後にレプリカ戦争と呼ばれる戦いから、3年の月日が過ぎた。


 2000年もの間、ユリアの預言によって心を支配されていた世界。


 その呪縛から、人々は解放の道を歩んでいた。


 そんな事とは無縁の、とある森の中……。





 Tales of the Abyss〜2nd〜
 
                      序曲:始まり



「くそっ……やっぱ、来るんじゃなかった……」

 巨大な樹の下に作られた洞窟。その入り口で、少年と青年が、自分達よりも数倍の大きさを誇るライガクイーンを相手に対峙していた。

 少年は、銀色の髪を結わえ、黒いシャツの上に青い丈の長い服を着て刀を構えている。赤い瞳は血の様に鋭く、異様な冷たさを持っている。

 対する金髪に深い緑の瞳を持った青年は、赤いジャケットのような服を白いフィットしたスーツの上に着ており、笑顔を引き攣らせて冷や汗を垂らしている。

 少年と青年の服の背中には、それぞれ、マルクト帝国、キムラスカ・ランバルディア王国の紋章があり、刀と槍を持ってライガクイーンと対峙している。

「うぅ……何で、よりによって合同訓練の日が、ライガ・クイーンの産卵の時期なんだよ……」

 悲しくて涙が出る青年を他所に、ライガ・クイーンが口から電撃を吐き出して来る。二人は、跳んで避けると少年が降下と同時に刀を振り下ろし、ライガ・ク イーンの首筋を切り付けた。

 絶叫を上げて、苦しみ悶えるライガ・クイーンを見据え、青年が尋ねる。

「カーティス大尉……部下達の方は?」

「…………既に避難させた」

「流石に仕事が速いな。じゃあ、後はコイツを片付けるとするか!」

 言うや否や、青年は槍をライガ・クイーンに突き出す。刃が目に突き刺さったライガ・クイーンは仰け反ると、少年が刀を地面に突き立てる。

 すると、刀を中心とした陣が浮かび上がり、音素が彼に収束していき、ライガ・クイーンを中心に、小規模の爆発が巻き起こった。

「エナジーブラスト」

 小規模な爆発ながらも、弱ったライガ・クイーンには充分であり、ライガ・クイーンは、黒焦げになると、その巨体を倒した。

 少年は、煙を上げているライガ・クイーンの死体を冷ややかに見下ろしながら目を閉じると。そして、次に瞼を開けた時、瞳の色は赤から青へと変わってい た。




 数日前……。

 マルクト帝国軍第三師団……かの“死霊使い(ネクロマンサー)”が率いる為、死人の軍と呼ばれている。そこに所属する若干15歳にして大尉という異例の 地位に就いている少年――アイズ・カーティスは、突然、団長に呼ばれて彼の執務室へと訪れた。

「第三師団第二中隊隊長、アイズ・カーティス大尉、出頭しました」

「相変わらず時間に正確ですね、アイズ」

 部屋の主――“天賦の死霊使い”の異名を持つ3年前に世界を救った英雄の一人、ジェイド・カーティスが、デスクに腰掛けたまま言って来た。

「大佐、ご用件は何でしょう?」

「嫌ですね〜。もっと気楽に“パパ”と呼んでください」

「大佐、ご用件は何でしょう?」

 無視して、あくまでも迅速に話を進めようとするアイズに、ジェイドは苦笑する。

 アイズは、ジェイドの養子である。5年前、任務でとある辺境の地を訪れた際、傷だらけだった彼を見つけ、保護する事になった。面倒ごとを嫌うジェイド が、何でそんな事をするのか自分でも当時は分からなかった。普通なら、適当に手当てぐらいはしても、その後の事など知った事ではなかった。

 が、アイズと接している内に中々、面白い事が分かった。人間不信、と言っても良いぐらい、彼は何も信じていなかった。ジェイドが過去に何があったのか聞 いても『答えたくない』の一点張り。追い出す、と脅せば『分かりました』と答え、『どうせ、いつ死んでも構わない身ですから』とまで言い張る。

 今まで色んな彼ぐらいの年頃の子供を見て来たが、此処まで冷たい心の持ち主は見た事が無かった。自分が子供の頃は、少なくとも目標を持って生きていた が、アイズは何も無かった。人間、何か目標、もしくはしたい事が無ければ生きてはいけない。それは夢、希望、欲望とも言う。が、アイズにはそれが無かっ た。そんな子供が、どんな結末を辿るのが見てみたくなった、そうジェイドは思うようになった。

 アイズが命の危険に晒される軍に入ると言った時も何も言わなかった。もっとも、入隊試験をパーフェクトで合格し、次々と功績を挙げて、たった四年で大尉 にまでなってしまったのには、流石に驚いたが。

「しょうがないですね〜。アイズ、今度のキムラスカ軍と合同で行う新人隊員の演習、貴方に監督を頼もうと思いまして」

 キムラスカとマルクトが3年前、和平の同盟を行って以来、こうして年に何回か、合同で演習を行ったりする。その理由は、有事の際、連携を取り易くする為 でもあり、両国の友好の為でもある。

「分かりました。では、部隊員のリストなどをお渡し下さい」

「これです」

 ジェイドからリストを受け取り、目を通すと、一礼して踵を返す。

「あぁ、アイズ。どうです? 今日は一緒に食事でも行きますか?」

「…………遠慮しておきます。今日は、この件の書類を纏めたいので」

「おやおや」

 そう言い、出て行ったアイズに、ジェイドは『息子にディナーの誘いを断られた』などと、とてもかつての仲間達には言えないと苦笑するのだった。




「ご苦労さん」

 ライガ・クイーンを殲滅し終え、今回は引き上げになるアイズは、スッと手を差し出された。

 キムラスカ軍側の演習監督であるルース・ハーゲン大尉だったとアイズは記憶していた。産卵中だったライガ・クイーンを一緒に倒した彼は、素直にアイズに 感謝の意を込めて握手を求めて来た。

「…………」

 が、アイズは、チラッとその手を見ると踵を返して言った。

「現場でのアクシデントの為に俺達がいる………アレぐらい、礼をされるような事じゃない」

「中々、クールな兄ちゃんだな」

 苦笑し、ルースは手を引っ込める。彼はチラッと、ライガ・クイーンによって負傷した兵士達の状況を見て、肩を竦めた。

「こりゃ帰ったら報告書三昧だな、お互い」

「…………慣れてる」

「あ、そう」

 ちっとも会話が続かないのでルースは、中々、取っ付き難い少年だと思った。

「大尉! カーティス大尉!」

 その時だった。茂みから、一人のマルクト兵士が飛び出して来た。その体は、明らかにライガ・クイーンとは違う、刃物で切られた傷跡があった。

「な、何だ!? 何があった!?」

「も、森の外に……新世紀同盟が……」

 それを聞いて、兵士達がザワつく。

 新世紀同盟……預言を廃し、新しい道を歩み出したこの世界の誰もが、その道を受け入れる事が出来た訳ではない。預言によって引き起こされた戦争、それに よって家族や恋人、家を失った人々が集まり、キムラスカ、マルクト両国の現政権の解体を望む活動が近年、エスカレートして来た。それが新世紀同盟である。

 彼らは主に、テロ活動を行い、軍事拠点などに破壊工作を仕掛けて来ている。キムラスカ、マルクト両国は、彼らを武装鎮圧すれば、より民衆の怒りを買うだ けとし、出来る限り説得、取り締まる方向を謳っている。

「どうやら此処で新人隊員の合同演習があるって情報が漏れてたみたいだな」

「ああ……」

 傷だらけの兵士を他の部下に任せ、アイズが頷くと、彼はハッとなって刀を抜いて、頭上に振り上げた。

 次の瞬間、ギィン、という金属音が鳴り響いた。ルースも驚愕して、彼らの方を見る。どうやら、彼らの頭上の木から飛び降りて来たのだろう。杖を持った黒 髪の少女が、アイズと対峙していた。

 漆黒の短い髪と瞳をし、黒を基調に白い十字の入った服に、紺色の長いスカートを穿いている。手には、肘まであるグローブをしている。

「お、女?」

「新世紀同盟か……」

「…………」

 少女は無言で刀を構えるアイズに向かって杖を突き出す。が、アイズは刀で捌くと、少女は体を回転させ、もう片方の手に小さなナイフを手にして彼の腕を切 り裂く。アイズが僅かに目を細めた瞬間、杖を振り下ろした。アイズが刀で受け止めると、その瞬間、キィンという音が響いた。

 すると、二人の体が光に包まれていく。

「!?」

「まさか……第七音素? 今の時代で超振動が……!」

 少女が初めて言葉を漏らす。光は激しさを増し、二人を呑み込んで空の彼方へと消えていった。




 ひんやりとした感触が頬に触れる。アイズが目を覚ますと、夜の小川にいた。近くには、先程の新世紀同盟の少女も気絶している。アイズは、辺りを見回す が、先程まで演習を行っていた森とは違うようだ。

「(アレは……超振動)」

 超振動……第七音譜術士(セブンスフォニマー)同士の振動数が同調し起きる現象の事である。物質を分解、再構成する力があるが、それは全く同じ固有振動 数同士でなければ出来ない。

 しかし、3年前、プラネットストームと呼ばれる半永久エネルギー機関が英雄達によって消滅し、世界中がエネルギー不足に陥った。その為、譜術・譜業と いった技術の能力が著しく低迷した。その為、超振動も滅多な事では起こらない筈だった。

「(この女も第七音譜術士……か)」

 新世紀同盟に第七音譜術士がいるのは厄介だ。アイズは、少女に切られた腕に布を巻きつけて応急治療すると、刀を抜いて少女を斬ろうとする。が、その瞬 間、少女がカッと目を覚まし、杖を振り上げた。

「っ!」

 少女は立ち上がって、アイズを睨み付ける。

「くっ……まさか、マルクト軍に第七音譜術士がいたとは……!」

「それはこちらの台詞だ……新世紀同盟如きにもいたとはな……」

「如きだと? 貴様、私達を侮辱する気か!? 貴様ら、自分勝手な国が!」

「………………」

「私は貴様らを許さん………貴様ら、軍隊も国も!」

 ハッキリと敵意を剥き出しにする少女を、アイズは冷めた目で見つめる。別に少女のような考え、新世紀同盟では普通である。勝手に預言に従い、戦争し、多 くの命を失って、今度は預言を捨てる。民衆からすれば腹立たしいのは当然であろう。が、いちいち、こんなのを相手にするのも疲れて来た。アイズは、フゥと 溜息を零すと刀を鞘に収めて背中を向ける。

「に、逃げる気か!?」

「女一人に逃げるか……同盟の大物ならともかく、貴様みたいな雑魚を捕まえても意味が無い。とっとと、この森から出る」

「ざ……わ、私を侮辱するな!」

「黙れ。俺は女だろうが敵意を持ってる奴は殺す。貴様は、殺されないだけ、ありがたく思え」

 そう言って、アイズの冷たい青い瞳で睨まれ、少女は身を竦ませる。そして、彼が歩き出すと少女が引きとめた。

「ま、待て! 此処が何処か分かるのか?」

「知らん。だが、森から出れば、馬車でも通る筈だ」

「…………非常に不愉快だが、私もそれまで一緒に行ってやる」

 そう少女が言うと、アイズは眉を顰めて振り返る。

「…………断る」

「な……!?」

「何故、敵である貴様などと一緒に行かねばならん?」

「だから外に出るまでだ! こっちだってお前みたいな奴と一緒に行動するなんて嫌に決まってる!」

 が、見た所、かなり深い森に移動してしまったようだ。一人で行動するのは、お互いにかなり危険の様だ。そう少女が訴えるが、アイズは聞く耳持たず、先に 進み始める。

「私だって、この世界の為にまだ死ぬ訳にはいかんのだ! だから、此処を出るまで休戦だ! 良いな!?」

「…………勝手にしろ。貴様など相手にもしていないがな」

「後、私は貴様ではない。サラ……サラ・エグネスだ」

 アイズの物の言い方に腹を立てながらも少女――サラ・エグネスは、彼の後に付いて行った。





 〜後書き〜

アイズ「…………アビスの続編、以上」

ジェイド「以上って貴方……もう少しこうボギャブラリーに富んだ会話が欲しいですね〜」

アイズ「………主人公のアイズ・カーティス……根暗マンサーの養子」

ジェイド「根暗マンサーじゃなくて、ネクロマンサーですよ?」

アイズ「………根黒マンサー……」

ジェイド「やれやれ。到底、ルーク達にこんな姿は見せられませんね〜」


神威さんに代理感想を依頼しました♪


感想代理店

ども、最近代理感想を良く書く神威です。
以後お見知りおきを。
さてさて、今回の作品はアビスSSですな。
以前のSSから時間が経ってないのに早いことです。
で、まぁアレなんですが、はっきり言って私はこのタイプのSSは苦手です。
半オリジナルになった状態で、果たして題材がアビスである必要があるのか? と勘ぐってしまう訳なのですよ。
なので少々辛口になるかもしれないので、あらかじめご了承下さい。
まずは
>しかし、3年前、プラネットストームと呼ばれる半永久エネルギー機関が英雄達によって消滅し、世界中がエネルギー不足に陥った。
此処ですね。
第七音素が減少したのは確かですが、その理由はローレライが音譜帯に組み込まれた(?)事によっての影響だったと記憶しています。
エネルギー不足に陥った、と言っても譜業関係のものが動かなくなったり、第七音譜術師が譜術に使用する第七音素が足りなくなり、その効果が落ちる、という ものです。
譜業が使えなくなるのは確かに大打撃ですが、エネルギー不足……までは行かないと思います。
まぁ、勘違いかもしれないのでここら辺はあまり触れないでおきますが。
さて、次です。
ヒロインっぽい感じのサラ嬢登場のシーンですが、まぁ、使いまわしのような物ですね。
原作より後の話を書くわけですから、ここまでティア襲撃の際のシーンに似通っている必要は無いかと思います。
状況も原作に似通ってますし、これならアフターにしなくても良いのでは? と思ってしまいます。
ともあれこれに関しては今後に期待、です。
さて、あんまりネチネチと言うのもアレなので、突っ込むのはここら辺にして。
現状ではアフターにした理由が全く見出せないので、今後どのように物語を運ぶのかに期待したいと思います。
主人公であるアイズがどの様な物語を紡ぐのか、しっかりと見届けさせて頂きます。
では、これにて。

黒い鳩より一言。

えと、神威さんの言っておられる音機関関連についてですが、

音機関の動力不足に関してはアフター世界の実像があるわけではないので、どちらでもいいと思います。

それに、プラネットストームに関しては、ルーク達が外郭大地を降ろす際にかなり使用していますし。

その後、地殻震動による地面の液状化を止める為にプラネットストームを陸上艦タルタロス(名前うろ覚え)によって止めています。

エネルギーの不足に関してはそこでも話し合われていましたし、さして問題ないと思われます。


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