factor17


「綺礼……アンタがランサーのマスターだったのね。監督役の立場を利用して、裏から操ってたってわけ?」

「その通りだ、凛。私は私の目的のために、君達参加者を利用していた。この点は一切揺るがぬ事実だ」

 マスターの質問に眼前の男、言峰綺礼が答える。一言一言を強調するように、それでいて表情を崩さず喋るその姿は、勝利を確信したというよりこの状況を愉しんでいるというのが適切か。

「君達――いや、もう取り繕う必要は無いか。お前達が操るサーヴァントは、確かに異様なまでに強い。最優の騎士王と異端なる射手、それが手を組んでいるのだからな。通常であればまず敵はいないだろう」

「……それで?何が言いたいわけ?」

 マスターが綺礼を睨みつつ、こちらに合図を送る。僕はさりげなく士郎達に近づきつつ、ニューナンブを再現して見えないように握っておく。

「如何に強いサーヴァントであれ、連戦は辛いものだ。セイバーはともかくアーチャーの素性がわからない以上、今ここで確実に倒しておきたい」

 弾丸を装填、安全装置を解除。あちらのサーヴァント二人にも気づかれている様子はない。ガンガーにはいつでも『メディアラハン』を使えるように指示、パワーはマスターをカバー出来る位置で待機……

「そのために、私も切り札を切ろうと思ってな……おっと、紹介がまだだったか」

 言峰が左手を水平にあげ、金髪の男へと周囲の視線を促す。金髪の男はと言うと、傲岸不遜としか形容できない姿勢で、まるでゴミでも見るようにこちらを見ている。赤い瞳からは僕とマスターを貫く鋭い視線が放たれているが、セイバーにはその鋭さが幾分か和らいでいるように思える。

「彼こそ、第四次聖杯戦争最強のサーヴァント……英雄王ギルガメッシュ。私の同盟相手だ」

 言峰の言葉と共に、金髪の男・ギルガメッシュが笑う。嘲笑ともとれる笑みを見て、セイバーが一歩前に踏み出した。

「あなたとまた会うことになるとは思いませんでしたよ、アーチャー……いや、ギルガメッシュ!」

「ふむ。その様子では十年前から心は変わってないようだな。余り待たせると寛容な我でも待ちきれんかも知れんぞ?」

 苦々しげに言うセイバーに対し、ギルガメッシュは先程より遙かににこやかな表情で答える。その態度から、セイバーに特別な感情を抱いてるのが見て取れる。

「しかし何故……聖杯の力で消滅したのでは……」

「侮るな。あの程度の呪い、飲み干せなくて何が英雄か。我を染めたければあの三倍は必要だと言うだけのことよ」

 腑に落ちない様子のセイバーの言葉を、ギルガメッシュが一喝する。二人の間で何かしら共通の話題が存在するようだが、僕にそれは分からない。もっとも、分かったところで何だと言う話だが。

「……さて、セイバーとの談話というのも心躍るものではあるが、それ以外の雑種共がいささか目障りだな。言峰、連中はどうする」

「セイバーはお前の好きにして良い。だが他の三人はすべて殺せ」

 言峰が冷酷に、淡々と命令を下す。ランサーの方は黙っているが、その沈黙のまま槍を構えた。ギルガメッシュの方はと言うと、全身に黄金に輝く重厚な鎧を纏う。恐らく戦闘態勢に入ったのだろう。

「――アーチャー!」

 マスターが叫ぶと同時に僕はニューナンブを構え、装填された弾丸を撃ち出した。

◆――――――◇

「ちぃ、目くらましか!」

「ふむ、雑種らしく小賢しい手だな」

 周囲一帯を強烈な光が包む。アーチャーの持った拳銃から放たれた弾丸が化学反応を起こし、閃光へと変化したのだ。その光はランサーとギルガメッシュ……というより、アーチャー以外の人物すべての動きを止めた。

「――疾!」

「うおぉ!?」

 そんな状況の中で、アーチャーは弾丸を放った後即座に動いた。能力のわからないギルガメッシュを後に回し、確殺の宝具を持つランサーに切りかかったのだ。ランサーが槍を構えていたことで斬撃は防がれてしまったが、それが無ければ確実に袈裟懸けに切り裂かれていただろう。

「再現、『ソニックブレード』!」

「てめぇ……調子に乗んじゃねぇ!」

 アーチャーの左腕に細身の剣が握られるのと、ランサーがアーチャーから距離を取ったのはほぼ同時だった。現在アーチャーの手にはそれぞれヒノカグツチとソニックブレードが握られており、中遠距離への攻撃が出来そうにない。そう考えての一手だったのだが……

「……ふん!」

「なっ、いつの間に……うお!?」

 アーチャーが、足下に散乱する武具を蹴り上げる。刃の薄いナイフがランサーへと飛んでいき、そのまま切り払われる。その行動のために出来た隙を突き、アーチャーは一気に距離を詰めた。

「――雑種風情がこの我を無視するとは、いささか不遜が過ぎるな」

「っ!……駄目か」

 まさに今剣を振り下ろそうという瞬間、横から数本の剣が飛んでくる。ランサーを攻撃していては回避に間に合わないと判断すると、アーチャーは即座にランサーを蹴り飛ばし距離を取った。反作用によりランサーもまたバランスを崩し、それによってかろうじて串刺しにならずに済む。

「なら……来い、ヤクシャ、アグニ!」

 アーチャーが左腕の機械を操作し、光の柱を発生させる。刹那、その光の中から仮面を被った戦士と燃えさかる炎の化身が飛び出す。

「この私とやりあえる猛者はいるかぁ!」

「私の炎に抱かれて消えなさい!『マハラギオン』!」

 戦士はランサーに斬りかかり、化身の出した炎はギルガメッシュへと向かう。どちらもかなりの力量を持っているようで、生半可な英霊では太刀打ち出来ないだろう。

「邪魔すんじゃねぇ!」

「我は神が嫌いでな、消えよ」

 だが、ランサーもギルガメッシュも稀代の英雄と言って差し支えない大英雄である。斬りかかった戦士を剣ごと自らの槍で貫き、無数の宝具で炎ごと化身を消し飛ばす。それが出来るからこその大英雄なのだ。

 ――されど。

「――人は、法によって秩序を得る。だが法に縛られては前に進めない」

 かの異形達はあくまで囮、目くらまし。アーチャーの真意は、二人の英霊の気を逸らすことにあった。

「――人は、混沌の中から活路を見いだす。だが混沌のみでは何も生まれない」

 アーチャーを中心として、一定範囲に魔力が渦巻き始める。凛はその範囲に入らぬよう、それとなく士郎を誘導する。

「――秩序と混沌、どちらかに偏ってはいけない。されどどちらかを排除してもいけない。大いなる調和、それこそが人の未来への鍵……」

 二人の英霊が障害を越えたとき、既に詠唱は終了しかけていた。言峰が明らかに表情を歪めているが、アーチャーは気にせず最後の一節を唱えた。

「――人の世の障害、あまねくすべてを排除する!『万策尽くす走狗の戦い(トゥルー・ニュートラル)』!」

 最後の一言と共に、魔力の渦巻く範囲が閉鎖され、新たなる戦場が姿を現した。




あとがき
今回色々忙しくて短くなってしまいました。
次回はもうちょっと長い……はず。



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