「なんでこう、あいつは人使いが荒いかなぁ……」


摘里に頼まれて買出しに出てる現在。
引き受けた俺も俺だとは思うが……


「えっと……頼まれてたものはこれで全部──ん?」


あれ、今人混みの中に見たことあるような姿があったような……?
気のせいか?


「……あわわ」

「あ、雛里」


気のせいじゃなかったらしい。
なんかオドオドしてる雛里がいる。
何してるんだろ?


「おーい、雛里──」

「ふぇぇ……朱里ちゃぁん、摘里ちゃぁん……」


おーい、呼びかけてるんだからこっち見ろよ。
てか、どこ行く気だ?
そんなウロウロしてたら他の人の邪魔になるぞ?


「うぅ〜……ひっく……」


え、何、泣いてんの?
何で?
まぁでも──


「……放っておくわけにはいかないか」


昼日中だと人の数も結構多い。
その人だかりをすり抜けるように雛里へと近づいていく。
ただ、なかなか思うようには進めない。
それに、雛里自身もなんかウロウロしてるし追いつけない。


「何だって今日に限ってこう人が多いんだ……」


……ぼやいたって仕方ないか。
今はとにかく雛里を捕まえないと……


「雛里!」

「──っ!??」


……ハァ、ようやく追いついた。
肩に手をかけて呼びかけたはいいんだが……
おい、何を硬直してる?


「あ、あわわ……あわわわわわわ……」

「ったく……何で逃げる──」

「すいませんすいません許してください!ふ、ふぇぇぇ!」


泣いた?!
てか泣かせた?!
そもそも何でここで号泣?!


「おいおい、落ち着けよ……」

「ひっく……えぐ……」


背中に話しかけても埒が明かないなこれは。


「ほ・ら!」

「ひぅっ!」


ちょっと強引にこっちを向かせる。
帽子をいつも以上に目深にして、俺の方を見ないようにと必至だ。
だけどこんな態度取られたくないってのもある。
悪いとは思うが、その帽子は拝借しよう。


「あっ?!……………あ、れ?」

「落ち着いたか?」

「直詭、さん……?」

「見ての通りな」


やっとこっちの顔見てくれた。
目にいっぱい涙溜めて、小刻みに震えてもいるな。
これはあれか?
俺の対応が悪かったのか?


「直詭さん、だったんですね……」

「声で判断してくれないのはちょっと辛いぞ?」

「……すいません」

「まぁ、なんか様子がおかしかったからいいけど……で、何してた──」

「ふぇ──」

「へ?」

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!!」


また泣いた?!
てか、しがみ付いてくんな!
こんな人通りの多いところで!


「何だ何だ!どうした?!」

「えっぐ……!」

「卵がどうした──じゃない。いいから落ち着け」


こんな冗談通じるわけないのに何言ってんだ俺?


「ほ、ほら。帽子は返すから、な?」

「っく……そうじゃ、なくて……」

「何だ?」

「人、すごく多くて……ひょっとして、攫われて、売られて……」

「……はぁ?」


お嬢さん、小説の読み過ぎですよ?
……ま、このご時世ならそういう事もあるかもしれないけど……
それが心配なら一人で出歩くなよ。
一緒に行くくらい、別に誰も断らないだろ?


「いいから泣き止め。俺が泣かしたと思われたくない」

「はいぃ〜……ひっく……」


泣いた女の子ってどうすりゃ泣き止むの?
えっと、その、んー……
と、とりあえず頭でも撫でておくか。


「……ほら」

「……ぁ」

「大丈夫だから。こうやってもう俺が傍にいるんだから、間違いなんて起こらねぇよ」


しがみ付いたままの雛里の頭を撫でつける。
帽子を返してないから、直に頭を撫でてる状態だ。
ハンカチ、は生憎持ってないな。
自分の袖でも使って涙は拭ってもらうか。


「雛里って人混み苦手なのか?」

「……………(コクン)」

「にも拘らず、今日は一人で出歩いてたのか」

「……………(コクン)」

「で、どうする?この後、また一人で行くか?」

「……っ!?」


あー、この反応だと無理だな。
分かった、分かりました。


「一緒に行きゃいいか?」

「……いいんですか?」

「泣きじゃくってる女の子放置していくような人間に見えるか?」

「……!(フルフル)」

「なら、まずは離してくれ。このままだと身動き取れない」


……おーい、そろそろ離れてくれないか?
どんだけ不安だったんだよ?
まだしがみ付いたまんまだし……


「一緒に行くのはいいが、俺も摘里から頼まれてる買い物あるし、そっちにも付き合ってくれな」

「摘里ちゃんの?」

「あぁ。こうなるんだったら、無理やり引っ張ってくればよかったか……」


昔馴染みらしいから、俺よりもよっぽど安心できるだろう。
てか、マジでそろそろ離れないか?
いい加減、道行く人の視線が痛い。


「雛里。そろそろ離れようか」

「……あ、はい」


やっと離れたよ。
さて、一緒に行くのはいいとして、どこに行くんだか。


「それで?どこに行くつもりだったんだ?」

「書店に……一番大きな書店だからわかるって、朱里ちゃんが」

「朱里と一緒に来なかったのか?」

「朱里ちゃんは政務があったので……」

「他の誰か誘えばよかったんじゃね?」

「でも……迷惑だといけないですし……」


こういう状態になられても迷惑だがな。
運良く俺が見つけたからよかったものの、このまま誰にも会えなかったらどうするつもりだったんだろうか?
ちゃんと城まで帰ってこられるかも不安だし……
下手すると、雛里自身が言ってたことが現実に──
……それはないと信じたいが……


「ま、とりあえず行くか」

「……はい」


……で、何で服の裾掴むんだ?


「雛里?」

「は、はひっ?!」

「いや……そんなんだと、また逸れるかもしれないだろ?」

「で、ですけど……」

「……ったく。ほら」

「ぁ……」


俺の服の裾をつかんでいた手を取る。
ちゃんと手をつないだ状態なら逸れることもないだろう。
保育士にでもなった気分だ。


「一番大きな書店だったな?」

「は、はい」

「そこなら場所は分かる。人通りの少ない道選んでやるから、ちゃんとついて来いよ」

「……(コクン)」


雛里の手を引いて、とりあえず人混みから外れる。
そのまま脇道を使って、できるだけ人通りの少ない道を選ぶ。
ちゃんと着いてきてるのは分かるからいいけど、なんか喋ってくんない?


「……………」

「……………」


ひたすら俺が先導してるだけで、お互い無言だ。
気まずいわけじゃないけど、なんか居心地が悪いというか……


「雛里?」

「は、はひっ?!」

「……俺、歩くの早くないか?」

「だ、大丈夫でしゅ!ちゃんと着いていきましゅ!」

「……噛まんでいい」


何を慌ててるんだか……
そういや、件の書店はちょっと人通りの多い通りにあったよな。
ってことは、もう一度人混みの中に戻る形になる。
……大丈夫か?


「雛里」

「は、はい!」

「もう一回人混みの中に戻るけど、大丈夫か?」

「……………た、多分、大丈夫だと、思いましゅ」


何一つ大丈夫じゃねぇなこれは。
でも、目的地に行くためには必要なことだしな……
手をつないでるだけだと不安か?


「最悪、俺にくっついていいからな」

「いいんでしゅか?」

「いいから、噛むな」

「あわわ……」


噛んでる割に、くっついてくるの早いな……
まだそんなに人通りも多くないんだぞ?


「まだ大丈夫だって」

「で、ですけど……」

「……あー、分かった。好きにしていい」

「……すいません」


普通なら、こういう可愛い女の子にくっつかれると、男なら嬉しかったりするんだろう。
でもなぜかな、俺は面倒くさいという感情の方が強い。
必要以上に他人の目を気にしてるせいか?
……んー、ちょっとこの感覚は自分でもいただけないな……


「……ハァ」

「直詭さん?」

「何でもないよ」


ちょっと考え方を変えよう。
今は、雛里に頼られている。
雛里は普段からそんなに口数も多くないし、誰かと積極的に接してるわけでもない。
そんな相手から頼られている。


「……行くか」

「へ?は、はい……」


もっとプラス思考になれるよう努力したほうがいいな。
こういう、何気ない日々の中だと、色々と忘れられる。
戦場での血の香りなんて、戦のあった日からしばらくは消えない。
でも今、鼻腔をくすぐるのは、雛里の髪のいい香りだ。


「歩きにくくないか?」

「大丈夫です」

「そっか。じゃあ、ちゃんとくっついてろよ?」

「はい」


何気ない日々の中だからこそ、平穏や安寧を十二分に感じるべきだ。
今こうやって、雛里と一緒に歩いている時間も……
桃香の理想が形を成していくまでを、もっともっと実感していくべきだ。
そうすれば──









……ハァ、なんか憂鬱だ。
雛里が引っ付いてるせいではないけども……
こう、何もない日っていうときに限って、マイナス思考になるのは俺の悪い癖だな。


「……なぁ?」

「なんですか?」

「雛里は、幸せって感じたことあるか?」

「……へ?」

「……いや、悪い。唐突だったな。気にしなくていいよ」


血で塗れたこの身体で幸せになれるか、どこか不安な日もある。
確実に、誰かの幸せを奪ってるんだからな。
だから、奪った分だけ幸せになる義務がある。
きっと、アイツならそう言うんじゃないかな……?
……今、アイツは、どうしてるかな……?


「直詭さん、何か考え事してるんですか?」

「ん?あぁ、ちょっと友人の事を」

「ご友人ですか?」

「今は魏にいるよ。聞いたことないか?“天の御遣い”ってやつ」

「確か……直詭さんも天の国のご出身ですよね?」

「そういうことになってるな」

「やっぱり……友人といずれ戦うことになるのはお辛いんですか?」


……辛い、のか?
正直なところ、その辺の感覚は分からん。
ただ、実感が持てないだけなのかもしれない……


「雛里はどうだった?」

「私ですか?」

「ほら、摘里が袁術の下にいただろ?」

「そうですね……でも、摘里ちゃんは元々敗けるつもりでしたし、きっとまた一緒に居られるって思ってましたから、そんなに辛くはなかったですよ」

「……羨ましいな」


一刀以外、この世界には元の世界の事を知る奴はいない。
元の世界で、ものすごく親密だったわけでもないが……
でも、不意にアイツの顔を見たくなる。
以前に出会った時も、少しだけ顔が見れて嬉しかった。


「いつかとちゃんと、アイツと話すことができる日が来るのかな……?」

「そのためにも、頑張りましょうね」

「そうだな……こんな状態じゃなきゃ頼もしい限りだが」

「あわわ……」


腰に手を廻してくっついてる奴が言っても、あんまり説得力はない。
ただ、心なしか安堵はした。
俺もまだまだ不安だったんだな。


「頑張らなきゃな。いつか、ちゃんと幸せになるためにも」

「はい」


雛里の返事は、今までの中で一番力強かった。
簡単な言葉で済ませるなら、頑張らなきゃいけない。
そう、俺が今まで奪ってきた誰かの幸せの分まで……
そして、今この瞬間にも俺たちの周りにいる誰かの為にも……
まずは……今こうして隣にいる雛里からでも。


「ハハッ……責任重大だな」


でも、こうやって誰かに話せたからだろうな。
今感じているプレッシャーは心地いいものだ。
頑張っていこう。
俺自身も含めた、誰かの幸せのために。




















後書き

誤字脱字チェックするの忘れてた(´・ω・`)
タイトルも予定のモノと違ったし……(´・ω・`)
……疲れてんのかなぁ?


では次話で



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