなる。


「ん?ひょっとして、さっきから蒲公英ばっかり狙ってたのって……?」

「あわわ……気づいてました?」

「そりゃあんだけ付け狙えばな」

「うぅ〜……もうちょっとさりげなくやればよかったです……」

「……って言うか、あんだけ付け狙えたってことは、雛里もイカサマしてたのか?」

「“ぶっこ抜き”とよばれるものです。自摸って手牌に組み込む直前に、自山の牌とすり替えるんです」


そんな技まであるのか……
麻雀って奥が深いなぁ……


「ん?でも、それするには自山の牌の配置とか……?」

「自分で積んだものくらいは覚えてますよ?どこにどの牌を積んだかぐらいは」

「マジか……」

「桃香様も蒲公英ちゃんも、覚えてますよ多分」

「そりゃ俺だけ牌の選択が遅いわけだわ」


何を自摸るか分かってるなら、予めいらないものの取捨選択ができるもんなぁ。
何だよ、運要素だけで勝とうとしてた俺が馬鹿みたいじゃないか。
思いっきりハンデ背負ってたってことだろ?


「でも、直詭さんも、読みが大分当たるようになりましたよね」

「あぁ……最初は、他の誰かに合わせて切ってたけど、それだけじゃ回らなくなってきたから」

「麻雀に限らず、頭を使う遊びは場数踏めば踏むほど得意になるものです。それなりの数をこなせば、きっといい打ち手になりますよ」

「麻雀で食っていくわけじゃないけどな」


そんなのは元いた世界のプロに任せるよ。


「それより、飲み物だけ持っていきます?」

「いや、小腹も減ったし、適当に何か作るよ。手伝ってくれる?」

「はい」


点心でも拵えればいいかな?
ま、どうせ蒲公英がまだごねてるだろうし、しばらくは続けるんだろう。
ちょっと多めに作っていってもいいかな。

それにしても、この時代で面白いゲームに出会えたもんだ。
今回の面子以外とも打ってみたいな。
勿論、イカサマは無しで、な。












後書き

ちょっと今回短めです。
麻雀は好きなんですが、いざ書いてみるとなると難しいと思い知りました(;^ω^)
多分もう題材として取り扱うことは無いでしょう(オイ
あ、皆様も麻雀でイカサマはしないでくださいね^^

てか気づいたら記念すべき50話なんですよねぇ……
……もうちょっといいの書けばよかったかな……(オイオイオイオイ


では次話で



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