虎の章/第37’話『新しい空の下で〜便秘にはくれぐれもご用心〜』


「ふむ……」

「……………」

「……よし。後遺症や別な病魔の誘発もなさそうだ」

「そうか」


こっちに偶然立ち寄った華佗に目の診察を頼んだ。
経過観察も良好なようで何より。


「……で?例の化け物はどこに置いてきた?」

「おいおい、そんな言い方しないほうがいいぞ?」

「まともな感覚してる奴なら、あんなのと一緒にいたくないって」

「そうか?健康的な筋肉だと思うが……?」

「誰も医学的な見解は求めてねぇよ」


そうだった……
華佗も普通じゃないんだった……
そんな奴に普通な見解を求めるのが間違いだったな。


「何か不愉快なこと考えなかったか?」

「気のせいだ」

「そうか?ならいいが……」

「……でもさ?この目で戦場に放り出されたらやばいんじゃないのか?」

「まぁ、その感覚には慣れるしかないな」

「だよなぁ……」

「隻眼になると言うことは、立体視ができなくなると言うことだ。これからも戦場に立つなら、それなりの訓練が必要になるだろう」


ま、医者が面倒見る範疇は越えてるもんな。
ここから先は俺の努力次第。
雪蓮たちの為にも早く慣れないとな。


「他に何か不調はないか?」

「特にはないな。診察の結果に何かあったのか?」

「いや。問診や触診ではわからない、患者自身が感じている病魔というものもあるからな。それが無ければ至って健康だ」

「ま、健康なのが何よりだな」


そういや、学園にいたころも定期健診とかあったな。
まぁ女子の割合が多いから、体重云々で騒ぎになったこともあったっけ?
あの頃は面倒くさいとか思ってたけど、こうやって片目を失って、健康の有難さを痛感させられるとはな……
もうちょっと真面目にしてればよかったかな。


「さて、と。これで診察は終わりだよな?」

「あぁ」

「なら、早く慣れるためにも少し体を動かしてくる」


何か華佗も雪蓮と話するみたいだ。
連れ立って部屋を出ようとしたんだけど……


「あっ……!」

「蓮華?俺の部屋の前で何してんだ?」

「べ、別に何も……」


何か知らんがキョドってる。
別に疚しいことは何もしてないはずだ。


「え、えっと、華佗?」

「何だ?」

「そ、その……ちょっと、診てもらいたいんだけど……いいかしら?」

「どっか悪いのか?」

「だだだ大丈夫よ!直詭が心配するようなことじゃないわ!」

「そうは言われてもなぁ……」


医者に相談するとか言われたら心配するのが普通だろ?
昨日まで特に変わった様子もなかったはずだし……
それに、蓮華に何かあったなら真っ先に気づくのは雪蓮だ。
あの勘の鋭さは常人レベルをはるかに超えてるし……
んで、面白半分に茶化すためにみんなに言い触らすと思うんだが……


「まぁ診るのはいいが……どういった症状なんだ?」

「え、えっと……その……」

「……俺が聞いちゃマズいのか?」

「あ、えっと、その、あの……」

「……ハァ、いいよ。聞かれたくない話とかあってもおかしくないし、自分の部屋で診てもらって来いよ」

「……ゴメンね直詭」

「気にしてねぇよ」


じゃあ、俺はどうするかな……
さっきも華佗と話してたように、この目の感覚に慣れる努力をしないといけない。
なら手っ取り早いのは──


「あ、蓮華。思春か明命か李緒、誰でもいいから見てないか?」

「え?そ、そうねぇ……李緒なら中庭で訓練してたはずだけど……」

「そうか。それなら丁度いいな」


何て言うか、呉の面子の中で一番懐いてくれてるって言うか……
李緒と話すのって気が楽でいいって言うか……
だから多分、気前よく承諾してくれるだろう。


「んじゃ、俺行くわ」

「無茶はするなよ?」

「そのくらい分かってる」


華佗の忠告を受けて中庭へと向かう。
……ま、蓮華の事が気にならないって言えば嘘になる。
どこか悪いなら相談とかしてほしかったし……
まぁ、医者にしか言えないこととかもあるだろうし、話してくれる気になるまではそっとしておくか。











「……ふぅ」

「疲れたぁ……」


李緒を見つけて、ちょっと調練に付き合ってもらった。
虎牢関の城壁の上の時と違って、何度か痛撃を貰ったりもした。
まぁ手加減はしてくれてたみたいだから、青アザとかが残るようなことは無いだろう。


「……にしたって、アニキ強すぎ」

「俺の攻撃全部防いどいてそれ言うか?」

「オレの攻めの殆どをいなしてたじゃん!片目になって日が浅いくせに!」

「それはまぁなんて言うか……経験則ってやつかな?」

「どんだけ強い奴と普段からやり合ってたんだよ……」


確かに月さんの所にいた時の相手は豪華だったな。
恋とか霞とか律とか……
……今頃みんなどうしてるかな……?


「アニキ!続き続き!」

「あいよ」


李緒がまた構えてきたので、俺も構える。
……立体視ができないのはさすがに痛い部分もある。
ただ、何度かやり合ってる間に、感覚で捉えるって言うことが分かって気がする。
コレを確実なものにすれば、まぁ足手纏いにはならなくて済むだろうな。


「いくぜ!」

「おし!」


李緒の長棍が迫ってくる。
その軌道を読んで、躱すか受けるかを瞬時に選択……
で、間合いの外に逃げる方を選んで体に指示を出して──


「甘いぜアニキ!」

「んぉっ?!」


完全に振り切る直前で長棍を止めて、そのまま突いてきただと?!
チッ、このっ……!


「くっ!」

「うぉっ?!」

「ふっ!」


体を回転させながら攻撃を躱す。
んで、そのまま遠心力に任せて刀を振りぬく。
流石にリーチが違うから、李緒の体に当てるには及ばない。
でも、片方の手を打ち抜くことには成功した。


「〜〜〜っ!!!」

「あ……わ、悪い李緒!大丈夫か?!」

「い、今のは無い……」


激痛からか、李緒がその場に蹲った。
んー、ちょっとマジになり過ぎたか?


「刃を潰してるからって、あんなに勢い付けたらすげぇ痛いに決まってるじゃん!!」

「悪かったって……どうだ?少し休むか?」

「そうする。う〜痛ぇ……」

「……冷やした手拭い持ってくるから待ってろ」

「分かったぁ」


流石に骨折とかしてないよな?
まぁ大事に至る前に処置はしとくべきだろう。
ああいうときって患部を冷やしたほうがいいんだっけ?
……ん、あれは……?


「お、華佗」

「ん?どうかしたか?」

「……そうだな。ちょっと診てやってほしい奴がいるんだけど」

「分かった」


華佗に李緒の事を説明して向かってもらう。
俺は一応、冷やした手拭いとか水とかを取りに向かう。


「お待たせ」

「早かったなアニキ」

「急いだからな。で、どうだ華佗?」

「骨にも異常はない。しばらく冷やして安静にしていれば痛みも引くだろう」

「そりゃよかった」


少しヒヤッとしたけど、大事にはならなくて済みそうだな。


「そういや華佗、蓮華はもういいのか?」

「あぁ。これから薬の材料を集めに行ってくる」

「薬って……蓮華様どこか悪いのか?」

「まぁ言うところのべ──」

「ちょっと待ったぁぁぁああああ!!!!」


凄まじい怒声が華佗の声を遮った。
声のした方を三人で見て見れば、なんか顔が真っ赤の蓮華が走ってくるのが見える。
……何なんだよ一体……


「華佗!誰にも言わないでって言ったでしょ!?」

「だが、それほど気にするようなことでもないぞ?」

「“べ”?んー……アニキ、何か分かるか?」

「さぁな。例えばべん──」

「ワー!!!ワーワーワー!!!」


……どうも当たりらしい。


「え?え?な、なぁアニキ……」

「聞いてやるな。あんまり言葉として聞きたくないんだろうよ」

「う、うぅ〜……直詭に知られたのも心苦しいわ……」


俺は男だからその辺分からないけど……
何だ、アレってそんなに恥ずかしいのか?
……てか李緒、服の裾引っ張ってまで教えてほしいのか?


「で、華佗。薬の材料取りに行くって言ってたけど、すぐに手にはいるモノなのか?」

「少々入手が難しいものもあるが……まぁ、何とかして見せるさ」


……ま、よっぽどのことが無い限り大丈夫だろう。
こいつの傍には化け物が二匹もいるんだし……


「蓮華様、マジで何があったんです?」

「き、聞かないで李緒!」

「アニキ、後で教えてくれねぇか?」

「教えてやってもいいんだけど……」

「ダメ!絶対ダメ!」

「……当の蓮華がこれだしなぁ」


ただ、これは絶対に雪蓮の耳に入れないほうがよさそうだな。
あの勘の良さだと、色々吹聴しそうだし……
二次災害とか増やしたって仕方ない。


「そ、そう言えば華佗?薬の材料ってどんなもの使うの?」

「ん?大したものは使わないぞ?」

「さっき入手が難しいとか言ってなかったか?」

「オレもそう聞いた」

「まぁ……薬に使う材料の一覧はこれなんだが……見たところで何も変わらないと思うぞ?」


そう言って手渡されたものを見て見る。
……何となく蓮華は見ないほうがいいんじゃないかなって気がした。
だから李緒と二人だけで見て見る。


「直詭?」

「まぁちょっと待てって」


えっと何々……?
……うん、薬草とか漢方とかが主になってるな。
これなら大丈夫──


「アニキ、これなんだ?」

「ん?」

「ホラこれ」


……雄虎の睾丸、蟒蛇の卵巣、龍の陰嚢……
…………………………
……こんなものが入ってるものを飲めと?


「アニキ?」

「……あー、蓮華?」

「な、何?」

「原材料は知らないほうがいい」

「何で?!どうして?!」

「いや、その……ちょっとな?」

「得体のしれない物とか口にできないわよ!教えて!」


いや……これは教えないほうがいいと思う。
教えたら教えたで絶対飲まないだろうし……
ただ、アレも解消してもらわないといけないから、飲んでもらわなきゃ困る。


「あー、何て言うか、その……俺の元いた場所でもさ?主原料の分からない薬とかザラにあったからさ?蓮華も気にしなくていいって」

「そんなこと言ったって気になるでしょ!?」

「と、取り敢えず華佗、お前さっさと取ってこい」

「ん?分かった」


何で蓮華が狼狽してるか分かってないなアレは……
んで李緒はこの現状を把握してないと見える。
……思春でも呼んでこようかな?


「ちょっと直詭!お願いだから教えて!」

「アニキ〜、オレも何が何だか……」

「……ハァ、俺が胃薬ほしくなってきた……」











後書き

なかなか思うようにかけない日が続きます。
気長に待ってくださってる読者の方々に頭が上がりません。
……虎の章の完結予定は未定と言うことで(オイ
では次話で



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