虎の章/第42’話『次代を担う総大将』


蓮華の号令には、“突出する敵”ってあったけど、実際には違う動きだ。
こちらを牽制するかのように、門の手前から動こうとせずに弓で射掛けてくるばかり……
その程度の戦略でどうこうなるとでも思ってんだろうか?

相手の動きに少々呆れ気味なのは俺以外にも何人か見て取れる。
ま、相手が愚かなのはこっちに取っちゃ好都合。
それを踏まえた上で、蓮華からの指示が次々に飛ぶ。


「思春、明命!二人は部隊を率いて、敵の両側から一気呵成に攻め立てろ!」

「「はっ!」」

「李緒!あなたは自身の部隊を2つに分けて、思春たちを全力で支援しなさい!」

「うっす!」

「祭!軍の中腹にて矢の雨を降らせて!敵に練度の違いを見せつけるわよ!」

「御意!」

「玲梨は後詰にて待機!相手が逃げ腰になった時に苛烈に攻め立てる準備を!」

「御意に!」

「……ねぇ直詭、足の速い人間を数人引き連れて中央へ突貫できる?」

「何で俺への命令だけそんな弱気なんだよ……?」

「だ、だって……!あなたはまだその目で戦場に出たことが無いし……それに、他の皆に比べて危険度があまりに高いし……」


……ハァ、まったく……
ちゃんと周り見て見ろよ蓮華。
後ろで雪蓮が呆れた笑み浮かべてるぞ?


「中央へ突貫だったな」

「え、えぇ……で、でも、無理にとは──」

「祭、道開くのはよろしく」

「承った」

「え?ちょっと、直詭?!」

「もう全員への号令は終わってんだ。皆各々に動き出してる。俺だけ遅れを取るわけにいかねぇだろうが」


呆気に取られてる蓮華は、この際悪いけど放置だ。
足に自信がある奴を5〜6人選抜して、走る前の準備運動に移る。
……っと、その前に──


「……俺も大将やった経験があるから、蓮華の今の気持ちは分かる」

「え?」

「自分の出した指示のせいで、仲間が死んでしまうかもって思ってるんだろ?」

「そ、それは、その……!」

「少なくとも俺はそうだった。んで、そのことをその時の仲間に言ったら、“ちゃんと帰ってくるから”って言われた」

「……直詭も、ちゃんと帰ってきてくれる?」

「蓮華がそれを信じてくれるならな」

「……分かった。直詭が帰ってくるって、信じてるから」

「ありがと」


大きく息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出す。
それを合図に、祭の部隊が矢を放つ。
大きな弧を描いて相手へと降り注がれた矢の雨を一瞬目に入れて、一気に駆け出す。


「だ、だだだ大将軍!敵が数名で突貫を!」

「え、ちょっと、え?!バカなんじゃないですか──って、両側からも迫って来てる?!」


向うの方から狼狽する張勲の声が聞こえて来る。
指令がままならない相手に突っ込むなんて、たとえ隻眼での戦が初めてだろうが問題ない。
後ろからついてきてる兵士をばらけさせて、的を絞らせないようにする。
その上で、俺は敢えて張勲に近い位置にいる敵兵を数人屠る。


「ひっ──!」


張勲が小さな悲鳴を上げたのを確認して、被害を周囲に拡大させていく。
徐々に徐々に、張勲の周りから兵士がいなくなるように、外へ外へと向けて斬り進んでいく。
半径3メートルほどが開けたくらいで、両側から攻め入ってる思春たちの部隊の声も聞こえて来る。
俺たち数名の突貫部隊は、味方の被害を考慮して、弓兵を主に狙って斬って行くって言う方針だ。
その方針が功を奏して、剣や槍を持ってる敵兵は動揺して思うように動けていない。


「さて、と……」


敵の混乱も絶頂に達してる。
敵のブレーンを無力化させるって言う俺の役目は完了しただろう。
あとは──


「俺の部隊の奴、引き上げるぞ!」

「「「御意!」」」


相当な大打撃を受けて、張勲を先頭に城内に後退していく。
俺は一度蓮華の所に戻ったほうがいいだろう。
なにせ、この数人じゃできることは限られる。
敵に更なる痛撃を与えるのは皆に任せればいい。











「蓮華!」

「直詭!無事に帰って来て何より──」

「そんなのは後回しだ。敵が城内に後退したぞ」

「よし!ならばすぐに城門にへ接近──」

「はい失格。この状況での城門接近はダメよ」

「えっ?」


急に雪蓮がしゃしゃり出てきた。
まぁ、俺も同じ意見だけども……


「敵が城に退くときは確かに好機だけど、逆の場合も多々あるわ。ほら、城壁を見て見なさい」


雪蓮の指さす城壁では、多くの兵が弓を構えてる。
それを見て、思春たちも一旦引き揚げてきてるしな。
多分、冥琳辺りが指示でも出したんだろう。


「前の戦いで戦場に出ていたのは張勲のみ……と言うことは、袁術は未だ城内で部隊を指揮していると考えるのが妥当でしょう。指揮系統が健在の場合、敵兵の動きをよく見て、接近してもいいかどうかを判断する──それが総大将の役目よ、覚えておきなさいね」

「はいっ!」


大将は相手の動きを見て機敏に判断しなきゃいけない。
指示一つ間違えれば、格下の相手にすら敗北する。
それは尤もだけど、雪蓮の教え方はどこかスパルタな気がする……


「敵は城内に退いたが、城壁の兵士に動揺の兆しは見えない。袁術の性格からして……もう一波来るのは確実でしょうね」

「ええ。今のうちに部隊を再編しましょ」

「分かった」

「次も蓮華が総大将として指揮しなさい。それと……直詭?」

「ん?」

「今度は蓮華の補佐をしてあげてくれる?」

「俺でそれが務まるのか?」

「大将としての気構えとか判断力は、今の蓮華よりも直詭の方が優れてそうだしね。お願いできる?」

「当てにしないって言う名目で良いならな。んで、雪蓮はどうするんだ?」

「袁術を撃破した後、この剣であの子の頸を取るのが私の役目。だから、軍の指揮を蓮華に任せるの」


成程ね、後々自由に動けるようにってことか。


「……分かりました。総大将の任、立派に果たして見せます!」

「それで良し。でもあまり気負う必要はないわよ?歯応えなさ過ぎなんだもん……」

「まさにな……こんな勢力に良いように使われていたとは……」

「涙が出そうだよ……」


雪蓮と冥琳のやり取りは、場を和らげようって意図があるんだろうな。
だから敢えて口は出さないでおこうとも思ったんだけど……
……さっきから俺の発言が少ない気がするんだよなぁ……
ちょっとくらい口出しても大丈夫か?


「そんなに悔しかったならさっさと吐き出して来いよ。どうせ大した相手じゃないんだし、すぐ終わるだろ?」

「それはそうだけど……でも、どうせ戦うなら、曹操みたいな英雄と戦いたいわ」

「おいマジか?」

「そりゃそうでしょ?軍略と武勇、その二つを極限の状況で競い合ってみたい……」

「物騒なこと言わないの。さっさと袁術を撃破しないと、それこそ態勢の整わないまま、曹操と戦うことになるわよ」

「むぅ……それはあまり嬉しくないのぉ。策殿、さっさと城攻めの下知をくれい!」

「こちとら待機してたばかりで疼いて仕方ないんでね。自分もさっさとぶちかましてやりたいですがね?」


年長コンビの何とも血気盛んなこと……
戦場の熱気に当てられたのか?
テンション高くて少し気が引ける。


「いやだから、蓮華に説明したでしょ?もう一波、袁術の攻勢が来るってば」

「ならば早く来い袁術!この儂が地平の彼方までぶっ飛ばしてやろう!」

「もしくは自分が空に瞬く星の一つにしてやろう!」

「……なぁ冥琳、この二人何とか鎮めてくれない?」

「生憎と無理だな。こうも張り切っておられると、もはや止めようもない」


冥琳ですらこの呆れっぷりか……
……おーい袁術、何でもいいからさっさと来てくれー……?


「敵城開門!袁と張の旗が見えます」


明命の声が響く。
……あー、早めに来てくれて何よりだ。


「権殿!敵が出てきよった!先鋒は儂と玲梨じゃぞ?儂らに任せてくれるじゃろ?」

「ふふっ、分かったわ。じゃあ先鋒は祭と玲梨に命じる。たくさん暴れてきなさいな」

「当然じゃ!」

「では蓮華殿!号令を!」

「ええ!」


さてさて、本戦開幕、と。
雪蓮に少し背中を押されたので、蓮華の横に立つ。


「……直詭、ちゃんと聞いててね」

「あぁ。思う存分吐き出して来い」


大きく息を吸いこんで、ゆったりと蓮華は吐き出す。
眼下に広がってる兵士たちの目を見つめて、高らかに号令を発する。


「聞け、呉の将兵よ!この戦いこそ呉の未来を占う一戦!皆の力を今一度、孫家の私に貸してくれ!」


……横になんかいなくてもいいかもな。
だって、蓮華の声、こんなにも凛と響いてるし……


「皆で掴もうではないか!輝ける未来を、誇るべき郷土を、そして我らの子孫が笑って過ごせる平和な刻を!」


兵士の皆も蓮華に応える。
圧倒されそうになるほどの声の波が、一気にこの場に満たされる。


「皆の命を燃やし尽くせ!剣で斬り裂け、矢で貫け!孫呉の牙で袁術の喉笛を食いちぎれ!城門を突破して城を落とす!振り向くな、戦って死ね!駆けよ!我らの栄光ある未来のために!」


蓮華が抜刀し、敵へと剣を向ける。
俺もそれに倣って抜刀。
一度、お互いの顔を見合って頷き合う。
……うん、今の蓮華なら、絶対に大丈夫だ!


「全軍……突撃ぃーーーーーーっ!!」












後書き

……何か短いなぁ
もうちょっと長くしたいんだけど、そんな力量が……
はい、言い訳です、もっと精進します。



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