事件は唐突に起きた。


「お兄ちゃーん!!!」


その日の始まりは、鈴々が壊れんばかりの勢いで扉を開いたところから始まる。
徹夜してたせいで、机に突っ伏してた俺は流石に驚いた。
一気に目が覚めた感じかな。


「……鈴々、朝っぱらから一体どうした?」

「大変なのだお兄ちゃん!泥棒が出たのだ!」

「泥棒だと?」


そりゃ確かに穏やかな話じゃないな。
でもなんでこんなに慌ててるんだ?
……そんな感じに思考を巡らしてると、もう二人、俺の部屋に入ってきた。


「お目覚めですかな直詭殿?」

「星、それに桔梗。泥棒が出たんだって?」

「そうじゃ。ワシらも一杯食わされてのぉ」

「へ?被害にあったのって、結局誰だ?」

「ほとんどの人間ですぞ。しかも、武官文官侍女など役職問わず女性ばかり……5日前くらいから被害が出始めましてな」

「……女性ばっかりで、しかも泥棒……まさか、下着でも盗まれたとか言うんじゃないだろうな?」

「あにゃ?何でお兄ちゃん知ってるのだ?」


大当たり入りました。
いや、適当に言っただけなんだが……
あ、マジで下着ドロなのね?


「話が早くて助かる。直詭、お主の部屋も調べさせてほしいのだが……?」

「俺の部屋?言っとくが、下手人じゃねぇぞ?」

「そのくらいは分かっております。ただ、一応は直詭殿は殿方……身の潔白を示していただきたいのですよ」

「……まぁ、疑いが晴れるならいいけど。誰か俺がやったとか言ってる奴がいるのか?」

「先ほど、焔耶のバカが」

「あー……」


別に仲が険悪とかじゃない。
ただ、桃香をはじめとした面々と普通に接することのできる男って言えば俺くらいだろう。
そういう事なら、疑われても仕方ないか。
ま、自分の潔白は俺自身が一番分かってる。


「じゃ、好きに調べてくれ」

「直詭殿も一応探されては?盗まれてるやもしれませんぞ?」

「俺は男だっての……」


……まぁ、調べてはおくか。
男の下着盗んで喜ぶ奴なんてあんまり聞かないぞ?
一応箪笥の中をのぞくけども……
と言うか、こんだけ女性ものの下着盗んでる奴が、ここにきて男物の下着盗むとか──


「あ?」

「どうかしたのだ?」

「いや、ちょっと待てな」


1、2……んー?
今穿いてるのも含めて……
やっぱ2枚足りない。
もう一回数えなおすか?


「……足りん」

「お兄ちゃんもなのだ?!」

「いや洗ってもらってるって可能性も……」

「ワシが先程見た限りだと、直詭のモノは見当たらんかったぞ?」

「え、マジ?」


……ってことは、だ。
俺も被害者?
何で?


「いや、仮に俺も盗まれたとして、その理由が分からん」

「……本当にお分かりにならないので?」

「星は分かるのだ?」

「無論だ。直詭殿、少々失礼?」

「ん?」


なんか為すがままに上着を脱がされたんだが……?
ついでに眼帯も外された。
で、何するつもりだ?


「ささっ、そのまま寝台に横になってくださいませ」

「何故?」

「下手人の気持ちが分かるからです」


……何が言いたいのか分からん。
取り敢えずベッドに横になる。
なったはいいが、これからどうしろと?


「では、普段通りに寝るふりをしていただけますかな?」

「寝たふり?」

「厳密には、寝る時のしぐさや寝ているときの顔つきなど」

「おい星、もっとわかりやすくだな……」

「……あー、成程」

「桔梗は分かったのだ?」


この状態で何が分かったんだ?


「ほら直詭殿、鈴々がまだ分かっておりませんぞ?」

「ったく……こう、か?」

「あにゃ?……あー、納得なのだ……」


え、鈴々も分かったのか?
てか、当人放置して話進めんのやめろ。


「いい加減教えてくれ。気分悪いだろ?」

「何と……直詭殿はご自身の事を理解していないと?」

「どういう意味だ?」

「以前、洛陽でお見かけしたとき、女性になりきっておられたではありませんか」


……………あー、成程。
よし、泥棒は処刑しよう。
久々だけどそんな扱いされると腹立つ。


「しかし直詭、お主もなかなか愛い顔で寝るものだな」

「そんなつもりは毛頭ないんだが?」

「でも、お兄ちゃんが寝てる時だったら、間違って“お姉ちゃん”って呼んじゃいそうなのだ」

「間違うなよ?」


そろそろ間違うやつも減ってきたんだ。
このままのペースでいなくなってくれることを祈る。


「ふむ……やはり直詭の部屋にはなかったの」

「だろうな」

「お兄ちゃんはそんなことしないのだ」

「さて、疑いも晴れたことですし、下手人の捜索、手伝っていただけますな?」

「そりゃ手伝うが……でもちょっと寝かせてくれ?徹夜して眠くて……」


勝手にあくびも出るくらいだし……
手伝うにしても、軽く仮眠をとってからにしたい。
……まぁ、正直なところ言うと、あんまりこの件にはかかわりたくないんだが……


「てか、泥棒を捕まえたらどうするつもりだ?」

「それをワシらに訊くか、直詭よ?」

「……そっちはまぁ想像できるからいい。盗まれたものは取り返した後どうするんだ?」

「まぁ、焼却処分するほかないでしょうな」


だろうなぁ……
俺だって気持ち悪いし……
盗んだ下着に何してるか分かったもんじゃないだろ?
……ただのコレクターって線もあるけど、その場合でも嫌だし……


「では直詭殿、我らは一旦失礼します故、仮眠を済まされたらご協力をば」

「あぁ。昼過ぎぐらいまで寝させてもらうけど」

「直詭は非番か?」

「また夜中に朱里たちの手伝いしなくちゃいけないからな。そういや、他の皆はどうしてるんだ?」


まさか総出でこの下着ドロの一件に関わってるわけじゃないだろうな?


「朱里たちは兵の皆に指示だしてるのだ」

「愛紗たちは街の捜索に出ております」

「他にも情報収集に駆り出されていたり、自ら兵を従えて捜索に出たり……」


関わってやがった……
みんな自分の仕事はいいのか?
そんなに女の子って下着が大事なのか?
流石にその辺の感覚は分からんなぁ……


「……ま、後で手伝うわな」

「よろしくなのだ!」


さて、とりあえず仮眠取るか。
……起きたら解決してました、なんてことないかなぁ……
人の下着盗むような奴、気持ち悪くてあんまり関わりたくないんだが……











ふぁ、ぁ〜……
ちょっと寝すぎた気がするな。
少しストレッチして、と。


「あの後どうなったかな」


身だしなみを整えて、部屋を出る。
少しぶらついてみたら、3人の兵士が疲れた表情で歩いてるのを見つけた。


「おーい、ちょっといいか?」

「あ、白石様」

「何だ、皆も駆り出されたのか?」

「はい。ですが、将軍様達の大切なものを盗むとは許しておけません!我々も全力で事に当たります!」

「……ってことは、まだ解決してないってわけな?」

「そうですね。そもそもどうやって盗まれたかがさっぱりで……」


よっぽど盗みのテクが上手かったってことか……
だとしても、朱里たち軍師は兎も角、愛紗たちに気づかれないなんて事あるのか?
普段はおちゃらけてても、その実、一騎当千の武将だぞ?
盗人の気配くらい察知できないもんか?


「ありがと、頑張ってな」

「はい!では、失礼します!」


兵士たちの背を見送る。
さて、俺も一応は手伝わないといけないだろうなこれは。
何せ被害者の一人だし……


「あ、直詭」

「ん?あぁ、恋」


偶然部屋から出てきた恋と出くわした。
ん、何か不安そうな表情してるな……
何かあったのか?
って、下着ドロの被害にあったんだよな、きっと……


「恋も盗られたのか?」

「……………(コクッ)」

「そっか……俺もなんだよ、笑えるだろ?」

「……………?」


ちょっと自嘲気味の冗談は通じなかったか。
ま、別にいいけど。


「恋は他の皆みたいに探しに行かないのか?」

「……別の、探してる」

「別の?他に下手人がいたとかか?」

「……(フルフル)」

「じゃあ……誰かいなくなったとかか?」

「……(コクッ)」


当たりか。
でも、そんな報告は聞いてないしなぁ……
何か聞いてる感じだと、皆は下着ドロに夢中らしいし。
誰かいなくなったなら、そっちにも人を割くと思うんだけど……?


「で、誰が?」

「……セキト」

「セキト?いないのか?」

「……………(コクッ)」


そっか……
そら心配だわな。
他の奴から見ればセキトはペットだろう。
でも、恋にとっては大切な家族で友達なんだ。
こんな不安そうな表情になっても仕方ない。


「……俺も探してやろうか?」

「いいの?」

「どっちかって言うと、あんまり下手人には関わりたくないんでな。さて……」


こういうのは人に聞くよりも同じ動物に聞いたほうがいいだろう。
となると、俺が呼ぶのは──


「〜〜〜♪」


軽く口笛を吹いてみる。
少し待つと、屋根の上からスミレが飛び降りてきた。
……だーかーらー、俺の頭の上で寛ぐな。


「おいスミレ、ちょっといいか?」

「ニャァ?」


よっと……
頭の上から降ろして、こっちを向かせる。
いつもみたいにのんきな表情しやがって……


「なぁスミレ、セキトを見てないか?」

「ニャァ……?」

「見てない、って」

「みたいだな」


まぁ確かに、セキトとスミレはいつも一緒にいるわけじゃない。
ただ、俺と恋とが一緒にいるときは、その二匹も基本横にいる。
だから見てないかなぁ、って思ったんだが……


「ま、スミレも連れていくか。何か気付くかもしれねぇし」

「……(コクッ)」

「それで恋、最後に見かけたのはどこだ?」

「ここ」


恋の部屋でか。


「入っていいか?」

「……(コクッ)」


承諾を得て中に入る。
恋の部屋は、基本的に何かしらの動物がいる。
今も、猫が二匹いるし。
……んでスミレ、そんなに腕の中は嫌なのか?
だからって俺も頭の上に乗っけてたくないんだが……?


「一番最後に見たのはこの部屋でなんだな?」

「ここで寝てた」


寝台の横を指さしながら答えて来る。
セキト専用なのか、小さなベッドのような拵えてある。


「で、朝起きたらいなかったと?」

「……………(コクッ)」

「それ、いつくらいの事だ?」

「5日くらい前」

「そりゃ心配だな」


他の子たちと違って、セキトは飼い犬だってすぐわかるはずだ。
首に赤いハンカチ巻いてるからな。
それに、恋はよくセキトを連れて外出するから、城にいようが街にいようが、その姿を見たことは少なからずあるだろう。
だとすりゃ、セキトが恋と居ないことに不審がる人だっているんじゃ……?


「恋、ちょっと外に出てみるか」

「外に?」

「街の人が見てるかもしれないだろ?大丈夫、一緒に探してやるから」

「…………………………(コクン)」


何事もないことを祈っておくか。
多分、すぐ見つかってくれるだろう……




















後書き

予定と違うけどこのまま進めよう、うん。
ちょっと前後編にしてみました。
理由は特にないです(´・ω・`)



では次話で



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