「きゃあ! う、動かしにく〜い!」

 見た事無い虫型ロボットの大群撃滅に外に出たルナマリアは、グリードが思うように動かず苦戦していた。

<どうも核エンジンと相転移エンジン(仮)のハイブリットが予想以上の機動性を生み出したみたいね……それで難なく操ってるシンは流石だけど>

 暴れ馬になってしまったMSを既に乗りこなし、グリードをサポートしながらアロンダイトビームソードで次々と虫型ロボットを落としていく。

<ルナ! 動かせないなら、アークエンジェルに……>

「だ、大丈夫! 何とか慣れるから!」

<無茶するなよ!>

 小さい虫型ロボットは、その素早さを利用し、散開してデスティニーとグリードに襲い掛かる。が、シンはアロンダイトビームソードを振り上げ、赤い光の翼 を煌かせると、次々と切り刻んで撃破していく。

「1年近く実践から離れてたのに……ブランク、全然、無いじゃないの」

<と、言うかストレスでも溜まってんじゃないの? 綺麗な女性、二人と暮らしてて年頃の男の子なら手ぇ出したい気持ち満々……>

<何、勝手なこと言ってんですか!!>

 エリスの推測に、シンが顔を真っ赤にして怒鳴り込んで来る。

「シン……手、出したいの?」

<え……? うわぁ!?>

 少し頬を染めたルナマリアに問われていると、虫型ロボットの攻撃を喰らうシン。

<あらら。青春してるから、あんな風になるのよ>

<エリスさん、絶対、ワザとでしょ……>

 ミリアリアの静かなツッコミは、オッホッホ、と日の丸の扇子を扇ぐエリスの笑い声に掻き消された。

<高エネルギー体接近!!>

 と、その時、チャンドラの叫ぶような報告が響く。すると遥か遠方から、一条の閃光が迫って来る。

<回避っ!!>

 慌ててマリューが指示を出すが、閃光はアークエンジェルの横を素通りし、虫型ロボットを破壊していった。その威力は、戦艦の陽電子砲に勝るとも劣らない 威力だった。シンとルナマリアも呆然となり、閃光の飛んで来た方を見る。そこには、アークエンジェルに似た白亜の戦艦があった。




機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜 IN ナデシコ

PHASE−02  二つの白亜の戦艦




「何? アレ……」

「戦艦ね」

「そんなの分かるわよ!」

「じゃ、この世界の戦艦」

 ちっとも動揺していないエリスに、マリューはハァと溜息を零す。

「助けて……くれたのか?」

 操縦桿を握りながらも、ノイマンが呟く。

「ふんふんふ〜ん♪」

「エリスさん、何してるの?」

 鼻歌を歌いながら通信端末を弄っているエリスに、不思議そうにミリアリアが尋ねて来る。が、彼女は答えず、「良し、出来た」と言って、スイッチを押す と、モニターに青いロングヘアーに白い服と帽子を被った女性が映った。

<ども〜! ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカで〜す!>

 次の瞬間、大音量の声が響いた。

<ありゃ? 随分と旧式の通信機なんですね>

「ひょっとしてあの戦艦と回線繋いだの?」

「電波辿れば簡単よ。基本的な科学技術は私らの世界と変わってないから」

 コソコソと小声で会話するエリスとミリアリア。

<ま、良いや。あなた達、誰ですか? 見た所、地球軍じゃ無いっぽいですけど……>

「あ、私達はオー……」

「ボランティアよ」

 素直に答えようとした――この辺は素直な軍人の悲しい性――マリューを遮り、エリスが口を挟む。

<ボランティア?>

「そう! この美しい地球を守る為にご近所の人達で結成したボランティアよ! 何の見返りも無しだけど私達は日夜、あの木星蜥蜴相手に戦ってるの!!」

<そ、そうだったんですかああああぁぁぁ!?>

「「「「(信じるんだ……)」」」」

 良くもまぁ、唐突にそんな出任せが言えるエリスもエリスだが、それを簡単に信じ切ってしまう向こうの艦長も艦長だった。

「この戦艦も、その人型機動兵器も全て私の設計よ!」

 改造したのは彼女だし、間違っていないと言えば間違ってないのだが、複雑な気持ちである。

<凄い……貴女のような女の子がネルガル並の技術力を持ってるなんて>

「ふ……も〜っと褒めてくれても良いわよ!」

<いやいや。これまたナデシコに勝る劣らずの戦艦ですな>

 すると、今度はメガネに髭面の男性が映り、ニコヤカな笑顔を浮かべて言って来た。その男性を見て、エリスは一瞬、目を細める。今度は、ちょっとぐらい駆 け引きが楽しめそうな相手だと彼女の直感が告げた。

<あぁ、自己紹介が遅れました。私はプロスペクター……まぁ、ペンネームみたいなものです。このナデシコは我がネルガル重工の私物でして、決して軍ではあ りません。皆様を攻撃、もしくは捕らえるようなマネは致しませんので>

「ふ〜ん……つまり民間船って訳」

<はい、民間船です。まぁ、あなた方がバッタとジョロに襲われているのを助けたのですから、名前ぐらいは教えて頂きたいですな>

「あ、はい。私は、このアークエンジェルの艦長、マリュー・ラミアスです」

 マリューは、立ち上がり男性――プロスペクターに名乗る。

<ほほう。アークエンジェルとは、また……強そうな名前ですね〜>

「そちらこそナタデココなんて、とっても美味しそうな名前……」

<ナタデココじゃなくてナデシコ〜!!>

 ウンウン、と何故か頷きながら言い返すエリスに、女性――ミスマル・ユリカが怒鳴って来た。

「ナデナデシコシコ? …………ま、いやらしい愛撫ね」

<ふぇ〜ん! アキト〜! あの女の子がナデシコを馬鹿にする〜!>

<だからって俺に泣き付くなよ!>

 何やら向こうから、また別の男性の声が聞こえたが、エリスは無視する。

<なぁ、ルナ。今の何がいやらしいんだ?>

<………知らない>

<??>

「シン、男として情けなくなるだけだから、それ以上は話さない方が良いわよ」

 そうシンに忠告し、エリスはモニターに向き直る。

「ネルガルっていうのは民間会社なのよね? じゃあ、私達を雇ってくれたりするのかしら?」

「!? エリスさん!?」

<雇う……ですか。船籍不明の戦艦をですか?>

「いえ、雇うのは私と、その人型機動兵器のパイロット二人の計三人ね。正確に言うと、取引きしないって事」

 雇ってもらう代わりに、こちらの戦力、そして自分の知識をナデシコに組み込んで構わない。そして、ナデシコの方針に従い、護衛すると言うのだ。

<生憎、ナデシコは護衛して貰わなくても十分、強いので>

「ふ〜ん……さっき、そのナデシコから磁場の歪みを測定したわ。どうやらアークエンジェルと同じ相転移式のエンジンを積んでるみたいね」

<! 相転移エンジンを積んでらっしゃるのですか!?>

 初めてプロスペクターが驚いた顔を見せる。

 先程、ニュースを見た時、相転移エンジンを利用して発生するフィールドを地球軍と思われる艦隊は使用していなかった。有効な防御手段であるにも関わら ず、である。つまり地球人は、使いこなせていない、がナデシコは同じフィールドを発生させていたのを感知した。これは、一民間企業が軍より強い軍事力を 持っている、という訳である。

「私が自分で設計、開発し、そしてその二機の人型機動兵器……MSは、従来の核エンジンと相転移エンジンのハイブリットエンジンを積み込んだ、戦艦以上の 戦闘力を有しているわ。シン、ルナマリア……証拠見せてあげて」

 そう言うと、デスティニーとグリードの周りを、アークエンジェルとナデシコと同じフィールドが包み込んだ。

<間違いなくディストーションフィールド……いや、信じられませんな。まさか、貴女のような少女が造り上げるとは>

「これだけの戦力、欲しくないかしら?」

<欲しい!>

 プロスペクターを押しのけてユリカが言って来た。

<いやはや……艦長もこう言ってる事ですし、どうでしょう? 三人だけ、とりあえず話だけでもナデシコに移って貰えないでしょうか?>

「ええ、構わないわよ」

<では、お待ちしております>

 そう言い、ナデシコとの通信が切れた。

「ちょっとエリスさん、どういうつもり?」

「そうよそうよ。いきなりシン達とあの艦に行くなんて……」

<ちゃんと説明して下さいよ>

 シン達までもが理由を求めてくると、エリスはフンと冷めた目でナデシコを見て答えた。

「ネルガル……って、会社の戦艦よね。アレ」

「え、ええ? そう言ってたわね……」

 民間船とは呼べそうにない代物だけど、とマリューが頷く。

「ネルガル……その意味は古代バビロニア語で“火星”って意味よ」

 その言葉に、シンやブリッジクルー達が驚愕する。自分達は火星に調査へと赴いてこの世界へやって来た。そしてネルガルの意味が火星……これらは偶然なの だろうか?

 エリスはニヤッと笑みを浮かべ、先程までのふざけた表情から一変し、腕を組んでナデシコを睨み付ける。

「そもそも民間会社が戦艦持って独自に動いてるのが納得できないわ。商売ってのは、売って売って何ぼの世界よ。軍に高額で売らず、給料払って民間人を乗せ るなんて……本当に木星蜥蜴、とか言うのを倒す気があるのかしら?」

「ネルガルという会社の目的は……他にあると?」

「その目的が火星だったら帰れる手がかりが見つかるかもしれないわ。もし、アークエンジェル全員を雇って貰うって言えば、会社側も困るだろうから、私達だ けで行くわ。取り引きってのは、如何に相手に得してるか見せて、切り札をどれだけ隠せるかが勝敗の決め手なのよ」

 こういう駆け引きをやらせたら、多分、彼女に敵う人間は世界に一人だけしかいないだろう。今のやり取りで、そこまで見極めているエリスに、素直に皆、感 服した。

「と、いう訳でアークエンジェルはしばらくの間、海中にでも潜って身を隠してて。その後、ネルガルの事を調べといて欲しいの。けど、決して危ない事はしな い事」

「分かったわ。でも、どうして隠れるの?」

「流石にボランティアなんて信じてくれるのは、よっぽど天然なのか馬鹿正直な人間だけよ。後で軍に見つかると厄介でしょ。昔から『軍と会社の上層部は疑っ て進め』って言うでしょ?」

「「「「(言わないけど、真実っぽいからツッコめない)」」」」

「じゃ、私は向こう行くから、そっちはそっちで頑張ってね〜」

 そう言って、手をヒラヒラするとブリッジから出て行った。

「艦長、どうします?」

「エリスさんが出て行った後、急速潜航。以後、命令があるまでアークエンジェル内で待機。その後、班に分けて地上に出て調査をします」

「「「了解!」」」

 マリューの指示に、ノイマン、チャンドラ、ミリアリアが頷いた。




「どうも〜! ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカです! ぶい!」

「どうも〜! 天才美少女科学者、エリス・マーフィスです! ぐわし!」

 同じようなノリで挨拶をかますユリカとエリス。シンとルナマリア、そしてユリカに付いて来ていたプロスペクターとスーツを着た大柄の男性――ゴート・ ホーリーは押し黙る。

 ナデシコの格納庫へ招かれたエリス、シン、ルナマリア。とりあえずデスティニーとグリードを見て、頬擦りしている眼鏡をかけた技術者――ウリバタケ・セ イヤの方に向き直る。

「あ〜! 分解して〜! このスペック見てたら、エステバリスが玩具に見えるぜ!」

 格納庫には、MSよりも10mほど小さい人型機動兵器が並んでいた。ちなみに二機のMSは大き過ぎる為、寝かせた形を取っている。

「分解しても良いけど、後で貴方も分解させてくれる〜?」

 ニコォッと輝かんばかりの笑顔で白衣からメスを取り出して言うエリスに、ウリバタケは冷や汗を垂らしてデスティニーとグリードから離れる。

「さて、来る前に言ったけど、とりあえず雇ってくれるだけで別に給料とかいらないわ。後、この二人も精一杯、扱き使ってあげて。私も、皆さんがどうして もって言うなら夜伽の一つや二つ……」

「うら若いお嬢さんがそんな事を言ってはいけませんよ。しかし、困りましたな〜。ネルガルとしては、三人方を雇う訳でして、労働基準法に準じた扱い を……」

「あら? 雇ってくれる方針に決めてくれたの?」

「良くおっしゃいます。あなた方の艦が海中に潜ったのですから、少年少女を無碍に追い出す訳にいきません。それに、パイロットは人手不足ですしね」

「あら〜♪話の分かるオジサマって素敵♪」

「お褒め頂き光栄です」

 顔は笑顔ではあるが、腹の探り合いをしまくっている二人に、シン、ルナマリア、ゴートは、彼女らの間に流れる妙な空気を感じていた。

「後ろの二人は、戦闘経験は?」

 鋭い目つきでゴートがシンとルナマリアに尋ねる。

「えっと……訓練は二年、実戦は一年ぐらい」

「二人とも前線で戦ってたから、戦闘経験は豊富よ〜」

「ほう」

 こんな子供が、とゴートは一瞬、目を光らせる。

「では、そちらのお二人……」

「シン・アスカです」

「ルナマリア・ホークです」

「アスカさんとホークさんは……」

 ファミリーネームで呼ばれ、シンとルナマリアはゾクッと震えた。義勇軍であるザフトにいた二人は、ファミリーネームより名前で呼ばれる事の方が多い。二 人はすぐに訂正を求めた。

「シンで良いです!」

「わ、私もルナマリアで……」

「おや、そうですか? では、シンさんとルナマリアさんは戦闘要員として雇う、という事で宜しいですかな?」

「はい」

「分かりました」

「そしてマーフィスさんの方ですが……」

「そうね〜……じゃ、何でも屋でどう? このMSの整備、後、そちらの人型兵器のメンテも手伝ったげるし、本職は医者、後、戦艦の操縦も出来るし、戦闘及 び白兵戦も経験アリ。他に炊事、洗濯、お茶にお華に日本舞踊も出来るし、書道は免許皆伝で、物理、化学、生物学、その他諸々、何でも得意なの」

 エッヘン、と腰に両手を当てて胸を張るエリス。ユリカは「ほへ〜」と素直に驚き、プロスペクターは「そうですか」と営業スマイルを浮かべる。

「では、ウリバタケさんと共に普段は整備班としてお願い出来ますか?」

「お任せあれ」

 どうせ、MSの整備は自分しか出来ないので、丁度良かった。

「では、艦長。三人を皆に紹介しよう」

「はいっ! ブリッジに案内するね、付いて来て」

 ゴートに言われ、身を翻すユリカ。

「あ〜……私、ちょっとパス。あの眼鏡さん、及び整備員の皆さんにMS勝手に弄くったらどうなるか、手取り足取り永遠に忘れられないよう調教……じゃなく て、教え込むから」

 キラキラ〜と子供みたいに目を輝かせてMSを見つめているウリバタケを指差し、邪悪な笑みを浮かべるエリス。

「くれぐれも仕事に支障が出ないよう頼みますよ」

「OKOK♪ じゃ、シン、ルナマリア。後でね」

 ヒラヒラ〜、と手を振ってエリスは皆から離れる。シンとルナマリアは、ユリカに付いて行ってエレベーターに乗った。

「え?! ちょ、そんな太いのを……ぎゃあああああああ!!!!!!!」

 扉が閉まる直前、ウリバタケのそんな悲鳴が聞こえたが、何があったのか想像するだけで恐ろしいので聞かなかった事にした。




「えっと〜……今日から新しくナデシコに乗る事になったシン君とルナマリアちゃんです」

「よ、よろしく……(何だ? この極端な年齢層は?)」

 ナデシコのブリッジに案内され、紹介されつつも、そのクルーに戸惑った。自分達よりまだ幼い少女がいると思えば、年寄りまでいる。しかも女の比率が高 い。シンは、恐る恐るプロスペクターに小声で尋ねた。

「あの……コレって本当に戦艦のクルーなんですか?」

「ええ。皆さん、人格に問題アリですが腕は一流ですよ」

「そんなのがクルーで………」

 そこまで言って、シンは人格に問題アリで腕は一流の傍迷惑な姉弟を思い出す。

「(別に良いか……)」

 随分と柔らかくなったシンである。

「操舵士のハルカ・ミナトよ。よろしくねん」

「通信担当のメグミ・レイナードです」

「ワシが提督のフクベ・ジンだ」

「副長のアオイ・ジュ――」

「俺はダイゴウジ・ガイ!! 新入りパイロットども、よろしくな!!」

「ホシノ・ルリです。よろしく」

 色気ムンムンの女性に、好感の持てる少女、軍服を着た老人、何故か某アーサーさんと被る副長、そして足を骨折してる暑苦しい男性、そんでもって無表情の 女の子……濃い集団というのがシンとルナマリアの第一印象だった。

「で、この人がコック兼パイロットで、私の王子様、テンカワ・アキト!」

「だから腕にしがみ付くな〜!!」

 シン達より少し年上の青年――テンカワ・アキトがユリカに腕に抱きつかれて怒鳴った。

「コック兼パイロット?」

 ふと、その役職を聞かされてシンとルナマリアは眉を顰めた。

「違う! 俺はコックだ!」

「まぁ、その事は後にして……とりあえず新メンバーも加わった事ですし、そろそろナデシコの行き先を教えておきましょうか」

 クイッと眼鏡を押し上げ、プロスペクターが言った。

「今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは、妨害者の目を欺く必要があった為です」

「そうなんですか?」

「そういえば行き先は聞かされてなかったな〜」

 小声でルナマリアがミナトに尋ねると、彼女は口許に指を当てて答える。

「ネルガルがわざわざ機動戦艦を建造した理由は別にあります」

 それを聞いて、シンとルナマリアの表情が厳しくなる。どうやらエリスの言っていたネルガルという会社独自の目的が発覚しそうだ。

「我々が目指す場所は火星だ」

 フクベの言った火星、という言葉にシンとルナマリアは、他のクルーとは別の意味で驚愕する。

「そんな! では、現在抱えている侵略は見過ごすというのですか!?」

 ジュンが異議を申し立てる。どうやら乗組員、皆が地球を守る為、木製蜥蜴を相手にしてると思っていた様で、火星に行くとは思っていなかったようだ。

「多くの地球人が火星に植民していたというのに連合軍はそれらを見捨て地球にのみ防衛戦を引きました。火星に残された人々と資源はどうなったんでしょ う?」

「どうせ、死んでんでしょ」

 ルリの辛辣なお言葉。

「分かりません、でも行く価値はあると……」

「無いわね、そんもの!!」

 その時だった。ブリッジの扉が開き、独特の髪型をした軍人が、銃を持った兵士達を引き連れて駆け込んで来た。突然の事に対応出来ないクルー。

「血迷ったか、ムネタケ!?」

 フクベが叫ぶと、軍人――ムネタケ・サダアキは笑みを浮かべて言った。

「ふふ、提督。この艦を頂くわ」

「その人数で何が出来る?」

 ムネタケの言葉に、ゴートが問う。確かに、見た所、ナデシコは民間船なので乗っている軍人は極少数の様だ。

「ナデシコだけと思っていたけど、まさか、あんな強力な人型兵器を二機も手に入れれるなんて実に好都合だわ」

「分かったぞ!! オメーらは木星のスパイだな!」

 ダイゴウジ・ガイ、本名ヤマダ・ジロウがそう叫ぶと、銃を突きつけられる。

「別にスパイだろうが何だろうが、昔から軍人の八割はロクな人間がいないって相場が決まってんのよ」

「誰!?」

「は〜い♪ 新メンバー最後の一人のエリス・マーフィスで〜す」

 突如、ブリッジに入って来たエリスはニコッと笑顔を浮かべると、両袖から銃を落とし、兵士達の持っている銃を撃ち落とした。即座にゴートが落ちた銃を拾 い、ムネタケに向ける。

「う……」

「な〜んかブリッジに来る途中、銃突きつけられたからやっちゃったけど……いるのよね〜、上にゴマするしか能の無い軍人」

「な、何ですってひぃっ!?」

 エリスの言葉にムネタケが怒鳴るが、額に銃を突きつけられる。

「観念しなさい」

「ふ、ふふふ……観念するのは、アンタ達の方よ!」

 引きつった笑いを浮かべて叫ぶムネタケ。その時、海中から幾つもの戦艦が浮上して来て、ナデシコを包囲した。

<こちらは連合宇宙軍第三艦隊提督、ミスマルである>

 すると、スクリーンにカイゼル髭を生やした将校が映った。

「お父様……」

「「「「「「え!?」」」」」」

 ポツリ、と呟くユリカ。クルー達は信じられない様子で二人を見比べる。ユリカは普通に美女の部類に入る。それの父親が、思いっ切り悪の帝王っぽい顔をし てるオッサンだから、まぁ無理も無い。母親は極上の美人だったのだろうか?

「お父様、これはどういうことですの?」

<おぉ〜ユリカ、元気か?>

「はい」

<これも任務だ。許してくれ、パパも辛いんだよ>

 ドアップで涙目になって話すミスマル・コウイチロウ提督。この時、誰もが理解した。ああ、親バカだと。

「困りましたな〜、連合軍とのお話しは済んでいるハズですよ。ナデシコはネルガルが私的に使用すると」

 プロスペクターが眼鏡を直しながら言う。

<我々が欲しいのは、確実に木星蜥蜴どもと戦える兵器だ。それをみすみす民間に……>

「いや〜流石ににミスマル提督、分かり易い! じゃあ、交渉ですな。そちらへ伺いましょう」

「(やるわね……)」

 強引に相手の話を遮って自分のペースへと持って行くプロスペクターに、エリスは素直に感心した。

<よかろう……ただし! マスターキーと艦長は当艦が預かる!>

「え!? え〜っと……」

 突然、そんな事を言われ、戸惑いながらもコントロールパネルに目を落とすユリカ。そんな彼女の様子を見ながら、今ひとつ事情が飲み込めていないシンとル ナマリアが、小声でエリスに尋ねた。

「そういえばアークエンジェルは無事なんでしょうか?」

「無事に、この海域から脱出したみたいよ」

 そう言って、アークエンジェルからの電波を受信するレーダーを取り出すエリス。

「艦長! 奴らの言いなりになるつもりか?!」

「ユリカ、ミスマル提督が正しい。これだけの戦艦を、むざむざ火星に……」

「いや、我々は軍人ではない。従う必要はない」

 ガイ、フクベは反対し、ジュンは軍に従うべきだと訴える。

<フクベさん、これ以上生き恥をさらすつもりですか……ユリカぁ、私が間違った事を言った事などないだろう>

「う〜ん……」

 ユリカは、しばし考えた後、マスターキーに手をかけて、カチャッと回して引き抜いた。

「「「ああぁーーー!!!」」」

「抜いちゃいました〜♪」

 笑顔で答えるユリカ。

「あ〜あ、エンジンが止まっちゃう」

 ミナトが呟くと、ナデシコの高度がどんどん下がって行った。

「ナデシコはこれで全くの無防備ね……」

<うむ、良い子だユリカ。さあ、その人と一緒にこの艦に来なさい>

 器用にも連合軍の提督と親バカな父親の顔を使い分けるミスマル提督。

「良いんですか? このままじゃデスティニーとグリードも取られますよ?」

「大丈夫よ。ちゃんとロックしたし、MSの構造をこの世界の人間が理解できる訳ないでしょ」

「それはそうですけど……」

「ま、此処は大人しく従いましょ。こっちの世界のことウリちゃんから色々と教えて貰ったから、教えたげる」

 そう言って銃を降ろすと、エリスは両手を挙げた。




「じゃ、しばらく此処で大人しくしてて頂戴」

 クルーは皆、食堂に集められて監禁される事になった。ユリカ、ジュン、プロスペクターは連合艦隊の旗艦、トビウメに向かった。

「あ〜! 最悪! 乗ったばかりなのに監禁だなんて〜!」

「どうせだったら、あのキノコ、ぶっ飛ばせば良かった……」

 軍の養成学校で散々、訓練を受け、赤服を纏うエリートだ。アレぐらいの人数ならやり返す事だって出来た。

「まぁまぁ。とりあえず、こっちのこと説明したげるから」

 ポットから緑茶を注いでエリスが二人に笑顔を向ける。

「まず、この世界で地球が戦っているのは木星蜥蜴とかいう謎の生命体ね。で、このナデシコはネルガルっていう会社が独自に作った相転移エンジン搭載の最新 鋭の戦艦ね。火星には既にテラフォーミングが行われたんだけど、二年前に木星蜥蜴に侵略されたみたい。で、月もやられちゃって、現在、地球の各地で戦闘が 勃発してるようよ」

「しつも〜ん」

 湯飲みを片手に、ルナマリアが挙手する。

「はい、ルナマリア」

「そもそも木星蜥蜴って何?」

「さぁ?」

 コクッとエリスも首を傾げた。

「第一、蜥蜴ってのが分かんないのよ。だって、向こうの兵器って、アンタ達も見たように虫型でしょ? なのに何で蜥蜴?」

「それは……何でだろ?」

 “寿”と書かれた湯飲みを持ちながらシンが眉を顰める。

「ま、何にせよ元の世界に帰るには火星に行かないとね……」

「どうしたお前ら!! 暗いぞ! 俺が元気の出る物を見せてやる!!」

 と、その時、暗い雰囲気の食堂をぶっ飛ばすガイの言葉が食堂内に響く。ガイは、何やら旧いタイプのビデオディスクを取り出し、モニターに接続するようウ リバタケに言った。旧式過ぎてウリバタケも「俺のコレクションが無かったら……」と愚痴りながらモニターに接続した。

「何だ何だ?」

「何か映画でも上映されるみたい……閉じ込められてるのに呑気よね〜」

「あら? 無駄に緊張しすぎてる方がロクな事にならないわよ」

 そう言い、三人も他のクルーに習って席に着く。部屋が暗くなり、映像が上映される。すると、無意味に流れる暑苦しい音楽と、濃いアニメキャラが映った。

「………何……コレ?」

「この俺、ダイゴウジ・ガイの魂のバイブル! ゲキガンガー3だ!! しかも、全39話、CMスキップは当然だ!!」

 よりにもよって熱血系のくどいアニメが上映され、皆、ガクゥ〜っと力が抜けた。アキトが「あれ? オープニングが違う」と呟くが、エリスだけは歓喜の声 にかき消された。

「きゃ〜!! 素敵! 何々!? 今の時代で、こんなアニメ見れるなんて感激〜!!!」

「おぉ! お嬢ちゃん、そんなに嬉しいか!?」

「勿論よ!! 勧善懲悪という至極単純なストーリーのクセに、所々、恋愛要素を盛り入れるからバトルものか恋愛ものか分からないジャンル! しかも、番組 後半になると製作スケジュールが間に合わないからって、総集編とかシーンの使い回しなんて一切やらず、ちゃんと伏線とかを刈り取って見事に完結される正に アニメの鑑!! こんな素敵な感動をありがとう!!」

 褒めてるのか貶してるのか分からないエリスだったが、涙まで流して喜んでるという事は、多分、褒めてるのだろう。が、一部の台詞で、シンとルナマリアの 胸が痛んだのは本人達しか知らない。

「よ〜っし!! じゃあ俺と一緒に掛け声合わせるかぁ! レッツ! ゲキガイン! だ」

「分かったわ!」

「「レッツ!! ゲキガイン!!」」

 叫び、腕を組み合わせるエリスとガイ。

「エリスさん、物凄くこの艦に馴染んでるわね……シン?」

「そうだよな……結局、スタッフに愛されてたのはキラさんで、主役だった筈の俺なんて、ラスボスの手先かよ……しかも、キャストの順番まで入れ替わる始 末……俺なんて俺なんて……」

「(駄目だ、こりゃ)」

 膝を抱えて縮こまっているシンを見て、ルナマリアは冷や汗を垂らす。




「ジュン君達遅いなー」

「まあ、落ち着きなさい。それより、ユリカ、少し痩せたんじゃないか?」

「お父様ったら、お別れしてまだ、2日ですわ」

 トビウメの応接室に案内されたユリカ。彼女の前には、ズラーっと大量のケーキが並んでおり、その向こうにはミスマル提督が座っている。

「まあ、それはそれとして、お腹空いたろう? フタバ屋のケーキだ。ショートもチョコレートもレアチーズもたくさんあるぞ。遠慮せずに食べなさい」

 が、ユリカはケーキにも目もくれず、父親に尋ねた。

「ねえ、お父様、テンカワ・アキト君を憶えていますか?」

「テンカワ・アキト? はて? 誰だったかな?」

「火星でお隣だった子です。」

「火星?」

 惚ける父親に対し、ユリカは語気を強める。

「私、アキトに会いました。アキトのご両親は亡くなられそうなのですが、何か知りませんか? テロで殺されたそうです」

「殺された!?」

「お父様は何か知りませんか?」

「いや、何かの間違いだろう。テンカワは事故で死んだ」

 そんな会話をしていると、扉が開き、プロスペクターが入って来た。

「お待たせしました」

「結論は出たかね?」

「はい。色々、協議致しましてナデシコは、あくまで我が社の雌雄物であり、その行動に制限受ける必要無し」



「うおおおおおおお!! やっぱ、ゲキガンガーはサイコーだぜ!!」

「凄い凄い! 理論が一切不明の目からビーム! でも魂が揺さぶられるのは何故!?」

 一方、ナデシコの食堂では未だにゲキガンガーの放映が続いていた。

「しかし本当に暑苦しいな、このアニメ」

「武器の名前をいちいち叫ぶのは音声入力だからか?」

 ウリバタケとゴートの冷ややかなツッコミに対し、ガイが怒鳴る。

「ちっがぁ〜〜う! これが熱血なんだよ! 魂の叫びなんだ! 皆これを見て、何にも感じないのか!? 奪われた秘密基地! 閉じ込められた人質達! 何 とかしてあげようと思わないのか!?」

 別に秘密基地でも何でも無いが、ガイの訴えに黙ってゲキ・ガンガーを見ていたアキトはグッと拳を握り締めた。

「でもさ〜、艦長がいないと動かないよ、この艦」

「根性で何とかなる!」

 根性で動く艦なんか聞いた事が無いが、ガイの力説は続く。

「シン、アンタもパルマ・フィオキーナを使う時に『ぶぁくねつ! デスティニーフィンガー!』って……」

「絶対に嫌だ!!」

 何か後で何処かの銀髪オカッパな隊長さんに怒られるような気がしたシンは、断固、拒否した。ちなみに何故かその台詞、ガイが物凄く似合いそうだったりす る。

「さて……じゃあ此処はゲキガンガーに倣って、民間人を監禁してる悪い軍人さん達をやっつけましょうか」

 そう言って、エリスが立ち上がると、皆、驚いた顔で彼女を見る。

「それとも、このままナデシコが乗っ取られるのが良いって人は挙手してね」

 ニコッと笑って扉に向かうエリス。軽く端末を弄ると、アッサリと扉が開いた。

「な、何だお前ぶっ!」

 見張りの兵士が振り返ると同時に、足を垂直に振り上げて顎を蹴り上げる。体が少し浮いた兵士の鳩尾に掌底を喰らわせて黙らせる。

「「「「「「(強……)」」」」」」

「で? 反対者は?」

「俺……」

「ん?」

 すると、アキトがフライパンを手にして立ち上がった。

「俺、ロボットに乗って艦長助けに行く」

 アキトの言葉に、皆が驚いた顔になる。

「俺、火星を助けたい! たとえ世界中が戦争しか考えてなくても、それでも、もっと他に出来る事……皆、それを探しに此処に来たんじゃないの?」

「ふふん……中々、言うじゃない。で、あんた誰?」

「は?」

 そういえば、まだエリスに名乗ってなかったのを思い出すアキトは唖然となる。が、突如、艦全体が激しく揺れた。




 ミスマル提督が、ブリッジに着いた時には、護衛艦のパンジーとクロッカスが、木星蜥蜴の侵略兵器であるチューリップに吸い込まれていた。

「チューリップが生きていたのか……ナデシコ発進だ! さぁ、ユリカ! キーを渡しなさ……あれぇ? ユリカ? ユリカは何処だ!?」

 が、そこにユリカは居なかった。すると、トビウメの甲板のヘリからユリカが通信を繋いで来た。

<此処ですわ、お父様>

「ユリカ!?」

<お父様 もう一度、お聞きします。アキトのご両親の事です>

「ユリカ! 何をこんな時に……」

 ミスマル提督の隣にいたジュンが声を上げるが、ユリカは遮る。

<私には重要な事なんです!>

「チューリップ! 針路をナデシコに変更しました!」

<お父様! 本当の事をおっしゃって!>

 娘に強く睨まれ、ミスマル提督は怯みながら答える。

「ユリカ……確かにそんな話を聞いたような気もする……しかし、お前に聞かせるのは、しのびなくて」

<そうですか、分かりました。プロスさん、行きましょう>

<はい>

 ヘリが動き出し、ミスマル提督が驚きの声を上げる。

「ユリカ! 何処へ行く気だ!?」

<ナデシコに戻ります>

「ユリカ! 提督に艦を明け渡すんじゃ……」

 ジュンも、てっきりナデシコを明け渡すと思っていたので驚きを隠せない。

<え? 私は、ただアキトのご両親の話を聞きに来ただけだよ>

「えぇ!?」

「ユリカーーーッ!!!」

<艦長たるもの、たとえどのような時も艦を見捨てるような事は致しません。そう教えてくださったのはお父様です!>

 そこでユリカはキリッとした表情から、頬を赤く染めて恥ずかしそうに言った。

<それに……あの艦には私の好きな人がいるんです>

「なああああああぁぁぁぁにいいいいいいぃぃぃ!!」

 娘の爆弾発言に今までより大声で驚愕の声を上げるミスマル提督。




 赤紫に塗装されたエステバリスの双眸が光り、歩き出す。格納庫では、ゴートとシンが銃撃戦を繰り広げていた。

<ありがとう! OKです!>

「ルリの指示に従え!」

「ルナ! お前もグリードに乗って行け!」

「え? でも……!」

 まだ上手く乗りこなせいという不安な表情になるルナマリア。シンは、笑みを浮かべて言った。

「大丈夫。もしもの時は俺が絶対に守ってやる」

「シン……分かった!」

 ルナマリアは頷くと、グリードに向かって走る。シンが援護しながら、彼女はコックピットに乗り込んだ。




 歩くエステバリスを管制室で見ながら、メグミは格納庫にいる人達全員に向かって放送を流した。

「発進します! どうなっても知らないので、避難してください!」

 すると、横でエステバリスの発進をサポートしていたルリがフッと唇を緩めて笑ったのが目に留まった。

「あれ? ルリちゃん、今、笑った?」

「別に」

 答えた時には、ルリはいつものように無表情だった。

「私も結構、バカよね」

<行きます!>

 威勢の良いアキトの声が響き、ゲートが開かれる。

「マニュアル発進、よーい……どん!」

 ルリの掛け声と同時に、エステバリスが走り出す。

「マニュアル発進って、ただ走るだけ?」

「うん、そう」

 ロボットの発進にしては余りにも異様な光景である。

<ちょっと待てぇ!>

 突然、通信が開き、ウリバタケの怒鳴り声が響いた。

<テンカワー! そりゃ陸戦フレーム……>

<1、2の……どーん!!>

 ウリバタケの言葉を聞かず、アキトのエステバリスが飛び出す。

<飛べーーーっ!!>

<それは陸戦タイプだ!! 陸戦タイプなんだよーーーっ!!>

 ブースターが火を噴いたが、それは一瞬で、すぐに空中で止まってしまう。

<アレ? 何だこりゃあああああ!!!>

 そのままエステバリスが海に向かって落ちる。その時、発進ゲートをエメラルドグリーンの光が横切り、そのまま外に飛び出ると、海に落ちるエステバリスの 腕を掴んで空を飛んだ。

「い、今のは?」

「ルナマリアさんのMSとかいうロボットですね……」



<ぶいっ!>

「んなあああああああ!!!?」

 艦長席に座っていたムネタケは、いきなりユリカがスクリーンに映って驚愕した。

<今から帰るので、お迎えよろしく〜>

<こ、こちら格納庫! 完全に制圧され、んぎゃ!>

<観念しろ>

 ユリカの帰還に続いて格納庫が奪還されてムネタケが驚きを隠せないでいると、背後から軽い声がした。

「ハロ〜」

「んなぁ!?」

 そこには笑顔でエリスが立っており、後ろにはミナトがおり、更に後ろには兵士達が目を回して倒れている。

「あ、あああんた達! こんな事してただで済むとんぎゃ!」

 エリスは問答無用でムネタケの腕を掴むと、グルッと一回転させて鳩尾に拳を叩きつけて黙らせた。

「わお! エリちゃん、つよ〜い!」

 シン、ルナマリア、アキト、ガイ、ゴートと戦闘が出来る人間は、格納庫へ向かったというのに、エリスは此処に来るまでの兵士全員を一人でぶっ倒した。

「あ〜、久し振りに暴れたから疲れたわ」

 コキコキ、と肩を鳴らてエリスが言う。ルリに代わってオペレーター席に座り、スクリーンを見ると、エステバリスの腕を掴み、不器用ながらも飛んでいるグ リードが映っており、エリスはフッと笑みを浮かべた。



「くっ! 言う事……聞きなさいよー!!」

 凄まじい負荷がかかるコックピット内で、ルナマリアは叫ぶ。すると、グリードはビームライフルを手にして、チューリップと呼ばれる敵兵器に向かって撃ち 出す。が、ビームはチューリップを包むバリアで防がれた。

「! ビームが利かない!?」

<どうやら向こうも同じようなフィールドを持ってるみたいね。なら、ルナマリア! 同じフィールドを張って相殺して打ち消すのよ!>

 エリスから通信が入り、ルナマリアは指示通りしようとしたが、そこでハッとなった。

「あの……エリスさん、コレは?」

 そこで、アキトのエステバリスの存在に気付く。突っ込むのは構わないが、その場合、エステバリスはどうなるのだろうか?

<捨てれば?>

「助けたのに、それは無いでしょう!」

 動かしにくいながらも、チューリップから伸びて来る触手を必死に避けるルナマリア。その時だった。ビームが飛んで来て、チューリップの触手を消し去る。

<ルナ! 無事か!?>

「シン!」

 そこへ、デスティニーに乗ったシンが赤い光の翼を広げて飛んで来た。




「超特急で、お待たせぇーーっ!」

「やっほー!!」

 ブリッジでは、ゴートの肩に乗ったメグミとルリ、そしてトビウメから戻って来たユリカとプロスペクターが合流した。ユリカはマスターキーを入れて、ナデ シコを起動させる。

「すいません、替わります」

「ん。よろしく〜」

 ルリと席を交代するエリス。メグミの自分の席に座り、起動準備が進められる。

「電圧正常、相転移エンジン再起動開始」

「システム回復」

「オールジャスト完璧〜♪」

 “たいへんよくできました”と映像が映り、ナデシコは起動した。

「それではさっそく全速前進!!」

「その前に、ヤマダ・ジロウさんが発進許可を求めています」

「「ヤマダ〜?」」

 聞き慣れない名前に、ミナトとメグミが同時に声を上げると、ガイから通信が開いた。

<ダイゴウジ・ガイだ!! さぁ、準備は万全! いこうか〜!!>

「その必要は無いわよ」

「「「「「「え?」」」」」

<何ぃ!?>

 エリスが口を挟むと、チューリップと戦うデスティニーの姿を見て、笑みを浮かべた。




「ビームが利かないって! なら!!」

 チューリップの触手を避けつつ、ビームを撃つが相手のフィールドによりビームが聞いていない。シンが、目を細めると彼の中で何かが弾け飛び、視界がクリ アになり、感覚が研ぎ澄まされる。

 触手が一束になってデスティニーに襲い掛かるが、シンは、それらを全て避けながら、パルマ・フィオキーナを発生させ、手を突き出す。チューリップを包む フィールドは、ビームは通さないが、物理的防御はゼロに近いようで、デスティニーは素通りし、掌を叩きつける。その部分は爆発し、煙を巻き上げる。

 シンは距離を取ると、腰の長距離ビーム砲を向けて、フィールドの消えたチューリップに向けて放った。閃光はチューリップを貫き、粉々に爆発した。

 爆散するチューリップを見て、シンはフゥと溜息を零す。

<シン君、お疲れさま〜!>

「うわ!?」

 と、いきなりユリカからの通信が入り、シンは驚く。

<アキトのエステバリスと一緒にナデシコに戻って来てね>

「は、はぁ……」

<シン……やっぱ、ああいう時は『ぶぁくねつ!』って……」

「だから嫌ですってば!!」

 あくまでも、それに拘るエリスに、シンは怒鳴るのだった。





「ナデシコ、上昇します」

 海底では身を潜めていたアークエンジェルでチャンドラがナデシコが宇宙へ向けて上昇しているのを報告する。

「そう……それにしても驚いたわね。この世界の艦隊が出て来たのは」

「何とか逃げれましたね……シン達、大丈夫でしょうか?」

 宇宙に飛び立つナデシコを見ながら、ノイマンが呟く。まぁ、エリスがいるから大丈夫だと信じ切っているが。

「しばらくは海の中で悪いけど待機ね……はぁ」

 私達は、どうしてこんな所まで来てしまったのだろう、と呟きたいマリューだった。





 〜後書き談話室〜

ルリ「やりたい放題にも程があります」

エリス「私の家系に手加減なんて文字は無い!」

ルリ「そうですか……」

エリス「ナタデココにも何とか乗船できたし」

ルリ「ナデシコです」

エリス「あぁ、まぁどっちでも良いわ。私を乗せた事をタップリと後悔させてあげなくちゃ♪」

ルリ「あなた、味方なんですか? 敵なんですか?」

エリス「場合によるわね〜。ほら、あの某コーヒー大好きな虎さんと同じ声の人みたいに、良い人か悪い人か最終的に分かんない人と一緒よ」

ルリ「異世界に来たのに偉く余裕ですね」

エリス「焦って元の世界に帰れなくなったら洒落にならないじゃない」

ルリ「…………普通、頭で理解できても感情が納得出来ないと思うのですが」

エリス「それがノヴァズヒューマンとアンタらの違いよ。さ〜て! 次回は誰をイジろうかしら?」

ルリ「帰る事を考えるんじゃないんですか?」

エリス「それはそれ! これはこれ!」

ルリ「バカばっか」
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