factor9


 衛宮邸から出た僕とマスターは今、柳洞寺の前まで来ていた。今のところ、不審な人物は見当たらない……・まあ、そうそう町中に不審者が居るはずもないけどね。

(ここからだと、特に問題ないように見えるね)

「そうね……とりあえず中を見てみましょうか」

 どうせ前まで来たんだからと、山門に向かって階段を上がり出すマスター。気配も感じられないし、多分安全だと思うけど……

「……それにしても、こう木が生い茂ってると暗くて仕方ないわね。これで襲われたりしたら一溜まりも無いわ」

(山の中のお寺なんて大体こういう物だと思うけど――)

「――もし、そこの方」

 突如、山門の方向から声を掛けられる。驚いて声のした方を見れば、紺色の陣羽織を着た武芸者のような男が山門の前に立っている。先程下から見た限り、姿は見えなかった。それだけならただ寺の境内から出ただけと判断できるが、先程までこちらに近づく気配は一つも存在しなかった。英霊の感覚で気づけないような存在とは、つまり――

「参拝に来たのなら悪いが、今この寺は立ち入り禁止でな。関係者以外は中に入れないようになっている。他に用件があるなら、私が聞くが?」

 ――最低でも人外だという事だ。その証拠に、男の存在は他の人間と違い曖昧にしか感じられない。

「……初めまして、で良いのかしら?あなたは?」

「ちょっとした縁でこの寺に世話になっている者だ。その恩を返すためにこうして門番をしている」

 努めて平静に振る舞うマスターに対し、男は飄々と答える。男はうっすらと笑みを浮かべるだけで、その真意をくみ取ることは出来ない。霊体化している以上、僕は何も出来ない。マスターからの合図があるまで様子見というところか。

「柳洞一成君に会いに来たのだけど、彼に会うことは出来ないかしら?」

「ふむ……零観殿の弟君か。生憎先程出かけていったが」

「そう……(彼に聞けばこの男が何で居るのかわかるかと思ったんだけど、居ないなら仕方ないわね)」

 柳洞寺に住んでいる同級生に話を聞こうとするも、丁度出かけてしまったようだ。状況を確認する方法が無い以上、ここは一度引いた方が良いかな?

「ならそれほど急ぎの用でもないし、今日はこれで帰ります」

「ほう、そうか。なら彼が帰ってきたら、君が訪ねて来たことを伝えておこう」

 マスターはとりあえず一度帰ることにするようだ。まあ、正直相手の素性がわからない以上は動きようがない。最低でも相手がサーヴァントだと確認できない限り、戦闘を仕掛けるのは避けた方が良いだろう。

「それじゃ、失礼しました」

 マスターは男に背を向け、石段を下りる。だが僕は男の方を見つめ、動かずに待つ。もし後ろから襲ってきたとしても、即座に対応出来る様にするためだ。

「それでは――と、何もせずに逃がすとでも思ったか?」

 突如男の手に一本の長刀が現れ、こちらに向かって飛びかかってきた。即座に霊体化を解き、懐のナイフで刀を受ける。

「……一太刀目から止められるとは思わなかったぞ、アーチャー」

「早々やらせる訳無いだろ……何故僕の事を知っている?」

「何、契約主から使い魔を通じて情報が来ただけの事よ。その少女はアーチャーのマスターだから、早急に排除しろとな」

 そう言うと、男は僕を吹っ飛ばし距離を取る。これで出口は近くなったが、先程の速度から考えると逃げるのは少し難しい。最も、全力で逃げようと思えばすぐに逃げられる。となると、マスターの方針によってどうするかが決まる訳だが……

「どうする、マスター?」

「決まってるでしょ……ぶっ飛ばしなさい、アーチャー!」

「了解」

 どうやら今のマスターに撤退の意思は無いみたいだし、少し頑張ってみるかな?

◆――――――◇

 男とアーチャーの間に緊迫した空気が流れる。まさか後ろから襲われるとは思わなかったけど、膠着状態から脱却する良いチャンスだわ。

「ふむ、そちらもやる気になったようだな。では――」

 男はそう言いながら刀を構える。……にしてもあの刀、なんか既視感があるのよね……

「――アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。いざ参る!」

「なっ……名乗ったぁ!?」

 あ、あり得ない……聖杯戦争で自らの真名を晒すなんて、一体どういう意図があるというの?それともこれは相手の罠?

「はっ!」

「っと……何で自分の真名を晒したんだ?」

 私が困惑している間に、二人が鍔迫り合いを始めた。そのままアーチャーがアサシンの意図を聞くけど、そんな簡単に教えてくれる訳が――

「何を言っている、立ち会いの前に自らの名を名乗るのは当然のことだろう」

 ……はぁ?

「……つまり、君はいつもの癖だから名乗ったと?」

「癖とは少し違うが……まあそんなところだ」

 アサシンが何でも無さそうに答える。と言う事は、この行動に戦略的な意図は無い訳ね。……良いわ、だったらこっちはその情報を利用して上手く立ち回ってあげるわ!

「アーチャー、作戦変更!一度この場を離脱するわよ!」

 アーチャーに向け、大声で撤退命令を出す。場合によっては令呪を使っても良いから、とにかく今はこの場を離れないと……

「……了解、すぐに戻るよ」

 アーチャーが苦笑しながらそう言う。表情とは裏腹に、その雰囲気はどことなく余裕そうに感じられる。

「ほう、随分と簡単に言ってのけるな。私が追わないとでも思っているのか?」

「ああ、君はここから動けないからね」

「……何?」

 ……動けない?それは一体……

「むん!」

「うおっ……しまった!」

 私とアサシンが固まっているわずかな間に、アーチャーがアサシンを蹴って私の横に立つ。……前から思ってるけど、どうしてアーチャーはここまで相手の隙を突けるのかしら?ランサーの時も的確に隙を見抜いてたし。

「くっ、行かせん!」

「それじゃ、失礼しました」

 アサシンがこちらに突っ込もうとする寸前に、アーチャーが地面に向かって何かを投げた。大きな爆発音に驚いている間に、大量の煙が噴き上がる。

「え、煙幕だと!?」

 アサシンの声が遠くに聞こえる。私の気づかないうちにアーチャーが私を抱え、全速力で駆け出していたみたいだ。……なんか、こいつの方がアサシンっぽい気がするんだけど……

◆――――――◇

「それでマスター、この後はどうするの?」

 柳洞寺から数q離れた場所で、アーチャーが聞いてくる。もう少し落ち着ける場所に着いてから説明するつもりだったけど、別に今でも良いか。

「一度家に戻って、その後図書館かしらね。佐々木小次郎の情報を集めて対策を練るわよ」

 アーチャーに今後の目的地を伝える。一度家で資料を探して、無かったら図書館で他の資料を探す。それで何か弱点とか戦法が少しでもわかるはず……

「……そういえばアーチャー、なんでアサシンはあそこを動けないと分かったの?」

「ああ……アナライズしたら真名とかステータスの横に、備考として書いてあったんだ。柳洞寺の山門がマスターの変わりの依り代となっている為、山門から一定距離以上離れられないって」

 ……そんな事まで分かるなんて、やっぱり無茶苦茶だわ。これだけのことが出来るのなら、あの機械は恐らく宝具でしょうね。もし宝具なら詳細が知りたいけど、今回は何か開示されてないのかしら?

「そういえばアーチャー、今回の戦いで何か開示された情報は無い?」

「ん〜……無いね、全部前のままだ」

「ダメか……どういう条件で開示されるようになってるのかしらね」

 開示される条件は一体何なのかしら?今回の一件で、サーヴァントとただ戦闘するだけじゃダメなのは分かったけど……

「っと、そろそろ着くか――なっ」

 私との会話を打ち切り、顔を上げたアーチャーが言葉を詰まらせる。どうかしたのかと私もアーチャーが見ている方を向くと――

「……嘘でしょ」

 そこにあったのは、周囲の建物ごと私の家を燃やす巨大な火柱だった。




アサシンのステータスは出しません。探そうと思えばネット上にありますし、ステータスを掲載しているのはアーチャーの能力がどのくらいかをわかりやすくするためだからです。



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