factor3


\冬木市 冬木教会\

「――選べ、衛宮士郎。お前はどうする?」

「……俺は、逃げない。ここで俺が逃げ出したら、他の人が――」

 衛宮士郎と言峰綺礼という男が話している。それぞれをそこまで知っている訳ではないが、どちらにもあまり良い印象を持つことが出来ない。

 言峰の方は単純な理由で、僕自身が教会関係者に良い印象を抱けないからだ。あの頃教会関係者には酷い目に遭わされたからなぁ……

 そして、衛宮士郎の方はと言うと……多分だが、同族嫌悪に近いのかも知れない。彼には叶えたい願いがあるわけでもなく、それをしなければならない義務もない。……まるであの頃の自分の姿を見ているような気分にされる。

「――だから俺は、その為に戦う!」

 士郎がそう言いきった。その目には覚悟がある。……だが、それはどんな状況を想定した覚悟なのか?その想定以上の状況に置かれたとき、彼は折れずに理想へと向かえるのか?

「……君は何処へ向かうんだろうね」

 霊体化したまま、僕はぽつりと呟いた。

◆――――――◇

「遠坂、ありがとう。おかげで色々助かったよ」

「別に良いわよ、私は戦いもせずに競争相手が居なくなるのが嫌だっただけだし」

 教会から帰る途中、衛宮君が私に話しかけてきた。教会に向かう前に聖杯戦争についてしっかりと説明しておいたし、戦いの基本も教えた。これだけ教えておいたらすぐに死ぬような事は無いはず……

「さて、それじゃそろそろ私は自分の家に――」

「お兄ちゃん達、一緒に遊びましょう?」

 そう聞こえたとき、私の身体が宙に浮いた。一拍おいて、私が居たはずの場所が大きく抉られた。すぐに自分の状況を確認し、アーチャーが実体化し、自分を抱きかかえて跳んだことに気づいた。

「な、なに!?」

「へぇ……今のを避けられるんだ。お姉ちゃん、良いサーヴァントを召喚したんじゃない?」

 声のした方に身体を向ける。そこには、二つの人影が立っていた。一つは雪を思わせる、幼いと言う印象さえ与える少女……そして、鉛色の異形。2mを超す巨大なその姿。まるで鋼鉄の塊から削りだした彫刻のような、荒々しさと輝きを持つその姿を見るだけで身体に震えが来る。本能的に、あいつには勝てない、そう感じた。

 だが、逃げるわけにはいかない。ここで逃げたら、私のプライドは無くなる。そんな事は絶対に出来ない。

「アーチャー、行って!」

「了解マスター、後ろに下がって」

 既にセイバーが斬りかかっているが、異形は彼女の攻撃をものともしていない。微動だにしないのは単純に質量差のせいだろうが、斬りかかって傷もつかないのはいくら何でもおかしい。

「はぁ!」

「「!」」

 セイバーと異形との間にアーチャーが割り込む。異形の前に三つの紅い宝石を投げつけ、その一拍後にトンファー・三節棍・青竜刀を使った連撃をたたき込む。だが……

「■■■■■■■■■■■――――!」

「そんな……あれだけ喰らって無傷なの!?」

 アーチャーの方を見れば、ボロボロになった武器を捨て次の攻撃の準備をしている。次にアーチャーは二丁の銃器を取り出し、乱射した。例え武器を破壊されても一瞬の隙も作らない辺り、流石は英霊と言ったところか。

「……ふぅん?何かしらの加護を受けてるのかな。それじゃあ……少し強めでいくかな!」

 そう言うと、アーチャーは無数の武器を展開する。肉厚な短剣や電流の走るムチ等の中に、一振りだけ別格の剣が見えた。それらの武器を振るい、バーサーカーへと向かっていく。殆どの武器がはじかれる中、先程見えた別格の一振りだけがバーサーカーに深手を負わせた。

「■■■■■■■■■■■――――!?」

「……なるほど、一定以上の霊格がないと完全に無効化されるのか」

 アーチャーが何かしらの突破口を見つけたようだ。ならその点を突いて一気に状況をひっくり返す!

「よっし!そのままたたみかけなさいアーチャー!」

「バーサーカー、男のサーヴァントを優先しなさい」

 私がアーチャーに指示を出すのと同時に、相手のマスターが声を上げる。バーサーカーはその声に反応し、巨大な石斧を振るう。それを見て紙一重で回避し、返す刀でアーチャーが斬りかかる。だが、先程と違い今度は傷一つ着けられなかった。

「あれ……今度は効いてない?一度喰らうと耐性が付くのかな?」

「■■■■■■■■■■■――――!」

 アーチャーの頬を石斧が掠める。先程の攻撃が効いていないのがわかると、アーチャーはすぐに別の剣をどこからか取り出す……一体どこから取り出しているのかしら。まさか投影魔術だったり?

 そんな風に考えながら見ていると、アーチャーの後ろからセイバーが走ってくる。そういえば衛宮君と一緒に来ていたっけ。戦闘に集中しすぎて忘れてた。

「退いてくださいアーチャー!」

「っと、セイバーか。連携でもするかい?」

 気合い十分と言った様子のセイバーに対し、アーチャーは余裕綽々といった感じでリラックスしている。こんなに態度が違うのは何でだろうか?

「はぁあああああ!」

「疾!」

「■■■■■■■■■■■――――!」

 三騎のサーヴァントがぶつかり合う。刃との間に火花が走り、衝撃が地面を揺らす。私もガンドか何かで援護しようかとも思ったけど、あの鬼気迫る空間に割り込むなんて出来そうにない。

「さて……止められるかな、この『七星剣』を!」

「……へっ!?」

 い、今確実に宝具の真名解放したわよね!?あいつ、宝具もわからないって言ってたのに……って、バーサーカーの腕を切り落とした!?

「■■■、■■■■■■■■――――!?」

「……このくらいの霊格なら通るのか、なるほど」

「なっ、バーサーカー!?」

 アーチャーはそう言ってバーサーカーを見続けている。まるで何かを見定めようとしているようだ。

「■■■、■■■■■■■■……」

「……まさか、バーサーカーにここまでの手傷を負わせるなんて……一体何処の英雄なのよ?」

「さてね、君の予想は?」

「……バーサーカーに傷を負わせた宝具から考えると、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)?でも腕には機械を着けてるし、そもそも東洋の英霊は召喚できないはず……」

 相手のマスターは必死にアーチャーの正体を考えている。確かに私も結構考えたけど、途中から面倒になったから止めたのよね。何より、近代の英雄にこんな強い霊的存在は居なかったはずだし。

「まあ良いわ。これ以上は面倒だから今回は引かせて貰うけど、また遊んでねお兄ちゃん達」

「待ってくれ、君は一体……」

「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。覚えておいてね。行きましょう、バーサーカー」

「■■■■■■■■■■■――――」

 バーサーカーがイリヤスフィールを抱え、何処かへと歩き出す。私はそこで動くことが出来なかった。全力で行けば倒せる可能性もあるけど、今それをやるにはあまりにリスクが大きすぎる。私は今にも飛び出しそうな衛宮君を制止しながら、敵を見送った。



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