成都攻略の戦は、軍師たちの言う通りの結果になった。
なにせ、先鋒の鈴々達と左右の愛紗たちだけで問題がないほどだ。
今回は桃香が前線で指揮を執ってる。
ぶっちゃけると暇だ。


「ああやって指揮を執ってるの見ると、頼もしく見えるんだけどなぁ」

「普段からもうちょっと気張って欲しいって言うのは分かりますよぉ?」

「それはお前にも言えるがな摘里」

「別にわちきはいいんですよぉ。どうせ役立たずの軍師ですし」


自分で言ってりゃ世話ねぇな。
でもなんで嬉しそうに言うかね?


「城門が開くまでにどれくらいかかると思う?」

「んーっとですねぇ、まぁもう間もなくだとは思いますよぉ?」

「根拠は?」

「んーっと、勘?」

「軍師やめちまえ」

「ですよねぇ」


朱里と雛里はどこだ?
こんなと話してたくない。
仮にも緊迫した戦場にいるんだ。
せめてもうちょっとマシな軍師の意見が聞きたい。


「えーっと……あ、いたいた」


目当ての二人ではなかったけど、摘里よりはマシだ。
摘里を放っておいて、そっちに歩み寄る。


「詠、ちょっといいか?」

「城門が開くまでどれくらいかかるかでも聞きに来たの?」

「何だ、聞こえてたのか?」

「あんな気の抜ける会話してたらね」


俺にも責任があるみたいな言い方しやがって……
まぁ無いとは言わないけど、もうちょっと摘里をどうにかしてくれないか?
どうにかなるかは分からんが……


「それで城門の方だけど……?」

「摘里の勘は兎も角として、もう間もなく開くでしょうね」

「詠もそういう見解か?」

「えぇ。こっちは士気・武力・統率力・その他諸々相手より上なのよ?確かに兵数で言えば相手の方が上だけど、敗ける謂れはないわ」

「ならこのまま見守ってて大丈夫なんだな?」

「大丈夫よ。でもこうなってくると、むしろ相手の兵士に同情するわ」


あー、言いたいことは分かる。
紫苑たちの時みたいに、州都成都でも桃香の噂は広まってるだろう。
中にはきっと、桃香を受け入れたいと思ってる兵士もいる。
何のために戦ってるか分からない兵士もいるんだろうな。


「後は迅速に制圧できれば、敵も助かるでしょうね」

「だろうな」


詠の言う“同情”って言葉は今の俺の気持ちに上手く当て嵌まってる。
戦う目的の見えない戦いほど辛いものはないだろう。
ふと隣に目をやれば、ひょっとすれば戦いたくない同朋がいるかもしれない。
そんな状況、この時代ではきっと地獄だ。


「なぁ詠……」

「何言いたいかは分かるわ。でも、桃香だって分かってるはずよ」

「ならいいが……」

「そんなに心配なら、隣に行って来れば?」

「……そこまでしちゃ、逆に悪いだろ?」


遠くから見守ることもまた信頼だ。
大丈夫だ、必ず……
そう自分に言い聞かせる。


「桃香!城門が開いた!」


言い聞かせている最中に、白蓮の声が響く。
それを受けて、全体の士気が一気に上がった。


「分かったよ!みんな、今が好機!城門を突破して内部を制圧しよう!」











後はあっという間だった。
ほんと、この言葉に尽きると思う。
桃香が前線で指揮を執っているおかげか、全体の動く速度も速かった。

城門を突破した後、玉座を占拠するのにそう時間はかからなかった。
半ば歓迎されていたようなもんだからな。


「……ふぅ〜疲れたよぉ〜」


相手の完全降伏を受けて、戦は終息を迎えた。
玉座に腰を下ろしながら、桃香が気の抜けた声を吐き出す。
それだけ前線での指揮が大変だったんだろう。
みんながみんな、桃香を労ってる。


「桃香様、お疲れ様です」

「うん……朱里ちゃん雛里ちゃん、街の人たちにはちゃんと宣伝してくれた?」

「はい。財産の占領は行わないなど、街の平穏を崩すことのないことを言い広めてきました」

「元々、桃香様を迎える声もあったおかげで、すでに歓迎している民も多いようです」

「そっか。じゃあ、改めて、皆お疲れ様♪」


どうやら桃香はクタクタらしい。
ま、代わってやることは出来ないからもうちょっと頑張ってもらわないと仕方ないな。


「とりあえず、しばらくは内政に力を入れないとね。内輪揉めのせいで、きっと民の人たちも疲れ切ってると思うし」

「ですね。武官の皆さんにもお手伝いいただきたいのですが……」

「無論だ。調練の合間にでも手伝わせてもらうさ」

「うへぇ〜……鈴々、そういうのは苦手なのだ……」


隣で不平を漏らす鈴々の頭を撫でつけてやる。
そりゃ、鈴々とかは武器振るってる方が似合ってるし得意だろう。
でもこういうのは全員で頑張らないと。


「ま、勉強は俺が教えてやるから安心しろ」

「お兄ちゃんが?!うにゃぁ……」

「何だ?直詭の教えたかってそんなに酷いのか?」

「失敬な奴だな……」

「そうじゃないのだ……翠も味わってみれば分かるのだ」

「……………?」


首を傾げられてもなぁ……
鈴々が俺の何を嫌がってるか知らないし……
……って、愛紗も星も、「確かに……」とでも言いたげな顔するんじゃねぇよ。


「ま、まぁ……主だったことは文官の私たちで何とかしますので」

「甘やかさなくてもいいぞ朱里。この際だ、鈴々達にも張り切ってもらおう」

「うぅ〜……愛紗ぁ〜……」


ま、俺からは頑張れとしか言えないな。


「…………………………」

「桃香様?」

「あ、うん。鈴々ちゃんも頑張ってね♪」

「……お姉ちゃん、何考えてたのだ?」

「……大したことじゃないよ?」


そうは言うけど、そんな深刻そうな顔してればさすがに心配する。
普段はのんきな鈴々だって気にしたぐらいだ。
こういう時は隠してほしくないな。


「言いなよ。悩みくらい、俺たちで聞いてやるから」

「ほんとほんと!大したことじゃないし、それに悩みってわけでもないよ?」

「じゃあ言えよ」

「うっ……うん……」


促して悪いが、なんかこのままだと気味悪いんだよ。
俺の言葉をきっかけに全員が桃香に視線を集中させる。
ちょっと言い辛い空気作ったか?
だとするとマズったな……


「あ、あのね……こうやって益州を掌握できて、今ようやく落ち着いて……徐州で曹操さんから逃げたことを思い出してたの」

「曹操の事を?」

「うん……あの時に私たちに足りなかったのは、圧倒的に力だよね。だからこそ、こうやって力を手に入れたいって思った」

「現に今、その言葉は実を得ていますよ」

「だけどね愛紗ちゃん。きっとまだまだ、曹操さんには及ばないんだと思うの」


徐州を追われた時点で十倍以上の兵力差があったよな確か……
紫苑たちが参加に加わったとはいえ、確かにまだ全体的な戦力は及ばないかもしれない。


「強欲だって思われるかもしれないけど……私はまだ力がほしい。皆を守れるだけの力が!」

「「「「「……………」」」」」」


桃香の言葉は、今まで聞いたことがないくらい力がこもったものだ。
誰も口を開くことができない。
桃香の理想がこれほど大きなものだったと、改めて思い知らされてるからか……?
……少なくとも、俺はそうだ。
思考は廻れど、言葉を紡ぐことができない。


「皆の事を信用してないわけじゃないんだよ?でも、失いたくないから!まだまだ、力がほしいの!」

「桃香様……」

「今は羽を休める時だからしっかり休むよ。でも、私の理想を叶えようとすれば、きっとまた戦いが始まると思うの」

「仰る通りだと思います。曹操さんだけでなく、孫策さんも強大な勢力ですし……」

「こんなに自分が貪欲だって思ってなかったの……益州を掌握して改めて実感したの。力がどれだけ重要かって」


……さっきから何度も何度も、桃香は“力”と口にする。
早々や孫策にとっての“力”がどういうモノかは知らない。
だけど、目の前にいる女の子の掲げる“力”は、誰かを守るためのモノ。


「だから、みんなに謝らなくちゃいけないとも思ったの」

「なんでまた?」

「だって……!連合を組んだ時も思ったけど、私って頼りないし……」


……そうだよな。
かの劉備とはいえ、目の前にいるのは間違いなく女の子だ。
弱い部分だって当然ある。
大きな勢力の一角の頂点って立場になって、改めて周囲との差を感じてるんだろう……
ただ──


「……それでいいんじゃないか?」

「直詭さん?」

「偉そうな事言う訳じゃないが、桃香だからこそ皆ついてきてるんだ。力を求めることは悪くないけど、理想や理念を捻じ曲げる必要はないぞ」


もしも、この場にいる人間が純粋に力を欲していたなら、桃香の周りに集まっているのはもっと少なかったかもしれない。
でも、そうじゃない。
皆が求めてる桃香の“力”は、武力だけに固執したものじゃない。


「桃香の“力”は、この乱世において誰にも真似できないモノだろ?なら、そこに自信を持てばいい。少なくとも俺は、誰かの為を想う桃香の事は好きだぞ?」

「「「「「!!!???」」」」」


な、何だ?!
何で全員急に俺をガン見する?!
変なこと言ったか?!


「兄様って、時々大胆発言するよねぇ〜」

「どういう意味だ蒲公英?」

「そのままの意味ですぞ直詭殿」

「星まで?何かマズイこと言ったなら訂正するから今すぐ教えろ」

「ううん、大丈夫だよ♪ありがとう、直詭さん♪」


何で桃香も赤くなってんだ?
マジで失言した気がする……
もうちょっと言葉を選んでから発言した方が良かったか?


「なんか、直詭さんに言われたおかげでスッキリしちゃった。お蔭でもう大丈夫!」

「そ、そうか……?ならいいんだが……」

「ふふっ。では皆さん、これから内政に取り掛かりますが、何日かはゆっくり休めると思われます」

「色々と手助けしてもらう場面が増えると思いますけど、久しぶりに羽を伸ばして下さい」


朱里と雛里がこれからの事を言って、玉座での軍議は終了した。
漸く本格的に羽を伸ばせるんだ。
ま、大いに休ませてもらいますか。

……で、さっきの発言なんだが、マジで何がマズかったんだ?
桃香は兎も角として、愛紗と翠が動揺してる様に見えるし……
焔耶はあからさまに敵意向けてるし……
紫苑と桔梗は微笑ましいって顔に書いてあるし……


「なぁ桃香──」

「さ、頑張らなくっちゃ!」

「……何か分かってないが、前言撤回していいか?」





















後書き

桃香に視点を当てすぎた結果、また短くなりました(汗
いや、別に桃香が悪いんじゃないよ?
私が悪いんです分かってます(泣
ただ次話からは日常編書いていくつもりなんです。
本編こんなに短くていいんだろうか……?(;^ω^)


では次話で



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.