虎の章/第56’話『未来へ向けての安らぎ〜和やかな朝ごはん〜』


「あン?」


珍しいと思われるだろうが、今日は朝帰りだ。
ついさっきまで思春と一緒に夜戦における工作兵の調練をしてた。
これは穏の立案。
しかも夕飯が終わった後で、俺と思春にこっそりと……
勿論兵の皆には伝わってなかったけど、だからこそ臨機応変に動けるか、そして俺たちが動かせるかが重要となる訓練。

結果としては及第点ってとこだろうな。
思春は兎も角、俺はそこまで工作兵としての能力が高いわけじゃない。
つまりは、出来る行動も指揮できる内容も思春とは雲泥の差。
紅白戦形式での調練だったけど、面白いほど痛烈にやられた。
ま、一矢報いることは出来たんだ。
今日の経験はいい勉強になった。

……んで、薄らと空が白んできた頃。
片付けとか終わらせて部屋まで戻ってきたんだけど……


「……えっと、こっちは……唯夢の方か?」


俺の部屋の扉に背を預けて寝ている女の子が一人。
まだ知り合って日が浅いのもあって、外見ですぐにどっちかは判断できない。
とは言っても、頭のお団子に“大”って書いてあるし、間違ってるわけじゃないとは思う。


「雪蓮と一緒の部屋の筈じゃなかったか?何で俺の部屋の前に……?」


まだ給仕も起き出す時間じゃない。
って言うか、このまま放置すると俺が部屋に入れない。
随分と気持ちよさげに寝てるけど、起きてもらわないと困る。


「……待てよ?」


出会った日の事を思い返す。
音夢の方は兎も角、唯夢はかなり臆病に見えた。
気を遣って起こさないとパニックになりそうだな……


「……怯えさせないように、か。めんどくせ……」


そうは言っても、こんな朝っぱらから泣き喚かれた方が困る。
慎重に、慎重に……


ユサユサ


「ん、んぅ〜……」

「……………」


少し目が開いた。
ここからは時間がかかるかもしれないけど、自然に起きてもらうほうが良いか。


「……ふぁ……」

「……おはよ」

「ふぇ……?」


まだ寝惚けてるな。
誰に話しかけれてるかすら理解してないんだろう。
何とか自力で起きようと、目をゴシゴシしてる。


「……ぇっと、あ、あれ……?ナオキ様?」

「まぁな。おはよ」

「ぁ、はい……おはよう、ございます……」


完全に覚醒はしてないなコレ。
トロンとしたままの目で俺のこと見てる。


「こんな所で寝てて、寝違えたりしてねぇか?」

「はい?」


徐々に頭がハッキリしてきたみたいだ。
辺りをキョロキョロして、少し間を置いてから──


「っ?!!」


理由までは分からねぇけど、一気に覚醒して一気に顔が赤くなった。
ちょっと涙目にもなってる。
……まずは落ち着かせるか。


「部屋の中、入るか?水でも飲めば落ち着くだろうし」

「そ、そんな!わ、私……ナオキ様に、ご迷惑じゃ……?!」

「俺は何も気にしてねぇし怒ってもいない。態々部屋に来てくれたってのに、いなくて悪かったな」

「な、ナオキ様が謝られることじゃ……!」

「はいはい。まずは少し落ち着こう。来な」

「ぁ、はい……」


まだまだパニック状態の唯夢を連れて部屋の中へ。
喉が渇いた時の為に水を常備しておいてよかったな。
コップに注いで、唯夢の手に持たせてやる。


「あ、あの……コレ……?」

「まずはそれ飲んで落ち着け。話をするとしてもそれからだ」

「……はい、いただきます」


催促したところでどうにもならない。
ゆっくりしたペースで水を飲むのを横目に、俺も自分のコップに水を注ぐ。


「……ふぅ〜」

「落ち着いたか?」

「はい。お手数おかけしました」

「気にしなくていいよ。もしよかったら、部屋の前にいた理由が聞きたいけど……」

「え、えっと、えっと……ぇっと……」

「……落ち着いてもその様子だと、聞かせてもらえそうにないな」

「そそそ、そんなことは──!」

「誰も怒ってねぇんだから心配すんな」


まるで自分が何か悪さをしてしまったみたいな顔してるな。
落ち着いたからこそ余計に、自分の行動を問題視してるってとこか?


「そ、その……ナオキ様とお話がしたくて……」

「俺と?」

「はい……雪蓮様や他の皆さまからも、とても信頼されているのは充分分かったので、直接お話してみたいなぁって……」

「けどよ?俺が不在だったなら、日を改めても良かったんじゃねぇの?」

「そ、そのことなんですけど……」

「どした?」

「え、えっと……だ、男性の部屋に、夜分にお邪魔するって、経験が無くて……」

「……まさか……扉も叩けずに、いるかいないかの確認すらできなかったってか?」

「……………(コクン)」


……なんじゃそら。
ま、初日の雰囲気からしても、分からない話じゃない。
尋ねてきてくれただけでも嬉しい話だよな。


「いつのまにか寝てしまって……結局、ナオキ様にご迷惑を──」

「迷惑なんて思ってねぇよ。それより、雪蓮には言って来たのか?」

「あ、はい。“肩の力を抜いて行きなさい”って言われました」

「そっか」


まぁ男の部屋に行って、一晩戻ってこなかったら、変な風に勘繰られても仕方ない話。
とは言っても、雪蓮は勘が良い。
唯夢の性格も把握してるだろうし、俺が夜間訓練してたこともどっかから聞くだろう。
となれば、変な噂を立てることはしないと思う。
個人的に俺を揶揄う為に何か言ってくるとは思うけど……


コンコン


来客?
こんな朝早くから?


ガチャ


「ん?音夢か」

「あ、えっと……お、おはよ……」

「おはよ。何か用事か?」

「その……お姉ちゃん、来てない?」

「いるぞ」

「ホントに?!」


俺の体で死角になってたらしい。
少し動いてやれば、唯夢の方も気がついたらしい。


「お姉ちゃん!」

「あ、音夢ちゃん。どうしたの?」


血相変えてる音夢に対して、唯夢はキョトンとしてる。
ちょっと見てて滑稽だ。
俺なんか視界に入ってないのか、勢いよく音夢は唯夢へと駆け寄って行く。


「夜中に男の部屋に行ったっきり帰ってこないってどう言うこと?!何されたの?!」

「え、えっと、音夢ちゃん落ち着いて?」

「これが落ち着いてられると思うの?!だから男はみんな獣になるって──」

「だ、だから──」

「いきなりきて騒々しい奴だな」


無視されるわけにもいかないし会話に割って入る。
音夢から睨みつけられてるんだけど、これと言って怖いとは思わない。
ま、後ろめたいことが無いからな。


「何か勘違いしてるみたいだから敢えて言うけど、唯夢が俺の部屋に入ったのは今さっきだぞ?」

「嘘よ!じゃあ何で、昨日の夜中にお姉ちゃんは雪蓮様の部屋に帰ってこなかったのよ!?」

「そ、それはね?私、ナオキ様の部屋の前で寝ちゃって……」

「へ?」


そこからは唯夢が説明してくれたおかげで、スムーズに誤解が解けた。
渋々と言った感じだけど、一応音夢も謝ってくれたし一件落着──


「──じゃねえや。悪いけど唯夢、少し仮眠が取りたいんだけど、話は後でいいか?」

「そ、そうですよね?私も雪蓮様に──」


くぅぅぅ〜〜〜


……二人同時に随分可愛い音鳴らしたな。


「腹減ってんのか?」

「「……っ」」


そこは姉妹らしい。
反応は全く同じだ。
顔赤くして俯いてやんの。


「……作ったら食うか?」

「え?ナオキ様、料理できるんですか?」

「で、でも、男の人の料理って、大したことないんじゃ……?」

「……じゃあ食わないんだな?」

「「食べたいです!」」

「なら素直にそう言え」











朝飯のメニューは既に決まってる。
思春の伝手で漁師のおっちゃんとかとも仲良くなれた。
後は他に、俺自身も市場を見回ってることが多い。
そんな訳で、作りたい料理の材料は確保済み。
今後も色々と作りたいこともあって、保存が比較的簡単な調味料とかは前々から用意してあるし……


「はい、お待ち」

「「わぁ……」」


ご飯に味噌汁、焼き魚と卵焼きと青菜の煮浸し。
これぞ和食って言う朝飯だ。
まぁほとんど目にしたことないメニューだ。
二人とも目をキラキラさせてる。


「味見はしてるから問題ないとは思うけど……量が多かったら残していいからな」

「……普段から料理してるの?」

「まぁな。こういう感じに、天界の料理……的なものも作ってる」

「すごく美味しそうだよね音夢ちゃん!」

「う、うん。匂いとか、見た目とかで……」


くぅぅぅ〜〜〜


あーあ、また腹鳴らしてる。
別に我慢させてるわけじゃねぇんだから……


「食べていいんだぞ?何でジッと料理見てるんだよ?」

「だ、だって……こんな料理見るの初めてだし……」

「た、食べるのが勿体ないって言いますか……」

「気持ちは分かるけど、冷めたら美味さも半減するぞ?」

「「じゃ、じゃあ──」」


二人とも箸を持って、嬉しそうな表情で──


「「いただきまーす!」」

「どうぞ」


仮にも名家の育ちってことなんだろうな。
箸の使い方とか、食べ方とかもお淑やかだ。


「っ!お、美味しいです!」

「この汁物、初めての味だけど……美味しいっ!」

「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ」


勿論自分の分も作ってある。
二人が満足したのを見て、俺も味噌汁をすする。


「ナオキ様、これ卵ですよね?こんなに綺麗に作るコツとかあるんですか?」

「言ってしまえば“慣れ”だな。火加減とか、そう言ったものは一朝一夕じゃ身につかねぇだろうし」

「それってつまり……これだけの品数をあっという間に作れるくらい、もう身に浸み込んじゃってるってこと?」

「だな。雪蓮に引き入れられるよりも前から料理はしてたし」

「他にはどういうものを作れるんですか?」

「んー、まぁ大体のものは作れるぞ?名店の味には劣るだろうけどな」

「お菓子とかも?」

「あぁ。こっちの地方には無い菓子も、いくつか知ってる。時間が合えば、食べに来ても良いぞ?」

「ホントですか?!」

「こんなことで嘘吐かねぇよ」

「じゃ、じゃぁさ……作って欲しいお菓子があったら、お願いしたら作ってくれる?」

「ん?好きなモノでもあんのか?」

「う、うん……」

「材料と時間次第、だな。仮にも武官の一人だし、いつでも暇ってわけじゃない」

「……その言い方ですと、本当に作っていただけるんですか?」

「そのくらい構わねぇよ。先に言っとくけど、贔屓にしてる店と味を比べるのは無しな?」

「そ、そんなことしないもん!」

「でも、作っていただけるなら、是非とも食べたいです!」

「そっか。じゃあ時々は、腕が落ちないように作っとかないとな。その時は味見を頼んでもいいか?」

「「勿論です!」」


……思いの外、早く打ち解けられたな。
芸は身を助けるなんて言うけど、まさしくその通り。
趣味とは言っても、のめり込むほどだとこんな風に意外なところで役に立つ。
お蔭でこんな可愛らしい笑顔を二人分見られた。
代金としては貰いすぎだな。


「それよりナオキ様、眠くないんですか?」

「眠いと言えば眠い。ま、それを我慢した甲斐はあった」

「どういう事?そんなに自分の料理が美味しかったの?……ま、まぁ、確かに美味しいけど……」

「違ぇよ。ま、面と向かって言うと俺が恥ずかしいし、そこは内緒にしとく」

「「……へ?」」


お、漸く皆起き出したか。
遠くの方から声や足音が聞こえてきた。

俺は少し仮眠を取らせてもらうけど、今日も一日頑張れる気がする。
やっぱり、自分が笑顔にさせたって言うのは大きい。
それだけのことが出来たんだって自信にも繋がる。
出来ることなら、この二人だけじゃなくて、もっとたくさんの──

──ま、今はこの二人の笑顔、存分に独り占めさせてもらうか。













後書き

よくよく考えたら呉はオリキャラがちょいちょいいます。
なのでそのキャラたちとの日常編を書こうかと思い立った次第です。
……ちょっと短かったのは置いといて(オイ


ではまた次話で



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