「敵は籠城戦を選んだようですね」

「こちらの弱点を見抜いての事でしょう」

「こっちの兵糧が尽きたころに逆撃するつもりでしょうねぇ、わちきらの唯一の弱点ですし」


日の出とともに出陣を開始した。
目の前にはもう、黄忠の守る城が見えている。
俺たちの現状を、軍師のお三方が分かりやすく説明してくれた。
……あれ、詠と音々音は何も言う事ないのか?


「攻城戦はつまらないから嫌なのだぁ……」

「贅沢言ってる場合か?」

「だが、鈴々のいう事も一理ある。桃香、どう攻める気だ?」

「んっとね、頑張って攻める!」


無茶苦茶だがそれしかないか……
こっちに要求されるのは、できるだけ早く、できるだけ損害を少なく。
その二点に絞られるだろうな。


「なぁ、黄忠を説得するってのは無理なのかな?」

「翠の言いたいことも分かるし、それも可能と言えば可能であろう。だが、いきなりは無理だとは思うぞ」

「まずはこちらの力を示してから──と、そう言いたいのか、星?」

「あぁ。口でどれほど言ったところで、相手は良将黄忠……実力を示さないことには始まるまい」


それは尤もだ。
まず、こっちの力をしっかりと示す。
その後は……


「桃香がカギになるな」

「うん!私、黄忠さんは話せば分かってくれるって思ってる!」

「桃香お姉ちゃんは相変わらず甘いのだ」

「ま、それが桃香の良さなんだろう……変だとは思うが」

「あー、また直詭さん、私の事変って言ったぁ!」


桃香の反論虚しく、他の面々からも「変だ」と言う声は上がる。
しょんぼりとする桃香には悪いが、どう見ても変だからな?


「……ま、変とは言いつつも、俺も何となく説得はうまくいく気がする」

「ほんと?!」

「ただの勘だ、当てにすんな」


歴史を知っているから、とはさすがに言いたくない。
こっちの世界だと、歴史が大幅に変わってることだっていろいろある。
……例を挙げればきりがないかもしれないが……


「とりあえず、黄忠さんを説得するって言うのも基本方針にしていい、朱里ちゃん?」

「難しい基本方針ではありますが……」

「きっと大丈夫だよ♪」

「お姉ちゃんは相変わらずお気楽極楽なのだ」


んー、多分、鈴々には言われたくないだろうに……


「まぁ、桃香様のお気楽はともかく、すべては黄忠次第となりましょう」

「そうだな。今は、敵城へと無心で向かいましょう、桃香様」

「……うぅ〜、皆がいじめる〜……」

「何でもいいからほら、桃香」

「……うん……じゃあみんな、行こう!」

「御意。では各員、敵の奇襲に備えつつ前進せよ」


愛紗の号令に、兵の皆が気合のこもった声を上げる。
さぁいよいよ敵城目前……
何が出てもいいよう、心しておくか……











「敵城に動きはありません。やっぱり、籠城するみたいですよ?」

「ご苦労さん、摘里」


侵攻して、もう目と鼻の先まで近づいた。
だが、摘里からの報告は今聞いた通り。
妥当な判断だとは思うが、こっちにとってはやり辛いな……


「そう言えば、敵の数ってどれくらいなんだ?」

「やく6万ですね」

「6万?!あたしたちは5万……この兵数差だと──」

「攻城戦するにはマズいのだ?」

「攻城戦の場合、普通は籠城する敵の三倍の兵数が必要とされていますからね」


ちとマズイ気もするな……
ただ、その割には軍師の面々は落ち着き払ってる。
何か打開策でもあるってことかな?


「ただ、今回に限ってですが、兵数差を気にする必要はないかと」

「え?そうなの?」

「はい。益州の主要都市に工作員を放ち、情報収集と同時に流言を流すように指示を出しています」

「各地で桃香様の入場を待つ民たちの声が集まってますし、桃香様の入場を煽るための工作も、雛里ちゃんがしてくれたんだよねぇ」

「……ってことは、黄忠のいるこの城にも?」

「はい。諷陵入城の時点で工作員を放っています」


そうなると、高い確率で混乱が起きるだろうな。
その混乱を収めるのと同時に、黄忠はこっちとの籠城戦……
相手の立場になると、かなりしんどい戦ってことになるな。
いやはや、軍師の考えることは時々末恐ろしい……


「いやらしい手だが、効果は抜群であろう。朱里、作戦は?」

「はい。まずは全軍を展開します。その後、攻め立てつつ城内に向かって矢文を放ちます」

「矢文?そんなの放ってどうすんだ?」


……いや、翠?
そのくらいはさすがに分かってほしいぞ?


「翠は鈍いのだなー。桃香お姉ちゃんが来たって城の中の民たちに教えてあげれば、中で混乱が起こる可能性が高くなるのだ」

「ただでさえ、雛里のお蔭で混乱が起きやすくなってるからな」

「あ、そっか……で、でも、鈴々に鈍いって──」

「大丈夫大丈夫、翠姉様は鈍いんじゃなくて抜けてるだけだから」

「成程成程……って、誰が抜けてるんだコラ!」


はいはい、漫才はその辺にしとけ?


「あはは、じゃあ翠ちゃんの可愛いところも見れたことだし、部隊を展開しよっか」

「……うぅ、桃香様、可愛いとか言わないで──」

「照れてる姉様もカワイイ〜♪」

「ほらほら、じゃれてんじゃねえよ」

「はぁーい、直詭兄様♪」


まったく蒲公英は……
性質の悪い奴と言うかなんというか……
この状況で味方を引っ掻き回すのはやめてもらいたいんだが……


「では、部隊の展開に移ります。先鋒は翠と鈴々、左右は私と星が受け持ちます」

「……私は?」

「白蓮ちゃんは本陣で待機でいいんじゃないかな?攻城戦に騎馬隊は使わないし」

「だな。予備戦力として温存する方向でいいと思う」

「んじゃ、俺はどうすれば?」

「直詭殿は桃香様の護衛をお願いする。あ、あとは──」

「……あとは?」


何だろうか、すごく嫌な予感が……


「袁紹たちが暴走しないようによろしくと言う事だ」

「……最悪……睡眠薬とか誰か持ってない?割とマジで」

「さ、流石に酷過ぎない?」

「……良い案ですね〜」

「ちょっ、朱里ちゃん?!」

「はわわ……じょ、冗談です……」


いや、冗談じゃなくてよかったんだが……
俺一人で抑えきれるかな、あの面倒事……
ま、最悪白蓮にも犠牲になってもらえばいいか。
てか、俺以外の面々が穏やかに笑ってんのが腹立つ……


「さて、と。皆もひとしきり笑ったみたいだし、そろそろ攻撃に移るよ!みんな、気合入れていこう!」

「「「「「応!!」」」」」











攻城戦がつまらないという、鈴々の言葉は正直正しい。
なにせ、どれだけ突っ込んでも、人の力で城壁を打ち崩すには厳しいものがある。
勿論、相手の抵抗があるというのもあるが、物理的な問題も大きい。
城門を打ち破るために用いられる破城槌などがまともに使えなければ、自然、相手側から門を開いてくれるのを待つしかない。
それまでできることと言えば──


「関羽隊、斉射を続けろ!先鋒の鈴々達を支援するのだ!」

「趙雲隊も続け!翠達を後押ししろ!」


城壁の上にいる弓隊めがけて弓を射かけることが、こちらの基本方針となる。
先鋒たちが突っ込んでいくのをアシストするのも勿論重要だ。
はてさて、どのくらいの時間がかかるのか……


「おい桃香、そんなに前に出んな」

「でもっ……!」

「……信じてんだろ?」


桃香の心は強い。
それは理想や信念を曲げないという部分だけじゃない。
誰かを信じる心も頑なだ。


「信じてる!もちろんだよ!」

「ならここで待ってろ。動くべき時は必ず来る」

「……うん!」


たったこれだけ言っただけで、自分の役割を再確認できる。
……やっぱし桃香は強い。


「……チッ!」

「へ?きゃぅ!?」


後ろに構えてる本陣とは言え、流れ矢の一つや二つ飛んでくる。
そんな露払いも俺の役割でもある。
偶然なのか、桃香目掛けて飛んできた流れ矢を刀で叩き落とす。


「……もうちょっと下がるか?」

「ううん、ここでいいよ」

「なら……いいって言うまで微塵も動くな?」

「え、何で?」

「流れ矢を撃ち落とすのは集中力ってのがいる。矢が飛んでくる位置が逐一動かれると面倒でね」


流れ矢とは言え、敵の中にももちろんいるだろう。
桃香を討ち取ろうと思ってる兵の一人や二人ぐらい……
だから、流れ矢の中に混ざって、本当に桃香を狙った矢が飛んでくることもある。
つまりは、それを撃ち落とす必要があるんだが……


「直詭さん、言ってることがよく──」

「ほら、また来たぞ?」


桃香は、行ってしまえば“的”だ。
その的が動けば、飛んでくる矢の軌道も変わる。
毎回毎回、軌道が変わったら、撃ち落とすために使う集中力も変わってくる。
だから桃香には動いてもらうと厄介なんだ。


「……直詭さん、よく撃ち落とせるね」

「そうだな……恋のお蔭って言うのもあるけど──」

「??他に誰かのお蔭とか?」

「……あぁ、過去に、そういう訓練に付き合ってくれた“部下”がいた」


もう、いないんだがな……


「ん?」

「どうかしたの?」

「……雛里!」

「はい。城門近くの動きが変わりました!」


もう間もなく城門も開くって感じか。
ま、予想よりも断然早いな。
……そりゃそうかもしれない……


「黄忠だけじゃなくて、兵たちにも迷いがあるってことか。雛里の策、十二分に効果があったみたいだな」

「流石雛里ちゃんだね。じゃああとひと踏ん張り、愛紗ちゃんたちには頑張ってもらおう!」


さぁて、鈴々達にはもう少し頑張ってもらうとして、だ……
ちょっとあっちの方も気になってるし……


「白蓮、いるか?」

「呼んだかー?」


呼んだらちゃんと来てくれた。
俺はあんまりここを動くわけにはいかない。
まだ、流れ矢の不安があるからな。


「袁紹たち、何してる?」

「それがだな……」


溜息吐きながら、面倒くさそうな顔してやがる。
まぁ、何となく察しはつくんだが……


「腹が減ったとかなんとかうるさくてな」

「マジで睡眠薬飲ませたほうがいいんじゃね?」

「直詭がそう言いたくなるのも分かるが……」


あの連中放っておくわけにもいかないしなぁ……
なにせ、自分から気づかずに面倒事を起こしていくから──
……いや止そう、何言ったって無意味だ。
だって相手は袁家だぜ?


「まったく……予備戦力を温存しておけって言われたかと思えば、結局私が貧乏くじ引かされるとは……」

「なら俺と代わるか?流れ矢の絶えないこの場所と」

「そ、それも嫌だな……私は全矢撃ち落とせる自信とか無いし……」

「なら貧乏くじで我慢しとくんだな」


このまま白蓮は袁家の面倒見係で固定されそうだな。
……何かかわいそうだが、代わってやりたいとは思わん。


「……って、ひょっとしてその折れた矢は全部──」

「うん。直詭さんが落した矢だよ」

「こ、この数を……?」

「周到に狙ってくるのがあってな。集中しすぎてしんどい」


さっさと城門開放してほしいもんだ。
もう少しはいけると思うけど、数時間もこれが続けばそのうちマジで桃香に当たる。
ま、その辺は鈴々や翠の力量に任せるしかないが……






「桃香様!城門が開いた!」


──っ!
星の声が響く。
その言葉を待ちわびた!


「分かった!じゃあ、全軍突撃──」

「待ってください!城門の向こうから誰か出てきます!」


朱里の声に足が止まる。
ん、アレって……?


「あの人たち、白旗持ってないか?」

「降参するつもりなのかなぁ?」

「まだ分かりません。桃香様は少しお下がりに」

「え、でも……」


いや、愛紗の言葉は正しい。
大将って言うからには安全な位置にいてもらわないと……


「白旗を持つ人物とは、私と直詭殿で対応しよう。翠達は周辺の警戒を」

「任せとけ」

「あ、俺が行くの?」

「今まで桃香様のお守りでお暇だったと見えました故……付き合ってくださるか?」

「ま、いいよ」


はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……
















後書き

原作に合わせるとどうしても短くなる気が……
何とか伸ばそうという努力はしているんですが、拙くなって申し訳ないです。
……完結、今年中にできるかなぁ……


では次話で



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