地球を木星兵器の侵入から防いでいる第一次防衛ライン。核融合衛星の生み出す、通称『ビッグバリア』は、地球からの脱出を願うナデシコにとっては正に諸 刃の剣であった。コレがある限り、木星兵器の地球侵入は防げるが、逆に地球から出れなくなってしまうのであった。

「あの……艦長」

「ほへ?」

 そのビッグバリアを解除して貰おうと、これから連合総司令部に連絡しようとするユリカの姿を見て、恐る恐るシンが尋ねる。

「本気で、その格好で?」

「モチのロン! エリスちゃん! 準備は良い!?」

「モチのツモ!」

 その後ろで、何故か全身黒タイツのエリスがグッと親指を立てる。シンは、もう知らない、と溜息を零して、ブリッジから出て行った。




「ナデシコ、許すまじ!」

 地球連合総司令部では、総司令直々の演説が行われていた。その内容は、つい先日、連合軍のナデシコを軍に組み込む要求を跳ね除け、勝手に火星に行く事へ の怒りだった。

「国家間戦争も終わった今、地球人類は一致団結して木星蜥蜴と戦う時だ! だが、ナデシコは火星に向かうと言う。こんな勝手を許していては地球はどうな る!?」

 彼らからしてみれば、ナデシコの兵力は是非とも欲しい所だろう。最初はネルガルの私事で戦艦を造る事を許可していたが、ナデシコの力は、彼らの予想を大 きく裏切った。そして、ナデシコがその力を地球防衛ではなく、火星へ行くというのは、地球に対する裏切りだと勝手に考えていた。

「総司令、緊急通信が」

 と、その時、女性オペレーターが通信機を持って立ち上がる。

「何? 何処からだ?」

「あの……それが、ナデシコからです」

 次の瞬間、大型スクリーンにナデシコからの通信が映った。

<あけましておめでとーございまーす!!>

 すると、モニターには振袖を着て、ニコヤカに笑うナデシコの艦長、ミスマル・ユリカが現れた。彼女の後ろでは、“テケレテッテ〜♪”という音楽に合わせ て獅子舞が踊っている。

 それを見て「フジヤマー!」「ゲイシャガール!」「ハラキリー!」とか叫ぶ各国の代表。

<艦長、代わりたまえ。君は緊張している!>

 流石に連合総司令部の通信に、その格好は拙いとフクベが代わろうとするが、ユリカはあっけらかんとしている。

<外人さんには日本語分からないですし、愛嬌を出した方が……>

 ちなみに今まで総司令は英語で演説していた。が、今度は日本語でユリカに言った。

「君はまず国際的なマナーを学ばれるべきだな」

<あら、ご挨拶どうも。折角ですが、時間がありません>

 そこでユリカは今度は対抗してか流暢に英語で要求を言った。

<私達、三時間後に地球を出たいんですけどぉ、このままだとバリア衛星を破壊しなくちゃいけないの。ナデシコも傷ついちゃうし〜、で、悪いけどビッグバリ アを、一時開放してくれるとユリカ感激ぃ!>

 キラキラ、と子供みたいに輝かしい瞳で、とんでもない要求をしてくるユリカ。当然、総司令の答えは、

「ビッグバリアを開放しろだと!? 盗人に追い銭か……ふざけるな!!」

 NO、である。

<だったら、無理矢理バリア通っちゃうもんね〜>

 ただ聞いてみただけ〜、みたいなノリのユリカを総司令は忌々しげに睨み付けて断言した。

「これでハッキリしたな……ナデシコは地球連合軍の敵だ!」

<あら、そう……ではお手柔らかに>

 ユリカが不敵に笑い、獅子舞がドアップでカタカタカタ、と笑って通信が切れた。

 総司令は、怒りで肩を震わせると振り返って言った。

「事はもはや極東方面軍だけの問題ではない! 全軍挙げてナデシコを撃沈せねば秩序は無い!」

 が、そこで当面の極東指令、タナカ・サブローが異議を申し立てた。

「しかし、アレを撃沈すれば最新鋭戦艦を撃沈する事に……大体、クルーの七割は日本国籍ですし……ミスマル提督、貴方からも何か」

 娘から通信が入り、連合軍と敵だと断言されたのに動じていないミスマル提督に話が振られる。

「ごほんっ! 我が娘ながら、とんでもない事ですな〜……」

 真剣な表情で立ち上がり、ミスマル提督は顎に手を添えて……。

「振袖姿に色気があり過ぎる……ムフフ」

 親バカエロ親父丸出しの発言をかますミスマル提督に、出席者一同が呆れ返ってしまった。



機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜 IN ナデシコ

PHASE−03  大脱出




 連合軍はナデシコ追撃に軍を投入した。総司令は、成層圏を抜けるまでに撃沈できるなと言うと、女性オペレーターが言い辛そうに答えた。

「いえ……それが……まとまった軍事行動は久しぶりの為、木星兵器が刺激され、現在世界各地でバッタと激しい戦闘を開始しています」

 あちこちでバッタと戦い、撃墜される連合艦隊の光景に、総司令はワナワナと震える。

「ナデシコめ……絶対に許さん!! 第三防衛ラインを呼べ!!」

 その怒りは、逆恨み以外なにものでも無かった。





「くっそ〜! また連合軍かよ!」

 ゲキガンガーを見ていたアキトとガイ、そんでもって何故か途中で捕まえられて見せられているシンは、連合軍のミサイル攻撃で船体が揺れて画面に集中でき なかった。

「いいトコなのに、揺らすなよ! ユリカ!」

 映写機を押さえてアキトが叫ぶ。すると、ゲキガンガーの写真の入った額を戻しながらガイが言った。

「しょうがねぇって。ディストーションフィールドは、木星蜥蜴のグラビティブラスト用装備。実体弾による攻撃なら、多少のダメージもあるわな。分かった か?」

「(PS装甲と全く逆だな……)」

 アホの子みたいにゲキガンガーを見ていたシンは、ふとPS装甲でディストーションフィールドを張れば、無敵じゃないかと思ってしまう。エリスなら、造れ るだろうが……。

『んな、スリルの無いもん造ったらつまんないでしょうが!』

 とか言って、クルーの命の危険が格段に減るのに、嫌がるだろう。

「でも良いんですか? 俺達、出ないで」

 シンがそう尋ねると、ガイは心外な顔をして言った。

「若いな、小僧。ロボットで、いちいちミサイル落とせるかよ!」

「い、いや……デスティニーは殆どミサイルとか……」

 利かない、と答えようとしたシンだったが、ガイが熱論を振るい始めた。

「ロボットはやっぱり、ロボット対ロボットの肉弾戦さぁ!!」

「ロボット同士で肉弾戦って言うんですかね?」

「さぁ?」

「ってぇー事は俺様の出番は、第三防衛ラインからさぁ!」

 ビシッと指を三本立てて高らかに言うガイ。

「は、はぁ……」

「今度こそコックや新入りに良い格好はさせないぜ!」

「勝手にすりゃあ良いじゃん」

 張り合いのないアキトの言葉に、ガイは拍子抜けしてしまう。

「よ〜し分かった! ナデシコは俺が必ず宇宙に送り出す!! お前らは絶対、邪魔するなよ! もし邪魔したら……」

 そこでガイは、ゲキガンガーの映像を消した。

「二十七話からは見せん!!」

「えぇ!?」

「(別に見たくも無い……)」

「二十六話が最終回じゃないの!?」

 アキトはマジで驚いた顔になると、ガイはフフン、と笑みを浮かべて答えた。

「バーカ! この後、時間帯が移動して最終クールがあったんだよ!」

「お願いお願い! 見せて!」

「フフフフフ……よーし誓え!! 今後、俺のロボットには乗らない、ってな!」





「現在、地球は七段階の防衛ラインで守られている」

 ブリッジは、ゴートから宇宙へ出るまでの地球の防衛ラインの説明が行われている。

「我々は、それを逆に一つずつ突破していかなければならない」

「スクラムジェットの航続高度は既に突破。空中艦隊はバッタと交戦中……事実上、この二つは無力化していますから、現在は地上からのミサイル攻撃、即ち第 四防衛ラインを突破している最中です」

 プロスペクターの言葉を聞いて、メグミがボヤいた。

「面倒くさいね〜。一気に宇宙までビューン、て出られないの?」

「そ。それが出来ないんだな〜」

「地球引力圏脱出速度は秒速11.2km。その為にはナデシコのメイン動力である相転移エンジンを臨界までもっていかないと、それだけの脱出速度は得られ ないの。でも、相転移エンジンは、真空をより低位の真空と入れ替えることによってエネルギーを得る機関だから、より真空に近い高度じゃないと臨界点が来な いのよね、お分かり?」

 ズイッと獅子舞が目の前に来て説明され、メグミは驚きながらもコクコクと頷いた。

「エ、エリスちゃん、この艦に乗ったばかりなのに詳しいのね」

「伊達に相転移エンジン自分で造ってないわよ」

「エリスさん、一時間でナデシコの仕組み全部マスターしましたから」

 獅子舞で踊っている姿を見ている限り、そこまで頭が良いとは思えないが、実際、覚えているのだから凄いと思うメグミとミナト。

「相転移反応の臨界点は高度二万キロメートル。だけど、その前に第三、第二防衛ラインを突破しなければいけないから…………キャ!」

 また艦の振動が激しくなり、ユリカは尻餅を突いた。

「また、ディストーションフィールドが弱まったな……」

「いたたた〜……」

「着替えたらどうかね?」

「あ、は〜い。でも、その前に……」





「ど〜も、この間の事から、しっくりこないのよね〜……今日こそは!」

 アキトとガイの部屋の前で誰に向かって言っているのか不明なユリカ。

「あれ? 艦長、どうしたんです?」

「あ、ルナちゃん!」

 と、そこへ不思議そうな顔でルナマリアがやって来た。まぁユリカの格好についてはツッコまい事にしたようだ。

「ルナちゃん、こそアキトに用?」

「いえ。何かシンがヤマダさんに拉致られたって聞いたんで……何かあったのかなと思って」

「そうなんだ〜。じゃ、艦長特権のマスターキーで!」

 ユリカはカードキーを取り出し、それを差し込むと扉が開いた。すると、部屋の中から、非常に暑苦しい音楽と声が聞こえて来た。

「アーキートー♪」

「シン、いるの〜?」

<ジョーーーーーーッ!!!!>

「「ん?」」

 何事かと思い、部屋に入ると真っ暗にしてゲキガンガーを見ているアキトとガイが抱き合って涙を流し、そしてシンが膝を突いて号泣していた。

「ど、どうしたのアキト? 男同士で!?」

「シ、シン! 何があったの!?」

「うぅ! 俺のジョーが〜! それにゲキガンガーが〜! 死んじまったんだ〜!!」

「そうか〜! お前にも分かるか! 分かってくれるか!」

 映像を見ると、夕日の海岸で仲間キャラが死んだと思われるシーンが流れている。ルナマリアは、しゃがんで四つん這いになって泣いてるシンに尋ねた。

「シン、アンタもこのアニメに感動して泣いてんの?」

「ち、違う! シュティルとルシーアが死んだ時と被って……うぅ……」

「……………シン、あの二人って味方じゃなかったような……」

 少なくとも一人は間違いなく、都市を破壊しまくった。

「二人ともゴメン〜!! 俺の所為で〜!!!」

 頭を抱えて涙を流すシンに、ルナマリアはハァと溜息を零した。

「男の死に様はやっぱああだよな〜! 仲間を庇ってドカ〜ン!!」

「ありがとう! ありがとう! こんな良いものを見せてくれて〜!!」

「(ありがとう……ねぇ)」

 実際、大切な人が目の前で死ぬと、感動なんてしない。この辺り、アニメと現実の区別が付いていない、そしてバカらしいながらも流している涙の質は、二人 とシンは明らかに違うものだとルナマリアは思った。

「はぁ……私の方がイイのに……」




「左30度、第三防衛ライン、デルフィニウム。9機接近。プラス60度、距離8000km」

 次々と防衛ラインを突破したナデシコは、衛星軌道にまで達したが、そこで連合軍の防衛人型機動兵器、デルフィニウムが迎撃に現れた。デルフィニウムは、 上半身こそ人型だが、下半身はロケットがくっついた様な形をしていた。

<ゲ〜キ! ゲ〜キ! ゲキカンガ〜!>

 こちらも迎え撃つ為、ガイの青いエステバリスが発進した。

<お〜! 来やがった来やがった〜! 束になって来やがった〜!>

「相転移エンジンの臨界ポイントまで後どのくらい?」

「後19750kmです」

「どうする、艦長?」

 ユリカの隣でフクベと並んで立っているエリスが尋ねる。

「行きましょう」

<そうこなくっちゃ〜!! ヒーローの戦い方、タップリと見せてやるぜ!! どぉ〜りゃ〜!!!>

 ユリカが頷くと、ガイは威勢良くブースターを点火し、デルフィニウム部隊に突っ込んで行った。が、デルフィニウムはロケットに付属しているミサイルを一 斉に撃ち込んだ。

<おい! バカ! 何やってる!?>

 格納庫のウリバタケが叫ぶ。

<OKOK!>

 しかし、ガイは難なくミサイル群を避ける。一応、それなりの技量はあるようだった。

<今だウリバタケ! スペースガンガー重武装タイプを落とせ!>

 が、ウリバタケは無反応。

<ヤマダさん、何か言ってますよ?>

<人の話、聞かない奴なんざ放っと……>

「ウリちゃ〜ん。1−Bタイプを射出してあげて〜」

<<はい!! エリス様!!>>

 先程までやる気の無かったウリバタケ達だったが、急に姿勢を正し、敬礼までしてテキパキと作業に移った。皆、不思議そうにエリスに注目する。

「エリちゃん、いつの間に整備班の人達、手懐けたの?」

「フフ……まぁ、私の愛かしら」

 何があったのか非常に気になったが、皆、怖くて聞けなかった。

<ふっふっふ……完璧だ。俺が素早く下に回り込み敵をおびきよせる。敵はこっちには武器がないと思っている。だが射出された重武装タイプに空中で合体!  一気に敵を殲滅! 名付けてガンガークロスオペレーション!>

<ほ〜ら行ったぞぉ>

<きたきたきたぁ〜! いくぞぉ〜! ガンガークロー……>

 射出されたパーツと合体する寸前で、ミサイルが飛んで来てパーツを破壊されてしまった。

「あの〜、もしかして失敗ですか?」

<な、何の〜! 根性〜!!>

「やっぱり、合体中に叩くのは基本よね〜。新しい顔も、くっ付く前に濡らせば意味無いのよ」

「「「「「(やっぱりワザとか……)」」」」」

 クルーは、エリスの笑顔が悪魔の微笑みに見えた。

<ガァイ! スーパーァ! ナッパァァァ!!!>

 ディストーションフィールドを纏ったアッパーをデルフィニウムに喰らわせて、ガイは一機撃墜する。

<しゃあ! こいつは行けるぜ! ヌハハハハ!!>

 と、高笑いするガイだった、

「ヤマダさん、完全に囲まれました」

「アハハハハハハハ!!!!」

 見事にデルフィニウムに囲まれてしまい、絶体絶命だった。



<頼むぞ、テンカワ、シン、ルナマリア>

<しょうがないな〜、もう>

「じゃ、俺とルナはナデシコの防衛しますんで、ヤマダさんはお願いします」

 ガイ救出の為、アキト、シン、ルナマリアの三人が出撃した。

「やるぞ! ルナ!」

<ええ!>

 シンがビームライフルでナデシコに当たらないようミサイルを撃ち落とし、ルナマリアはグリードの背中の円盤を射出し、シンが撃ち漏らしたミサイルを陽電 子リフレクターで防いだので、ミサイルは一発もナデシコに当たらない。




「うわ!? シンちゃんとルナルナ凄っ!」

「あのグリードの防御は、ミサイルを完全に防いでいる……」

 ミサイルを次々とピンポイントで撃ち落とすシンもシンだが、ミサイルを防ぐグリードの陽電子リフレクターにも驚くナデシコのクルー。その時、デルフィニ ウムの一機から通信が入った。

<ユリカ……これが最後のチャンスだ。ナデシコを戻して!>

「ジュン君!?」

 何と通信に出たのは、トビウメに置いて行かれたジュンだった。彼がデルフィニウムのパイロットになり、自分達と戦っているのに驚くユリカ。

「君の行動は契約違反だ」

 こんな時にまでサラリーマンな台詞を吐くゴート。

<ユリカ、力づくでも君を連れて帰る。抵抗すれば、ナデシコは第三防衛ラインの主力と戦うことになる! お願いだ、ユリカ! 僕は君と戦いたくない!>

「って、言ってもミサイルはシンとルナマリアがいる限り当たる事は無いわよ」

 シ〜ン、とジュンの言葉の説得力を粉々に打ち砕くエリス。確かに、どう見ても攻撃が当たっていないデルフィニウム隊の方が不利である。

「臨界ポイントまで19650km」

「どうします、艦長?」

 プロスペクターが問うと、ユリカは笑って答えた。

「ごめんジュン君、私此処から動けない!」

<なっ!? 僕と戦うと言うのか!?>

「ここが私の場所なの! ミスマル家の長女でも、お父様の娘でもない、私が私でいられるのは、此処だけなの!」

 ユリカの返答にジュンは信じられないといった顔になる。エリスは、フッと笑みを浮かべ、目を閉じた。

<…………やっぱり、アイツが良いのかい?>

 声を震わせながら問うジュンだったが、ユリカは意味が分からないと言った声を上げる。

「へ?」

「ユリカ……分かったよ。では、まずこのロボットから破壊する!」

 そう言って、いつの間にかデルフィニウムに拘束されているガイのエステバリスに照準を定めた。

<<やめろぉ!!>>

 と、その時、アキトのエステバリスとシンのデスティニーが駆けつけ、ガイを拘束していたデルフィニウムを落とす。シンは、コックピットを外して腕を破壊 した。

<やめろよ! そんなの! こないだまで仲間だったんだろ、俺達!!>

<あくまで立ち塞がると言うなら……僕と戦え! テンカワ・アキト! 一対一の勝負だ! 僕が負ければ、デルフィニウム部隊は撤退させる!>

「若いわね〜」

 フゥといつの間にか座布団敷いてお茶を啜るエリスが呟く。もはや、任務云々以前に、アキトへの嫉妬以外何ものでもない。

「無理よ!」

 正規の軍人であるジュンと、素人パイロットのアキトでは勝負にならない。メグミがそう叫ぶが、プロスペクターは冷静に電卓で計算する。

「う〜ん、損な勝負ではありませんな〜」

 何が損なのかは不明である。

<いけ〜! アキト〜! それでこそ男の戦いだ〜!>

<そんなのやれるか!!>

 ガイが戦え、と五月蝿いがアキトはキッパリと言った。

<行くぞ! テンカワ・アキト!>

 が、アキトの意志は無関係にジュンはミサイルを撃つ。

<やめろ〜!! 俺は戦う気なんて、ねぇぞ〜!!>

 叫びつつ、アキトもデルフィニウムへと突っ込んで行く。そこへ、他のデルフィニウムが駆けつけようとするが、ガイのエステバリス、シンのデスティニー、 そしてルナマリアのグリードが立ちはだかる。

<お〜っと! お前らの相手は俺達だ! 男と男の戦いに水を差すなんて、野暮ってモンだぜ!! 行くぞ、お前らぁ!! うおりゃあああああああ!!!!>

 ガイのエステバリスが突っ込んで行くと、ルナマリアがシンに尋ねた。

<どうする?>

<しょうがないだろ。本人達が乗り気なんだし……>

 そう言い、デスティニーがアロンダイトビームソードで、グリードがビームランスでデルフィニウムを撃破する。

「ナデシコ、第三防衛ラインを突破。相転移エンジン臨界ポイントまで19550km」

<相転移エンジン稼働率50%!速度上昇中!>

 ルリとウリバタケが続け様に報告を入れると、ユリカは首を傾げながら呟いた。

「ジュン君、どうしてアキトに突っかかるのかしら」

「「「えっ?」」」

 皆、何を言ってるんだろうという顔でユリカの方を見る。

「それは艦長お分かりでしょう。男の純情……」

「は?」

「だって、アオイさんは艦長の……」

「大事なお友達よ?」

「「「はあ?」」」

 プロスペクターとメグミが言っても、未だに分かってなさそうなユリカ。

「臨界ポイントまで19400キロメートル」

「報われないわね〜」(ズズズ)

 ルリの報告とエリスのお茶を飲む音が静寂したブリッジに良く響いた。

<待てよ待てよ待てよ! お前ぜったい勘違いしてるぞっ! 俺とユリカは何の関係もないんだ!>

<信じられるか! 大体そんな個人的な事は関係ない!>

 外では未だにアキトとジュンの『個人的な』戦いが繰り広げられている。

<じゃあ何でこんな事! そんなに戦争したいのかよぉ!!>

 そう叫んでデルフィニウムに殴るかかるアキト。その拳を、ジュンさんは受け止める。

<僕は、子供の頃から地球を守りたかった。連合宇宙軍こそ、その夢を叶える場所だと信じてるんだ!>

<俺だって思ってたさ。ずっと……信じれば、正義の味方になれるって。それで、いい気になって……でも、なれなかった!>

<僕は違う!!>

「あんなオカマキノコみたいないる軍が正義の味方って信じてるのかしら、彼?」

 ボリボリとお茶請けの煎餅を頬張りながら、心底、不思議そうに呟くエリス。

「臨界ポイントまで、19000km」

「第二防衛ライン、射程距離内に入ります!」

 第二防衛ラインは、衛星による迎撃で、その威力はミサイルやデルフィニウム部隊とは格が違うものだ。

<この手で地球を守ってみせる! 正義を貫いてみせる! 一人の自由に踊って、夢や誇りを……忘れたくない!!>

<こ……の……っ! バッキャロォォ!!>

 アキトの怒号と共に、エステバリスがデルフィニウムを殴り飛ばす。

「青春してるわね、若人は」

 座布団を枕にして寝転がり、雑誌のページを捲るエリス。

<やるじゃねえかアキト! 男と男の熱い戦いはこうじゃなくっちゃなぁ!!>

<っていうか、私達、蚊帳の外……>

<暇だな……艦に戻るか>

 既にデルフィニウム部隊を撃墜したガイ、ルナマリア、シンが言うと、ジュンがアキトに怒鳴り返した。

<何をするんだ!>

 殴られたジュンは、エリートらしい青臭いセリフを吐いた。

<いい加減にしろよ! こんな風に……こんな風に、好きな女と戦う正義の味方になりたかったのかよ!?>

<シン、耳、痛くない?>

<う……>

 疑問を持ったまま好きだった筈の祖国と戦ったりした時の事を思い出し、シンはルナマリアに言われて表情を引き攣らせた。

<……好きな女だからこそ、地球の敵になるのが耐えられないんじゃないかぁ! クソォォ!!>

 ヤケになったジュンが、ミサイルを乱射する。

「武装衛星、ナデシコを捉えました」

「エンジン臨界ポイントまであと15000km」

「今ミサイルが来たら避けきれないわねぇ〜」

 まるで人事みたいに言うミナトだったが、ぶっちゃけナデシコはピンチだった。

<あれ? あれ? あれぇ? 動かない……>

<こっちもエネルギー切れだ……>

 どうやらエステバリスのエネルギーが切れたようで、二人とも動きが止まってしまった。

「エステバリス、エネルギーライン有効範囲外です」

「武装衛星からのミサイル、三方向より接近中!」

「エンジン臨界ポイントまで、あと1万km」

<エンジン稼働率、順調に上昇中!>

「ミサイル、さらに接近!」

 次々と繰り出される報告。その時、ジュンのディルフィニウムが、両手を広げ、ナデシコの前に立ち塞がった。

<あの野郎、ミサイルの盾に!>

「ジュン!」

<やめろォォォ!!>

「シン! ルナマリア!」

 そこへ、今までダラダラしていたエリスが立ち上がり、シンとルナマリアに通信を繋いだ。

「ルナマリアはナデシコをアマノイワトで防御! シンはエステバリスとデルフィニウムを回収して!」

 エリスがそう指示を飛ばすと、デスティニーがデルフィニウム、そしてアキトとガイのエステバリスの腕を掴んで、ナデシコへ戻る。そして、グリードのドラ グーン、アマノイワトが射出され、ナデシコを包み込んだ。

「ミサイル、レーダーで確認!」

「エンジン臨界ポイントまであと5000km」

<いいぞぉ、速度急激に上昇中!>

「エリスちゃん……」

 ユリカが安堵した表情で、エリスを見る。エリスは、Vサインして煎餅を齧った。

「相転移エンジン臨界ポイントまで、あと300km、250、200………」

 臨界ポイントまでのカウントダウンを開始するルリ。

<来た来たぁ! エンジン回ってきたぁ!!>

「ディストーションフィールド、最大へ!」

 ユリカの指示で、艦をディストーションフィールド、その内側を陽電子リフレクターが包み込んだ。

「全員バリア突破に備えて!」

「100、50………エンジン、臨界点へ到達」

 ミサイルが当たるが、二つのバリアーによって振動は一切無かった。そのままナデシコは、第一防衛ラインの核融合炉を破壊して、ビッグバリアを突破し、宇 宙へと飛び出した。




「と、いう訳で」

「今頃、地球では核融合炉の爆発に伴う大規模なブラックアウトが起こってるでしょうな。ま、自業自得ですが」

 ブリッジの上部では、主要メンバーが集まっている。その中には、複雑な表情を浮かべたジュンの姿があった。

「ユリカ……ゴメン」

「謝る事なんてな〜んにも無い! ジュン君は友達として、私の事を心配してくれたんでしょ? ね?」

「いや、あの……」

 好きだから守りたかった、と言えず、その前にユリカはギュッとアキトの手を握り締めた。

「ありがと〜、アキト! 私の友達を傷つけないでくれて!」

「い、いや、あの、別にお前の友達だから助けた訳じゃないって!」

「まぁまぁまぁまぁ!!」

 と、そこへガイが割って入り、ジュンの肩に腕を回して来た。

「とりあえず生きてりゃ良い事あるって! とにかく俺より目立つんじゃねぇぞ」

「何です、それ?」

 ふとジュンは、ガイの持っているビニールに入ったある物が目に留まった。後ろからそれを覗き込んだアキトは、パァッと表情を輝かせる。

「あ〜!! ゲキガンシールだ〜!」

 それは、ゲキガンガーのシールセットだった。




「さ〜てと……何処に貼ろうかな〜?」

 深夜の格納庫で、ガイは自分のエステバリスの前に立ち、ゲキガンシールを貼ろうとしていた。その時、脱出用の小型シャトルに乗り込む軍服を着た一団が目 に留まった。

「ん? おい、アンタ達!」

 すると、ガイに向かって銃口が向けられ、銃声が鳴り響いた。呆然と目を見開くガイ。その銃弾は自分の体に当たる事はなく、目の前の少女の突き出した腕に 当たった。

「な……!?」

 銃を撃った人物――ムネタケ・サダアキは、突然、現れて銃弾を腕で防いだ少女――エリスに驚愕する。反乱を起こしたムネタケは、他の兵士と一緒に閉じ込 められていたが、脱走しようとしたようだ。

「お、おい、嬢ちゃん!」

 ポタポタと白衣の袖を赤く染めるエリスに、驚くガイ。ムネタケは、驚愕しながらも再び銃口を向けるが、エリスが先に銃を撃ち、銃を弾き飛ばした。

「見逃してやるから消えなさい」

「な、何ですって!? 小娘が……」

「言ったの? 私が本気出したら、アンタ達全員、痛みも感じずにこの世とサヨナラ出来るわよ……」

 ブリッジにいた時の様にふざけた雰囲気を消し、鋭い眼光で睨み付けられ、ムネタケや兵士達は後ずさった。

「此処で殺さないのは、アンタみたいなクズは殺す価値すら無いから…………消えろっつってんのよ」

 瞳孔を開かせ、静かな声で言われるとムネタケは滝のような冷や汗を流して脱出ポッドに乗り込んだ。エリスは、呆然としてるガイの腕を引っ張り、格納庫か ら移動した。

「ふぅ……危ない所だったわね〜、ガイさん」

「え? ああ、ありがと……って、嬢ちゃん! 腕!」

「ん? ああ、こんなの自分で縫合すればすぐ治るわよ。折角、拾った命なんだから、大事にしなさいよ〜」

 ヒラヒラ、と手を振りエリスは去って行った。ボーっとガイは、その背中を見ていたが、やがてハッとなった。

「おい! 待てぇ! この血、誰が掃除するんだ〜!?」

 廊下にはエリスが垂らした血の跡で点々と続いていた。





 〜後書き談話室〜

ルリ「エリスさん、最後の方は格好良いですね」

エリス「まぁね〜」

ルリ「思ったんですが、シンさんとルナマリアさんがいたらガイさんやアキトさんっていらないんじゃ……この後、リョーコさん達も……」

エリス「そりゃ〜、MSとエステバじゃ機動性モロに違うものね〜」

ルリ「エステバ……」

エリス「ガイが死なないのは割とナデシコ小説で多いわよね」

ルリ「彼、人気ありますし……何故か」

エリス「ウリちゃんに続いて私の下僕にしようかしら?」

ルリ「一体、ウリバタケさんに何したんですか?」

エリス「ムフ♪ ひ・み・つ」

ルリ「バカばっか……」

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